【81回目noteマネー掲載】第百二十二章:消費税―増税額は、最初から決まっていた―
第百二十二章:消費税―増税額は、最初から決まっていた―

――登録するか、取引先が払うか――
みおは、
また国会動画を見ていた。
画面の中にいるのは、
片山さつき財務大臣。
最近、
妙によく見る人である。
消費税について話し始めると、
異常に詳しい。
それもそのはず。
片山大臣は国会で、
消費税を付加価値税として設計した人物に会ったことがあるとしたうえで、
その設計原理について、
売上げに係る税額から、
仕入れに係る税額を控除する。
そして、
その仕入れに係る税額を証明するものが、
インボイスなのだと説明している。
みおは、
そこで動画を止めた。
みお:
「……あおい」
あおい:
「なに?」
みお:
「つまり、インボイスって」
「仕入税額控除のためのものなのね」
あおい:
「そうだね」
みお:
「じゃあ……」
「インボイスがなかったら?」
あおい:
「仕入税額控除が制限される」
みお:
「控除が減る……」
少し考える。
みお:
「ねえ」
「控除が減ったら」
「その分だけ、納める消費税が増えない?」
あおい:
「増えるよ」
みお:
「……同じ額?」
あおい:
「式を見てみようか」
言葉を聞くな。数式を見ろ。
消費税の計算を、
ものすごく単純化する。
納付税額 = 売上税額 - 仕入税額控除
これだけである。
本来の仕入税額控除を、
I
とする。
そこから、
ΔI
だけ控除を削ったとする。
すると、
新しい納付税額
= 売上税額 -(I - ΔI)
展開する。
新しい納付税額
= 売上税額 - I + ΔI
本来、
売上税額 - I
は、
その事業者が生み出した付加価値に対応する消費税である。
したがって、
新しい納付税額 = 付加価値税 + ΔI
になる。
難しい話ではない。
控除を10万円削れば、
納付税額は10万円増える。
控除を25万円削れば、
納付税額は25万円増える。
税率を、
10%から11%に変える必要すらない。
控除を削れば、削った額と同額だけ納付税額が増える。
ここでは、
この負担増を、
便宜上「増税」と呼ぶことにする。
みお:
「……税率、変わってないのに?」
あおい:
「税率はね」
みお:
「でも、払う税金は増える?」
あおい:
「控除が減ったからね」
みお:
「…………」
税率は、
表の顔。
控除は、
裏の顔である。
誰かの売上は、誰かの仕入
ここで、
B社からC社へ商品やサービスを売ったとする。
B社から見れば、
それは売上である。
C社から見れば、
それは仕入である。
つまり、
Bの売上 = Cの仕入
同じ取引なのだから、
そこに対応する税額も同じである。
Bの売上税額 = Cの仕入税額
ここが、
今回の話のすべてである。
この同じ税額を、
T
と置いてみよう。
登録した場合
まず、
免税事業者Bが、
インボイス登録をした場合を考える。
インボイスを機に課税事業者となった一定の事業者には、
売上税額の2割を納付税額とする2割特例がある。
さらに、
一定の個人事業者については、
その後に売上税額の3割を納付する措置も設けられている。
2割特例とは、
数式で見れば、
売上税額の80%を控除したものと同じである。
T - T × 80%
= T ×(1 - 0.8)
= 0.2T
3割なら、
T ×(1 - 0.7)= 0.3T
さらに、
簡易課税制度。
簡易課税では、
実際の仕入税額ではなく、
売上税額に「みなし仕入率」を掛けて、
仕入控除税額を計算する。
第2種は80%。
第3種は70%。
第4種は60%。
第5種は50%。
第6種は40%である。
たとえば、
第5種なら、
T - T × 50%
= T ×(1 - 0.5)
つまり、
全部、
同じ形になる。
みなし仕入率を、
m
と置けば、
登録した側
