ブームは起こすものではなく、起きたあとを設計するものではないだろうか
拙著『サッカーを日本のナンバーワンスポーツに』から生まれた問い。
ここ最近、サッカーブームについて続けて考えてきた。
最初のきっかけは、
またサッカーブームは起こせるのだろうか。
という問いだった。
日本ではこれまでにも、何度もサッカーが大きく盛り上がった。
1993年のJリーグ開幕。
1998年のワールドカップ初出場。
2002年の日韓ワールドカップ。
2011年のなでしこジャパン世界一。
そしてワールドカップで日本代表が強豪国を破ったとき。
そのたびに、
普段はサッカーを見ない人がテレビを見る。
選手の名前を覚える。
子どもがユニフォームを欲しがる。
公園でゴールシーンをまねする。
「サッカーって面白いね」
という会話が、日本中で増える。
だから最初は、
どうすれば、もう一度大きなサッカーブームを起こせるのだろう。
と考えていた。
しかし、何本か記事を書いていくうちに、少し違う問いが見えてきた。
もしかすると、
大切なのは、ブームを起こすことそのものではないのではないか。
ブームは、何かのきっかけで起こる。
日本代表が勝つ。
スター選手が現れる。
ワールドカップが開催される。
そうした出来事を完全に計画することはできない。
でも、
ブームが起きたあとに、何をするか。
こちらは、ある程度準備できる。
今回の連作を書いていて、そこが一番大きな発見だった。
第0回 またサッカーブームは起こせるのだろうか
連作の入口になったのが、この問いだった。
日本にもう一度、1993年や2002年のような熱狂が起きる可能性はあるのか。
私は、十分にあり得ると思っている。
日本代表がワールドカップでこれまで以上の成績を残すかもしれない。
世界的なスーパースターが日本から生まれるかもしれない。
女子サッカーや若い世代から、新しい象徴的な選手が現れるかもしれない。
しかし、この段階ではまだ、
「どうやってブームを起こすか」
を中心に考えていた。
今回の連作は、そこから一歩先へ進んだ。
第1回 サッカーブームは、なぜ必ず冷めるのだろうか
最初に考えたのは、少し逆の問いだった。
そもそも、なぜブームは冷めるのか。
1993年のJリーグブームも、開幕当初の熱狂がそのまま続いたわけではない。
2002年の日韓ワールドカップも、大会が終われば日本中が毎日サッカーの話をする状態ではなくなった。
2011年のなでしこジャパンの世界一も同じだった。
でも、考えてみれば当然でもある。
ブームとは、
普段は見ない人まで見る。
普段は話さない人まで話す。
という、日常から突出した状態である。
それが永遠に続けば、もうブームではない。
ここで考え方が少し変わった。
ブームが冷めること自体を、失敗と考える必要はないのではないか。
重要なのは、
冷めるまでの間に何が残ったか。
だった。
第2回 1993年のJリーグブームは、何を日本に残したのだろうか
そこで、最も分かりやすい例として1993年を振り返った。
Jリーグ開幕当時の熱狂は、とても大きかった。
スター選手。
満員のスタジアム。
テレビ中継。
グッズ。
カズダンス。
しかし30年以上たった現在、残っているのは当時の熱狂そのものではない。
全国に広がったプロクラブ。
スタジアムへ通う習慣。
地域クラブという考え方。
プロサッカー選手を目指せる環境。
アカデミー。
指導者。
サポーター。
スポンサー。
そして、
「サッカー選手になりたい」と子どもが普通に言える社会。
こうして考えると、
1993年のブームは消えたのではなく、
一部が日本のサッカー文化へ変わった。
のではないかと思えてきた。
ブームをそのまま保存することはできない。
でも、ブームから生まれた仕組みは保存できる。
これは今回の連作で、かなり重要な気づきだった。
第3回 ワールドカップで増えた「見る人」を、どうすれば日常のサッカーへつなげられるのだろうか
ここで、過去から現在へ視点を移した。
ワールドカップが始まれば、日本代表を見る人は一気に増える。
これは日本サッカーにとって、とても大きな機会である。
なぜなら、日本サッカー側が一人ずつ興味を持ってもらわなくても、
何百万人もの人が同時にサッカーへ関心を向ける
からである。
