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【83回目noteマネー掲載】第百二十五章:消費税―80%控除は、20%負担だった―

第百二十五章:消費税―80%控除は、20%負担だった―

――インボイスの根源術式・Tα――

80%という数字

夜。

みおは、片山財務大臣がインボイス制度について答える動画を見ていた。

その隣には、インボイス制度の経過措置を説明する資料が開かれている。

画面には、大きく数字が並んでいた。

80%控除

70%控除

50%控除

30%控除

控除不可

みおは、最初の数字を指さした。

みお:
「80%控除なら、ほとんど控除してもらえるんじゃない?」

あおい:
「控除される側だけを見ればね。」

みお:
「される側?」

あおい:
「引けなかった側から見てみよう。」

みおは首をかしげた。

あおい:
「80%控除ということは、20%は控除できない。」

80%控除

=20%控除不能

みお:
「同じ制度なのに、数字が反転した!」


まず、消費税の基本式へ戻ろう

税率10%。

すべて税込価格で考える。

課税事業者Cが、商品を税込550万円で仕入れ、税込660万円で販売したとする。

B:550万円

C:660万円

売上660万円に含まれる消費税額は、

660万円×10/110=60万円

仕入れ550万円に対応する税額は、

550万円×10/110=50万円

仕入税額を全額控除できるなら、Cの納付額は、

60万円-50万円=10万円

となる。

これが消費税の基本である。

消費税額=売上税額-仕入税額

売上に対応する税額から、仕入れに対応する税額を差し引く。

この差し引きが、仕入税額控除である。

みお:
「売上税額が60万円。仕入税額が50万円。だから納付額は10万円。」

あおい:
「うん。仕入税額を全額控除できればね。」


8割控除では、何が起きるのか

ここで、Bをインボイス登録していない免税事業者とする。

Bはインボイスを発行できない。

そのため、本則課税の課税事業者Cは、Bからの仕入れに対応する税額を原則として全額控除できない。

ただし、経過措置によって一定割合までは控除できる。

8割控除なら、Cが控除できるのは50万円の80%である。

50万円×0.8=40万円

したがって、Cの納付額は、

60万円-40万円=20万円

になる。

全額控除できた場合は10万円だった。

8割控除では20万円になった。

差額は、

20万円-10万円=10万円

である。

みお:
「80%も控除されるのに、納付額は10万円から20万円へ倍増してる!」

あおい:
「控除できなかった20%が、Cの納付額に残ったからだよ。」

仕入れに対応する税額は50万円。

その20%は、

50万円×20%=10万円

全額控除の場合と比べて増えた納付額10万円と一致する。

8割控除とは、Cから見れば2割控除不能である。

そして、その控除不能分がCの追加納付額になる。


控除率をmとする

ここで、経過措置によって認められる控除率を、mとする。

8割控除なら、

m=0.8

7割控除なら、

m=0.7

5割控除なら、

m=0.5

3割控除なら、

m=0.3

控除ゼロなら、

m=0

仕入れに対応する税額をTとすると、Cの消費税額は、

消費税額=売上税額-mT

となる。

一方、仕入税額を全額控除できる場合は、

消費税額=売上税額-T

である。

この二つの差を取れば、Cの追加納付額が分かる。

追加納付額

=(売上税額-mT)-(売上税額-T)

売上税額が消える。

追加納付額=T-mT

整理すると、

追加納付額=T(1-m)

