Jリーグの60クラブは、全国に散らばった「ポケモン図鑑」になれるのだろうか
拙著『サッカーを日本のナンバーワンスポーツに』から生まれた問い。
ここまで、ポケモンとJリーグのコラボレーションについて続けて考えてきた。
最初は、
サッカーが目的じゃなくてもいい。ポケモンを見にJリーグへ行くことも、立派な入口ではないだろうか。
という話だった。
次に、
なぜJリーグは、60クラブに60匹の違うポケモンを割り当てたのだろうか。
と考えた。
そして前回は、
ポケモンは、クラブに新しい「推し」を一つ増やしたのではないか。
というところまで進んだ。
クラブを推す。
選手を推す。
マスコットを推す。
そこに、クラブパートナーポケモンを推すという新しい接点が加わった。
すると次に、どうしても気になることが出てきた。
自分のクラブのポケモンを知る。
すると、ほかのクラブのポケモンも気になる。
60クラブに60匹いる。
しかも、その60クラブは全国各地に散らばっている。
これって、少しだけ、
ポケモン図鑑みたいではないだろうか。
ポケモンには「知らないものに会いに行く」楽しさがある
私はポケモンに詳しいわけではない。
だから細かなゲームシステムを語ることはできない。
それでも、ポケモンという作品の基本的な楽しさの一つくらいは分かる。
知らないポケモンに出会う。
捕まえる。
集める。
違う場所へ行く。
図鑑が少しずつ埋まっていく。
交換する。
好きなポケモンを育てる。
つまり、
最初から全部を知っている世界ではなく、移動しながら世界を広げていく。
そこに面白さがあるのだと思う。
今回のポケモンJリーグフェスでも、全60クラブにそれぞれ異なる「クラブパートナーポケモン」が設定され、グッズやフォトスポット、『Pokémon GO』との連動企画などが展開されている。 (Jリーグ公式サイト)
一覧を見れば、
「このポケモンは、このクラブなんだ」
となる。
さらに、
「このクラブって、どこにあるんだろう」
となる人もいるかもしれない。
ここから、Jリーグとの相性が見えてくる。
Jリーグも「知らない町へ行く」スポーツである
Jリーグには、ホームとアウェイがある。
自分のクラブをホームで見る。
次は別のクラブがやって来る。
そして今度はこちらがアウェイへ行く。
知らなかった町へ行く。
知らなかったスタジアムへ行く。
その町の食べ物を食べる。
サポーターと出会う。
観光する。
また翌年、その町へ行く。
つまりJリーグも、
クラブを応援しているうちに、日本中の知らなかった場所へ連れていかれる仕組み
なのである。
私はこれまで、アウェイサポーターについて何本か記事を書いてきた。
外から来た人が町の魅力を見つける。
SNSで紹介する。
翌年また来る。
地元の人と交流する。
そこから地域との関係が少しずつ生まれる。
ポケモンの世界に「知らないものに会いに行く楽しさ」があるなら、Jリーグにも「知らない町へ行く楽しさ」がある。
この二つ、思った以上に似ている。
「相手クラブのポケモンを見たい」が遠征理由になったら面白い
例えば、自分のクラブのクラブパートナーポケモンを覚えたとする。
次に対戦するクラブを見る。
そこには別のポケモンがいる。
そのポケモンが昔から好きだった。
すると、
「今度のアウェイ、行ってみようかな」
となる人が、一人くらいいても不思議ではない。
もちろん、
ポケモンだけを目的に何百キロも遠征する人が大量に生まれる
とまで言いたいわけではない。
でも、アウェイへ行く理由は一つではない。
重要な試合だから。
初めて行くスタジアムだから。
友人に誘われたから。
その町に行ってみたかったから。
スタグルがおいしいから。
観光を兼ねたいから。
そこへ、
「あのクラブのポケモンも見たい」
が一つ足されてもいい。
遠征を決める理由というのは、案外そういう小さなものの積み重ねなのではないだろうか。
ポケモンが、知らなかったクラブを可視化する
この企画で特に価値があると思うのは、J1だけではなく、J2・J3を含めた全60クラブが対象であることだ。Jリーグ公式も、60クラブすべてに異なるクラブパートナーポケモンを設定している。 (Jリーグ公式サイト)
