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ワールドカップで増えた「見る人」を、どうすれば日常のサッカーへつなげられるのだろうか

拙著『サッカーを日本のナンバーワンスポーツに』から生まれた問い。

ワールドカップが始まると、不思議なくらいサッカーを見る人が増える。

普段はJリーグを見ない人も、日本代表の試合は見る。

選手の名前を覚える。

会社や学校で試合の話をする。

深夜や早朝の試合でも起きて見る。

勝てばSNSがサッカーで埋まり、ニュース番組でも何度もゴールシーンが流れる。

2002年の日韓ワールドカップについて、JFAは当時を「日本中にサッカーが溢れていた」と振り返っている。日本代表は初めて決勝トーナメントへ進出し、サッカーが社会全体の話題になった。(日本サッカー協会)

ワールドカップには、それだけの力がある。

前回の記事では、

ブーム → 接触 → 体験 → 習慣 → 文化

という流れを考えた。

では、ワールドカップによってサッカーへ「接触」した人は、その後どこへ行くのだろう。

ここに、少しもったいなさを感じる。

ワールドカップの次に何を見ればいいのか

サッカーを普段から見ている人なら、ワールドカップが終わっても困らない。

Jリーグがある。

欧州リーグがある。

天皇杯がある。

高校サッカーがある。

WEリーグもある。

地域リーグもある。

代表戦もまたやってくる。

ところが、ワールドカップだけを見る人にとっては違う。

大会が終わった瞬間、

「次は何を見ればいいのか」が分からなくなる。

のではないだろうか。

日本代表で活躍した選手が、普段どこのクラブでプレーしているのか。

自分の住んでいる町から一番近いJリーグクラブはどこなのか。

チケットはいくらなのか。

初めてでもスタジアムへ行っていいのか。

どの席を買えばいいのか。

こうしたことを、サッカーファンには常識でも、初めての人は知らない。

興味は生まれた。

でも、次の一歩が見えない。

その間に日常生活へ戻り、数週間たつと熱も下がる。

もしかすると、日本サッカーが取りこぼしているのは、

サッカーに興味のない人ではなく、興味を持った直後の人

なのかもしれない。

Jリーグ自身も「認知から定着まで」を考えている

この問題は、単なる想像ではない。

Jリーグは以前から、ファンを増やす取り組みを、

認知
→ 関心
→ 来場
→ リピート
→ 定着

という一連の顧客体験として捉えてきた。

2024シーズンには、Jリーグを知っているものの観戦経験がない層を重点対象とし、国立競技場での試合、大規模招待、さまざまなコラボレーションなどを通じて、まず一度スタジアムへ来てもらう施策を強化している。

そして2026年。

この取り組みは、さらに大きな局面を迎えている。

2026/27シーズンは、Jリーグが秋春制へ移行して初めて迎える本格的なシーズンである。

しかも開幕は、北中米ワールドカップが終わった直後の8月だった。

つまり、

日本代表を見てサッカーへの関心が高まった直後に、Jリーグの新しいシーズンが始まる。

という、これまでにない条件がそろった。

そして、その最初の数字はかなり大きかった。

8月7日から9日に行われた第1節では、J1・J2・J3合計で47万6112人が来場し、全カテゴリーを合わせた「1節あたり最多入場者数」を更新した。

J1だけでも10試合で30万4292人。さらにJ1の収容率は85.9%となり、こちらも1節あたりの過去最高だった。

しかも、一度だけでは終わらなかった。

翌週の第2節では、J1・J2・J3の30試合に48万1544人が来場。

第1節で作ったばかりの記録を、さらに更新した。

J2は15万9567人、J3は7万956人となり、それぞれカテゴリー単独でも過去の節別最多記録を更新している。

開幕からわずか2節で、合計95万7656人がJリーグのスタジアムを訪れたことになる。

もちろん、この数字をすべて「ワールドカップ効果」と説明することはできない。

秋春制への移行初年度という新鮮さ。

夏休み。

開幕そのものへの期待。

各クラブの営業努力。

対戦カード。

イベント。

さまざまな要因が重なっている。

それでも、

ワールドカップで高まった関心を、Jリーグが受け止めるタイミングが実際に生まれ、その最初の2節で過去最多級の人がスタジアムへ来た。

という事実は、かなり興味深い。

ポケモンとのコラボも、その入口の一つである

2026/27シーズンで象徴的なのが、ポケモンとの大規模なタイアップである。

Jリーグは、ポケモン30周年と新シーズン開幕を組み合わせ、

「EVOLUTION!~Jリーグは、進化する。~」

をテーマに、全国60クラブで「ポケモンJリーグフェス」を開催している。

全60クラブにそれぞれ異なる「クラブパートナーポケモン」が設定され、ピカチュウとともにイベントやグッズへ登場する。

さらに8月から9月にかけての対象試合では、ピカチュウと各クラブのポケモンをデザインしたエコバッグを、合計100万人の来場者へ配布する計画である。

7試合では「ポケモンJリーグスペシャルフェス」も実施され、Jリーグのユニフォーム姿のピカチュウやエースバーンなどが登場する。『Pokémon GO』とのイベントやフォトスポット、オリジナルグッズなども用意されている。

