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なぜJリーグは、60クラブに60匹の違うポケモンを割り当てたのだろうか

拙著『サッカーを日本のナンバーワンスポーツに』から生まれた問い。

前回、こんなことを書いた。

サッカーが目的じゃなくてもいい。
ポケモンを見にJリーグへ行くことも、立派な入口ではないだろうか。

2026/27シーズンの開幕に合わせて始まった「ポケモンJリーグフェス」。

ピカチュウを見たい。

ポケモンのグッズが欲しい。

EVO BAGが欲しい。

『Pokémon GO』を楽しみたい。

そんな理由で初めてJリーグのスタジアムへ行く人がいてもいい。

そこでたまたまサッカーを見て、

「思ったより面白かった」

となれば、それだけでも大きな入口になる。

前回の記事では、そんなことを考えた。

ところが、その記事を書いたあと、私はもう一つ気になった。

今回の企画は、単に、

Jリーグ×ポケモン

なのではない。

60クラブ×60匹

なのである。

なぜ、こんなことができたのだろう。

調べていくと、これはポケモンとJリーグという二つのコンテンツが持つ「数」と「個性」が、かなりうまく噛み合った企画なのではないかと思えてきた。

ピカチュウが60クラブに来るだけではなかった

今回の「ポケモンJリーグフェス」はかなり大規模である。

2026年に30周年を迎えたポケモンと、秋春制へ移行したJリーグが「EVOLUTION!~Jリーグは、進化する。~」をテーマにタイアップした。

全国60クラブで開催される。

そして特徴的なのが、

全60クラブに、それぞれ異なる「クラブパートナーポケモン」がいる

ことである。

Jリーグ公式も、「個性豊かな60匹の進化したポケモン」が60クラブそれぞれに登場すると説明している。(Jリーグ公式サイト)

つまり、

鹿島にもポケモンがいる。

柏にもいる。

いわきにもいる。

今治にもいる。

高知にもいる。

琉球にもいる。

しかも同じではない。

それぞれ違う。

ここが面白い。

もし、

「Jリーグとポケモンがコラボします」

というだけなら、ピカチュウが全国のスタジアムを回るだけでも成立したはずである。

でも、今回はそうしなかった。

60クラブそれぞれに違うポケモンを置いた。

なぜだろう。

そもそもポケモンは、とんでもなく種類が多い

今回調べていて、改めて驚いた。

ポケモンは1000種類を超えている。

私のように初期のポケモンくらいしか知らない人間からすると、

「そんなにいるの?」

という感じである。

1996年に『ポケットモンスター 赤・緑』が発売されてから30年。

新しいゲームが出るたびに、新しい地方と新しいポケモンが登場してきた。

そして現在の全国図鑑は1025匹まで広がっている。

1025匹。

一方、Jリーグは2026/27シーズン、

J1が20クラブ。

J2が20クラブ。

J3が20クラブ。

合計60クラブで構成されている。(Jリーグ公式サイト)

ここで私は、

あれ、この二つは「数が多い」こと自体が、ものすごく相性がいいのではないか。

と思った。

「EVOLUTION!」は、ただのキャッチコピーではなかった

今回の企画を見ていて、もう一つ気づいたことがある。

各クラブのポケモンを見ると、名前が二つ並んでいるものがある。

私はポケモンに詳しくないので最初は、

「1クラブに2匹ずついるのかな。60クラブだから120匹なのだろうか」

と思った。

しかし調べてみると、そうではなかった。

Jリーグ公式が「クラブパートナーポケモン」として数えているのは、**全60クラブにそれぞれ1匹ずつ、計60匹の“進化したポケモン”**である。(Jリーグ公式サイト)

つまり、120匹のポケモンを60クラブへ割り当てたわけではない。

今回の企画で重要なのは、「進化」という物語そのものだった。

2026/27シーズンから、Jリーグは8月開幕の秋春制へ移行した。

Jリーグ自身が、この大きな制度変更を「Jリーグの進化」と表現している。

そしてポケモンには、「進化」という非常に分かりやすい文化がある。

小さな姿から、別の姿へ変わる。

能力が高まる。

見た目も変わる。

でも、まったく別の存在になるわけではない。

これまでの積み重ねを引き継ぎながら、次の段階へ進む。

だから今回のテーマは、

EVOLUTION!~Jリーグは、進化する。~

なのである。

公式ストアでも、

世界とつながるシーズン移行で、ポケモンのように個性豊かな60のクラブが、それぞれの進化を始める

という考え方が示されている。(【公式】Jリーグオンラインストア)