T ×(1 - m)
みお:
「……あれ?」
あおい:
「どうしたの?」
みお:
「2割特例も」
「3割も」
「簡易課税も」
「数式にしたら同じじゃない?」
あおい:
「計算構造は同じだね」
登録しなかった場合
では、
Bがインボイス登録をしなかったらどうなるのか。
今度は、
取引先Cを見る。
Bの売上税額Tは、
Cから見れば、
仕入税額Tである。
ところが、
Bがインボイス発行事業者でなければ、
Cはその仕入税額を全額控除できない。
経過措置として、
控除可能割合は段階的に縮小されていく。
では、
Cが控除できる割合も、
m
としてみよう。
控除できる額は、
T × m
本来の仕入税額は、
T
だから、
控除できなくなった額は、
T - T × m
= T ×(1 - m)
つまり、
登録しなかった側の取引先
T ×(1 - m)
みお:
「…………」
あおい:
「気づいた?」
みお:
「待って」
登録した側
T ×(1 - m)
登録しなかった側の取引先
T ×(1 - m)
みお:
「同じじゃない!!」
あおい:
「同じ取引の売上税額と仕入税額だからね」
みお:
「…………」
「じゃあ」
「登録してもしなくても」
「増える税金、同じなの?」
あおい:
「同じTと同じ率mを使うならね」
2割特例と8割控除
ここまで来ると、
制度の見え方が変わる。
2割特例。
これは、
売上税額の2割を納付する。
言い換えれば、
8割控除相当である。
一方、
買い手側の8割控除。
これは、
仕入税額の2割を控除しない。
つまり、
2割控除切断。
同じである。
2割課税 = 2割控除切断
3割なら、
3割課税 = 3割控除切断
第5種簡易課税のみなし仕入率50%なら、
5割課税 = 5割控除切断
もちろん、
2割特例や3割の措置は、
法律上「簡易課税第2種」「第3種」という制度ではない。
だが、
数式に変換すれば、同じ計算構造になる。
発見したときは、
不思議だった。
理解した瞬間、
当たり前になった。
なぜなら、
売り手の売上税額 = 買い手の仕入税額
だからである。
増税額は、最初から決まっていた
ここで、
少し奇妙なことが起きる。
Bが登録した場合。
Bから、
T ×(1 - m)
を取る。
Bが登録しなかった場合。
Cの控除を削ることで、
Cから、
T ×(1 - m)
を取る。
つまり、
制度側から見ると、
T ×(1 - m)= T ×(1 - m)
なのである。
違うのは、
誰が払うかだけ。
登録すれば、
Bが払う。
登録しなければ、
取引先Cが払う。
少なくとも、
この対応関係の中では、
追加される税額そのものは変わらない。
市場に残されているのは、
その税金コストを、
誰が引き受けるかという問題である。
みお:
「……免税事業者が払わないなら」
「取引先の課税事業者に払わせる……」
少し沈黙する。
みお:
「発想がウシジマくんじゃない!?」
あおい:
「正確には」
「課税事業者の仕入税額控除を削ってる」
みお:
「結果、払う税金増えてるじゃない!!」

第一に、課税事業者への増税
インボイス制度は、
しばしば、
「免税事業者の問題」
として語られる。
インボイス登録するのか。
しないのか。
免税事業者は、
いわゆる益税を得ているのではないか。
そんな話ばかりが前に出る。
しかし、
制度の入口で最初に起きることは、
もっと単純である。
免税事業者から仕入れた、
課税事業者の仕入税額控除を削る。
控除を削れば、
その額と同額だけ、
課税事業者の納付税額が増える。
つまり第一に起きるのは、
課税事業者への負担増
である。
免税事業者本人は、
まだ税金を払っていない。
しかし、
その取引先では、
すでに納付税額が増えている。
第二に、市場圧力が生まれる
当然、
課税事業者は困る。
同じ商品。
同じサービス。
同じ価格。
それなのに、
