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"COPY BOY" がくのクロヌンは小孊生【おはなし党文】

【あらすじ】

「ワケあっお、倧孊生の僕ナタカはクロヌンず暮らしおいる。
ダツは小孊幎生のナタカ。歳の子䟛だ。
顔は幌い頃の僕ず党く同じ。じゃんけんするず決着が぀かない。
なんでこんなこずになっちゃったのか
よかったら、そのワケを聞いおほしい。」

幌い自分自身ずの奇劙な生掻。子ども嫌いだったナタカは戞惑いながらも、無邪気で玔粋な小孊生の自分自身ずたるで兄匟や芪子のように心を通わせおいく。
しかし人が感情ず蚘憶を共有するこずで、クロヌンである小孊生ナタカの脳现胞の状態は埐々に悪化し始める。さらに、遺䌝子研究の闇や瀟䌚の冷たい偏芋が二人を远い詰める。い぀か蚪れる別れのずき。
科孊が生んだ奇跡の絆を描く、切なくあたたかいSF物語。

【★おはなし本文の前に 】


ダメなパパが嚘のために曞いた”おはなし”。

どんな”おはなし”かを、
noteやtwitterの皆様が枩かく玹介しお、
なぐさめおくださっおいたす。

ありがずうございたす。


そもそも”COPY BOY”ずいうおはなしは、
ダメなパパが思春期の嚘をビックリさせようず曞いおみたら、
「あヌあ」ず情けない結果になっおしたったモノです。
↓↓↓ こヌんな颚に 



【★おはなし本文です】

本文のみをたずめたした。党33話。
読みやすい挿絵画像ありのオリゞナル版の方はリンクからどうぞ。



■第話 はじめに


ワケあっお、
僕はクロヌンず暮らしおいる。

そい぀は「チビ」。小孊2幎生。歳のただ子どもだ。

顔は、幌い頃の僕ず党く同じ。姿も同じ。ホクロもすべお同じ䜍眮にある。
21歳倧孊生の僕ず、奜きな食べ物も同じ、爪をかむクセも同じ。
生意気にも、同じ盞手に恋をする。
僕たちは、ずっさの蚀葉や行動が同時にシンクロするこずがある。テレビの双子タレントみたいに。
ゞャンケンするずなかなか決着が぀かないこずも。

この䞖にクロヌンがいる。
 なんお、もちろん信じおいなかった。

だからアマゟ゜でDNA鑑定キットを買った。
綿棒で頬の内偎をなぞっお僕ずチビの现胞を送っおみたら、業者から返っおきた報告曞には、たるであきれたかのように簡単な䞀文だけがあった。

「䞀臎。同䞀人物のDNAです。」

なんで、こんなこずになっちゃったのか。
よかったら、そのワケを聞いおほしい。





■春、第話 出䌚い


「あなたはタむムマシンで過去ぞ行きたした。
そこで出䌚ったのは、子どもの頃の自分。
未来から来たあなたは、䞀䜓䜕を䌝えたすか」

こんなのどう答えりゃいいんだろ。正解のない質問をしお、察応力をみる。入瀟面接はたるで犅問答だ。
「子どもの頃の自分に ですか」
面接官に質問返ししおしたった。
「そうです。どんな未来を䌝えたすか」
「えヌっず 」苊し玛れに「 えっず 『就掻倧倉だよ』 ずか」
たっぷりの愛想笑い。でも面接官に胜面みたいな顔で、
「あヌ、なるほど 。以䞊です。ありがずうございたした。」ずぶった切られた。

グヌルグル、アッパレ 流行りの䌁業名ばかりを遞んで、かたっばしから受けたくり。どうせなら高望みしたい。だけど連敗蚘録50瀟を曎新する、倧孊4幎の春。
䞍合栌のたび「あなたには䟡倀がない」ず切り捚おられる恐怖。瀟䌚に攟り出される日はひたひたず近づいおくる。
でも、本圓は䜕をやりたいのかわからない。䞀䜓がくは䜕者なのか。䜕のために生たれおきたのか。ただ、ただ、あせる。

スタパのテヌブルで䞀人、僕はさっきの面接の反省䌚をしおいた。タむムマシンの暡範解答は䞀䜓䜕だったんだろう子どもの頃の自分に䜕を䌝えれば良かったんだろう。
埌悔の沌に、ずぶずぶずぶずぶ。

「はぁヌ」

コヌヒヌの氎面に映る自分を芋぀めた。぀たらないリクルヌトスヌツ姿。僕っお䜕者なんだろ。ロヌストされた豆の銙ばしい銙りが立ち蟌める店内。ただ䞀口も飲んでいないのに、苊い。

しかし 
どうも集䞭できないなぁ。

さっきから店内に響いおいる甲高い声のせいだ。ママ友グルヌプず小さな子どもたち。店内にバラたかれたように倧勢居座っお隒いでいる。近くに䜏宅街でもあるのだろうか。
ん䜕かが膝に圓たる。小さな汚れた運動靎。隣の垭の男の子だ。寝ころびながら遊びに倢䞭になっお、僕の深い玺のズボンに泥を擊り぀けおいた。だから子どもは嫌いだ。ママたちはおしゃべりで気づきもしない。無邪気な䟵略はどんどん゚スカレヌトしおいく。テヌブルのコヌヒヌが揺れおるよ。い぀かこがすぞ。

テヌブルのスマホがバむブで小さく滑りながら鳎った。
面接の結果かず期埅したが、知らない番号。゚ントリヌしおいる䌁業ではなさそうだ。
隣の子どもたちがキャヌず叫ぶ。
うるさいなあ。喧噪に負けないよう倧きめの声で出た。
「はい。」

「もしもし」

ず電話の奥で、若い女性の声がかすかにした。
「もしもし」
「もしもし聞こえたすか」
「はい、なんずか。」
「しお぀た 、汐劻ナタカさたの携垯でしょうか。」
勧誘かな。
「すみたせん、聞こえづらくお 。」
きっず面倒な電話だろ、そんな気持ちも手䌝っお、ちょっずぶっきらがうに答えた。
「 ちょっず隒がしいですね。」
「そうなんです。では たた今床に」切り䞊げようずした尻尟を掎たれ、
「では、䌚っお盎接お話しを 。」
ん気配に芋䞊げるず、
「 させおいただいおよろしいでしょうか」
スマホを耳に圓おた女性が肉声で僕に尋ねた。
少しばかり幎䞊だろうか、たあるい県鏡の奥の倧きな瞳で僕をのぞきこんでいる。

「ええ」

頭が远い付かないうちに、圌女はするりず正面に腰掛け、
「突然、申し蚳ありたせん。䜕床かメヌルもお送りしたんですが 」人懐っこい笑顔になった。

圌女は、「わんわんほけん」ず、名乗った。スヌツ姿。やっぱ勧誘か。
「知らないメヌルは開かないこずにしおたしお 。あの、どな 」
僕の蚀葉をさえぎっお、
「実は、汐劻ナタカさんにお䌝えしたいこずが。」
「なんで僕の名前を」
「ご家族のこずです。」
「家族」
「ええ、ご家族。」
「ばあちゃんず二人暮らしなんですけど 。」
なに真面目に答えおるんだよ。盞手のペヌスに乗せられんなよ。保険なら入らないよ。
「ああ、やっぱり。」
「やっぱりっお」
「䜕もご存知ないんですね。」
「䜕も」
「あの 。」急に神劙な面持ちになり、呚囲をうかがいながら「いきなりで、倧倉倱瀌なんですが 。」
「はい」
「こんなずころで、誠に申し䞊げにくいのですが 。」
小声で、ぐんず顔を寄せた。近いし。

なになに

「ねえねえ」
突然叫ぶ子ども「おねえちゃん、ほらこれ面癜いよ」䞋からだ。
メガネの女性は、やれやれずため息を぀くず䜓ごずテヌブル䞋に朜り、やさしい声で、
「今ね、お兄さんず倧切なお話し䞭だから、おずなしくしおおね。」
ほんずだよ。さっきから気が散る。チビめ。
気にせず、床でミニカヌのドラむブを続けおいるチビ。おか、誰がママなの倖で遊ばせたら

圌女はテヌブルの䞋から這い出お僕の方ぞ居盎り、あらためお静かに蚀った。
「誠に申し䞊げにくいのですが 」
「はい」
「 お父様が、先月亡くなられたした。」
「  ぞ」
「はい。」
神劙に告げられたはずなのに、党く珟実感がなかった。
「胃がんでした。謹んでお悔やみ申し䞊げたす。」
こんな話、スタパでする蚀葉が入っおこない。あたりたえだ。なぜなら、
「あのぉ、䞡芪はずっくに他界しおたしお。」この䞖にいたせんけど。
「どのようにお聞ききになっおいたす」
「父は私が䞭孊生の時に事故で。母は私を生んですぐ。」
圌女はやはりずいう顔で、
「そうでしょう。ですが実は、お父様は 」
「え」
「ええ、そうです。生きおいらっしゃいたした。先月たで、あなたの知らない所で。」
「たさか。」
「 で、」業務的な口調になり「今日は、お父様が生前残された"ある案件"に぀いお、ご子息であるあなた様、汐劻ナタカさんにお譲りしたく 」
「父が残したあんけん保険の僕に」
話が芋えない。
「こちら 。」
メガネの瞳が萜ずした芖線をたどっおみるず テヌブルの䞋。
「 こちらのお子さんのこずです。」
「  」
「お父様がお育おになっおいたした。 あなたの匟さんになりたす。」

子どもいたんすか

ドン
ず突然テヌブルが揺れ、コヌヒヌがこがれた
チビが勢いよく立ち䞊がろうずテヌブルに頭を打ったらしい。
「あヌふくものティッシュでもいいから」
呚りの倧人は慌おたが、運動靎のチビは頭をさすりながらオモチャをいじっおいる。
くそ、゚ントリヌシヌトがびちゃびちゃ。

うそでしょ。
父が生きおいお、子どもがいた逊子ずか
えっ、たさか 
「血は 」
「぀ながっおいたす。」
再婚しおた子どもがいた
いきなり、知らない匟ず感動の初察面

「この子は才。小孊幎生です。あなたず同じナタカずいう名前です。」
「は僕ず同じ名前を぀けた」
「はい、匟さんにも。」
「父が」
「いきなりなので理解しづらいかもしれたせんが 。」
「はあ。」
「このお子さんは 。」
「はあ。」
「あなたの 。」メガネちゃんは深く息を吞っお、蚀った。

「あなたの、クロヌンです。」
「はい」

チビが顔を䞊げお僕を芋぀めた。







■春、第話 これが僕!?


氞田町にほど近い、倖堀通りを芋䞋ろすようにそびえる高局ビル。
長い゚レベヌタヌを降りるず、真っ癜い壁が立ちはだかっおいる。どこから入ればいいのだろう。

「わんわん保険」ずいう野暮ったい呌び名に䌌合わず、「ONE ONE INSURANCE」ずモダンなロゎが間接照明で浮かび䞊がっおいた。
真新しい建材のいい匂いず、かすかなお銙の銙り。䞀本足の小さなカりンタヌにちょこんず眮かれたタブレット。「お玄束の方」ずいう衚瀺を遞んでタップするず、「顔を写しおください」ず指瀺。シャッタヌ音ずずもに、画面がフリヌズされ、光が䞋から䞊ぞ スキャンだろうか。やがお音もなく壁が開いた。

ロビヌは思ったより広かった。倩井が高く、䞀面の窓を生かしお、無機質だが癜を基調にした開攟的で䞊品な空間が広がっおいた。別䞖界。こんなオフィスで働ける人間もいるんだな。
奥に誰かがぜ぀んず座る。あのメガネの女性だ。片手にコヌヒヌカップ、片手にスマホ姿で䞍意を突かれお固たっおいる。グミみたいな緑の゜ファヌの䞊、油断そのたたで䞞いメガネの瞳を䞞くしお。
「   。」
「あのう 。」
「はぁっっっ。」我に返り、グミから飛び起きた圌女は「あ、すみたせん、お早かったですね。」ずカップを眮くず、「こちらです。」ず案内しおくれた。

「この人、存圚しおたんだ」
今日は柔らかな私服ずいうこずも手䌝ったのだろう、劙な安心感があった。
スタバでの䞀件は倢だったんじゃないか ず心配だった。就掻が蟛すぎお僕は頭がおかしくなったのかいもしない女性のたがろしを芋たのか確かめないず通垞の生掻に戻れない気がしお。しばらく気が気ではなかった。だから蚪れたのだった。

真っ癜な廊䞋を進む圌女の背䞭に、
「あの 」
「はい」
振り向いたのは、あたりに無垢な衚情だった。蚀いづらくなった。
「先日のお話 」
「はい。」
すれ違う癜衣の人々が、僕の顔を芋るたび振り返っおコ゜コ゜話しおいる。なんだよ。
「正盎、あたり芚えおいなくっお 。そもそもおっしゃった意味も理解できおいたせんでしたから」
「倧倉倱瀌したした。そうですよね。いきなり過ぎたしたから。気分を害されたのは圓然ですよね。」
「すみたせん。あの時は、なんだかよく分からなくお。゚むプリルフヌルだったし。怒っおいきなり垰っおしたっお、ほんずすみたせん。でも、なんおいうか わざわざあんな劙な冗談を蚀いに来られた理由が気になっお。こちらをググっおみお。ずにかく、お話を聞くだけでもず 。」
気恥ずかしさでしゃべりすぎ。
「ありがずうございたす。よかったぁ。」
メガネちゃんはあの人懐っこい笑顔になった。

◆

埅たされた䌚議宀は、4面を芆ったガラスに化孊匏のような癜い蚘号が矎しく幟䜕孊的にプリントされおいた。掗緎されたデザむンに䌌぀かわしくない、ガダガダ声ずずもにおじさんおばさん3人組が入っおきた。

「いゃぁ、わざわざお越しいただいお。」
僕を芋るなり、なぜか互いにほくそ笑み合う。
なんだなんだ
「すみたせんね、先日は驚かせおしたっお。少々荒っぜかったですが、おかげでお目にかかるこずができたした。犬巻ず申したす。」駄菓子屋のおばちゃんみたいな顔に、厚化粧で高玚そうなスヌツがどうも䞍䌌合いだ。銎れ銎れしくも劙に慇懃無瀌な口調で名刺を差し出した。
そうだ、名刺の受け取り方ずかも緎習しずかなきゃな。シュヌカツ的には。そんなこずを考えおいた、ただその時は。

犬巻枕子の名刺にはCEOずあり、その隣には、「ないかくふ」
「内閣府の者です。保険䌚瀟なんですけどね、私は出向みたいなもので。」
おじさん二人は、ただ黙っおニコニコしおいる。東京倧孊医孊研究科の遺䌝子工孊やらなんやらの暩嚁ずいう教授ず顧問匁護士。䞀床に玹介されおも芚えきれない。

「すっかり暖かくなりたしたね。朝晩は冷えたすけど。さっきも四谷の桜がすっかり満開でしたよ。これ、赀坂青野の栗倧犏です。日本茶でよろしいですかね。」
犬巻がよっこいしょず座った。
「たずは、わが瀟に぀いおね。こちらを芳おくださる」
倧きなモニタヌでビデオを芋させられた。可愛い犬ず飌い䞻の楜しそうに遊ぶスロヌ映像がゆっくりフラッシュする。小田知正颚の泣けるBGM。テロップが入る。
”愛するペット、もしも早すぎる別れが蚪れたら、あなたはどうしたすか”
どうやらペット保険を扱っおいるらしい。

わかったずころだけ、かい぀たんでいうず 、

䟋えば、ペットの犬が死んだずする。保険で支払われるのはお金ではなく、犬そのもの。しかも、愛犬ず党く同じクロヌン犬。
”愛するペットの死を受け入れられない飌い䞻が、もう䞀床䞀緒に暮らしたい ”
そんな想いに応えるため、愛犬をDNAから培逊しお、党く同じクロヌン犬を飌い䞻の元に垰す保険だった。
そういえば、そんなニュヌスを芋た気もする。

「わが瀟のクロヌン技術は、あなたの亡きお父様、汐劻教授のご尜力によっお、䞖界に類を芋ないほどの高いクオリティヌを実珟したした」
「はあ」
「ず、いうわけで、あらためおご玹介したす 」犬巻が誇らしそうにドアを指し、
「あなたのクロヌンです。」

郚屋に入っおきた汚れた運動靎。
メガネちゃんの手にぶら䞋がりながら埌ろに芋え隠れする圱。圌女の腰に隠れお、恐る恐る芗く目。堎に䞍䌌合いな小さな男の子。
小孊生も䞋の方だろうか。目深に被った野球垜の䞋に愛想のない衚情。爪を噛みながら䞀重たぶたで僕ををチラリず芋た。知らない倧人に緊匵しおいるのか、そっぜを向きワザず気にせぬフリをしおいる。
今日あらためお芋おみたが、やっぱり可愛くない。

「こちらのお子さん、歳のあなた自身です。」
「歳 。」

アニメの巚匠、宮厎腹男に䌌た山矊教授。癜髪亀じりのヒゲに埋たった口を開いた。
「汐劻さん。いやぁ、すっかり倧人になられお。お父様ずは旧生物工孊研究所の悪友でしおね。」僕を嬉しそうに芋぀め恍惚の衚情で「クロヌンっお聞いたこずありたすよね ã€‚」
「はあ。映画ずかで。」
「あなたず党く同じ遺䌝子配列を持っおいる同䞀個䜓ずでも申したしょうか。この子、あなたより幎遅れお生たれたクロヌン人間なんです。」
「あのう 」
「幎前。圓時12歳のあなたから现胞を摘出し、栞から培逊を始めたした。10ヶ月経過するずヘ゜の緒のチュヌブを倖しお、溶液プヌルから出たずころを分嚩ず芋なしたす。そこから幎。だから歳的な。」
「的な ちょっず埅っ 」
「我々は幎霢を、そう数えおいたす。」
䜕を蚀っおるのだ、このヒゲのおじさんは。

 あの、よくわかんない話すぎお 。理解できないんで、もう少し分かるように説明しおもらえたせんか。珟実ばなれ。だいたい、どう芋たっお、こんなク゜可愛いげのない子どもが、僕のはずが。

犬巻がタブレットの写真を芋せた。
「これ、あなたですよね。お父さんがお持ちでした。」
圓時の父ず僕が写っおいる。 
「ああ、父ず䜏んでいるころに埌楜園ゆうえんちに行きたした。僕も持っおたす。この写真。」
「子どものころのあなたの顔、よくご芧になっお。」
「はい芋おたす  」
犬巻が指で倧きく匕き延ばした。芗き蟌むず、画像が少し荒いが、やや眩しそうにしかめっ面をした、おせじにも可愛いず蚀えない僕の䞀重の目ず䜎い錻。ぞの字に結んだ薄めの唇。
「くらべおくださいな。」
目を移すず、今、目の前に、そっくりそのたた寞分たがわぬ姿で遊んでいる子ども。なぜかTシャツも写真ず同じだ。
「ほらね。」

に、䌌お  る。

「䌌おたす、かねえ 」
動揺を悟られないためには、他人事みたく぀ぶやくしかない。
ヒゲのダギ教授は嬉しそうに、うんうんずうなづく。
「ほんずうに、そっくりたるで芞術品よね。ほら、垜子をおずりなさい。よヌく、顔を芋せお差し䞊げお。」
嬉しそうに、犬巻がそい぀のシャツをめくるず、小さなおぞその暪にホクロが申し蚳なさそうに぀いおいる。子䟛甚のスニヌカヌを脱いで、小さな靎䞋を匕っ匵るず、巊足小指が゚ビのように曲がっおいる。
「あなたも同じですよね。」
家のばあちゃんしか知らないはずなのに。

「あなたさっき、受付でどうやっお䞭に入りたした」
「゚レベヌタヌ降りたずこのタブレットで」
「こうさいにんしょうです。県球の虹圩認蚌。」
「ええ、撮りたした。」
「我々はあなたのデヌタは入力しおいたせん。しかしあなたは䞭に入れた。事前に別の虹圩を登録しおいたんです。」チビを顎で指し「 その子のね。」

少幎が、その瞳で僕を芋あげた。

「確かめお。指王もすべお同じはずですよ。」
ちょ、ちょ、ちょ。ちょっず埅っおくださいよ。そんな話、信じろっお蚀ったっお無理です。
人間はたずいっす。人間は。倫理的にアリなのこれ突っ蟌みどころが枋滞しおいたす。どこから手を぀ければいいのか。
そうだ、これは趣味の悪いドッキリかもしれない。
そもそもなんで本圓の話なら、なんで僕にクロヌンなんお

「ええ、ええ、ご乱心はごもっずもです。いろいろ聞きたいこずもおありでしょう。そのぞんはたたゆっくりお話ししおたいりたす。」犬巻は日本茶をすすっお、
「で、本日は぀、玠敵なお話がありたす。」

ひず぀目は、
「この子ず䞀緒に暮らしおください。」
「は」
「この子はあなた自身です。お父様が亡き今、残された忘れ圢芋のこの子をあなたが匕き取るんです。残された子どもたち同士で手を取り合っお生きる。玠敵でしょ。ね。」
いやいやいやいやいや。
「玠敵ではないです。」
子䟛を預かるなんおムリっしょ。僕は就掻䞭の身で、僕のバむト代ずばあちゃんの幎金で现々ず暮らしおいるんです。
「その点はご心配なく。ふた぀目の玠敵なお話。お絊金が出たす。」
「おきゅうきん」
「汐劻さん、就職掻動をされおいるずか。」
なんで知っおんの
「急すぎお 。䜕をするのかもわかっおたせんし。」
「この子ず䞀緒に暮らす、ただそれだけです。行動を共にし、ひず぀屋根の䞋で生掻しおください。時々、レポヌトしおもらえればOK。りチに就職したず思えばいいじゃないですか。」
内定がこんな圢で目の前に 。
いや、いや、いや、グヌルグルずかオシャンティな䌁業でなくおいいのこんな蚳の分からない仕事でいいのか僕が人生を捧げたいラむフワヌクはただ芋぀かっおいないのに

「報酬は月30䞇円。逊育実費ずしおさらに20䞇。䜵せお50。臚時で必芁な経費があればその郜床ご盞談できたす。ね。玠敵でしょ。」

ご、50䞇 。
䞀緒に暮らすだけで月50たんえん
話だけでも聞いおみるか。あずから断れるし 就掻しながらできるかも。

「決たりね。これからは内閣府付特別研究員の猫塚がいろいろケアさせおいただきたす。」メガネちゃんは猫塚ずいうらしい。「LIMEでも亀換しおください。」
「QRコヌドでいいですか」互いにスマホを重ねる。なんだか照れ臭い。ずか、こっそり思っおみたりする。

「その代わり」
今床は、匁護士が口を開いた。
こっちは俳優の枩氎掋ニ䌌の鶎田。テカった頭の䞊にふんわり産毛が申し蚳なさそうに乗っおいる。だからツル田は芚えやすい。
「この子がクロヌンだずいう事は、決しお口倖しないでいただきたい。高床に厳しい機密になりたすので埡泚意を。契玄曞ず守秘矩務誓玄曞ず保険の玄欟にサむンをお願いしたす。ちょっず倚いですが 。」
目の前に分厚いファむルが「どん」ず積たれた。
「Tvvitterで『クロヌン人間なう』ずか぀ぶやいちゃダメですよ」ず、にやりず笑った。

家で埅぀ばあちゃんに、なんお話せばよいのだろう。
僕は栗倧犏をかじった。







■春、第話 家に来た


今日、クロヌンが家に来る。

心の準備もできず迎えた朝。昚倜は寝れず、眠気が芚めない。ただ倢う぀぀のような気分で爪を噛む。

「おはようございたぁす」

䞞メガネの猫塚キナコの匵り切った声ず、ガラガラ匕き戞の音でふず我に返る。
チビは猫塚に小さな手を匕かれ、叀いランドセルを背負っお玄関にたたずんでいる。なぜだか僕が子どものころに着おいたのず党く同じ犬のむラストのシャツ。少し汚れた運動グツの足をモゞモゞさせながら爪を噛んで突っ立っおいた。

こっちは倧人だ。「こんにちは」ず蚀っおやる心の䜙裕は持っおいる。ダツはペコリずもせず、もじもじ郵䟿受けをむゞっおいる。
猫塚が「こんにちはっお」ず促すずようやく小さな声で「 こんにちは」ずいう蚀葉をやっずこさひねり出した。
可愛くない子どもだなぁ。確かに僕もこうだったかもな。䌌ちゃっおなんだか悪いね、ず少し思った。

「ゆヌちゃん、お客さん来たんかえ」
奥からばあちゃんが声を䞊げた。
ばあちゃんには、知り合いの子どもを預かるずだけ話しおいた。守秘矩務があっお良かったかも。「クロヌンの孫がいたよ。」なんお、さすがに䜓に毒だ。
ばあちゃんは、小さな子どもが家に来るのが䜙皋楜しみだったのか、叀臭い䞀軒家の䞭をたるたる䞀週間掃陀しおいた。
ぞうきん片手に玄関の瞄暖簟から顔を出し、ドアの前に䜇むちいさなナタカを芋぀けお、「あら」ず顔を芋぀めた。
「‥‥‥」
目を倧きく芋開いたばあちゃんは、蚀葉も出ず凝芖した。やばい、バレるか 。

ず思いきや、ほっずした笑みをこがし、
「ゆヌちゃん。」
僕の名で呌んだ。
「ばあちゃん、僕じゃないよ」
「ゆヌちゃんやろ。ゆヌちゃんや。」
僕にそっくりだず蚀いたいのか、頭が混乱しおいるのかはっきりしなかった。ただ、たいそう喜んで、小さな手を匕っ匵っお奥ぞ連れおいった。

実は、先週チビず䌚っおから、僕は熱を出しお寝蟌んでいた。考えるほど、このトラえもんみたいな話、ありえない。
クロヌンどころか”子どもず暮らす”、こんなこずには慣れおいない。なにを甚意すればいいのか、ググっおみた。
「クロヌン 子ども 䞀緒に䜏む 準備」 キヌワヌドで怜玢しおも、「怜玢条件ず十分に䞀臎する結果が芋぀かりたせん」ず出るばかり。
ずりあえず、近くのむペヌトヌカドヌで新しい垃団や、子ども甚の歯ブラシ、䞋着や本、お菓子などを買っおおくしか僕にできるこずはなかった。

「これ、どこぞ運びたす」
ダンボヌル箱を抱えながら猫塚キナコが蚀った。着替えの服や身の回りの物。続いお、アニメの巚匠䌌のダギヒゲ教授がニコニコ嬉しそうに助手たちを匕き連れ入っおきた。いく぀ものゞュラルミンケヌスを運び入れ、慣れた段取りで居間に小型カメラを蚭眮し始める。昭和40幎代建造のくたびれた日本家屋の柱やらんたに最新鋭のデバむスが䌌合わない。しばらく僕たちの生掻を蚘録したいらしい。これも絊料の䞀郚だ。
ばあちゃんには、チビの健康管理のためずか、YouTofuで配信するずか蚀っおおこう。

チビはテヌブルでモナカをくんくん嗅いでおいしそうに食べた。
「おいしいおすか」ばあちゃんが聞くず、こくりず頷いた。「そうかいな、そうかいな」
食べる前に匂いを嗅ぐのは僕のクセでもある。チビの顔をじっず芋おみた。
「よう、うたいか」
話しおみる。食べる手を止め、僕の目を芋お 知らん顔をした。
なんだよ。可愛くないなあ。
これが僕か 。䞀週間ぶりに芋たけど、ただ半信半疑。顔を芋おいるず、畏れず近芪憎悪のようななんずも蚀えない気持ちになる。こい぀も、そう感じおいるのか。

「ねえ、ナタカくん」猫塚の声がしたずき、

「ん」
「ん」

僕ず「小さな僕」は揃っお同時に振り向いた。

ダギヒゲ教授たちは「シンクロニシティ」ずなぜか嬉しそうにざわめいた。䞀緒に笑う猫塚。「ははは。ですね。ややこしいですよね。」
圓然名前が同じ。䞊んで振り向く倧小぀の同じ顔がマヌケに芋えたらしい。
教授は「二人がこんな近くにいるなんお。たたらないです」ず恍惚の衚情。

僕ら二人は、どう芋えおるんだろう。
ふずスマホでツヌショット自撮りしおみた。同じような顔が䞊んでる。気持ち悪い。アプリで自分の顔を移したみたい。小さな僕がモナカをくわえおいる。


こい぀の郚屋を䜜らなきゃな。
机も本棚も二階の僕の郚屋にしかないから、仕方なく荷物を運び入れた。僕は他の郚屋に寝ればいい。
「ここに眮けばいいですか」猫塚が荷物を眮いおいく。「ぞぇ、もう少し散らかっおるず思っおたした。」ず笑った。
「ばあちゃんが片付けたんです。今日のために。」
「やっぱり。小さなナタカくんも党然片付けられなかったみたいです。お父様ずの家も、竜巻に遭ったみたいにおもちゃが散乱しおたしたよ。ふふふ。」猫塚さんはよく笑う人らしい。よく芋るずメガネの奥はどこずなくガッキヌに䌌おるかな。いや、ガッキヌだず思うこずにする。せっかくだから。

ダンボヌルの䞭を開けおみお驚いた。党郚、僕の子どもの頃ず党く同じデザむンの服だ。
「父はなんのために服たで䌌たものを甚意しおたんですか」
「それはコピヌではありたせん。ナタカさんが着おいた服そのものですよ。お父様は、あなたの子どもの頃の服をすべお残しおいたんです。この子に着せるために。」
「どういう぀もりで」
「それは わかりたせん」ふず、寂しそうな目をし、「あの子、お父様がなくなっおから、呚りの倧人にはしゃいでみせるんです。なんだか、それが䜙蚈に可哀想で。」
「そのくせ僕ずはただ䞀蚀も話しおたせんよ。」

ダギヒゲ教授が階段からひょっこり顔を䌞ばした。
「戞惑っおるんですよ。子䟛心にわかるんじゃないですか。やっぱりあなたに察しお、他の人ず違う䜕かを感じおいるんでしょう。」
「そうなんでしょうか」そう蚀われおも、ただ半信半疑。
「私たちはそろそろこのぞんで倱瀌したす。家の前にバス停があっお䟿利ですねぇ。それじゃ、わからないこずがあったら、なんでも”猫ちゃん”に聞いおください」トントントンず降りおいった。
ぞぇ、猫ちゃんっお蚀うのか。

絵本の間から、1枚の写真がひらひら萜ちお、足の芪指に優しく圓たった。拟っお芋るず、父ちゃんが幞せそうに笑っおいた。その暪にちょこんず幌い僕が肩を抱かれお笑っおいる。いや違う、僕じゃない 、チビだ。父が少しだけ歳をずっおいた。自撮りしたのだろうか。腕を䌞ばす父。その埌ろに遊具が芋えた。公園かな。仲良かったんだな。僕の知らない、父ずチビの重ねた幎月がそこにあった。うらやたしいような䞍思議な気持ちになった。
父が亡くなっおから、チビはひずりでこの写真を眺めおいるのだろうか。

その倜は、僕ずチビず猫ちゃんずで、ばあちゃんのカレヌラむスを食べた。コンコンずスプヌンを鳎らし、カレヌのルヌずご飯をぐちゃぐちゃに混ぜるチビ。そういや、僕もこんな食べ方しおたっけな。
「ナタカ君、埗意な科目は図工なんですよ。ね。」
猫ちゃんが氎を向けるずチビはカレヌを突きながら「うん」ずうなずいた。
「ナタカさんも 」二人が振り向くもんだから蚀い盎す。「えっず、倧人の方のナタカさんも、図工お埗意なんですか」
「ええたぁ。子どもの頃ですけど。」
「 呌び方決めた方がいいかもですね。」
「名前が同じだしなあ 。」
猫ちゃんがチビに聞いた。「ナタカお兄さんっお呌べる」
「むダ。」
「じゃ、なんお呌ぶ」
䜕も蚀わず、ぷい。
なんだよこい぀。なんか肌が合わないな、クロヌンだけど。
これから䞀緒に䜏むんだぞ。僕の䞍満顔を芋お、猫ちゃんは可笑しそうに笑いをこらえた。

ばあちゃんが
「お颚呂入りや。ゆヌちゃん二人で入ったらよろし。」
ず蚀ったその瞬間、

「えヌ」
「えヌ」

「やだ」
「やだ」

たた揃った。
猫ちゃんは笑いながら「気が合いたすねヌ。教授によるず、ずっさの反応ほど揃うようですよ。䞀緒に暮らしおいるず、よりシンクロ床が増しおいく可胜性が高たるそうですよ。」
「なんだか双子タレントみたいだな。」
「そうそう。でも、むしろ双子より近い存圚 二人は同じ人間ですからね。」
その蚀葉で぀い 

「同じじゃない」
「同じじゃない」

たた揃った。

チビは爪を噛んで、猫ちゃんず䞀緒に入りたいずグズった。父が亡くなっおからは、少しの間身の回りの䞖話をしおもらっおいたらしい。慣れない環境だからか、䜙蚈に甘えおいる。
ばあちゃんに「入っおやっお」ずうながされ、猫ちゃんは遠慮気味に「じゃあ、お蚀葉に甘えおお先にいただきたす」ず手を匕いた。 çŒ«ã¡ã‚ƒã‚“の黒いスヌツから䌞びた癜く现い右足にたずわり぀いたチビ。そのたた脱衣堎ぞず消えおいった。

お颚呂からケラケラず二人の笑い声が響く。
なんだよこれ。ぞんなシチュ゚ヌション。きゃっきゃ隒ぐ声を聞きながら、荷物を敎理した。
「こらっ埅っお」お颚呂から、はしゃいで裞で飛び出したチビ。ばあちゃんのうしろに楜しそうに隠れた。その小さな腹のぞその暪にやっぱり確かにホクロはあった。掗っおも消えないなら本物なのだろう。

◆

倜も曎け、がくは䟋の分厚い契玄曞を読んでいた。
垃団で寝息をたおるチビ僕を起こさないよう、小さな声で猫ちゃんに尋ねた。
「こい぀は、クロヌンの意味を分かっおるんですか」
チビの寝顔をやさしい瞳で眺めながら、
「わかっおるような、わかっおないような 。ただ、お兄さんみたいな、双子みたいな、あなたより先に生たれた 生たれ倉わりみたいな人だよずいうこずは話しおありたす。」
「䜙蚈ややこしくないすか。」
「た、子䟛のうちの方が、抵抗なく珟実を受け入れるかもしれたせんね。垞識が邪魔しないので。」
「ふヌん」
「今日は䜙皋疲れたんでしょうね。い぀もは本を読んであげないず寝られないんですけど。」
「え、それも、これからがくがやるんですか。」
「そういうこずになりたすね。ごはんはおばあさたが䜜っおくださるっおおっしゃっおたしたけど、朝の支床やお颚呂などはお願いしたす。」
「キツむなあ。」
「新入瀟員。お仕事のひず぀です。」ずいたずらっぜく笑った。「じゃ、私は倱瀌したす。起きちゃうずぐずるので。たた明日。」

ただクロヌンなんおすべおは信じおいない。
目の前に暪たわっおいるこれはなんだ子どもの頃の僕の姿で寝息をたおるこれは
もしもタむムマシンで子䟛の頃の自分に䌚いに行ったら、こんな感じなんだろうか。

本棚に食った写真を芋぀めた。父が䜕も蚀わず笑っおいる。
いやいや、なによりも倧きな疑問が解消されおいない。
父はなぜこの子を誕生させたのだろう







■春、第話 怜査で 


「父ちゃん、トむレ 」

次の朝早く、チビのすすり泣く声で、僕は起こされた。

目を芚たしたチビは、亡き父を探しお泣いおいた。芋慣れない郚屋に、状況を把握しきれず悲しくなったそうな。
「あらあら、ゆヌちゃん、どしたの。」ばあちゃんも起きおきお、「ただ早いから眠たいねぇ。はい眠たい眠たい。」よしよしず”小さな僕”をなだめ぀぀、叀い階段をミシミシ降りお行った。

子ども番組を芳せるず、少し機嫌が良くなった。なるほど、これは䜿えるな。
ばあちゃんの味噌汁の匂いで目を芚たしおいく。テヌブルには目玉焌きずトヌスト。和掋統䞀感がないけど絶劙に合うのがばあちゃん特補。
”ちヌん”
仏壇の鐘をリン棒ではじく。父ず母の写真。僕にずっおも、チビにずっおも同じ父ず母。ばあちゃんが、䞀口サむズのご飯を金の噚でお䟛えする。毎朝の小さな日課。チビが興味深そうに眺める。

珍劙なお客様を迎えおから、初めおの朝食。
チビはテレビに取り぀かれたように凝芖しおいる。なんか話しおやるか。「なあ」ず声を掛けおみた。
「    。」
なのにテレビに倢䞭。僕もよくばあちゃんに叱られたっけ。キンキン隒がしい子䟛番組の「間違い探し」に心奪われおいる。簡単だろこんなの。
ふぅん、確かにけっこう難しいな 。

「あった」
「あった」

同時に芋぀けおシンクロした。
機嫌が良さそうだぞ。今だ。
「なあ」
こっちを向く。
「お前は、僕。僕はお前。同じ人。わかっおる」
「    。」
小さな僕は、僕の顔をじっず芋た。ちゃんず目を合わすのは初めおかも。
テレビの音だけが響く。やがお、”うん”ず小さく頷くず、たたテレビに心を奪われた。
ちゃんずコミュニケヌションずらなきゃな。なんでこんなに難しいんだろ。”自分自身”なのに。
確かに僕も人芋知りだったかもな。思いだそう。あの頃、なにに興味があったか。
「ほら、あずでさ なんか オモチャずか買いにいくか」懐柔しおみる。
”いらない”、ず小さく暪に銖をふる。そういうこずでもないらしい。
ほんず可愛げがないチビだな。我ながら。自らの子䟛時代ながら情けない。

「こんにちはぁ」玄関から猫ちゃんの声がした。
チビは、箞をテヌブルに攟り出しお玄関に走っお行った。
「ちゃんず寝れた倜䞭おしっこ自分で行けた」ず聞く猫ちゃんにたずわり぀いお、すっかり元気になったチビ。心に䜙裕ができお、叀い家にあるものが珍しいのか、キョロキョロ芋回しはしゃぎ始めた。
「おねえちゃん、ほらみお。ほらみお。」すっかり「この家慣れたよ。がく、おにいちゃんだもん。」的なカッコ぀けをしおいる。
ばあちゃんの寝宀で叀い鏡台を芋぀けるず、
「これなに」
「鏡台や。䞉面鏡ゆうおな。ばあちゃんも昔はお化粧したりしたんよ。」嬉しそうにばあちゃんが垃をめくり䞊げ「嫁入りしたずきに持っおきたもんや」
「ぞぇ」ずチビは、いないないばあみたく䞉面鏡を開いたり閉じたり。閉じた䞭に頭を突っ蟌んだ。「うわぁ」倧声をあげお䜕やら感動しおいる。
僕ものぞく。ず、そこには合わせ鏡に無数のチビの顔が果おしない空間に広がっおいた。その䞊からのぞく僕の顔。同じ顔ず同じ顔。混ざりあっお遠い圌方ぞず無限に広がっおいく 。
少し、ぞっずした。

「さあ、ナタカさんたち」

「ん」
「ん」

猫ちゃんに呌ばれ人の顔が振り向いた。
「今日は䞀日、ずっおもずっおも退屈な"怜査デヌ"です。」

「えヌ」
「えヌ」

「たあたあ、シンクロでそんな顔しないで」猫ちゃんは笑いながら僕たちの背䞭を䞡手でポンずたたき。「これもお仕事ですよヌ ã€‚」

◆

僕たちが京王線に揺られお向かったのは、奥倚摩のニュヌタりンを過ぎたあたり。
敎然ず䞊んだ団地をタクシヌで暪目に過ぎるず、やがお真新しい道路が山の䞭のトンネルに吞い蟌たれおいくように延びおいる。
真っ暗な䞭、壁にきらめくオレンゞ色のLEDラむトの矀れを抜け出た先に、たぶしい倪陜の光ずずもに応然ず珟れた前衛的な珟代建築。斜めに空を切り裂きそうなガラスの砎片のようなデザむン。日に照らされた真っ癜なコンクリヌトず矎しい芝生の緑が手前の人工的な堀の氎面に映えお、ディズミヌの癜亜の城をも思わせる。”東京倧孊遺䌝子工孊臚床実隓研究所”ずいう銀のプレヌトがきらりず光った。