普段J1しか見ない人なら、J3のクラブを全部知っているとは限らない。
ポケモンファンなら、そもそもJリーグのクラブをほとんど知らないかもしれない。
でも好きなポケモンを探して一覧を見る。
すると、その隣にクラブ名がある。
地域名がある。
「この町にもJリーグクラブがあるんだ」
と初めて知る。
これは、かなり面白い接触だと思う。
Jリーグが普通にクラブ一覧を出して、
60クラブあります。覚えてください。
と言っても、なかなか全部は見てもらえない。
でも、
「あなたの好きなポケモンは、どこのクラブ?」
なら、見る理由が生まれる。
ポケモンが、Jリーグの全国地図を読むための索引になるのである。
60種類あるから、「自分のクラブ」だけでは終わらない
もし今回の企画が、
全クラブ共通でピカチュウ
だけだったらどうだろう。
それはそれで大きな集客力がある。
ただ、自分のクラブで見たら、それで完結しやすい。
でも60種類あると、
「ほかは何?」
となる。
Jリーグ公式オンラインストアでは、60クラブそれぞれのクラブパートナーポケモンを使ったオリジナルグッズも展開されている。 (【公式】Jリーグオンラインストア)
自分のクラブを見る。
次に好きなポケモンを探す。
知らないクラブを見つける。
さらにその地域を知る。
これは、
一点から全国へ視線が広がる設計
になっている。
60クラブという多さが、ここでは明確に強みになる。
アウェイサポーターは、もともと「図鑑を埋める」ような行動をしている
考えてみると、熱心なアウェイサポーターには、すでに少し似た行動がある。
初めてのスタジアムへ行く。
新しく昇格してきたクラブの町へ行く。
まだ行ったことのないアウェイを一つずつ訪れる。
「J1は全部行った」
「このスタジアムだけまだ行っていない」
そんな話も聞く。
もちろん、本当にポケモン図鑑を埋めるのと同じではない。
でも、
未訪問を訪問済みに変えていく喜び
は少し似ている。
だからポケモンとのコラボレーションは、単にキャラクターをスタジアムへ置いただけではなく、
Jリーグがもともと持っている「移動する楽しさ」を可視化した
とも考えられるのではないだろうか。
アウェイツーリズムの入口にもなり得る
私は以前、
アウェイサポーターが町に来ると、地域の中で何が起きるのだろうか
という連作を書いた。
そこで見えてきたのは、アウェイサポーターが単なる「試合を見に来る客」ではないということだった。
食べる。
歩く。
写真を撮る。
SNSへ投稿する。
地元の人が気づかなかった魅力を見つける。
また翌年戻ってくる。
そして地域の人も、その来訪者を迎えることで自分の町をあらためて見る。
もしポケモンが、
「このクラブ、ちょっと気になる」
という最初の一歩を作れば、その先には町がある。
ポケモンを見る。
クラブを知る。
試合を見る。
アウェイへ行く。
町を歩く。
その順番でもいい。
つまり、
ポケモンは、サッカーへの入口であると同時に、アウェイツーリズムへの入口にもなり得る。
そう考えることもできる。
全国60クラブというネットワークだからできる
プロ野球は12球団。
ポケモンも2026年にはプロ野球12球団との「ポケモンベースボールフェスタ」を展開している。こちらも演出試合、グッズ、『Pokémon GO』イベントなどを組み合わせた大型企画である。 (ポケットモンスターオフィシャルサイト)
だから「ポケモンとのスポーツコラボ」がJリーグだけ特別ということではない。
ただ、Jリーグには別の特徴がある。
全国60クラブ。
それだけ地域の数が多い。
だから、
ポケモン
→クラブ
→町
という導線を、60か所で作れる。
札幌から沖縄まで、日本地図のかなり広い範囲に入口を置ける。
これは、地域密着を長く掲げてきたJリーグならではの強さだと思う。
「全国に60クラブもある」は、旅行資源にもなる
Jリーグの60クラブという多さを、
覚えにくい。
と見ることもできる。
でも観光の側から見たらどうだろう。
60のクラブ。
60のスタジアム。
60の地域。
60のスタグル。
60のサポーター文化。
そして今回なら、60匹のクラブパートナーポケモン。