これはかなりよくできている。

単に、

「人気キャラクターのポケモンとコラボしました」

ではない。

Jリーグが30年以上続いてきたリーグとして、次の形へ変わる。

ポケモンも30周年を迎え、長い歴史の中で何度も新しい世代、新しい地域、新しい進化を重ねてきた。

その二つを、

進化

という一語でつないだ。

だから、60クラブに60匹のポケモンを置くだけでなく、「進化したポケモン」を選んだ意味が出てくる。

ポケモンの進化は、クラブの未来まで想像させる

ここまで考えると、今回のコラボにはもう一つ面白い読み方ができる。

Jリーグのクラブも、完成した存在ではない。

J3からJ2へ。

J2からJ1へ。

新しいスタジアムができる。

サポーターが増える。

地域との関係が変わる。

育成組織が成長する。

海外へ選手を送り出す。

それぞれ違う形で「進化」していく。

だから、

ポケモンが進化するように、60クラブにも60通りの進化がある。

と考えられる。

これは全国60クラブという多さとも相性がいい。

全クラブが同じ形へ大きくなる必要はない。

地域も違う。

規模も違う。

歴史も違う。

目指す姿も違っていい。

ポケモンに1025匹もの個性があるように、

Jリーグにも60通りの成長の仕方がある。

そう見せられる。

今回の「EVOLUTION!」という言葉は、単なるイベントタイトル以上に、Jリーグの現在地をかなりうまく表現しているように思う。

1025の個性と、60の地域

例えばプロ野球なら12球団である。

12球団に12匹のポケモンを割り当てることはできる。

もちろん、それでも面白い。

でもJリーグなら60ある。

北海道から沖縄まで、全国にクラブがある。

しかも単なる60チームではない。

それぞれに、

地域がある。

クラブカラーがある。

エンブレムがある。

マスコットがいる。

歴史がある。

スタジアムがある。

サポーター文化がある。

つまり、

60の違う個性が、全国に散らばっている。

一方のポケモンにも、それぞれ違う個性がある。

姿が違う。

タイプが違う。

能力が違う。

生息する場所が違う。

進化の仕方も違う。

名前にも特徴がある。

だから、

1025の個性 × 60の地域

という、とても大きな組み合わせができる。

今回、実際に選ばれたのはその中の60匹である。

これ、かなりJリーグ向きのコラボレーションなのではないだろうか。

「クラブが多すぎる」は、いつも弱点なのだろうか

Jリーグには60クラブもある。

これは、ときどき弱点のように語られる。

初めて見る人には覚えにくい。

J1、J2、J3まである。

クラブ名もたくさんある。

メディアの注目も分散する。

一つのクラブが全国的に知られにくくなる。

確かに、そういう面はあると思う。

でも、今回のポケモンとのコラボレーションを見ていると、

「60もある」ことは、本当に弱点だけなのだろうか。

と思えてくる。

全国に60クラブあるということは、

全国に60の接点がある

ということでもある。

東京だけではない。

大阪だけでもない。

人口100万人を超える大都市だけでもない。

地方都市にもクラブがある。

だから全国規模のIPと組んだとき、

一つの巨大イベントを東京で開催する

のではなく、

全国60か所で、それぞれ違うイベントに変える

ことができる。

これはかなり大きな資産ではないだろうか。

全国共通なのに、「うちのポケモン」がいる

ここが今回の企画で特にうまいところだと思う。

もし全60クラブにピカチュウだけが登場したら、

Jリーグ全体のポケモン企画

になる。

もちろん、それでも十分強い。

でもクラブごとに違うポケモンを設定すると、少し意味が変わる。

「うちのクラブのポケモン」

が生まれる。

Jリーグ公式が公開したグッズも、全60クラブそれぞれのクラブパートナーポケモンを使った展開になっている。

フォトスポットもある。

『Pokémon GO』のイベントもある。

特別映像もある。(Jリーグ公式サイト)

さらに、来場者へ配布されるEVO BAGにも、ピカチュウと各クラブのクラブパートナーポケモンがデザインされている。

しかも合計100万人への配布である。(Jリーグ公式サイト)

同じキャンペーンなのに、

柏で受け取るものと、

広島で受け取るものと、

長崎で受け取るものが違う。

だから、

「Jリーグのポケモン」

だけではなく、

「自分たちのクラブのポケモン」

という感覚が生まれる。

これは、全国リーグでありながら地域密着を掲げてきたJリーグの構造と、とてもよく合っている。

Jリーグは「全国一律」ではないから面白い

Jリーグには全国共通のルールがある。

同じリーグで戦う。

同じJリーグのロゴを使う。

同じ競技規則で試合をする。

でも、クラブは同じではない。

地域によって全然違う。

スタジアムも違う。

応援も違う。

スタグルも違う。

町も違う。

つまり、

共通の枠組みの中に、60の違いがある。

ポケモンも、どこか似ている。

「ポケモン」という一つの世界の中に、1000を超える違うキャラクターがいる。

だから、

ポケモンという共通世界
×
Jリーグという共通リーグ

だけで終わらず、

一匹一匹のポケモン
×
一つ一つのクラブ

まで降りていける。

全国企画なのに、地域企画にもなる。

ここが、このコラボレーションの強さなのかもしれない。

「あなたの町のポケモン」から、クラブを知る人もいる

そして、前回の記事で考えた「入口」の話に戻る。

サッカーが好きだからポケモンを見る人だけではない。

逆もある。

ポケモンが好き。

今回の60匹を見る。

すると、

「このポケモンは、どこのクラブなんだろう」

となるかもしれない。

そこから、

クラブ名を知る。

地域を知る。

スタジアムを知る。

試合があることを知る。

つまり、

ポケモンからJリーグへ入る道

ができる。

これは、いま日本サッカーが必要としている「サッカーの外からの入口」とかなり相性がいいと思う。

すでにJリーグは「入口」を増やそうとしている

私は少し前の記事で、

ワールドカップで増えた「見る人」を、どうすれば日常のサッカーへつなげられるのだろうか

ということを考えた。

この記事が、最近書いたものの中では特に多く読まれている。

その中でも、ポケモンとのコラボレーションを、

まだJリーグへ来たことのない人との接点

として取り上げた。

Jリーグは2026/27シーズン、スタジアム観戦に興味はあるものの来場経験のない人や、久しぶりに来場する人を対象に、全国22万人規模の招待も実施している。(Jリーグ公式サイト)