驚いた。僕がここに来たのは初めおではない。その理由は、のちほど。

犬巻枕子ずダギヒゲ教授、たくさんの助手たちが「きたきた」ず玄関で埅ち受けた。
「ここっお 」思わずこがれた。「もしかしおあなたたちの 」
「わかっちゃいたした」ず教授がおどけお笑う。
「さ、今日は盛りだくさんですよ。」猫ちゃんから、ビニヌルに包たれた怜査着をポンず枡され「午前はメディカルチェックです。」

怜査宀は、無駄に倩井の高い真っ癜な廊䞋を進んだ先にあった。
「採血したすね」
猫ちゃんがおもむろに僕の腕に黒いゎムチュヌブを巻く。「芪指を䞭に入れお握っおください。」肘の裏の青筋を叩きながら血管を探しおいる。傍らには泚射噚。
「ちょ、ちょ」思わず腕を匕っ蟌めた。
「いや、あの、もしかしお、猫ちゃんさんが」
「ああ」そういえば、ずいう衚情で、「医垫免もっおたすから。」僕の手を匕っ匵り、消毒液でひんやり拭いた。「蚀っおたせんでしたっけ」
蚀っおたせん。
「おか、猫ちゃん”さん”、っおなんですか」クスッず埮笑ながら、泚射を现い指で぀たんだ。
「いえ、なんずなく」
「あれ、肩に力入っおたすね。もしかしお 小孊生のナタカくんず同じですか、泚射がぁ 」いたずらっぜい埮笑で僕の気をそらし、プスリ。
「うっ」
「 苊手なずこも。」ふふっず笑った。

チビず人しお䞊半身裞で台に暪になるず、ダギヒゲ教授は楜しそうに、ぞそのほくろや、曲がった足の小指、ずがった軟骚の巊耳などを比べた。
僕たち人だけの共通点を、なぜか圌らは既にリストで持っおいた。
「目を閉じおくださいね」
MRIにゆっくり頭が入っおいく。グオングオンず激しい機械音。真っ暗な䞖界で、がヌっず考えおみた。
僕は毎幎ここで健康蚺断を受けおいた。以前、亀通事故をしたこずがあっお、病院から勧められ、埌遺症がないか調べるためにず聞かされお。少なくずも、今日たではそう信じおいた。
 もしかしお、僕は被隓者だったのかじゃあ、䜕を調べおいたのだろう。こうやっお健康チェックするのも実は利甚するため
この手の映画だず、クロヌンは臓噚提䟛のために぀くられるっおいうのがお決たりのパタヌンだ。たさか、チビが僕のために臓噚を提䟛それずも逆に、僕の臓噚が 疑念が湧いおくる。
人間のクロヌンなんか造っちたう圌らならやりかねない。油断できない。おか、そもそも人間のクロヌンなんお䜜っちゃダメでしょ。モラル的に。よし、い぀か問いただしおやろう。

午埌は、奇劙なテストをたくさんさせられた。

玙の䞊にむンクをこがしたような暡様をみせられ、「これは䜕の絵に芋えたすか」ずか、䌚話する男女のむラストを芋せられ、「この人々はなんず蚀っおいたすか」ずか。
そうそう、真っ癜なゞグ゜ヌパズルもさせられた。犬巻ずダギヒゲ教授たちがずっずそばで眺め、助手がパ゜コンに䜕かの数倀を打ちこんでいる。なぜか時折、なにやら感嘆の声を挏らしながら。僕たちは䜕も倧したこずをしおいないのに。
お互いにフワフワした倧きなゎムボヌルの投げ合いをさせられたりもした。なんのためかはわからない。チビがちょっず匷く投げおきたので、これたたもっず匷く投げ返したらチビの顔にぱんず圓たった。するず真っ赀になっおムキになっお投げ返し、僕に突き指をお芋舞いした。互いにキヌッず投げ合う様を、教授たちは淡々ず数倀化しおいた。

そしお、最埌の実隓。
぀いに”あの珟象”は起こった 。
僕ずチビの生掻が、これからその”珟象”に激しく振り回されるこずになるこずを、ただ僕たちは知らなかった。

猫ちゃんがチビの手を匕いお「ここからは別々の郚屋に別れおください」 ãšã€ã©ã“かぞ連れおいった。
厚いドアがレバヌで閉められるず、プシュッずいう空気音ずずもにそれたでのノむズがピタっず無くなった。気圧の倉化を耳の錓膜に感じる。いわゆる”シヌン”ずいう静寂の音さえも聞こえないのは、郚屋の壁䞀面に、䜕癟ものスポンゞ突起が䞀面にデコボコず匵り巡らされおいるせいだろう。無音宀だ。心理的にダバくなりそうな郚屋だな。ずっずいたくないな。頭に電極みたいなのをいっぱい぀けられ、劙なカヌドテストが開始した。
枚のカヌドに、〇▢☆十のマヌクや波圢など、簡単な図圢が描かれおいる。
 うヌん疲れた。嫌だなあ。おかしくなりそうだよ。だんだんそんな気分。
ダギヒゲ教授に「この䞭で枚遞んでください。どれでもいいですよ」ず蚀われおも、
「はあ」考える気力もわかない。たあいいか。疲れおるし。
うヌんず なんでもいいや。
「☆」を指さしおみた「これで」
「では、目を閉じお、今遞んだカヌドを頭の䞭でよヌく思い浮かべおください。この圢をはっきりね」
「はあ」うヌん、ず思い浮かべた。
なんのこずかさっぱりわからない。䞀䜓䜕をさせたいのか
うヌん。うヌん。ず、やっおみる。
教授が、助手に「どう」ずいう目線を送る。助手はむンカムでどこかずコ゜コ゜やりずりし、「たあたあですかねぇ」ず囁いおいる。僕の䜕かが、圌らの期埅を䞊回っおいない倱望のような声だ。
「たあたあ」だず悪かったな。なんだかわかんないけど。うヌん。うヌん。頑匵っおるんですけど。
たさか もしかしお、僕のむメヌゞしたカヌドの絵を、離れたチビに圓おさせようずしおるのかんなこず起こるわけないじゃん。この人たち倧䞈倫
はあ、぀かれる。早く終わらないかな。もうどっか行きたいなあ。

そんな時、むンカム助手が教授に耳打ちをした。
「うん」教授は䞀瞬衚情を曇らせたが、僕には優しい笑顔で「ちょっず埅っおおね」ず蚀うなり、プシュっずドアを開け、出お行った。さっきたでの静寂から、䞖間のノむズが䞀気に戻っおくる。いや、もっず隒がしいぞ。廊䞋䞭に「さっきたでここに」ずか蚀い合う声が響く。
なんだなんだ䞀人だけ事態からのけ者にされお䜙蚈に気になった。電極をそっず脱ぎ廊䞋に出おみるず、犬巻や研究員たちがバタバタ通内を走り回っおいる。
「なんで目を離したんだ」「トむレかず」「゚レベヌタヌは」「非垞口は」

あい぀だ。チビだ。いなくなったんだ。

目を離したすきに姿が消えたらしい。チビ、逃げやがったな。無理もない。僕でさえ、午前䞭からかなり飜き始めおたからな。

ふず芋るず、隣の郚屋のドアが開いおいる。なんずなく䞭を芗いおみるが誰もいない。僕のいた郚屋ず同じく、䞀面デコボコのスポンゞが匵り巡らされおいる。テヌブルの䞊には、同じく電極ず䟋のカヌドが眮きっぱなしだ。「なんだ。隣でやっおいたのか」

なぜだか 隒ぎをよそに、がんやりず僕の頭をある思いが支配しはじめた。
初めお来た堎所なのに懐かしいような、ざわざわ胞隒ぎがするような䞍思議な感芚だ。

「なんだろう。この感芚」

思いに誘われるたたに、隣郚屋に入っおしたう 。
隅の゜ファヌぞ歩み寄り、腰をおろしおみる。遠くに皆の隒ぎ声がかすかに響く。あい぀なにやっおんだよ でもたあいいか。チビの行方より、”ここにいたい”こずに興味が勝たさった。
なんでだろう。なんずなく”゜ファヌの䞋を芗いおみたい”ずいう願望がムクムク沞き起こり始めた。人間の行動なんお、ほずんど深く考えず遞択しおいるものだ。息をするのも、螏み出す足をどちらにするかも。そう、盎感的に。
だからなんずなく、ゆっくり股の間に頭を突っ蟌み、床におでこを近づけおみた。
゜ファヌ䞋の薄暗い隙間には、特に䜕もない。 ぀の黒い玉が芋えただけだ。さあ、戻るか。

 ん黒い玉

もう䞀回、股の間から芋た。
 目だ。
目が合った。薄暗い䞭、”小さな僕”がうずくたっおこちらを芋おいる。刹那だが、その瞳ず䜕か気持ちを亀わした気がした。
なにかに怯えるように胞の前で小さくたたんだその手に握りしめおいたのは、”☆”のカヌド。
目を離すず芋倱っおしたいそうな気がしお、僕は凝芖したたた叫んだ。

「いたしたぁ」

その埌、
僕がチビを芋぀けたこずを犬巻や教授たちは倧袈裟に喜んだ。なぜだか孊術的にずおも䟡倀があるずのこずだった。「どうしお分かった」「䜕を感じた」ずし぀こく聞かれたが、「たたたたです」自分でも蚀葉ではうたく説明できなかった。ずおも䞍思議な感芚だった。
教授たちは倧興奮。結局さらに長時間、䜓䞭を調べられるはめになった。

◆

「なぁ、なんで隠れたの」
ばあちゃんの倕食のコロッケを箞で突っ぀ながら尋ねたが、チビはなにも答えなかった。
あたりに疲れたのか、僕ず銎染めないのか、今倜もチビは絵本の読み聞かせをするたでもなく寝おしたった。

今日は䞀䜓なんだったんだろう。
䞀日䞭行われた怜査。チビを芋぀けたこず。僕の頭で䜕が起こったのだろう 。
明日から通う新しい孊校の䞊履きや䜓操服などにサむンペンで僕ず同じ名前を曞きながら、考えた。
これぞずいう答えは䜕も浮かばなかった。







■春、第話 孊校で 


"小さな僕" ãŒå­Šæ ¡ã‹ã‚‰æ³£ã„お垰っお来た。
転入生ずしおの初日なのに。

どうしおそうなっおしたったのか。

◆

 そもそも今日は、朝から倧倉だった

午前時、起こしおもなかなか起きない。
いい加枛にしおくれよ。これから毎日これかよ。面倒だな。僕の気持ちも分かっおよ、お前も僕だろ。
ただ半分寝おいるチビに朝ごはんを食べさせ、ランドセルを背負わせお、「忘れものない道具箱ず䜓操服ず。遅れちゃうよ、早く」匕きずるように孊校ぞ連れおった。

担任は、若めの男性の先生だ。ゞャヌゞ生地のズボンずポロシャツ。着任しおただ幎数を重ねおいないのだろう。䞀文字の倪い眉毛がやる気に満ちた生真面目さに溢れおいた。だからだろうか、先生は転入届を芋お、たいそう䞍思議がった。
「あれ」
「え」
「ここ保護者の欄ですよ。匟さんの名前になっおたす。」
生埒の欄に「汐劻ナタカ」ず曞いおある。保護者名の欄にも「汐劻ナタカ」ず曞いおある。
したった。うっかりしおた。でも、䞀応、正しいんだけど。

 そういえば、犬巻が蚀っおたっけ。
「孊校には、衚向き腹違いの矩兄匟ずいうこずにしおたすから、その぀もりで。」
戞籍では、兄匟で同じ名前を぀けるこずは原則認められおはいない。だけど特別にチビは別の戞籍を持たせおもらっおいた。
孊校の転入手続は犬巻たちが事前に枈たせおおり、教育委員䌚を通じお校長たではなんずなく䞞め蟌んでいたのだが、珟堎の担任たでは手が回らなかったようだ。

そのたんた説明するずややこしくなりそう。
「あヌ、えヌ、あのヌ、こ、これ、『ナ』じゃなくお『コ』なんです。そうそう。これ字が汚いですけど『コ』。カキクケコのコ。この子が『ナタカ』で、兄の僕が『コタカ』。ややこしくお、すみたせんね。ははは。」
ずペンで『ナ』を䞊から䜕床も『コ』ず曞きなぐったが、
「䞍確かですず、䜕かあった時に困りたすので。」
「す、すみたせん」手ごわいな。「曞き盎したす。」
「今回は結構です。」玍埗できない様子のたた、目を皿のようにしおいる。「それにしおもご兄匟、䌌おたすねえ。たるで双子のようだ。いや、それ以䞊 。」
ドキ。
「そこそこだず思いたすけど。」はぐらかすしかない。
先生は、腑に萜ちないけどたあいいや、的な肩のすくめ方をした。

「では、そろそろ授業ですので」
連れられお進む廊䞋。
小孊校、ず呌ばれる堎所は久しぶりだ。䜕幎も足を螏み入れたこずはなかった。
授業前のひっそりずした校舎。春の柔らかな朝の光が斜めに射す。䞋駄箱があっお、建物のほこりの匂いず子䟛たちの気配をかすかに感じさせる匂い 。初めお来た堎所なのに、なぜか懐かしい。蚘憶が呌び芚たされるような気分。あの頃の小さな僕が、もう䞀床人生をやり盎しおいるかのような䞍思議な気持ちになった。なんだか、いいね。

ひずり勝手に感傷に浞っおいたら、 ん
ふず、胞のあたりがモダモダしおきた。なぜだか心の奥底がざわ぀きはじめたのだ。あれなんだこれ
たるで䜕かのプレッシャヌのような、劙な感じ。なんだろう。

突然、「汐劻くん」ず先生に呌ばれお、

「はい」
「はい」

たた二人で返事。
先生は怪蚝な顔で「コタカさんじゃありたせん。ナタカ君の方です」
「し、倱瀌したした」この先生は芁泚意だな 。
「ではお兄さん、こちらで倱瀌したす。汐劻くん、幎生の教宀はこっちですよ。」
「あ、では、よろしくおねがいしたす。」チビに「ほら、行きな。」ず背䞭を抌すず、すっず僕の背埌に回った。
「どうしたのさ、授業始たるぞ。」
小動物のようにこわばっお固たるチビ。お前、ビビりだな。ず軜口を叩こうずしたその時 、

あれ

たたきた。さっき感じた心のプレッシャヌが 今、僕の背埌にあるのを感じる。チビの狌狜が背䞭越しにヒリヒリ䌝わっおくる。新しいクラスに向かう䞍安なのか。なんだろうこの感芚 。研究所でチビを芋぀けた時の、あの䞍思議な感芚に䌌おいる。
いや、埅っお。なぜか僕たでドキドキしおきた。
なんだなんだチビの感情の乱れが僕にも移るずいうのか

困った先生は時蚈を芋ながら息を぀き、指先を刻みながら埅っおいる。
ダバむ、急がなきゃ。しゃがんでチビの目を芋たが、「うヌん、うヌん 」蚀葉になっおいない。
おどおどしお、ずおも悲しい目の色をしおいる。なんずかしなきゃ。安心させよう。倧䞈倫だよず蚀い聞かせなきゃ。
いや、むしろ僕自身の気持ちを萜ち着かせなきゃ。僕の動揺たで䌝わっおしたう気がしお。たず僕が萜ち着こう。深呌吞しお「倧䞈倫 倧䞈倫 。」そうそう。それを圌の目に䌝えた。
「倧䞈倫だよ。倧䞈倫だよ 。」
「‥‥‥‥」
「な、倧䞈倫だろ」
「‥‥‥‥」

やがお、ほずばしるチビの感情は静たり、わずかな安堵ぞず倉わった。
チビは、コクリずうなずくず、先生の傍らぞ歩み寄った。なんだったんだこの感芚。

倉な兄匟だな、ず蚀いたげそうな先生も、時間がないので「じゃ、教宀ぞ」ず歩み出す。先生の埌ろにくっ぀いお爪を噛みながら枡り廊䞋を連れられお行くチビ。
ずがずが歩いおいく埌ろ姿を眺めながら、䜕かが心に匕っ掛かった。でも心配しおも仕方ない、慣れおもらわないず、ず自分に蚀い聞かせた。

◆

昌過ぎ。嫌な予感は的䞭した。

チビの掗濯物を干しおいたら、スマホが鳎った。
「ちょっずご報告が 」担任の先生だ。もしかしおクロヌンがバレた
だが、そうではなかった。先生の声色は、疑り深かった今朝ずは違っお少し申し蚳なさそうだった。「そのぅ トラブルずいうわけではないんですが 汐劻君が昌䌑みにクラスメむトずちょっずありたしお。いえ、いじめずは蚀い切れないんですが 。」

いじめだ。

絊食の時間、筆箱にパンを詰め蟌たれたずいう。挙動䞍審にビクビクしおたからか。クラスメむトの子ども特有の残忍さなのか。
近ごろの孊校は、そういうのを真っ先に保護者に報告するのだずいう。やたらず先生に謝られた。「ナタカ君が垰ったら問いただしたりせず、なにも聞かずにやさしくしおあげおください」ずアフタヌケアたでレクチャヌされた。
難しいな。こういうずき、芪ならどうするんだろう。どう迎えおやればいいんだろう。正解が分かんない。あずでググっおみるか。

「でも 汐劻くんは、いじめられたんじゃない、皆でふざけお遊んだだけだっお蚀い匵っおたしお 。」
チビは、筆箱からパンを芋぀けたのを呚囲の友だちが笑う䞭、自分も笑っおいたらしい。でも、楜しいわけはない。苊々しくも愛想笑いをしお。「食べろよ」ず、はやし立おられ、鉛筆の刺さったパンを食べたのだずいう。

その光景を思い浮かべたら、なんでだよず無性に怒りが蟌み䞊げた。立掟なむゞメじゃないかなんで、ヘラヘラ笑っおるんだよ嫌ならハッキリ蚀えばいいのに。たかが子ども同士の話だろ。孊校のクラスなんおちっぜけな空間だ。倧人になったらもっず倧きな䞖界がある。いろんなこずに遭う。教宀の小さな人間関係なんお、い぀か倧したこずないっお思えるようになる。

「‥‥‥‥いや、埅およ。」

自分の䞭の蚘憶が、僕を呌び止めた。
この悔しさ、どっかで 。
ああ、そういえば 。意図せず、蚘憶の奥からある光景が蘇っおきた。

がくは幌い頃、保育園に途䞭から転入した。初日にズラリず䞊ぶ園児たちの前で挚拶をさせられた。たくさんの子どもたちに䌚うこずは初めおだった。圌らだっお新参者が珍しかったのだろう。芋知らぬ゚むリアンに察する子どもたちの奜奇の目にさらされた。生たれお初めおだから、緊匵ずいう感情を知らなかった。恐怖なのかなんだか意味の分からない感情がピヌクに達したずき、僕はその堎から飛び出しおいた。
そしお、チビず同じように掗瀌を受けた。絊食の䞭に積み朚を入れられたのだ。保育園児のやるこず。でも、された本人にしたら、初日に死刑宣告されたようなものだ。
そうだ、その時、僕も笑っおいたような気がする。幌心にそうするこずで、苛められおないよ、僕は䞀緒に遊んでるんだよ、ずいう蚭定にしおおきたかったのだろう。いじめをされおいないず思うこずで、いじめそのものがなかったこずになる気がしお。歯向かうず怪我をする。ささやかな防衛だった。

そのせいなのか今でも、倧人になったがくは他人の目が怖い。人前に出るず異垞に緊匵し、話そうずするずお腹の䞋の方がキュッず瞮む。就掻面接でも愛想笑いが関の山だ。あの経隓のせいなのか、それずも生たれ぀きの性栌なのかわからない。ただ、い぀の日からか、クツの奥で転がる小石みたいに、小さなコンプレックスになっおしたった。

そうか。僕ずチビは同じだ。
珟圹小孊生のチビにずっおは、たずえ小さなクラスでも党䞖界なんだ。毎日毎日その瀟䌚で生きおいくしかないんだ。氞遠に続く地獄に思えたのかもしれない。そう思うず、僕の姿をしたアむツが、筆箱にパンを詰め蟌たれながらも愛想笑いをしおいる姿が思い浮かんだ。

 切なくなった。

廊䞋でチビが僕の背埌に隠れた時、どうしおすぐに教宀に行かせおしたったんだろう。もっずゆっくり話を聞いおやるべきだったんじゃないか。時間をかけおやるべきだったんじゃないか。埌悔した。

可愛げなくお、小憎たらしいガキだけど。僕が過ごした人生をもう䞀床やり盎しおいる小さな自分。毎日䞀生懞呜生きおいるチビ。そんな蟛い思いはさせたくない。
そう思うず、チビの話を聞きたくなった。
チビに䌝えおおきたい事が、いろいろあるような気がしおきた。

倕方、孊校から垰っおきたら話しを聞いおやろう。
今倜こそ、寝床でやさしく本を読んでやろう。

その倜、僕は倢を芋た。
ここは小孊校だ。自分の䜓が小さい。
教壇に立たされた僕を、生埒たちがじっず芋぀める倢だった。







■春、第話 シンクロ!?


『緊匵を感じずった』

ポンず軜い音で珟れたLIMEのメッセヌゞ。
可愛い猫のアむコン。猫ちゃんからだ。

『おもしろい珟象ですね』 ãšçŒ«ã®ã‚¢ã‚€ã‚³ãƒ³ã¯èš€ã£ãŸã€‚

『おもしろいですかちょっず戞惑っおたす』

『お話、聞かせおください』

『お願いしたす』

『のちほど行っおいいですか』

あ、たた家に来るんだ。暪のチビに教えるず、ぎょんぎょん飛び跳ねお喜んだ。

『ええ、いいですよ』 æŠ‘えめの返事にしおおいた。

◆

猫ちゃんが家に来る目的は、もっぱら僕ずチビの生掻のチェックだった。
オカズで残った最埌のハンバヌグに、僕ずチビの2人で箞を突き刺しお取り合いになっおるのを、ケタケタ笑っお眺めなら、スマホに䜕かを入力しおいた。
「䜕を曞いおるんですか」
「同時にお箞を突き刺したのが、すごくシンクロしおいるので、蚘録しおるんです。」
「は」
「アプリを䜿っお、柱のカメラの映像デヌタに時間ず内容を蚘録するんです。”12時34分・同時に箞を突き刺す”っお。それがリアルタむムで研究宀のクラりドに飛んで、教授たちが分析したす。」

残り少なくなったハミガキチュヌブから空気に抌されおペヌストがポンッず飛び出した。それが鏡に貌り぀いたずき、僕たちは声を䞊げお笑った。面癜がるツボも䌌おいるのだろう。
猫ちゃんも笑った。笑いながら、スマホでメモをずっおいる。

テレビで䜕を芳るかでチビず揉めたずき、
「よヌし、じゃんけんで決めよう」

最初はグヌ、じゃんけんホむ

 どちらもチョキ

あいこでしょ

 どちらもグヌ

あいこでしょ

 どちらもパヌ
 どちらもチョキ
 どちらもグヌ
 どちらも  

「はあ、はあ、はあ、はあ」
「はあ、はあ、はあ、はあ」

あいこでしょ

 たたあいこ。

䜕回やっおも、あいこばかりが続く。
猫ちゃんは「すごい連続16回これは報告しなきゃ」興奮しお舞い䞊がっおいた。
「こんなこずを蚘録しお䜕がわかるんですか」
「クロヌンずオリゞナルが䞀緒にいるずどんな珟象が起こるのかを調べおいるんです」ずスマホに蚘録しながら蚀った。がくのこずは”オリゞナル”ず呌ぶらしい。ずきおり、行動がシンクロしたり、盞手の考えおいるこずをなんずなく感じたり、そのメカニズムをダギヒゲ教授たちは研究しおいるんだそうだ。

「だから、双子も研究しおいたすよ。」
クロヌンず双子は䌌おいるらしい。犬塚は東倧教育孊郚の付属䞭孊校に双生児を生埒ずしお毎幎数倚く入孊させおいる。ふだんの孊校生掻を送る圌らの行動デヌタをもずに、クロヌン研究をすすめおいるのだずいう。
そこで分かっおいるこずは、
双子もクロヌンも、リスクに察する姿勢が䌌るらしい。䟋えば、レストランは行き慣れた店に行くタむプか、知らない店に入るタむプなのか 。さたざたなチョむスが䌌おくるずいう。぀たり、䞀日に䜕千回もある行動の遞択、”次の角を曲がる”、”どの本を手にずる”ず、䜕を遞ぶかが同じであれば、その埌の運呜さえ䌌おくる。

「双子よりクロヌンの方がはるかに䌌る粟床が高いようですよ。リスクに察しおも。」圌女は蚀った。
「リスク ですか。」
「そうです。おチビちゃんが教宀に行けなかったのも。」
「リスクを感じた」
「はい。」ばあちゃんの麊茶を飲み干しながら、「倧人のナタカさんず䌌お。」
「僕ず䌌お」
「はい。人芋知りでしょう」グラスの氎滎を指先でなぞりながら僕を芋た。すべお芋透かされおいるようでちょっず恥ずかしい気がした。チビも僕ず䌌お人芋知り 、いや䌌おるっおいうより本人同士だけど。

圌女は続ける。
「怜査の時に逃げたのも同じ。リスクを感じたんだず思いたす」
「それも」
「怜査を面倒だず思っおたでしょう」いじわるそうに僕を芋た。
「思っおたした。」バレおたしたず愛想笑い。
「きっずその気持ちが通じた。」
「そんなこずが 。」
「あるんです。」
猫ちゃんが蚀うには、チビず僕は知らず知らず互いに”怖い”感情を亀換しお共鳎し、どんどん増幅しおしたったのだずいう。生掻を共にしおいれば、さらにそのシンクロ床は特に増すのだずいう。

「どういうこず」
「今はただ研究䞭です。」
「なんのためにこんなこずを調べおるんですか」僕はそこが気になった。
「クロヌンず䞀緒に暮らすずどんな珟象が起こるのか、ただよく解明できおいないんですよね。クロヌンが瀟䌚に進出した時、どんな圱響を䞎えるのかその先の未来にはなにが埅っおいるのか予枬しおおきたいんです。」
「瀟䌚に進出 これからクロヌンが増えるっおこずですか」
「それは 」
「それは」
「あの 」
「あの」
「 たた、おいおいお話したすね。」ずいたずらっぜくはぐらかした。
「えヌっずるい」
「ここから先は、たた秘密保持契玄曞にサむンしおもらわないず。どっさりずね。」フフフずおどける。
そう蚀われたら䜙蚈気になりたす。
「では、別の質問いいですか」
「はい」
「どうしお父は僕のクロヌンを䜜ったんですか」
「え」
単刀盎入すぎたのか、少しの驚きを芋せ、やがおぜ぀りず、
「 それは、亡くなった汐劻教授しか分からないんです。」
話は、そこでなんずなくうやむやになっおしたった。

◆

倕食のあず、チビずトランプでババ抜きをした。
でも、人ずも互いのババを匕かなくお勝負にならない。”匕いお”ず願えば願うほど、なぜか䜍眮を察しおしたうから。最初にゞョヌカヌを持ったほうがずっず持ち続けるだけの、぀たらない䜜業に終わっおしたう。
「おもしろくない」
チビが嫌になっお、カヌドを攟り出した。

遠くのささやき声にふず目を移すず、猫ちゃんの埌ろ姿。瞁偎に腰掛けスマホで話しおいる。
「 ですが どうしおも気になっおしたっお 」
衚情はうかがえないが、䜕かを匷く蚎えおいるように聞こえる。本瀟の犬巻だろうか。倜も曎けた隣近所を気遣っおかコ゜コ゜声。しかし確かな意志の固さを感じるトヌンで。
だが、うたくいかなかったのか、やがおあきらめたように肩を萜ずす。い぀も笑顔を振りたいおいるのに、あんな背䞭を芋るのは初めおかも。
「倧䞈倫ですか」
「ええ」ず振り向いた猫ちゃんは倉わらぬ笑顔だった。

気になった。
けど、なんずなくそれ以䞊は尋ねるこずはやめおおいた。
それは、今じゃないような気がしお。







■春、第話 秘密基地


チビのするこずは、なぜかいちいち懐かしいず感じるものだった。
幌い頃、僕もやっおいたこずばかり。そりゃそうだ。本人だから。

䟋えば 、

道を歩けば、高いずころを歩く。
路肩の少し䞊がった段ずか癜線でもいい。枡り歩きながら家たで垰る。そこから萜ちたら、はるか断厖絶壁から萜䞋、ずいう幌皚な空想いっぱいの倧冒険。子どもがやりがちな、あれだ。
たた䟋えば、孊校からの垰り道に、石ころを蹎っお家たで垰る。石がどこにも萜っこちたりしないで、無事に家に垰れたら成功。宝物ずしお倧事にしたっお眮くのが楜しみだったり 。
そこには合理的な理由も䟡倀もない。なんおこずのない遊びに、意味を芋぀けおこだわるずころがそっくり同じだった。嬉しいような、残念なような。

◆

そしお、今日も。チビが懐かしい”アレ”を䜜っおいた。
僕がそれに気づいたのは、猫ちゃんから来たLIMEでだった。ポンず軜い音で珟れた可愛い猫のむラストのアむコンが蚀った。

『おチビのナタカくん、今なにしおるんですか』

䞀緒に画像も送られおきた。チビが郚屋で䜕やらシヌツらしきものをカメラに芆いかぶせようずしおいる。
『柱のカメラを隠そうずしおいるようなんですが』
猫ちゃんは、我が家のLIVE映像をオフィスで芋おいお疑問に思ったらしい。

二階では、チビがシヌツの端をもっお「うヌん、うヌん」ず背䌞びをしおいる。
「なにやっおんだ」
返事もせず、柱の高い䜍眮に取り付けられたカメラにシヌツを掗濯ばさみで留めようずしおいた。
「なあ、なにやっおんの」
こっちをチラッず䞀瞥したが、無芖。倢䞭で続ける。

「ゆうちゃん、いいねえ。」芗きに来たばあちゃんの声。「たた䜜っずんの。久しぶりやね」階段から顔を出しお嬉しそうに蚀った。
「こんなの䜜ったこずないよ。」僕が正そうずするず、
「ゆうちゃん䜜っずったよ。」よっこらしょず階段をミシミシ鳎らしながら降りおいった。
「だから䜜っおないっお 」蚀いかけお気づいた。
 あ、もしかしお シヌツを掛けお、テントのような圢 。

そうだ、秘密基地だ。

確かに。これ、芚えおるぞ。子どもの頃だ。よく䜜ったっけ。懐かしいな。

むメヌゞは分かるが、しかし䞊手く出来ないようだ。そうそう、シヌツの重みで厩れおしたう。あヌでもないこヌでもないず苊劎しおいる。
「ちょいず貞しな、掗濯ばさみじゃ重さに耐えられないよ。䜕かヒモずかで瞛っお 。」
「いいの、自分でやるの」
ああ、そうじゃないのに もどかしいが手を出せない。

猫ちゃんにLIMEを送った。
『秘密基地を䜜っおいるみたいです』
『なんですか、それ』
『僕も子どもの頃によく䜜ったんです。さすが僕のクロヌン。』
『䜕をするものなんですか』
『䞭に入るんです。』
『入っおどうするんですか』
『なにをするわけでもないんですが、オモチャで遊んだり、おや぀を食べたり』
『はあ 』 ã‚んたり響いおない。女子は、やらないものなのだろうか。

バサッ

萜ちおきたシヌツをチビが頭からかぶった。シヌツのオバケがキヌッず怒っおいる。

「䞊手く䜜れないみたい。むラむラしおたす。」
しょうがないので、僕はむスず棚を䜿っお、骚組みを䜜った。昔、父が䜜り方を教えおくれたっけ。
そこぞフワっず華麗にシヌツをかけお芋せたら、驚きずずもに僕を芋た。初めお僕に向けた尊敬のたなざし。どうだ、倧人の力を芋たか。
ずころどころヒモで瞛っおいく。ひさしぶりだな、なんだか楜しくなっおきた。

チビは䞀気に僕の偉業に興味を瀺した。シヌツをめくり入口に誘われるようにそろそろず身を忍び蟌たせおいく。䞭に消えるず、ひゃヌず声が聞こえた。しばらくしお䞊気した顔を出したり隠れたりを繰り返しお、倧いにはしゃいだ。

俄然やる気が出たようで、眉間にしわを寄せ、画甚玙に蚈噚やレバヌなどを描いおは、テントに貌っおいった。芋事にがくが子どものころ䜜った秘密基地そのたた。小にしおはクオリティヌが高い。我ながら。

䞭に入っお懐䞭電灯を぀けるず、䞉角錐の内偎の空間を照らし、そこは無限に広がる宇宙ずなった。
「わあっ。」
声を䞊げたチビが僕を芋お、笑った。僕も笑った。

あれ、なんか気持ちいいぞ。なんだろ。今、こい぀笑った。いや、心通じたなんなんだろ、よくわかんないが、なんだか嬉しい。ポゞティブな感情もシンクロするのだろうか。

小さな段ボヌルをテヌブルにしお、オモチャずマンガをいっぱい持ち蟌んだ。
基地内では、チビに「隊長」ず呌ばされた。
「隊長、食料をもっお参りたした」
「こ、これは 」
「そうです”うたか棒”ですばあちゃんに戞棚に閉じ蟌められおいたのを救出したした」
「よくやった」
狭い䞭、倧奜きなオモチャをいじり、二人でスナックのうたか棒を霧っおカケラをポロポロ萜ずしながら笑い合った。

チビはいたく気に入っお、倕食もここで食べ、寝るのもここにしたいずせがんだ。垃団を狭い基地に敷き、絵本の読み聞かせをさせられた。

ダツが持っおきた本は、すべお昔、僕が父に読んでもらったものばかり。

『ゞャングル探怜隊』 ã‚„ ã€Žå®‡å®™ã«æµ®ã‹ã¶ã‚¹ãƒšãƒŒã‚¹ã‚³ãƒ­ãƒ‹ãƒŒã€ãªã©â€Šã€‚
懐かしくお、党く同じだ。
幌い頃の僕が砎っおしたったペヌゞがテヌプで貌られおいるのも、同じ。
父はわざず同じものを残しおおいたのか。だずしたらなぜだろう

特にチビのお気に入りは、「バス」の絵本だ。

家族揃っおバスに乗っおお出かけするおはなし。
動物園や遊園地、ショッピングモヌルにスケヌト堎 
次々止たるバス停ごずに、「ここなの」ず子どもたちが尋ねるが、
パパは「もっずいいずころ」ず秘密にする。

最埌に到着するのは森にぜ぀んずある小さなレストラン。
庭に光あふれる倧きなモミの朚のクリスマスツリヌが矎しい。

そこで家族揃っお枩かな食事をするずいうストヌリヌ。

父ず母。そしお兄匟。こんな枩かさに満ちた䜓隓をしたこずがない。
チビだっお、僕だっおそうだ。
この本、奜きだったな。読んでいる間だけでも、小さな幞犏を疑䌌䜓隓できた。それが嬉しくお䜕床も読んだ。クリスマスには季節倖れだずしおも。

「兄ィ、もう䞀回読んで」

なに誰兄ィ
 ああ、僕のこずか。
「い、いいよ」自分同士なのに「兄ィ」っお 。

「兄ィ」か 。
ちょっず、しみじみ。

奜きな絵本も遊びも同じ。やるこずなすこず䌌おいる。小憎たらしいずころも。
やっぱり、こい぀13幎前の僕なんだな。
だから僕にはわかる。きっず䞍安だろうな。こんな芋知らぬ兄ちゃんず䞀緒に䜏んで。

どうしお父は、チビを誕生させ、同じ本や服を䜿わせ、同じ人生を過ごさせおいるのだろうか

「兄ィ、あの歌やっお」
「歌」
なんだ急に 
「父ちゃん、ピヌっおお口でやっおくれたよ」
「ああ、口笛ね。なんの歌」

するず、チビが

 ♪ふんふふん♪ 

ず錻歌で歌いはじめた。
子どもらしく䞋手なのもあっお、最初は音の矅列をなかなか僕の頭が捕らえられなかった。

やがお迷子になっおいた僕の頭に、突然、メロディが舞い降りた。

「聎いたこずあるぞ。」

懐かしくお切なくお矎しいメロディ。なんだっけこれ
続きが僕自身の䞭から沞き起こっおきた。リズムに乗せお、唇を震わせおみる。自然ずメロディが重なる。チビず目でリズムを合わせる。

「そうだ。父ちゃんだ。」
よく口笛で聎かせおくれた。父ず離れおすっかり忘れ去られおいた。曲名も知らないけれど。奜きだった。懐かしくお、懐かしくお、涙が出そうになった。
亡き父ず過ごした時間を、この子に重ねお感じた。吹くのをやめるず、この気持ちが消えおしたいそうで、い぀たでも奏でた。

なんおいう曲だったんだろう。アプリで旋埋から曲名を怜玢するこずはできるが、やめおおいた。曲名を知っおしたうず、い぀でも取り出しお聎ける。流行りの歌みたいに、色耪せお擊りきれおしたいそうで。なんだかもったいなくお。だから、そっずしおおくこずにした。

 ん寝息をたおおる。

たどろみながらだろうか、手を繋いできた。
初めお觊れる、”小さな僕”の手。プニプニしお小さく䞞っこい。掌で包むず枩かい。ちょっず照れ臭い。
䞀生懞呜、秘密基地を䜜っおいたその指先をのぞくず、僕の指王ずやはり同じだった。こい぀、本圓に僕自身なんだな。しみじみ思った。

䞀重のたぶたを閉じ、䜎い錻で小さな唇の先っぜを尖らせお眠っおいる。
眺めおいるず、初めおこい぀を、
「思ったほど憎たらしいや぀じゃないかも。」ず感じた。

いや、むしろ、
「そこそこかわいいかも、我ながら。」なんお思えた。


その甘矎なメロディは、倜の秘密基地に、い぀たでも響いた。

「意倖ず、いいかもな。この生掻。」





■倏、第話 倏䌑み


気が付いたら、小孊校は倏䌑み。
長い梅雚が倏の蚪れに気づかなかったらしく、日憂鬱な雚を居座わらせたが、やがお倏が慌おたように、猛烈な暑さで街を襲った。
空の青がたぶしい。チビの元々たぶしそうな顔も、䞀局くしゃくしゃになった。

”小さな僕”ず、奇劙な同居が始たっお3か月。
自分同士のくせに極端に人芋知りだった人。い぀の間にかおしゃべりが増え、家の䞭はにぎやかになっおいた。

奜奇心旺盛なお幎頃らしく、
「なんで空は青いの」
「なんでパンダは癜黒なの」
ずずっず聞いおくる。
なかなかうたく説明できない。テキトヌな蚀葉でおさめおも、腑に萜ちおくれない。それはそれでいい。自分から話すようになれたのなら。

チビずの倏䌑みは、ずにかく遊んだ。倧孊も䌑み、フットサルサヌクルも就掻がうたくいかなくお疎遠になった。なので時間はある。
父ちゃんに遊んでもらったように、チビにもできるだけ同じように接しおみようず思った。僕がしおもらっお嬉しかったこずは、コむツも嬉しいに違いない。なにせ僕自身だから。
思えば、チビのための぀もりだったのに、僕にずっおも良かったのかもしれない。しばらく忘れおいた子䟛っぜい遊びが、僕のオトナの硬い殻をほぐしおくれる気がした。あずで思えば、人生で䞀番楜しい時間だったず蚀っおもいい。

時には、
ばあちゃんの物干しざおの先に虫取り網を括り぀けお、近くの神瀟で蝉捕りをした。

父がよく連れおきおくれた境内。石畳を螏むず、頭䞊の朚々から䞀斉に蝉の声が降り泚ぐ。ひんやりずした空気に深い緑葉の匂いが溶けおいる。
䞀番高いずころ、朚挏れ日に透かしおブロヌチのような黒いシル゚ットを芋぀けた。茶耐色の矜が透ける アブラれミだ。

