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ポケモンは、クラブに新しい「推し」を一つ増やしたのだろうか

拙著『サッカーを日本のナンバーワンスポーツに』から生まれた問い。

前回、なぜJリーグが60クラブそれぞれに違うポケモンを割り当てたのかを考えた。

J1だけではない。

J2もJ3も含めて60クラブ。

そこへ60匹の「クラブパートナーポケモン」がいる。

ポケモンには1000を超える種類があり、Jリーグには全国60の地域がある。

しかも今回の「EVOLUTION!~Jリーグは、進化する。~」では、Jリーグのシーズン移行という「進化」と、ポケモンの「進化」まで重ねられている。Jリーグ公式も、ポケモンのように個性豊かな60クラブがそれぞれ進化を始める、というメッセージを打ち出している。(【公式】Jリーグオンラインストア)

前回の記事では、

1025の個性 × 60の地域

という組み合わせは、実はとても相性がいいのではないか、と考えた。

ところが、60クラブのポケモンを眺めているうちに、もう一つ気になってきた。

サッカーでは、対戦相手は敵である。

今日は絶対に負けたくない。

相手クラブのゴールなんて見たくない。

それなのに、

「でも、あっちのクラブのポケモン、ちょっといいな」

ということは起こらないのだろうか。

クラブを好きになる入口は、一つではない

Jリーグで「推す」といえば、まずクラブがある。

地元だから。

家族が応援していたから。

友人に連れていかれたから。

好きな選手がいたから。

そこから特定の選手を好きになることもある。

マスコットが好きな人もいる。

ユニフォームが好き。

スタジアムが好き。

応援が好き。

スタグルが好き。

つまり、

クラブへの愛着は、サッカーの勝敗だけから生まれるわけではない。

そこへ今回、かなり変わったものが一つ加わった。

ポケモンである。

Jリーグ公式オンラインストアでは、ピカチュウや各クラブのクラブパートナーポケモンを使ったTシャツ、タオルマフラー、アクリルキーチェーンなどが全60クラブで販売されている。クラブパートナーポケモンのキーホルダーやタオルマフラーも全60種ある。(【公式】Jリーグオンラインストア)

ということは、

クラブを推す。
選手を推す。
マスコットを推す。
クラブパートナーポケモンを推す。

という、新しい接点が生まれたことになる。

「うちのポケモン」という感覚が面白い

私はポケモンに詳しいわけではない。

だからこそ、今回の企画を見ていて少し不思議に感じた。

ポケモンは、もともとJリーグクラブのキャラクターではない。

柏レイソルのために生まれたわけでもない。

鹿島アントラーズのために生まれたわけでもない。

世界中の人が知っているポケモンである。

ところがクラブと組み合わされると、

「うちのクラブのポケモン」

に見えてくる。

クラブカラーと一緒にデザインされる。

エンブレムと並ぶ。

スタジアムにフォトスポットができる。

グッズになる。

EVO BAGになる。

そうすると、今までポケモンにそれほど詳しくなかったサポーターでも、

「これがうちのポケモンなんだ」

と覚えるかもしれない。

逆もある。

もともとそのポケモンが好きだった人が、

「このポケモン、どこのクラブになったんだろう」

とクラブを知るかもしれない。

この双方向性が、今回の企画の面白いところだと思う。

「なぜこのポケモン?」と考えること自体が、クラブを語ることになる

さらに面白いのは、なぜそのポケモンがそのクラブに割り当てられたのか、すべての理由が細かく説明されているわけではないことである。

先に紹介した「推し活未来研究所」の記事では、この「考察の余白」に注目していた。

例えば徳島ヴォルティスとニョロボンなら、渦巻き模様と鳴門の渦潮を連想できる。

ギラヴァンツ北九州とキマワリなら、北九州市の市花であるひまわりとの関係を想像できる。

大分トリニータとカメックスなら、クラブマスコットのニータンとのつながりを考えたくなる。

一方で、

「どうして、うちはこのポケモンなんだろう?」

と簡単には分からない組み合わせもある。

その記事によれば、クラブと協議しながら決めつつも、組み合わせについてはいろいろな解釈で楽しんでほしいという意図があるという。(note(ノート))