インボイス登録事業者から買えば控除できる。
免税事業者から買えば、
控除できない。
だったら、
どちらから買うだろう。
利益率が十分に高ければ、
まだ耐えられるかもしれない。
しかし、
薄利の事業では、
そうはいかない。
以前、
この連載で使ったモデルでは、
控除率が50%まで下がると、
取引先Cは赤字へ転落した。
取引を続けるほど、
損失が出る。
そうなれば、
企業に残された選択肢は限られる。
値下げを求める。
登録を求める。
発注を減らす。
あるいは、
登録事業者へ発注を移す。
これが、
市場圧力
である。
誰かが命令しているわけではない。
損益計算が、
そうさせる。
第三に、免税事業者へ登録圧力がかかる
免税事業者は、
法律上、
インボイス登録をしなくてもいい。
任意である。
だが、
登録しない。
↓
取引先の税負担が増える。
↓
取引先が耐えられなくなる。
↓
取引を切られる。
↓
仕事が減る。
ここまで来ると、
「任意」という言葉の意味が、
少し変わって見える。
法律上は任意。
しかし、
市場では登録圧力が発生する。
そして、
Bが登録すれば、
今度はB自身が、
T ×(1 - m)
を納める側へ移る。
登録しなければ、
C側に税金コストが発生する。
登録すれば、
B側に税金コストが発生する。
税金コストは、消えない
ここで、
もう一つ重要なことがある。
発生した税金コストは、
消えない。
企業が販売価格へ転嫁できれば、
消費者が負担する。
転嫁できなければ、
企業利益が削られる。
仕入価格へ押し戻せば、
取引先が負担する。
賃金や雇用で調整すれば、
労働者が負担する。
税金コストは、
市場の中を移動する。
そして最後には、
誰かの利益。
誰かの所得。
誰かの購買力。
そのどこかを削って止まる。
インボイスは、領収書の話ではない
最初の式に戻ろう。
本来、
売上税額 - I = 付加価値税
だった。
ところが、
控除をΔIだけ削れば、
新しい納付税額 = 付加価値税 + ΔI
になる。
つまり、
控除を削った部分だけ、
その事業者が生み出した付加価値に対応する税額を超えた部分が、
納付税額に加わる。
さらに、
控除を完全に切れば、
ΔI = I
だから、
付加価値税 + I = 売上税額
になる。
控除ゼロ = 売上税額そのもの
仕入税額控除とは、
税の累積を防ぐ仕組みである。
ならば、
その控除を切れば、
税は再び累積する。
インボイスは、
ただの領収書の話ではない。
少なくとも、
免税事業者との取引部分について、
課税事業者の消費税を、
付加価値税から、
累積型売上税へ近づけていく仕組みでもある。
言葉を聞くな。数式を見ろ。
2割特例。
3割の措置。
簡易課税。
8割控除。
7割控除。
5割控除。
名前だけを聞いていると、
全部違う制度に見える。
でも、
数式にする。
すると、
突然、
同じものが見えてくる。
T ×(1 - m)
登録した側。
T ×(1 - m)
登録しなかった側の取引先。
違うのは、
徴収される場所だけ。
みおは、
止めていた動画をもう一度再生した。
画面の中では、
片山財務大臣が、
インボイスについて説明している。
みお:
「……あおい」
あおい:
「なに?」
みお:
「この制度」
「誰が払うかだけを、市場に決めさせてない?」
あおいは、
少しだけ考えた。
あおい:
「少なくとも、この式の中ではそう見えるね」
みお、街を見る
外へ出る。
いつもの街。
小さな飲食店。
町工場。
工務店。
配送車。
フリーランス。
商店。
誰が課税事業者なのか。
誰が免税事業者なのか。
外から見ても、
分からない。
けれど、
その間には、
無数の取引がある。
誰かの売上は、
誰かの仕入。
その一つ一つの間を、
税金コストが移動していく。
控除を削られた会社が、
利益で負担するのか。
値上げするのか。
