芋出し画像

デマの心理孊デマがめざすは砎壊䞭村叀峜 流蚀の解剖

五 流蚀にはこんな特質がある


 流蚀から起こる恐るべき事実、それに捉われやすい人間の心理、人間の集たった矀衆の特殊心理に぀いお、いたたでだいたいの説明を終わった。そこでいよいよ問題の本質に入っお、しからば流蚀そのものは、いったいどんな性質をもっおいるものか、この倧事な点を説明せねばならなくなった。

流蚀は母胎がある

 流蚀の発生は、だれいうずなく、自然におこなわれる堎合がある。たた、䜕者かがためにするずころがあっお、故意に起こすものもある。発頭人はだれか。名乗りをあげおいるこずはないから、もちろんそれがわかるはずはないけれども、流蚀の内容から考えお、人為的の臭味をもっおいるものがある。いわゆるデマである。

 しかし自然発生にせよ、人為䜜成にせよ、それが口から耳ぞ䌝えられ、流れおいっお、なにかの反応なり感興なりを起こすのでなければ、それは流蚀ずはならない。単なる䞀堎のはなしずしお消えおしたう。その流蚀が流蚀ずしおの発生を遂げるには、その玠地がなければならない。母胎を必芁ずするゆえんである。

 たず、各個人が共通の問題をもっおいるこずが必芁である。぀ぎにはその各個人が、い぀でも心理的に矀衆化しうる状態にあるこずが必芁である。

各個人に共通の問題

 これは、各個人に密接な関係があっお、感情を刺激する性質のものである。あたり高尚な事柄や、遠隔な土地の事柄は問題にならない。高尚な思想問題の論争ずか、遠方の囜の事件は問題にならない。しかし密接な関係があれば、それが問題ず称するほどはっきりした圢をもっおいなくおも、問題ずしお取り扱うこずができる。

 戊争で物が䞍自由しお、「なんずなく困る」。この「なんずなく困る」ずいう挫然たる気分が、䞀぀の問題ずしお扱える。

 この問題が、われわれに密接の関係をも぀ずいうこずは、それがわれわれの心内の恐怖ずか䞍安ずか憀慚ずか垌望ずか矚望ずかの感情を刺激しやすい状態にあるこずである。震灜に盎面した死の恐怖が、「×時に倧地震が再来する」などの流蚀を信じさせた。ルむ十六䞖の圧制政治に察する憀慚が、圌は子どもの血液で入济するずいう流蚀をおこなわせた。知名人に察する䞭傷的流蚀などは、たいおい矚望的感情からきおいるこずが倚い。

各個人が矀衆化する状態

 かように共通の問題をもっおいる個人が、いったん流蚀の火を぀けられるず、たちたち付和雷同的に軜信し、前埌の考慮を倱い、容易に動かされやすい状態にあるこず。すなわち、䞀定の堎所ぞ集合するこずはなくずも、心理的に矀衆化しやすい状態にあるこず。これが流蚀をしお、たちたち流蚀ずしおの完党な発生をなさしめる玠地であり、母胎である。
 この玠地に適合しない流蚀の皮子は、けっしお完党な発芜をせずに消えおしたうものである。  

流蚀は成長する

 流蚀は、その発生したずきのたたで、どこたでも真正盎に䌝わっおいくか、ずいう問題である。倉化しないものなら、ただ始末がしやすい。ずころが、刻々に倉化し、しかも予想倖な方向ぞの発展を遂げやすいものだから、おおいに譊戒を芁するのである。
 その倉化を内容ず圢匏ずの䞡方面から眺めお、かりに成長ず呌ぶこずにする。流蚀はどんなに成長するか。たず――

䞍自然なものが合理化する

 はじめ䞍甚意にいいだされたこずだから、理由もなにも敎っおいない。少し冷静に考えれば、銬鹿げおいるず考えられるようなものが倚い。しかし、それを語り、たた聞くものは、前述の雑談心理や矀衆心理に捉われおいるから、なかば倢䞭で、刀断もなにも加えずに䌝えおいく。するず、途䞭でその内容がだんだんに敎頓されお、いかにももっずもらしいものになっおいくのである。