これは、単なる来場者サービスではないと思う。

サッカーにはまだ強い関心がなくても、

ピカチュウを見たい。
ポケモンのバッグが欲しい。
子どもを連れて行ってみたい。

という理由なら、初めてスタジアムへ行く人がいるかもしれない。

そこで初めて、

サッカーって思ったより面白い。
スタジアムって楽しい。
また来てもいいかもしれない。

と思えばいい。

つまり、Jリーグ側もすでに、

サッカーそのものだけで最初の一歩を踏ませようとしているわけではない。

のである。

ポケモンでもいい。

イベントでもいい。

ワールドカップでもいい。

まず接点をつくる。

そこから一度来てもらう。

そして次へつなげる。

これはまさに、

認知
→ 関心
→ 来場
→ リピート
→ 定着

という考え方である。

問題は「来たあと」である

だから、現在のJリーグについて、

ワールドカップの熱をJリーグへつなげる対策が足りない。

とだけ書くのは、少し違うと思う。

対策はすでに始まっている。

そして2026/27シーズンの開幕を見る限り、少なくとも「一度来てもらう」という段階では、結果も出始めている。

むしろ、ここからの方が重要なのかもしれない。

初めて来た人が、

次も来るのか。

ポケモンイベントがない試合にも来るのか。

ワールドカップの熱が落ち着いた秋や冬にも見るのか。

そして来年になっても、そのクラブを気にしているのか。

一度見てもらうことと、ファンになることは別である。

だからこそ、2026/27シーズンは非常に興味深い。

ワールドカップ直後に過去最多級の人がスタジアムへ来た。

次に問われるのは、

その人たちのうち、どれだけが「次の一回」へ進むのか。

ということなのだと思う。

「日本代表の次」を、その場で見せられないだろうか

例えば日本代表戦を見て、

「この選手、すごいな」

と思った人がいる。

その人に、

この選手は普段○○というクラブでプレーしています。

と伝える。

それだけでも次の入口になる。

海外組なら欧州クラブへ関心が向く。

国内組ならJリーグへ向かう。

そしてもう一歩進めて、

あなたの近くには○○FCがあります。
次のホームゲームは○月○日です。

まで自然につながればどうだろう。

日本代表の選手だけでなく、

「この選手が育ったクラブ」

「この選手が最初にプロになったクラブ」

「この選手の出身地」

まで見せてもいい。

スター選手を、日本代表という一か月だけの存在で終わらせず、

日本サッカーの日常へ戻る道しるべ

にするのである。

ワールドカップ直後に「初めてのJリーグ」を用意する

私は以前から、サッカーの入口を難しくしすぎないことが大切だと感じている。

ワールドカップを見て、

「一度Jリーグも見てみようかな」

と思った人に、

全クラブを調べて、

日程を調べて、

アクセスを調べて、

座席種を調べて、

チケットを買って、

応援文化まで予習してください、

では少し重い。

もっと単純でいい。

例えば、

ワールドカップを見た人へ。次は、近所のサッカーを見に行きませんか。

という入口を作る。

都道府県を選ぶ。

近いクラブが表示される。

次のホームゲームが出る。

初観戦向けの席が分かる。

チケット購入まで進める。

それだけでも、かなり違うのではないか。

「サッカーに興味がありますか」と聞く必要すらない。

すでにワールドカップを見ている。

関心は生まれている。

必要なのは、

その関心を行動へ変える距離を短くすること

だと思う。

最初から「サポーター」になってもらう必要はない

ここも大事だと思う。

Jリーグの試合へ一度来てもらったからといって、

すぐユニフォームを買う必要はない。

ゴール裏で応援する必要もない。

毎試合来る必要もない。

年に一回でもいい。

面白かったら、また来ればいい。

Jリーグ自身も、観戦経験のない層をまず年1~2回来場するライト層へ転換することを2024年の重点施策としている。(Jリーグについて)

これは自然な流れだと思う。

ワールドカップを見る

Jリーグを一度見る

もう一度行く

気になるクラブができる

何年か続けて見る

いきなり、

「あなたもJリーグサポーターになりましょう」

ではなくていい。

むしろ、

もう一回サッカーを見られる場所がありますよ

くらいの方が入りやすい。

「見る人」が増えた瞬間に、子どもの入口も見せたい

そして、もう一つ大きな入口がある。

子どもである。

ワールドカップを見て、

選手のゴールをまねする。

公園でボールを蹴る。

ユニフォームを欲しがる。

これはサッカーを「見る」から「する」へ変わる瞬間でもある。

ならば大会期間中に、

サッカーをやってみたい子はこちら

という入口も、もっと目立ってよいと思う。

地域の少年団。

サッカースクール。

街クラブ。

女子チーム。

初心者向け体験会。

親子サッカー。

いきなり競技者登録する必要はない。

まずボールを蹴ればいい。

JFAは2050年までに「サッカーを愛する仲間=サッカーファミリー1000万人」という目標を掲げている。そこには選手だけではなく、サッカーをする、見る、支えるさまざまな人が含まれる。(日本サッカー協会)