仕入先へ押し戻すのか。
賃金を削るのか。
取引を切るのか。
それを決めるのは、
市場である。
みおは、
コンビニの前で立ち止まった。
店内から、
いつもの音が聞こえる。
ピッ。
その音は今日も、
誰かの事業を削る音だった。

【14年越しの答え合わせ】片山さつきが残した問いを、安藤裕が引き継いだ
参考動画:
【彼女は全てを知っていた。】
【制度側の自白と、14年越しの答え合わせ】
ここから先は、あえて繰り返す。
なぜなら、これは単なる国会質疑ではないからだ。
消費税という制度が前提としてきた「円滑かつ適正な価格転嫁」と、現実の市場で起きていること。
その二つが、国会という公の場で正面から衝突した「事件」の記録だからである。
自由主義経済において、価格は制度の予定通りには動かない。
原価が上がったからといって、その全額を価格へ転嫁できるとは限らない。
消費税率が上がったからといって、その分だけ売価を上げられるとも限らない。
価格転嫁できなくても、消費税の負担は消えない。
事業者の利益、賃金、賞与、投資、資金繰りへと移っていく。
その瞬間、消費税の問題は「価格転嫁」の問題ではなく、税金コストを誰に負わせるかという問題へ変わる。
2012年。
一人の政治家が、その危険性を国会で指摘していた。
片山さつき議員である。
そして14年後。
片山さつきが残した問いを、安藤裕が引き継いだ。
問いを受ける側に座っていたのは、財務大臣となった片山さつきだった。
これは、制度の外から制度を批判していた者が、制度の頂点へ立ったとき、どのように言葉を変えるのかという記録でもある。
2012年、彼女はすべてを知っていた
「もう、手のつけられないようなことになりますよ」
2012年。
野党時代の片山さつき議員は、消費税増税が経済へ与える影響について、強く警告していた。
住宅。
地方経済。
中小零細企業。
街の蕎麦屋。
普通の床屋。
価格を上げたくても上げられない、小さな事業者たち。
片山議員は、消費税が単なる「消費者の負担」では終わらないことを、具体的な例で指摘していた。
たとえば、街の蕎麦屋である。
今、お蕎麦屋さんは税込み630円でお蕎麦を出していますけど、660円にできますかね?
これは、単なる問いではない。
消費税の制度と市場の現実を知る者が、問いの形で提示した答えである。
全国一律の価格を持つ大手チェーンなら、まだ値上げしやすいかもしれない。
しかし、地域の客に支えられている小さな店はどうか。
街の蕎麦屋はどうか。
普通の床屋はどうか。
値上げによって客を失う可能性がある店に、「税率が上がったのだから、その分を価格へ転嫁すればよい」と簡単に言えるだろうか。
片山議員は当時、年間売上3000万円以下の中小零細企業について、5割から7割が価格転嫁できていないという調査があると述べていた。
さらに、滞納税額の約半分に当たる3400億円が消費税であるとも指摘した。
つまり、彼女は知っていた。
消費税は「価格へ転嫁されることを予定している」と説明される。
しかし現実の市場では、弱い立場の事業者ほど、その予定通りに転嫁できない。
消費税は、制度の予定と市場の現実が一致しなければ成立しない税だった。
2012年の片山さつきは、その矛盾を知っていた。
14年後、問いが戻ってきた
それから14年後。
今度は、参政党の国会議員として国政に復帰した安藤裕が、同じ問題を国会で問い始める。
答弁席に座っていたのは、財務大臣となった片山さつきだった。
安藤議員が最初に確認したのは、消費税の納税義務者である。
法律上、消費税を納める義務を負っているのは誰なのか。
消費者なのか。
事業者なのか。
答弁は明確だった。
消費税法上の納税義務者は、事業者である。
政府は消費税について、価格への転嫁を通じて、最終的には消費者が負担することを予定していると説明する。