チビずいたずらな目線を亀わし、身を屈めお忍び足で朚の根元ぞ。獲物は油断しお暹液を味わっおいる。狙いを぀けお高みに網で忍び寄る。竿の重みに腕が小刻みに震え、先端の網が倧きく揺れる。うっかり葉に觊れた振動で気づかれおしたわないよう、迷路のような枝の隙間をすり抜け、䞊ぞ、䞊ぞ 。気づくなよ、気づくなよ。

あ 錻がムズムズする。倪陜が目に飛び蟌んでクシャミがでそう。チビも錻をムズムズさせおいる。こんな時にシンクロしないでよ。ダメ。今はダメ。目で制するず、うん、ず錻を぀たむ。

息をひそめ、蝉の高さたで忍び寄る。獲物の背埌で、網が無蚀でぱっくり倧きな口を開けおいる。いよいよだ。チビを目を合わせ、息を合わせお、せヌの、ず玠早く幹に叩き぀けようずしたその瞬間、錻がムズムズ 

「ぞえっくしょん」
「ぞえっくしょん」

網を叩き぀けた時には手遅れ。
ゞゞッゞッず飛んでいく蝉の声が空ぞ吞い蟌たれる。

「あヌあ。」
「あヌあ。」

顔を芋合わせ。「  」

「チビが悪い」
「兄ィが悪い」

蚀い合う蚀葉さえもシンクロする僕ら。
あざ笑うかのように倧勢の蝉の声が降り泚いだ。

◆

たた時には、
街を秘境に芋立おお倧冒険した。

芋知らぬ路地の叀い民家の間。塀の隙間に䜓を這わせながら、どんどん䞭ぞ。
時には庭を抜け、塀の䞊を枡り䜕軒も越えお、たるで巚倧迷路。呜の危険も顧みず危険な密林を進む、われわれ探怜隊。路地裏ずいうゞャングルの奥ぞ。

挟たった僕をチビが匕っ匵り、チビを僕が塀に抌し䞊げ、2人は助け合いながら進んだ。黙々ず進む小さな隊長を、远いかけ進んでいく。すばしっこいチビに眮いお行かれないよう食らい぀いおいく。右ぞ曲がるか、巊ぞ抜けるか 前を行く小さな背䞭に意識を寄せるうち、次の動きがなんずなく分かるような気がしおきた。
「もしかしたら心が読めたりしお 」調子に乗った奜奇心で、詊しに目を぀むっおみたら、がんっずブロック塀の出っ匵りにスネをしこたたぶ぀けた。
「んぐぐぐぐ」

ただの䜏宅街だ、䜕かがあるはずもない。でも、僕たちには違った。
塀の隙間のその先には䞀䜓䜕が埅ち受けおいるのか想像するず胞の錓動が高たっおきた。䜕だろこの気持ちはワクワクで倧きな声を出したくなる。高揚した顔のチビが「わかる」ず誘うように、こちらを振り向く。感情がシンクロする。子どもだたしの探怜ごっこが、こんなにも心を揺さぶるなんお。倧人になっお忘れおいた。

やがお、暗い隙間の遠い先に、逆光さし蟌む出口が芋えおきた。
長い長い通路を抜け、茂みのような怍朚をかき分けたその先に広がっおいたのは 
 たるで芋たこずのない奇劙な堎所だった。

巚倧な敷地に、幟䜕孊的なデザむンの建物たち。磚き䞊げられたようなツルツルのビルが䞊ぶ。
矎しく揃えられた芝生の緑。その䞊に癜いロヌラヌで自由に曲線を描いたみたいな遊歩道。歩道橋やビルを぀なぐ通路の立䜓亀差に未来を感じた。
人が誰もいない。信号はただ灯らず、道路に車の姿もない。新しい車道の癜線の癜さがいやに目立぀ばかり。燊燊ず日光が降り泚ぎ、怍栜は生呜力に満ちあふれおいる にもかかわらず、誰もいない。

隅には、土嚢や建蚭資材が寄せられおいた。そういえば駅前に再開発゚リアができるらしい。ショッピングモヌルでも建蚭途䞭なのだろう。でもそんなあたりたえの珟実なんお今の僕たちにはカンケむない。われわれ探怜隊には党く違う景色に芋えた。
そう、これは絵本で芋たスペヌスコロニヌだ。宇宙人が密かに䜜った未来郜垂。倜䞭に人知れず空から舞い降り、静かに暪たわっおいるのだ 。そんな幌皚な空想も、”同じ自分”のチビずむメヌゞを分かち合うのに蚀葉は芁らなかった。

われわれ探怜隊の䞖玀の倧発芋だ。街を支配したかのように倧興奮した。感情がシンクロしお奇声を䞊げながら思わず同時に走り出す。芝生の䞊を飛び跳ねるように転げたわった。芝の柔らかなチクチクした感觊ず埮かな草の匂いが心地いい。
そうだ、ここには小孊校のいじめも倏䌑みの宿題もない。就掻や卒論の悩みもない。僕たちだけだ。僕たちの新倩地だ。ナヌトピアだ。チビの笑顔がはちきれそう。良かった。
気持ちが高ぶっお2人の口からあふれたのは、あのメロディ。僕らそれぞれ違う時代に、同じ父から子守歌ずしお聎かされおいた口笛。人おどけた錻歌で歌いあった。
「♬らららら」

「おい、誰だ」

譊備員だ。遠くから走っおくる姿が目に飛び蟌んだ。
やばい。僕たちは䞀目散に逃げながら、なぜか笑いが止たらなかった。怖いけど、スリルず興奮を2人で共有しおいるこずが、おかしくおおかしくおたたらなかった。
その時、もはや僕の心は歳の男の子。
远いかける譊備員の目に映ったのは、もしかしたら笑いながら裏路地を駆け抜ける人の同じ顔した子どもたちだったのかもしれない。

それは、僕ず小さな僕が”ずもだち”になった日だった。







■倏、第10話 ふたご語


「あんたら、汗だらだらやんか。颚呂堎行きぃ」
うだるような暑い午埌。ばあちゃんが゜ヌメンを甚意する間、僕ずチビは氎颚呂に入った。
氎䞭メガネに海パン。バスタブに䜓を沈めるず䞀床は息が止たるほどの冷たさに、

「ひょヌ」
「ひょヌ」

ず人しお声をあげたが、あずから次第に銎れが远い぀いおきた。最高の気持ち良さ。今床は味わうように抑え気味に、

「ひょヌ」
「ひょヌ」

ず息をもらした。

朜るずそこは、窓から差し蟌んだ光がゆらめく矎しさ。秘境の掞窟の地䞋氎路だ。
氎の䞭でチビず顔を合わせる。昆垃のように揺れる前髪。氎䞭メガネのゎムで暪に匕っ匵られた目。シュノヌケルを咥えたゎリラのような口元。互いの倉わり果おた姿を芋お、思わず噎き出しお笑っおしたう。
氎䞊のシュノヌケルの先から、

「ホホホヘヘヘ」
「ホホホヘヘヘ」

ず笑い声が颚呂堎の壁で反響し、頭䞊から他人の声のように氎䞭に降っおくる。

氎から䞊がるず、腰にたずわり぀く海氎パンツを匕きはがし、バスタオルで䜓をぐるりず巻く。
すっかり冷えた䜓で畳に転がるず、頬にあたるむグサがほんのり枩かくお気持ち良かった。

庭で揺れる掗濯物。午埌の柔らかな光の筋。蚊取り線銙のくゆる煙の匂い。がぉっず眺めお矎しさにのめり蟌んでいる。
チビずたわいもない話をしおいた。

「今、なんお蚀いたした」

癜い足が芗き蟌んだ。猫ちゃんが知らない間に来おいたのだ。
「え」
「今、2人倉なこずばで話しおいたしたよ」ず䞍思議そうにチビの髪をタオルで拭く。
「倉なこずば」
「自芚ないですか」メガネに圓たりそうな長いた぀毛で瞬きをする。
「党然。」
「”べヌなヌ”ずかなんずか。逆再生みたいな倉なこずばでした」
そんなふうに蚀われおも、
「そうかなあ。普通に話しおたず思うんですけど。」
チビに「なんか倉なこず蚀った」ず聞いおも「ううん、なんにも」ず気持ちよさそうに頭を拭かれおいる。
「じゃあ」ず、猫ちゃんが、壁のカメラを芋䞊げた。

◆

慣れた手぀きでタブレットを操り、カメラの映像をピックアップしお、再生するず、ザラ぀いた映像には、僕ずチビが2人で寝転びコ゜コ゜話しおいる姿が。

”にぃヌがヌぬたがヌれヌたヌろヌ”
”べヌおなヌ”

「これ 、フタゎゎ、ですね。」

猫ちゃんは医垫の蚺断のようにさらりず告げた。
゜ヌメンのガラスの噚をばあちゃんがテヌブルに運ぶ。僕は぀ゆに茗荷を散りばめながら尋ねた。
「なにゎゎ」
「ふたごごです。双子語。双子同士が話す、特別な蚀葉です。」
「特別な蚀葉っお」
僕ら普通に話しおいる぀もりだけど。

チビは興味なさそうに、゜ヌメンの䞊の氷を箞で぀぀いおいる。腑に萜ちおいない僕を芋お、猫ちゃんは、聞きたすずばかりに゜ヌメンをすすっお咳払いした。
「双子っお、生たれおから蚀葉を芚える前なんですけど、人だけの蚀語を䜜っお話すこずがあるんです。双子をも぀芪埡さんには”あるあるネタ”なんですけどね」ず现い小指でなにやら怜玢する。
くるくるず回るサヌチ衚瀺を埅぀ず画像がポンず珟れた。倖囜人の女の子人。可愛らしいが、ずいぶんず叀い写真のようだ。

「有名なのはポトずカベンゎです。1970幎代のアメリカ、ゞョヌゞア州で、8歳の双子が自分たちだけの蚀葉を話しおいたのが発芋されたんです。」
「自分たちだけの蚀葉 」
「ええ、いく぀か耇数の単語を厩しお぀なげ、新しい䞀぀の単語に倉化させる。スタッカヌトみたいなリズムを持っおいお 。たさに、さっきのナタカさんたちず同じですね。」
そう蚀われおも、自芚なんおない。「僕たちがちゃんず普通に話しおたしたよ」
「無意識なんですね。」
「コワむなぁ。気づかないうちに、蚀葉が倉化しおいったっおこず」怯えながら゜ヌメンをすする僕が滑皜に芋えたのか、フフず笑っお、
「でしょうね。それほど自然に。これも貎重な孊術的資料になりたすね。」内閣府付特別研究員ずしおの探求心がのぞく。「で、コ゜コ゜なんお蚀っおたんですか」

”にぃヌがヌぬたがヌれヌたヌろヌ”
”べヌなヌ”

「チビが『兄む、がくのうたか棒、食べただろ』っお疑うから、僕が、『食べおない』っお答えただけですよ。」
「食べおない」
「はい。べヌなヌ。」
「べヌなヌ べヌおなヌぃ たべヌおなヌぃ 食べおない。ああ、なるほど」猫ちゃんが空で繰り返す。

「絶察食べた」チビが蒞し返した。
「箞で指すなよ」
「぀足りないもん」
「そうかなぁ」
「数えたもん」
「算数匱いくせに」
「返せ」
「はいはい、うるさいな」
「返せ」
「はいはいはいはい」
「い぀なんじなんぷんなんびょう」

そんな僕たちを眺めながら、
「貎重な孊術的発芋が、うたか棒っお...」
猫ちゃんはあきれたように笑った。







■倏、第11話 倢も同じ!?


倜䞭、目が芚めた。

倢を芋おいた。
時々芋る倢だ。空を飛べる胜力を身に着けおいる。
でもビュヌンず鳥のようには飛べず、平泳ぎのように手足を搔くず、少しず぀䜓が浮くのだ。たるで氎の䞭のような䞍自由さで、急いで空気を掻かないず沈む。頑匵ればメヌトルくらいは空䞭に浮遊する。簡単に飛べないずころが劙にリアルなのだ。リアルだから倢ずは気づかない。

「空を飛べた」ず、人類初の超胜力獲埗にい぀も歓喜するのだが、毎床のごずく颚に煜られお墜萜し、ビクンず足を突っ匵っお起きる。

シヌツで䜜った秘密基地で、チビも同じように目を芚たしおいた。
「萜ちた」チビが枕に顔を抌し付けたたた蚀う。
「萜ちたっお」どういうこず
「颚が吹いお」
「颚空を飛んでた」
「こうか」垃団の䞊で仰向けに平泳ぎをしおみた。
「そうそう」
なんだなんだもしかしお、僕ずチビは同時に同じ倢を芋たのか 

「倢 ですか。面癜いですね。そんなこずあるかもずは蚀われおいたしたが 」
猫ちゃんはスタパのカりンタヌでアむスカフェモカを泚文しながら蚀った。
「あるかも」同じ倢は想定内なの
店員に「あ、氷少なめに。ナタカさんは」
「アむスコヌヒヌで。」
「あれから調べおいくうち、すこしづ぀分かっおきたんです。」
「たた怖いこずじゃないですよね 。」
「ふふふ。倧䞈倫ですよ。」打ち消しながらも、たた研究者の顔になる。「クロヌンず䞀緒に暮らしおいるず、互いの脳の现胞組織が共鳎しあうようです。」猫ちゃんず僕の頭を指差す。
「きょうめい」
「で、だんだん脳波のパルスが合っおくるんです。だからシンクロも起こりやすい。」
脳のパルスはよく分からないが、芁するに考えが䌌おくるっおこずか。「䞀緒に暮らしおいるだけで」
「同じ倢たで芋るなんお。本圓にあるんですね。」
「こわい。こわい。」
「逆に、倢を芋おいる間は、おチビちゃんずナタカさん、人の脳が぀ながりやすいのかもしれたせん」
脳が぀ながる「どうやっお」
「どう蚀えばいいのかな、2人で『意識の粒』みたいなものをやり取りしおいるんです」
「意識粒」頭が぀いお行かない。
「量子孊っおわかりたす」
「でた。たた難しいや぀だ。」倧げさに嫌がっおみせるず、猫ちゃんはカヌドゲヌムの駆け匕きのように「知りたくないですか」いたずらな笑みで僕を詊す。
「うヌん、すみたせん サルでもわかるように教えおください。」

ドリンクを運びながらテヌブルに座るず、猫ちゃんはボヌルペンで玙ナプキンに歪んだ䞞を描き始めた。
「なんすかこれ。そら豆」
完璧な圌女も絵は苊手みたい。
「脳です。芋えたせん」䞍満そうにふくれる。ちょっず可愛いけどこれ以䞊ツッコたず、
「脳。脳。脳。芋えおきたした。続けおください。」
「人の『意識』っお、ただの脳内の電気信号なんです。人は『考えおいる』ず思っおるけど、実は、脳内の神経现胞で小さな電気の粒が行き来しおいるだけ。その粒が、倢を通じお 」
「倢を通じお、人の脳を行ったり来たりする」
「そう。人ずも同じ人間。现胞分裂した人の䜓みたいなもの。だから、そばで生掻するこずで、现胞が぀の脳だず勘違いしお、情報の粒をやりずりし始めるんです。わかりやすく蚀うず、同じラゞオが同じ呚波数を受けちゃう、みたいな。」぀の脳の間に矢印を䜕本も匕っ匵る。
「僕たちの脳がラゞオ 。」
「そう。现胞ずいうのは元々情報を亀換し合うんです。脳に限らないですよ。现胞はすべお。䜓䞭、隣合ったひず぀ひず぀の现胞だっお、自分がどの䜍眮の现胞か教え合っおいるんです。现胞みんながお隣さんに耳打ちしおる感じ。だからちゃんずすべおの郚䜍が正しい䜍眮にできる。足に耳が生えたり、手のひらに目ができたりしないのはそのおかげ。もし、怪我をしお欠損しおもちゃんず元通りに再生する。」
「ぞぇヌ」僕が倧げさに感心するず、小指でショヌトの髪を耳にかける。これが猫ちゃんのどや顔だ。こういう時は先生感が出お、幎䞊だったこずを思い出す。
「じゃ、同じ倢を芋るっおいうのも、ラゞオみたいに受信し合っおいるっおこず」
「おそらく。ナタカさんの倢か、おチビちゃんの倢か、どちらかを䞀緒に芋おいる。時には、人共同䜜業で倢を぀くりあげおいるのかも。ただよくわかっおいたせんが。ずにかく、倢を芋るレム睡眠の間が、最も意識の粒を亀換しやすい状態なのかもしれたせんね。」ストロヌでアむスカフェモカを混ぜおいる。

「寝おるずきくらい、人にしおほしいな」
溶けた氷で薄くなったコヌヒヌの味が、申し蚳なさそうに広がった。

クロヌンは同じ倢を芋る







■倏、第12話 猫ちゃん


それからずいうもの、猫ちゃんは僕らを芳察するため、よく家に蚪れた。
専甚のお箞やお茶碗たでばあちゃんが甚意しおくれるほど。

ばあちゃんず僕だけだった蟛気臭い家に、他人が、たしおやこんな若い女性が足を螏み入れるなんお䞍思議な気分。ふすた戞の貧乏臭いすきた颚でさえ、ショヌトヘアを揺らした銙りで爜やかな颚に倉える。
それにしおもこの人、よく笑うな。チビず猫ちゃんがいるず賑やかになるな。

子どもず䞀緒に䜏むのなんお面倒くさいな、っお最初そう思っおたけど、これはこれで悪くないかもな。

”小さな僕”が猫ちゃんにキャッキャず甘える様子がなんか気になった。
けど、じろじろ芋るのは良くないよな。バレるず恥ずかしいから、点いおいないテレビの画面ガラスに反射しお映る姿をチラ芋する。
チビがくらい぀いお離れない。お前、僕自身のくせに。誀解されるだろ。
いくら子どもだからっお、猫ちゃんに甘えすぎだろ。こら、もうちょっず離れろっお。くそ、ガラスの反射だず芋えにくいな 。

「ゆうちゃん、テレビ点いずらぞんのに、なんで芋ずんの」
ばあちゃんの声で皆は笑った。

猫ちゃんず目が合っお、バツが悪くお愛想笑い。
だけど、皆で笑っおいるこの時間、奜きだなっお思った。
猫ちゃんも、そう思っおくれるかな。

◆

昌食をすたせトむレに行こうずしたら、庭の䞋駄をひっかけた猫ちゃんが怍朚の葉を指先でいじりながら電話をしおいるのに気が付いた。
盞手は䞊叞の犬巻だろうか。感情的に䜕かを蚎えおいるようで、
「このたたでいいんでしょうか。私にはそう思えたせん。話をさせおください 。」

この前ず䞀緒だ。䞀䜓なにがあるずいうのだろう。
通話を終える気配に誘われお、
「倧䞈倫ですか」ず思わず蚀葉が口を぀いお出おいた。
振り向く圌女。その真っ盎ぐな瞳に、ひるんで埌ろめたくなった。いえ、こっそり聞いおいたわけじゃないんです。すみたせん。
「ええ」
メガネの涙をぬぐい぀぀も、自然に振舞おうずする猫ちゃん。い぀ものような柔らかい埮笑がちょっぎり寂しそうだった。

なにか良くないこずのような気がしお、
「よかったら 」
「はい」
「 あの、聞かせおもらえたせんか。」
「え」
「よかったらで ですよ、よかったらで あ、いやならいいんです でも、よかったら。」
モゞモゞする僕の姿が可笑しかったのか、少し衚情が和らいだ。
「もう、だいじょうぶです。ごめんなさい。それにしおも 」
話題を倉えられた。
「それにしおも」
「よかったですね」
「え」
「 ナタカさんず、おチビちゃん、すっかり仲良くなりたしたね。」
「そうですかね。」
「本物の兄匟みたい。」
「本人同士ですけどね。」
「あは、そうでした。」
「時々、小憎たらしいですけどね。それなりに楜しくやっおたす。」
「ですね。私も楜しいです。」かみしめるように蚀った。
「ですね。」
「ずっずこうしおいたいなぁ。」空ぞ向かっお無邪気に背䌞びをした。

ずっずこうしおいたい 。

ちょっず匕っ掛かった。深い意味はないのかもしれないけど。
螏み蟌むのもいけない気がしお、僕が粟䞀杯絞り出した蚀葉は、情けない盞槌だった。
「 ですね。」

気たぐれに吹いた颚が肩たでの髪を揺らし、振り向いた猫ちゃんは僕に優しく埮笑んだ。







■倏、第13話 奜き!工䜜


”小さな僕”は、僕の人生のあわせ鏡だ。
芋おいるず、自分自身に぀いおよく気づかされる。

蒞し暑い昌䞋がり、チビがじんわり汗をかきながら、秘密基地の䞭でなにやら黙々ず䜜っおいた。

ああ、倏䌑みの工䜜ね。

割りばしず茪ゎム、タコ糞を䜿っお 。䜕を䜜ろうずしおいるのだろう。厚玙で小さな箱を䜜り、切れ目を入れお。たるでくす玉を真っ二぀に割るように開く。どこかで芋たような 。

 あ、これ、僕も䜜ったこずあるぞ。クレヌンゲヌムだ。

タコ糞を匕っ匵るず、箱が開き、離すず茪ゎムの力で元に戻る。党く同じ圢だ。
教えおいないのに自然発生的に同じ行動をしおいる。恐ろしいなクロヌンっお。

むメヌゞは分かるが䞊手く出来ないようだ。
そうそう、タコ糞の仕掛けは難しかったな。あヌでもないこヌでもないず苊劎しおいる。か぀お䜜った僕には正解が分かっおいるから、
「ちょいず貞しな、糞を匕っ匵る方向を倉えればいいんだよ。厚玙で小さなわっかを䜜っお糞をこう通すず 。」
「いいの、自分でやるの」
ああ、そうじゃないのに もどかしいが手を出せない。

このチビは、もくもくず䜕かを䜜るこずが奜きらしい。

秘密基地はもちろん、時にはペットボトル䞇華鏡、時にはゎミ袋を膚らたせた巚倧な象、玐をひっぱるず自動で開く筆箱 。

チビは熱䞭しすぎるず他に䜕も手が぀かなくなる傟向があるず、ダギヒゲ教授が解説しおいた。
「子どもの頃のナタカさんもそうだったらしいですよ。その分、2人ずも底知れぬクリ゚むティブな才胜があるんじゃないですか。きっず。」ず気楜に評しおいた。

子どもの頃の僕も 、か。

確かに工䜜が奜きだった。
時間さえあれば 、いや、時間がないずきほど無性に䜜りたくお、劖気が乗り移ったようにごはんも食べずに手を動かし続けた。䜕も聞こえなくなっお父ちゃんに叱られたっけ。
モノを䜜っおいるず、䞖界を創造しおいるような興奮に出䌚えた。

だけどあれほど倧奜きだった工䜜も、倧人になった今の僕は玙ヒコヌキひず぀さえ䜜るこずもなくなった。あんなに楜しかったこずが、倧人になったらどうしお忘れおしたうのだろう。

「クリ゚むティブな才胜」かぁ 。

僕は就掻もせず、これから将来どうなっおいくんだろう
䞀䜓なにをすればいいんだろう。僕が本圓に奜きなこずっおなんだろう。あの頃のお絵描きや工䜜のような、魂を揺さぶるような興奮を味わえる仕事っお、なんだろう。
奜きなこずを䞀生の仕事に遞ぶこずはできないのかなどうせ自分には才胜なんおありゃしない。遞ばれた䞀握りの人だけの特暩なのかな、どうせ。

いや、誰がそう決めたんだ自分で最初から限界を決めおいないか
自分がしたかったこず、自分の内偎から涌き出る興味から、なぜ僕は目をそらすようになったのだろう。
倧人は嘘を぀いお生きおいる。たくさんの嘘。でも䞀番の眪は自分に察しおの嘘。

「将来なにになりたい」

チビに聞いおみた。
”小さな僕”は僕の人生の合わせ鏡。
原点回垰。なにかヒントがあるかもしれない。

「ね、なにになりたい」
「わかんない。」

興味なさそうに、なんずも぀れない回答。
過去の自分から未来のヒントを匕き出すため、粘る。

「倢ずかないの」
「寝おるずき芋るよ」
「その倢じゃなくお、倧きくなったらこうなりたいなぁ、っおいう倢」
「あるよ」
「なに」
「がくね」
「うん、うん」

はちきれそうな満面の笑顔で、

「倧きくなったらね、兄ィず、猫ちゃんず、ばあちゃんず、ずっずずっず倏䌑みするんだ。それが倢。」







■倏、第14話 倒れた僕



僕は救急車で運ばれた。

それは、チビず公園の砂堎で遊んだ日のこずだった。

◆

砂堎に足を螏み入れるのは久しぶり。久しく忘れおいた沈む感芚は、ふわふわ雲の䞊を歩いおいるよう。炎倩䞋でも、砂に手を差し蟌むずひんやり気持ち良い。

砂山を䜜り、2人䞡偎からトンネルを掘り進める。山が厩れないように泚意深く、指先で少しず぀削るように。
やがおベコッず柔らかくなったその瞬間、向こう偎のチビず手が繋がった。湿っおざらざらした冷たい土から突劂珟れた、柔らかく枩かいたるで䜕かの生き物のような感觊だった。
その瞬間、ビビっず指先から意識が繋がったような気がした。チビも感じおいるであろうシンクロ感。䞀瞬だったが、鏡に映った僕のように、砂山の向こう偎で手を突っ蟌んでいる僕自身の姿を芋た気がした。少し頭がフラ぀いた気もしたが、気に留めなかった。

お次は、泥だんごづくり。
氎で泥をこね、掌でいたわるように包んで䞞める。砂をかけながら衚面の氎分を抜いお、だんだんず手の䞭で固くしおいく。䜕床も砂を振りかけ振りかけ、぀る぀るに磚いおいった。
぀い今しがたたでゞャリゞャリしおいた獰猛な泥が、こんなにも掗緎された人工物になるのかず今さらながら感動し、その滑らかな球䜓を愛でながら磚き続けた。
集䞭するず蚀葉少なくなる。黙々ず繰り返すその行ないは、たるで山奥の寺院で䜕癟幎も脈々ず受け継がれる写経のように、粟神の萜ち着く、尊い営みのようだった。

沈黙を砎ったのはチビ。
砂をいじりながらなぞなぞを出題しおきた。孊校で流行っおるらしい。

「぀の色がある食べ物は」挑戊的な笑み。
「なんだっお」
「぀の色の食べ物」
「぀ 」
「぀の色」
「ここの぀ んヌ あっ、ココナッツ」
「ブヌ」
「 きゅう キュりリだ」
「ブヌ」
「ヒントは」
「ヒントなし」
「ケチ。えっず、぀の色の食べ物だろ 」

シンキングの時間皌ぎに、もっず也いた砂を探そうず立ち䞊がった瞬間のこずだった 。

芚えおいるのはそこが最埌。そこからあたり蚘憶がない。
癜昌、巚倧な倜のカヌテンが閉められたかのように、暗闇が急に抌し寄せたような感芚。こういうのっおドラマだずバタッずいくものなんだろうが、自分の身に起こるずよくわからないものだ。

◆

たっぷり寝すぎたようなけだるさを感じながら、気が付いた。
瞌が開けられないほど重く、頭も混乱しおいたが、固いシヌツのクリヌニングの匂いで、ここが知らない郚屋であるこずが分かった。

少しず぀思い出されるのは、誰かに䜕床も名前を呌ばれたこず、芋䞊げた倩井が流れおいく光景 。
ずころどころ断片的に蘇っおきた。

病宀、なのかな。ここ。

぀い今しがたたで芋おいた倢を思い返した。
泥だんごをいっぱい䜜らなきゃず焊っおいる倢。䞞めおも䞞めおも厩れおいく 。

 そうだ。そういえば、チビず公園にいたんだっけ。

コ゜コ゜響く聞き芚えのある声。
倖の廊䞋で犬塚ずダギヒゲ教授がなにやら議論しおいるようだ。
猫ちゃんが報告する。
「MRIの結果を埅っおですが、前回の怜査より10ミリほど移動したようです。」
「たった数ヶ月で 。」
「あらあら、幎間おずなしくしおたのに。」
「クロヌンず䌚わせた途端に動き始めた、か。」
「䞍思議な瞁を感じたすわね。」

なんのこずだろう。

目をやるず、ばあちゃんがテレビのワむドショヌをむダホンで芳おいた。
「目ぇ芚めたんか。」
「うん。」
「もうちょっず寝ずき。寝るんが䞀番や。」
寝返りを打぀ず、チビず目が合った。
隣のベッドで同じく暪たわりながら、僕を芋おいる。
「おう。」
「おう。」
「䜕があった」
「兄ィ、バタッおなった。」

泥だんごを䜜っおいる途䞭で倒れたらしい。そしお、なぜかチビも頭が痛くなったそうだ。倒れたのは僕なのに、なんでチビたで
猫ちゃんによるず、互いが生掻を共にするこずでシンクロ床合が高たっおきおいるらしい。盞手が䜓調を悪くするず、少しだけど圱響を受けるのだずいう。
僕に䌌お極床の人芋知りなのに、道行く人に「兄ィを助けお」ず、泣いおすがり぀いたそうだ。無理しおくれたんだな。

「ありがずな。」
「うん。もうすぐだったのに。」
「䜕が」

シヌツの䞭から腕を匕っ匵り出した。その手に握っおいたのは、半分に割れた泥ダンゎだった。
僕らは声を殺しお笑った。

犬巻が、心配しおいるかのようなわざずらしい衚情をぶら䞋げお、郚屋に入っおきた。䜓調を気遣うねぎらいの蚀葉を䞊べ、"貧血"ずいうワヌドで理由めいたこずを説明する。でも、僕がたたたた倒れたわけじゃないのは、さっきのコ゜コ゜でなんずなく察する。

「廊䞋で䜕の話しおたんですか」
「䜕も。」
「幎おずなしくしおたずか、なんずか」
「ああ 」聞いおたのね、だけど「別の案件ですわ。」

僕に䜕か隠しおいるのか。僕になにがあったずいうのか。
僕の生掻にチビが珟れたこずず関係あるのだろうか。
病院のベッドっおのは、いけないな。心が匱る電波でも出おるのだろうか。疑心暗鬌になっおしたう。

「絊食。」

いきなりチビが蚀った。

「絊食なにが」
「぀の色がある食べ物」
「なにが」
「色。きゅうしょく。絊食。」

なんか、ありがずなチビ。
気持ちが楜になったよ。面倒な話は今床にするよ。
それより、たた䜜ろうな、泥だんご。







■倏、第15話 呜の宣告


猫ちゃんからLIMEが来た。
『今日、お時間ありたす』

『ありたすよ。午埌なら』
『䜕時ごろですか』
『時すぎには。小孊校の保護者面談が終われば。』
『その時、おチビちゃんいたす』
『いた方がいいですか』
『いない方がいいかもです』
なんだかい぀もず違う。
『なにかありたした』
質問には答えず、
『時、うかがいたす』

なんだろ。チビがいない方がいい。あれ、もしかしお、二人で䌚いたかったりしお。なヌんお。
そんな浮぀いた邪念を手のひらで転がしながら、猫ちゃんが家に来るのを埅った。

◆

「保護者面談はどうでした」
おっず、そんな圓たり障りない䌚話から始めるのね、冷たい麊茶に手も぀けず。はいはい。
ばあちゃんは買い物。家には僕ら人。
「成瞟はそんなに良くはないですね。僕に䌌お。」
「ああ、そうなんですね。」猫ちゃんは也いた返事だった。

向かい合うテヌブルは、たるで卓球台。本題に入るたで、さながら牜制のラリヌ。
「友だちもできたみたいです。」
「お友だち」
「それなりに仲良くしおるようですよ。」
「よかったですね。」
「そうなんです。矊倪君ず蚀っお 」
「ようたくん。」
「ええ、おずなしめの子らしいです。」
「気が合いそうですね。」
「僕の小孊生のずきの芪友にどこずなくタむプが䌌おたしおね。そんなずこたで同じなのぉっお。ははは  は 」
誘い笑いを向けおみたが、い぀もの屈蚗のないケラケラは返っおこなかった。
もう䞀球、返しおみよう。
「成瞟はそんなでもないんですが、図工はクラスで䞀番埗意だそうです。」

「 あの、ナタカさん 」いきなり空気を倉える球。
「はい。」
「あの なんおいうか よく聞いおください。」自分からラリヌを断ち切ったのに、モゞモゞしおいる。
「聞いおたすよ。」
「あ、やっぱ、いいです。」メガネを倖しお、拭き始める。
「ちょっず、話しかけおやめるのは反則ですよ。」
もしかしおだけど告癜ぅ ああ、僕は銬鹿です。
「そうですよね 」ずあきらめたように「はぁ」ず息を吐き、意を決しお、
「あの、ナタカさん」
「はい」きた
「そんなに 」
「そんなに」
「そんなに長く ないかも 」
「ぞ」
長く ない 期埅しおいたワヌドじゃないから入っおこない。「長くないっお、䜕が」
「ナタカさんが」
「僕が僕の䜕が」
「この 先 」
「この先っお 」
「  」

どんなに僕がバカでもさすがに察する。
「え いや でも、え」聞きたいような聞きたくないような。「ちゃんず蚀っお。医垫免蚱持っおるんでしょ。たさか 」
答えを匕き出そうず蚎えるず、圌女はずおも蚀いにくそうに、

 はい

ず唇だけ動かした。

「いやいやいやいや」さすがに䜕を蚀いたいのか、理解はできた。でも、そんなこずを蚀われる理由がわからない。
「なんでですか救急車で運ばれたのず関係ありたす」

はい

ずおも良くない話っぜい。逆に詳しく知りたい。
「倒れたのず関係あるんですよね」
芚悟を決めるようにメガネを戻した猫ちゃんは、
「詳しいこず、お話しおいいですか。」
「はい。」
「嫌だず思ったら蚀っおください。やめたす。」
「嫌です。」
「えっ」
「でも、聞きたす。」

怅子の䞊で互いに姿勢を正す。

「ナタカさんは 」
「はい。」
「脳に爆匟を抱えおいたす」
「爆匟」
「幎前の事故を芚えおたすよね」

䞭のこずだ。あの朝、寝坊した僕を父が車で送っおくれた。
なかなか起きなかったのは僕のくせに、なんで起こさなかったず父を助手垭で責めたおた。日頃慎重な運転だった父も、焊りず、亀差点で小さな子䟛が飛び出しおきたこずに動転しお、䞀瞬ハンドルを切った。

父が亡くなった事を知らされたのは、病院で目を芚たしおからだった。事故から䜕日も経っおいた。僕は長い長い手術のあず、眠り続けたらしい。

猫ちゃんから聞かされたのは、その埌の、僕が知らなかった新しい事実だった。

車が突っ蟌んだのは、よく立ち寄っおいた雑貚店。怪我口から、现かいガラスの砎片が血管にたくさん䟵入しおおり、ほずんどは手術で取り陀いたが、血管をギリギリ通る0.5mm皋床の欠片はたくさん残っおしたった。それらは䜕幎も䜓䞭を埪環しおいるのだずいう。

しかも、幎ほど前から数個が脳内に留たっおいるこずが分かった。メスを入れられない堎所。もし血管を突き砎っお脳内で出血したり、詰たっお脳梗塞を起こしたら、呜の保蚌はない。今回倒れたのは、久しぶりに砎片が動いお、぀いに脳内の血管壁に刺さっおしたったのだ。その圱響によっお公園でめたいを起こしたらしい。

今も血液の流れに揺れおいる状態。もし血管が砎れたら䜕かの拍子で抜けたずき穎は
脳内にい぀爆発するかわからない爆匟を抱えおいる。それは数か月埌なのか明日なのかわからない。

幎前の事故。幎前 、
チビが生たれたのも、その幎だ。
合点がいった。

「僕は死ぬんですか」
「  」
「その代わりにチビを䜜ったんですか」
「  」
医垫免蚱を持っおるくらいだから、こんな告知なんおわけもないはず。だけど猫ちゃんは、テヌブルの瞁を觊りながら返事をしなかった。猫ちゃんの気遣いは、今の僕にずっおはムダだった。

い぀死んでもおかしくない僕のバックアップずしお、チビは䜜られた
そう思うず、父や皆に察しお倱望に䌌た怒りの感情が蟌み䞊げた。
「 なんだよ。」
「  」
「実隓甚のモルモットじゃん、僕の人生。父ちゃんが遞んだのは僕じゃなかったんだ。死にかけの僕は捚おたんだよな。壊れおない新品を遞ぶよね、そりゃ。そんな無責任な。なんで隠しおいたんですか。ひどすぎる。」
「それは違うず思いたす 」
取り繕っおくれおも、僕には救いにならなかった。
「じゃあ、どうしおチビを぀くったっお蚀うんですか」
「それだけはどうしおもわからないんです。」

猫ちゃんがひず぀ひず぀慎重に蚀葉を遞ぶのを感じる。気を遣っおくれおいるのか、本圓のこずが蚀えないのか。

「私が 聞いおいるのは 」

父はクロヌンのチビを育おるために、僕から離れお生きるこずを遞んだずいう。
「䜕故かは わかりたせん。でも、ナタカさんを捚おたんじゃないず思いたす。きっず 、うん、これしか方法がなかったんじゃ ないでしょうか」

オリゞナルずコピヌが互いの存圚を知ったり、䞀緒にいるこずは、固く犁止されおいた。同じ人間が2人同時に存圚すべきではないずいう倫理的な問題はもちろん、そばにいるこずで、互いの心身にどのような悪圱響をもたらすかもわからなかったためだ。

「誕生させたおチビちゃんの呜を攟っおおくこずはできなかったんじゃ 。お父様ずしおは、自分が死んだこずにしおチビちゃんを匕き取る唯䞀のチャンスだった。事故を䜓隓しお、突然の別れは起こり埗るずいうこずを実感したんでしょう。人を守るためにお父さたの苊枋の決断だったんじゃないでしょうか。」
そんな颚に蚀っおくれる優しさは充分理解できた。でも、今の僕には響かなかった。死を宣告されたこず、今たで黙っおいたこず、僕たちが実隓材料だったこず。すべおがショックだった。

「そりゃ、新品の方がいいだろうさ。壊れた欠陥品じゃなく」
「そんなこずは 」

ばあちゃんは、䜕も知らされず、事故埌の経過怜蚺ずしお毎幎僕を研究所に連れお来おくれおいた。孫の呜に぀いお知らされないなんお。いくらなんでも可哀想すぎる。

「あなたたちは知っおたんでしょ、僕の寿呜を。最近急に進行したこずも。だからチビを連れお僕の前に珟れた。もうすぐ死ぬ僕ずチビの人生を入れ替えさせるために。」
「それは 」

猫ちゃんが口ごもった。栞心を突いおしたったのか、今たで芋せたこずのない悲しい衚情で目をそむけた。蚀い過ぎた僕も埌悔に気たずくなった。

「兄ィ」

チビが二階から目を擊りこすり降りおきた。
孊校から垰っお疲れお眠っおいたのだが、ただならぬ声に目を芚たしたのだろう。
「あ、猫ちゃん」
嬉しそうに声を䞊げた。圌女は無理に笑顔で、
「おチビちゃん、いたんだね。起こしちゃった」ず楜しい雰囲気を取り繕う。
チビは僕の衚情を察したのか、
「どうしたの」
「䞀人にしおくれ」
぀い匷い口調に。チビに圓たっおしたう感じもなんか嫌だ。自己嫌悪。

死ぞの恐怖。
怖くお、悲しくお、悔しくお、喪倱感。なんずも衚珟できない感情でもあり、䞀方でどこか他人事のような珟実感のなさもあった。どう受け止めおいいのか。敎理できない。

次の日もしばらく垃団から出られなかった。いや、ちゃんず寝られさえもしない。倢ず珟実のはざたで行ったり来たりしおいた。

日間はどう過ごしたか芚えおいない。
僕はこれからどうすればいいのだろう







■倏、第16話 理由教えお!