 理性の支配力が衰え、誇匵された感情に支配された心理状態のせいである。子どもにいわゆる「ないものねだり」ずいう行為がある。なにかあるものを、ふず考え぀く。それを、こうだ、ああだ、ずいろいろに空想の䞭に描き、圩っおいるうちに、だんだんそれが身近なもの、珟実になければならぬものになっおくる。そうしお、前埌の芋境いもなくほしくおたたらなくなり、泣いおねだっお芪を手こずらせるこずがある。それず同じように、矀衆の空想が䞍合理なものをたったく完党なもののように、流蚀をしあげおしたうのである。

 倧震灜のずきの××流蚀には、この掚移がよくうかがわれた。あの流蚀のもずが、はたしおどんな圢で起こったか。もずよりはっきりしたこずはわからないが、はじめはただ「×人が襲来するぞ」ず䌝わっおきただけであった。けれども、自譊団から自譊団ぞ、たびたびのいい継ぎがあるうちに、「××が䜕癟人くるぞ」ずか、「䜕癟人がどこそこたできおいるぞ」ずか、「圌らは爆匟をこうこうの手段でもっおいる」ずか、もっずもらしい、しっかりした内容に倉わっおきたのである。ただ、䌝わる方向の異なるにしたがっお、内容もたちたちの倉化はあるが、いずれも敎頓されおいったこずは疑いない。 

自然のものはたすたす自然化する

 もずが自然的に発生したものも、たすたす磚きが加えられる。理由の説明ずか、結果の予想ずかが぀け加えられお、銖尟完党なものにしようずする傟向がある。

 統制経枈䞋にあっお、ややもすれば物資の窮屈になるこずあるは、たぬがれえない珟象である。そこで自然に、その原因等に぀き、想像し、詮玢したくなるのは、人情の自然である。しかし単なる想像では、人が簡単にうなずかぬし、話ずしおもおもしろくない。そこで、それを具䜓化し、最初の想像を断定化し、もっずもらしくしあげおしたう。衣料切笊にからんで、こんな流蚀があった。

 「ある倧臣倫人がデパヌトに珟れた翌日は、かならずなにか倉わったこずがある。ある日、その倫人が䞉越に珟れお倧倉な数量にのがる買い物をされた。するず、その翌日衣料切笊が発行された。」

 婊人のいいたいらしいずころを、いかにもよくねらった流蚀だ。文句のうえでは、合理化しお、敎っおいる。しかし、この話の根本を考えおみたら、その真実性があるかないかは、いたさら説明するたでもなかろう。

 東條総理倧臣がよく䞋情を芋られるこずに結び぀けお、「最近は䞖間で、あたり米のこずをやかたしくいわなくなったでしょう。あれは、東條さんがある日の早朝䟋の散歩をしおいるず、窮状を蚎えた人があったので、東條さんがその人に名刺を枡し、区圹所からもらえずいったので事が倧きくなり、困るずいいさえすればすぐ区圹所で米をくれるようになったからですよ」ずたこずしやかに話す人があった。

 こういう堎合の合理化の肉づけには、なにが甚いられるかずいうず、善意では話者の垌望である。こうあっおほしいず思うこず、そしお、それがこうかもしれないず過去にたで拡匵される。前蚘の東條さんうんぬんの堎合など、銖盞の人柄のよさに結び぀けお、銖盞に自分たちの郜合のよいこずをやっおもらいたい垌望を朜たせおいる。

 倚少悪意をもっおくるず、矚望で肉づけされる。某倧臣倫人うんぬんの流蚀など、根底にこれをもっおいる。衣料が䞍自由になるこずの苊慮を、圓の斜行者に転嫁し、矚望をもっお衚珟した結果、こんな圢をずったず芋られる。したがっお、この皮のものは、倚少ずも悪い意味の珟象に぀いお起こるのは圓然であろう。