しかし、それは経済的な負担についての予定である。
税法上の納税義務とは別の話だ。
税法上、消費者は消費税の納税義務者ではない。
消費税を申告し、納付するのは事業者である。
ここで安藤議員は、さらに問いを進めた。
消費者から受け取った消費税を税務署へ納めず、事業者が自分の利益にしているとされる、いわゆる「益税」は制度上存在するのか。
これに対して片山財務大臣は、法律上はそのような関係にはならないと答えた。
消費者は、消費税法上の納税義務者ではない。
したがって、消費者が納めるべき税金を事業者が預かり、それを国へ納めずに利益にしているという法構造にはならない。
法律上、益税は存在しない。
ここで、長年語られてきた消費税の物語が揺らぎ始める。
完全転嫁という幻想
多くの人は、消費税を次のように理解している。
まず原価がある。
そこに適正な利益を乗せる。
そして、その上に消費税10%を上乗せする。
消費者がその10%を支払い、事業者が一時的に預かり、後から税務署へ納める。
このモデルでは、消費税によって事業者の利益が削られることはない。
人件費も削られない。
消費税は売価の外側へ完全に上乗せされ、最終消費者がすべて負担するからである。
しかし、このモデルが成立するためには、強い前提が必要になる。
すべての事業者が、原価と必要な利益を確保したうえで、消費税相当額を完全に価格へ上乗せできること。
つまり、価格転嫁率100%の市場である。
もし本当に、すべての取引がこの通りに行われているなら、赤字企業はほとんど存在しない。
低賃金労働者もいない。
買いたたきもない。
利益を確保したうえで、消費税分まで価格へ上乗せできるのだから、消費税を払えずに資金繰りへ行き詰まる事業者も存在しないはずである。
だが、現実は違う。
赤字企業がある。
低賃金労働者がいる。
買いたたきがある。
価格交渉力の弱い事業者がいる。
値上げすれば客を失う店がある。
原材料費が上がっても、売価へ十分に転嫁できない事業者がいる。
「原価+適正な利益+消費税」という美しいモデルは、現実の市場を表したものではない。
それは、制度を成立させるために置かれた予定である。
赤字でも消費税が発生する理由
消費税の納付額は、大まかに次の式で計算される。
消費税
=
売上にかかる税額 − 仕入れにかかる税額
標準税率10%、すべて税込金額という単純なモデルなら、次のように表せる。
消費税
≒
(課税売上 − 課税仕入)× 10/110
ここで重要なのは、法人税のように、売上からすべての費用を差し引いて利益を計算しているわけではないという点である。
給与や社会保険料、支払利息など、事業に必要な支出であっても、仕入税額控除の対象にならないものがある。
そのため、法人税上の利益が赤字であっても、
課税売上 − 課税仕入 > 0
であれば、消費税は発生する。
事業者が赤字か黒字かは、消費税の計算を止めない。
消費税は、利益ではなく、課税売上と課税仕入の差額を見ているからである。
一般に、事業者は仕入れた商品へ何らかの価値を加えて販売する。
100円で仕入れた商品を、毎回50円で売り続ける事業は成立しない。
100円の原材料を使い、50円で製品を売り続ける製造業も成立しない。
したがって、事業を継続している限り、一般には、
課税売上 − 課税仕入 > 0
となる。
企業全体では赤字でも、この差額は残り得る。
だから、赤字事業者にも消費税が発生する。
赤字でも「消費税が発生することがある」のではない。
事業が付加価値を生み出している限り、赤字でも消費税が発生する構造なのである。
付加価値の先取り
課税売上から課税仕入を差し引いたものは、概ね、その事業者が新しく生み出した付加価値に対応する。
単純化すれば、
付加価値
≒
課税売上 − 課税仕入
さらに、その付加価値は概ね、
付加価値
≒
利益 + 人件費