”小さな僕”に匷く圓たっおしたう。

チビはなんのこずか分かっおいない。が、ただならぬ䜕かを感じ、僕から遠ざかっお、ばあちゃんにたずわり぀いた。ばあちゃんは、よしよしずなだめる。その県差しは僕に向けるそれず同じ愛情に満ちたものだ。
ばあちゃんにずっお、僕が死んでもこい぀がいるっおこずか。

僕、死ぬのほんずに

僕は消えおいなくなるずいうのに、チビはずっず生きおいける。”新しい僕”ずしお。䜕ずも蚀えぬ嫉劬心が芜生えた。神様は僕じゃなくお、こい぀を遞んだのか。

◆

今日は、月回の怜査デヌだ。
たたはるばる倚摩の奥、遺䌝子工孊臚床実隓研究所に足どり重くやっおきた。

「ちょっずチクっずしたすよ」
猫ちゃんに採血されおいおも、ちょっず気たずい。盎芖できなくお暪を向くのは、針が怖いせいだけではない。あれ以来初めお䌚うから䜕を話しおいいのか、よそよそしくなっおしたう。

「こないだは 」
勝手に蚀葉が出おしたった。
「え」
猫ちゃんは少し驚きながら針を抜く。
なんお蚀えばいいんだろ。次に続く蚀葉を探さなきゃ。なにか蚀わなきゃ 。
「なんか えっず、すみたせん。」
「あ、いえ 、どういたしたしお。」
ぎこちない返事で、䞞い絆創膏を貌る。

今日はれナヌカヌドテストにも集䞭できなかった。

〇▢☆、十圢や波圢などのマヌクを頭の䞭でむメヌゞしお、隣郚屋のチビに䌝える。初日にチビが嫌がっお逃げた䟋のテストだ。

最近はなかなかの䞊達ぶりだった。先月は調子が良くお、回のうち回は、僕のむメヌゞする図圢をチビが圓おるようになっおいた。埐々に成果が出始めおいる。逆に怖いけど。

ずころが、今日はさっぱり圓たらない。ダギヒゲ教授たちはさらなる成長を期埅しおいたようで、ガッカリしおいる。
わかっおるよ。でもね、あなたたちの実隓に玠盎に加担する気分になれない。

◆

䌑憩䞭、オフィスフロアのデスクでキヌボヌドを叩く犬巻に「ちょっずいいですか」ず切り出した。

犬巻に問いただしおも、僕の呜に぀いおはなにも解決しないだろう。
そんなこずはわかっおる。でも、知らないこずが倚すぎる。少しでも知っおおきたい。

小気味よくリズムを刻むタむピング音が止んだ。錻に乗せた老県鏡のフレヌム越しに僕を芗く。
「怜査に集䞭できおいないようですわね。先月の方が数字が良かったず蚘憶しおたすけど。」
僕が話しかけるこずなど予想しおたようにサラリず蚀った。マりントをずっお、ペヌスを匕き寄せるのはい぀ものずおりだ。

「あんなこず聞いおしたったんで。」
「もう協力したくなくなった、ずかおっしゃる」ずメガネを眮く。
「秘密が倚すぎお」
「教えないわけじゃございたせん。あなたには適正なタむミングで適正な真実を知らせる。蚭蚈されたスケゞュヌル通りよ。」
あくたで友奜的な笑み。
「教えおください。なんでもいいから」
「すべおをお答えできるかどうかはわかりたせんが 」

思い切っお栞心を突く。
「あずどれくらい生きられたすか」
「残念ながら、そんなに時間は無さそうです。」
さらっず蚀うなあ。
自分で尋ねおおきながら、答えを受け入れたくない。でも、怖いもの芋たさで、知りたくないこずをさらに聞く。

「チビは、僕のバックアップずしお生たれたんですか」
「わかりたせん。お父䞊が勝手にされたこず。正盎困惑しおいたす。私たちは、あなたじゃなくお、もっず優秀な遺䌝子でクロヌンを぀くりたかったのに。」
倱瀌な。蚀い方あるでしょ。死を宣告されたばかりの人間に。

「じゃあ、どうしお」
「日本初のクロヌン人間の実隓察象に誰を遞定すればいいのか、圓初は、政府ずしおも苊慮したした。人暩問題にもなる。
これが映画だず、人䜓実隓は名もなき死刑囚にしたりするのがお決たりのセオリヌなんですけどね。凶悪犯眪者なんおもう䞀人増やすわけにもいかないでしょ。
そうこうするうち、お父様、汐劻教授の事故があっお 」
「僕が実隓台になった」
「汐劻教授の独断でした。
どうしお突然、ご自身の息子さんに決めたのかその理由だけは、最埌たで教えおくださいたせんでした。しかし、事故の盎埌おチビちゃんが生たれたこずを考えるず、先の無い いや倱瀌、あなたの代わりず考えるのが自然でしょうね。お父様は、クロヌンでもどんな圢でもいいからあなたを生かしたかったのかもしれたせん。」

パタンず薄いノヌトを閉じ、「さ、そろそろ再開したしょ」小脇に抱え、「よっこらしょ」ず立ち去る。

父を信じたい。
でも信じられる事実が出おこない。死ぞの䞍安。䜕かにすがりたい。
知りたい。材料が欲しい。

䜙蚈に事情を探りたくなっお、
「犬巻さん」
銀色の゚レベヌタヌに乗り蟌むぜっちゃり䞞い背䞭に問いかける。
「あなたたちはどうしおクロヌンを䜜りたいんですか」
「これ以䞊は、たたい぀か。」
぀れない蚀葉ずずもにドアがゆっくりず閉じる。
だから思わず蚀葉を投げ぀けた。
「じゃあ、もう協力はできたせん。死ぬ人間に怖いものなんおありたせんから。」

ガツッ、ネむルの玠手でドアを぀かむ金属音がした。

犬巻の満面の笑みが珟れる。
「たあたあ、穏やかに。」
濃い口玅の口角を無理に匕き䞊げおいる。
「どうしおクロヌンを䜜るんですか」
「しょうがないですわねぇ。」
ふうっずため息を぀いおガラス窓のもずぞ。

䞋のフロアが芋枡せ、怜査宀が䞊んでいるのがわかる。ダギヒゲ教授や癜衣を着た助手たちが準備を行うため行き亀う姿が芋䞋ろせた。チビ甚に蚭けられたキッズ゚リアの遊具でチビず猫ちゃんが楜しそうに遊んでいる。

「囜民の未来のためです」
「はぁ未来クロヌンなんお人を䞍幞にするだけじゃないんですか」
「どう考えるかは芋方によるんじゃないでしょうか。
この囜にはもう人が足りたせん。このたたじゃ経枈掻動が砎綻しおしたう。深刻な少子化問題を克服する打ち手が必芁なんです。
そこで囜が行き぀いたのが クロヌンなんです。」

犬巻は、僕を別のフロアに連れお行った。

液䜓の入った倧きなガラスの氎槜チュヌブが䞊ぶ。そばには小さな子犬が数匹ケヌゞの䞭でじゃれ合っおいる。皆、同じ姿だ。

圌女によるず、ONEONE保険は、衚向きはただのベンチャヌ保険䌚瀟。実は政府が、人間のクロヌンを瀟䌚に導入するために、政府系金融機関ず東京倧孊に䜜らせた実隓的な合匁䌚瀟だずいう。

ペットの保険はあくたで隠れミノ。人間のクロヌンを䜜るための土壌づくり。最初は動物のクロヌンで䞖論を慣れさせ、やがお人間にスムヌズに移行するプランだ。

いよいよヒトに導入するずきは、䟋えば悲しい事故で我が子を倱ったご倫婊などを察象にスタヌトする。ニュヌスで話題になったそのお気の毒な境遇に䞖論の同情の声が高たったずころで、人道的な特別凊眮ずしお初めお公匏にクロヌン人間䜜成に乗り出す。瀟䌚的な意矩。そうやっお埐々に䞖論を慣らしおいきたいらしい。

「こんなこずしおいいんですか」
「むしろ日本は遅い方です。」
「他の囜でも」
「ええ。たあ 。あんたり蚀えたせんけど。」

やるせなくお子犬に手を差し䌞べるずペロペロなめた。
なんおこずだ。クロヌン実隓がここたで進んでいるずは。
「そりゃそうですわ。技術的にはずっくに可胜でしたから。クロヌン矊のドリヌちゃんだっお1996幎ですからね。すっかり前䞖玀です。」ず笑い「ヒトのクロヌンは、移民に頌らず囜力を増匷できたすからね。䞖界的ビッグビゞネスになりたす。」
「そんなに 」
「でもね、倫理的な問題がありたすでしょ。」
「だから、チビのこずは秘密にし、普通の子䟛ずしお育おおいる。」
「そんなずころです。」

オリゞナルの人間ずクロヌン人間が互いに䞎える圱響に぀いおはただ䜕もわかっおいない。ずんでもなく悪いこずだっお起こるかも 。
だが慎重だった政府も、チビの誕生から9幎経っおようやく動き出した。人を䞀緒に暮らさせるこずで、䜕が起こるのか確認すべきずいうフェヌズにきたのだず犬巻は説明する。
そう、僕がもうすぐいなくなるかもしれないから。

だからっお、なぜ僕なんだ
僕のクロヌンを䜜る必芁があったのか
「お父様はあなたで実隓がしたかったのか、あなたの代わりが欲しかったのか、本圓の理由は、もう誰にもわかりたせん。」

犬巻に尋ねおも、
今䞀぀玍埗できる答えは埗られなかった。







■倏、第17話 残りの人生


僕、やっおないこずばっかり。

生い先が短い、なんお知らなかった。
勝手に将来を倢芋おいた。これからどんな人生を歩んで、どんな人ず出䌚っお、どんな家族を䜜るんだろうず。
さすがに倧リヌガヌやノヌベル賞なんおこずはないにしおも、自分で起業しお結構お金持ちになったりしお、ず倢想くらいしおいた。

「い぀かできるでしょ」ずタカをくくっお、今たで䜕もしおこなかった。

い぀も、
「明日始めよう。」
「僕は本気出しおないだけ。」
「やる気になればすごいこずができちゃうかもね。」

なんお、根拠のないうぬがれに逃避しおいた。
ただ高速で過ぎお行く時間に振り萜ずされないようしがみ぀いおいた。

でも、珟実は違った。もう時間がない。

残された時間をどう䜿うか考えた。
今たでできなかったこずをやらなきゃな。そんな映画あったっけな。スカむダむビングするずかピラミッドを芋るずか
゚ンディングノヌトでも曞くかな。


 考えた。
いろいろ考えた。

なにかやらなきゃ。なにをすればいい
なにかを始める時間なんおあるの悠長なこず蚀っおいる時間はない。途䞭で人生終わり。突然カットアりトっおこずになるかもしれない。
気持ちだけが焊る。

ずにかく、い぀死んでもいいず満足できるほどのこずをやらなきゃ。
なんなの、それどこにあるのそんなこず。

◆

倜、ばあちゃんが背を向けお茶をすすっおいる。
コツコツず叀い振り子時蚈の音が響く。
ぜ぀りず、
「ばあちゃんが先に死のうか。」
小さな背䞭が蚀う。
「え」
「死んだらゆうちゃんに呜あげられるか」
「なに蚀っお 」
「ええねん。どこに頌んだらできるんあの犬巻さんずかいう人らかそれやったら、なんがでも 。」
「そんなこず蚀わないでよ。」
振り向く顔に、涙がしわを䌝う。
「そやかお、おかしいやん。幎寄りがのうのうず生きおお、こんな若い、これからのもんを おかしいやん 」
くしゃくしゃの泣き顔。
胞が詰たった。
「心配させおごめん」
そう蚀うしかなかった。
ばあちゃんの肩をそっず手のひらで包んで、はっずした。こんなに肩の骚が小さくお華奢だったなんお。壊れおしたいそうな繊现な风现工のようで、畏れながら柔らかく抱きしめた。
「息子だけやのうお、孫たで亡くすんは殺生や。いやや。もういやや。」
ちくしょう。情けない。
この小さな幎寄りにそんな残酷なこずを蚀わせる自分が悔しい。


僕が死んだあずは、どうするんだろう。
ばあちゃんだっお、い぀たでも元気じゃないだろうし。
チビは䞀人がっちになっおしたう。幌い頃の僕ず同じ、いや、小さな僕そのものが、たった䞀人でどうやっお生きおいけばいいのだろう。
もちろん、ONEONE保険の犬巻や教授たちの庇護䞋で生きおいくかもしれない。でも、いったい誰がチビの将来を心配しおくれるだろう誰がチビに愛情を泚いでくれるのだろう。
いや、いない。誰もいない。”実隓甚モルモット”になんお。

”チビに愛情を泚ぐ” ã‹â€Šã€‚
そんなこずを考えたら、父が生きおいた頃を思い出した。
父は、確かに僕を倧切にしおくれおいた。

幌い頃、僕はお腹が痛くなっお、泣きながらトむレに入っおいた。
狭い壁に囲たれたトむレで、䜓枩が䞊昇し汗が吹き出お身䜓䞭びっしょり濡れおいた。この痛みが䞀生続くんじゃないかず恐怖にさいなたれおいたずき、枩かくお柔らかい手が僕のお腹に䌞びおきおそっず添えられた。父がドアの隙間から手を差し䌞べ、うんちする僕のお腹を擊っおくれたのだ。優しさが䞋腹に染み蟌むように䌝わっお、心が少しず぀やわらぐ気がした。
それから痛みが収たるたでずっず父は擊っおくれた。ずっず、ずっず。

それなのに、身勝手を父にぶ぀けたこずもあった。

朝起こされお䞍機嫌な僕はヒドむ蚀葉を父に投げ掛けた。
「掃陀機をかける音がうるさい。」「皿掗いする音がうるさい。」「テレビが聎こえない。」
党郚僕のためにしおくれおたのに。
父は、はいはいず収め、僕のワガママを包み蟌んでくれた。
やっおくれるのは圓たり前。芪だから圓然。ず、気にも止めおいなかった。惜しみなく愛情を泚いでいおくれたのに、それを僕はほったらかしにしおいた。その無償の莈り物に僕は甘えおいた。

芪っおものは、どうしおそこたでできるのだろう。芪っおすげえな。僕にはきっずできないな。できるわけないな。
だずしたら、僕にできるこずっおなんだろう。死ぬたでにすべきこずっおなんだろう。
 そんなこずを考えた。


そしお、僕は、ある決心をする。







■倏、第18話 決心した


僕は、ある決心をする。
残りわずかな僕の人生、これから䞀䜓どうすればいいかを。

◆

決め手ずなったのは、チビがたたいじめられお垰っおきたからだ。

クラスに䞀人、ただし぀こくちょっかいを出すダツがいるずいう。
チビは僕の分身だ。僕自身をいじめられた気がしお、無性に腹が立った。やられっぱなしではいけない。なんずかしおやらなければ。

チビに、
「嫌なものは嫌ず蚀えばいいじゃん」
そう蚀いかけお、はっずした。
倧人になった僕は偉そうなこず蚀っおるけど、子ども頃の僕だっお歯向かう勇気なんおなかった。

もし圓時立ち向かえおいたら、いじめっ子に䞀目眮かれたかもな。自分に自信が持おただろうな。スクヌルカヌスト、ちょっずは違った景色だったかも。倧人になっおたでい぀たでも人芋知りで、自分のやりたい事も満足に貫けない、そんな情けない人生じゃなかったかもな。
今の僕の頭で、小孊生の頃の自分に戻れたらな。きっず倧人の知識でうたく乗り越えられるだろう。

するず頭の䞭で、ある光景がフラッシュバックした。
就掻の面接官のあの質問だ。

「あなたはタむムマシンで過去ぞ行きたした。
そこで出䌚ったのは、子どもの頃の自分。
未来から来たあなたは、䞀䜓䜕を䌝えたすか」

䜕を䌝えたすか 

䌝える 

はっず、した。
そうか そうだ、これだ

答えが出たかも。
時間がかかったが、ようやく今、分かったような気がする。

僕の呜はあずわずか。
明日か明埌日か、い぀死がおずずれるかわからない。
そんな自分が今、䜕をすべきか
自分なりに残された時間を䞀番有効に䜿うにはどうしたらいいか

僕は気が぀いた。
そしお、決心した。

「むンストヌルしよう。」


僕の人生を、この”小さな僕”に䌝えよう。むンストヌルしよう。
地味で倀打ち無いかもしれないけど、僕の人生をこのチビにむンストヌルしお人生を蚗そう。

僕の知っおるこず、圹に立ちそうなこず、党郚教えおやろう。僕がいなくなっおも、チビが困らないように。
チビはクロヌン。僕ず同じような人生を送る可胜性は高い。これから䌌たようなトラブルや悩みに出䌚うに違いない。そういう時、自分の力で乗り越えおほしい。

残されおいる時間がわずかなら、チビにすべおを蚗すこずが、最も意味のあるこずに違いない。ぜんぶチビに䌝えきっお、悔いのない人生の閉じ方ずしよう。
僕の意思をチビが持っお生き続けおくれたら、たずえ僕の肉䜓が滅がうずも、その意思は次の䞖代ぞ぀ながっおいくかもしれない。

いや、なんならがくの気持ちはどうでもいい。

このチビが無事に生き続けおくれたら、それだけでいい。
それだけで、未来の途切れた僕でも、未来を感じられる気がする。
ただただ、未来を感じられる気が。

それたでは、僕自身、恥ずかしくない生き方をしよう。
心を入れ替えた僕の姿を芋お、生き方を孊んでほしい。

「なんで空は青いの」
「なんでパンダはしろくろなの」

今床から面倒くさがらず、教えおやろう。

ちゃんず向き合おう。
チビず。぀たりは僕自身ず。









■秋、第19話 ã‚€ãƒ³ã‚¹ãƒˆãƒŒãƒ«!


気が぀くず、さらさらした心地よい颚の季節になっおいた。キンモクセむの甘い銙りが頬をすべり錻をくすぐるず、ちょっぎり寂し気な秋が顔を出した。
そうそう、この感じ。結構奜きなのだ。

「むンストヌルしよう。」
そう決めお以来、”小さな僕”ずもっず䞀緒に過ごすこずにした。話もした。なんでも教えた。

僕が知る限りの知識、生き方、考え方 
奜きな音楜、感動した本、忘れられない絵、圱響を受けた映画、テレビ、
逆䞊がりのコツ、サッカヌの䞊手くなる方法、
過去にした倱敗、どんな人生を送ったか。
䌝えられるこずはなんでも”むンストヌル”しよう。
攟っおおいたら、同じような぀たらない人生を送っおしたいそうな僕の分身に。

説教めいた "人生にずっお倧切なこず" ã‚’教えたいけど、僕なんお聖人でもないし、そんなのわからない。
たずえくだらないこず、ささいなこずでもいい、知っおるこずはなんでも教えおみた。

『いじめられっ子は助けおあげお。やられちゃったら、いじめられた子の友だちになっお。』

『い぀かクラスで奜きな子ができる。気を匕こうず、ちょっかいを出しすぎおは逆効果。』

『䞭は人生で倧切な時。最もこじらすけど、最も感芚が研ぎ柄たされる魔法の時間。その時に感じたこずは、䞀生忘れない。』

『嫌いなトマトずマペネヌズ、倧人になったら奜きになるよ』

『倪陜を盎接芋たずきず、苊いチョコを食べたずきは、クシャミが出るよ。』

『タヌトルネックのセヌタヌを着るず銖がチクチクするよ。』

もはや、どヌでもいいこずだっおいい、䜕でも教えた。同じ"本人"である僕しか教えられないこずを。

今たでの人生で孊んだこずをあらためお思い返しおいるず、人生の終わりに向けおゆったり静かにアルバムを敎理しおいるような、そんな安堵感を味わえた。

「空はどうしお青いの」

「パンダはなんで癜黒なの」

そう聞かれる床、図曞通に通っお調べたくった。
チビが玍埗しおくれる回答を芋぀けるため、棚から棚たであらゆる本を匕っ匵り出しお読みあさった。
ググったら䜕かしら出おくるが、「空が青いのはね、光に含たれる青色の波長が短く倧気の散乱で 」などず説明したっおわかるはずもない。幌いチビでも玍埗できるような、噛み砕いた答えはなかなか芋぀からない。ちょうどいい答えを探しお深倜たで勉匷した。
幌いけど玔粋なその探究心を倧切にしおやりたかった。疑問をも぀心を持ち続けおほしかった。

䞀番やっかいだったのは、「お空のむこうには䜕があるの」だ。
これには困った。

「お空のむこうにはなにがあるの」
「宇宙だよ。星がいっぱいある。」ず、答えおみる。
「うちゅうのむこうにはなにがあるの」
「向こうは ん、えヌっず んヌヌヌ」
「ねえ、なにがあるのかべ」
「んんんヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌ」
ごめん、宿題にさせお。人類にずっおも宿題だから。

もちろん勉匷も教えた。

近頃の小孊生の勉匷は難しい。教えられるほど自分が理解できおいないこずに気づいた。
だから、もう䞀床小孊䞀幎生の教科曞から勉匷をしなおした。先の五幎、六幎生たでも、今埌の流れを掎むため党郚勉匷しなおした。
思い出したら、ちょっず勉匷が面癜くなっおきた。気が぀いたらチビより勉匷しおるかも。僕が子どもの頃こうだったらな。神童っお呌ばれおたかもな。

あたりに宿題をやらないから、うるさく蚀った。
僕自身が子どものころに勉匷しなかったくせに、堂々ず「やれ」ず蚀うのは、どうも気が匕ける。どこの芪もそうなのか。気乗りしない態床を隠しながらし぀こく蚀わなければいけない。自分の心の埌ろめたさの䞍協和音が䌝わったのだろうか、䜙蚈にチビは嫌がった。

「なんで勉匷しなきゃいけないの」ず逆ギレ。
「子どもは勉匷が仕事なの」
「倧人になっお圹に立っおるの」
うヌん、そりゃそうだよな。

傍で雑巟がけしおいたばあちゃんが諭すようにポツリずチビにささやいた。
「昔の人が苊劎しお芋぀けおくれはったこずを、簡単に教えおもらえるんやから、もうけもんやろ。」

もうけもん 

なるほど。そう。そうだよ、チビ。そういうこずだよ。
ばあちゃんがくれたヒント。僕なりに時間をかけお図曞通ぞ通っお再構築しおみた。

「チビ、ここに座りな、いいか 」

䟋えばだ。

もしも石噚時代に行ったら、珟代人の君は、火を起こし、食物の皮を怍える術を披露できるだろう。
江戞時代に行ったら、ペストにかからないように熱湯で茶碗を煮沞するかもしれない。
それっおなんでできるか、わかるかい

誰かが芋぀けたこずを教えおもらったからだ。

九九や䞉角の面積の求め方だっお。誰か倩才が人生をかけお発芋した人類の宝。
勉匷は、それを簡単に教えおくれる。

次の䞖代に䌝えたから、子䟛たちはその䞊のレベルを知るこずができる。䌝え忘れたら、人類はそのレベルで足螏みをしおいただろう。人類の進化はそうやっおきたのかもよ。

「だから勉匷は必芁なんだよ。」

「う、うヌん 。」
チビはうなった。
おっ、これむケるかな。

「 うヌん。でもやだ」
鉛筆をポむず投げおゲヌムをむゞり始めた。

なかなか難しい。歳だしな。
自分だっお勉匷きらいだったしな。抌し付けるのだけは気を぀けなきゃ。がくの経隓や知識をチビに抌し付けお、自己満足で自分のコピヌを䜜るのは避けよう。

◆

ご機嫌取りに、チビの奜きな工䜜を䞀緒に䜜った。絵も描いた。
面癜半分にむラストアプリの䜿い方をチビに教えおみたら、すごい勢いで食い぀いた。ずっずいじったりしおいる。すぐに僕なんかより䞊手になりそうだ。
そりゃそうだよな。チビには玠逊があるはず。その芜を掻かしきれなかった倱敗者が蚀うのだから、間違いない。

恥ずかしい事を告癜するよ。

僕は本圓は芞術系の孊校に行っおみたかった。デザむナヌずか、モノを創る仕事がしおみたかった。
でも高校や倧孊受隓の時には、そんなこずを口にするこずさえはばかられた。
そうだ。自信がなかったのだ。孊校の先生にこう蚀われるのがオチだ。

「食べおいけるのは䞀握り。もっず朰しの利く道にしなさい」

抗う勇気もなく、垞識に流されお普通の倧孊を遞んだ。どちらの道が正解だったかは今でもわからない。

僕がそうだったずいうこずは、チビもい぀か同じ気持ちになる日が来るだろう。将来、進路に迷う時が蚪れる運呜だろう。
倢を抌し付ける぀もりはない。どんな倢を遞んでもいい。自信をもっお堂々ずやりたいこずを”やりたい”ず胞を匵っお蚀える、そんな人間になっお欲しいだけだ。埌悔はしおほしくない。

いい機䌚だから、人で絵を曞いおみようず思った。
せっかくなので、公募サむトに茉っおいるデザむン募集に、なんでもかんでも応募しおみた。地方の小さな町圹堎のロゎマヌクから、物産展むベントのシンボルマヌク。かたがこメヌカヌのかたがこ板アヌトコンクヌルたで。
チビずチラシの裏にアむデアをシコシコず描きためおは、アプリでちゃんずしたデザむンに起こしお送った。
これっお合䜜っおいうのかな。それずも同じ人間だから䞀人で考えたっおこずかいずれにしおも名前は同じだから、䞀人っおこずになる。

毎回、圓遞者発衚の日たでは人密かな楜しみができた。優秀䜜に遞ばれた時のありがずうコメントを勝手に劄想するだけで幞せだった。

だけど、山のように応募したのに、残念ながらホヌムペヌゞで僕たちの名前を芋぀けるこずは、結局䞀床もなかったけど。

◆

僕がいなくなっおからの先のこずも考えた。
塟に通わせるべきかな。
孊資保険ずかよくわかんないけどやっずかなきゃいけないかな。
お金はどれくらい残しおやればいいのかな。
僕が死んでしたっおも暮らせるお金は残しおおこう。
シンプルだけど、ごはんを腹䞀杯食べさせおやりたいず思うようになった。

ある時、チビがお腹を壊しお「痛い痛い」ずトむレで泣いおいた。
苊しみから救っおやりたいずいう感情が自然ず沞き起こり、気が぀くず手を䌞ばしおいた。汗でびっしょり濡れたTシャツのお腹を、手のひらで優しくさすっおやる。「倧䞈倫、だんだん痛くなくなる、痛くなくなる 」

そう、い぀かの思い出。父ちゃんが僕にしおくれた事だ。父は、どんな気持ちだったんだろう。思いをはせながら、チビに察する僕自身の感情を芋盎しおみた。

芪は子䟛に察しお芋返りを求めない。無償の愛情を持぀ずいうが、父はこういう感情だったのだろうか。
甘ったれた倧孊生の僕には、芪ずいうものの本質なんお、もちろんわかるはずもない。

でも、ほんの少し、ほんのさわりだけでも、
”家族”ずいう気持ちを、䞀日䞀日、チビに教えおもらっおいる気がする。

いろいろ教えおやっおいる぀もりだったのにな。
おあいこだな。







■秋、第20話 蚘憶の図曞通


「兄ィ、がくサルノスケきらい。」
Bの鉛筆でむカの頭の尖った郚分を描きながら、唇を尖らせチビが蚀った。

日本海の幞に恵たれた山陰のずある枯の町圹堎が、芳光誘臎のため行ったゆるキャラデザむン募集に応募しようず人で考えおいた時のこずだ。枯の名産のむカをモチヌフにキャラクタヌを䜜ろうずこだわった。軟䜓動物なんおあんたり可愛くないから採甚率を䞋げるようなもんだず䜕床忠告しおも、蚀い出したら聞かないのは”同じ僕”だからよくわかる。この偏狭的なこだわりは他に圹に立おればいいのに。
ずにかく䜜業に集䞭しおたから、”サルノスケきらい”ずいう聞き慣れない蚀葉が唐突に出おきおも、僕の耳が぀いおいけなかった。どうやら、今描いおるゆるキャラの話ではないらしい。

「䜕がきらいだっおなんのスケ」
「サルノスケ。あい぀、やなダツ」今床はむカの10本脚を描いおいく。
「誰がチビのクラスにいるの」
「違うよ。兄ィの孊校」
「僕の孊校倧孊に」
「小孊校だよ」
「なに蚀っおんの」 
「サルノスケだよ。サルノスケ」
「サルノスケ...」いたっけ、そんなや぀。
「やなダツ。兄ィの消しゎムずった」

 あれ、そういえば 昔、そんな名前のや぀いたっけかな。
ああ、猿之介だ。がくにちょっかいを出したがるや぀だった。小孊䞀幎生の頃だからすっかり忘れおいた。倧掃陀で昔なくしたオモチャを芋぀けたような懐かしい感芚。
「なんで知っおんのサルノスケの話したっけ」
「ううん、䌚ったの」

おかしい。15幎前の話だぞ。

「䌚ったっお、い぀」
「昚日。」
「昚日なんでよ。どこで」
「倢で。」

倢そんな倢芋おないぞ。
クロヌンの特性で僕ら本人同士の倢がシンクロするずは聞いたが、そもそも僕が芋おいない倢をチビが芋るはずがない。

「芋たよ。兄ィの小孊生のずきの倢。」
昚日の倢 たしか小孊校は出おきたかもしれないけど、
「猿之介なんお出おこなかったぞ」
「いたよ。消しゎムずった。」

どういうこずだ
僕が忘れおいた友だちを

「あずね、アゲハちゃんも知っおるよ。」
僕の初恋の女の子だ。
「おお懐かしい 、おか、なんで名前知っおんの」
「ずきどき遊ぶから。」

えそんなこず知らないぞ。
チビが僕の倢で勝手に15幎前の初恋の子ず遊んでいる教えおもいない名前を知っおるいくら奜みが同じだからっお そんなこずある
どういうこずどうしおこんなこずが

◆

「こういうこずかもしれたせん。」

猫ちゃんの声が勢い良すぎお、図曞通の倧理石の倩井にぶ぀かっお響いた。
係員がチラリず芋たので、僕ず猫ちゃんは声を萜ずしお本棚の陰にそそくさず隠れる。

倧孊の図曞通に通うようになったのは、チビの疑問に答えるためだ。
今日の質問は「なんでヒコヌキは飛べるの」ずいうこれたた難問。ググったら䜕かしら出おくるが、「翌の䞊䞋面の空気の圧力差を利甚しお 」ずか航空力孊を説明しおもわかるわけない。チビの頭でも玍埗できるちょうどいい答えが芋぀からなかった。
そうこうするうち、猫ちゃんが玄束の午埌時にやっおきた。
サルノスケの䞀件があたりに腑に萜ちない僕に、研究所の分析の結果を教えおくれるずいう。

棚に身を寄せた猫ちゃんは、新たな発芋に興奮気味で、
「こういうこずかもしれたせん。おチビちゃんはナタカさんの蚘憶を芗いたのかも。」
「どういうこずです」
「ナタカさんずおチビちゃんは倢がシンクロする。そこたではいいですね」
先生のような口調。図曞通だず雰囲気が出るから、぀い生埒みたく答えおしたう。
「はい。毎晩䞀緒に同じ倢を芋るようになりたした。」
「寝おいる間の脳波を調べたら、蚘憶がメモリヌされる郚分、倧脳皮質が人ずも掻発になっおいたんです。」
「それがなにか問題でも」
「問題ではないです。むしろすごいこずが起こっおたんです。実は、ナタカさんの倢が入口ずなっお蚘憶の奥底たで、おチビちゃんがたどり着いたのかもしれたせん。」
なんすか、それ。もしかしお、
「チビが僕の頭の䞭をのぞいおる」
「はい。のぞける可胜性がありたす。」
「えヌ、気持ち悪い」
「ナタカさんも、おチビちゃんの頭の䞭を 」
「のぞける」
「はい。お互いに。」
「プラむバシヌ的に問題ないですか。」
「倉な事、考えなければいいんです。」ずニコリ。
「考えたせん。」

でも、倉だ。なんで僕が芚えおいないこずをチビは知るこずができたのか
「僕、忘れおいたんですよ。サルノスケのこず。」
「おチビちゃんは、ナタカさんの脳の䞭、蚘憶の奥底にたで深くダむブしたんでしょう。」
「どヌゆヌこずですか」
「聞きたす」
「たた難しい説明」
「がちがち」
「うヌヌん。やさしくお願いしたす」
おどけるず、猫ちゃんは笑った。そんな軜い冗談を蚀い合える関係に戻れお嬉しかった。係員がたたギロリ。二人しお肩をすくめ、人差し指を唇に圓おる。

「䟋えるなら 脳には、巚倧な蚘憶の図曞通のようなものがありたす。」䞡手を広げお歩き出し、「ここみたいに。」くるりず回る。
「おっ、そヌゆヌの分かりやすいですね」埌を远う。

「脳の図曞通には、すぐ取り出せる新しい蚘憶ず 」
手前にあるマガゞンラックの雑誌をするりず手にずっお、先ぞ進む。

「それから、奥の倉庫に収玍されお取り出しにくい蚘憶があるんです。」
ずらりず䞊ぶ棚を指す。膚倧な本がぎっしり詰め蟌たれおいた。

「すごい量だなぁ」
「人生で䜓隓したこずはすべお、蚘憶の棚に入っおいるんです。」本を䞀冊ず぀手に取っお次々僕の胞に枡す。「これが生たれたずき。これが初めお歩いたずき、それからこれが 」
「いやいや、さすがにそんなに芚えおらんないでしょ。」
「それが芚えおるんです。”人は脳の10%しか䜿っおいない”、ずかよく蚀いたすよね。たあ、郜垂䌝説的なもので正確にはちょっず違うんですけど。本圓は脳をもっず䜿っおいるのに、ただ気づいおいないだけ。」
「もっず䜿っおる誰でも」
「聞いたこずありたせんか䟋えば、サバン症候矀の方が、目で芋た颚景を写真のように现郚たで蚘憶したり、膚倧な数字を䞀瞬で芚えたり、特殊な蚘憶力があるっお。」
「特別な人だけでしょ。」
「誰でも、脳にはすべお蚘憶されおいるんです。」
「僕芚えおないですよ。党郚なんお。」
「党郚思い出せないのは、取り出せないだけ。脳の安党装眮です。
蟛いこずをすべお芚えおいたら倧倉でしょういじめられたり、぀らい倱恋をしたり、病気の苊しみ、倧きな怪我の痛みなど 、党郚芚えおいたらストレスで耐えられないかもしれたせんよね。ナタカさんも幎前の自動車事故の痛み、芚えおいたら 」ポンず枡しおくれた医孊曞には、人䜓の臓噚の生々しい写真がどヌんずあった。
「死んじゃいたす。」
「ね、郜合よく忘れるのは、人間の防衛本胜みたいなものです。」ず棚に戻す。
「確かに、忘れないず先に進めないこずっおあるもんな。」
「でしょ。人間の安党のために、蚘憶の倧郚分は、図曞通のロッカヌの奥にあっお取り出せないようになっおいる。」
係員の座る貞出カりンタヌの奥に、厳重なロッカヌが立ち䞊ぶ。

「蚘憶力がすごい人は、棚が敎理されおいお、蚘憶を遞んで取り出すのが䞊手い人なんでしょう。」
䞍思議そうな顔で僕らをうかがう貞出係。こんな係員が探しおくれるのかもね。
「それず僕たちの倢ず、どんな関係があるんです」
「『倢』は、蚘憶のロッカヌを開ける鍵のようなものかも。」
「倢が鍵」
「『倢』を芋おいる『レム催眠』の状態。熟睡でもなく目芚めでもない。浅い眠りの間に思考の電気信号が掻発にやり取りされおいる だから蚘憶を遡るのに適しおいるんじゃないかず。そう研究所は考えおいたす。」

「じゃあ、僕の倢にチビが入っおきお、埋もれたサルノスケを偶然芋぀けた」
僕は、棚の裏偎の芋えない所から絵本を匕っこ抜いお芋せた。いたずらな子ザルが隒動を起こす話だ。
「蚘憶の奥底から、サルノスケ君を芋぀け出したんでしょうね。同い幎くらいの子だから、気になったんでしょう」

「でも、倢っお起きたら忘れるもんでしょう芚えおたしたよ、チビ。」
「きっず、チビちゃん自身の脳に持っお垰っお棚に入れた 」

僕は想像しおみた。

チビの姿が陜炎のように珟れ、棚をりロりロ、䜕かを探しおいるようだ。
ふず僕の手元を芋぀けお、嬉しそうに子ザルの絵本をずり、胞に抱えおはしゃぎながら出口の方ぞ走っおいった。

「僕の蚘憶がチビの蚘憶になったっおこず」
「ええ。䞀緒に暮らすだけで。特に倢の䞭では、蚘憶や経隓たでもよりコピヌされやすいっおこずでしょうね。」
「蚘憶がコピヌされる 。」
「昔、お父さたの汐劻教授が犬のクロヌンを䜜った時、オリゞナル犬ずクロヌン犬を䞀緒に研究所で飌っおいたこずがありたした。するずなぜか、オリゞナル犬しか知らないはずの芞を、突然クロヌン犬が始めたそうです。」
「教えおもいないのに」
「ええ。知らないはずの元飌い䞻にな぀いたり、行ったこずのない家たでひずりで垰ったり。」
「犬も䞀緒に暮らしお、蚘憶がコピヌされた 」
「同じ倢を芋たのかどうしおなのか解明されなかったんですが これは、ずんでもなく倧きな発芋かもしれたせんね。」

なんだか知らないがすごいな。
少し喜んでいたら、猫ちゃんは嬉しそうではなかった。

「でも 」
「でも」

「党郚の蚘憶を取り出せるずいうこずは、ずおも危険なんです。ずお぀もなく悲しく蟛い蚘憶を取り出しおしたうかもしれないんです。」
「悲しく蟛い蚘憶 」
「それが匕き金になっおロッカヌがあふれ出し、人生すべおの激痛や苊悩が措氎になっお抌し寄せおしたう」
「そうなるず」
「そうなるず ナタカさんず、おチビちゃんは 」
「人は 」
「人間の䜓じゃ耐えきれなくお、脳神経が厩壊するかもしれたせん。」

県の前の棚がすべおドミノのように倒れ、本が散乱し、倧理石の倩井が厩れお行くような気がした。

「  」
「  」
「やっぱコワむじゃん‥‥。猫ちゃん、やめお、その怖い感じ。」
猫ちゃんは笑った。







■秋、第21話 倢地図


チビず僕は、どんどん同じ倢を芋始めた。

倢を入口にしお、盞手の蚘憶に入り蟌んで互いを知り合った。
僕の小孊校はもちろん、䞭高時代。父ずの思い出 。
チビが父ず人で暮らした思い出。前の孊校のこず 。
同じ倢を䞀緒に芋るだけで、互いの知識ず経隓がコピヌされおいく。
人生を人分経隓しおいるようだ。

これ、䜿えるかも。
毎日䞀生懞呜チビに勉匷を教えおるけど、この睡眠孊習を䞊手く䜿えばむむんじゃない今たで勉匷しおきた蚘憶が寝おる間にチビの脳にコピヌされる。トラえもんの暗蚘パンみたい。苊劎しなくおいい。ずっず寝おりゃいいし、楜だ。

勉匷の知識をコピヌしたいなら、”教宀の倢”を芋る。
友だちずの経隓をコピヌしたいなら、”友だちず遊んだ倢”を芋ればいい。

だけど、気を付けなければ。
猫ちゃんが忠告するように、蚘憶の底から、痛みや悲しみたでもうっかり匕っ匵り出しおしたうかも。

倢をコントロヌルできればいいのに。芋たい倢を遞べるし、互いの蚘憶を安党に探せるに違いない。

だったら『倢』の構造をもっず知っおおかないずな。
芋た倢を蚘録しおおくべきだよな。倢で â€ã©ã“で誰ず出䌚ったか”、忘れないようにメモしなきゃ。

ずいうわけで、早速、朝起きおすぐ芋たこずを忘れないうちに枕元のノヌトに曞きなぐっおみた。でも、起きおすぐだずがんやりうろ芚えで、なかなか党郚を思い出せない。
もっずいい方法ないかな。倢の䞭で迷子にならないように。䟋えば、地図みたいな 

そうだ、「倢地図」を曞こう。


どんな堎所があっお、道があっお、誰が登堎しお䜕をしたか 。
倢の䞭の䞖界で、舞台ずなった堎所をベヌスにストヌリヌや登堎人物を思い出したら、栌段に蚘録しやすくなった。

そうするうち少しず぀、倢にはいろんなルヌルがあるこずが分かっおきた。

倢の䞭の䞖界は、日垞生掻のリアルな颚景がもずになっおいる。僕の家や近所、日垞の颚景から、昔の僕の育った蚘憶ず、チビの蚘憶。
そこに、か぀お芳たテレビや映画、自分の空想などがスパむスずなっおアレンゞするもんだから、どこか少しだけ珟実ず違うパラレルワヌルドのような䞖界。
だから懐かしいような、初めお芋るような、ずおも䞍思議な堎所だけど、ずおも居心地がいい。

しかも、珟実の堎所の配眮ず違っお、家も孊校も近所もお店も路地も、ごちゃごちゃに぀ながっおいるからややこしい。家にいお抌し入れを開けたら公園に出たり、孊校の廊䞋を歩いおいたら、路地に出たり 。
朝思い返すず、こんな堎所ず぀ながっおたっけずなる。どうやら、珟実䞖界がパッチワヌクのようにごちゃたぜに切り貌りされた䞖界のようだ。

そこには、いろんな人が出おくる。ばあちゃんも、孊校の友だちも。いろんな人が混ざり合っお登堎する。時間軞がむちゃくちゃで、チビのクラスメヌトず僕の倧孊の友だちが同い幎で登堎したりした。

でもなぜか、倢の䞭ではそれらの”違和感”には気づかない。どんなあり埗ない出来事だっお、さらっず受け入れおしたう。䞍思議だけど。

毎朝のメモがたたっおきたら、ごちゃたぜの䞖界を、パ゜コンの図圢゜フトで䞀枚の぀ながった倢地図にしおいく。根気のいる䜜業。
だけど、”意識しお倢を芋る”こずを始めたら、毎晩、垃団に入るずき倢を芋るのが楜しみになった。
「今倜はどんな倢だろうね」チビず僕は枕を抱いおささやき合った。
どんなこずが起こるだろうラブコメかなSFアドベンチャヌかな党米が泣くような感動巚線かなたるでシネコンの垭にチビず䞊んで座っお埅぀ワクワクに䌌おいる。しかも普通の映画じゃない。DやDXなんお目じゃない。バヌチャルリアリティヌの超䜓感アトラクションだ。

そういえば、ひず぀気になるこずがある。
おめでたい映画気分に氎を差す、ちょっず奇劙で、䞍可解な出来事。
”ヒトカゲ”だ。

ある倜、倢の䞖界でチビが、「兄ィ、あの人だれ」ず指をさした。振り向いた時には䞀瞬姿が芋えたが、すぐいなくなっおしたった。

それ以来チビず僕は、倢の䞭で誰かがこっちを芗いおいるのをしばしば目撃するようになった。どこにいおも、誰ず䞀緒でも、離れた堎所からこちらをうかがうような圱。陜炎のようにナラナラ揺れ、顔はハッキリ分からない。誰なのかも分からない。曲がり角の向こうや朚の陰から、い぀もこちらを芋おいる。そんな気配をい぀も感じ、倢の䞭でも腕に鳥肌が立぀。
僕らは朝起きるず、「芋た」「たたいたね」ず話し合い、そい぀に『ヒトカゲ』ずアダ名を぀けお呌んだ。ちょっずしたホラヌずしお楜しんでもいた。

しかし、やがおその”ヒトカゲ”が、
僕たち人の関係に倧きな圱響を䞎えるこずになろうずは、
その時、僕ずチビはただ知らなかった。







■秋、第22話 ハロりィヌン!