だとすれば、ワールドカップは、

1000万人への巨大な入口

として考えることもできる。

「見る」から「する」だけではない

サッカーとの関係は、競技者になることだけではない。

ワールドカップを見て興味を持った人が、

地域クラブを見る。

子どものチームを応援する。

審判を始める。

指導者になる。

ボランティアをする。

スポンサー企業の商品を知る。

アウェイへ旅行する。

地域のサッカーイベントへ行く。

いろいろな関わり方がある。

笹川スポーツ財団もスポーツとの関係を「する」「みる」「ささえる」という観点で継続的に調査している。2022年調査では、直接観戦だけでなくインターネット観戦もスポーツ参加の重要な形として把握されている。(SSF Japan)

日本サッカーに必要なのも、

ワールドカップを見た

競技者になる

という一本の道ではなく、

いくつもの細い道を用意すること

なのではないだろうか。

最大の問題は「次の試合までの空白」なのかもしれない

ワールドカップの熱狂には賞味期限がある。

大会中なら、翌日もニュースを見る。

選手の記事を読む。

対戦国について調べる。

だが大会が終わる。

数日たつ。

別のニュースが始まる。

一か月たつ。

サッカーを見る習慣がなかった人は、元の生活へ戻る。

つまり、

最も重要なのは、興味を持った瞬間から次の体験までの時間

なのではないか。

「いつかJリーグへ来てください」では遅いかもしれない。

ワールドカップ期間中から、

次の週末。

次のホームゲーム。

近所の体験会。

次の代表戦。

次の女子サッカー。

次の高校サッカー。

が見えていること。

熱があるうちに次へ渡す。

これが、

接触 → 体験

の部分なのだと思う。

ワールドカップは「ゴール」ではなく巨大な入口ではないだろうか

日本代表が勝てばうれしい。

ベスト8へ行きたい。

いつか優勝してほしい。

それはもちろん大切である。

でも、日本サッカー全体から見れば、ワールドカップにはもう一つの役割がある。

普段サッカーを見ない何百万人もの人が、

同時にサッカーへ関心を向ける瞬間

をつくることである。

これほど巨大な広告は、普通にはつくれない。

だからこそ、

大会が終わったあとに、

「盛り上がりましたね」

で終わらせるのはもったいない。

ワールドカップで増えた「見る人」へ、

次はここで見られます。

近所にもクラブがあります。

子どもなら、ここでボールを蹴れます。

見るだけでも大丈夫です。

年に一回でも構いません。

と、いくつもの入口を出しておく。

そうすれば、

100人のうち100人が残らなくてもいい。

10人でも。

1人でも。

翌年もサッカーを見ていたらいい。

その1人が子どもをスタジアムへ連れていくかもしれない。

その子がボールを蹴り始めるかもしれない。

やがて、その子が次のワールドカップを見る。

そこまでつながれば、

ワールドカップの熱狂が、日常のサッカーへ変わった

と言えるのではないだろうか。

前回まで、

ブーム → 接触 → 体験 → 習慣 → 文化

と考えてきた。

ワールドカップは、おそらく日本サッカー最大の「接触装置」である。

だから次に必要なのは、

もっと大きなブームをつくることではなく、ブームから降りる階段をたくさんつくること

なのかもしれない。

そして、ワールドカップを見る子どもにとっては、その階段の一つが特別な意味を持つ。

テレビの向こうにいるスターを見て、

「自分もああなりたい」

と思うことだ。

では、ただ「すごい」と思っていた子どもは、どの瞬間にボールを持ち、自分もやってみたいと思うのだろうか。

次の記事では、

「スターへの憧れは、どの瞬間に『自分もやってみたい』へ変わるのだろうか」

を考えてみたい。


ワールドカップが「見る人」を引きつけた理由は、試合内容だけではないのかもしれません。中継の「音」についても考えてみました。


この問いを、もう少し考えてみたい方へ

ワールドカップをきっかけにサッカーを見る人が増えたとき、その人たちをすぐに「にわかファン」と呼んでしまってよいのだろうか。

この問いから、いくつかの記事を書いています。

「にわかファン」が増えることは、日本サッカーにとって本当に悪いことなのだろうか

まず、「にわか」という言葉そのものから考えました。

4年に一度しかサッカーを見ない人も、日本のサッカー文化をつくっているのだろうか

毎週見る人だけが、サッカーファンなのか。ワールドカップのときだけ見る人も、日本サッカーを支える「見る人」の一人ではないかと考えました。

そして、この問いはさらに大きなテーマにつながりました。

2050年、日本が「サッカー大国」になるとは、どういうことなのだろうか

日本代表がワールドカップで優勝することだけが、サッカー大国なのか。

プレーする人、見る人、話す人、教える人、支える人。

サッカーとのさまざまな接点が日常の中に広がっていることも、「サッカー大国」の一つの姿ではないかと考えています。

気になる問いがあれば、そこから続けて読んでいただければうれしいです。


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蒼色真琴
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