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幼なじみの茉央#3(巫女編)【ご褒美の先払い】

カァン・・・


平日の昼過ぎ。

静まり返った境内に、木のベンチに缶を置いた音が響いた。

ふうー

大きくため息をつき、ノートパソコンの画面から視線を外すと白衣に緋袴が目に入る。

彼女の表情から少し前から視線を向けられていたことがわかる。

『あ、茉央さん』

「こんにちは。お仕事、捗ってます?」

慌てるオレに柔らかい声が降ってくる。

『あ、はい。いや、捗ってません。すいません。昼間からまたお邪魔して』

「気にしないでいいですよ。この時間は他の参拝客もいませんし、神様もお昼寝中です」


箒を社務所の壁に立て掛けて、自然な流れでオレの隣りに腰を下ろす。

左側に置いたハイボールの缶を隠すように右側のベンチの端に移動させる。

程なくして境内の清涼な空気の中に、彼女特有の甘い女の子の匂いが淡く漂う。


「お邪魔じゃないです?」

『いえ、そんなことないです;;』





【恋愛小説家】

それがオレの肩書きだ。

ありがたいことに、文字を書くという行為だけで生活はできている。

それが叶わずに消えていく人間を、この業界で腐るほど見てきた。

読者がいて、応援してくれる人がいる。本当に恵まれていると思う。

けれど、同時に。

もう二度と、書けないんじゃないか。

いつか誰にも必要とされなくなるんじゃないか。

そんな底知れない不安が、影のように常に足元に張り付いている。

書くことは楽しい。

それは昔から変わらない。

けれど、今はそれだけではない。

喉の奥を焼くような苦しさの方が勝つ瞬間が多くなっていた。

環境を変えようと、ファミレスや喫茶店をハシゴする毎日。

いつしか、午前中から酒を煽らなければ、パソコンの画面に向き合う勇気すら持てなくなっていた。



茉央さんと初めて会った、あの日もそうだった。

昼前のファミレスが混み始めて、逃げるように店を出た。

家へ帰る気にもなれず、コンビニで買い足した酒を手に、ふらふらと歩き続けて、辿り着いたのがこの神社だ。

入り口の小さい鳥居をくぐると、驚くほど静かで人の気配は全くない。

その不思議な静寂に吸い込まれるように境内をぐるぐる徘徊すると隅っこにある、ひどく古びたベンチにたどり着く。

何十年もそこにあるような、頼りない木のベンチ。

それが、今の自分の壊れそうな心に、妙に寄り添ってくれる気がした。

こんな平日の昼間に酒を片手にいていい空間なんだろうか。

罪悪感を覚えつつ、古くてガタついたベンチに腰掛ける。

切り替わった視界と今の心のざわつきが、ちぐはぐなマッチングを始める。

変な感じだ。

その瞬間プラスもマイナスも全部押し寄せて、身体を通り抜ける。

泥のように澱んでいた言葉たちが、身体の中で少しだけ跳ねる。


言葉が・・・


物語が・・・


するするとほどけていった。







カァン・・・

空になった缶の音が響いて、ずいぶんと集中していたことに気づく。


ふうー

息を吐いてパソコンの画面から視線を外すと、巫女さんがこっちをみていた。

『あ、すいません;;』

思わず立ち上がって、頭を下げる。


「え?」

『すいません、飲酒ってダメですよね。こういうとこ』

「あー、大丈夫ですよ。この時間は参拝する人ほとんどいないので」

『はあ・・・』


「お仕事ですか?」

『あ、はい。一応;;こんな時間に酒飲みながらって説得力無いですけど』

「すごい楽しそうにパソコン叩いてましたよ」

『そう・・・ですか?』

意外だった。オレ楽しそうだったのか・・・


「好きなんですね、お仕事」

『そうかもしれないですね。ここの雰囲気が妙に今書いてる話と合ってて』

「お話書くお仕事ですか?」

『あ、えっと・・・一応小説を書いてます』

「すごーい、小説家の方に会ったの初めてです」

『すいません、初めてがオレみたいなので』

「ふふ、なんで謝るんですか。どんなジャンルですか?お名前って聞いてもいいですか?」

楽しそうに笑いながら自然な流れで質問してくる。

あまりリアルで自分のことを話すことは好きではないんだが。


『えっと一応、恋愛ものです』

「へえ、素敵ですね」

『すいません、こんなおっさんが恋愛ものなんて』

不思議そうに首をかしげる。

「おいくつなんですか」

