ポケモン目当てで来た人を、ポケモンがいない次の試合へ呼べるのだろうか
拙著『サッカーを日本のナンバーワンスポーツに』から生まれた問い。
ここまで3回、ポケモンとJリーグについて考えてきた。
最初は、
サッカーが目的じゃなくてもいい。
ポケモンを見にJリーグへ行くことも、立派な入口ではないだろうか。
というところから始まった。
そして、60クラブに60匹の違うクラブパートナーポケモンがいることの意味を考えた。
「うちのクラブのポケモン」が、新しい「推し」になる可能性も考えた。
前回はさらに、
Jリーグの60クラブは、全国に散らばった「ポケモン図鑑」のようなものになれるのではないか。
というところまで広げた。
ポケモンをきっかけに、知らなかったクラブを知る。
知らなかった町を知る。
もしかしたら、その町へ行ってみる。
ここまでは、どちらかといえば、
「ポケモンの力」
について考えてきた。
でも、ここから先は違う。
ポケモンがスタジアムまで人を連れてきてくれた。
その人を、次の試合へ連れていくのは誰なのだろう。
ここからは、
Jリーグとクラブの仕事
になる。
ポケモンが目的だった人は、その日何を見るのだろう
想像してみる。
子どもがポケモンを見たいと言った。
親子でJリーグのスタジアムへ行った。
あるいは、『Pokémon GO』を楽しんでいる大人が興味を持った。
EVO BAGが欲しくて応募した人もいるかもしれない。
その人にとって、サッカーは最初の目的ではない。
でもスタジアムへ入れば、試合は目の前で行われる。
選手が走る。
ぶつかる。
シュートを打つ。
サポーターが歌う。
ゴールが決まる。
スタジアムが揺れる。
私は最近、
テレビでは伝わりにくいプロサッカー選手の速さや、ボールを蹴る音、ピッチレベルで感じる迫力
についても記事を書いた。
実際にスタジアムへ行かなければ分からないものは、かなり多い。
だから、ポケモンを目的に来た人の中から、
「サッカーって、思っていたより面白いな」
と思う人が出てくる可能性は十分にある。
問題は、そのあとである。
「楽しかった」で終わったら、次は来ないかもしれない
ポケモンを見た。
EVO BAGをもらった。
写真も撮った。
試合も面白かった。
帰り道で、
「今日は楽しかったね」
と話した。
大成功に見える。
でも、ファンを増やすという意味では、まだ途中なのではないだろうか。
翌週になれば日常へ戻る。
学校がある。
仕事がある。
ほかの予定がある。
次のホームゲームがいつなのか知らない。
対戦相手も知らない。
チケットの買い方も分からない。
そして何より、
次の試合にはポケモンがいないかもしれない。
最初にスタジアムへ連れてきてくれた理由がなくなる。
ここに、最初の大きな壁がある。
一回目と二回目は、まったく違う
一回目の来場には、外からのきっかけを作れる。
無料招待。
友人からの誘い。
学校で配られた案内。
人気選手。
花火。
イベント。
そしてポケモン。
しかし二回目は少し違う。
「もう一度行ってみようかな」
と本人が思わなければならない。
ここは非常に重要だと思う。
一回来てもらう施策と、二回来てもらう施策は、同じではない。
一回目には、
「ポケモンがいるよ」
でいい。
でも二回目には、
「またJリーグを見たい」
という理由が必要になる。
Jリーグはすでに「最初の一回」を大規模に作っている
これはJリーグ側もかなり意識している。
2026/27シーズンの開幕では、スタジアム観戦に興味はあるもののまだ来場経験のない人や、久しぶりに来場する人を対象として、全国で22万人規模の招待キャンペーンを実施している。(Jリーグ公式サイト)
さらに「ポケモンJリーグフェス」では、全国60クラブで企画を展開し、クラブパートナーポケモンをデザインしたEVO BAGを合計100万人へ配布する。グッズ、フォトスポット、『Pokémon GO』イベント、特別映像なども用意されている。(Jリーグ公式サイト)
つまり、
まずスタジアムへ来てもらう
ための入口は、かなり大きく作られている。
私はこの方向性はとてもいいと思う。
サッカーに興味を持ってから来てもらうのではない。
来てもらってから、サッカーに興味を持ってもらってもいい。
ただし、そう考えるほど重要になるのが、
その次
なのである。
ポケモンからサッカーへ、何を渡せばいいのだろう
最初の来場を分解すると、こんな流れになる。
ポケモンに興味を持つ
↓
スタジアムへ行く