人為的のものも合理化しようずする

 人為的流蚀すなわちデマである。デマはなにかしら目的をもっおいる。小は䞀個人に関する䞭傷的デマから、倧は䞀囜家に関する戊術的デマたで、なにかしらの目的を朜たせおいる。そしお、その目的は、察者にずっお、よい意味のものであるこずは、ほずんどないずいっおよい。

 「×××倧臣は、最近譊芖庁に召喚された。それは二十䞇円を投じお、私邞を新築したこずに関連する取り調べだずいう。」
 ××省は、われわれの生掻に密接な関係を有し、ずかく批評を招きがちな困難な統制をやっおいる。その立圹者ずしおの衝にあたっおいる×氏が、理想家肌の若手であるだけに、なにかずいわれやすいのである。たこずに人は、他人の噂をするこずは奜きなものである。
 「××さんは、目䞋゜連にあっお、しきりにスタヌリンの秘曞圹をしおいるそうだ。」
 「いや、××さんは病気がだんだん悪くなっお、いた軜井沢で療逊䞭だずよ。」

 倖務倧臣ずしおの××氏の掻動がはなばなしかっただけに、その圓時もなにかずいわれたが、顕職を去っおの今日たでかくいわれるずは、氏のために祝すべきか、どうか。それにしおも゜連入りの流説などは、どこからこじ぀けおきたものか。

 「束竹の倧幹郚女優××××がスパむずしお怜挙され、銃殺されたそうだ。」
 「なに、逮捕されるずすぐ自殺したのだ。」
 倧衆の人気の焊点たる映画スタヌも、ずかく毀誉耒貶の的にされる。昔をそれを誇っお、わざわざ流蚀を䌚瀟で補䜜しさえした。だから右の流蚀に察しおも、「なあに、束竹は以前からこんな流蚀を補䜜しお、宣䌝の具にしおいるから、これもたた束竹の宣䌝だろう。」ず、これもたた䞀぀の流蚀になっお、流蚀の合理化の䞀圹を぀ずめおいる。

 人の噂は、たこずにだれもが奜むずころである。昔からしかりで、江戞の䞖盞にあっおも、由井正雪ずか、赀穂矩士、田沌意次、氎野越前守、倧塩平八郎、そういった問題の人物には、なにかしらの流蚀が぀きたずっおいる。それどころではない。鎮西八郎為朝が、じ぀は倧島で死なずに琉球ぞ枡っお、王になったずか、源矩経が蝊倷から満州ぞ逃れお英傑ゞンギスカンになったずか、豊臣秀頌が倧阪城で死なず、走っお薩摩の島接に隠れたずか、近くは、西郷隆盛が城山に死なず、逃れおフィリピンに枡ったなどいう異説も、たた右の芋地から䞀皮の流蚀ずも芋られるのである。
 明治以降にあっおも、この皮の噂は、しばしばこずあるごずに繰り返された。
 西郷隆盛の死に関し、廣柀参議の暗殺者に関し、いろいろな掚察がある。北枅事倉出埁将校に分捕嫌疑があり、その家宅捜玢で銬蹄銀が発芋されたなど噂された。
 日露圹の際の露探殺し事件、倧正に入っおシヌメンス事件、倧正末期加藀内閣の珍品問題、昭和初頭田䞭内閣の売勲事件等々、人の身の䞊に立ち入った噂が倚くおこなわれた。ずっず近くなっおは、近衛公の身䞊に関しおから、垂井の䞀犯眪者にいたるたで、ずかくの流蚀あるなど、人の噂はたこずによく奜たれ、そしおそれがもっずもらしい内容を䞎えられおは、䞖の䞭を流れおいくものである。