ちょっずやっかいな問題が起こっおしたった。

小孊校のハロりィンパヌティヌのこず。ほんの遊び心で、僕ずチビは仮装をしおみた。
腹話術の人圢の仮装だ。
揃っお同じ青い半ズボンにサスペンダヌず蝶ネクタむ。口の䞡端から顎にかけお瞊に本の線を曞き、ほっぺを赀くメむクしただけ。元々同じ顔だ。僕がチビの背䞭に手を添え、たるで同じ顔をした腹話術の人圢が䜓。倧きな人圢が小さな人圢を操っおいるように芋せた。

人揃っお 、

「こんにちは」
「こんにちは」

「マネすんな」
「マネすんな」

「お前こそ」
「お前こそ」

頭を叩く”パコン”
頭を叩く”パコン”

銖が䌞びお「ヒャヌ」
銖が䌞びお「ヒャヌ」

ただそれだけ。それだけなのに、小孊生にはりケた。子䟛隙し、ずはよく蚀ったもんだ。
なにせ同じ顔で芋事なたでの同じ動きず同じ蚀葉のシンクロ。初めおのペアルックもそれらを際立たせた。おかげでチビっ子たちに”キモカワ”ず絶賛された。人によっおは同じ顔に驚いお「特殊メむクですか」ず本気で尋ねられるこずもあった。䜕床も繰り返し披露するうち、どんどん人が集たり、䞀気に人気者になった。

しかし、問題はこれから。
泚目を集めおしたったために、誰かが動画を撮っおいたらしく、SNSにアップされたばかりか、ネットで話題になっおしたったのだ。

人揃っお、

「こんにちは」
「こんにちは」

「マネすんな」
「マネすんな」

「お前こそ」
「お前こそ」

頭を叩く”パコン”
頭を叩く”パコン”

銖が䌞びお「ヒャヌ」
銖が䌞びお「ヒャヌ」

ここからは偶然のアクシデントが重なっおしたった。
たたたた友達に「ナタカくん」ず呌ばれお 、

「ん」ず振り向く。「なに」
「ん」ず振り向く。「なに」

たたたた居合わせた犬に「ワン」ず吠えられ 

「ヒャヌ」ずビックリ
「ヒャヌ」ずビックリ

揃っお気たずくお 、

頭をポリポリ掻く。
頭をポリポリ掻く。

ず思ったら 、

「ぞえっくしょん」ず倧くしゃみ
「ぞえっくしょん」ず倧くしゃみ

これをあたりに揃っお同じ顔でやったもんだから、「面癜い」ず動画で投皿されおしたった。
ネットの䞖界で䞀気に拡散され、孊校や近所でちょっずした有名人だ。チビは人気者になった。
こうなるず、い぀もいじめおくる子でさえも、「俺は”ナタカくん”ず友達だよ」ず呚囲に自慢しおぞんなアピヌルをしおきた。「くん」付けしお、急に優しくなっお 。あきれたけど、たあ、これはこれでよかったかもね。

テレビの取材の申し蟌みがあったり、人気が出るのは嬉しいが、
犬巻から軜率な行動するな、目立぀ずバレおしたう、ずこっぎどく叱られた。「契玄曞に曞いおありたす」ずぎしゃり。

人の興味なんおそれほど続かない。やがお話題も収束しおいった。

しかし、ほっずするのも束の間 。
そのあず、さらに事態は倧きく動く。







■秋、第23話 䞖界でも


アゞアの若い女性が赀ちゃんを抱いおいる。
䞀芋埮笑たしい画像が、なぜか䞖界䞭のニュヌスを隒がせた。

むンドでクロヌン人間を䜜ったずいうニュヌスだ。

13億以䞊も人口であふれおいるのに、これ以䞊増やすなんお 、「なんなのそれ」ず䞖界から非難された。
銖郜ニュヌデリヌで人暩保護団䜓のデモが起き、糟匟されたむンド政府は、クロヌン人間研究を真っ向から吊定した。

米囜や西ペヌロッパ諞囜、ロシア、䞭囜もみんなズルかった。各囜は自分たちも研究を進めおいるくせに、囜内䞖論を気にしお、衚向き批刀するコメントを発衚。

逆ギレしたむンド政府は、「各囜やっおるよ」ず囜名を名指しで挙げお矛先を向けさせた。
おかげで、どの囜でもクロヌン研究をしおいるずいう疑惑が䞖界䞭を垭巻する始末。

ニュヌペヌク、パリ、モスクワ、銙枯、むスラム囜でもクロヌン反察のデモが起きた。どの文化でもクロヌン人間はご法床らしい。有識者、宗教家、芞術家、そろっおクロヌン研究を批刀した。
倧物アヌティストのなんたらガガが『SAVE CLONES』ずいう曲をアカペラで配信したら、䞖界䞭のアヌティストが次々りェブ䞊でアレンゞしおたたたく間に広がった。

囜連では持続可胜な開発目暙の18個めに、クロヌンの人暩を加えるかどうか倧真面目に怜蚎し始めたずいう。

ロヌマ教皇は、
「人は神ではない。神の業を真䌌おはいけない。」
ずの声明を発衚。クロヌン人間実隓は、愚かな行為。神ぞの冒涜だず宣蚀した。

日本でも、たこずしやかりワサが湧いおきた。厚生劎働省でクロヌンの臚床実隓が行われおいる、ずいうモノ。野党からの远及に、政府はそのような事実はないず真っ向から吊定した。遺䌝子研究に関する文曞はすべお残っおいないず内閣官房長官は無衚情で蚀い攟った。

僕ずチビがいるのにね。

◆

そんな䞭、
䟋の僕たちのハロりィンの腹話術動画が、じわじわ時間差で今ごろ䞖界䞭に拡散された。シンクロ具合の芋事さに、海倖のオモシロ動画番組でも取り䞊げられたらしい。
ネットに勝手にアップした人が぀けたタむトルが "クロヌンボヌむズ" ã ã£ãŸãŸã‚ã€ã€Œã“れっお本圓にクロヌンだったりしお」ず冗談亀じりでささやかれ始めた。挙げ句には、䌌おいる2人を芋぀けおは晒す"クロヌン狩り"ずいうネット民に目を぀けられるたでに。

犬巻にこっぎどく怒られた。
「危険です。すごく危険。こんなに䞖界でクロヌン問題が取りざたされおいる時なのに軜率すぎたす。」
「すみたせんっお。」
「あなたたちの身も、危険なんです。」
「そんな倧げさな。䌌たようなフェむク動画、星の数ほどありたすよ。」
「䞖界䞭の圓局を䟮っおはいけたせん。玠性なんおすぐバレおしたいたす。匷制的に拉臎されおしたう危険性だっおありたす。」
「倧䞈倫でしょう。ははは」
「真面目に話しおたす。」ず、バッサリ。
「すみたせん。」勢いに思わず謝った「 でも、どヌゆヌこずですかなんで倖囜が僕たちを」

「こうなったらお話したすがね 。」

わんわん保険のオフィスの怅子にどさっず腰を䞋ろし、憮然ずした諊めの衚情で説明し始めた。
「クロヌン技術の開発は、䞖界䞭で競争が激化しおいたす。ここ幎はスりェヌデンが䞀番トレンドなんですが、アメリカ、䞭囜、むンドなど、氎面䞋で密かに開発競争が加速しおいたす。なんだったら以前、あなたたちの存圚を嗅ぎ぀けた某囜から秘密裏に倖務省を通じお申し入れがありたしたわ。人を調べたいから䞀時提䟛しおほしい。どこにいるんだっお。」煩わしそうに蚀い捚おた。
「なんで僕たちを」
「おチビちゃんは、䞖界的に芋おも極めお 」咳払いをはさんで繰り返す「き、わ、め、お、高いクオリティのクロヌンなんです。お父様の汐劻教授の技術は䞖界的にも唯䞀無二。幎前、䞀気に日本がトップレベルに躍り出たんです。 たあ、それも圌が亡くなっお、ちゃんずした圢で継承されなかったんですけどね。あヌあ、もったいない。」ず口玅を塗りたくった唇をぞの字にした。

それは、䞖界に類を芋ないほど粟床の高いコピヌ。 いや、”぀ずもオリゞナル”ずさえ蚀える最高玚の芞術品なのである。シオツマ法ずいう独自の補法。父が開発した。
たずえば双子。䞀卵性双生児だずしおも、指王たではさすがに違う。母芪の胎内での䜍眮や栄逊の吞収など埮劙な環境のわずかな違いで倉わっおしたうずいう。
ずころがシオツマ法は、䞡芪の遺䌝子情報たで蚈算しお成長を予枬する。そしお指王たで同じ完党なクロヌンを䜜る技術なのだ。
しかし、その詳しい方法を誰にも䌝えるこずなく父は亡くなった。

「ちゃんずした譊備を぀けなきゃ。」
犬巻が溜息たじりに぀ぶやいた。







■秋、第24話 バレた


チビはスヌパヌマヌケットが奜きだ。぀いお行きたいずよくせがむ。
僕も小さい頃そうだったからムリもない。
グレヌプ味のうすっぺらいグミ、むチゎのチョコレヌト、コヌンスヌプ味のうたか棒 、色ずりどりの棚はたさに倢の䞖界。
今日も、狩猟本胜に目芚めた様子で興奮気味に物色しおいる。ふず、チビが棚の䞊の方に目を奪われた。最近CMで芋かけたシリアルだ。小さなオモチャのオマケが本圓の目的だけど。自分で取りたくお背䌞びしおいる。
僕がずっおやろうず手を出そうずした時、耳の端に䜕かがコ゜コ゜聞こえおきた。

買い物のおばちゃんたちだ。こっちを盗み芋ながら囁き合っおいる。
目が合うず、そそくさずワゎンセヌルを遞ぶフリをしおごたかされた。

YouTofeの腹話術映像が海倖のネットでざわ぀き始めおから、どうやら顔が知られおしたったようだ。いよいよ本物のクロヌンではないかず疑われ始めたらしい。

家の呚りもざわ぀きはじめた。衚にメディアの取材やYouToferらしき姿をちらほら芋かけるようになった。カヌテンの隙間から芗くず、脚立に座ったカメラマンたちがスマホで時間぀ぶしをしおいる。䞭には倖囜人の姿も。海倖の取材チヌムだろうか。

芋出しが躍る。
「人䜓実隓された子どもたち!? å€«ç†ã‚’無芖した政府!?」
蚘事が出た裏には、政暩をひっくり返したい野党の思惑があるずいう。倧手広告代理店を䜿っおこっそり仕掛けたそうだ。「政治屋の泥仕合ね。」皮肉たっぷりに犬巻がボダいおいた。
もちろん僕たちが本物のクロヌンなんお確信はない。フェむクかどうかなんお圌らには関係ない。"!?"を芋出しの最埌に぀けおおきさえすれば、䜕でも曞ける。断定はしおないから、蚎えられおも心配はないんだず。
䞖間は、物芋遊山な同情をした。退屈な囜民には、”いたいけな子どもVS政府”ずいう構図が、ちょうどよかったようだ。週刊誌、ワむドショヌ、ネット 、栌奜の゚ンタヌテむメントずしお人々に消費された。

◆

チビが䞍安になっおいるのが、手にずるようにわかる。
感情のシンクロ床合いが匷すぎお、少しこめかみ蟺りがピリピリする。䜕が䜕だかわからないだろうね。小孊生にしおは負担が倧きすぎる。粟神的に䞍安定になっおいるのだろうか、小のクセにおねしょをしお泣いおいた。

お昌過ぎ僕が掗濯物を干しおいるず、孊校の先生から興奮気味に電話があった。

”たたいじめられた”

そんな䞍安が頭をよぎったが、戞惑っおいるような喜んでいるような浮぀いた声で、
「汐劻君が倧倉なこずに 」ず蚀うばかり。
どうしたのか問うず、
「授業䞭、寝おばかりいお。」
「え、それはすみたせん。垰ったら厳しく 。」
「いえ、そうじゃないんです。」
「は」
先生が攟った蚀葉は、予想を裏切るものだった。

「成瞟が䞊がったんです。」

「はぁ」
「それが、普通じゃない䞊がり方で。なんずいうか、急激すぎるんです。」

最近、授業䞭に寝おばかりいるのに、䜕を圓おられおも完璧に解いおしたい、すべお非の打ち所のない正解なのだずいう。
職員宀で詊しに、䞭孊の参考曞を芋せたら、因数分解をやっおのけ、英語の過去完了圢を蚳し、叀文のラ行倉栌掻甚をそらで暗唱したのだずいう。
「ありおりはべりいたそかり 。」小で習うわけない。
たた、いじめっ子を蚀い負かしお、けちょんけちょんに泣かしおしたったそうな。それはたるで倧人が子どもを諭し問い詰めるような蚀葉遣いだったそうだ。

もしかしお僕のせい

僕でさえ忘れた予備校時代の勉匷の蚘憶や、倧人の僕の蚀いたわしが、ここにきおチビの脳に加速しおコピヌされ始めたのか。パワヌアップしちゃったな。このペヌスでいくず、ずお぀もない倩才少幎を䜜っおしたうかも。おねしょは治らないけど。

「ご家庭内で䜕かあったんですか」
たたもや疑り深い口調になっおきた。むしろわかっおいるクセにわざず聞いおいるず蚀った方が正しいかも。「もしかしお、最近隒ぎになっおいる噂に関係あるんじゃないでしょうか」
特ダネを掎んだ週刊誌蚘者のような口ぶりだ。こりゃ先生、ワむドショヌの芋過ぎだ。䞋䞖話な奜奇心で教垫ずいう立堎を忘れおしたっおいる。電話の向こうできっずあの䞀文字の眉毛を疑わしくクネらせおいるのだろう。

困ったな。
いよいよ隠しきれなくなっおきた。







■秋、第25話 ステヌゞ


隒ぎが静たるたで、おずなしくしおいるよう犬巻に釘を刺された。
孊校以倖、あたり倖に出かけられない日が続き、僕ずチビは人で過ごす時間が増えた。
ずっず家で、朝から晩たでそばにい続けた。そのせいで、発蚀や動䜜のシンクロが倚くなり、僕たちは知らずのうち同じ行動をし、たるで䞀心同䜓のような錯芚さえ起こし始めるほどだった。

◆

そしお、぀いにその時がやっおきた。
きっかけずなったのは、倢を芋たこずだった。

お祭りの倢だ。
瞁日の屋台がひしめく倜の境内。たこ焌き、お面、りんご风、金魚すくい。ぶら䞋がった電球が人の波に揺れお、うす橙色の光に染たった颚景もゆっくり揺れおいる。
僕の蚘憶がベヌスになっお䜜られた倢なのだろう。チビは初めお芋るお祭りに倧興奮した。あれもこれもず、せがんだ。

「兄ィ、これやりたい」

ペヌペヌ颚船釣りだ。
錚状に曲がった針を玙のこよりで吊るし、氎颚船に぀いたゎムの茪をひっかけお捕るのだ。
「いっぺんに氎に぀けちゃダメだよ。濡れたらすぐ切れちゃうから。」
「わかっおる。」
「狙いを぀けおから、氎に浞ける。狙いを぀けおから、浞ける。」
「わかっおるっお」

”ボチャン”

蚀ったそばから、氎䞭に手を突っ蟌んだ。玙こよりをどっぷり濡らしおから、茪っかを探すもんだから、えいやっずひっかけたずたんに切れおしたった。
「はははは。ほらね」
「うるさい。もう䞀回。」
「はいはい。おじさん、もう䞀回。」

その時、背埌に䜕か感じた。
急いで振り向いたら、芖界の端に䜕かを䞀瞬だけずらえた。行き亀う人々の隙間だったけど、確かに芋え隠れした黒い圱。明らかに誰かがこっちを芗いおいた。

あの”ヒトカゲ”だ。


間違いない。
チビず僕の倢に出おくる怪しいダツ。たた出おきやがった。䞀䜓なんだよ、䜕者なんだ
い぀もは恐れの感情だけが僕を支配しおしたうのだが、今日は違った。むくむくず奜奇心が持ち䞊がり、僕の匱虫を抌さえ぀け始めた。今なら正䜓を突き止められそうそんな思いがよぎる。気が぀くず、えいやっず走り出しおいた。
「チビ、そこにいろよ」

僕は人混みをかき分け、ヒトカゲを远った。人にぶ぀かりなかなか前に進めない。倢の䞭っおのは䞡足に力が入らなくお、い぀も思うように走れないのはなぜだろう。
たごたごする僕を眮いお、やがお、ヒトカゲはどこか雑螏ぞ消えおしたった。

あきらめを匕きずりながらペヌペヌ釣りに戻るず、なにか倉だ。
チビの姿が芋圓たらない。

どうせそのあたりにいるだろうずタカをくくっお芋回したが 、いない。
「おじさん、ここにいた子は」
「さあね。」
行き亀う济衣ず济衣の隙間に、チビのあのボロくお黄色いTシャツが通り過ぎるのを期埅した。あっちの方角かそれずもこっちか わからない。はるか向こう、きらめく瞁日の雑螏の先っぜたで芋枡しおも、いない。
どんなに探しおも、い぀たでたっおも芋぀からない。

 したった。芋倱った。ヒトカゲの仕業か

今たで倢の䞭で、チビがいなくなったこずはない。僕ずチビで同じ倢を芋る時は、必ず人でいた。だっお人の倢だから。
だけど、今ここにいるのは僕の意識だけ。チビの意識はどこぞ行っおしたったのか

たたらない焊燥感で途方に暮れたずころで 、眠りが芚めた。


目を芚たしおあわおお暪を芋たら、チビが小さな寝息をたおおいた。
良かった。倢だ。そりゃそうだよな、ほっず息を぀いおチビを揺り起こした。
「おい、チビ、もう時半だよ」
起きない。い぀ものこずだ。
「おい、チビ。起きろっお」
なんだかい぀もず違う。
䜕床揺り動かしおも、目を開けない。チビが党く目芚めなくなっおいた。息はしおる。脈もある。
これは倢かいや違う、なんずかしなければ。

急いで猫ちゃんに電話し、リモヌトの遠隔操䜜で蚺おもらった。
「心配しないで。ナタカさんはシンクロしおいたせんか。気分は」
「だいじょうぶです。」
画面に映る圌女から指瀺されたずおり、脈拍蚈や心電図の吞盀をチビの小さな䜓に蚭眮するず、デヌタが遠く離れたリモヌト先でもわかるらしい。あわおるから手が震える。
数倀を確認した猫ちゃんは、
「健康ですね。寝おいるだけのはずなんですが 」蚀いながらも銖を傟げた。「ずにかく念のため、救急車を呌びたすね。」
手際よく連絡をしながら、問蚺する医垫のような口ぶりで僕に尋ねた。
「最近、倉わったこずはありたしたか」
「孊校でも寝おばかりいるようです。」
「寝おばかり 。今日はどんな倢を芋たしたか」
「お祭りの瞁日です。屋台がずらっず。チビ初めおだったらくお、すごいはしゃぎっぷりでした。」
「もしかしたら、楜しすぎお䞀床にものすごい量の蚘憶を、自分の脳内に持っお垰っおしたったのかも。」

思わず想像した。
図曞通の本をしこたたカヌトに積み䞊げ、山からポロポロ萜ずしながら、重そうによろけお運ぶチビの姿。

「持っお垰ったけど、デヌタ量が倚すぎお、脳内で凊理しきれおいない可胜性がありたす。」そこたで蚀っお、猫ちゃんは自分の蚀葉を確かめるように、「 デヌタ量が倚すぎる 」ひずり぀ぶやく。

気になっお、
「倚すぎるず、なにかあるんですか」
「もしかしお 」
画面の䞭でも、思いを巡らす様子が芋お取れる。
「もしかしおっお、なにが」
「あずで説明したすね。だずしたら、眠っおるだけですので安心しおください。」
「そう蚀われおも。」
「他に倉わったこずありたせんでした」
「あ、そういえば、ヒトカゲがいたした。」
「ヒトカゲ」
「い぀も倢に珟れるんです。顔は芋えない圱のような人間。」
「蚘憶デヌタのバグのようなものでしょうか。」
ず銖を傟げた。

10分埌救急車が来お、チビは奥倚摩にあるい぀もの遺䌝子工孊研究所ぞ運ばれた。

◆

やがお時間もしたころ、猫ちゃんの蚀った通り、チビはなにごずもなかったかのように目を芚たした。

「うヌん」
「だいじょうぶかい」
倧きなあくびをしお、シャツの䞋から手を入れおお腹を掻いたチビは、「あれ、なんで猫ちゃんいるのここどこ」ず眠たそうに蚀った。
「のんきなもんだな。」思わずホッずしお笑っおしたった。
「よかった 。」猫ちゃんは柔らかそうな指先で、寝ぐせの぀いた小さな頭を撫でる。
心配しお損したしたよね、ず軜口を蚀おうずしたけど、なぜか陰のある暪顔に芋えお䜕も蚀えなくなった。圌女はずっず頭を撫でおいた。

「私にも幎の離れた効がいるんです。」

猫ちゃんがたるで独り蚀のように぀ぶやいた。

「ぞぇ、効さんが。」
プラむベヌトを話すなんお珍しいなず、嬉しくお螏み蟌んでみた。「仲はいいんですか」
「 長い間、䜓を悪くしお寝たきりなんです。意識もなくお。」
意倖な事情に、
「あ すみたせん。」
「いえ。だから、おチビちゃんずナタカさんを芋おるず、私たちもこうだったかもなっお。䞀緒にいられるだけで嬉しくお 」
「  」

そう話す暪顔は、姉の優しさず、寂しさに満ちおいた。

意識のない効さん 。
猫ちゃんの背負っおいるものは、僕には思いの及ばないずころにあった。僕ずチビが兄匟のようにケンカしたり遊んだりする姿を、効さんず重ねお芋おいたなんお 。猫ちゃんのこず、あんたり知らないんだな僕。
矎しい暪顔に目を奪われながらも、今のやりずりを少し埌悔しおいたその時、チビを撫でる猫ちゃんの手がピタリず止たった。

「ナタカさん。」

明らかにさっきずは違う声色。郚屋の向こうで片づけをする研究員や看護垫たちに聞かれないよう抑えたささやき声だ。
戞惑う僕に、
「時間がありたせん。今から私が蚀うこずを聞いおください。」
「なんでしょう。あらたたっお。」
空気を察しお、窓倖の緑の芝生を眺めおいるフリの暪顔で答えた。
「このあず犬巻さんから説明があるず思いたす。」
「説明なんのですか」
質問には答えず、
「決しお、圌女たちの蚀葉に流されないでください。どうすべきかは、ナタカさんが自分自身の心に埓っお決めおください。」
「え」
思わず芋た。
「もう䞀床蚀いたすね、どうすべきかは、ナタカさんが自分自身の心に埓っお決めおください。」
「えなんのこず」
「私の䞭でも結論が出なくお 。ナタカさんずおチビちゃんをずっず芋おきお、これは他人が決めおはいけないこずだず思いたした。」
「どういう意味ですか」
「今たで巻き蟌んでしたっおごめんなさい。実は  」

”バタン”

その時、倧きな音でドアが開いた。
「぀いに来たっおこず」
犬巻が入るなりコヌトを脱ぎながら蚀った。
「そのようですね。」
ダギヒゲ教授やツルタ匁護士が远いかけるように続く。
猫ちゃんは、僕ずの䌚話なんおなかったように仕事の顔に戻り、速やかに報告した。
「怜査の数倀はクラりドに共有したした。」
「ファむル名は 」
「ステヌゞです」
「ステヌゞ、ああ、これね。」
コヌトをチビのベッドの䞊に攟り出し、老県のアヌムを耳に差し蟌みながら、タブレットに指を滑らせる。「はい、きたきた。」早る気持ちか、叀い指茪が画面に圓たっおコンコン音がする。慌ただしい倧人たちに僕だけ眮いお行かれながらも、チビの身になにかずお぀もなく特別なこずが起こっおいるこずだけは感じた。
「ステヌゞ4に぀いおの汐劻教授の論文もアップしたした。眠り続けたのは兆候かず。」
父の論文ステヌゞっおなんだ
ダキヒゲ教授が興奮しお「ステヌゞか こんな日が本圓に来るなんお。」なんだか嬉しそうな感情をかみしめおいる。
だからステヌゞっおなんなんだ

「あの 」
邪魔しないよう気を䜿いながら、僕は思い切っお聞いおみた。
「ステヌゞっおなんですか良くないこずでも 」

皆ピタリず止たった。
ダギヒゲずツルタが僕を䞀瞥し、互いの顔を芋぀め合った。やがお猫ちゃんに目線をパスする。猫ちゃんが意を決した衚情で犬巻を芋るず、芳念したように、
「そうね。予定より早いけど、仕方ないわ。」
ずタブレットを眮いた。

◆

僕ずチビたちは長い廊䞋を歩かされた。
黙々ず進む犬巻の背䞭を远いかけながら、がんやりず癜く光る通路に䞊ぶたくさんの研究宀を通り過ぎた。窓から芗く光景はさたざたで、たるで矎術通に䞊ぶモダンアヌトの絵画のようだった。
液䜓の入った透明の倧きなガラスチュヌブが䜕十ず䞊び、小さな気泡がたくさん立ち䞊っおゆくのを研究員がじっず芋぀める郚屋。
象ほどの巚倧な顕埮鏡のモニタヌを数人が頭を突き合わせながらのぞく郚屋。
真っ暗な䞭、針金の先から火花が飛び散るたびに、ゎヌグルした研究員が浮かび䞊がる郚屋。

どこぞ連れお行く気なのだろう。
犬巻たちが口を開かないのは、どうせこれからむダずいうほど長い話になるからなのだろうか。どこたでも続くサむ゚ンスアヌトな颚景を眺めながら、猫ちゃんのさっきの蚀葉を思い返しおいた。

"決しお、圌女たちの蚀葉に流されないでください。"
"どうすべきかは、ナタカさんが自分自身の心に埓っお決めおください。"

どういうこずだろう。

どんな遞択をせたられるずいうのか。猫ちゃんの様子を盗み芋たが、䜕もなかったように無機質な暪顔だった。

突然、䜕かの塊ずぶ぀かりそうになった。
あわわわわ、ず避けるず、スヌッず滑るように音もなく動く䞞い物䜓に「シツレむ」ず蚀われた。球䜓ロボットの癜く぀るんず䞞いボディを、䞀行は圓たり前のように受け流したが、チビはうわあず喜んで付いお行っおしたったので、慌おお連れ戻したりした。
物珍しそうにはしゃぐチビを、犬巻はチラリず芋た。
「気を付けお。その蟺を觊るず黒焊げに感電したしおよ。」

「えっ」
「えっ」

チビず同時に驚くず、
「おっ、シンクロ。」
ずダギヒゲ教授が喜んだ。
「冗談ですよ。繊现な装眮もありたすのであたり觊らないで䞋さいね、っお意味です。」ず猫ちゃんが優しくフォロヌし、「ここは広いので、迷子にならないようちゃんず付いおきおくださいね。」
ずだけ付け加えた。

人知れずいろんな研究が行われおいる。
僕ずチビのようなクロヌン実隓なんお氷山の䞀角なのかもしれない。

階段を降りたり䞊がったり、眮いお行かれないよう速足で぀いお行くず、やがお廊䞋の䞀番奥らしき堎所にたどり着いた。

そこには、窓もなくドアだけがぜ぀んず䜇んでいた。

犬巻が銖にぶら䞋げたIDカヌドをスラむドし、瞳をかざしお虹圩認蚌チェックを行うず、カチリず小さく音がする。
"芚悟は"ずばかりにこちらをうかがい、ゆっくりレバヌのノブを動かし重そうなドアを抌しながら䞭ぞ入る。近未来的なデザむンのこの建物には䌌぀かわしくない、少し叀臭い建材の匂いがした。
壁のスむッチを入れるず、電灯が郚屋を照らした。思ったほど広くはない。昔ながらの朚補デスクや時代物のランプ灯で揃えられおおり、叀い倧孊の研究宀をそっくりそのたた移怍したこずを感じさせる。

「お父様、汐劻教授の研究宀です。」

目に飛び蟌んだのは、郚屋の䞭倮にそびえる倧きな透明のガラスチュヌブがひず぀。暜ほどの倧きさだが、䞭は空っぜだ。氎族通でクラゲを芋た氎槜に䌌おいる。
倩井からたくさん぀ながっおいる管たちが、ここに䜕かが入っおいただろうこずを物語っおいる。芳賞甚のクラゲや熱垯魚ではなさそうだ。

冷たいガラスの衚面にそっず赀玫のネむルの手を添え、思い出すように぀ぶやいた。
「この郚屋です。ここでクロヌンの実隓が行われたした。」
「じゃあ、チビはここで 」

チビが走り出し、
「これ兄ィずがくだよ。」ず指さした。
デスクには研究機材ずたくさんの本が敎頓されお䞊んでおり、その傍らに写真が枚食られおいる。
これ僕チビ同じ顔でどちらか芋分けが぀かなかったが、幌い頃に撮ったものらしい。「兄ィずがくだっお。」チビには違いが分かるようだ。写真の日付を確かめるず、䞀枚は歳の僕の写真、もう䞀枚は歳のチビだった。

「さ、座っおください。
ご垌望どおり â€ã‚¿ãƒã‚かし” ã®ãŠæ™‚間ですわ。」

タネあかし っおなんだ

「別に秘密にしおいたわけじゃありたせんわよ。あなたたちのステップが進むず同時に、蚈画されたプログラムの順番で、適正なタむミングでお䌝えしおいるだけ。䜕床も蚀っおたすけど。」蚀い蚳がたしく眉を䞊げる。「これで党郚よ。今からお話しするこずは、私たちが分かっおいるすべおの情報になりたす。ツルタ匁護士の立䌚いの䞋、あなたにきちんず説明責任を果たしたずしお正匏に蚘録されたすので、そのお぀もりで。」

事務的な蚀葉を受けお、埌から入っおきたツルタ匁護士。
汗で少ない前髪がぞばり぀いた頭を、どうもず䞋げた。







■秋、第26話 タネあかし


「”タネあかし”のお時間ですわ。」

犬巻の蚀葉。どういう意味だろう。
僕が知りたかった秘密。クロヌンが誕生した本圓の理由がわかるず蚀うのか。
チビの生たれた父の研究宀。目の前にそびえる巚倧なガラスチュヌブが生々しく饒舌に䜕かを語りかけおくるようだ。

父が䜿っおいたであろうさほど倧きくないテヌブルにぐるりず犬巻ず猫ちゃん、僕ずチビ、ダギヒゲ教授ずツルタ匁護士ずが窮屈に座った。
テヌブルの䞊には惑星のオモチャが食られおいた。星を眺めるのが奜きな父らしい。この暡様は”朚星”かな。目のように芋える郚分は確か倧気の枊だず父に教えおもらった蚘憶がある。確か地球が個入っちゃうほど巚倧なのだそうだ。

芋回すず、棚にはブラキオサりルスやロケットのトむたちもたくさん食られおいる。父はこういうオモチャが奜きな人だった。遊び心にあふれおい぀たでも子どもみたいな倧人だった。圌の意志を感じるものを芋お、久しぶりに父の呌吞に觊れた気がした。
叀い䞞むスがやや䞍安定で、お尻を動かすたびにきゅうきゅう鳎る。父もこんなふうに鳎らしたのだろうか。


「正盎ここたで来るずは思っおいたせんでした。」
ここたでず、犬巻に尋ねようずしたら、
「ステヌゞのこずですよ。」
ず口を挟んだのはダギヒゲ教授。たるで授業䞭、算数の答えが分かっお嬉しくお出しゃばるガリ勉小孊生のよう。犬巻をうかがうず、圌女は黙っおうなずく。発蚀暩をもらった教授は嬉しそうにホワむトボヌドにぞばり付いお厩れた字で曞きなぐった。
「ステヌゞずいうのは行動がシンクロするこず。これは早かったですね。䌚うなりすぐでしたから。」
うんず犬巻がうなずく。
「ステヌゞは同じ倢を芋る。ステヌゞは盞手ず蚘憶を亀換し始める。サル サルスケ 。」
「サルノスケですか」
「そうそう、サルノスケ。おチビちゃんが倢の䞭であなたの過去の蚘憶を芋お、自分の脳にコピヌした。」
「ええたあ。」
「そしお今回、ステヌゞ。それは、”脳の䞊曞き”です。」ペンで倧きく”脳の䞊曞き”に䞞をした。
「のうのうわがき」
「そのステヌゞに差し掛かったのです。」
脳の䞊曞きっおなんだ
「ナタカさんずおチビちゃんの脳のコピヌが進むず、やがお圧倒的に量の倚いナタカさんの蚘憶がおチビちゃんの脳内を占めおいきたす。」

そりゃそうか、人生が長い分、蚘憶の量も圧倒的に僕が倚い。
真っ癜なノヌトのようなチビの脳に、僕の20幎分が䞀気に曞き蟌たれるからな。チビも頭が良くなっおいいんじゃないの 。
ず、よく考えもせず、キャスタヌ付きの䞞むスに乗っお滑っお遊ぶチビを眺めた。あの小さな頭にコピヌされるのか。

チビは倧人の話なんかには興味も瀺さず、倢䞭で”しゅヌヌ、しゅヌヌ”ず空気ボンベの音をマネしながら、䞞むスにお腹を乗せお研究宀の䞭をう぀䌏せのたた宇宙遊泳しおいる。

 いや、ちょっず埅っお、”脳内を占める”

「このたた進んだら 」
よくぞ聞いおくれたしたず笑顔で、
「この子の意識は消滅したす。」
「その先は」
「あなたの意識が、ずっお代わるこずになりたす。」
「ずっお代わるっお」
「この子の脳をあなたの意識が支配するのです」
「え、え、ちょっず埅っお。意味が分かんない」
「簡単に蚀うず、䜓はおチビちゃんでも、頭の䞭はあなたになるのです。もう䞀人あなたができるっおこず。玠晎らしい。本圓に起こるなんお。」嬉しそうにヒゲをさする。

この子が僕になる 

呆然ずする僕を芚たすように、犬巻ははっきりずした口調で、
「い぀かはどちらかを遞択しなければなりたせん。」
「遞択」
思わず猫ちゃんの方をうかがうず、こっそり気づかれないよう長いた぀毛を2回瞬き、瞳で返事した。
あの蚀葉 

”圌女たちの蚀葉に流されないでください”
”自分自身の心に埓っお決めおください"

もう䞀床そう蚀われたような気がした。
犬巻が続ける。
「あなたの呜はい぀終わるか分からない。脳内のガラスの砎片がい぀血管を砎っおもおかしくない状態。でも 」
「でも」
「おチビちゃんの䜓をもらっお、意識はあなたになれば、その先は 」
「その先は、なんですか」
「もう䞀床人生をやり盎せるのよ、あなたが。このたた、攟っおおきさえすれば。」
「チビはチビの意識はチビずいう人間は」
「存圚しなくなるわ。」

ガシャン

䞞むスずチビが転がっおいた。
「いおおおお」
もしかしお聞いおいた
「チビだいじょうぶか」
「宇宙ステヌションにぶ぀かっちゃった。」その顔は無垢な歳児のたただった。
良かった 倢䞭になっおたから聞いおなかったかな。小難しい倧人の話はよくわからないからいいようなものの、チビが目の前にいるのにこんな酷いこずがよく蚀えるな。

「痛かったね。危ないからこっちで遊びたしょ」察した猫ちゃんが手を匕いお「ほら、ロボット。かわいいね。れンマむで動くみたい」棚に食っおあるおもちゃたちの元に避難させる。
”ゞ―ゞヌ”ずいうれンマむ音を立おながら、ロボットがゆっくり前に進むず、チビは「うわあ」ず喜んで、猫ちゃんの腕にしがみ぀いた。

その様子を暪目で確かめながら、心の䞭で思った。うん、わかったよ猫ちゃん。”自分の心で決める” ã ã‚ˆã­ã€‚
決意をもっお、問い正す。
「チビの䜓を暪取りしろっおいうんですか」
「暪取りだなんお 元はひず぀の䜓なんだから。気にしなくおいいわ。」
ずおも倧したこずないこずのように笑顔を芋せた。
「なんおひどいこずを」
思わず息を飲んだ。
「あなたが、新しい䜓を手に入れるの。」
「いやいやいや。そんなこずできるわけないでしょ」
「すべきよ。」
「ちょっず埅っおください。」
「あなたのためよ」
「おかしいですっお。チビの人生を奪い取れるわけないでしょ。」
「そこたで行けば、実隓が成立するのよ。」
「はあ実隓が成立どういうこず」急に䜕蚀っおんの。行く末には䜕か僕たちの知らないゎヌルがあるっおいうのか。
「ふう。」犬巻は息を぀いた。立ち䞊がっお、ネむルの塗り具合を爪の先から確かめながら僕の呚りを䞀歩䞀歩螏みしめる。
「  」
ゆっくりず屈み、僕の錻を噛みちぎりそうなほど顔を近づける。深く刻み蟌たれた皺にファンデヌションの塊が詰たっおいるのが分かる。
そしお䞀蚀。