と捉えることができる。
したがって、消費税の構造は、概ね次の式で表せる。
消費税≒ 付加価値 × 10/110
さらに単純化すれば、
消費税≒(利益 + 人件費)× 10/110
となる。
ここで、何が起きているのか。
事業者が生み出した付加価値という一つのパイがある。
本来、その付加価値は、労働者の賃金と、企業の利益などに分配される。
しかし、消費税がある世界では、その分配より先に、国の取り分が決まる。
国が消費税を先に取る。
残った付加価値を、法人と労働者が分ける。
価格へ完全に転嫁できるなら、事業者の外側へ負担を押し出せるかもしれない。
しかし、価格転嫁できなければ、消費税は付加価値の内部に残る。
利益を削る。
賃上げ原資を削る。
賞与を削る。
採用を抑える。
設備投資を遅らせる。
資金繰りを圧迫する。
税負担が消えるわけではない。
負担する場所が変わるだけである。
安藤議員が述べた「賃上げする原資を持っていく前に、消費税を納税しろと言われている」という言葉は、この構造を表している。
消費税は、付加価値という一つの財布から、国が先に取り分を確保する税である。
その残りを、法人と労働者が分ける。
これが、「付加価値の先取り」である。
レシートに書かれた「内消費税」
安藤議員は、レシートの表示にも踏み込んだ。
たとえば、1100円の商品を買ったとする。
レシートには、
「内消費税100円」
と書かれている。
では、この100円は法律上、何なのか。
政府側の答弁は、次のようなものだった。
その取引について課されるべき消費税額に相当する額であり、課税資産の譲渡等の売上に対する対価の一部である。
つまり、レシートに「消費税」と書かれていても、それは消費者が税務署へ納めた税金そのものではない。
事業者が消費者から預かった税金そのものでもない。
事業者がそのまま税務署へ納付する金額でもない。
その売価で取引が成立したという事実と、その税込価格の内訳が表示されているだけである。
レシート表示からは、実際にいくら価格転嫁されたのか分からない。
事業者がいくら納付するのかも分からない。
その取引によって、事業者の利益がいくら残ったのかも分からない。
それでも、多くの人は「内消費税100円」という表示を見ることで、自分が100円の税金を納めたと認識する。
そして、事業者はその100円を預かっているだけだと考える。
ここから、「預かった税金を納めない免税事業者はずるい」という益税の物語が生まれる。
しかし、法構造は違う。
消費者は納税義務者ではない。
レシートに書かれた100円は、売上の対価の一部である。
事業者の納付額は、レシートの表示額ではなく、売上税額と仕入税額の差額によって決まる。
レシートは、価格転嫁に成功した証拠ではない。
預り金が存在する証拠でもない。
そこに記録されているのは、
「その価格で、一つの取引が成立した」
という事実である。
2012年の言葉と、2026年の言葉
2012年の片山さつき議員は、市場の現実を語った。
街の蕎麦屋は、630円を660円にできるのか。
中小零細企業は、本当に消費税を価格へ転嫁できているのか。
価格を上げられない事業者に、消費税は何をもたらすのか。
彼女は、制度の予定ではなく、現場で起きていることを見ていた。
それから14年後。
財務大臣となった片山さつきは、制度を守る側の言葉を語る。
消費税は、価格への転嫁を通じて、最終的には消費者が負担することを予定している。
消費税相当額は、適切に価格へ転嫁される。
同じ人物の中に、二つの言葉が存在する。
市場の現実を見る言葉。
制度の予定を守る言葉。
片山さつきは、なぜ言葉を変えたのか。
本当に考え方が変わったのかもしれない。
財務大臣として税制全体を守らなければならないのかもしれない。
党内の力学や、財務省との関係が影響したのかもしれない。