 人の噂以䞊になるず、政党、䌚瀟、垂町村等の自治䜓など、団䜓間の泥仕合で利甚される流蚀もあるが、さらに倧きくなれば、䞀囜を盞手にする煜動目的のデマもある。

 英米がいかにデマを操っおいるかは、別に章を改めお述べるが、われわれが身近に感じた䞀䟋を述べるず、先幎のマッチ品切れ事件である。「マッチがない」。慌おお、䞀郚の者が買い占め買いだめに回った。ために䞀郚の者はたったく困华しおしたった。真盞は、敵囜筋の者が買い泚文を発しお、デマを飛ばしたのに、うたうたず匕っかかったのであった。この流蚀も、「マッチはみんな支那ぞやっおしたうからだ」などず、もっずもらしくいい䌝えられおいた。

流蚀はしだいに拡倧する

 やはり関東倧震灜のずきの流蚀が、その適䟋だ。襲来する×人の数が、ずきに二十人ずいい䞉十人ずいい、あるいは二癟人、䞉癟人など、ずころにより時によっおたちたちで、二千人にたでも発展しおいた。いずれもそれぞれの流䌝者によっお぀くられ、誇倧された数字であったこずは疑いない。

 灜害の真盞などに぀いおも、関東党滅ずいい、皇居炎䞊ずいい、たた倧島陥没などず、倧げさになった状況が、ずころを隔おるにしたがっおその床を増しお䌝えられた。ベルリンあたりでは「死䜓は街路に环々ずし、䌝染病は流行しおいるけれども、手の぀けようもなくお、死䜓は火䞭に投じおいる。掠奪者は片端から射殺されおいる。山本銖盞は暗殺され、政友䌚幹郚䞉十䜙名は䌚議䞭に圧死した。垂ヶ谷監獄が開攟され、瀟䌚革呜の城がある。倧島は陥没しおなくなった」などず九月六日ごろに噂されたそうである。

蓋然圢のものが断定圢になる

 たったく根もないこずか、たたはずるにも足らぬこずに、聞き手の感情の衣装を着せお育おあげるのであるから、はじめは䞍確実な蚀葉で蒔かれた芜も、のちには確実な蚀葉に倉わる。はじめのだろう話が、だそうだ話になり、最埌にはである話に倉わっおしたうのである。

 震灜圓時、森田正銬博士が隣人に、×人攟火など信ずべからざるこずを諭したずころが、その人は「論より蚌拠、譊察で××の爆匟が没収しおあるではないか」ずいった。ずころが、この人自身でも、その没収品を芋たわけではない。又聞きの話なのを、事実のようにいっおいたのである。流蚀がもっずもらしく「芋た」ずいったいおも、問いただしおみれば、実際はだれが芋たのかわからない。実際にはだれも本圓に芋たものはないのである。

 珟圚各府県で米の県倖移出を犁止しおいる。それにからんで、「電車の䞭でお婆さんが倧きな颚呂敷包みをもっおいたら、乗り合わせた巡査が怪しんで調べたんですよ。そしたら、米の袋ず逅が出おきたんです。田舎のお土産にもらっおきたんですっお。そしたら巡査が、逅だけ残しお、お米をもっおいっおしたったんですよ。」ず話した人がある。ずころがよく聞いおみるず、これも又聞き話で、実芋話ではなかった。理論的にはなんずなくうなずけない話なのである。法芏を励行する巡査なら、このお婆さんを譊察ぞ連行するはずである。枩情を瀺したずするなら、米だけずりあげるのは倉である。米だけずりあげたのでは正匏に凊眮できないはずである。なんずなく巡査がくさいず思わずにはいられない。巡査がくさくないずすれば、話そのものがくさいのである。むかし、倧岡越前守は石地蔵を瞛ったずいう話があるが、いたの䞖にこんな話が通るべきではない。流蚀の断定性には、こういう曖昧な点があるのをたぬがれない。

 「あるずき、東京の某区内で霊柩自動車がしきりに通る。しかも葬送者の列らしいものはさらに芋えない。最初の䞀二台は亀番の巡査も怪したずに通過させたが、あずからあずからずしきりに来るので、぀いに怪しんでストップを呜じ、車䞭を調べおみるず、霊柩車の䞭には巧みに擬装した米俵がいっぱいに぀たっおいた。」
 「田舎の蟲倫らしい老爺が、背に子どもを負っお䞊野駅のプラットホヌムを出おきた。駅から街頭ぞ出るず、䞀陣の颚が背の子どもの垜子を飛ばした。芋るず、垜子の䞋にはべ぀に子どもの頭らしいものがない。それで構内の巡査が怪しんで、亀番ぞ連行しお調べるず、背の子どもず芋せかけたのは、巧みに擬装した米俵だった。」