これが、インボイスによる控除制限によって、買手Cの納付額に新たに加算される金額である。


控除不能率α

ここで、

α=1-m

と置く。

αは、仕入税額のうち控除できない割合である。

α=控除不能率

すると、先ほどの式は、

追加納付額=Tα

になる。

Tは、仕入れに対応する税額。

αは、そのうち控除できない割合。

Tαは、控除できなかったことで増える納付額。

これだけである。

みお:
「最深部まで潜ったのに、最後は掛け算なの?」

あおい:
「引けなくなった金額が、そのまま納付額へ残るからね。」

みお:
「控除できなかった税額に、名前を付けただけじゃない!」

あおい:
「だから制度の動きが見えるんだよ。」


80%控除を反転する

8割控除では、

m=0.8

したがって、

α=1-0.8=0.2

追加納付額は、

Tα=0.2T

となる。

つまり8割控除とは、

本来控除できるTのうち、80%を控除する。

残り20%は控除できない。

その20%が、Cの追加納付額になる。

という制度である。

8割控除=2割控除不能

追加納付額=0.2T

タイトルの「20%負担」とは、売上や商品価格に対して20%の税率がかかるという意味ではない。

全額控除できる場合と比べて、仕入税額相当額Tの20%がCの追加負担になるという意味である。


制度の数字を、国民側へ反転する

制度側では、控除率が次のように表示される。

80%

70%

50%

30%

0%

数字は下がっていく。

一見すると、何かが少しずつ縮小しているように見える。

しかし、控除不能率αへ反転すると、数字の向きが変わる。

20%

30%

50%

70%

100%

控除率は下がる。

控除不能率は上がる。

したがって、追加納付額も次のように増えていく。

8割控除

追加納付額=0.2T

7割控除

追加納付額=0.3T

5割控除

追加納付額=0.5T

3割控除

追加納付額=0.7T

控除ゼロ

追加納付額=T

みお:
「運営の表では、80から70へ下がってる。」

あおい:
「控除不能率で見れば、20から30へ上がっている。」

みお:
「下がってるように見せながら、負担は上がってるじゃない!」

あおい:
「見ている数字が違うんだよ。」


80%から70%で、追加税コストは1.5倍

2026年10月から、免税事業者などインボイス発行事業者以外の者から行った課税仕入れについて、経過措置による控除割合は80%から70%へ変わる。

制度側の表示では、

控除率80%→70%

10ポイントの縮小である。

しかし、控除不能率で見ると、

控除不能率20%→30%

となる。

同じ仕入税額Tなら、追加納付額は、

0.2T→0.3T

へ増える。

その倍率は、

0.3T÷0.2T=1.5

控除割合は10ポイント下がる。

しかし、Cの追加税コストは1.5倍になる。

先ほどのモデルでは、仕入税額Tは50万円だった。

8割控除なら、

50万円×0.2=10万円

7割控除なら、

50万円×0.3=15万円

追加納付額は、

10万円→15万円

へ増える。

みお:
「『80%から70%へ変更』だけじゃ、こんなに見え方が変わらない!」

あおい:
「控除される割合ではなく、控除できずに残る割合を見たからね。」


5割控除では、半分が追加納付額になる

控除割合が5割になると、

m=0.5

控除不能率は、

α=1-0.5=0.5

したがって、

追加納付額=0.5T

となる。

仕入税額Tが50万円なら、

50万円×0.5=25万円

Cの本来の納付額は10万円だった。

そこへ25万円が加算される。

10万円+25万円=35万円

Cの納付額は35万円になる。

さらに、Cの本来利益を21万円とすれば、

21万円-25万円=-4万円

となる。

このモデルでは、5割控除ですでに赤字になる。

みお:
「5割も控除されるんじゃないの?」

あおい:
「同時に、5割は控除できない。」

みお:
「その控除できない25万円が、利益21万円より大きい……。」

あおい:
「だから、Cは同じ条件で取引を続けられなくなる。」

控除率だけを見れば、

まだ半分は控除できる。

控除不能率から見れば、

仕入税額Tの半分が、Cの追加納付額になる。

同じ制度である。

しかし、どちらから見るかで意味はまったく違って見える。


控除ゼロでは、Tがそのまま残る

控除ゼロでは、

m=0

控除不能率は、

α=1

したがって、

追加納付額=T

となる。

仕入税額Tが50万円なら、追加納付額も50万円。

全額控除なら10万円だったCの納付額は、

10万円+50万円=60万円

になる。

これは、売上税額60万円と同じである。

売上税額60万円-控除0円=60万円

仕入れは税込550万円ある。

その仕入れに対応する税額相当額も50万円ある。

しかし、税計算では一円も引けない。

控除不能率100%とは、Tの全部がCの追加納付額になる世界である。


税率を上げなくても、税金は増える

消費税率は10%のままである。

10%から12%へ上げたわけではない。

しかし、Cの納付額は増えている。

なぜなら、

納付税額=売上税額-仕入税額控除

だからである。

売上税額を変えなくても、差し引く仕入税額控除を減らせば、納付額は増える。