あるいは、本質的な認識は変わっていないまま、立場によって使用する言葉だけが変わったのかもしれない。
その答えは、本人にしか分からない。
だが、確かなことが一つある。
2012年に指摘されていた問題は、14年後も解決していない。
価格転嫁できない事業者がいる。
赤字でも消費税が発生する。
消費税の滞納が続いている。
賃上げが必要だと言いながら、賃上げ原資から先に消費税を取る構造が維持されている。
そして今も、政府は消費税を「景気に左右されにくい安定財源」と説明する。
だが、景気に左右されにくいということは、裏返せば、景気が悪くても取り続けるということである。
人々の生活が苦しくても。
企業の経営が苦しくても。
赤字でも。
資金繰りが限界でも。
付加価値が残る限り、消費税は発生する。
それを、本当に「安定」と呼んでよいのだろうか。
これは事件の記録である
14年前、片山さつきは問いを残した。
そして今、安藤裕がその問いを引き継いだ。
問いを受ける側に座っていたのは、財務大臣となった片山さつきだった。
2012年の片山さつきは、市場の現実を語った。
2026年の片山財務大臣は、制度の予定を語った。
変わったのは、市場ではない。
彼女が座る椅子だった。
制度の外から市場を見れば、価格転嫁できない事業者が見える。
制度の頂点から税制を見れば、「円滑かつ適正に転嫁されることを予定している」という説明になる。
事実が変わったのではない。
観測する位置によって、使用する言葉が変わった。
制度という怪異の頂点に座った者は、その構造を守るための部品として再定義される。
14年前の彼女の言葉が正しければ正しいほど、現在の答弁は、この国の政治が市場の現実よりも制度の維持を選んだことの証明になる。
これは、片山さつき一人の変節を責める物語ではない。
誰がその椅子へ座っても、同じ言葉を語らざるを得ないのだとしたら、問題は個人ではなく構造にある。
だから、問いに向き合わなければならないのは、彼女だけではない。
その変節を制度の「仕様」として受け入れ、今日もレジの音を聞き流している、私たち自身である。
失われた30年をもたらしたのは、果たして誰なのだろうか。
《お勧め記事》
【消費税の申告、自分でできるかもしれません💗】
2割特例、3割特例、本則課税、簡易課税。
制度の名前だけを見ても、
あなたにとって何が有利なのかは分かりません。
まず、自分の
売上・仕入税額控除の対象になりそうな仕入や経費・事業区分
を入れて、4方式を概算してみる。
そして、
自分で申告できそうなのか。
税理士さんへ相談した方がよさそうなのか。
そこまで一度、整理する。
税理士さんへ相談する前に。
インボイスは、サンラク式スクリーニングからはじめよう💗
500円。ワンコインです💗
《人気マガジン》
【土を育てる。】
※この連載は、家庭菜園から国土再生までを、【土を育てる】という一つの視点でつなげて考える物語です。雑草、落ち葉、水、有機物、放棄地、林業、地方――。身近な庭の話を入口に、土が人と地域を支える仕組みを、実際に使える形で書いています。
【みおとあおい】消費税怪異譚
※消費税とは何か。 レシート、預り金、価格転嫁、輸出還付金、インボイス――。 国会答弁や制度構造をもとに、みおとあおいが消費税の怪異を観測し、その真名を解き明かしていくシリーズです。
【日本が貧しくなった本当の理由】
※日本が貧しくなったのは、努力不足ではない。家計の手取りと消費を削り、企業の売上・投資を細らせてきた制度の積み重ねがある。消費税、社会保険料、緊縮財政、PB黒字化、インボイス。それらを一つの経済構造として読み解くマガジンです。
【人気記事】
<消費税×ゲーム理論―インボイスがB2B市場を再編する>
※【86回目noteマネー掲載】第百二十九章:消費税×ゲーム理論―インボイスがB2B市場を再編する―は、こちらを参照