ただし問題がある。
ワールドカップが終わったあと、
その人たちは、次にどこへ行けばいいのだろう。
Jリーグを見る。
地域クラブへ行く。
子どもがサッカーを体験する。
女子サッカーを見る。
フットサルをする。
いろいろな道がある。
でも、普段サッカーを見ない人には、その道が見えないこともある。
興味は生まれた。
でも次の一歩が分からない。
そのまま数週間たてば、熱は下がってしまう。
だから必要なのは、
もっと大きなブームではなく、ブームから降りる階段をたくさんつくること。
なのではないかと考えた。
2026/27シーズンのJリーグでは、秋春制初年度とワールドカップ後という条件も重なり、開幕から非常に大きな集客が生まれた。
ポケモンやピカチュウとのコラボなど、サッカー以外の入口からスタジアムへ来てもらう施策も進んでいる。
つまり、
対策はすでに始まっていて、「一度来てもらう」という段階では結果も出始めている。
これから問われるのは、その次である。
一度来た人が、もう一度来るか。
ここで、
接触 → 体験
という流れが見えてきた。
第4回 スターへの憧れは、どの瞬間に「自分もやってみたい」へ変わるのだろうか
次に考えたのは、子どもだった。
スター選手を見る。
「すごい」
「かっこいい」
と思う。
しかし、
「すごい」と思うことと、自分でボールを蹴ることは同じではない。
では、どこで変わるのか。
調べながら考えていくと、
スターだけでは足りないことが見えてきた。
スターは、
「こんな世界がある」
と見せることができる。
でも、その後には、
ボールがある。
公園がある。
友だちがいる。
親が「やってみる?」と言う。
近所に体験できるクラブがある。
初心者でも入れる。
そうした日常側の入口が必要になる。
だから、
スターが火をつけ、身近な人と環境が最初の一歩をつくる。
という構造なのかもしれない。
ここで、
体験 → 習慣
への橋が見えてきた。
一度ボールを蹴る。
楽しい。
もう一度やる。
毎週やる。
気がつけば、その子の日常にサッカーがある。
スターへの憧れが文化へ向かうには、この小さな繰り返しが必要だった。
第5回 次のサッカーブームを、20年後まで残すには何が必要なのだろうか
そして最後に、時間を20年まで伸ばしてみた。
2026年に6歳の子どもは、2046年には26歳になる。
ワールドカップを見て、
ボールを蹴り始めた子どもが、
20年後に日本代表になっているかもしれない。
でも、残るものは選手だけではない。
初めてJリーグを見た人が、20年後もクラブを応援しているかもしれない。
子どもをスタジアムへ連れていくかもしれない。
指導者になっているかもしれない。
スポンサー企業で働いているかもしれない。
数年間サッカーから離れたあと、また戻ってくるかもしれない。
ここで分かったのは、
ブームを20年間続ける必要はない。
ということだった。
むしろ、
ブームから生まれたものを、次の世代へ少しずつ渡せばいい。
ブームが起きる。
見る人が増える。
一部がスタジアムへ行く。
一部がボールを蹴る。
その中の一部が続ける。
やがて、それが日常になる。
そして次の世代へ渡る。
ここまで来れば、
習慣 → 文化
へ変わっている。
5本を書いて、一つの流れが見えてきた
最初から、この形を考えていたわけではなかった。
一つの問いについて書く。
すると、次の問いが生まれる。
それをまた考える。
5本書いて振り返ったとき、一つの流れとして見えてきた。
ブーム
↓
接触
↓
体験
↓
習慣
↓
文化
である。
例えばワールドカップなら、
日本代表が活躍する。
それがブームになる。
普段見ない人までサッカーを見る。
これが接触である。
そのうちの一部がJリーグへ行く。
子どもがボールを蹴る。
これが体験になる。
楽しかったから、また行く。
また蹴る。
毎週見る。
これが習慣になる。
そして何年もたち、
サッカーが生活の中にある。
子どもへ渡す。
地域にクラブがあることが当たり前になる。
これが文化なのではないだろうか。
問題は、それぞれの間に「橋」があるかどうか
この流れを書いてみると、もう一つ見える。
自然に全部つながるわけではない。
ブームから接触へ。
テレビやネットで見られる必要がある。