『30です』

「え、もっと若く見えますね」

『いやいや』


「今度小説読ませてもらいますね」

『え、ああ・・・ありがとうございます』

「また、来てくださいね。お酒飲んでても大丈夫ですから」






それから1週間後くらいだろうか。

ベンチで酒を煽るオレを見つけて嬉しそうに寄ってくる。


「読みました!すっごいよかったです!」

ベンチに座るなり、そう言った。

「〇〇さんってすごい有名な人だったんですね」

『いやいや、そんなことないです;;』


「読んですっごく優しい気持ちになりました」

『よかったです、ありがとうございます』

「私、事件がいっぱいおきたり、意地悪な人が出てくるお話があんまり得意じゃなくて」

「〇〇さんの言葉って、ひとつひとつにずっと優しい感情が入ってて。すごく好きな感じでした」

あまりにも真っ直ぐに、嬉しい感想を浴びせられて目を背ける。


『ありがとうございます////』

「こういう言葉、どこから出てくるんですかね」

『さあ。どうでしょうか。自分でもわかんないですね』

「そういうもんですか」

『はい、なんかすいません』

「ふふ、また謝ってますよ」




それから週に2日くらいは茉央さんと少し話すようになった。


そんなこんなで冒頭のやりとりに戻る。





『あの・・・茉央さん。いまさらですけど、すいません。いつも酒飲んでて』

「いえいえ、楽しく飲んでるならいいと思いますよ」

『楽しくはないです、やめられたらっていつも思うんですけど』

「毎日飲んでるんですか?」

『はい、恥ずかしながら。やめたいって本気で思ってるなら勝手にやめろって話ですけど。我慢すればいいだけなのに』


「んー、我慢の問題じゃないんですよね、そういうのは」

『え?』

「健康の悩みって絵馬とかにもいっぱい書いてあるので調べたんです」

『調べた?』

「はい、我慢とかの問題じゃなくて脳の認識の問題みたいな。難しいことはよく分かってないですけど」

「〇〇さんの場合は、まず自分を許すところからじゃないですか?」

『そうは言っても』

できる気がしない。

「難しいですよね。あと一人でやらないことです」

「まおが協力します」

『協力ですか?』

「はい、ご褒美あげるってどうですか?」

『いえ、そんな茉央さんに迷惑かけられません』

「んー、何ならいいかな・・・」

『聞いてます?』

「まず一日我慢できたら、褒めてあげますね」

『いえ、だから』

「2日我慢できたら、頭ナデナデです////」

『な、なに言ってるんですか////』

「3日いけたらハグで・・・1週間でキスとかどうです?」

「あ、ほっぺですからね////」

『からかわないでください;;』

「むう、本気やのに・・・」



そういうのは聞こえないように言ってほしい。




『とにかくまおさんに迷惑かけられませんから』

「じゃあ、私にはご褒美のお返しください」

『は?』


「〇〇さんと私のお話を書いてもらえませんか?短いのでいいので」

『茉央さんとオレの?』

「はい、プロの方にこんなこと頼んじゃダメですか?」

『あ、いえ。そういうことじゃなくて、そんなの誰も読みたくないっていうか;;』

「私が読みたいんです////」


「あ」

突然、小さく声を上げた。

『どうしました?』

「な、なんか;;服の中にキャア」


茉央さんの白い首元を黒い何かが這うのが見えた。そのまま胸元へ入っていく。

「ちょっと待っ、やだ、動いてる;;」

その場で白い羽織を脱ごうとする。

周りに人がいないとはいえ、外で脱ぐわけには。

『ちょっと;;そこ入りましょう、早く』

腕を引いて、社務所の中に駆け込む。

引き戸を閉めると、同時に白衣の帯を解き始める。

「キャア、いややー」

『茉央さん、落ち着いて;;』

上を脱いでも黒の物体が確認できず、下も脱いで下着姿になってペタッと座りこむ。

細くて長い手足から意識しないように注意しながら、脱ぎ捨てられた巫女服に近づく。


赤い布の上で、大きめのクモがびっくりしたように動きを止めていた。

クモか・・・

そっと手に乗せて、引き戸を少し開けて外へ逃がす。


『大丈夫です。もう行きました』

「ありがとうございます;;うう、怖かった」

薄暗い社務所の中で、白く光る肌と布面積の少ない下着。

荒い吐息に合わせて細い肩が上下している。