<消費税×ゲーム理論―全員未登録の方が得なのに、なぜ全員登録するのか>
※【85回目noteマネー掲載】第百二十八章:消費税×ゲーム理論―全員未登録の方が得なのに、なぜ全員登録するのか―は、こちらを参照
<消費税×ゲーム理論―なぜ市場は登録へ向かうのか>
※【84回目noteマネー掲載】第百二十七章:消費税×ゲーム理論―なぜ市場は登録へ向かうのか―は、こちらを参照
<3割特例より、本則の方が安かった>
※【みおとあおい】第百二十六章:消費税―3割特例より、本則の方が安かった―は、こちらを参照
<消費税―80%控除は、20%負担だった>
※【83回目noteマネー掲載】第百二十五章:消費税―80%控除は、20%負担だった―は、こちらを参照
<消費税―控除を切れば、増税になる>
※【みおとあおい】第百二十四章:消費税―控除を切れば、増税になる―は、こちらを参照
<消費税―市場圧力の正体>
※【82回目noteマネー掲載】第百二十三章:消費税―市場圧力の正体―は、こちらを参照
<消費税―増税額は、最初から決まっていた>
※【81回目noteマネー掲載】第百二十二章:消費税―増税額は、最初から決まっていた―は、こちらを参照
<2割特例、その先に50%が待っていた>
※【80回目noteマネー掲載】第百二十一章:消費税―2割特例、その先に50%が待っていた―は、こちらを参照
<食料品1%で、黒字の店が赤字になる>
※【79回目noteマネー掲載】第百二十章:消費税―食料品1%で、黒字の店が赤字になる―は、こちらを参照
<消費税―食料品1%、仕入れは10%のまま>
※【77回目noteマネー掲載】第百十八章:消費税―食料品1%、仕入れは10%のまま―は、こちらを参照
<消費税―1%になっても、大根は安くならない>
※【76回目noteマネー掲載】第百十七章:消費税―1%になっても、大根は安くならない―は、こちらを参照
<消費税―食料品1%は、6.7%だった>
※【75回目noteマネー掲載】第百十六章:消費税―食料品1%は、6.7%だった―は、こちらを参照
<消費税―消える仕入税額>
※【74回目noteマネー掲載】第百十五章:消費税―消える仕入税額―は、こちらを参照
<消費税―益税のようなものは、いなかった>
※【73回目noteマネー掲載】第百十四章:消費税―益税のようなものは、いなかった―は、こちらを参照
<消費税―インボイスが食べる7円>
※【みおとあおい】第百十三章:消費税―インボイスが食べる7円―は、こちらを参照
<消費税―食料品減税のゼロサムゲーム>
※【71回目noteマネー掲載】第百十一章:消費税―食料品減税のゼロサムゲーム―は、こちらを参照
<消費税―食料品減税の皮算用>
※【68回目noteマネー掲載】第百八章:消費税―食料品減税の皮算用は、こちらを参照
<食料品減税で、飲食店が増税になる!?>
※【67回目noteマネー掲載】第百七章:消費税―食料品減税で、飲食店が増税になる!?は、こちらを参照
<消費税―108円の大根は101円になるのか>
※【66回目noteマネー掲載】第百六章:消費税―108円の大根は101円になるのか―は、こちらを参照
<消費税―税金の保証人>
※【65回目noteマネー掲載】第百五章:消費税―税金の保証人―は、こちらを参照
<消費税―彼女は全てを知っていた>
※【60回目noteマネー掲載】第百章:消費税―彼女は全てを知っていた―は、こちらを参照
<消費税―大統一理論>
※【52回目noteマネー掲載】第九十二章:消費税―大統一理論は、こちらを参照
<付加価値の先取り―二人のカタヤマ>
※【みおとあおい】第九十一章:消費税―付加価値の先取り―二人のカタヤマは、こちらを参照
いいなと思ったら応援しよう!
この記事は noteマネー にピックアップされました