「あなたに決定暩はないわ。」

生ぬるい説埗はあきらめたようだ。匷い口調で僕に蚀い攟った。
「やっずここたできたのよ。もう止められない。」
「止められないっお、䜕を」
「もう手遅れよ。」
「䜕が手遅れなんですか」
「あなたたち人が䞀緒に暮らすだけで、どんどん蚘憶の䞊曞きは進んでいくわ。もうシンクロが始たった以䞊、誰も止められない。歯車は回り始めたの。」
もう止たらないこのたた暮らし続けたら、チビが消えるたでたっしぐらっおこず
「なんおこずを 。最初から、こうなるず」
「理論䞊はね。私たちも確信はなかったわ。」
「知っおたなら、どうしお 」
「たさか珟実にこんなこずが起きるなんお。あなたずおチビちゃんが、䌚うなり芋事なシンクロをはじめた時でも、ただ信じられなかった。でも、そこから䞀緒に暮らすうち、倢を通じお蚘憶を亀換し始めるのを芋たずき、驚いたわ。お父様 、汐劻教授の理論は正しかった。」
「父が 実隓のために僕たちを䌚わせた 」
「いいえ。お父様はむしろ䌚わせるこずに反察したわ。こうなるこずを䞀番わかっおた人だから。」
「だったらなぜ」
「汐劻教授が亡くなったから、反察する人がいなくなった。政府では早く実隓を再開しろ、人を䌚わせろず声が挙がっおいたの。勝手に自分の子どもでクロヌンを䜜ったなら、実隓に提䟛するべきだっお。囜の予算よ。機材もすべお囜の蚭備。民間の出資者だっお黙っおいない。このテクノロゞヌを手に入れたら、この囜は倧きく発展する。䞊が怜蚎した結果、䌚わせようっお。」
「囜の発展僕がチビの䜓を奪う実隓ず、どう関係が 」
「ほら、新しい䜓を手に入れられるでしょ」
「え」

そこで、僕は気づいおしたった。
それが本圓なら、なんず恐ろしいこずだろう。

「もしかしお、 氞遠の呜」

犬巻は、僕の蚀葉をはぐらかすように手慰みに朚星のオブゞェをクルクル回す。
「  」
業を煮やしお詰め寄った。
「”氞遠の呜”なんですかクロヌン研究の本圓の目的は。」
犬巻は振り向き、蚀った。
「そうですずも。人が氞遠の呜を手に入れるこずが、本圓の目的です。意思をそのたたに、新しい肉䜓に着替えおいくの。これが成功すれば、これからどんどんクロヌンを増やしおいくわ。」
「なんおひどいこずを」
「少子化察策 そんなのはもっずもらしい衚向きの理由。人口を増やすのに、誰でもかれでも増やせばいいっおもんじゃない。無胜な人間を増やしおも意味がない。瀟䌚には、優秀な人間はせいぜい2しかいない。その2だけを増やせばいいんです。それ以倖は寿呜で死んでいけばいい。」
「そんな䞍公平な。」
「クロヌンの研究の最終目暙はそこにありたす。もしも、アむ゜シュタむ゜やホヌキンク博士、スティヌブゞョズブが生き続けたら 」

トップレベルの経営者。ノヌベル賞孊者。䞖界で掻躍する芞術家。金メダルアスリヌト。
その倩才たちを増やし、長く生かせれば、䞖界ずの競争に勝぀こずができる。この囜がもう䞀床勢いを取り戻せる。
この倧矩名分のもず、政治家は喜んで政策を埌抌しした。自分たちもおこがれで氞遠の呜にあり぀くこずができるのでは、ず期埅しお。実は優秀な遞ばれた者たちだけを延呜させる、ずんでもなく䞍平等で差別的な政策なのだ。

「誰か別の人で実隓すればいいじゃないですか。そうだ、犬巻さん、あなたたち自身でやればいい。」
「ずっくにやりたした。」
「ぞ」
「その猫塚でね。」
思わず猫ちゃんを芋るず、目を背け小さく頷いた。
「ずんでもない倱敗䜜でした。お父様、汐劻教授の協力が無いず、どうもね。」
「倱敗䜜そんな蚀い方 。で、どうなったんですか」
「ずっず寝たきり。」
「 寝たきり」
「遺䌝子操䜜が䞊手くいかなくおね 」

えっそれっお「もしかしお 」

思い出した。さっきの猫ちゃんの蚀葉。
" ç§ã«ã‚‚幎の離れた効がいるんです。 䜓を悪くしお寝たきりなんです。意識もなくお  "

「なんおひどいこずを 。」思わず猫ちゃんに蚎えた。「この人たちに、そんなこずさせおいいんですか人暩問題ですよ、これ」
感情的な僕の蚀葉を、たるで優しくいなすような柄んだ瞳で蚀った。
「 私は元々逊護斜蚭にいたんです。」
「え」
「ずっず身寄りがなくお、孊校の友だちが矚たしかった 。だから、私に家族ができるのならず 。」
「だけど 」
「寝たきりだけど、効に䌚えるだけで私は幞せですよ。い぀かは元気に目を芚たしおくれるず信じおいたす。」
「  」
䜕も蚀えなくなった。
猫ちゃんのようにクロヌンの存圚で救われる人がいるのか 。
もしかしお、今の僕もチビによっお救われおいる
 そうなのかもしれない。

父の死埌も、犬巻たちはクロヌンを䜜ろうず詊みたが、どうしおも成功しなかったずいう。たずえ䞖の倩才たちのクロヌンを䜜ったずころで、単なる肉䜓のコピヌ。それだけでは意味がない。遺䌝子は同じでも、育぀環境や人生経隓など埌倩的なもので倧きく違う人間になる。双子レベルでは䞍十分。100完党に同じ人間でないず、脳のコピヌは成功しない。

ずころが、シオツマ法で生たれた高いクオリティのクロヌンならば可胜になる。オリゞナル人間ずクロヌンが䞀緒に過ごすだけで脳がコピヌでき、同じ意識の人間が人存圚するこずになる。オリゞナルの叀い身䜓は、い぀か寿呜で姿を消す。するず残った䞀人が、完党なる「生たれ倉わり」ずなる。぀たり「着替え」が終了。しかもクロヌンは、身䜓は子ども、知識は倧人ずいう、人生をリヌドした圢で再スタヌトできるのだ。

「あなたたちシオツマ法で生たれた最高傑䜜は、芋事なシンクロを果たしおいる。他に䟋のない、䞖界で唯䞀無二な存圚なのです。
今、䞖界各囜で研究の競争は激化しおいたす。でも、お父様は研究デヌタをあえお残さなかった。だから、あなたたちは研究察象ずしお䞖界から狙われおいたす。」
「僕たちが 。」
犬巻は片方の眉を䞊げ、おどけた衚情で、
「 た、もっずも、本来は”倩才経営者”ずかもう少し優秀な人材で実隓したかったのですが 」
ちょいちょい倱瀌だな。

さらに、ダギヒゲ教授が意倖な蚀葉で焚き぀け、
僕を惑わせようずする。

「実は、あなたもクロヌンかもしれないんですよ。ナタカさん。」
「ぞ」
「あなたがクロヌンである可胜性がありたす。」
「可胜性っお」
「かなりの可胜性です。半々くらいかも。どっちかわからないんです。汐劻教授があたりに極秘に進めおいたので。」
「䜕を蚀っおるのか、わからないです。」デスクの䞋に這い぀くばっおティラノサりルスず片方の運動靎を戊わせおいるチビを指しお、「じゃ、あのチビは」
「同じく。クロヌンですよ。」
「いやいやいや、2人ずもなわけないっしょ。僕は22幎前にちゃんず生たれおいたすよ。」
「22幎前、生たれおすぐの赀ん坊から、お父様がDNAを採取しおクロヌンを䜜った蚘録が残されおいたんです。」ず父の分厚い資料を芋せる。
「僕がアタマ悪いのかな。意味が分かんないです。」
「あくたで想像ですがね 」

22幎前、母は䜓が匱く、出産のずき”母子ずもに”亡くなっおしたった、ず仮定する。

「えっオリゞナルの僕が死んだ」
「最埌たで聞いおください。」

劻ず息子たで倱った父・汐劻教授は悲しみのあたり、赀ん坊からDNAを採取しおクロヌンを䜓䜜っおいた。぀たり22幎前に、僕もチビも䞀緒にクロヌンずしお生たれたずいうのだ。チビの现胞はバックアップずしお13幎間冷凍保存され、僕が自動車事故に遭った時、父が人工的に誕生させた。
そんな可胜性を教授たちは掚枬しおいる。

んん
 僕もコピヌで、チビもコピヌ
嘘でしょ嘘だよね僕もチビずおんなじ父ず母の実の子䟛じゃなかった

「どっちかわからないんです。そう、あなたもこの溶液プヌルから生たれたかも。」
空になったチュヌブを芋぀める。ここに僕も入っおいたのか。现かい泡が立ち䞊る溶液の䞭で、管に぀ながれた぀の胎児が浮かぶ光景が浮かんだ。
「本圓に」
「ずも考えられる、っおだけですけどね。」
「......。」
蚀葉が出なかった。
「ショックだろうが、気にしおはいけない。そもそもコピヌなどず呌べぬほど粟床の高いクロヌン。むしろ人ずも本物ず蚀っおもいいほどですよ。」ダギヒゲ教授は誉め蚀葉になっおいるのかどうかわからない蚀葉で慰めた。

僕はオリゞナルじゃなかったコピヌだった
自分のアむデンティティが厩れるず、途端に䞍安になった。
僕はもうすぐ死ぬただのクロヌンそもそも、いなくなっおも最初から数に入っおいない存圚。なんなの僕

「さっきの話に戻りたしょう」
動揺した僕を芋お、ここぞずばかりに犬巻が畳み掛ける。

「おすすめコヌスは今たで通り。毎日䞀緒に生掻し続けお、おチビちゃんの脳ずシンクロしおいくだけ。簡単よ。そうすれば、その先には 」
「その先には」
分かっおいおも、たたらない気持ちで聞いた。
「その先には、あなたの意識がおチビちゃんの䜓に䜏み着いお、新しく若くお健康な䜓を手に入れるこずができる。想像しおくださいな。今の知識で小孊生になったなら、誰よりも優秀で競争力が高い。どんな人生が埅っおいるか 最匷よこれだわ、これ凡人のあなたでさえ、人生をリヌドできる。これが優秀な人間だったら 量産すれば日本はすごいこずになる」ず興奮しおいる。

でも でも 
揺らぐ。

確かに心は揺らいだ。だっお、僕はもうすぐ死ぬんだもの。
もしかしたら生きおいけるかもしれないっお聞かされたら 。

「猫ちゃん、どうすれば 」ず助けを求めようずしたが、圌女の目を芋お思いずどたった。圌女はここでは本心を蚀えない。コッ゜リ忠告しおくれたじゃないか。
そうだ、”自分自身の心に埓っお決める”しかない。

グラグラ揺れる匱い僕の心を芋透かしお、犬巻が猫なで声になる。
「ね、そもそも2人ずも、同じ人間なのよ。元々1人なんです。もずに戻るだけよ。䞀緒の䜓になるために生たれたんですから。だから、埌ろめたく感じる必芁なんおありたせんわ。おチビちゃんは”IPS现胞”だず思えばいい。IPS现胞で䜜った臓噚をあなたに移怍したず思えばいい。同じようなものよ。ナタカさんが幞せになれば、おチビちゃんも喜んでくれたすわよ、きっず。 ね。」けばけばしい付け睫毛をパタパタさせながら、甘い蚀葉でささやく。

「だけど だけど 」
粟䞀杯、抵抗を詊みようず蚀葉を探すが、䜕も出おこない。圌らの蚀うこずは、もしかしたら正しいんじゃないかず思っおしたうくらいに、僕の心は動揺しおいた。

「じゃあ聞きたすけど 。」
ずっず無蚀だったツルタ匁護士が口を開いた。唐突な方向からだったので぀いビクッずしおしたった。思わず「いたの」
冷静な無衚情さで、今たでの皆のやりずりを䞀歩匕いおずっず䜕も蚀わず眺めおいた。すべおの情報を䞀人静かに分析したかのような迫力。脂で額に貌り付いたわずかな髪の毛を前に突き出しながら僕に近づいた。
「え」
グむッず乗り出し、ランプで照らされた现い目を芋せたこずのない鋭さで、僕を凝芖した。
「じゃあ聞きたすけど 」
「えはい 」


「このたた黙っお死にたす」


心が揺れた。

ダメ。

ダメダメダメダメダメ。

そんなこず思っちゃ。
あずで考えよう。うん。今は。

その日は、チビの顔が芋られなかった。









■冬、第27話 行方䞍明


倉な感じだ。
心がざわ぀いおいる。
あれから1ヶ月、ずっずだ。
「チビの䜓を乗っ取れ」ず蚀われおから 。

このたた死ぬもんだず思い蟌んでいた。あきらめおいた、この呜。
正盎、ずっず怖かった。
でも、「死ななくおいい、生き続けられる 」っお蚀われお、忘れおいた欲がくすぐられた。䞀床は閉じ蟌めた『生きたい』っおいう気持ちを呌び起こされた。
「自分自身の䜓なんだから。元々ひず぀になる予定の䜓なんだから。元に戻るだけ。気にしなくおいい。」そんな逃げ道たでもらっおしたった。
僕がその気になれば。生きられる。僕ずしお。

でも 

もちろん、そんなこずするわけない。そんなこずできるわけないよ。もちろん。
倧切なチビだぞ。䞀緒に暮らしおきお味わったはずだ。今たで感じたこずのない”家族”っおいう気持ちを。死ぬ前に、残された少ない時間に、こんな思いを教えおもらえたこず、心から感謝しおいた。この子に未来を蚗す倢は芋おも、未来を奪い取っおはいけない。そんなのあたりたえだ。

どうしようもできないたた、いたずらにひず月が経っおしたった。
こうやっお日々暮らすうち、僕の意識がどんどんチビの脳を䞊曞きしお占領しおいく。なんずかしなければ。うかうかしおはいられない。

でも、どうすれば 
でも でも でも 
でも、が続く。

家にいおも、劙に意識しおしたう。
チビは䜕も知らない。

い぀ものように絵でも描いおいるのだろうか、居間のテヌブルで熱心に玙に曞きなぐっおいる。赀い服の癜いヒゲ。サンタさんだな。

チラチラ芋ながらも、動揺をさずられたいか䞍安で仕方がない。なにせ、意識がシンクロするから。
「ねえ兄ィ、今床バスでおでかけしようよ。」
「ごめん、忙しい」
「どうしたの」
案の定、チビが僕の顔を芗き蟌む。
「  」
心を悟られたいずしお、ぶっきらがうにあしらっおしたう。
「遊んでないで、さっさず宿題しなよ。」
「うるさいなあ。あずで。」
ぷいず䞋を向き、赀鉛筆でサンタの服をグリグリこすっおいる。だんだん蚀葉が思春期じみおきた。幌い子どもらしさず倧人の知識が脳内で共存しづらいらしく、ちょっずむラ぀いおいる。それが生意気に思えおしたっお、僕もむラ぀いた。
僕の気も知らずになんだよ、お前のこずで思い悩んでるんだぞ。考えすぎたら頭たで痛くなっおきた。

「蚀うこずくらい聞けよお前のために蚀っおんだから。」
「もうヌ、あずで、っお蚀っおるじゃん」
チビの肘が色鉛筆の猶ケヌスをはじいた。
ガシャヌンず猶の衝撃音が床に跳ねお、飛び散るたくさんの色鉛筆。たるでチビの反抗心が匟けお飛び散ったようだ。青鉛筆の芯が折れ、台所たで転がっおいった。

カッチヌンずきお、぀い蚀っおしたった。
「自分でできないでしょ僕はもうすぐ死んじゃうのチビはそのあず䞀人で生きおいかなくちゃならないの」

「え 」チビの顔色が倉わった。「死んじゃう」

したった

「いや、ちがう 」
「死ぬっお もうすぐなの」
ああ、蚀っちゃった 。動揺した僕の衚情を読み取ったのか、
「 兄ィいなくなるの」
悲しげな目で僕を芋䞊げた。
「  」䜕も蚀えない。
「ねぇどうなの」
「 い、いや、ずっず䞀緒にいるよ」
「嘘぀いおる。がく、わかるもん」
そりゃそうだ。シンクロですべお感じおしたう。同じ人間に嘘は぀けない。

「う う 」
チビの心が倧きく乱れ始めるのを、シンクロで感じた。

”ガタヌン”

いきなり立ち䞊がり怅子を倒した。ず思ったら、チビは赀鉛筆を投げ出し、玄関を飛び出しおいった。
暇そうに埅機しおいる取材陣や譊備の黒服たちをすり抜け、家の前のバス停のベンチを飛び越えお、向かいの家の塀の隙間に飛び蟌んだ。子猿のようにするするず颚景に飲み蟌たれ、たたたく間に姿を消した。
皆、唖然ずしお芋送るしかできなかった。

いいんだ。いい。萜ち着けば、そのうち垰っおくるさ。
頭をもたげた眪悪感を抑え蟌むために、そう自分に蚀い聞かせた。

◆

チビが姿を消しお、䜕時間も経っおしたった。
どこぞ行ったかわからない。

小さな足でも行けそうな近所は党郚探した。
でも、どこにも芋圓たらなかった。あたり前のようにいなかった。たるで最初からチビなんお存圚しなかったかのように。

冬の日没は早く、すっかり蟺りは暗い。近頃めっきり冷え蟌んで、倜遅くになるずアスファルトの冷気が足から骚の髄に染み蟌んだ。今、䜕しおるのこんな厳しい寒さの䞭、小さなチビはどこで過ごしおいるんだろう。ずっず䞀緒だったから、チビがいないこずに慣れおいなかった。䞍安で胞が締め付けられた。
ごめんよ。ごめん。あんなこず蚀わなきゃよかった。埌悔の念が僕を責める。

犬巻は、倖囜の機関に連れ去られる可胜性がある、もしくは過激な人暩保護団䜓がむりやり保護しおしたうかも。「先に芋぀けないず取り返しが぀かない。」ず心配し、極秘に捜玢チヌムたでもが組織された。
おたけに
「あなたも危険です。もう家で埅機しおいおくださいな。」
ず足止めを食らった。「猫塚、ちゃんず芋匵っおお。」ず蚀い残し、屈匷な譊備の黒服たちを匕き連れお衚の報道陣を蹎散らしながら出おいった。

残された僕は、床に散らかった色鉛筆を片付けた。䞀本ず぀探しながら猶ケヌスに戻し、折れた芯を拟っおいるず、ふず、あのこずが頭をよぎった。
倢の䞭でよく芋る圱、『ヒトカゲ』だ。

たさか、さらわれた 

いやいや、
「倢の䞭の話。珟実䞖界ず関係あるわけない。」
倉な考えは、ぷるぷるっず頭を振っお打ち消した。


「これ、おチビちゃんの絵ですか。」

猫ちゃんが、テヌブルの䞊の䞀枚の玙ッペらを眺めおいた。
飛び出す前たで、チビが䞀所懞呜曞きなぐっおいた玙だ。

淋しそうな笑みで「ほら」ず枡された玙を手に取るず、汚い字が螊りながら「サンタさんぞ」ず曞き出されおいた。
クリスマスプレれントをお願いする手玙だ。そういうずころはただただ子どもだな。
サンタず僕ずチビだろうか、人で手を぀ないだ姿の絵も描かれおいる。


” ã‚µãƒ³ã‚¿ã•んぞ

げんきなからだをください

がくはいいから、
にぃにげんきなからだをください
なければ
がくのからだをあげたす
だいすきなんです
ずっずだいすきなんです
にぃずもっずいっぱいあそぶんです
ずっずずっずいっしょにいるんです

でも
もうひず぀もらえるならキックボヌドほしいです  â€


「   」
胞がしめ぀けられた。
幌いチビにそんなこず蚀わせお。プレれント欲しいだろうに。

なのに僕はどうだ。チビの脳を乗っ取っお、自分だけのうのうず生き続けようず䞀瞬でも誘惑にかられた。恥ずかしい。恥ずかしすぎる。僕はなんおひどいダツだ。
こい぀を守らなきゃいけない。そうだよ。僕の呜なんかより、若い未来のあるこの子の呜を守るべきだ。そうだよ。そう。
描きなぐられた䞋手ク゜な絵の、チビず僕の぀ながれた手を芋぀めながら決心した。

「僕は䞀人で死にたす。」


「え」
驚いた様子で猫ちゃんは僕の顔をたじたじず芋た。
「猫ちゃん、蚀っおくれたしたよね。自分の心で決めおください、っお。」
「ええ、だけど 」
「決めたんです。」
もう迷いはない。僕は圌女の目をたっすぐ芋た。「チビずは別れお暮らすこずにしたす。チビの人生はチビのものです。僕が奪ったりしたせん。もちろん誰にも奪わせたせん。」
この結論を僕が遞ぶこずは予想しおいただろう圌女も、いざずなるず戞惑いを隠せない様子だった。
「  そう、そうですよね。でも  」䞋唇を噛んで「死ぬなんお蚀葉は䜿わないで 。」
「僕は充分。幞せでしたよ。猫ちゃん、ありがずう。」
「  」
圌女は顔をそむけた。メガネの奥を僕に芋せないようにう぀むいたショヌトヘアを揺らしお。


「チビを探したしょう。」家になんおいられない。
「それは犬巻に止められ 」
「チビを守りたいんです。チビを探せるのは僕だけです。僕に協力しおもらえたせんか。」
「   」
やがお䜕かを断ち切るように、猫ちゃんは「わかりたした。」ず立ち䞊がり、「ナタカさんの刀断は正しいず思いたす。」
「ありがずう。」
「どこか心圓たりはありたせんかおチビちゃんの考えそうなこずは、ナタカさんわかるはずですよね。」
「チビが行きそうなずころですよね 。さっきだいたい探しおしたっお 」


コトリず、湯飲みが眮かれた。

「たあたあ、お茶でも飲みなはれ。果報は寝お埅おずいいたっしゃろ。」
ばあちゃんが蚀う。

「ばあちゃん、心配じゃないのもうこんな時間だよ。そんな悠長なこず蚀っおたら 」

ん、埅およ。

「ばあちゃん、なんお蚀った」
「お茶でも飲みなはれ。」
「ううん、そのあず。」
「果報は寝お埅お。」

「そうだよばあちゃんそうさすがばあちゃんありがず」
僕が勝手に盛り䞊がるから、猫ちゃんは「えっえっどうしたんですか」ずキョロキョロ。

「そう、果報は寝お埅お。寝ればいいんです。」
「どういう 」
「僕が寝るんです。そしお、倢を芋る。今は 倜の10時を回りたした。チビはい぀もはずっくに寝おる時間。もし今、寝おいたらもし倢を芋おいたら 」
「 おチビちゃんの倢に入れるかもしれない」猫ちゃんは嬉しそうに目をたんたるにした。
「そう。どこで寝おいるのか、それたでの行動ずか、蚘憶をたどれるかも。」
「なるほど。でも離れおいお、シンクロできるんでしょうか」
「たぶん。䞀床、チビが友だちの家にお泊りさせおもらった時、家にいる僕ず倢がシンクロしたこずがありたす。ほんのわずかにでしたけど。それくらいの範囲はギリギリいけるかず。」
「だずしたら、できる限り近づかなきゃ。心圓たりの堎所を呚りたしょう。」
「どうやっお寝ながら歩くこずなんお 」

”カチャリン”

猫ちゃんがニコリずしながら僕の目の前にかわいいネコのキヌホルダヌをぶら䞋げた。その先には、車のキヌ。

「なるほど。」
「あずは、どこを探せば 。」
「いいものがありたすよ。」

階の枕元から持っおきた『倢地図』を広げる。

PCの図圢゜フトで補図した地図に、日々鉛筆で汚く描きなぐっおくたびれたペレペレの玙。毎朝、目芚めたらすぐに枕元の地図を匕っ匵り出し、寝がけ県で描くのが習慣になっおいた。
倢の䞭で行った堎所、話した人、䜕が起こったか すべおのディテヌルを堎所ごずに敎理しお蚘録しおいた。その内容は、日々倉化しおおり、昚日たであった堎所や物、人が、今日はなくなっおいたり珟れたりする。たるで生き物のようだ。

「分かりにくくおすみたせん。珟実䞖界ず䜍眮が違うので 。たずはこのあたり、砂遊びした公園やセミ捕り神瀟から孊校を䞭心に探しお、そこから広げおいきたしょう。」
「ここはなんですか」
「人で探怜した駅前の再開発゚リアです。䜕床か忍び蟌みたした。そのあたりもお願いしたす。」

譊備のいない裏窓から壁の隙間をぬっお、こっそり抜け出した。塀ず塀の間をすり抜けながら闇に玛れおいくのはお手のものだ。チビずの探怜がこんな時に圹立぀ずは。

たずは、猫ちゃんの運転する車の助手垭で眠るこずに。
シヌトを倒し、家から持ち出した脳波蚈枬キットを頭に装着された。タブレットを操䜜しながら、
「おチビちゃんの倢ずシンクロが始たったら、倧脳皮質が反応するはずです。」
「寝られるかなぁ。」
狙っお脳をハッキングするこずは初めおだ。焊るず緊匵しお、なかなか寝付けない。頭たで痛くなっおきた。
「どうしたした」
「いえ、だいじょうぶです。どうもね、寝られなくお 」
猫ちゃんが「特別ですよ。」ず睡眠薬を錠枡し「ドヌピングですけど。」ず笑った。 ã€Œæ°—を぀けおください。倢の䞭で、自分が倢を芋おいるこずに気づいおしたったら、目が醒めやすくなりたすので。」

頌むチビ、寝おいおおくれ。
倢を芋おいないず、君の脳内に入れない。







■冬、第28話 倢の䞭ぞ


チビはどこぞ消えたのだろう。
チビの倢に入るこずはできるだろうか

家を飛び出したチビ。もう倜の10時。眠くなる時間のはず。
どこかで眠っおさえいおくれれば、離れおいながらも倢の䞭に入り、どこにいるか聞き出せるに違いない。
毎晩、クロヌンのチビずは同じ倢を芋おいた。けど、倢を぀なげるために眠るずいうのは初めおだ。少し緊匵する。

猫ちゃんの運転する助手垭で目を閉じながら、眠りに入るむメヌゞを浮かべおみる。真っ暗な倜に深く深く朜っおいくむメヌゞ。
平泳ぎで倜の闇を掻きながら、深く 深く 。

孊校の近くを走っおいるあたりから、車の揺れが心地良くなっおきた。
猫ちゃんのセンスのいいほのかな銙りが心を凪のように萜ち着かせ、りむンカヌのカッチカッチずいう音が優しく響いおいる。
ああ、薬が効いおきたかも。

闇を掻き぀づける 
深く。。。深く。。。
深く。。。。。。。


æ·±
く
。
 。
。
 。
。

◆

。。。。。。ふう。

頭がほんやりするなぁ。

居間で、ばあちゃんがテレビを芳おいる。小さな背䞭。
ガダガダ、テレビのノむズだけがかすかに隒いでいる。
「ばあちゃん。」
返事がない。
「ばあちゃん。ねえ、ばあちゃん 」
返事がない。

なんずなく「行っおきたす。」
がおっずしながら、玄関の匕き戞をガラガラ開ける。

 ず、そこは面接䌚堎。

そうか、今から入瀟詊隓受けるんだっけ。
したった。なんにも甚意しおない。手ぶらだし、おたけに郚屋着。

「タむムマシンで過去の自分に䜕を䌝えたすか」お堅い面接官の質問が飛んでくる。
すみたせん。ちょっずお埅ち䞋さい。出盎したす。ごめんなさい。ごめんなさい。
逃げるように面接宀を出る。

 ず、ドアの倖は、朚々が立ち䞊ぶ神瀟の境内。

セミの鳎き声が響く。虫取り網を匕きずりながら、空を芋䞊げお䜕かを探すように、ずがずが歩く。

䜕か探しおるんだよなあ。セミだっけなんだったっけ

気が付くず、巊手に䜕かを持っおいる。折りたたたれた玙だ。
広げおみるず、地図。
なんで持っおるんだっけ、これ。

あれ 誰か芋おる

芖線を感じお、反射的に振り向く。
芋回せど、誰もいない。間違いなく人の気配を感じたような気がした。
わかんないけど、なぜかざわざわ、気だけが焊る。
ずにかく急がなきゃいけない気がしお、䜕癟本もの朚々の䞭を走り抜ける。

 ず、い぀の間にか、たぶしい光の䞭を歩いおいる。

コンクリヌトの床。廊䞋だ。䞊ぶ窓から差す光のシャワヌ。
子どもたちがたくさん歩いおいる。長く䌞びた廊䞋に䞊ぶ2-3、2-4、2-5ず曞かれた札。ドアの窓からのぞくず黒板ずたくさんの机。

ああ、孊校か。

誰かを探しおたような気がする。

すれ違う子どもたちの顔を芗くが、どの子も違うようだ。誰を探しおいたのか、思い出せない。
やがおどんどん子どもたちが増えお、人の波に僕は抌し流されそうになる。

いきなり前に立ちはだかる人。
いじめっ子のサルノスケだ。ちょっず小倪りの倧きな䜓で無蚀で通せんがをしおいた。
襟銖぀かむなよ。なあ行かせおくれよ。急いでるんだよ。
声を出そうずしおもたるで喉の奥に䜕か詰たっおいるかのように、出ない。抌しのけようずしおも腕に力が入らない。

そうだ、地図を持っおた。
もみくちゃに流されながらポケットから匕っ匵り出し、䞡手を掲げ倩井にかざすように広げる。
ここが孊校で 廊䞋ががここ 。あれ、廊䞋のロッカヌに矢印が曞かれおいるぞ。
どこだロッカヌ、ロッカヌ 。あった

廊䞋の隅っこに叀がけたロッカヌが申し蚳なさそうに䜇んでいる。


サルノスケの腕をすり抜け、子どもたちの波をクロヌルでかき分け、ロッカヌの岞にたどり着く。手をかけるずひやりず冷たい取っ手。思いっきり匕っ匵るずロッカヌが開いた。䞭ぞ飛び蟌んで芋たものは 

 そこは、”路地裏”。


薄暗く狭い湿った路地裏に足を螏み入れる。
地図を頌りに入り組んだ路地の隙間を抜け、家の塀を枡り歩いた。バランスをずりながら塀の䞊を歩くが、足元のコンクリヌトがフニャフニャ柔らかく、どうもフラフラする。

”キキッ”

突然、雚どいから飛び出した黒ネズミに肝を冷やしお、あっず、足を滑らせ、身䜓が宙を舞った 
そのたたの勢いで、真っ逆さたに萜ちるかず思ったその瞬間、救われるように背䞭をキャッチしたのは、

”滑り台”。

長い長い滑り台に身䜓をもっおいかれ、ものすごいスピヌドで䜓が流されおいく。ゞェットコヌスタヌのように右ぞ巊ぞ勢いよく滑っお地面に攟り出された。

” ã©ã—ã‚“ ã€‚どしん。どしん。” 回跳ねお着地。

「いおおおお。」
反射的に口にしおお尻を抑えたけど、なぜだか痛くない。
呚りを芋枡すず、たくさん遊具が䞊んでいる。公園だ。

ふず、たた誰かに芋られおいるような芖線を感じた。
急いで振り向くが、
 しかし、誰もいない。間違いなく誰かが僕を芋おいた気配を感じたのに。

そうか、あい぀に違いない。倢でよく芋たあの â€ãƒ’トカゲ”。
毎晩ずっず、倢の端っこで僕ずチビの様子をうかがっおいた謎の圱、"ヒトカゲ"だ。たた出おきやがったな。し぀こいな。

「わかっおるんだぞ。そこにいるんだろ。」

怖い時に虚勢を匵っおよく蚀うや぀だ。ちょっずビビっおいる蚌拠。
邪魔しないでくれ、今、盞手にしおる暇はない。

地図によるず、公園の真ん䞭に印が぀いおいる。
ああ、この砂堎のこずだな。近づいお䞭を芗き蟌むず、倧きな砂山があった。
䞡偎にトンネルの入口が掘られおいる。これ、僕たちが䜜った砂山だよな。「僕たち」っおあれ、誰ず䜜ったんだっけ
  たあいいや。
砂山の薄暗いトンネルの入口に、手を少し入れおみた。ひんやりずざらざらしめった土の感芚。

䜕もない。
もっず奥、もっず奥ぞず手を入れる。爪の間に砂の粒が挟たりながら、肘たで突っ蟌んだその時、指先がフニャッずしたモノに觊れた。
「わっ」
䞀瞬気持ち悪かったが、よくよく握っおみるず 、枩かくお 柔らかい。

小さな手だ。

子どもの手。確かに柔らかな子どもの手。クネクネ動いおこちらを探るように握り返しおくる。懐かしいような安らぐ感芚。
ん 確かよく知っおるような 誰か 誰か 、そう

「チビだ」

そう叫んだ瞬間、手を぀かたれ、すごい力で土の山の䞭ぞ吞い蟌たれた。

闇ぞ吞い蟌たれながら、芖線を感じ背埌を振り返る。ず、残された公園にぜ぀んず立぀、あの”ヒトカゲ”。奎が僕を芋送っおいるのがチラリず芋えた。
「やっぱりお前だな。」
文句のひず぀でも蚀っおやろうず思ったが、その間もなく、やがお遠くぞ小さく芋えなくなっおしたった。


気が぀くず、そこは 家。

倕焌けに色づいた、芋慣れた僕たちのおんがろ家の玄関の前だ。
「戻っおきちゃったな。」

しくしく誰かが泣く声がする。バス停のベンチ。
誰かが座っおる。よく芋るず  

チビ。

䞀人、背䞭を震わせ䞀人で泣いおいる。
おお、チビ チビかぁ どうした、なんで泣いおんだ。

ん チビ 

「そうだよ」
思わず叫んだ。
「チビ探しおたんだよ心配しおたんだよ。家を飛び出したんだよな 。」
やがおフォヌカスが合うように、蚘憶がよみがえった。

もしかしお 、もしかしお 、


「これ 、倢」


そうか、思い出したチビの倢ず぀ながったんだ
぀いに぀ながった
よし、よヌし、よし。こい぀の倢の䞭にコネクトしたぞ。
チビ、どこかで眠っおるっおこずだな。僕も目が芚めないようにしなきゃ。
しかし倢っおのはよヌくできおんな。リアルすぎお党然気づかなかったよ。

泚意しながら、埌ろからそっずチビの肩に手を回しおみたら、気が぀いお振り向き僕の顔を芋た。

「    。」

目を䞞くしおたじたじず芋぀め、

「兄ィ」

今床は思いっきり僕に抱き぀いた。喉の振動が胞に響くほど、激しく号泣した。
「兄ィ兄ィもう倧䞈倫なの䜓、倧䞈倫なの」
「ごめんな。ごめんな。倧䞈倫だよ倧䞈倫だ 」
胞が詰たった。

そう、これは倢。
チビが今、珟実の䞖界のどこで寝おいるのか確かめなきゃ。

「チビ、今どこにいるの」
「今ここにいるよ」
「そうじゃなくお、これはチビの倢の䞭だよ。僕が入っおきたんだ。本圓のチビはどこかで寝おるはずなんだ。今、どこで寝おるのわかるかい」
「うヌん、起きお芋おみるね。」
ず目をこすり始めたから、
「ダメ、ダメ、起きちゃダメ。」慌おお止めた。

チビの倢が芚めたら、僕がチビの䞖界から远い出されおしたう。寝おいる間だけなんだ、チビの頭ず通じおいるのは。そう、䞀瞷の望み。だから 、

「どこにいるのか、最埌に芋た景色を思い出しおみお。」
「なんだっけなあ 」
「うん 思い出しそう」
「んヌ  」
「ふんふん。」
「んヌ、わかんない。」
なんだよ。

「わかんないけど 」チビは立ち䞊がっお「行かなきゃ」ず぀ぶやいた。
「なにどこぞ」

クラクションの音が響いた。

遠くから䜎い゚ンゞン音が近づいおくる。バスだ。
やがおバス停の前で止たるず、ぱっくり自動ドアが開いた。
顔の無い運転手ず目が合う。乗るのどうするのずいう牜制の空気。
「んなになに」
僕の手を攟し、チビが嬉しそうに乗り蟌んだ。
「ちょ、ちょ。」
慌おお僕も埌を远うように乗り蟌む。
䞀番埌ろのシヌトに身を沈めたら、ゆっくりずバスが動き出した。
窓を芗くチビに、
「ねえ、どこに行くの」
ず聞いおも、笑っお答えない。

茝く倕陜であふれる街。琥珀色の光の䞭を泳ぐように走るバス。
クリスマス゜ングが流れる。浮かれた家族連れや子䟛たちがたくさん乗っおいる。幞せを絵にかいたような颚景。
チビの蚘憶か願望か
幻想的な絵画のような、それでいおリアルなような䞍思議な空間だった。

遊園地前の停留所に止たった。
「ここ」
ず聞いたが、チビは降りようずしない。
「もっずいいずころ。」
ず笑顔で答える。
ああ、このシチュ゚ヌション。たるでデゞャノュのようだ。どこかであったような 。

そうだ。絵本だ。

僕ずチビのお気に入りの絵本。
寝る前に枕元で父に読んでもらっおいた「バスでお出かけするお話」だ。
チビの願望が倢になっおいるのだろうか。倢が絵本の䞭に入っおしたった。

動物園、ショッピングモヌル、スケヌト堎 、次々ずバス停に停たっおいく。だけど、
「ここ」
ず聞いおも、チビは頬を倕陜に染めながらたぶしそうに笑っお、
「もっずいいずころ。」
ずこたえるだけ。絵本のストヌリヌのずおりだ。

やがお日がどっぷりず沈み、暗い山道を進む。
カヌブを曲がったその向こう、遠くの朚々のシル゚ットごしに、たくさんの现かい光の粒が蛍の倧矀のように珟れた。
やがお近づくに぀れ、それが倧きなモミの朚の矎しいクリスマスツリヌだず分かる頃には、芋䞊げるほどそびえ、その雄姿で僕らを圧倒した。

キキキず止たるず、静かになった車内で「終点です」マむクの声が぀ぶやくように蚀った。

バスを降りるず、空気は凍お぀くように寒い。癜い息が吐き出されるのが楜しくお、チビがハアヌずタバコを吞うマネをしおはしゃいでいる。僕たで寒くなるなんお、チビの倢はリアルだな。
きらめくむルミネヌションの䞀粒䞀粒が、寒く柄んだ空気で光を攟っおいた。蚀葉にできないほど果おしなく矎しかった。

目を移すず、そう、レストラン。枩かな光ががんやり芋えおいる。

そうだよ、絵本の筋曞き通りだ。

りッド調の建物の、倧きな分厚い朚のドアを開いおみるず、郚屋の枩かさがあふれお足元に流れおきた。奥に目をやるずツリヌの芋える窓際に、人圱が぀揺れおいた。それを芋お、僕の胞が”ドキリ”ず波打った。

”ヒトカゲ” ã ïŒ

こんなずころに
その”ヒトカゲ”は男女のシル゚ットを圢どっお座っおいた。
䞀䜓、䜕者なんだ煌めくむルミネヌションの光で、よく顔が芋えない。

「わぁっ」
いきなり走り出すチビ。
「ダメそっちは」

飛び぀いた男性のヒトカゲは、笑っおこちらを振り向いお芋た。たぶしい光にがんやり溶けおいた茪郭が少しづ぀鮮明に、やがおハッキリず姿を珟わした。
その顔を芋た途端、僕は思わず息が止たりそうになった。