↓
サッカーを見る
↓
楽しかった
↓
次の試合を知る
↓
もう一度行く
↓
今度は自分でチケットを買う
最初の二つは、今回の企画がかなり強い。
問題は、
「楽しかった」から「次の試合を知る」へどう渡すか
である。
ここが切れてしまえば、
「夏休みにポケモンのイベントへ行った」
という思い出で終わる。
それはそれで価値がある。
でもJリーグ側から見れば、せっかく作った巨大な接点を十分に生かしたとは言いにくい。
帰る前に、「次」を見せられないだろうか
では、どうすればいいのだろう。
私は、難しい仕組みから考えなくてもいいと思う。
例えば試合が終わったときに、
「次のホームゲームは○月○日です」
が強く見えるだけでも違う。
スタジアムの大型ビジョン。
場内アナウンス。
出口。
EVO BAGに同封する案内。
公式LINE。
チケット購入後のメール。
アプリ。
方法はいくらでもある。
重要なのは、
今日来てくれた人を「今日の観客」として終わらせず、次の試合の候補者として扱うこと
ではないだろうか。
特に初めて来た人は、常連とは違う。
常連なら次の日程を知っている。
年間の日程表も見る。
対戦相手も分かる。
初心者はそうではない。
だから、
「次はいつですか」
を、こちらから見せる必要がある。
「次もポケモン」ではなくてもいい
ここで少し難しい問題がある。
次の試合にもポケモン企画を用意すればいいのか。
私は、必ずしもそうではないと思う。
それでは、
ポケモン
→ポケモン
→ポケモン
になってしまう。
必要なのは、
ポケモン
→Jリーグの中に別の楽しみを一つ見つける
ことではないだろうか。
例えば、
好きな選手ができた。
応援が面白かった。
ゴール裏が気になった。
スタグルがおいしかった。
スタジアムが気持ちよかった。
子どもがまた行きたいと言った。
マスコットを好きになった。
家から意外に近かった。
どれでもいい。
一回目の入口はポケモン。
二回目の理由は、別のものになっていい。
むしろ、それが理想なのかもしれない。
最初から「サポーター」にしなくてもいい
ここで、つい欲張りたくなる。
初めて来た人に、
「どの選手が好きですか」
「ユニフォームを買いませんか」
「ファンクラブに入りませんか」
と次々に求めたくなる。
でも、そこまで急がなくてもいいのではないだろうか。
以前の記事でも書いたが、
最初からクラブを応援することまで求めなくていい。
サッカーを見る。
また来る。
年に数回見る。
そのうち選手の名前を覚える。
順位が気になる。
気づいたらクラブを応援している。
そんな順番でもいい。
一回目から「サポーター」に変えようとするのではなく、
一回目を二回目にする。
まずはそこだけ考える。
このくらいの方が現実的な気がする。
「何日以内」が気になった理由
私は少し前に、
サッカーに興味を持った人は、何日以内に次の試合を見ればファンになりやすいのだろうか
という記事を書いた。
興味を持った瞬間には熱がある。
でも時間がたてば、その熱は薄れていく。
だから私は、
最も重要なのは、興味を持った瞬間から次の体験までの時間ではないか
と考えた。
ただし、調べた範囲では、
「初観戦から○日以内ならファンになる」
というサッカー観戦にそのまま使える決定的な数字があるわけではなかった。
それでも、最初の体験の記憶が新しいうちに次の行動を提示することには意味がある。
今回のポケモン企画は、その仮説を考えるうえで非常に分かりやすい。
ポケモンを見に来た人の気持ちが最も高まっているのは、
スタジアムにいる、その日
だからである。
「2回目専用チケット」があっても面白い
例えば、今回初めて来た人に、
次回ホームゲーム限定の優待
を出したらどうだろう。
何度も来ている人ではなく、
「今日初めて来た人」
にだけ次の入口を用意する。
あるいは親子なら、
「次はサッカーを見に来てね」
という形で子ども向けの小さな特典を付けてもいい。
重要なのは値引きそのものではない。
次に来る理由を、その場で一つ作る
ことである。
無料招待から、いきなり通常価格へ移ることが心理的な壁になるなら、
無料
→2回目優待
→通常購入
という段階があってもいい。
逆に、十分に満足度が高いなら割引など不要かもしれない。
ここはクラブごとに検証できる。
初回来場者だけを追えないだろうか
さらに重要なのは測定だと思う。
ポケモン企画の日に何人来たか。
EVO BAGを何個配ったか。
グッズがいくつ売れたか。
