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ワールドカップのシュート音は、なぜJリーグより「重く」「大きく」聞こえたのだろうか

拙著『サッカーを日本のナンバーワンスポーツに』から生まれた問い。

2026年のワールドカップを見ていて、私はずっと気になっていたことがある。

それは、映像ではない。

音だった。

選手がシュートを打った瞬間、

ドッ。

と、低く重い音がする。

GKがシュートをはじく。

パンチングする。

すると、

バンッ。

というような音が、テレビ越しなのにかなりはっきり聞こえてくる。

私は普段、DAZNでJリーグを見ることが多い。

もちろんJリーグ中継でも、ボールを蹴る音や選手の声は聞こえる。

でも、今回のワールドカップでは、

「え、こんなに音がするの?」

と思う場面が何度もあった。

そして、その音を聞いただけで、

「これがワールドカップか」

と、改めて感じた。

最初は、スタジアムの屋根のせいだと思っていた

最初に私が考えたのは、スタジアムだった。

今回のワールドカップには、大きな屋根を備えたスタジアムもある。

だから、

屋根に音が反射して、シュート音が響いているのかな。

くらいに考えていた。

何万人もの観客が入っている。

歓声もものすごい。

その中で、ピッチ上のボールの音だけが、

ドッ。

と聞こえてくる。

だから私は、

スタジアムそのものの音響効果なのだろう

と思っていた。

ところが調べてみると、どうもそれだけではなさそうだった。

サッカー中継は、「映像を撮る」だけではなかった

テレビでサッカーを見るとき、当然ながらカメラの存在は意識する。

メインカメラ。

ゴール裏。

選手を追うカメラ。

スロー映像。

でも、同じように、

音を撮るための設備

もピッチの周囲にたくさん置かれている。

欧州サッカー中継の制作事例では、ピッチ周囲だけで17本のマイクを配置するケースが紹介されている。

ゴール裏にはそれぞれ3本。

センター付近。

ペナルティエリア方向。

四隅。

さらに観客の歓声を拾うアンビエンスマイクも別に置く。

つまり、テレビで聞いているサッカーの音は、スタジアムのどこかにマイクを一本置いて拾ったものではない。(Sennheiser)

しかも音響スタッフは、

観客の歓声
実況
ボールを蹴る音
選手の声
ゴールネット付近の音

などを組み合わせて、テレビで聞きやすい形へ整えている。

ここで、私が聞いていた「ドッ」の正体が少し見えてきた。

「近くのボールの音」をわざわざ拾っている

先ほどのサッカー中継事例で、音響技術者が興味深い説明をしている。

ピッチ用マイクでは、選手がボールを蹴ったときのような近いボール音を聞かせたい場面があるという。だから、ピッチ周辺に多数のマイクを配置し、競技の音を細かく収録している。(Sennheiser)

さらに、サッカー中継向けには、カメラの追尾情報を使ってボールの位置へマイクの指向性を向け、ボール音や選手・審判の声を狙って拾う技術まで研究・開発されてきた。(Sennheiser)

これは私にはかなり驚きだった。

映像では、

カメラがボールを追う。

のは当たり前だと思っていた。

しかし音にも、

ボールを追う

という発想がある。

つまり私が聞いた「ドッ」は、

選手がものすごく強く蹴ったから聞こえた、

だけではない。

プロ選手が本当に出している音を、放送技術によってテレビの前まで運んできている

可能性が高いのである。

Jリーグの選手のシュートが弱い、という話ではない

ここは誤解したくない。

ワールドカップのシュート音が大きく聞こえたからといって、

海外の選手はシュートが強い。
Jリーグの選手はシュートが弱い。

という話ではないと思う。

Jリーグの選手も、日本を代表するプロサッカー選手たちである。

あれだけ速いボールを蹴っている。

GKもプロとして強烈なシュートを止めている。

実際のピッチでは当然、かなり迫力のある音がしているはずである。

違うのは、

その音を家庭のテレビまで、どれだけ印象的に届けられているか

なのではないだろうか。

むしろ、観客が多いのに聞こえたことがすごい

今回、私が特に不思議だったのはここだった。

ワールドカップのスタジアムには、Jリーグよりはるかに多くの観客が入っている試合も多かった。

2026年大会は全104試合で累計680万人を超える観客を集めた、大規模な大会だった。(Inside FIFA)

当然、歓声も大きい。

なのに、

シュート。

GKのセーブ。

ボール同士ではなく、人とボールが接触した一瞬の音が、

テレビでは驚くほどクリアに聞こえる。

普通に考えれば、

何万人もの歓声の中に埋もれてしまいそうな音

である。

それを聞かせられる。

ここに放送技術のすごさがあるのだと思う。

ワールドカップは「音」まで世界最高峰の商品だったのかもしれない

2026年ワールドカップでは、FIFAの国際放送センターがダラスに設けられた。

広さは約4万5000平方メートル。

FIFAによれば、約2000人の放送関係者が拠点を置き、世界中の視聴者へ映像や音声を届けるための中心施設として機能した。

ホストブロードキャスターは、過去6大会でもワールドカップ中継を担ってきたHBSである。(Inside FIFA)