これは、
全国に60の訪問理由がある
とも言える。
実際には一つのクラブでも複数の地域との関係があり、ホームタウンの構造も単純な一都市=一クラブではない。
それでも「全国にクラブが散らばっている」という基本構造は変わらない。
だからJリーグは、スポーツリーグであると同時に、
人を全国へ移動させるネットワーク
でもある。
ポケモンの「出会いに行く」という文化は、そこにとても自然に乗る。
「ポケモン図鑑」は比喩だけれど
もちろん、Jリーグが公式に「60クラブをポケモン図鑑にしよう」と言っているわけではない。
今回の企画を見て、私がそう感じただけである。
でも、
自分の一匹を知る。
↓
ほかの一匹が気になる。
↓
そのクラブを知る。
↓
その地域を知る。
↓
いつか行ってみる。
という流れが少しでも生まれるなら、この比喩はそれほど的外れでもない気がする。
サッカーには対戦がある。
だから全国のクラブが毎年つながる。
ポケモンには多様なキャラクターがいる。
だから全国のクラブに違う入口を置ける。
その二つが重なったことで、
Jリーグの60クラブが、日本中に散らばった「集めたくなる地域情報」のように見えてくる。
そこが今回の企画の面白さなのだと思う。
ただ、集めてもらうだけでは終わる
ここまでポケモンとの相性を考えてきたが、大きな問題もある。
ポケモンを見に来た。
EVO BAGをもらった。
写真を撮った。
グッズを買った。
楽しかった。
そして帰った。
それだけなら、その人が次のJリーグの試合へ来るとは限らない。
今回のEVO BAGは、開幕から9月にかけて対象ホームゲームで計100万人へ配布される大規模企画である。しかも非売品だ。 (Jリーグ公式サイト)
100万人との接点ができる。
これは大きい。
でも、本当に重要なのは、
101万人目を呼ぶことではなく、その100万人の一部が「もう一度来る」ことなのではないか。
ポケモンという強い入口でスタジアムへ来てもらう。
そのあと、
サッカーそのものが面白かった。
選手を覚えた。
クラブが気になった。
また行きたくなった。
そこまで進められるか。
ここから先は、ポケモンの力だけではなく、Jリーグとクラブの仕事になる。
次の記事では、今回のコラボレーションで最も重要かもしれない、
「2回目」
について考えてみたい。
次回:ポケモン目当てで来た人を、ポケモンがいない次の試合へ呼べるのだろうか
この問いを、もう少し考えてみたい方へ
ワールドカップをきっかけにサッカーを見る人が増えたとき、その人たちをすぐに「にわかファン」と呼んでしまってよいのだろうか。
この問いから、いくつかの記事を書いています。
「にわかファン」が増えることは、日本サッカーにとって本当に悪いことなのだろうか
まず、「にわか」という言葉そのものから考えました。
4年に一度しかサッカーを見ない人も、日本のサッカー文化をつくっているのだろうか
毎週見る人だけが、サッカーファンなのか。ワールドカップのときだけ見る人も、日本サッカーを支える「見る人」の一人ではないかと考えました。
そして、この問いはさらに大きなテーマにつながりました。
2050年、日本が「サッカー大国」になるとは、どういうことなのだろうか
日本代表がワールドカップで優勝することだけが、サッカー大国なのか。
プレーする人、見る人、話す人、教える人、支える人。
サッカーとのさまざまな接点が日常の中に広がっていることも、「サッカー大国」の一つの姿ではないかと考えています。
気になる問いがあれば、そこから続けて読んでいただければうれしいです。
日本サッカーについて、こんな本を書いています
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『サッカーを日本のナンバーワンスポーツに:子どもの競技選択から2046年ワールドカップ優勝まで』
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蒼色真琴
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