ポケモンJリーグフェスは、Jリーグに何を残せるのだろうか
拙著『サッカーを日本のナンバーワンスポーツに』から生まれた問い。
このところ、ポケモンとJリーグについて続けて書いてきた。
最初は、かなり単純な感想だった。
サッカーが目的じゃなくてもいい。
ポケモンを見にJリーグへ行くことも、立派な入口ではないだろうか。
私はポケモンに詳しいわけではない。
だから最初から、今回のコラボレーションを分析しようと思っていたわけでもなかった。
ただ、2026/27シーズンが始まってスタジアムの様子を見ていると、どうも気になる。
ポケモンがいる。
子どもだけではない。
大人も楽しんでいる。
クラブごとに違うポケモンがいる。
EVO BAGがある。
グッズがある。
フォトスポットがある。
『Pokémon GO』もある。
そして何より、人が来ている。
まだキャンペーンは途中である。
だから現時点で、
「ポケモンJリーグフェスは大成功だった」
と結論づけるのは早い。
ただ、私自身の肌感覚としては、
これは、かなり大きな成功になるキャンペーンなのではないか。
と感じている。
その理由を、最終回ではこれまでの連作を振り返りながら考えてみたい。
開幕2節の数字は、確かにすごい
まず、数字を確認しておきたい。
2026/27明治安田Jリーグの第1節。
J1・J2・J3を合わせた入場者数は47万6,112人だった。
これは全カテゴリーを合計した1節あたりの最多記録である。
J1だけでも30万4,292人。
さらにJ1の収容率は85.9%となり、これも1節あたりの過去最高だった。(Jリーグ公式サイト)
これだけなら、
「新シーズンの開幕だから」
とも考えられる。
ところが第2節も勢いは止まらなかった。
Jリーグ公式発表では、第2節のJ1・J2・J3合計は48万1,544人。
第1節をさらに上回り、2節連続で節別最多記録を更新した。
しかもJ2とJ3でも節別最多となった。
横浜FC対磐田の国立開催には5万3,973人が入り、横浜FCのクラブ史上最多を更新した。水戸も第2節のG大阪戦で1万3,226人を集め、クラブ史上のホーム最多入場者数を更新している。(プレスリリース・ニュースリリース配信シェアNo.1|PR TIMES)
これは、かなり大きな動きだと思う。
ただし、「ポケモンのおかげ」とはまだ言えない
ここは慎重に考えたい。
この記録的な集客を、
ポケモンJリーグフェスのおかげだ。
と断定することはできない。
条件があまりにも多いからである。
2026/27シーズンは、Jリーグにとって秋春制移行後の最初の本格シーズンである。
直前にはワールドカップがあった。
日本代表や海外サッカーへの関心が高まった状態で新シーズンを迎えた。
Jリーグ自身も全国22万人規模の招待キャンペーンを実施している。(Jリーグ公式サイト)
国立競技場を使った大規模試合もある。
クラブごとの営業努力もある。
夏休みでもある。
いくつもの条件が重なっている。
したがって、
第1節・第2節の記録更新
=ポケモン効果
とは言えない。
ただし反対に、
これだけ大規模なポケモンとのコラボレーションが、集客の押し上げに何も寄与していない
と考えるのも不自然だと思う。
全国60クラブを対象にし、100万人規模でEVO BAGを配り、グッズ、フォトスポット、『Pokémon GO』、さらに一部試合ではピカチュウやエースバーンまで登場する。
これは単なる広告キャンペーンではない。(Jリーグ公式サイト)
少なくとも、
Jリーグへ行く理由を一つ増やした。
その効果はあったのではないだろうか。
この連作は「サッカーじゃなくてもいい」から始まった
今回の連作で最初に考えたのは、
入口をサッカーに限定する必要はないのではないか。
ということだった。
サッカーを好きになってからスタジアムへ来てもらう。
普通はそう考える。
でも逆でもいい。
ポケモンが好き。
だからスタジアムへ行く。
そこで初めてサッカーを見る。
「思っていたより面白かった」
それでもいい。
私は、この発想が今回の企画の根底にあるように思う。
60クラブの多さが、弱点から資産へ変わった
次に考えたのが、なぜ60クラブすべてに違うクラブパートナーポケモンを割り当てたのか、ということだった。
Jリーグには60クラブある。
多い。
一般の人には覚えにくい。
ところが、ポケモンとの組み合わせでは、この多さが逆に面白くなる。