これは面白い。

答えを全部教えない。

だからサポーターが考える。

「クラブカラーかな」

「地域の名物かな」

「名前が似ているから?」

「マスコットとの関係?」

そうやってポケモンについて話しているはずなのに、いつの間にか、

自分のクラブや地域について話している。

これも、新しい「推し」の効用なのかもしれない。

対戦相手は嫌いでも、相手のポケモンは嫌いではない

そして、ここからが私には特に面白い。

サッカーには対戦がある。

試合の日なら、

絶対に勝ちたい。

当然である。

相手クラブの選手に点を取られれば悔しい。

順位を争っている相手なら、なおさら負けたくない。

サッカーには、そういう敵味方の明確さがある。

ところがポケモンを一枚挟むと、少し違う関係が生まれる可能性がある。

例えばアウェイへ行く。

相手クラブの売店を見る。

そこに相手クラブのクラブパートナーポケモンがいる。

自分が昔から好きだったポケモンだった。

すると、

「敵だけど、このポケモンは欲しいな」

となっても不思議ではない。

さらに、

「このタオル、ちょっといいな」

「キーホルダーくらいなら買っちゃおうかな」

という人だっているかもしれない。

これはサッカーだけなら、あまり起きない行動かもしれない。

熱心なサポーターが、対戦相手の普通のクラブグッズをわざわざ買うケースは、それほど多くないだろう。

でも、

「相手クラブのグッズ」ではなく、「好きなポケモンのグッズ」

に見えた瞬間、境界が少し変わる。

しかも公式オンラインストアでは60クラブの商品を一つの場所で扱っている。自分のクラブ以外の商品を見ること自体が簡単である。(【公式】Jリーグオンラインストア)

ここは、かなり面白いと思う。

「敵」を消す必要はない

もちろん、

ポケモンを通じてクラブ同士が仲良くなりましょう。

という単純な話にしたいわけではない。

サッカーなのだから、試合では敵でいい。

むしろ、

試合では本気で敵。試合の外では相手の文化を楽しめる。

くらいがちょうどいいのではないだろうか。

これはアウェイ観戦とも似ている。

試合中は相手クラブに勝ちたい。

でも試合前には相手の町でご飯を食べる。

名物を買う。

スタジアムを楽しむ。

相手サポーターと話す。

帰りには、

「いい町だったな」

と思う。

勝敗と地域への好意は両立する。

ならば、

相手クラブへの対抗心と、相手クラブのポケモンへの好意

だって両立していい。

むしろ、この少し不思議な二重構造が、Jリーグとポケモンの組み合わせには合っているように思う。

ポケモンから「知らなかったクラブ」を知ることもある

さらに方向を逆にしてみる。

Jリーグファンではなく、ポケモンファンから見たらどうだろう。

好きなポケモンがいる。

今回の企画を見る。

そのポケモンが、知らないJ3クラブに割り当てられていた。

「このクラブ、どこにあるんだろう」

と検索する。

そこで初めて町の名前を知る。

スタジアムを知る。

クラブカラーを知る。

マスコットを知る。

試合日程を見る。

つまり、

ポケモン
→クラブ
→地域

という順番で知ることができる。

これは普通のJリーグの情報発信とは逆である。

普通なら、

地域に住んでいる
→地元クラブを知る
→選手を知る。

今回なら、

好きなポケモン
→そのポケモンがいるクラブ
→そのクラブがある町。

こんな入口ができる。

「推し」が一つ増えると、見る理由も一つ増える

私は最近、

サッカーが目的じゃなくてもいい。

ということを何度か書いている。

ポケモンが目的でもいい。

スタグルでもいい。

スタジアムでもいい。

好きな選手でもいい。

子どもが行きたがったからでもいい。

重要なのは、

スタジアムへ行く理由を、サッカーだけに限定しないこと

だと思う。

そして今回のクラブパートナーポケモンは、その「理由」を一つ増やした。

しかも、ただのキャラクターではない。

60クラブすべて違う。

だから、

「うちのポケモンを見たい」

だけでは終わらない。

「あっちのポケモンも見たい」

が起こり得る。

ここから、今回の企画はさらに面白くなる。

60種類あるのに、ランダムではない

今回のグッズ展開には、もう一つ特徴がある。

60種類あるが、「何が出るか分からない」というランダム方式ではない。

クラブとポケモンの組み合わせが最初から分かっている。

公式グッズも全60種として展開されている。(Jリーグ公式サイト)