もちろん、

2026年大会ではシュート音専用に○本のマイクを置いた

という詳細な公式資料までは、今回確認できなかった。

だから、私が聞いた音が具体的にどのマイクから来たのかまでは分からない。

しかし少なくとも、

ワールドカップ中継そのものが、世界最大級の放送制作プロジェクトだった

ことは間違いない。(Inside FIFA)

映像だけではない。

音も、その商品をつくる一部だったのだと思う。

大谷選手のホームランも、「音」が記憶に残る

ここで私は、野球を思い出した。

大谷翔平選手がホームランを打った映像を見ると、

打った瞬間の、

カーン。

という打球音そのものが印象に残ることがある。

ホームランの飛距離を見る前に、

「今の音、すごい」

と感じる。

スポーツには、

音だけでプロのすごさを感じられる瞬間

があるのだと思う。

サッカーも同じではないだろうか。

シュート速度が時速何キロだった。

パンチングしたボールが何メートル飛んだ。

もちろん数字でも説明できる。

でも、

ドッ。

という一発の方が、

身体感覚として分かりやすいことがある。

「プロってスゲー」を、音が伝えてくれる

私自身がまさにそうだった。

ワールドカップの中継でシュート音を聞いて、

「やっぱり世界のトップ選手ってスゲー」

と思った。

さらに、

「やっぱりワールドカップってスゲー」

と思った。

これは面白い。

私はシュート速度を測ったわけではない。

選手の筋力を調べたわけでもない。

音を聞いただけである。

でも、その一瞬で、

自分とはまったく違うレベルで競技している人たちだ

と感じた。

つまり音には、

プロスポーツの身体能力を説明する力がある。

「見る人」のために、もっと音を考えてもいいのではないか

私はこれまで、

『「見る人」から考える日本のスポーツ施設』

や、

ワールドカップで増えた「見る人」をどう日常のサッカーへつなげるか、

ということを考えてきた。

その中では、

スタジアム。

座席。

屋根。

大型ビジョン。

交通。

イベント。

などを考えることが多かった。

でも今回、もう一つ増えた。

音である。

テレビ観戦の魅力を高めるというと、

4K。

カメラ台数。

スロー映像。

選手データ。

戦術解説。

など映像側へ目が向きやすい。

でも、

ボールを蹴る音。
GKが止める音。
選手が走る音。
ゴールネットにボールが当たる音。
選手同士が声を掛ける音。

こうしたものも、テレビの前にいる人をピッチへ近づける。

FIFA自身も、2026年大会で視覚障害者向けの音声解説を全試合で提供するなど、スポーツ体験における音の重要性を広く扱っていた。(Inside FIFA)

Jリーグでも、もっと「ボールの音」を聞いてみたい

だから、私は単純に思う。

Jリーグ中継でも、あの「ドッ」をもっと聞いてみたい。

もちろん実況も必要である。

観客の歓声も大切である。

チャントもスタジアムの文化である。

でも、その中に、

プロ選手が本気で蹴ったボールの音がある。

GKが至近距離からのシュートを弾いた音がある。

それをもっと明確に聞ければ、

テレビで初めてJリーグを見る人にも、

「プロのサッカーって、こんなに迫力があるんだ」

と伝わるかもしれない。

スタジアムへ行けば分かる迫力を、

放送でも少し再現できる。

これは、「見る人」を増やすうえでも意外に大事なのではないだろうか。

スポーツ中継は、「見るもの」だけではない

今回のワールドカップで、私は一つ新しいことに気づいた。

テレビでサッカーを見ていた。

でも実際には、

映像と音を一緒に体験していた。

シュートの瞬間に、

ドッ。

GKが止めて、

バンッ。

その一瞬の音が、

映像以上に「ワールドカップらしさ」を感じさせることすらあった。

だからスポーツ中継の価値を考えるとき、

どれだけきれいに見せるか

だけでは足りないのかもしれない。

どれだけ競技を「感じさせるか」。

そのためには音も重要である。

Jリーグの選手も、世界で戦う日本代表選手も、同じプロサッカー選手である。

その身体能力。

キックの強さ。

GKの反応。

ピッチ上の迫力。

それを、

家庭のテレビまでどれだけ届けられるのか。

ワールドカップで聞こえた「ドッ」という一音は、

単なる効果音ではなかった。

私にとっては、

「これが世界最高峰のサッカーなんだ」

と思わせる音だった。

そして同時に、

Jリーグにも、まだ「音」で伝えられる迫力が残っているのではないか。

そんなことまで考えさせられた。

スポーツは、目で見るもの。

そう思っていた。

でも、

「見る人」を夢中にさせるのは、もしかすると耳から入ってくる一発の「ドッ」なのかもしれない。


ワールドカップでサッカーに興味を持った「見る人」を、その後のJリーグへどうつなげるかについては、こちらの記事でも考えています。


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