色々考えないようにしながら、脱ぎ捨てられた巫女服を拾い上げて細い肩にかける。


「すいません;;」

『いえ、びっくりしたでしょう。着てください』

「すいません、急に脱いで、こんなの見せちゃって;;」

『そんなことないです、めちゃめちゃ綺麗です!』

「え;;」

『あ、すいません;;見ないようにしてたんですけど。目には入っちゃって////』

服を肩にかけた状態のまま、じっとオレを見る。

・・・・・・

なに、この時間////

・・・・・・

気まずい時間が流れる。



「がっかりされませんでした?」

『そ、そんなわけないです////めちゃめちゃドキドキしてます////』

「ふふ////〇〇さん可愛いです」

『からかわないでください;;』



「今のこの状況って小説にありそうなシチュエーションですね」

『ないですよ;;さすがに////』

「ふふ、じゃあちゃんと書いてくださいね////」

『え?』

前がはだけたまま、すっと立ち上がる。

「〇〇さん、目瞑って・・・恥ずかしいから」

『あ、はい;;』




チュ

意味がわからず戸惑うオレの頬を侵食する柔らかい感触。




「ご褒美の、先払いや////」

『ま、まままおさん;;』


耳まで赤くなりながら、それでも真っ直ぐ目を見て笑う。

「いい話、書けそ?」







ーーーーーー

ーーーーーー


『——っていう夢だったんだよ』

「・・・・・・」

『まお聞いてる?』

机越しに、興奮している幼なじみを静かに見る。

「どっから突っ込めばええんやろ」

『え?なんか変だった?#1メイド編も#2ナース編もまお視点なのが変だって言ってたから、今回はちゃんとオレ視点にしてるし』

「#とか視点とか;;隙あらばメタ発言すんのやめろや!」

「だいたいなんでまた年の差設定やねん!同い年の幼なじみやろ!」

『まお、こないだも言ったけど、夢の設定にそんな目くじら立てなくてもよくない?』

コイツ・・・

「あと、クモの件やけどエロ展開のために無理やり出した感すごいからな!」

『まおこそ、それメタ発言じゃない?』

「違うわ!変態ドエロ夢小説作家が!」

『いやいやー、作家って』

コイツなんで嬉しそうやねん。ほんまもんの変態やん。




「いいから早く宿題やれや!そのために部屋きたんやろ!」

『宿題?それもあるけど、まおと一緒にいたいから来たんだよ』

「へ;;」

急に何言ってくれてんの////

『でも宿題はやらないとね』

「そ;;そやろ」

『じゃあ、終わったらご褒美くれる?』

「は?やるわけないやろそんなの;;」

『えー、まおのキス。ダメ?』

「キスって;;ダメに決まってるやろ////」

『もうこっちはお返し用意してるんだけど』

「へ?」

『まおとオレの話を書いたんだけど、読んでくれる?』

真剣な表情で渡された紙に目を走らせる。


・・・・・・

・・・・・・


!!!!!



「こんのド変態!幼なじみとのエロ小説書いて読ませるってどんなメンタルしてんねん!」

『え?純愛純愛!まおとオレの初夜の物語だから!』

「初夜って////それがあかんって言うてんねん」

『でもさ、好きな人と結ばれたいって思うことはいけないことじゃないよね?』

「え・・・」


『まおがオレとの未来が嫌じゃなければだけど』


なんやそれ・・・


ずるいやん・・・


「いや・・・・なわけないやん////」


手を取られて、心臓がどかどか鳴る。

もうこんなの告白超えて、プロポーズも超えて////


『まお・・・もちろん今すぐにっていう話じゃないんだけど』


『そういう初めての時がきたら、その時は』

「う、うん////」


ぎゅっと握られた手から真剣な気持ちが伝わってきて、無言で頷いてしまう。




『その時は、絶対に巫女服でお願いします!』



・・・・・・



「〇〇、目瞑って・・・恥ずかしいから」


『え、うん!』


嬉々として目を瞑って、唇を尖らせる幼なじみ。


よし・・・





殴ったろ・・・思いっきり



【終わり】

読んでいただいてありがとうございます。
久しぶりのきっき楽しく書けました。
気に入っていただけたら嬉しいです。
感想がほしいですー!お願いしますー!

ありがとうございましたー!







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