仕入税額控除↓

納付税額↑

増税効果は、税率を上げることだけで発生するのではない。

控除を削っても、納税者の負担は増える。

全額控除できた場合と比べて、いくら増えるのか。

その答えが、

である。

みお:
「税率は上げてないって言うけど、引ける税金を減らしたら、払う税金は増えるじゃない!」

あおい:
「税率ではなく、控除側を動かしているからね。」


Tαが、登録圧力へ変わる

課税事業者Cが免税事業者Bにインボイス登録を求める理由も、Tαから説明できる。

Bが未登録のままなら、Cには、

追加納付額=Tα

が発生する。

この追加納付額は、Cの利益を削る。

利益で吸収できなければ、Cは取引条件を変えなければならない。

Bにインボイス登録を求める。

価格の引下げを求める。


自社の販売価格を上げる。

自社の利益を削る。

登録済みの別事業者へ仕入先を変える。

その出発点にあるのは、

である。

控除切断

Tαが発生

Cの納付額が増える

Cの利益が減る

Bへの登録要請

価格交渉・取引先変更

インボイス登録圧力は、登録番号から生まれるのではない。

課税事業者Cの帳簿にTαが現れることで生まれる。

みお:
「取引先が登録を求めるのは、Bから税金を取りたいからじゃない。」

あおい:
「自分に加算されるTαを避けたいからだよ。」


制度語、納税者語、損益語

同じ制度変更でも、視点によって表現が変わる。

制度側の言葉

控除割合を80%から70%へ引き下げます。

納税者側の言葉

控除不能率を20%から30%へ引き上げます。

損益側の言葉

同じTなら、追加納付額が0.2Tから0.3Tへ増えます。

市場側の言葉

未登録事業者との取引を続けるコストが1.5倍になります。

すべて、同じ制度変更を表している。

しかし、一般の事業者にとって重要なのは、最後の二つである。

控除率が何%か。

それだけでは、自分の商売への影響は分からない。

自分の仕入税額Tはいくらか。

控除不能率αはいくらか。

Tαが自分の利益をどこまで削るのか。

ここまで計算して、初めて経営判断になる。


80%控除は、20%負担だった

インボイス制度の説明では、控除できる割合が前面に出る。

80%控除

70%控除

50%控除

30%控除

しかし、買手Cの追加負担を決めるのは、控除できなかった側である。

α=1-m

控除率を反転すれば、

20%控除不能

30%控除不能

50%控除不能

70%控除不能

100%控除不能

になる。

そして、追加納付額は、

である。

制度は、控除率mを表示する。

しかし、納税者の損益を動かすのは、控除不能率αである。


みお、街を見る

翌日。

みおは、街を歩いていた。

小さな工務店。

地域の卸売業者。

一人で仕事をする職人。

デザイナー。

配送業者。

店先に、控除率は書かれていない。

商品にも、控除不能率は表示されていない。

けれど会社の中では、数字が動いている。

経理担当者が、取引先の登録番号を確認する。

会計ソフトが、控除割合を判定する。

購買担当者が、次の契約先を検討する。

経営者が、増えた納付額と利益を見比べる。

制度の資料では、

80%から70%へ。

数字は下がっている。

しかし、事業者の帳簿では、

0.2Tから0.3Tへ。

追加税コストは上がっている。

みおは、スーパーのレジに立った。

商品が一つ、読み取られる。

ピッ。

その商品が店へ届くまでに、いくつの事業者を通ったのだろう。

その中に、インボイスを発行できない事業者はいたのだろうか。

もう一つの商品が読み取られる。

ピッ。

控除できた税額。

控除できなかった税額。

利益で吸収された税額。

価格へ移された税額。

取引先を変えさせた税額。

どこにも表示されないTαが、商売の中を移動していく。

もう一度、レジが鳴った。

ピッ。

その音は今日も、

控除率を下げながら、

控除不能率を上げ、

見えないTαが利益へ食い込む音だった。

ピッ。

その音は今日も、誰かの事業を削る音だった。


このモデルの前提

本稿は、インボイス制度による控除制限の構造を確認するための単純化モデルである。

  • 税率は10%

  • Bはインボイス未登録の免税事業者

  • Cは本則課税を行う課税事業者

  • 税込550万円の仕入れに対応する税額相当額を50万円とする

  • 税込660万円の売上税額を60万円とする

  • 価格、取引量、ほかの仕入れや経費などは変わらないものとする

  • Tは、全額控除できる取引なら控除対象となる仕入税額相当額

  • αは、そのうち控除できない割合

本文の「20%負担」は、売上高や商品価格に20%の税率がかかるという意味ではない。

全額控除できる場合と比較して、仕入税額相当額Tの20%が、課税事業者Cの追加納付額になるという意味である。

また、本稿の「増税」は、法定税率が引き上げられるという意味ではない。

仕入税額控除の縮小によって、全額控除時よりCの納付税額が増える効果

を指している。

簡易課税、2割特例・3割特例、少額特例、帳簿のみで控除できる取引などでは、計算や取扱いが異なる場合がある。

参考資料


【14年越しの答え合わせ】片山さつきが残した問いを、安藤裕が引き継いだ

参考動画:

【彼女は全てを知っていた。】

【制度側の自白と、14年越しの答え合わせ】


ここから先は、あえて繰り返す。
なぜなら、これは単なる国会質疑ではないからだ。
消費税という制度が前提としてきた「円滑かつ適正な価格転嫁」と、現実の市場で起きていること。
その二つが、国会という公の場で正面から衝突した「事件」の記録だからである。
自由主義経済において、価格は制度の予定通りには動かない。
原価が上がったからといって、その全額を価格へ転嫁できるとは限らない。
消費税率が上がったからといって、その分だけ売価を上げられるとも限らない。
価格転嫁できなくても、消費税の負担は消えない。
事業者の利益、賃金、賞与、投資、資金繰りへと移っていく。

その瞬間、消費税の問題は「価格転嫁」の問題ではなく、税金コストを誰に負わせるかという問題へ変わる。


2012年。
一人の政治家が、その危険性を国会で指摘していた。
片山さつき議員である。
そして14年後。
片山さつきが残した問いを、安藤裕が引き継いだ。
問いを受ける側に座っていたのは、財務大臣となった片山さつきだった。
これは、制度の外から制度を批判していた者が、制度の頂点へ立ったとき、どのように言葉を変えるのかという記録でもある。

2012年、彼女はすべてを知っていた

「もう、手のつけられないようなことになりますよ」
2012年。
野党時代の片山さつき議員は、消費税増税が経済へ与える影響について、強く警告していた。
住宅。
地方経済。
中小零細企業。
街の蕎麦屋。
普通の床屋。
価格を上げたくても上げられない、小さな事業者たち。

片山議員は、消費税が単なる「消費者の負担」では終わらないことを、具体的な例で指摘していた。

たとえば、街の蕎麦屋である。

今、お蕎麦屋さんは税込み630円でお蕎麦を出していますけど、660円にできますかね?

これは、単なる問いではない。

消費税の制度と市場の現実を知る者が、問いの形で提示した答えである。


全国一律の価格を持つ大手チェーンなら、まだ値上げしやすいかもしれない。
しかし、地域の客に支えられている小さな店はどうか。
街の蕎麦屋はどうか。
普通の床屋はどうか。
値上げによって客を失う可能性がある店に、「税率が上がったのだから、その分を価格へ転嫁すればよい」と簡単に言えるだろうか。

片山議員は当時、年間売上3000万円以下の中小零細企業について、5割から7割が価格転嫁できていないという調査があると述べていた。

さらに、滞納税額の約半分に当たる3400億円が消費税であるとも指摘した。

つまり、彼女は知っていた。


消費税は「価格へ転嫁されることを予定している」と説明される。

しかし現実の市場では、弱い立場の事業者ほど、その予定通りに転嫁できない。


消費税は、制度の予定と市場の現実が一致しなければ成立しない税だった。
2012年の片山さつきは、その矛盾を知っていた。

14年後、問いが戻ってきた

それから14年後。
今度は、参政党の国会議員として国政に復帰した安藤裕が、同じ問題を国会で問い始める。

答弁席に座っていたのは、財務大臣となった片山さつきだった。


安藤議員が最初に確認したのは、消費税の納税義務者である。
法律上、消費税を納める義務を負っているのは誰なのか。
消費者なのか。
事業者なのか。
答弁は明確だった。
消費税法上の納税義務者は、事業者である。
政府は消費税について、価格への転嫁を通じて、最終的には消費者が負担することを予定していると説明する。
しかし、それは経済的な負担についての予定である。
税法上の納税義務とは別の話だ。
税法上、消費者は消費税の納税義務者ではない。
消費税を申告し、納付するのは事業者である。
ここで安藤議員は、さらに問いを進めた。
消費者から受け取った消費税を税務署へ納めず、事業者が自分の利益にしているとされる、いわゆる「益税」は制度上存在するのか。
これに対して片山財務大臣は、法律上はそのような関係にはならないと答えた。
消費者は、消費税法上の納税義務者ではない。
したがって、消費者が納めるべき税金を事業者が預かり、それを国へ納めずに利益にしているという法構造にはならない。
法律上、益税は存在しない。
ここで、長年語られてきた消費税の物語が揺らぎ始める。