だから、

このポケモンが欲しい。

と思ったら、そのポケモンがどのクラブにいるかを調べられる。

これが面白い。

60種類という多さが、

集めたい

につながる。

でもランダムではないから、

探したい

にもつながる。

そして「探す」と、

知らなかったクラブが目に入る。

知らなかった地域が目に入る。

これは、ポケモンというコンテンツがもともと持っている楽しさとも、かなり相性がいいように思う。

「うちのポケモン」から「ほかのポケモン」へ

最初は、

「うちのクラブは何だろう」

でいい。

そこで一匹覚える。

でも一覧を見れば、隣に別のクラブがある。

また違うポケモンがいる。

60匹いる。

北海道から沖縄まで散らばっている。

そうなると、

「あのポケモンはどこだろう」

が始まる。

私はポケモンに詳しくないからこそ、この構造が面白く見える。

サッカーだけなら、

「知らないJ3クラブを全部調べてみよう」

とは、なかなかならないかもしれない。

でも好きなポケモンが入口なら、

知らなかったクラブを知る理由が生まれる。

そして、そのクラブを知れば、その町も知る。

これは「推し」の交換なのかもしれない

今回のコラボレーションで起きていることを整理すると、面白い。

Jリーグ側から見ると、

クラブを知っている人
→ポケモンを知る。

ポケモン側から見ると、

ポケモンを知っている人
→クラブを知る。

さらに、

クラブが好き
→クラブパートナーポケモンも少し好きになる。

逆に、

ポケモンが好き
→そのポケモンのクラブが少し気になる。

つまり双方が、

自分の「推し」へ、相手側の世界をくっつけている。

これが今回のコラボレーションの強さなのかもしれない。

単に有名キャラクターを広告に使うのとは少し違う。

「好き」という感情を、別の世界へ渡す。

ポケモンへの好意をクラブへ。

クラブへの愛着をポケモンへ。

その橋を、60クラブそれぞれに作った。

そして、「うち」だけでは終わらない

ただ、ここまで考えると次の疑問が出てくる。

「うちのポケモン」が生まれると、当然ほかのクラブのポケモンも気になる。

60匹いる。

しかも、その60匹は全国60のクラブと地域に散らばっている。

好きなポケモンを探す。

そのクラブを知る。

グッズを見る。

場合によっては、

「ちょっと、そのスタジアムにも行ってみたい」

となるかもしれない。

これはどこか、ポケモンというゲームそのものに似ている。

出会う。

探す。

集める。

違う場所へ行く。

一方、Jリーグにも、

ホームで見る。

対戦相手を知る。

アウェイへ行く。

知らなかった町へ行く。

という文化がある。

この二つは、思っていた以上に似ているのではないだろうか。

次の記事では、少し視点を全国へ広げて、

ポケモンとJリーグの「移動する楽しさ」

について考えてみたい。

次回:Jリーグの60クラブは、全国に散らばった「ポケモン図鑑」になれるのだろうか


この問いを、もう少し考えてみたい方へ

ワールドカップをきっかけにサッカーを見る人が増えたとき、その人たちをすぐに「にわかファン」と呼んでしまってよいのだろうか。
この問いから、いくつかの記事を書いています。
「にわかファン」が増えることは、日本サッカーにとって本当に悪いことなのだろうか

まず、「にわか」という言葉そのものから考えました。
4年に一度しかサッカーを見ない人も、日本のサッカー文化をつくっているのだろうか

毎週見る人だけが、サッカーファンなのか。ワールドカップのときだけ見る人も、日本サッカーを支える「見る人」の一人ではないかと考えました。
そして、この問いはさらに大きなテーマにつながりました。
2050年、日本が「サッカー大国」になるとは、どういうことなのだろうか

日本代表がワールドカップで優勝することだけが、サッカー大国なのか。
プレーする人、見る人、話す人、教える人、支える人。
サッカーとのさまざまな接点が日常の中に広がっていることも、「サッカー大国」の一つの姿ではないかと考えています。
気になる問いがあれば、そこから続けて読んでいただければうれしいです。


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