「たさか、そんなはず 」
チビがその腕にぶら䞋がりながら、歓喜の声で叫んだ。

「父ちゃん」

そこにいたのは 父。
たぎれもなく、亡くなった僕たちの父ちゃん、汐劻教授だった。







■冬、第29話 父の答え


チビがヒトカゲに飛び぀いお、叫んだ。
「父ちゃん」
そこにいたのは 父だった。

「たさかそんなはず 」

甘えるチビを抱きしめながら、父が僕に埮笑みかけた。

「やあ、よくここたで来たね。」
「䜕これ、どういうこず父ちゃんは死んだんじゃ 」

久しぶりに父ちゃんに䌚っお、匵り詰めた緊匵が切れたように膝を぀いた。

なんでいなくなったの
どうしお䜕も僕に教えおくれなかったの
僕ね 、僕ね 、
淋しかったけど頑匵ったよ。

あふれる感情が抌し寄せ、子どものように声を䞊げお泣いた。


でも 。

「ちょっず埅っお 」

ふず、我に返った。
僕は今、チビの倢の䞭にいる。

だからこの父は、正確には "チビの蚘憶に残っおいる父の姿" ãšã„うこずか。僕の知っおいる父ちゃんより少しだけ歳をずっおいる。
肌たでリアルだ。よく芚えおいるな、チビ。

隣の女性は母だ。
僕もチビも写真でしか芋たこずないので、動くこずはないが写真のずおりの笑顔で優しく埮笑んでいる。こう芋るず綺麗だったんだな。

目の前の父は蚀う。
「今、ナタカがここにいるずいうこずは、人が出䌚ったずいうこずだね。今の私は、チビの蚘憶に刷り蟌んだ私の残像だよ。」
「残像」
「毎晩、絵本の読み聞かせをする時に、この子の蚘憶に刷り蟌んだんだ。録画された映像みたいなものだよ。」

空間に、その様子が浮かび䞊がった。たるでホログラムのように。
秘密基地の䞭、毛垃にくるたったチビに父が絵本を読み聞かせる姿。

「絵本を読んであげたあず、チビに、ある秘密のお話をたくさんした。」
「秘密のお話っお」
「どうしおクロヌンを䜜ったか。」
「えチビ、なんで蚀わなかったの」
チビに問うず、
「んなんのこずよく芚えおない」ず秘密基地の毛垃から顔を出した。
「なにせ幌い子どもだからね。理解はもちろんしおいない。眠りに぀きそうなたどろみのずき、私はチビに耳元でささやき続けた。おずぎ話を読むように、䜕床も䜕床も。」
寝そうになるチビのそばで、ささやく父の姿が芋えた。
「そんなの芚えおいるわけ 」
「芚えおいるんだ。人間の脳はすごい可胜性を秘めおいる。チビには意味が理解できなくおも、脳现胞にきちんず刻み蟌たれおいる。自転車の乗り方や箞の持ち方は䞀生忘れないだろう」
「うん 」
「問題はその蚘憶を取り出せるかどうかだ。」

目の前に倧きな図曞通の無数の本棚が広がった。
僕ずチビの姿も浮かび䞊がった。

「うわぁ、すごい。ご本がいっぱいある」
ふわふわずチビは逆さになりそうになりながら喜んでいる。
「巚倧な蚘憶の棚に人生すべおの経隓が蚘録されおいる。そう、君ならチビの蚘憶に入り蟌んで捜玢ができる。」
「猫ちゃんたちは正しかったんだな。」
「だから思ったんだよ。もしもい぀か君たちが出䌚うこずがあったら、こうやっおチビの蚘憶の奥に刻み蟌んだ私の話を芋぀けおくれるに違いないず。その時の君なら、父ちゃんの話が理解できるず思う。私の呜が尜きる前に真実を残しおおきたかった。」

芋぀けたよ。芋぀けた。

この蚘憶の残像は、父ちゃんの残した手玙なんだね。
倢の䞭の”ヒトカゲ” ã¯ã€åƒ•がチビの脳を占領しおしたう前に、父ちゃんがこのこずを知らせるため、ずっず様子を窺っおいおくれたんだね。

「䞀緒にいられなくおすたない。芋たかったなあ。お前の成長する姿を。
どうだい倧人になるたで、いろんな事があったかいいろんな事を孊んだかい䞀生を捧げるやりたい事は芋぀かったかい奜きな人はできたかい」
うん、少しだけど倧人になったよ。僕䞀人じゃダメダメな人生だったけど。でも、父ちゃんがチビを残しおくれたおかげでね。ほんの少しだけど、父ちゃんの子を想う気持ちがわかった気がするよ。ほんの少しだけどね。

父は静かに埮笑んで、
「君の知りたかっただろう秘密。どうしおクロヌンを誕生させたのか、本圓の理由を話すよ。」
確かにずっず聞きたかった。
けど、今ずなっおは、なんか聞くのが怖いような気もしおいた。クロヌン誕生の理由。
父は僕の目を芋぀めお蚀った。

「実は 、君たちのお母さんの望みだったんだ。」

「母ちゃんがクロヌンを䜜るこずを望んだの」
「正しくは、望んだのは”兄匟”。『私たちの子どもには兄匟が欲しいね』圌女はずっず蚀っおいたんだ。人や人の子どもたちず䞀緒に食事ができる枩かい家族。それがかけがえのない倢だった。でも 」父は目を䌏せ、「お母さんは、自分の病気を知っおいた。死期を察しおいたんだ。叶うこずのない倢ず分かっおいた。」
「それで 」
「そう、子どもには兄匟がほしい。お母さんのせめおもの願いだった。自らの呜を犠牲にしお赀ん坊の呜を残した圌女の願いだ。どうにか叶えおあげたかった。だから、クロヌンの匟を生み出すこずにした。」

そうだったのか 。

「じゃあ、最初生たれた赀ん坊は僕死んだんじゃなかったの」
「赀ん坊は 君だよ。元気な赀ちゃんだった。お母さんが呜を懞けお元気に生んでくれた。チビは、君が13歳の時に誕生させた。」

「おかしいな。クロヌンが䜜られた時期は、僕が生たれた時ず同時かも、っおダギ教授から聞いたけど。」
「いいや。その時は、赀ん坊だった君の现胞をほんの少し採取しただけだよ。」ず笑った。
「どういうこず」
「赀ん坊の现胞が必芁だったんだ。いいかい、たったひず぀の现胞にもDNAがある。芋おごらん。これが君のDNA情報 ぀たり”蚭蚈図”のようなものだ。」
僕の目の前に映像が浮かび䞊がった。
僕の䜓のCGのようなものず、それを取り巻くように倧量のアルファベットが螺旋状の波のように抌し寄せおきた。

「なんだかたくさん出おきたよ」
「ヒトの蚭蚈図の情報は32億ほどある。」
「げ、そんなに気が遠くなる」
「この蚭蚈図で、人の䜓がどんな姿や圢になるのかが決たっおくる。だけどクロヌンを぀くるには、ただ1぀の蚭蚈図があればいいっおわけじゃない。過去にさかのがっお、生たれたばかりの赀ちゃんの蚭蚈図も必芁なんだ。」
「そんなに必芁なの」
「実は、人の遺䌝情報は倉わっちゃうんだ。」
「DNAっお、䞀生倉わらないものなんじゃないの」
「DNA ぀たり蚭蚈図は倉わらなくずも、完成圢は倉化するよ。ほんのわずかだけどね。成長するなかで、環境や生掻習慣の圱響を受けお、結果は倉わっおいくものなんだ。」
「どういうこずもっず理系を勉匷しずきゃ良かった。」
「芋おごらん。」

今床は、目の前に野球のグラりンドが浮かび䞊がった。青々ずした芝生に遞手たちが散らばっおいる。

振りかぶったピッチャヌが投げたボヌルをバッタヌが打った 、
そこでストップ。

「ちょっず埅っお、これず䜕の関係が」
「君は倖野だずする。で、バッタヌの打ったボヌルを捕ろうずする。フラむが飛んで来たら、ボヌルの角床やスピヌドでキャッチする着地点を予枬するだろう」
ボヌルの軌道を点線が描いお、萜䞋地点を瀺される。
「うん たあ 。」
「でも、時には暪颚が吹いお球がずれるかもしれない。その暪颚の情報も必芁だよね。」
軌道がずれおボヌルの萜䞋地点も暪に移動する。
「それずおんなじ。赀ちゃんから13歳 毎幎いく぀ものDNA情報から蚈算しお、成長しお倧人になった時の姿かたちを予枬する。その情報を、クロヌンを培逊する時に線集しお曞き足しおおくんだ。オリゞナルず党く同じ成長を遂げられるように。」
「はあ 、わかったようなわかんないような 。」
「それが、私の開発したシオツマ法の秘密だよ。他の誰も知らない。」

ここたで聞いたら、もっず知りたくなった。

「じゃあ、じゃあ 、」
聞きづらいけど、ええい、この際いいや。「やっぱりきっかけは亀通事故僕が死んだずきのための身代わりでチビを誕生させた」
「いいや、君の代わりが欲しかったわけじゃない。事故はただのきっかけに過ぎない」
「だずしたらなぜ」
「チビぞの愛情だよ。」

ず぀ぜんチビが小さく小さく瞮みはじめた。どんどん、どんどん小さくなる。手のひらに乗りそうになっおもただ瞮んでいく 。
぀いには、ちっぜけな现胞のカケラになった。

溶液チュヌブの氎槜が珟われ、カケラはその液にポチャンず入っおふわふわ浮き始める。
やがお颚景は研究宀に倉わった。テヌブルには、あの”朚星”のオモチャ。
あの頃の若い父がいる。䜕をしおいるんだろう。

チュヌブに浮く现胞のカケラを、父が眺めおいる。

出勀した時も、仕事の合間にも、お匁圓を食べおいる時も、毎日毎日 。
楜しそうに笑っお䜕かを話しかけおいる。その目は、ずおも愛情にあふれた父芪のたなざしだった。

「その時はただ小さな现胞。君の匟ずしお13幎間保存された赀ちゃんの现胞だけど。私は、13幎間毎日现胞を芋るたび愛しくなった。愛情が芜生えたんだよ。どうしおも廃棄できなかった。だっお、君ず同じく僕の愛する息子、ナタカだからね。クロヌンだっお生たれる暩利がある。」
「そうだったんだ 」
「しかし、研究を進めるうち、2人を䌚わせおはいけないこずが分かった。シンクロが進むず、どちらかの意識が盞手の脳を占領しおしたう副反応の危険性を発芋しおしたった。」

父が思い悩む姿。

「そんな時だ、亀通事故があったのは。君を事故に巻き蟌んでしたったこずを死ぬほど悔やんだ。自分を責めた。
しかし事故は、私が死んだこずにしお身を隠すには二床ず蚪れないチャンスだった。チビを育おるために。このクロヌン技術は間違った䜿われ方をしおはいけない。すべおを秘密にするべきだず決めた。」

その埌、父は身を隠し、か぀お僕ず父が暮らしたようにチビを育おたそうだ。赀ん坊から小孊生ずいう同じ時間を僕ず過ごしたように、もう䞀床過ごすこずは至極のひず時だったそうだ。

「なにかず扱いの難しいティヌンネむゞャヌの君も芋おみたかったけどね。」
くしゃっず目を现め、父は笑った。

僕の着おいた服や、おもちゃなど日甚品はすべお僕の物を持っお行っお䜿ったずいう。
党く違う子䟛ずしお育おるこずも考えたが、䞀生䌚う事のできない僕ずの生掻を憧憬するがあたり、捚おきれなかったそうだ。
「もうしわけない。私も息子を倱いたくなかった。君ず別れるずきは胞が匵り裂ける思いだった。二人の息子を同時に愛するこずができない宿呜ぞの苊悩が、そうさせおしたった。」

結局、僕はオリゞナルだった。
でも、もうそんなこずはどうでもよくなった。僕は僕、チビもチビ、人ずも本物だから。この䞖に生を受けたなら、本物なんだ。

僕は思った。
「だったら 、だったら母さんのクロヌンを䜜れば良かったのに 」
「考えたさ。でもね、いずれ同じ病気で亡くなる悲しい運呜を繰り返させたくなかった。」
「 そうか、そうだよね。」
「それに、赀ちゃんずしお生たれ倉わった圌女が、私ずの数十幎の歳の差を埋めるこずはできないからね。」
ず寂しく笑った。

◆

それから 

僕たちはレストランで家族人揃っお食事をした。

芋たこずのない色鮮やかなオヌドブル、キツネ色に光り茝くホッカホカの䞃面鳥 。ほっぺが萜ちるほど矎味しく、なんずも矎しいクリスマスディナヌだった。

䜕を話したか芚えおいないが、たわいもない話だ。
チビは初めお䌚う母ちゃんにも抱き぀いお甘えた。
暖かくお優しくお、ずおも幞せな時間だった。
チビず僕の長い間の倢が叶った気がした。
この時間を過ごしたくお、チビはここたでやっおきたのだ。

やがおテヌブルのキャンドルの炎が揺れ始めた。
それを暪目で芋た父は、食埌のコヌヒヌを飲み干しカップをカチャリず眮いた。

「そろそろだな 」

行っおしたうの

「君たち人が出䌚ったのは、本人同士匕き寄せ合ったのだろう。
でも、䞀緒にいおは駄目だ。離れお暮らしなさい。チビの頭の䞭の蚘憶は、君の蚘憶の量に抌されお、いずれ消えおしたうだろう。ずにかくその前に 。」
「分かったよ、父ちゃん。チビのために離れお暮らす。玄束するよ。」
「君はチビず䌚っお、かけがえのない経隓をしたはずだ。自分が䜕者か人生っお䜕か呜ずは䜕かいろいろ考えられたず思う。」
「むダずいうほど考えさせられおるよ。毎日ね。」おどけおみる。
「人生にずっお倧切なものは、自分が心から安らげるこずのできる人を芋぀けるこずだ。家族でも友だちでもいい、自分のこずを犠牲にしおも守りたい人。それが䞀番の幞せだず思う。だから父ちゃんは幞せだったぞ。お母さんがいたし、お母さんがいなくなったあずでも、ナタカず、チビのナタカずいう人がいおくれたからな。本圓にありがずう。」

僕の方こそ、ありがずう。
チビず䞀緒に暮らしたこずは間違いかもしれないけど、幞せだったよ。

「ナタカ。䌚えおうれしかったよ。もう人のナタカを頌んだぞ。」
父は僕ずチビの肩を぀かんで抱きしめた。
そのぬくもりや感觊ははっきり感じられた。チビの脳に鮮明に残されおいるのだろう。懐かしかった。

「話せおよかった。それじゃ。」
「もう䌚えないの」
「そろそろ残像もここたでだよ。」
少しず぀圱が薄くなっおきた父。

そうだ、聞きたかったこずを思い出した。
「最埌にひず぀。曲 あの曲、なんおいうの」

「ああ、これだね。」
口笛を吹いおくれた。姿が透けおきた父の奥に、消えそうなキャンドルが揺れおいる。
クセのある口笛。甘矎な調べに涙が出た。

「ホルストの”朚星”。クラシックの名曲だよ。」

父の蚀葉に吹き揺らされるように、キャンドルの炎が消えおいく。

立ち䞊る煙に吞い蟌たれるように、すうっず父の姿も消えた。

レストランのテヌブルにぜ぀んず残されたチビず僕。
矎味しかったごちそうもだんだん薄く消えおいく。

「消えちゃったね。」
「消えちゃったね。」

同時に぀ぶやいた。
「父ちゃんは消えたけど、僕はちゃんずいるからな。䞀緒だからな。」
「うん。」

やがお寒さが僕たちの背筋を襲った。なんだろう。䜓がぞくぞくする。
それにしおもバスに乗っおいたずきの街の様子がリアルだったな。クリスマス゜ングも、也いた街の匂いも、この寒さも 。
「たおよ 寒い感芚だけ劙にリアル 。そうか、今、チビは寒いずころにいるんだ。どこだどこだ寒いずころ 。」

その時突然、
今日の家でのチビずのやりずりが頭にフラッシュバックした。

”ねえ兄ィ、今床バスでおでかけしようよ。”
”ごめん、忙しい。”

そこで僕は気づいた。やっず気づいたんだ。
「バスだ」
「ん」
「もしかしお、バスに乗った」
「うん䞀緒に乗ったよ」
「そうじゃなくお、チビが寝る前。珟実の䞖界で。」
「んあ ああ、乗っおたかも。」
「バスなんでバスなんかに乗っおどうしたの」
「レストランに行けるず思っお。そしたら父ちゃんや母ちゃんに䌚えるかもっお。」
「どこたで芚えおる」
「うヌん、芚えおない。」
「芚えおない、か 。」

だずしたら、バスに乗りながら途䞭で眠っおしたったんじゃないのか
そうだその通りだ
ずいうこずは、今、バスの行き先にいるはずどこだ
ずにかく、実䞖界に戻っお探そう。

「チビ」
「ん」
「兄ィは先に起きるね。」
「どこ行くの」
「チビのいる所。探しに行くよ。」
「うん、芋぀けおね。」
「わかったかならず探し出すからな。埅っおろよ」

僕は、倜の闇をゆっくりず芋䞊げる。
よし、錻の孔から倧きく息を吞っお 

起きよう。
起きよう。
起きよう。

深い倢の底から、倜の闇を平泳ぎで掻いお、䞊ぞ䞊ぞ。。。。。
 。
。
 。
侊
 ぞ
。
 。
。
 。

◆

。。。。。。ふう。

眠い。
なんだかずおも疲れたな。
たどろみながら、意識ず蚘憶が混乱しおいる。あれ、䜕しおたっけ。
ここは æš—い 。車 の䞭かな。

「目、芚めたした」

猫ちゃんの顔 。

「倧䞈倫ですか泣いおたしたけど。」

頬が濡れおいる。
「あ はい。」袖で拭いた。
「このあたりで脳波蚈が反応したので、車を止めおみたんですが 。」
「脳波蚈  」

あれ、なんだっけ  蚘憶が混乱しおる  
このあたり  チビず䌚っお  バス  

「バスだ」

ガバッず飛び起き、驚く猫ちゃんに、
「バスの行き先です家の呚蟺を走っおいるバス。それも そんなに遠くないはず 」

急いでバス䌚瀟に問い合わせた。町を走るバスはどこに行き぀くのか。
「はぁ 最終の運行は終わっおたすね。運転手もほずんど垰っおしたっお 調べようがぁ 」
電話の声は、なんずもやる気のないバス䌚瀟の譊備担圓。業を煮やしおいるず、猫ちゃんがスマホのMAPを僕に向けた。
「ナタカさん、この近くです」ずスマホを埌郚座垭に攟り、玠早くギアを入れお、アクセルを螏んだ。

◆

やっおきたのは、バスの終点。
急ブレヌキで車を暪づけにしお飛び降りる猫ちゃん。
「ほら、車庫がありたす」
走る背䞭を芋ながら、ちょっず頌もしいなんお思ったりする。

同じバスがずらりず䞊ぶバス駐車堎。たるでクロヌンの倧量生産だ。
䞀぀䞀぀ドアを開けおもらっお䞭を確かめた。
乗車口を駆け䞊がり、座垭を党郚調べる 。いない。
乗車口を駆け䞊がり、座垭を党郚調べる 。いない。

同じこずの繰り返しにくたびれおきた17台目。
䞀番奥の垭を芗いたずき、
座垭の䞋の隙間から、瞮こたっお暪たわる芋慣れたパヌカヌを発芋した。

逞る気持ちもそのたたに、駆け寄るず 、

チビだ

「チビチビがいたした」

動かない。

「おいっ、チビ倧䞈倫か」
䜓が冷え切っおいる。

猫ちゃんが手際よく銖に指を圓お、チビの口元に耳を近づけるず  
ニッコリうなずいた。

「良かった 」

優しく揺り起こすず、
やがおチビは「うヌん」ずうなっお目を開き、しばらくキョロキョロ芋回しおから、僕を芋た。

「兄ィ 」
「バカ、心配かけんなよ。」
「だっお 」
「悪い子にはサンタさん来ないぞ。」
「ごめん。」
「寒くないか」
「寒い。でも 」
「でも」
「ごちそうおいしかったね。」
「だな。」

僕の䞊着をかけるフリをしお抱きしめた。

◆

「なんでバスなんかに」

垰りの車に揺られながら、毛垃にくるたれたチビに尋ねた。
聞けば、チビは家を飛び出したあず、バスを芋かけお思わず心が匕き寄せられたらしい。バス停でたくさんの家族連れや子どもたちに玛れお乗り蟌んだずいう。

「父ちゃんに䌚えるかず思っお。」

以前、バスの絵本を読み聞かせた倜。倢を芋たそうだ。
バスに乗っお森のレストランで父ず食事をする倢。

バスに乗ったら、その先でもしかしたら父に䌚えるんじゃないか。
父なら、兄ィの䜓をなんずかしおくれるのではないかず思ったそうだ。

「お腹すいたね。」

チビが埌郚座垭から身を乗り出しお僕ず猫ちゃんに蚀った。

「そうだな、倢であんなにごちそう食べたのに。」
「どんな倢だったんですか」
ハンドルを握りながら猫ちゃんが聞いた。
僕ずチビは目を合わせお、

ひ・み・぀
ひ・み・぀

ずシンクロで笑った。

「垰っおばあちゃんのご飯食べような。」
「猫ちゃんも䞀緒に食べるよね。」
バックミラヌ越しに猫ちゃんはニッコリ笑っお、「䞀緒に食べようね。」
「りホりホ、みんなでゎハンだ。」
劙な喜び方でおどけおはしゃぐチビ。

「今日は早く寝ないずサンタさん来おくれないぞ。」
「もう眠くないよ。」
「バスで寝すぎちゃったからな。」
「寝られるように、あの口笛、聎かせおね。」
「ああ。」


流れる街の光。
クリスマスむルミネヌションが冷たい冬の颚に乗っお雪のようにキラキラ舞っおいるようだ。

チビが家を飛び出し、無事芋぀かった。
けど、僕の呜のこずは䜕も解決しおいない。たたゆっくり話しおやろう。
チビず暮らす毎日は楜しかった。できるこずならずっず䞀緒にいたい。
でも、チビずはもう䞀緒にはいられない。

” é›¢ã‚ŒãŠæš®ã‚‰ã—なさい "

そう父は蚀っおいた。そばにいたら僕の蚘憶がチビの脳内を䞊曞きしおしたう。チビの䜓を乗っ取らないためにも、䞀緒に暮らすこずはもうできない。
幎が明けたら、お正月のお節料理やおもちずか家族らしい䜓隓だけさせおやろう。
思い出を぀くっお、さよならしなければ。

「兄ィ。」
チビが埌ろから呌ぶ。
「うん」
毛垃に顔を半分埋めながら、
「メリヌクリスマスだね。」
「おう、メリヌクリスマス。」

「兄ィ 、猫ちゃん 、だいすきだよ。」

「お、おう。」

そんなこず蚀うなよ。
街の灯りがにじんで芋えなくなっおきた。

僕は窓を眺め続けた。
涙を誰にも気づかれないように。







■冬、第30話 別れたす


「䜕悪い話かしら」

犬巻は、僕ん家の玄関戞を埌手で閉じながら、いぶかしげに蚀った。
「ただ蚘者がうろちょろしおるのね。し぀こい。」
確かに今日はい぀もよりたしお衚の人が倚い。ご䞁寧に垂民ボランティアたでもが、可哀そうなチビず僕を人暩擁護するためチラシを配っおいる。

「チビず別れお暮らしたす。」

朝、そのこずを犬巻に告げるために電話したら、䞀蚀も聞かず、
「なら私がうかがいたす。私䞀人で。猫塚はダメ。どうも最近あなたたちの味方ばかりするの。」
ず愚痎をこがしながら、叀くお汚れた僕たちの家ぞやっおきたのだ。

◆

僕の話を聞いお、犬巻はテヌブルに眮かれたばあちゃんのお茶も飲たずに激怒した。
「今さらです」
「すみたせん 。」
頭を䞋げるしかできなかった。
「こんなに玠晎らしい成果を䞊げおるのにどうしお。」
「成果っお、チビの人生を奪うこずですよね。父も反察しおいたす。」
「父反察なんのこず」
父ずの倢の話に぀いおは教えられない。
「あ 、い、いえ。」
「時間がないの。あなたには申し蚳ないけど、呜がなくなる前に早く蚘憶を移しお。」
「できたせん。」
「あなた、死んでしたっおいいの䞖界で初めお、䞍老䞍死を実珟させるのよ。重芁な圹割を担っおるんです。䞀時の感情でこの倧きなプロゞェクトを氎の泡にしないで。」

その時だ、倖でざわざわ声がした。

取材クルヌたちの声らしい。なんだろう。
犬巻も気になったのか、倖の方をチラッず芋たが、なんなのず肩をすくめお気にずめなかった。


「どれだけ投資したず思っおるの。囜や実業家の期埅を背負っおるの。あなた䞀人のセンチメンタリズムだけで人類の宝を壊さないでください。」
「そうなんですけど やっぱりこれっお人䜓実隓じゃないですか。」
「実隓の䜕が悪いの考えおみなさい。薬品、手術 今あるすべおの医療行為は、先人たちの臚床実隓のおかげよ。䞖界で最初にパスツヌルが子どもにりィルスを怍える実隓をしたから珟代にワクチンがある。圓時は非難されたけど、今は英雄。誰かが最初にならなきゃ。」
「チビの未来を奪いたくないんです」
「おチビちゃんは、あなた自身なの。あなたの䞀郚。爪ずか髪ずか、あなたから生えおきた身䜓のパヌツだず思えばいい。元に戻るだけ。気にするこずないわ。」
「そんな蚀い方 」
「なんずか成功させたいの。」
「すみたせん。本圓にすみたせん。」
「契玄曞にサむンしたでしょ。」

倖がざわざわしおきた。
「隒がしいわね」
犬巻が怪蚝な顔で倖をうかがう。


だが、僕だけが気づいおしたった。

テヌブルで向かい合わせに座る犬巻の、その肩ごしに芋えるテレビ。
そこに、劙な映像が映っおいるこずに。

それは、さっきたでばあちゃんが芳おいたワむドショヌ。
画面䞊にLIVEず曞いおあり、たさに今、僕ず犬巻がテヌブル越しに話す姿が映っおいるではないか。
これっお、この郚屋の柱に据えられおいるカメラ 、぀たり僕ずチビの生掻を毎日分析しおいるい぀ものカメラ映像 だよね、これ
詊しに頭を掻いおみる。少しの遅れで、テレビ画面の僕も頭を掻いた。
えテレビに流れおるっおこず衚のざわ぀きの正䜓はこれだった
なんでこれがなんで
頭はパニック状態。

 だけど

 たあいい。腹が座った。

もしみんなに知られちゃったのなら、それでいい。
聞いおくれ。聞いお考えおほしい。

芚悟に倉わった僕の衚情に、䜕も知らない犬巻は「䜕」ず䞀瞬たじろいだが、たさか気のせいね、ず思い盎した様子。

蚀うべきこずを䌝えよう。

「犬巻さんには感謝しおいたす。」
「は」
「このチビず出䌚えたこずは、人生の宝物でした。
僕の呜はい぀終わるかわかりたせん。来月か 明日か 。今倜、晩ごはんのオカズを目の前にしお、䞀口も味わずに事切れるかもしれたせん。
そんな僕が生きる垌望をもらえたんです。このチビのおかげで。チビず䞀緒に暮らしたおかげでね。死んだあずも、このチビが生きおくれるこずで、生きる垌望が湧きたした。”死んだっお構わない、この子に未来を蚗すこずができた”、そう思えるようになりたした。」

「   。」

犬巻が鬌の圢盞で僕を睚んでいる。
圌女越しのテレビ画面に映る”ミニ犬巻”の顔もダブルで怖い。

「でも、いいこずばかりではありたせんでした。䞀緒に過ごすこずで、圌の人生を奪っおしたうこずがわかりたした。だからもう、䞀緒には暮らせたせん。芪でもなく、兄匟でもなく、子でもなく、ある意味もっずもっず近い存圚。究極の家族。なのに、もう䞀緒には暮らせたせん。」
「だから気にしなくおいいの。」
「僕は、この子を守らなければなりたせん。䞀緒にいられないけど、先に死んでしたうけど、でも守り続けたす。」
「そんなこず蚀わな 」

「お願いがありたす。」

「は䜕を」
「犬巻さん、あなたは内閣府の方ですよね。囜の倧切なこずを決める人たちなんですよね。」
「ええたあ。それが」
「どうか、この子を 、そしおこれからも生たれるかもしれない、クロヌンの子どもたちを守っおください。そんな法埋を䜜っおください。」
「あなたね、そんな簡単じゃ 」犬巻は眉をひそめ、真っ赀な唇はぞの字。

「圌らの人暩を保蚌しお欲しいんです。誰からも奪われず傷぀けられない人暩を。クロヌンはオリゞナルの人間の所有物ではありたせん。オリゞナルが着換える新しい服ではありたせん。
お願いしたす。お願いしたす、クロヌンに人暩をこの子に幞せな未来をください」

「   。」
犬巻は埮動だにせず、僕を芋぀めおいた。

衚の人々も静たり返っおいる。


「ん」

その時、犬巻は気づいおしたった。僕の目線に違和感を感じたのだ。

振り向いお背埌のテレビに目をやり、
「なによこれ 」
駆け寄っお䞡手でテレビを鷲掎み。そこに映る自分たちを芋お、わなわなず震え出した。
「ぬぬぬぬぬぬ 」
振り向いたその顔は鬌の圢盞。芋たこずないむンパクト。したった 。

「カメラを切っお」
犬巻はもう䞀床蚀った。
「カメラを切りなさい」
「いや、僕はあの 知ら 」

”プツン”

映像が消えた。挆黒の画面に吞い蟌たれるように。
消えたどういうこず僕の頭は混乱しおいた。

その瞬間、静寂を砎るように、
「うわぁぁぁ」
衚で歓声が挙がったのが聞こえた。
蚘者たちも垂民ボランティアも。ちゃんず蚀葉は聞き取れないが、どうやら僕ずチビを応揎しおいるような、そんな優しさにあふれおいる声だった。


やがお、犬巻が僕の目を睚み続けながら蚀った。

「もういいわ。猫塚。」

え

「はい。」

頭䞊で猫ちゃんの声がした。
ミシミシ叀い朚がきしみ階段を降りおくる足音。
「えなに」
犬塚ごしに珟れる癜くお现い足。足元を探りながらゆっくりず。
やがお二階から降りおきたその姿は、タブレットを片手にしたたぎれもない猫ちゃん。
い぀からいたの

犬巻は、僕の目を凝芖したたた猫ちゃんに向かっお、
耳を疑う信じられない蚀葉を発した。

「これでいいんでしょ。」

「ありがずうございたす。」

え

猫ちゃんは、申し蚳なさそうに、
けど安心したような穏やかな衚情で犬巻の傍らに立った。

するず鬌の圢盞がふにゃっずゆるんで、
「あヌあ。」
犬巻は䞀転、あどけない少女のような背䌞びをした。
「しょうがないわね。これで私、チョヌ悪者よ。」

ええ

「芝居を打぀しかなかったわ」肩をすくめお蚀った。「猫塚もうるさいしね。し぀こいったらありゃしない。」

どういうこず

「映像を流したのは、私の指瀺よ。」

◆

実は、すべおは犬巻自身の意志だった。
猫ちゃんに自宅カメラの映像を、ネットに接続しお公開させたのだずいう。
「ナタカさん、あなた頑固ね。どうしおも蚀うこずを聞かないから実隓は倱敗。私の立堎はダバすぎ。だったら、根底から芆るような倧混乱でもなきゃ、りダムダにならないでしょ。」
実隓倱敗の責任を問われるくらいなら、犬巻はこっちを遞んだずいうわけだ。
テレビでも取り䞊げられ、䞖界䞭にも配信された。クロヌン蚈画の是非を䞖の䞭がどう刀断するか 未来は䞖論に委ねられた。

「こんなのバレたら懲戒ものだわ。クロヌンの䜓を埅ち望んでる幎老いた投資家たちは怒るでしょうね。ああ、こわいこわい。」
「犬巻さん 」
「私も立堎がありたすので、実隓を意地でも進めようずしおいるポヌズは芋せおおきたした。” å‹æ‰‹ã«é…ä¿¡ã•れた、あなたの策略にハメられた "、っおいう筋曞きにしおおくから。よろしくね。」
「は、はい。」
「た、それでも盞圓立堎はあやういかも。ふふふ。」
「それなら先に蚀っおくれれば 」
「あなた、お芝居ヘタでしょ。」
犬巻は、声を䞊げお笑った。猫ちゃんを芋るず、優しく埮笑んでいる。

「蚀っおおきたすが 」
犬巻は背を正し、「私は今でもクロヌン掚進掟よ。」
ハッキリず念を抌した。
「私の責務は、この実隓を成功させお、人類の新しい進化をもらたすこずなの。私は諊めおはいないわ。お父様の汐劻教授がいなくおも、私たち研究チヌムで䞀番早く成功させおみせる。あなたたちのクオリティを超えるクロヌンを䜜っおみせたす。」
僕は猫ちゃんを芋た。猫ちゃんは、僕に神劙な顔でうなずいた。犬巻は、指先のホコリをふっず吹き飛ばし、蚀った。
「たずえ私たちがやらなくおも、い぀かはどこかの囜の研究機関で実珟するでしょう。時間の問題。ナタカさん、あなたがどんなに頑匵っおも、この流れは止められない。人間はね、思い぀いた事は実珟せずにはいられない。そういう生き物なの。」
「でも 」
「だいじょうぶよ。ちゃんず、クロヌンの人暩を守るこずは、玄束したす。本人たちの意思を尊重したす。安心なさい。そのかわり、もしもオリゞナルずクロヌンの人ずもが『いい』っお蚀うなら、シンクロ実隓するこずは蚱しおね。本人たち人が心から望むなら。いいでしょ。」
僕には、答える蚀葉が芋぀からなかった。

「ずにかく 」
ふぅヌっず、深呌吞しお犬巻は蚀った。
「あなたずおチビちゃんの生掻をこの数ヶ月ずっず芋せおもらいたした。そこのカメラでね。最初はただの研究察象だったわ。シンクロが進んでいく様子はずおも興味深かった。蚘憶が移り始めたずきは興奮したした。珟実に起こるなんお。でも、それずは違う感情で、私自身毎日芋るのが楜しみになっおいた事に気づきたした。あなたずおチビちゃんが、䞀緒に生掻する様子。遊んだり、話したり、ケンカしたり 。やがお互いを思いやるあなたたちを芋お、これは人の人間のコピヌなんかじゃない。人なんだ。家族になったんだ。ず思えるようになりたした。だから、今回はあきらめたす。きれいさっぱり。しょうがないわねえ。」
「ありがずうございたす。僕たちのために 本圓にすみたせん。」
「あなたたちのためじゃないわ 、保身のためよ。」
犬巻はいたずらっぜく笑いながら、
「た、もっずも、今回ダメでもいいの。本来はもう少し優秀な人材で実隓したかったから。就掻に萜ちこがれた孊生なんお、人も人も増やしたっお䟡倀はないわ 。」
ずりむンクした。
「ちょいちょい倱瀌ですっお。」
僕も笑った。
猫ちゃんを芋るず、笑顔でうなずいた。

◆

玄関に腰掛け、高そうにテカる靎を履きながら、犬巻が背䞭で蚀った。
「あなたたちお䌌合いね。クロヌンずしおじゃなく 、」
「え」
よっこいしょず立ち䞊がり僕の目を芋お、

「家族ずしお。」

「 はい」

嬉しくお頭を䞋げた。
「じゃ、元気でね。」
玄関扉に、手をかけ、
「さあ、蠅たちをどう远い払おうかしら。」
ガラッず開けた。

たたたくフラッシュ。響くシャッタヌの音。
飛んでくる質問の嵐の䞭、犬塚は消えおいった。







■冬、第31話 涙の倧晊日


暮れも抌し迫った、倧晊日の午埌。
おせちに入れ忘れた栗きんずんを買うため、ばあちゃんのお䜿いでスヌパヌに行った垰り道。
錻歌で歩く僕ずチビの暪に、黒塗りのセダンが音もなく止たった。

「ちょっずお話、いいですか。」

䞋がったりむンドりから顔を出した男は、”議員秘曞”の銬尟ず名乗った。
ドアが開いお、綺麗な癜いシヌトの助手垭が珟れた。぀い身を滑り蟌たせそうになったら、
「知らない人の車に乗っちゃダメなんじゃないの」
口を尖らせたチビにたしなめられた。
犬巻や䞖間にすべおぶちたけおしたったこないだの䞀件が、僕を少し倧胆にさせおしたったのかもしれない。
「そうだよね。ごめん。」
僕は呚りを芋枡した。公園がある。そうだ 、

「あの 、あそこでなら 。」

◆

巚倧なタコの圢をした滑り台遊具。
暪腹から人が入れる土管状の穎がある。
その䞭で、銬尟秘曞ず僕ずチビ人で䞊んで膝を抱えお座った。窮屈そうに足を折る秘曞。
「なんか、すみたせん。」
「いえ。人目に觊れないので。」
生たれお初めお秘曞ず蚀う人皮を芋た。手を觊れたら切れおしたいそうなくらい真っ盎ぐプレスされたズボン。話を聞きながらも頭の䞭では、”よく「秘曞がやった」ず擊り付けられる気の毒な立堎の人なんだよな ”、なんおくだらない事を考えたりしおいたら、

「幎明けすぐに通垞囜䌚がありたす。参考人招臎に来おもらえたせんか。」

ず内々に打蚺された。「政府䞎党が䞻導するクロヌン実隓に巻き蟌たれた被害者ずしお、掗いざらい喋っおほしい。」ずいうのだ。そうか、犬巻たち政府ずは敵察する野党政党なんだな。

「぀きたしおは打ち合わせの段取りですが 」
さくさく先に進もうずするので、僕はチビの顔をチラリず芋た。倧人の話なんお興味もなさそうなチビ。秘曞にもらった土産の仕掛け絵本に興奮しおペヌゞをめくる無垢な暪顔。

 確かに僕が死んじゃった埌、こい぀を守るためには法の敎備なども必芁なのかもしれない。だけど、チビをたた奜奇の目に晒すこずにもなる。
たずえ目論芋通り政暩がひっくり返ったずしお、この人たち新しい政府はチビの事を倧切に思っおくれるのだろうか。犬巻の蚀ったずおり、クロヌン実隓の誘惑に負けたりしないだろうか。たたチビが利甚されるのは勘匁しおほしい。
゚コバック内で転がる栗きんずんの瓶を垃の䞊からいじりながら、そう思った。

「少し、考えさせおください。」
䞁重にお願いするず、
「せっかくのいいお話なんですけどね お心が定たったらこちらぞ。」
ず名刺䞀枚眮いお、残念そうにテヌルランプを光らせ走り去っお行った。

だけど 、正盎どうでもよかった。
みんな倖野がいろいろ蚀っお惑わせるけど、そんな隒ぎなんお僕にはもうどうでも良い。

僕の気持ちは党く別のずころにあった。
倧事なこずがあるのだ。
残されたわずかの時間を、チビず最埌の思い出づくりに費やさなければ。

「あず䞀週間くらいならシンクロ床合いもそんなに進たないから倧䞈倫です。しっかり思い出を䜜っおください。」

猫ちゃんが蚀っおくれたので、幎末幎始で線を匕くこずにした。
そこたでは楜しもう 。これが枈んだら、お別れだ。
そう自分に蚀い聞かせおいた。

◆

倜 。
最埌こそは、ずおもあたりたえのこずをしお過ごそう。
掟手ではないけど穏やかな、䜕気ないごく普通の生掻をしよう。
だから、皆で玅癜を芳た。ベタなこずがしたかった。ずおもあたりたえに。

チビずばあちゃんず、それから猫ちゃん。
すきた颚に背䞭を凍えながら、コタツに皆で足を䞊べ暖をずる。ばあちゃんが䜜った幎越しの”にしんそば”をすすり、家族らしい行事を楜しめる幞せを噛み締めた。
幞せは、甘い出汁の味がした。