完全転嫁という幻想

多くの人は、消費税を次のように理解している。
まず原価がある。
そこに適正な利益を乗せる。
そして、その上に消費税10%を上乗せする。
消費者がその10%を支払い、事業者が一時的に預かり、後から税務署へ納める。
このモデルでは、消費税によって事業者の利益が削られることはない。
人件費も削られない。
消費税は売価の外側へ完全に上乗せされ、最終消費者がすべて負担するからである。
しかし、このモデルが成立するためには、強い前提が必要になる。
すべての事業者が、原価と必要な利益を確保したうえで、消費税相当額を完全に価格へ上乗せできること。
つまり、価格転嫁率100%の市場である。
もし本当に、すべての取引がこの通りに行われているなら、赤字企業はほとんど存在しない。
低賃金労働者もいない。
買いたたきもない。
利益を確保したうえで、消費税分まで価格へ上乗せできるのだから、消費税を払えずに資金繰りへ行き詰まる事業者も存在しないはずである。
だが、現実は違う。
赤字企業がある。
低賃金労働者がいる。
買いたたきがある。
価格交渉力の弱い事業者がいる。
値上げすれば客を失う店がある。
原材料費が上がっても、売価へ十分に転嫁できない事業者がいる。

「原価+適正な利益+消費税」という美しいモデルは、現実の市場を表したものではない。


それは、制度を成立させるために置かれた予定である。

赤字でも消費税が発生する理由

消費税の納付額は、大まかに次の式で計算される。

消費税

売上にかかる税額 − 仕入れにかかる税額


標準税率10%、すべて税込金額という単純なモデルなら、次のように表せる。

消費税

(課税売上 − 課税仕入)× 10/110


ここで重要なのは、法人税のように、売上からすべての費用を差し引いて利益を計算しているわけではないという点である。
給与や社会保険料、支払利息など、事業に必要な支出であっても、仕入税額控除の対象にならないものがある。
そのため、法人税上の利益が赤字であっても、

課税売上 − 課税仕入 > 0


であれば、消費税は発生する。
事業者が赤字か黒字かは、消費税の計算を止めない。
消費税は、利益ではなく、課税売上と課税仕入の差額を見ているからである。
一般に、事業者は仕入れた商品へ何らかの価値を加えて販売する。
100円で仕入れた商品を、毎回50円で売り続ける事業は成立しない。
100円の原材料を使い、50円で製品を売り続ける製造業も成立しない。
したがって、事業を継続している限り、一般には、

課税売上 − 課税仕入 > 0


となる。
企業全体では赤字でも、この差額は残り得る。

だから、赤字事業者にも消費税が発生する。


赤字でも「消費税が発生することがある」のではない。
事業が付加価値を生み出している限り、赤字でも消費税が発生する構造なのである。

付加価値の先取り

課税売上から課税仕入を差し引いたものは、概ね、その事業者が新しく生み出した付加価値に対応する。


単純化すれば、

付加価値

課税売上 − 課税仕入


さらに、その付加価値は概ね、

付加価値

利益 + 人件費


と捉えることができる。
したがって、消費税の構造は、概ね次の式で表せる。

消費税≒ 付加価値 × 10/110


さらに単純化すれば、

消費税≒(利益 + 人件費)× 10/110


となる。
ここで、何が起きているのか。

事業者が生み出した付加価値という一つのパイがある。


本来、その付加価値は、労働者の賃金と、企業の利益などに分配される。
しかし、消費税がある世界では、その分配より先に、国の取り分が決まる。

国が消費税を先に取る。


残った付加価値を、法人と労働者が分ける。
価格へ完全に転嫁できるなら、事業者の外側へ負担を押し出せるかもしれない。

しかし、価格転嫁できなければ、消費税は付加価値の内部に残る。


利益を削る。
賃上げ原資を削る。
賞与を削る。
採用を抑える。
設備投資を遅らせる。
資金繰りを圧迫する。
税負担が消えるわけではない。
負担する場所が変わるだけである。

安藤議員が述べた「賃上げする原資を持っていく前に、消費税を納税しろと言われている」という言葉は、この構造を表している。

消費税は、付加価値という一つの財布から、国が先に取り分を確保する税である。


その残りを、法人と労働者が分ける。
これが、「付加価値の先取り」である。

レシートに書かれた「内消費税」

安藤議員は、レシートの表示にも踏み込んだ。
たとえば、1100円の商品を買ったとする。
レシートには、
「内消費税100円」
と書かれている。
では、この100円は法律上、何なのか。
政府側の答弁は、次のようなものだった。
その取引について課されるべき消費税額に相当する額であり、課税資産の譲渡等の売上に対する対価の一部である。
つまり、レシートに「消費税」と書かれていても、それは消費者が税務署へ納めた税金そのものではない。
事業者が消費者から預かった税金そのものでもない。
事業者がそのまま税務署へ納付する金額でもない。