接触から体験へ。
初観戦や体験会への入口が必要になる。
体験から習慣へ。
もう一度行きたくなる観戦体験。
またボールを蹴りたくなる環境。
費用や送迎など、続けられる条件が必要になる。
習慣から文化へ。
何年離れても戻れる。
親から子へ渡せる。
地域にクラブが残る。
記憶が積み重なる。
つまり、
各段階の間には橋が必要なのである。
ブーム自体は、とても大きな力を持っている。
でも、橋がなければ、その力はそこで途切れる。
だから「ブームを起こす」だけでは足りない
スポーツでは、
人気を上げたい。
ブームを起こしたい。
スターをつくりたい。
という話がよく出る。
もちろん、それも重要である。
しかし今回の連作を書いて、私は少し考え方が変わった。
ブームは、入口でしかない。
ブームの規模だけを競っても仕方がない。
1000万人が見ても、そのあと誰も残らなければ、大きな波が一度来ただけで終わる。
逆に1000万人のうち、
10万人がもう一度見る。
1万人がスタジアムへ行く。
1000人がサッカーを始める。
その中から100人が長く関わる。
そうやって残ったものが、次の20年をつくる。
だから本当に設計すべきなのは、
熱狂そのものではなく、熱狂の出口
なのではないか。
「ブームが終わった」と言うのは、少し早いのかもしれない
1993年のJリーグブームは終わった。
そう言われる。
確かに、当時と同じ熱狂は残っていない。
でも2026年になってもJリーグはある。
全国にクラブがある。
日本代表はワールドカップへ出場している。
海外で多くの日本人選手がプレーしている。
週末には子どもたちがボールを蹴っている。
40代、50代になった人がスタジアムへ行っている。
そう考えると、
1993年のブームは、本当に終わったのだろうか。
そのときの形では残っていない。
でも、姿を変えて今も続いている。
だとすれば、
ブームが文化へ変わるとは、ブームを保存することではなく、形を変えながら次へ渡すこと
なのかもしれない。
次のブームで準備しておきたいこと
次に日本中がサッカーで盛り上がる瞬間が来たとき、
私は「このブームを絶対に終わらせてはいけない」と考える必要はないと思う。
むしろ、
今、初めて見た人は次にどこへ行けばいいだろう。
「やってみたい」と思った子どもは、明日どこでボールを蹴れるだろう。
初めてスタジアムへ来た人が、次に来る理由はあるだろうか。
数年間離れた人が、また戻れるだろうか。
今日の記憶を、20年後の子どもへ渡せるだろうか。
と考える。
その方が大切なのではないだろうか。
ナンバーワンスポーツとは、ブームを次の世代へ渡せるスポーツなのかもしれない
『サッカーを日本のナンバーワンスポーツに』を書いたとき、私は単純に人気ランキングで一位になることを考えていたわけではなかった。
身体能力の高い子どもが、
「何をやろうかな」
と考えたとき、
自然にサッカーが選択肢に入る。
スター選手がいる。
見られる。
まねできる。
始められる。
続けられる。
そして、その中から次のスターが出てくる。
今回の連作を書いたことで、その循環の途中に、
「熱を残す仕組み」
が必要だと気づいた。
だから今なら、
ナンバーワンスポーツについて、こんな言い方もできる。
ナンバーワンスポーツとは、最も大きなブームを起こすスポーツではない。
ブームで生まれた熱を、次の世代へ渡し続けられるスポーツなのかもしれない。
ブームは冷める。
それでいい。
でも、
一部が次へ進む。
その一部が残る。
残った人が次の人を連れてくる。
そして次のブームが来たとき、前回より少し高い場所から始まる。
その繰り返しが、
ブーム → 接触 → 体験 → 習慣 → 文化
なのだと思う。
だから、次のサッカーブームが来たときに考えたい。
どうすれば、この熱狂を続けられるだろう。
ではなく、
この熱狂のあとに、何を残そう。
と。
もしかすると、
ブームは起こすものではなく、起きたあとを設計するものなのかもしれない。
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蒼色真琴
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