サッカーが目的じゃなくてもいい。ポケモンを見にJリーグへ行くことも、立派な入口ではないだろうか
拙著『サッカーを日本のナンバーワンスポーツに』から生まれた問い。
Jリーグの試合へ行く理由は、サッカーでなければいけないのだろうか。
好きなクラブがある。
好きな選手がいる。
地元だから応援している。
もちろん、それが王道なのだと思う。
でも今回の2026/27シーズンを見ていると、私はむしろ、
最初はサッカーが目的ではなくてもいいのではないか。
と思うようになった。
その象徴が、今回のポケモンとのコラボレーションである。
Jリーグは2026/27シーズン開幕に合わせ、ポケモン30周年と連動した「ポケモンJリーグフェス」を全国60クラブで開催している。各クラブには異なる「クラブパートナーポケモン」が設定され、ピカチュウとともにグッズやイベントへ登場する。対象試合では、クラブパートナーポケモンをデザインしたエコバッグを合計100万人へ配布する大規模な企画になっている。(Jリーグ公式サイト)
私は、この企画はかなり成功しているように感じる。
なぜなら、
「Jリーグを見に来てください」だけでは届かなかった人に、別の理由でスタジアムへ来てもらえる
からである。
ポケモンは、子どもだけのものではない
ポケモンというと、子ども向けの企画に見えるかもしれない。
でも、もう少し考えると違う。
『ポケットモンスター 赤・緑』が発売されたのは1996年。
2026年には30周年を迎えた。
最初にポケモンで遊んだ小学生は、今では30代、40代になっている。
その後もゲーム、アニメ、カード、映画、グッズへと広がり、世代を越えて続いてきた。
さらに『Pokémon GO』がある。
街を歩いてスマートフォンでポケモンを捕まえるこのゲームは、子どもだけではなく大人も長く遊んできた。
だから、スタジアムでピカチュウを見て喜ぶのは、小学生だけとは限らない。
子どもを連れてきた親も楽しめる。
あるいは、
「ポケモンが来るなら行ってみようかな」
と思う大人がいても不思議ではない。
ポケモン側も野球との2026年コラボレーションで、『Pokémon GO』のスペシャルイベントを含む幅広い企画を展開している。ポケモンが、特定の子ども世代だけではなく、長い時間をかけて育った巨大なファン文化を持つことが分かる。(ポケットモンスターオフィシャルサイト)
だから今回のJリーグとの組み合わせは、
子ども向けイベント
というより、
世代をまたいでスタジアムへ人を連れてくる入口
として見る方が面白いと思う。
「ポケモン目当てで来た人」は、サッカーファンではないのだろうか
例えば、ある人がJリーグの試合へ行ったとする。
目的はピカチュウだった。
クラブの選手をほとんど知らない。
順位も知らない。
対戦相手も詳しくない。
エコバッグが欲しかった。
写真を撮りたかった。
それでも、スタジアムへ入れば試合は目の前で始まる。
選手のスピードを見る。
ゴールが決まる。
歓声が上がる。
サポーターが歌う。
スタジアムグルメを食べる。
そして帰りに、
「サッカーも意外と面白かったね」
と思うかもしれない。
それで十分なのではないだろうか。
最初の目的がポケモンだったからといって、その来場の価値が低くなるわけではない。
むしろ、
それまでサッカーだけでは動かなかった人を、スタジアムまで動かした。
それだけで入口としては大成功だと思う。
「ファンだから来る」だけではなく、「来たから好きになる」
スポーツ集客では、ついこう考えがちである。
クラブを好きになる
↓
試合を見たくなる
↓
スタジアムへ行く
でも、実際には逆もある。
何かの理由でスタジアムへ行く
↓
試合を見る
↓
選手を覚える
↓
クラブが少し気になる
↓
また来る
である。
Jリーグは2026/27シーズンに全国60クラブで22万人規模の招待施策も展開している。さらに国立競技場での8月開催5試合では、各試合1万人、計5万人を招待するキャンペーンも用意した。(Jリーグ公式サイト)
これは、
最初から熱心なファンだけを集める
という発想ではない。
まず来てもらう。
体験してもらう。
そこから次へ進む人を増やす。
そういう考え方だと思う。
ポケモンも、まさにその「まず来てもらう理由」の一つなのである。
サッカー以外の入口は、もっとあっていい
そう考えると、ポケモンだけでなく、いろいろな入口が考えられる。
音楽が好き。
グルメが好き。
地域のお祭りが好き。
キャラクターが好き。
電車が好き。
選手ではなくスタジアム建築に興味がある。
友人に誘われた。
会社でもらったチケットがあった。
子どもが行きたいと言った。
何でもいいと思う。
最初から、
「サッカーが大好きな人だけ来てください」
にしてしまうと、入口は狭くなる。
むしろ、
サッカー以外の理由でも来られる場所にする。
その方が、まだサッカーに興味のない人との接点を作れる。
今回のポケモン企画は、そのことを非常に分かりやすく見せている。
むしろ「どのクラブを応援するか」も後でいい
以前、初めてJリーグへ行く人について考えたとき、