その売価で取引が成立したという事実と、その税込価格の内訳が表示されているだけである。


レシート表示からは、実際にいくら価格転嫁されたのか分からない。
事業者がいくら納付するのかも分からない。
その取引によって、事業者の利益がいくら残ったのかも分からない。

それでも、多くの人は「内消費税100円」という表示を見ることで、自分が100円の税金を納めたと認識する。


そして、事業者はその100円を預かっているだけだと考える。

ここから、「預かった税金を納めない免税事業者はずるい」という益税の物語が生まれる。


しかし、法構造は違う。
消費者は納税義務者ではない。
レシートに書かれた100円は、売上の対価の一部である。
事業者の納付額は、レシートの表示額ではなく、売上税額と仕入税額の差額によって決まる。
レシートは、価格転嫁に成功した証拠ではない。
預り金が存在する証拠でもない。
そこに記録されているのは、

「その価格で、一つの取引が成立した」


という事実である。

2012年の言葉と、2026年の言葉

2012年の片山さつき議員は、市場の現実を語った。
街の蕎麦屋は、630円を660円にできるのか。
中小零細企業は、本当に消費税を価格へ転嫁できているのか。
価格を上げられない事業者に、消費税は何をもたらすのか。
彼女は、制度の予定ではなく、現場で起きていることを見ていた。
それから14年後。
財務大臣となった片山さつきは、制度を守る側の言葉を語る。
消費税は、価格への転嫁を通じて、最終的には消費者が負担することを予定している。
消費税相当額は、適切に価格へ転嫁される。

同じ人物の中に、二つの言葉が存在する。


市場の現実を見る言葉。
制度の予定を守る言葉。
片山さつきは、なぜ言葉を変えたのか。
本当に考え方が変わったのかもしれない。
財務大臣として税制全体を守らなければならないのかもしれない。
党内の力学や、財務省との関係が影響したのかもしれない。

あるいは、本質的な認識は変わっていないまま、立場によって使用する言葉だけが変わったのかもしれない。


その答えは、本人にしか分からない。
だが、確かなことが一つある。

2012年に指摘されていた問題は、14年後も解決していない。


価格転嫁できない事業者がいる。
赤字でも消費税が発生する。
消費税の滞納が続いている。
賃上げが必要だと言いながら、賃上げ原資から先に消費税を取る構造が維持されている。

そして今も、政府は消費税を「景気に左右されにくい安定財源」と説明する。

だが、景気に左右されにくいということは、裏返せば、景気が悪くても取り続けるということである。


人々の生活が苦しくても。
企業の経営が苦しくても。
赤字でも。
資金繰りが限界でも。
付加価値が残る限り、消費税は発生する。

それを、本当に「安定」と呼んでよいのだろうか。

これは事件の記録である

14年前、片山さつきは問いを残した。
そして今、安藤裕がその問いを引き継いだ。
問いを受ける側に座っていたのは、財務大臣となった片山さつきだった。
2012年の片山さつきは、市場の現実を語った。
2026年の片山財務大臣は、制度の予定を語った。
変わったのは、市場ではない。

彼女が座る椅子だった。


制度の外から市場を見れば、価格転嫁できない事業者が見える。
制度の頂点から税制を見れば、「円滑かつ適正に転嫁されることを予定している」という説明になる。
事実が変わったのではない。
観測する位置によって、使用する言葉が変わった。

制度という怪異の頂点に座った者は、その構造を守るための部品として再定義される。

14年前の彼女の言葉が正しければ正しいほど、現在の答弁は、この国の政治が市場の現実よりも制度の維持を選んだことの証明になる。

これは、片山さつき一人の変節を責める物語ではない。


誰がその椅子へ座っても、同じ言葉を語らざるを得ないのだとしたら、問題は個人ではなく構造にある。
だから、問いに向き合わなければならないのは、彼女だけではない。

その変節を制度の「仕様」として受け入れ、今日もレジの音を聞き流している、私たち自身である。

失われた30年をもたらしたのは、果たして誰なのだろうか。


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