もちろん重要である。
でも、本当に知りたい数字は、
その人たちのうち、何人がもう一度来たのか
ではないだろうか。
初回来場。
2回目。
3回目。
有料購入。
ファンクラブ。
年間数回来場。
この変化が分かれば、
ポケモンが何人を集めたか
ではなく、
ポケモンを入口として何人がJリーグとの関係を続けたか
を評価できる。
22万人の招待も同じである。
22万人を招待したこと自体より、
そのうち何人が次に自分のお金で来たのか。
そこまで分かれば、招待施策の意味はずっと明確になる。
ポケモンの役割と、Jリーグの役割を分ける
今回の連作を書いていて、ここが一番大事なのではないかと思い始めた。
ポケモンに、
Jリーグファンを作ってもらう
必要はない。
そこまで求めるのは違う。
ポケモンの力は、
今までJリーグと接点がなかった人に、スタジアムへ来る理由を作ること
で十分なのではないだろうか。
その先はJリーグの仕事である。
スタジアムが楽しい。
試合が面白い。
選手が魅力的。
食事がおいしい。
安全に帰れる。
また来たい。
次の試合が分かる。
チケットが簡単に買える。
それらを整える。
つまり、
入口を作るのはポケモンでもいい。
でも、出口の先に次の入口を作るのはJリーグである。
この役割分担が大切なのだと思う。
コラボの成功は、イベント終了後に分かる
ポケモンが来た。
観客が増えた。
グッズが売れた。
SNSで話題になった。
それだけでもイベントとしては成功だと思う。
しかし、Jリーグのファンを増やす施策として考えるなら、評価は少し先になる。
ポケモンがいない試合に、
もう一度来てくれたか。
そこで初めて、
ポケモンが「イベント」から「入口」へ変わった
と言えるのではないだろうか。
そして今回、Jリーグは非常に大きな入口を作った。
全国60クラブ。
22万人規模の招待。
そして、ポケモンJリーグフェスでは合計100万人へのEVO BAG。(Jリーグ公式サイト)
では、この100万人という数字をどう考えればいいのだろう。
100万人へ無料で物を配る。
これは、
単なるプレゼントなのだろうか。
それとも、
100万人との新しい接点を作る投資なのだろうか。
次の記事では、少し経済的な視点から考えてみたい。
次回:100万人に配るEVO BAGは、「無料配布」なのか「100万人との接点」なのだろうか
この問いを、もう少し考えてみたい方へ
ワールドカップをきっかけにサッカーを見る人が増えたとき、その人たちをすぐに「にわかファン」と呼んでしまってよいのだろうか。
この問いから、いくつかの記事を書いています。
「にわかファン」が増えることは、日本サッカーにとって本当に悪いことなのだろうか
まず、「にわか」という言葉そのものから考えました。
4年に一度しかサッカーを見ない人も、日本のサッカー文化をつくっているのだろうか
毎週見る人だけが、サッカーファンなのか。ワールドカップのときだけ見る人も、日本サッカーを支える「見る人」の一人ではないかと考えました。
そして、この問いはさらに大きなテーマにつながりました。
2050年、日本が「サッカー大国」になるとは、どういうことなのだろうか
日本代表がワールドカップで優勝することだけが、サッカー大国なのか。
プレーする人、見る人、話す人、教える人、支える人。
サッカーとのさまざまな接点が日常の中に広がっていることも、「サッカー大国」の一つの姿ではないかと考えています。
気になる問いがあれば、そこから続けて読んでいただければうれしいです。
日本サッカーについて、こんな本を書いています
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選手ではなく観戦者・保護者・地域利用者の側から、椅子、屋根、トイレなど日本のスポーツ施設を問い直します。
『サッカーを日本のナンバーワンスポーツに:子どもの競技選択から2046年ワールドカップ優勝まで』
世界一になれるかもしれない子どもに、どうすればサッカーを選んでもらえるのか――競技選択から日本サッカーの未来を考えます。
『サッカー地方創生:クラブが地域を救うのではない――「主語は地域」から考える共創と実行の仕組み』
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蒼色真琴
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