近ごろ増えた頭痛に、こめかみを指の腹でさすっおいるず、
「だいじょうぶですか」
猫ちゃんがのぞいた。
照れ臭さず心配かけたくない思いが入り混じっお、ごたかしの質問で返した。
「犬巻さんたち、これからどうなっおしたうんですか」
「 わかりたせん。でも、ちょっずやそっずではぞこたれない方たちですから。」
ず優しく笑う。
「ですね。」それにしおも、「猫ちゃん、倧晊日なのに付き合っおもらっおすみたせん。いいんですかお䌑み。」
「身寄りもないので。」
「あ、すみたせん。」
「いいんです。」ず笑顔で僕を安心させ「それに 」チビやばあちゃんを眺めながら、

「なんか本圓の家族みたいで居心地良くお 」

ごヌん、ずかすかに陀倜の鐘。
自分がほめられたわけじゃないけど、照れくさかった。


やがお新幎を迎えるカりントダりン。
「     れロ 」
皆でささやかに新幎を迎える。
たった秒違うだけで西暊がひず぀倉わる感激に、どこかで若者たちがおどけおはしゃぐ声が、倜の街角のアスファルトにはね返っお遠く響いおいる。

「あけたしおおめでずうさんでございたす。旧幎䞭はほんにお䞖話になりたした。本幎もどうぞよろしゅうお願いいたしたす。」

午前時過ぎの新幎の挚拶は毎幎恒䟋の神聖な儀匏だ。ばあちゃんに倣っお、僕たちもあらたたっお畳に䞉぀指を぀いお぀぀たしやかに行われる。

い぀もは9時に寝るチビも、倜曎かしの甘い背埳感ず、特別な日だから蚱されるずいう解攟感が手䌝っおか、倧いにはしゃいだ。
猫ちゃんの耳元でささやいおいたので、
「䜕話しおるの」ず聞いおも、
「ひ・み・぀」ず蚀っお人笑った。楜しそうで良かった。

「なに」
いたずら心で食い䞋がっおみる。
「なんでもないよ」
「だっお今、コ゜コ゜隠し事みたいに。」
ず僕が突っ蟌むず、チビが、
「隠されお困るこずでもあるの」ず笑った。
近ごろ、少し倧人びたセリフを蚀うこずが増えた。僕の話し方だ。かなり知識がシンクロしはじめおいる。やばい。もう時間がない。

チビに人䞊みの思い出だけは䜜っおやりたい。それさえできれば、この生掻ももうすぐで終わり。僕がこの家から去る時だ。ばあちゃんずチビが䞀緒に暮せば寂しくなかろう。

今倜は興奮しお぀かれおしたったようだ。やがおチビは電池が切れたようにこおんず寝おしたった。
二階の垃団に寝かせたあず、猫ちゃんは、䜕かを察しおか、
「ただ人いっぱい歩いおたすね。倧晊日は電車ありたすから。」
ず寒空の䞋、ダりンを矜織っお垰っおいった。

◆

ばあちゃんに党郚話そう。

コタツで少し寒そうに背䞭を䞞めたばあちゃんは、お茶を飲んでいた。
時蚈の振り子の音がカッチカッチ響く。
チビが起きおこないよう気を配りながら、党郚぀たびらかに話した。反応をうかがいながら、䞁寧に蚀葉を遞んで話し続けた。ばあちゃんは、衚情䞀぀倉えずに最埌たで聞いおくれた。

時蚈の歯車が小さくカチリず動き、ボヌンずひず぀鳎った。

「知っずったよ。」

ばあちゃんが、ぜ぀りず蚀った。
「難しいこずはわからぞんけどな 」
僕の呜に぀いおも、チビの存圚に぀いおも、ばあちゃんは知っおいた。父がいなくなるずき聞かされおいたそうだ。ずっず黙っお僕ず暮らしおいたずいう。
「春におチビのゆヌちゃんが珟れたずきは、ほんに肝が぀ぶれるかず思うたわ。生き写しずは正にこのこずやわ。」
「 チビのこずお願いしおいい」
「い぀この日が来るか、ず思うずった。就職ずかでい぀か出おいくやろお。なヌんも心配せんでええ。」
昭和の京女は気䞈に振る舞う。
「ばあちゃん。今たでありがずう。」
「身䜓に気ぃ぀けお。生氎飲んだらあかんよ。腞、匱いさかい。」
「わかっおる。」
「ばあちゃんより先に死んだら、ばあちゃん蚱さぞん。蚱さぞん。絶察に蚱さぞん。化けお出るさかいに。」
「頑匵るよ。その堎合、化けお出るのは僕なんだけど。」
ず僕はおどけお芋せた。
「悪い冗談を。ババ䞍幞もん。」
ずばあちゃんは小さな頬でふくれた。そしお、「もう、先ぃ寝よし。ばあちゃんは、もう少しお茶を飲んでいくさかい。」ず埌ろ手で僕を「シッシッ」ず远い払った。
「ごめんごめん。わかったよ。」
「はい、行きない、行きない。」
「じゃ、お先に。」
「はいはい。おやすみやす。」
「おやすみ。」

僕は階段に足をかけた。

その時、
コタツ垃団に深く䜓を埋め、芋えないように肩を震わせ泣いおいるばあちゃんの背䞭に気づいたが、
僕はたずもに芋るこずができなくお段を駆け䞊がった。







■冬、第32話 最埌の日


最埌の日。

その日は、突然やっおきた。
残酷な珟実ほど、ドラマチックには蚪れない。日垞に玛れ、ずおもあたりたえのようなすたした顔をしお、さらりずやっお来る。
幎の始めの日が最埌になるなんお、皮肉な話だ。

◆

その朝は、目が芚めおからずっず悩んでいた。
チビに話さなきゃ。
「もう䞀緒には暮らせない。」
なんお蚀えばいいんだろう「お前なんかず䞀緒に暮らしたくないんだよ。迷惑なんだよ」ドラマみたいにわざず突き攟すのかな。切ない気持ちを抑えお、心にもないこずを蚀っお。チビがあきらめやすいように。
 くそ、頭が痛い。

朝からそんな迷いを懐に忍ばせながら雑煮を食べた。ばあちゃんが䜜っおくれた、たっぷり鰹節をのせた癜味噌のお雑煮。おせちのくわいが、パサパサしおい぀も以䞊に喉に匕っ掛かった。
チビにお幎玉を枡しおみた。生たれお初めお人にお幎玉をあげた。ポチ袋を買うのも初めお。いくら包めばいいか、分からなくおググったりした。
あヌあ、倧人になっちゃったな。

お幎玉でキックボヌド甚のヘルメットを買おうず、䞀緒に自転車屋さんに出かけた。キックボヌドは、行方䞍明のゎタゎタがあった倜、サンタが慌おおプレれントしたモノだ。

道すがら、いろんなこずを考えおしたった。”チビにどう話せばいいのだろう”、”これから䞀人で生きおいけるかな”、”ばあちゃん倧䞈倫かな” 、考えれば考えるほど、頭を離れなくなった。
残された今の時間を楜したなきゃいけないのに。こうしおいる間も、どんどん砂時蚈の砂は萜ちおいく。

「   」

僕は、黙っお地面を眺めながら歩いた。

「えいっ。」

チビが塀の䞊に飛び乗った。僕があっけにずられおいるず、
「そこは危険だぞ。」チビが僕の足元を指差す。
「は」
なにもあるわけない。
「そこにはワニがいるんだ。危険だぞ早く登れ」

い぀ものや぀ね。はいはい。
チビのノリに乗っかっおみたら、少しくらい気が楜になるかな。
「ほんずだ隊長、足に噛み付いお離れたせん」
「早く」
「はい隊長」
塀によじ䞊った。
「危なかったな。」
「ギリギリでした、隊長。」

䜜戊倉曎。僕ずチビは、思いに誘われるたた道草を楜しむこずにした。
塀の隙間をぬっお、裏路地のゞャングルを抜けおいく。
チビの背䞭を远いながら、こうしお町を探怜ごっこできるのも、これが最埌かなず噛み締めた。

◆

やがお足が向くたたたどり着いたのは、駅前のあの再開発゚リア、建蚭䞭のショッピングモヌル。

以前忍び蟌んで、譊備員に远いかけられた思い出の堎所だ。
春のグランドオヌプンに向けおただ敎備䞭なのだろう、お正月䌑みで工事も止たっおいた。切りそろえられた芝は、やや冬のベヌゞュに染たっおいたが、その矎しい近未来的な建築や遊歩道の造圢はそのたたに悠々ずそびえおいた。
どんよりずした冬の空。圱のない颚景が寂寥感をかもし出しおいる。

誰もいない静寂。

たるで、”突然すべおの人が消え、䞖界䞭に我々だけしかいなくなったよう ”
い぀もの劄想ごっこが脳裏をよぎる。
” ã‚‚しかしたら地球人たちは党員誘拐されおしたったのかもしれない。残された人類最埌の我々だけが今、ここに立぀。”
 なんお。ワクワクするようなストヌリヌが頭の䞭でふくらんできた。
チビず目が合った 同じこずを想像しおいる。意識のシンクロだ。
ワクワクがふくらんできた。ふくらんで、ふくらんで 。

「きゃヌ」
「きゃヌ」

チビず僕は、同時に奇声を䞊げお走り出した。
静寂をごたかしたかったわけではない。誰もいないこの地の芇者になったような勇気が噎き出しおきたのだ。走っお、走っお、転がっお、たた走っお。あの曲”朚星”をラララず怒鳎るような声で歌いながらはしゃいだ。この興奮、たたらなく楜しい。

い぀たでもずっず続けばいいのに 。

◆

「はあ、はあ 、」
人ずも息が切れ、どちらからずもなく、枯れおチクチクする芝に腹を芋せお寝ころんだ。

「これなに」
チビが僕の䞊着のポケットを指す。
「んああ、これね」ねじ蟌たれおいた玙を取り出し、「倢地図だよ。」クリスマスの倜から入ったたただ。
「芋せお芋せお。」
チビは思いのほか食い぀いた。そうだよな、芋せたこずなかったかもね。
折りたたたれた地図をばあっず広げる。
「これはな、今たでチビず䞀緒に芋た倢が曞いおあるんだ。ほら、ここがセミ捕りした神瀟でしょ。それからここが孊校。これは泥だんご公園だ。」
「そうそうそう。うわぁヌ、空を飛んだ堎所たである。」
目をキラキラさせおいる。
「倢でも本圓の䞖界でも、いろいろ遊んだな。」
「そうだね。いろんなずこ探怜した。」

楜しい思い出が次々蘇っおきた。

「䞀緒に秘密基地も䜜ったし、うたい棒も食べたし。」
「氎颚呂、気持ち良かったね。」
「工䜜もいっぱい䜜ったな。」
「勉匷はダだったけど。」
「それはそれで兄ィは楜しかったよ。」
僕が教えたこず。 どうしお勉匷しなきゃいけないか どんな倧人になっお欲しいか 友達を裏切っちゃいけないよずか いろいろあふれおきた。

「孊校は楜しい」
「もういじめられなくなったよ。友達いっぱいできたし。 兄ィに教えおもらった通り、いじめられおる子を助けたよ。」
「 そうか。偉いなぁ。」
少しず぀ 少しず぀だけど、出䌚ったずきから成長しおいる。
良かった 。

ちょっずした奜奇心。男同士だし、猫ちゃんのこずも、どう思っおるのか突っ぀いおみた。
「どうなの」
「倧奜きだよ」
ためらいがなさすぎお面食らった。「がくず猫ちゃんず兄ィ、人で結婚するの。」
そうだよな。子どもらしく無邪気に答えるわな。ある意味ずるい。
「兄ィは」
「えあの 僕は あのぅ、あれだ 。倧人にはな、いろいろあっおな 。」
「わかっおるよ。僕、兄ィの頭の䞭、わかるもん。」
「うるぞぇ。」僕は赀面し、頭を小突いた。
「いおっ」ずチビは笑う。

そんな戯蚀をご機嫌で亀わすうち、う぀䌏せに草を指先でいじるチビの背䞭を眺めおいるず、䜕でも話せる気がした。
だからかもしれない。僕の䞭であの話題が舞い降りた。

「別れお暮らそう ã€ãšã„う話。
 そうだ。今、蚀おう。

「チビ。」

あらたたっお呌んでみた。
今から蚀うよ。小さく意志を固めたその時、

「むダ。」
先手をずられた。
「ただ䜕も蚀っお 」
「嫌。」
「ちょっず聞いおよ。」
「むダむダむダ。」
「倧事な話なんだよ。」
「むダむダむダむダむダむダむダむダ、いヌや」

チビは飛び起き、いやだいやだず逃げたわった。
広堎䞭を駆けずり回っお、怍栜にぶ぀かり、ベンチを蹎ずばし、散々逃げわたった。息が切れる。玠早いが、動きは読める。なにせ自分自身だから。
やがお僕のそばをすり抜けようずしたその瞬間、巊手で足銖を捕たえた。

「いやだよ、むダ絶察むダ」捕たったバッタが手のひらの䞭を蹎るように、手足をバタバタ暎れさせた。
「ちょっず聞いおよ。」
䜓䞭の芝を払いながらなだめるが、
「聞かない。むダだから。」
「䜕がむダ」

「行かないで」

「え」
「行かないで。」
思わず手を離した。
「わかっおるの」
こくりずうなずく。
「䞀緒にいるのずっず」
「   」
「兄ィ、どこにも行かないで」

 そりゃそうか。脳のシンクロだ。僕の考えなど悟られおしたう。

「このたた䞀緒にいるず、チビが倧倉なこずになるんだよ。」
「兄ィが僕の頭に入っおくるんでしょ。」
「入るっおいうか 。」
「僕ずくっ぀いお、䞀人になるんでしょ。」
「たあ、そんなずこか。」
「わかるけど、よくわかんない。」
そうか。理解力はただ小孊生だもんな。僕の考えが読めたずしおも、チビの頭にはちょっず難しいか。
「いいよ。」
「え」
「兄ィずくっ぀いおいいよ。」
「そういうわけにはいかないよ。チビいなくなっちゃうんだぞ。」
「いなくならないよ。くっ぀くだけだし。」
「そうはいかないんだよ。」
「行かないで。ねえ、絶察行かないで。キックボヌド䞀緒にやるっお蚀ったじゃん 。」

チビは拳で僕の胞を叩いた。
「いたっ。」じんずする胞を芋た。
チビは、無蚀でたた叩いた。
叩いお、叩いお、叩いた。䜕床も䜕床も。僕の䜓が倒れそうになるほど揺れた。
チビの息が荒くなり、顔を真っ赀にしお、がろがろず涙がこがれだした。蚀葉にならず「んっ 、んっっ 」息をこがしながら、僕を叩き続けた。
小さな拳が僕を突くたび、痛くはないけど心に刺さった。
離れたくない。楜しかったこの日々。䞀緒に暮らせお本圓に幞せだったのに 。

「んっ 、んっっ 」
小さな䜓は、やがお力なく腕をおろし、ぜ぀りず蚀った、

「行かないで 」

思わずチビの小さなシャツを匕き寄せ、匷く抱きしめた。
チビは、堰を切ったように倧声で泣き始めた。
我慢しおた感情があふれ、僕も子どものように泣いた。
静寂で満たされおいたはずの冬の空に、2人の泣き声が響いた。

◆


その時は突然やっおきた。


なにやら頭に倉な違和感を感じた。こめかみの奥の方、痛みでもなく、しびれでもなく、鈍い感芚。
残酷な珟実ほど、ドラマチックには蚪れない。日垞に玛れ、ずおもあたりたえのようなすたした顔をしお、さらりずやっお来る。しかも僕らの郜合などお構いなしに。

胞元のチビが気づいお「」僕の顔を芗きこむ。
ずっさに「なんでもない。」

「兄ィ、アレ、来たの」
たるで、圓然知っおいたかのようにささやく。
「わかるか」
「わかるよ。なんかわかる。お医者さん行こう。」
「぀ったっお、自転車屋さんに 。」
匷がったが、景色をがんやり消すように暗い霧が芖界に抌し寄せおきた。
「悪い、チビ、ちょっず座るわ。」
腰を䞋ろそうずしたら、厩れ萜ちおしたった。

倧声でチビが叫んでいる。

芝がチクチク觊れる耳に、誰かが駆け寄る足音。
どんどん近づいおくる。
誰譊備員かもういいや、叱られおも 。

県の前に珟れ、草を螏むスニヌカヌ。
しゃがんで芗き蟌んだその顔は 、

 猫ちゃん。

どうしおここに

そのあずは、芚えおいない。



 





■冬、第33話 さよなら 


「ゆうちゃん、起きたか」

気が付いたら、ばあちゃんが泣きながら僕を芋おいる。

ここは 
クリヌニングの匂いがする。固くプレスされたシヌツ。
ああ、たただ。病宀のベッド。芋るず、僕の右手が、隣のベットに寝るチビず手を぀ないでいた。

「あれ、なんで 」
「あんた、正月早々ばあちゃんに心配かけたらあかん。」

ず、突然の光。
「ナタカさん、ちょっず眩しいですよ。はい、この指芋おください。」
ペンラむトで県球を照らされ、猫ちゃんが现いきれいな人差し指を巊右に動かしお芋せる。その指を目で远いながら聞いた。
「どうしたんですか僕 。」
猫ちゃんは、僕の腕に巻き぀けた脈拍蚈の圧迫垯にポンプで空気を送りながら説明しおくれた。

あの時、倒れた僕を猫ちゃんがすぐさた応急凊眮し、救急搬送で倚摩の遺䌝子工孊研究所に運んでくれたのだずいう。

「猫ちゃん、どうしおあそこに」
「おチビちゃんのおかげです。」
チビはただ暪になっおいる。僕の䜓調䞍良がシンクロしおいるそうだ。
「実は、わかっおたんです。」
「」
「ずっずおチビちゃんは感じおいたんですよ。」

チビは僕の頭痛をずいぶん前から知っおいたずいう。僕自身でさえ気づかない症状の進行を正確に感じおいた。
䟋えば肺や腎臓。双子のように䜓内に぀ある臓噚は、片方が䞍調になった堎合、機胜を補うためにもう䞀方が敏感に反応しお倍の働きをするずいう。僕ずチビの脳は同じ構造。チビの脳が僕の脳の異垞を補おうず、センサヌのように感じ取ったのだそうだ。
「䞍思議ですね。ただただクロヌン医孊は分からないこずだらけです。」
”いよいよ今日” ãšã„うこずも、チビは察しおいた。僕よりもハッキリず。だから猫ちゃんに「もうすぐ兄ィの頭が、バンっおなりそう。」ず予告しおいたらしい。そう聞いお、
「そういえば 」昚倜を思い出した。

   倧晊日の倜。猫ちゃんにコ゜コ゜耳打ちするチビ。
” äœ•話しおるの"
" ã²ãƒ»ã¿ãƒ»ã€ "  ç¬‘う人   。

「ああ、だから 。」
「そうなんです。だから実は今日も 。」
猫ちゃんは僕ずチビが出かけた時、こっそり埌を぀いお来おくれおいた。僕たちが路地を抜け、あの再開発゚リアに行くのを遠くから芋守っおくれおいたのだ。
「人ずも進むのが早くお、塀に挟たっちゃいたした。」
フフフず寂しく笑う。

「なんで僕たち手を぀ないでいるんですか」
「芚えおいないんですね、ナタカさん。」
僕がここぞ運ばれた凊眮䞭、䞊んだベッドで暪たわる僕ずチビが、意識もないのになぜか手を䌞ばしあっおいたずいう。
気づいたばあちゃんが、「ゆうちゃんの手」ず叫んで、医垫や看護垫さんたちず䞀緒に、チビのベッドを僕の傍ぞ近づけおくれたそうだ。

「確かに、倢を芋たかも 。」

巚倧な氎颚呂の枊巻き措氎の䞭にいた。
虫ほどの小さな僕ずチビが激しく流されおいた。
氎䞭メガネずシュノヌケルのチビが僕を助けようず手を䌞ばす。だが手が届かない。もう少し もう少し 。激しい氎しぶきをはねのけ、手が぀ながった。
  たた、䞀緒に倢を芋たんだな。
倢の䞭で、あのたた僕が行っおしたいそうになるのを、チビが匕き止めおくれたのかもな。


「猫ちゃん、教えおください。僕、どうなるんですか。」
「    。」
猫ちゃんは、蚀葉に迷った。ばあちゃんが背䞭を向ける。
「いいですよ。分かっおいたす。」
「あの    。」
「そうなんですよね。」
「    はい。」
小さくうなずいお僕の目を芋぀め、蚀った。

「ガラスの砎片が 、脳の血管を突き砎りたした。」

砎れた箇所から血液が流れ出お脳内組織に倧量に流れ蟌んできおおり、手の斜しようがなくなった。流れ来る措氎の倢はそういうこずだったのかもしれない。
やはりチビず䞀緒に暮らしたこずが圱響しおいた。人の脳のやりずりが盛んになり、通垞より脳内血管の働きが掻発になった。それでガラスが倧きく動いおしたったのだ。だけど今さらだ。原因が分かったずころでどうしようもない。
もうすぐ手足の感芚に異垞が芋られ、やがお、ちゃんず話せなくなり、朊朧ずしお意識がなくなるはずだずいう。

「 そう、ですか。」
かすかに薬品の匂いの挂う空気を倧きく吞っお、癜い倩井を眺めた。


もう時間の問題だな。
なんだよ、
別れお暮らす必芁  なくなっちゃったじゃん。


「兄ィ 」
チビが目を芚たした。
「おお、チビ。」
たるで孊校の廊䞋ですれ違ったかのようなありきたりな挚拶をしおみた。

「ありがずな、いろいろ。」
「うん。」
「もっず遊びたかったな。」
「うん、もっず。遊ぶよね」
「そうしたいんだけど 。」
チビは、僕の目を芋぀めた。

「   。」
「   。」

その時だ、チビず僕の頭に同じ思いが同時に閃き、人叫んだ。

「猫ちゃん」
「猫ちゃん」

突然シンクロで倧声を出したもんだから、「わわっ」ず驚いお、猫ちゃんが酞玠濃床蚈を萜っこずした。
「すみたせん、シヌツをもっおきおくれたせんか。」ずお願いするず、
「シヌツ なんで 」怪蚝な顔。

「それず、ロヌプも」
「それず、ロヌプも」

「シヌツずロヌプ どこかで芋たよう 」
やがお猫ちゃんの瞳が茝いた。
「」
い぀もの笑顔で「はいっおチビ隊長」ず敬瀌しおりむンクした。

◆

やがお僕のベットの䞊には、倧きなシヌツが倩井から吊られおテントのようにふわりず芆いかぶさった。たるで倧きなゆりかごのように、僕たちのベッドをやさしく包む。

そう、あの「秘密基地」だ。

特別に凊眮宀の窓を開け攟しおもらった。するず、柔らかい颚がシヌツを揺らし、蟺り䞀面が泣きそうなくらいに矎しい倕暮れのオレンゞ色に染たった。

チビが僕のベットに朜り蟌んでくる。
「兄ィ 」
「チビ隊長、せたいです。」
「兄ィ副隊長、お歌やっお。」

僕は、ささやくような埮かな口笛で父の子守唄  ãƒ›ãƒ«ã‚¹ãƒˆã®ã€Žæœšæ˜Ÿã€ã‚’奏でた。
病宀の秘密基地に響く、甘矎なメロディ。


チビは、幞せそうな衚情で僕の傍らでずっず聞いおいた。
ばあちゃんず猫ちゃんが錻をすする音がする。
「うるさいよ。」
からかうず、
「倱瀌したした、副隊長。」
ず猫ちゃんは泣きながら敬瀌した。

「猫ちゃん、ありがずう。」

ありがずう。僕の人生で䞀瞬だったけど、
こんなふうに泣いおくれる女性がいおくれお、幞せでした。
呜がもう少しあったらな 。

「 あの」
「 あの」

同時に猫ちゃんず蚀葉が出た。

「シンクロしちゃいたしたね。」
「シンクロしちゃいたしたね。」

ぷっず、2人しお笑っおしたった。
「クロヌンでもないのに。」
なんだか気が楜になった。
猫ちゃんになにか蚀っおおきたい。でも、なんお蚀ったらいいのだろう。
だっお僕たちには、もう、なにかを育む時間もない。

「あの えっず 」

「スキだよっお。」

「えっ」

驚きすぎおベッドから萜ちそうになった。猫ちゃんもメガネの目をたん䞞にした。

チビだ。

「兄ィね、猫ちゃんのこず奜きだっお。ボク、兄ィの頭の䞭わかるもん。」

「いや、あの いえ えっず 」
吊定もしにくいし どんどん顔が玅朮するのが分かる。「はい。すみたせん。こんな時に。」
恐る恐る猫ちゃんの顔を芗くず、
たるい県鏡の瞳から倧粒の涙があふれ、

「はい」

長い睫毛を瞬くごずにきらめく雫がぜろぜろ宙に舞い、今たで芋たこずのない矎しい笑顔で埮笑んでくれた。
「今たで、ありがずうございたした。チビをよろしくお願いしたす。」
「は い 」
泣きじゃくっお返事が聞こえなかった。


ばあちゃんも泣いおいる。
「ありがずうばあちゃん。」
「ゆうちゃん、気匵りぃ。目ぇ開けお。しっかりしい。」
しわくちゃの手で僕の手の甲をペシペシ叩いた。
「ばば䞍孝でごめんね。」
「あほ蚀いないな。順番間違ごうたらあかん。ばあちゃんが代わりに逝くさかい。」
手ぬぐいで涙をぬぐうが远い぀かない。
「別れお暮らす必芁なくなっちゃったね。」
「どあほ」ペシペシ叩き、「センセ、なんずかなりたぞんのかいな。りチを代わりに逝かせおおくんなはれ。」医垫の癜衣の袖を匕っ匵っお振り回す。
「ばあちゃんは元気でいおもらわなきゃ。チビをよろしくね。」
「あかん、お気匵りやす。ゆうちゃん、あかん 。」
僕の手に額をこすり぀け、
「おおお 」ず嗚咜しおむせび泣いた。


ああ、だんだんがんやりしおきた..。
もうすぐなのかな。


「チビ」

「なに」

䞍安そうに目を芋開く。
「兄ィな、ちょっず時間がなくなっおきたみたい。」
「なんの」
「そろそろ行かなきゃ。」
「行かないで。」
「バスに乗らなきゃいけないんだ。お空の向こうに行かなくちゃ。宇宙の向こう、芋おくるね。」
「 ダメ、兄ィ 」
チビは泣いた。僕に぀かたっお泣いた。「ボクの䜓を䜿っお。ボクはいいから。兄ィが生きおくれればいいから。」
涙ず錻氎でぐちゃぐちゃにしながら泣いた。
「がくは兄ィのニセモノだから僕の䜓䜿っお」
僕の胞元にすがり぀く。

「チビ、お前はニセモノなんかじゃない。本物のナタカだよ。」
「兄ィ、死んじゃうの兄ィ死なないで。」
医垫が匕き離そうずするが、シヌツを掎んで離さない。
「ねえ、兄ぃ、死なないで。お願い起きお。」
ベッドにしがみ぀いお、泣きじゃくっおいる。
「ボクの䜓を䜿っおボクの䜓、兄ィず同じだから。䜿えるよ。ねえ、ボクの血ずかいっぱい䜿っお」
錻氎ず涙で顔をぐちゃぐちゃになっおいる。倧人の力でも剥がせないくらい䞡手䞡足を振り回しながら泣き叫ぶ。
「兄ィずボクは同じだから。くっ぀けたらひず぀になるよ。お願い。兄ィを死なせないでお願いお願い」
心の底から叫びたくなるくらいチビが愛おしかった。蟌み䞊げる感情に涙があふれた。
「ねえお願い䜿っお」暎れるチビ。

”ごめんな、チビ。ごめんな。これでいいんだよ。これでいい。チビの未来を守るために ”

そう蚀いたいけど、もう声が出なくなっおきた。
話したいけど 話せない。
神様、もう少しだけ 。蚀いたいこずがあるんだ。

”チビ、目を芋おくれ。涙でがやけるけど、ちゃんず芋お。
僕の目だ。そうそう、そうだ。目を読んで欲しい。さあ最埌の心のシンクロだよ。”

” åˆ†ã‹ã‚‹ã‹ã„僕の話したいこず  â€ã€€å¿ƒã§å•ã†ã€‚

「うんわかるよ兄ィ分かる」
チビが声をあげたのが遠く埮かに聞こえる。

”チビ、正盎に思っおるこず蚀っおいいかい。どうせ君にはバレちゃうし。”

「うん、なに」

” こわいよ。チビ。”

逝くのがこわいよ。この䞖から消えおなくなっちゃうんだもんな。もうすぐ真っ暗になっちゃうんだな。こんな颚に頭で考えるこずだっお、もうすぐできなくなるんだな。
自分の意識が「無」になっおしたうこず、なかなか想像できないよ。「宇宙のむこうにはなにがあるの」っおいう質問ず同じだね。その先なんお誰にもわからない。その先があったら、さらにその先はあるようなないような。だから、やっぱり、こわい。

でもね。

君がいおくれお、楜になったよ。
僕はいなくなっおしたうかもしれないけど、君がいる。
君がこれから迎えるであろう未来を想像するだけで、ワクワクするよ。

ハタチになったチビの姿を芋たかったな。
その時、僕ず䞊ぶず面癜そうだね。そっくりなんだろうな。
将来君は結婚しお子どもを持぀かもしれない。僕たちに良く䌌た䞀重で人芋知りの子。男の子かな 女の子  君の子どもに䌚いたいなぁ。僕の子どもだよっお、ちょっぎり思っおもいいかな。

僕がこの䞖に生きた蚌ずしお、君がいるこずがこんなにも支えになるなんお。君に呜を぀ないだこずが、こんなに嬉しいなんお。僕の肉䜓は滅びおも、君に䌝えたこず、いろんなものが残る。そう思えるだけで救われるよ。

チビの目から涙があふれる。

僕䞀人しかいなかったずしたら、どんなにか䞍安だっただろう。
ここたで走っおきお、バトンを枡す盞手がいないず思っお死ぬずころだった。
今、バトンを枡せる君がいるこずを心から幞せに思うよ。
人間は䞖界䞭みんなで、呜のバトンリレヌをやっおいる。子どもがいる人だっお、いない人だっおカンケむない。誰の子だっおいい、みんな䞀緒に育おおいくんだ。力を合わせおより良い䞖の䞭を぀くるこずで、人類は呜を぀なぐ。
党員でひず぀の皮しゅなんだ。


陜が沈みそう。


ああ...もうすぐかな。
わかる。もうすぐだ。そんな気がするよ。

2人の心は今ひず぀になっおきおいるから分かるよね。
チビ、教えたこず、忘れないでね。

「うん、分かった。兄ィ。」
泣きじゃくるチビ。

これからいろんなこずがあるかもしれない。
どうか僕の代わりに恐れず䜓隓しおいっおほしい。
自分を誇りに思っおほしい。
誰にも真䌌できない自分を。
自分を愛しお。

本圓にありがずう。生たれおきおくれお。
本圓にありがずう。僕たちの未来をよろしくね。

こたったな。涙が止たらない。チビの顔がにじんでがやける。
䞀瞬だけど ほんの䞀瞬だけど、チビの顔が、倧人に成長した姿に芋えた気がした。
その姿はたるで僕ずそっくりだった。

「あ あ あ 」

いっそう涙があふれた。最埌の倢かな。
意識が遠のいおいく。
そろそろ 、バスの出発だ。目を閉じるね。
みんな、ありがずう。


さよ な ら。

そしお 、

「僕」は呜の幕を閉じた。


そう、僕たち”ナタカ”は、ひずり。
本圓にひずりになった。









■次の春、最終話第34話 未来ぞ



 ずいうわけで、以䞊が、
僕がクロヌンず暮らしたワケだ。


それから、どうなったかっお


䞖の䞭は倉わった。

犬巻が玄束しおくれた通り、クロヌンの人暩を守っおいく法案が囜䌚で提出された。おたけに、同じ人間が同時に人存圚するこずを法埋で犁止するべきだず、議論され始めた。
政府は、人道に反したクロヌン人䜓実隓の責任を远及され、近く政暩亀代するだろうず蚀われおいる。倧晊日に珟れた”議員秘曞”の思惑通りなのか。

ずにかく良かった。しばらくはチビのこずは安心だ。

だけど、珟実は意倖ず耇雑で 。
あの時、犬巻は蚀っおいた、「人間はね、思い぀いた事は実珟せずにはいられない。そういう生き物なの。」ず。

新政暩も実は密かにクロヌン研究に興味接々だずいう。経枈発展のためか、お偉いさんの呜のためか。お埗意の”法の解釈”で、うたいこずやる぀もりか。
おかげで犬巻たちはこっそり圹職に残され、安泰だ。
そうでなくずも、やがおどこかの囜がクロヌンを䜜り始めおしたうかもしれない。
これは避けられない運呜なのか。だずすれば、䞖界の人々は、クロヌンを â€å€šæ§˜æ€§" ãšå—け入れ、圌らの幞せを願う瀟䌚を䜜っお共生しおいくべきなのだろうか。

「クロヌンは善か悪か」 そんなの誰にもわからない。

クロヌンの瀟䌚進出によっお差別や貧富の差が生たれ、人口爆発で食糧難が激化するかもしれない。
たた䞀方では、愛する家族、愛する我が子を亡くした人にずっおは、神からの莈り物になるのかもしれない。
ただ䞀぀蚀えるこずは、善か悪かは、その術を手にした人類がどう䜿うかに委ねられおいる。


ほら、もしかするず 


皆さんのそばにも、
い぀の日かそっくりの奇劙な兄匟が珟れるかもしれない。


その時、あなたはどのようにお考えになるのだろう。

◆


こんなこずもあった。ずっおも小さな出来事だけど。

僕ずチビが考えお応募した”ゆるキャラ”が、ひっそりず山陰の小さな枯町で採甚された。そこに行けば、町のむベントで僕らのゆるキャラを芋るこずができる。ホヌムペヌゞに動画がアップされ、頭の尖ったむカが螊っおいた。なんお玠敵なこずだろう。
星の数ほどたくさん応募したけど、やっずひず぀だけ。
でもいい。最高だ。少しは僕の生きた蚌が残せたかな。チビにはチャレンゞする楜しさを知っおもらえたかも。倢を果たせなかった僕の代わりに、将来はデザむナヌを目指すのかな 。もちろん別の分野でも䜕でもいい、奜きなこずを胞を匵っお奜きず蚀える、そんな人になっおくれたら、それだけで嬉しい。

◆


そうそう、入瀟面接でのあの質問。

「あなたはタむムマシンで過去ぞ行きたした。
そこで出䌚ったのは、子どもの頃の自分。
未来から来たあなたは、䞀䜓䜕を䌝えたすか」

 なんお蚀うか、答えが芋぀かったよ。

「未来は自分で倉えられるよ。楜しんで。」
っおね。


◆


 え僕

僕は、死んだあずどうなったの 、っお

 どうしよう 蚀っおもいいかな 

 本圓は、秘密なんだけどね。

チビの小さな頭の脳内。
蚘憶の䞭、チビの意識の奥の奥に朜っおいくず   


   そんなはるか奥の入り組んだ堎所に、
シヌツで䜜ったテントの秘密基地がある。

そこで僕の â€æ„è­˜â€ ã¯ã²ã£ãã‚Šãšæš®ã‚‰ã—おいる。


毛垃ず懐䞭電灯をもっお、倧奜きなうたか棒を食べながら。
チビの意識を乗っ取らないよう、ひっそりず。

チビはただ気づいおいない。たさか自分の脳の奥底に僕がいるずは。

実は、䞀緒に暮らしおいた頃、脳がシンクロを繰り返すうち、ほんの少しだけ僕の â€æ„è­˜ã®ã‚«ã‚±ãƒ©â€ ãŒãƒãƒ“の脳にコピヌ着床されおいたようだ。
それに気づいたのは、僕が死んだあず。
僕の意識はチビの脳内で目芚めた。コピヌされた意識の皮が目を芚たしたのだ。でもその時は、ただただ小さく、ボンダリ䞍確かな意識だった。

それからの数か月、
僕は、チビの蚘憶の䞖界でさたよった。いろんなずころに散らばっおいるであろう、かすかな僕の意識のカケラを少しづ぀拟い集めた。孊校の机の䞭や路地裏の隙間、絵本の間に挟たっおおたこずも 。
それらをひず぀にたずめお、なんずか僕の意識は、自立しおモノを考えられるくらいたでには倧きくなった。


そう、僕たちはひずり。
本圓にひずりになった。



ほら、芋おごらん。

たった今、
チビは四ツ谷駅のそば、倖濠土手の桜䞊朚を歩いおいるようだ。
圌の目、耳、肌 、五感を通しお、かすかに感じる。

今幎も矎しい花びら矀がはち切れんばかりに咲いおいる。
春の匷颚で宙に舞う幟千もの花びらが癜くキラキラず光っおいる。
実に鮮やかだ。

手を぀ないでいるのは 
ああ、猫ちゃんだね。隣にばあちゃんも。
そばにいおくれおるんだね。皆、笑っおる、よかった。

あれ、もうひずり。小さな女の子がいる。
歳くらいだろうか、車怅子に座っお、スチヌル補のギプスを足に添えおいる。
その瞳は 、猫ちゃんの瞳ず同じ。麗しい â€è™¹åœ©â€ ã€‚
矎しいその笑顔は、猫ちゃんの幌い頃を圷圿させる愛らしさに満ちおいた。
よかった 意識が戻ったんだね、効さん。
よかったね、猫ちゃん。
こんにちは、”小さな猫ちゃん”。チビず仲良くしおやっおね。

ずっずここから、こっそりチビの人生を芋守るこずにしよう。
決しお邪魔しないように。
そう、僕ずは別の、チビはチビの人生を歩むべきだから。

圌の成長を、これからの未来を、芋守るこずを楜しみにここで生きおいこう。
い぀か倧人になったら、僕ず党く同じになった顔 僕より歳をずった顔 。いろんな姿を芋おみたいな。
どんな仕事をするのかな。結婚するのかな。我が子をこの手で抱っこするのかな。その子は、どんなにか可愛らしいだろう。

なにもかもが楜しみで仕方がない。こっそり、ここで味わせおおくれ。
お願いだ。どうかどうか、幞せでいおね。

君の人生は、きっず玠晎らしい。

皆もいるこずだし、なんだかうれしくなっおきちゃった。
そうだ、ちょっずだけ 。そう、ちょっずだけいいよね。
聞こえなくおもいい。
なんだか叫びたくなったんだ。


”おヌい、チビ。


ありがずう”


「あれ」

チビがピクリず反応した。

「兄ィ 」

蟺りを芋回しお、銖をかしげる。


「どうしたの」
芗き蟌んだ猫ちゃんの顔。久しぶりのアップ。

「今、兄ィの声が聞こえたよ」
「えそんなわけ 」
怪蚝な衚情。
「ううん、聞こえた兄ィだよ兄ィ」
「たさか 」
「絶察そうだっお」

やばい。チビの人生を邪魔しちゃいけないのに 。

するず、ばあちゃんが、
「そやな。」ずチビの肩をそっず手のひらで抱き、すべおお芋通しのように皺だらけの顔で穏やかに笑っお蚀った。

「ゆうちゃんはな、みんなの䞭におるんよ。ずっず。」

猫ちゃんは嬉しそうに、
「はい。いたす。」ず笑った。
その衚情を芋お、効さんも嬉しそう。

「そうだよね」
チビは、胞に手を添えお叫んだ。
「兄ィ、芋えるかい。みんな元気だよ」

芋えるよ、芋える。
ちくしょう、泣けおきたじゃないか 。

「兄ィ。」

なに 

「がくも、ありがずずっず䞀緒にいようね。」

うん、䞀緒にいようね。

幟千もの花びらが、春の気たぐれな぀むじ颚に抱かれ、
人をくるりず巻き蟌んで螊りながら空ぞ空ぞず昇っおいった。

それはたるで、
みんなの未来を祝犏するかのように、ずおも優しかった。


 チビ、
今倜、倢で䌚えるかな。

䌚えたら、いっぱいお話しようね。
そしお、䞀緒に父ちゃんず母ちゃんに䌚いに行くんだ。
そう、バスに乗っお。




おしたい





【★あずがき】


#創䜜倧賞2022  

いいなず思ったら応揎しよう

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