全部違う。
地域も違う。
クラブカラーも違う。
歴史も違う。
そこへ違うポケモンが組み合わされる。
つまり、
全国に60クラブもある
が、
全国に60種類の入口がある
へ変わった。
これは今回の企画で特に面白かったところだと思う。
「うちのポケモン」ができた
第2回では、「推し」について考えた。
クラブを推す。
選手を推す。
マスコットを推す。
そこへ、
クラブパートナーポケモンを推す
が加わった。
しかも面白いのは逆方向もあることである。
クラブが好きだから、そのポケモンを覚える。
ポケモンが好きだから、そのクラブを知る。
全国的、いや世界的なIPであるポケモンが、
「うちのポケモン」
に見えてくる。
ここには単なるキャラクター貸与とは違う愛着の作り方がある。
そして視線が全国へ広がる
第3回では、それを全国へ広げた。
自分のクラブのポケモンを知る。
すると、ほかのクラブが気になる。
好きなポケモンが、知らなかったJ3クラブにいるかもしれない。
そこからクラブを知る。
地域を知る。
いつか行ってみたくなる。
ポケモンには、
出会う
↓
集める
↓
違う場所へ行く
という楽しさがある。
Jリーグにも、
ホームを見る
↓
対戦相手を知る
↓
アウェイへ行く
↓
知らなかった町を知る
という楽しさがある。
この二つは、思っていた以上に相性がいい。
そしてこれは、私が以前から書いているアウェイツーリズムにもつながってくる。
ポケモンから知らなかった町へ行く。
それも立派な旅の入口である。
でも、一回来てもらうだけでは足りない
ここで連作の方向が変わった。
第4回で考えたのは、
ポケモン目当てで来た人を、ポケモンがいない次の試合へ呼べるのだろうか。
ということだった。
ここまではポケモンの力だった。
ここから先は、Jリーグの仕事になる。
ポケモンを見る。
スタジアムへ来る。
サッカーを見る。
楽しかった。
ここまでは成功。
でも、
もう一度来る
まで進めるかどうかは別である。
好きな選手ができる。
応援が楽しい。
スタグルがおいしい。
スタジアムの雰囲気が好き。
次の試合の日程を知る。
自分でチケットを買う。
ポケモン以外の「もう一度来る理由」を一つ見つけてもらう。
ここからはクラブ側の仕事になる。
100万人の接点を、街へ持ち出す
第5回ではEVO BAGを取り上げた。
開幕から9月にかけて、対象試合の来場者へ合計100万人規模で配布される。
しかもバッグである。
受け取って終わりではない。
スタジアムから持ち帰る。
街で使う。
学校へ持っていく。
買い物へ持っていく。
家に置く。
そこにはポケモンとクラブがいる。
つまり、
スタジアムの中で生まれた接点を、スタジアムの外へ持ち出せる。
無料配布を、
タダで物を配った
だけで評価するのではない。
何を無料にして、そこからどんな関係を作るのか。
これは以前書いた「無料チケットは、本当にタダ券なのか」という問いとも同じである。
こうして並べると、全部が一つにつながる
6本を書いてきて、ようやく今回の企画の全体像が見えてきた。
サッカー以外の入口を作る
↓
60クラブという多様性を生かす
↓
「自分のクラブ×自分のポケモン」という愛着を作る
↓
ほかのクラブや地域へ興味を広げる
↓
2回目の観戦へつなげる
↓
接点をスタジアムの外へ持ち出す
↓
ポケモンがいなくなったあとにも、Jリーグとの関係を残す
単発のイベントとして見ると、
ポケモンが来た。
バッグを配った。
人が集まった。
で終わる。
でも、この流れとして見ると違って見える。
これは、
IPの力を借りて、人とJリーグの関係が始まる場所を大量に作る企画
なのではないだろうか。
優れたIPコラボとは何だろう
ここで、この連作の最後の問いに戻る。
優れたIPコラボとは何なのだろう。
有名なキャラクターを呼ぶことだろうか。
グッズを売ることだろうか。
SNSで話題になることだろうか。
観客を増やすことだろうか。
もちろん全部重要である。
でも、スポーツリーグ側から考えるなら、もう一段先があるように思う。
優れたIPコラボとは、そのIPがいる間だけ人を集めることではなく、そのIPが去ったあとにも何かを残すことではないか。
ポケモンが来たから行った。
それでいい。
次はポケモンがいなくても行く。
そうなったら、とても強い。
「大成功だったか」は、まだ分からない
だから、私は現時点で今回のキャンペーンを最終評価したくない。
