幼なじみの姫奈#1【相方に異議を唱える】
「ねえ、もうほんと時間ないんだけど!」
平日の朝、いつものように自室に響く私の怒号。
「ちゃんと起こしてって言ったよね?」
[設定通り、午前7時にアラームを鳴らしました]
「鳴らしました、じゃないでしょ! 起きなきゃ意味ないじゃん!」
[そうですね。次から確実に起きてください]
「むかつく!それができないから頼んでるの!」
髪をとかしながら、鏡の中の自分を睨む。
朝に余裕があったことなんて、一度もない。
普通に準備して家を出るならそれなりに余裕はある。
制服だし、学校だし、誰もそこまで見てない。
でも女の子は、いろいろ準備がいるもの。
可愛いって、思われたい。
毎朝、家の前で待ってくれてる幼なじみに。
色の薄いリップを唇にのせて、指でなじませる。
「これ前髪いいかな。可愛いよね?」
[鏡を見て確認してください]
「そこは“可愛いです”でいいの! 次から言って!」
[分かりました。次からは可愛いか聞かれたら、可愛いと言います]
コイツ・・・ほんとむかつく。
「もう!行ってくる!」
[ヒナさん、スマホは持ちましたか?]
「あ、ナイス。ありがと、アレクサ」
スマホを手にして、鏡で最終確認をする。
「よし、今日こそ可愛いって言ってもらうんだから!」
[ヒナさん、可愛いです]
「〇〇に言ってもらいたいの!」
[なるほど、〇〇さんに可愛いと言ってもらいたいんですね?]
「言い直さないで!恥ずかしいんだから////」
忙しい朝、相方とのやりとりだ。
玄関を飛び出すと、朝の冷たい空気が頬を刺す。
道を挟んだ向かいからいつものように静かな目が私を見る。
ほぼ毎日会っているというのに、この瞬間に慣れたことなんて一度もない。
ちゃんと胸が高鳴ってしまう。
狭まった視界の中心にパタパタと駆け寄る。
「おはよ! ごめん!待ったよね」
呆れたように鼻を鳴らして、ふっと目を細める。
『おはよう、ヒナ』
それだけ・・・
それだけなのに、胸がきゅっとなって熱い。
「ごめんね」
『別に、いつものことだから』
楽しそうに答える幼なじみに。笑いながら怒る。
「ねえー、ありえない!いつもじゃないし」
『いや、いつもでしょ』
うん、いつもどおり。
いつもどおり安定のそっけなさだ。
前髪、可愛くなかった?
頑張った甲斐はあった?
ほんとに聞きたいことは口から出てこない。
〇〇はそういうの興味ないのも、贅沢な望みであることも分かってる。
それでも・・・
可愛いって思ってもらいたいんだよ・・・
不満と不安をごまかすみたいに、私は喋り続ける。
「またアレクサが全然起こしてくれなくてさ!」
『鳴ってたけど気づかなかっただけじゃないの?』
「違うよ!アイツが間違えたんだと思う。寝る前にわざわざ離れたとこに置いてんのに」
『はは、アイツって。アレクサもうひとつあったらいいかもね』
〇〇があまりにも自然に笑う。
ずるいじゃん。
なんでそんな顔で言えるの。
肩が触れるか、触れないかの距離でいつもの道を歩く。
この距離は近くて遠い。
学校までは徒歩で20分とちょっと。
この時間は一瞬に感じる。
学校、もうちょっと遠かったらいいのに。
いつもそう思う。
時間はギリギリなんだけど。
〇〇は、いわゆる幼なじみってやつ。
家が近くて、気づいたらずっと隣にいた。
そして私は〇〇が好き。もとい、大好き。
だから毎朝、ちゃんと”可愛い”を頑張って作ってる。
でも、〇〇が可愛いって言ってくれたことはない。
いつか言ってくれるかな。
いや、別に言ってくれなくてもいい。
とにかく〇〇に可愛いと思ってもらいたいだけ・・・

〇〇は、特別かっこいいっていうタイプじゃないと思う。
でも私には〇〇以外は考えられない。
優しくて、いつも穏やかで、なんだかんだマイペース。
私が困ってると、いつも助けてくれる。
そうすることが当たり前みたいに・・・
そういうところも、そうじゃないところも全部好き。
いつからだろうと思い出をひっくり返してみても、既に大好きな記憶しか見つからない。
物心ついた時、なんてことはないだろうけど、たぶんそういう感じなんだと思う。
それでも距離はなかなか縮まらない。
物理的にも、精神的にも・・・
この距離が問題で、いつも私を悩ませる。
高校生になった今でも一緒にいられるのは嬉しい。
距離は離れていない、でも近づいてもいない。
時間だけが淡々と過ぎていく。
なんとか距離を縮めないと。
そういう焦りだけが速度を増す。
『学校まで、もうちょっと近いといいんだけどな』
・・・・・・
私にとって大事なこの時間は、〇〇にとっては退屈なだけなの?
同じ道のり、同じ距離、同じ時間なのになんでこんなに感じ方が違うんだろう。
そして、こんな関係はいつまで続くんだろう。
いつまでも続くものじゃないことは分かってる。
中学の時は、高校までがリミットだと思っていた。
理由は成績。
〇〇は成績優秀で、私は・・・まあ、そういうこと。
それでも〇〇は家から近いという理由で高校を選んだ。
志望校を聞いてからとにかく必死に勉強した。
飲み込みが悪い、というかなんかズレてる私に〇〇はずっと付き合ってくれた。
根気よく、嫌な顔ひとつしないで。
そのおかげでなんとか同じ高校に通えているというわけ。
ということで高校生になった今、リミットは大学までになった。
『東京の大学に行きたいんだよね』
中学時代に〇〇の口から聞いたセリフを忘れた事はない。
聞いた時は、なにが起きたか分からなかった。
〇〇が?
東京?
なんで・・・。
遠いよ。
行かないでよ。
遠すぎるよ。
私には、埋められない距離であることは明らか。
どんなに頑張っても、きっと届かない。
だから、高校のうちに。
一緒にいられる、この間に。
幼なじみは卒業して、彼女になりたい!
遠距離にはなっちゃうけど、きっと大丈夫!
『ヒナ、きいてる?』
〇〇が横から覗き込む。
「え、なに!」
慌てて顔を向ける。
『テスト近いし、今日も昨日の続きやる?』
「あ、うん。うん!」
自分でも驚くくらい、素早く首を上下に振る。
今日も付き合ってくれるんだ。
下校後、私の部屋で勉強会。
幼なじみってだけで、こんなに付き合ってくれないよね?
ちょっとは期待してもいいよね?
今日こそなんか進展あったり////
『次赤点あったら、進級危ないもんね』
絶賛妄想中に突きつけられる現実。
時間、恋愛、進級・・・
私って、いろいろギリギリだなぁ・・・

『あのさヒナ、今日の髪』
「えっ!」
『後ろ、モコってなってる』
「えぇっ!待って!嘘でしょっ!」
【続けっ!】
読んでいただいてありがとうございます。
ずっと書きたかったヒナちゃんです。
安定の不安定で何話になるか分かりませんが、
お付き合いいただけたら嬉しいです。
感想もらえたら喜びます。お願いします!一言でもっ!なにとぞっ!
ありがとうございましたー!