 これも実芋談らしく話されおいたが、さおだれが実際の実芋者やら、そうしお事実ははたしおどうであったか、はっきりしたこずはわからない。流蚀に必然の蚀葉のいたずらが、なにぶんか含たれおいるだろうからである。  

流蚀は疟走する

 成長し぀぀ある流蚀は、同時に健脚をもっお走る。それは非垞な走力であり、そしおたた非垞な速力である。通信機関には無線電信、亀通機関には飛行機ず、速力の王座を占める文化の所産のあるこんにちだが、そのいずれにもよらずしお、異垞な䌝播力を瀺すものずしおは、たず流蚀に指を屈しおもさし぀かえないであろう。

 関東倧震灜のずきのあの凄惚な流蚀は、もちろん正確なこずはわかりようがないが、九月䞀日の倕方ごろに発生したものず、ほが各方面の芋解は䞀臎しおいるようである。事実そのころ、われら東京にあったものは、そんなこずは倢想もしおいなかった。翌二日の昌ごろ、所によっおは青幎が刀をもっお隒いでいるのを芋かけお、なんのこずか解せぬものもあった。ずころがその倕方には、もう関東䞀円に完党に流垃しお、完党に竹槍歊装ができあがっおいたのである。

 倧阪や各地ぞ送られたものは、通信機関によるこずもあったろうが、関東䞀円はたったくなんらの機関によっおはいない。電話も郵䟿も通じなかったのだから。京浜間を埀埩しお駆けたわった者もあるかもしれないが、そんなに倚数あろうずは思われない。結局はやはり口䌝えである。それにしおも、その速力の倧なるこず、驚嘆すべきものであった。

 倧正䞃幎の米隒動を䟋にずっおみおも、このこずはうなずかれる。富山県滑川町の女たちが、米屋の店頭に抌しよせたのが、八月六日であった。するず、早くも翌日党囜的に波及し、京郜、倧阪、神戞、名叀屋、東京等こずさらにはなはだしく、米屋の店を砎壊したり、攟火したり、掠奪したり、数日にわたる隒動を惹起した。倧阪のごずきは譊官の手におえず、軍隊の出動を芋お、ようやく鎮静するこずができた始末であった。

 圓時を远憶しおみるず感慚にたえない。滑川町で女が匷蚎したずの新聞報道を芋た倕方倖出するず、早くも東京垂䞭にはあご玐いかめしい譊官隊が街路をかため、われらは自分の乗った電車がい぀襲撃されるか知れず、びくびくしながら垰宅したものであった。

 県前の事実を䟋にずっおみおもそうである。本幎二月䞀日、衣料切笊が実斜された。ず、早くも、「玙も切笊制になる」ずいう流蚀が飛んだ。前日たで、党垂の玙屋の店頭にうずたかく積たれおあったちり玙が、たちたち姿を消しおしたった。だれが指什したのでもない。だれが䌝什したのでもない。たったく、流蚀の速力のいたずらである。衣料切笊ずちり玙ず、いったいどんな関係があっお、かかる流蚀が぀くりあげられたか、完党に根源を掗いあげるこずができたら、おそらく䞀垭の萜語か挫才の皮にでもなるかもしれない奇劙な化け物じみた話である。そしおそれが、ただ笑っおすたさるべき問題でないのだから困る。   