つまり現在のJリーグは、

サッカーが好きな人に、もっと来てもらう

だけではなく、

まだ来ていない人が、最初の一歩を踏み出す理由を増やす

ことにかなり力を入れている。

ワールドカップも入口。

無料招待も入口。

国立開催も入口。

そしてポケモンも入口。

その中でもポケモンは、

全国60クラブそれぞれに違う入口を作れる

という点で、かなり特殊なのである。

60クラブは、60の「入口」なのかもしれない

Jリーグのクラブ数について考えるとき、普通は競技の側から見る。

60クラブは多いのか。

カテゴリーをどうするのか。

クラブ経営は成り立つのか。

選手の質はどうなるのか。

もちろん、どれも重要である。

でも地域やマーケティングの側から見ると、違う姿が見えてくる。

札幌にも入口がある。

八戸にもある。

秋田にもある。

水戸にもある。

柏にもある。

藤枝にもある。

今治にもある。

高知にもある。

宮崎にもある。

鹿児島にもある。

沖縄にもある。

全国に60クラブあるということは、全国に60回「何かとつながれる場所」があるということではないか。

ポケモンは、その特徴を非常に分かりやすく見せた。

1000を超えるポケモンの中から60匹を選び、60クラブへ一匹ずつ置く。

すると巨大な全国キャンペーンが、

60個の地域キャンペーン

にもなる。

これは、東京に一つ巨大なスタジアムがあることとは違う価値である。

「数が多い」を、価値に変えられるか

もちろん、

ポケモンが1000匹以上いるから、Jリーグ60クラブと相性がよかった。

と単純に断定することはできない。

今回、なぜ60匹をそれぞれのクラブへ割り当てる企画になったのか、その企画会議の中身までは公開資料からは分からない。

ただ、結果として見ると、

ポケモンの多様性と、Jリーグの地域的な多様性が非常にうまく噛み合った

ことは確かだと思う。

そして、ここから先の方が私は面白い。

Jリーグには60クラブある。

それを、

多すぎる

で終わらせるのではなく、

全国に60の地域接点を持つネットワーク

と考えたらどうなるのだろう。

ゲーム。

アニメ。

音楽。

食。

観光。

鉄道。

地域産品。

教育。

さまざまなものと組み合わせられる。

全国共通の企画を作りながら、

「うちの町ではこれ」

に変えられる。

ポケモンJリーグフェスは、その可能性をかなり分かりやすく見せているように思う。

でも、なぜ「自分たちのポケモン」に見えるのだろう

ただ、60クラブに60匹を割り当てただけなら、

面白いコラボだったね。

で終わるかもしれない。

私がさらに気になるのは、その先である。

全国共通のポケモンである。

誰か一つのクラブだけのキャラクターではない。

それなのに、

「うちのクラブのポケモン」

と言いたくなる。

クラブカラーのグッズになる。

スタジアムに現れる。

自分のクラブのEVO BAGになる。

すると、もともと世界中で知られているポケモンが、少しだけ「自分たちのもの」のように感じられてくる。

これはなぜなのだろう。

クラブを推す。

選手を推す。

マスコットを推す。

そこへ、

ポケモンを推す

という新しい関係が一つ加わったのだろうか。

次の記事では、この不思議な関係について考えてみたい。

次回:ポケモンは、クラブに新しい「推し」を一つ増やしたのだろうか


この問いを、もう少し考えてみたい方へ

ワールドカップをきっかけにサッカーを見る人が増えたとき、その人たちをすぐに「にわかファン」と呼んでしまってよいのだろうか。
この問いから、いくつかの記事を書いています。
「にわかファン」が増えることは、日本サッカーにとって本当に悪いことなのだろうか

まず、「にわか」という言葉そのものから考えました。
4年に一度しかサッカーを見ない人も、日本のサッカー文化をつくっているのだろうか

毎週見る人だけが、サッカーファンなのか。ワールドカップのときだけ見る人も、日本サッカーを支える「見る人」の一人ではないかと考えました。
そして、この問いはさらに大きなテーマにつながりました。
2050年、日本が「サッカー大国」になるとは、どういうことなのだろうか

日本代表がワールドカップで優勝することだけが、サッカー大国なのか。
プレーする人、見る人、話す人、教える人、支える人。
サッカーとのさまざまな接点が日常の中に広がっていることも、「サッカー大国」の一つの姿ではないかと考えています。
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