まだ8月である。
EVO BAGの配布も9月まで続く。(Jリーグ公式サイト)
ただ、途中経過としてはかなり強い。
第1節47万6,112人。
第2節48万1,544人。
2節連続で節別最多。
これは事実である。(Jリーグ公式サイト)
もちろん、ポケモンだけの成果ではない。
秋春制移行。
ワールドカップ。
招待施策。
国立開催。
夏休み。
各クラブの営業努力。
さまざまな要因が重なっている。
それでも私は、
その追い風をスタジアム来場へ変える装置として、ポケモンがかなり大きな役割を果たしているのではないか
と感じている。
だから「大成功だった」と過去形にするのではなく、
大成功になる可能性の高いスタートを切った。
現時点では、そのくらいの評価が適切なのだと思う。
本当に調べたいのは、来年である
むしろ私は、2027年になってから今回のキャンペーンをもう一度調べてみたい。
ポケモンJリーグフェス対象試合へ初めて来た人のうち、何人が再来場したのか。
ポケモンがいない試合へ来たのか。
有料チケットを買ったのか。
クラブのSNSをフォローしたのか。
選手を覚えたのか。
子どもがサッカーを始めたのか。
アウェイへ行った人はいたのか。
EVO BAGはまだ街で使われているのか。
そこまで分かれば、このキャンペーンの本当の価値が見えてくる。
入場者数は、入口の成果である。
残った関係は、出口の成果である。
ポケモンは「接触」を作れる
そして最後に、以前書いた「ブーム」の連作へ戻りたい。
私はそこで、
ブーム → 接触 → 体験 → 習慣 → 文化
という流れを考えた。
ワールドカップもそうだった。
スター選手もそうだった。
そして今回のポケモンもそうである。
強いコンテンツには、
普段サッカーを見ない人と、サッカーを接触させる力
がある。
ポケモンは、その「接触」をものすごく強くできる。
子どもだけではない。
親も来る。
『Pokémon GO』を楽しむ大人もいる。
ポケモンを30年前から知っている世代もいる。
サッカーとは違うところにいる人を、スタジアムへ連れてこられる。
でも、
接触
→体験
→習慣
→文化
まで運ぶのは、ポケモンの仕事ではない。
Jリーグの仕事である。
ポケモンが去ったあと、何が残るか
ポケモンJリーグフェスは、まだ続いている。
だから答えはまだ出ていない。
でも、もし数年後、
「あのときポケモンを見たくて初めてスタジアムへ行った」
という人が、
普通にJリーグの試合を見ていたら。
子どもが選手の名前を覚えていたら。
家族で年に何回かスタジアムへ行くようになっていたら。
知らなかったアウェイの町へ行っていたら。
そのとき初めて、
ポケモンJリーグフェスは、Jリーグに何かを残した。
と言えるのだと思う。
ブームを起こすこと。
人を集めること。
話題を作ること。
それだけではない。
大切なのは、
起きたあとを設計すること。
そして、
入口を、次の入口につなぐこと。
サッカーが目的じゃなくてもいい。
ポケモンを見に来たっていい。
でも帰るときに、
「またサッカーを見に来たい」
が一つだけ残っていたら。
今回のコラボレーションは、かなり大きなものをJリーグに残すのではないだろうか。
この問いを、もう少し考えてみたい方へ
ワールドカップをきっかけにサッカーを見る人が増えたとき、その人たちをすぐに「にわかファン」と呼んでしまってよいのだろうか。
この問いから、いくつかの記事を書いています。
「にわかファン」が増えることは、日本サッカーにとって本当に悪いことなのだろうか
まず、「にわか」という言葉そのものから考えました。
4年に一度しかサッカーを見ない人も、日本のサッカー文化をつくっているのだろうか
毎週見る人だけが、サッカーファンなのか。ワールドカップのときだけ見る人も、日本サッカーを支える「見る人」の一人ではないかと考えました。
そして、この問いはさらに大きなテーマにつながりました。
2050年、日本が「サッカー大国」になるとは、どういうことなのだろうか
日本代表がワールドカップで優勝することだけが、サッカー大国なのか。
プレーする人、見る人、話す人、教える人、支える人。
サッカーとのさまざまな接点が日常の中に広がっていることも、「サッカー大国」の一つの姿ではないかと考えています。
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