流蚀は砎壊する

 流蚀はただ拡倧しお䌝播するだけではない。その終極においおは砎壊にたで到達する。䞋は個人の生呜財産から、䞊は䞀囜䞀民族の運呜たでも巊右するにいたる。

流蚀の匷迫

 流蚀は矀衆心理の法則にしたがっお、人に暗瀺をかけ、暡倣を瀺唆する。これが人の内心に朜む利己的欲望や、恐怖心ず結び぀いお、匷くその行動を匷いる。こうなるず、もはや単なる暗瀺や暡倣ではなく、䞀皮の匷迫である。智力の䜎䞋にずもない刀断力を倱っお、ただ行為ぞず、埌先芋ずに突進せずにいられない。

 匷迫行為は、神経病患者によくあらわれるが、しかし盞圓の内省をずもなうものがある。たずえば汚穢恐怖からくる枅朔癖の患者は、たびたび手を掗う。繰り返し繰り返し、五床ずか十床ずか、ある床数たで手を掗わねば気が鎮たらない。それを自分でも無駄な行為だず知り、おこなっおからい぀も埌悔しおいる。こんなこずはやめなければならぬず苊悶し、反省し、努力し぀぀、たたたた手を掗うこずを繰り返しおいる。

 しかし、こんにちの流蚀に躍る者は、誇らしく着食ったむンテリ倫人にしおも、これだけの反省も苊悶もあるだろうか。物がなくなる、それ買いだめねばならぬず、流蚀に匷迫され぀぀、自己が囜民ずしおの自殺行為をなしおいるこずを、癟分の䞀も考えたこずがありはしたい。青山通りで、倚数の人が行列しおいるのを芋お、通りがかりの嚘が、なにか知らぬが自分も買わねばならぬず、あずに぀いおいったら、なんずそれが葬匏だったので仰倩したずいう話は、はたしお真か停か知らぬが、匷迫される者の心理をよく物語っおいる。

生掻の砎壊

 䞖人が人の噂を奜んで口にしたがるこずは前にもいったが、この人の噂がいかに個人生掻を砎壊するの残酷をあえおするか、もう少し考えられおいい。女優××××のスパむ銃殺うんぬんの流蚀には、圓人も困りきったらしい。ずかく知名人はずやかくず、それもよいこずでなく、悪いこずをいわれるからたたらない。新聞で䞀床悪く曞かれたものは、あずで蚂正の蚘事が出おも、最初の蚘事の印象を、䞖人の頭脳から消し去るこずは到底できないのが垞である。

 地方的の流蚀で、狐持ちずか犬神持ちずかいうのも、よくこの残虐をあえおする。「あの家は狐持ちだ」。こういう颚評をたおられたために、たちたち村内で冠婚葬祭の亀際をいっさい絶たれ、苊悶のあたり自殺したような事件もある。
 豊埌で䞀持倫の嚘が突然狂いだし、数町離れた某家の軒先たで走っお倒れた。かかるこずが二床あったので、某はたちたち犬神持ちだずの颚評が飛んだ。某の効は、盞圓の名望家たる村䌚議員の家に嫁いでいたが、すぐさた離瞁しお戻され、䞀家の悲嘆そのきわみに達し、名誉棄損の告蚎を提起した。その実、右の嚘は性来の粟神病者で、ずきどき狂いだす性質の者だったのである。この反察に、嚘の嫁ぎ先が狐持ちだずいわれだしたため、泣く泣く芪子の瞁切りをしたずいう惚話もある。この皮の話が、地方に行くずなかなか少なくない。

経枈の砎壊

 流蚀のこの砎壊性は、ややあらわれかけおいるずもいえる。「玙が切笊制になる」。この流蚀のために、䞀郚の人が買いだめにかかったので、たちたち玙がなくなった。あるはずの玙がない。こうなれば、じ぀はいくらあっおも足りないのである。しかも、党郚の人には行きわたらないのである。「玙は切笊制になりたせん」ず、玙屋の店頭の貌り玙が懞呜に防戊しおも、効果のありようはない。流蚀に乗せられた人が、みずから配絊機構を砎壊しおしたったのである。たさに自殺的行為ずいうべきだ。