どのクラブを応援すればいいのか
ということが、意外に壁になるのではないかと思った。
でも、ポケモンを入口に考えると、その答えももっと簡単になる。
別に最初から決めなくていい。
ピカチュウが見たいから行く。
そのクラブのパートナーポケモンが好きだから行く。
近所だから行く。
それでいい。
試合を見てから、
この選手、面白いな。
と思うかもしれない。
スタジアムの雰囲気を好きになるかもしれない。
クラブカラーが好きになるかもしれない。
そして何度か行った結果、
「なんとなく、このクラブを応援しているな」
となればいい。
好きになる順番まで決める必要はないと思う。
「一度だけ来た人」も大切にしたい
もちろん、ポケモン目的で一度来て、それきりの人もいる。
それでもいい。
一度でもJリーグのスタジアムへ来た。
生でプロサッカーを見た。
クラブの名前を覚えた。
スタジアムの場所を知った。
それまでゼロだった関係が、ゼロではなくなった。
来年また別のイベントで来るかもしれない。
日本代表でそのクラブの選手を見て思い出すかもしれない。
子どもがサッカーを始めたことで戻ってくるかもしれない。
一度きりだから無意味、とはならない。
私はむしろ、
「一度しか来なかった人」ではなく、「一度は来てくれた人」
と考えた方がいいと思う。
入口と、定着は分けて考えた方がいい
ただし、ポケモンとのコラボが成功したから、それだけでサッカーファンが増えるとは限らない。
ここは分けたい。
ポケモンが担うのは、
入口
である。
そこから先はJリーグ側の仕事になる。
初めて来た人が、
試合を楽しめたか。
座席が分かりやすかったか。
スタジアムへ行きやすかったか。
食事を楽しめたか。
帰りやすかったか。
もう一度来たいと思えたか。
つまり、
ポケモン
↓
来場
↓
観戦体験
↓
再来場
までつながるか。
ここが重要なのである。
前の記事では、ワールドカップで増えた「見る人」を日常のJリーグへつなげることについて考えた。
今回のポケモン企画は、その考え方を別の方向から示している。
ワールドカップはサッカーそのものから生まれる入口。
ポケモンは、サッカーの外から生まれる入口。
入口は一つでなくていい。
ナンバーワンスポーツになるには、「サッカー好き」だけを見ない
『サッカーを日本のナンバーワンスポーツに』というテーマを考えるとき、
どうしても、
もっとサッカー好きな人を増やそう。
と考えてしまう。
でも、本当は逆なのかもしれない。
まだサッカーを好きではない人と、
どうやって最初の接点を作るか。
その方が大事なのではないだろうか。
ポケモンが好きな人。
音楽が好きな人。
地域イベントが好きな人。
子どもとの休日を探している親。
そういう人たちに、
「ついでにサッカーも見てみませんか」
と言える。
そして実際に見たら、面白い。
その順番でもいい。
だから私は、今回のポケモンJリーグフェスを見て、
サッカー目当てじゃない人をスタジアムへ連れてきたなら、それだけでもかなり大きな成功ではないか。
と思う。
「ポケモンしか見ていないじゃないか」
ではない。
むしろ、
ポケモンを見るために来た人が、同じ場所でサッカーにも出会った。
そこに価値がある。
入口はポケモンでもいい。
出口で、
「またサッカーを見に来ようかな」
になれば、もっといい。
ナンバーワンスポーツとは、
最初から全員にサッカーを好きになってもらうことではなく、
サッカーを好きになるかもしれない入口を、社会のあちこちにつくれるスポーツ
なのかもしれない。
今回のポケモンとのコラボレーションは、その一つの答えを見せているように思う。
この問いを、もう少し考えてみたい方へ
ワールドカップをきっかけにサッカーを見る人が増えたとき、その人たちをすぐに「にわかファン」と呼んでしまってよいのだろうか。
この問いから、いくつかの記事を書いています。
「にわかファン」が増えることは、日本サッカーにとって本当に悪いことなのだろうか
まず、「にわか」という言葉そのものから考えました。
4年に一度しかサッカーを見ない人も、日本のサッカー文化をつくっているのだろうか
毎週見る人だけが、サッカーファンなのか。ワールドカップのときだけ見る人も、日本サッカーを支える「見る人」の一人ではないかと考えました。
そして、この問いはさらに大きなテーマにつながりました。
2050年、日本が「サッカー大国」になるとは、どういうことなのだろうか
日本代表がワールドカップで優勝することだけが、サッカー大国なのか。
プレーする人、見る人、話す人、教える人、支える人。
サッカーとのさまざまな接点が日常の中に広がっていることも、「サッカー大国」の一つの姿ではないかと考えています。
気になる問いがあれば、そこから続けて読んでいただければうれしいです。
日本サッカーについて、こんな本を書いています
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蒼色真琴
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