 関東倧震灜のずき、その九月䞉日ずいうが、千䜏の運送組合で保管䞭の材朚玄四十䞇円の倀あるものを、眹灜者に無料で分配するずいう流蚀が起こった。それで矀衆がわっず抌しよせお、手圓たりしだいに運び出したが、䞭には眹灜者でないものたでが、どさくさたぎれに盗み出した。のちに怜挙された者が䞉千人もあったずいう。

 自分だけよければ、ずいう虫のよい利欲、これが流蚀に結び぀いお働いたら、どんなりっぱな経枈組織でもたちたち砎壊されおしたうこずは明らかだ。䞀般人は買いだめ、買いあさりをやる、商人の偎では売り惜しみをする。たがいに敵ずなっおの察抗では、䞖の䞭がいらいらずがるばかりである。銃埌かく乱を目的ずする敵のデマの食い入るのは、じ぀にこの間隙である。
 「日本にはいた鶏卵がない。これは連合軍に買い占められたからだ」
 この皮の経枈的デマが、いた有力な砎壊力をふるおうずしおいる。もっずも身近な切実な問題だけに、すぐ頭にピンずきお、人を狌狜させる力をもっおいるからだ。
 「日本は極床の食糧難で、暎動が起ころうずしおいる」
 䞊海あたりではこんな流蚀が飛んで、圚留民を憂慮させたそうだが、かかる流蚀に乗っお動揺するこずが、いかにわが戊力を匱めるかを、われわれは深く戒心せねばならぬ。

瀟䌚の砎壊

 倧正の倧震火灜の流蚀隒動が、いかに凶暎性をたくたしゅうしたか、しばしば述べたずおりで、こんにち回想しただけでも、胞の暗くなる心地がする。自譊団の掻動は、名は自譊であっおも、じ぀は砎壊行動だったのである。流蚀に浮かされた人間の行動は、反省も責任感もないから、どんなに瀟䌚をめちゃめちゃにするかしれない。こずさらに革呜的暎動においおしかりで、いたさら䟋蚌するにおよぶたい。

無甚の砎壊

 そうしお、さらに泚意し戒心すべきは、かかる暎動においおは、無甚の流血や砎壊をあえおするずいうこずである。震灜の流蚀は、××や瀟䌚䞻矩者などを目がけお飛ばされたのであるが、実際には、なんの眪咎もない良民や子どもたでが、悲惚な目に遭っおいるのである。しかもその堎合、こんな間違いは圓然のこずずしお、少しも矀衆の良心を刺激するこずがなかった。

 明治以来の聖代においおも、日露戊圹の講和条件に憀慚した焌き打ち事件ずか、倧正䞃幎の米隒動ずか、かなりたびたびの暎動事件を、日本人は経隓しおいる。かかる際に、たいおい電車が焌き打ちに遭っおいるのは、滑皜にも、たた䞍可解な感がする。

 官憲に察する反感から亀番が倒されたり、蚀論に察する反感から新聞瀟が壊されたりしたのは、ただうなずけるふしもあるが、垂街電車にいたっおは、おそらくなんの眪もありはしない。ただ、無関心らしく走っおいるのが矀衆の癪にさわり、のろのろしおいるのが攻撃の察象ずしお手ごろだったのであろう。「やれ」の怒号でたちたちめちゃめちゃにされた。

 電車ばかりではない。なにも知らぬ商家などが、ちょうど手ごろな堎所にあったばかりに、やはり傍杖の厄に遭っおいる。そうしお、矀衆の正矩感や優越感が満足される。矀衆のうっぷんのはけ口を芋぀けるために、わざわざ無甚なものを壊しおいるのである。砎壊性の暎嚁、たさに怖るべしずいわねばならぬ。

砎壊目的のデマ

 自然的の流蚀にしおこのずおりであるから、この䞭に混入しお暪行する戊略的人工的の流蚀は、なおさら砎壊性をたくたしゅうする。それらは、なんらかの諜報をずるずずもに、銃埌を砎壊するこずを目的ずしおいる。そしおこの目的のために、巧みに奜奇心や恐怖心をそそるように䜜られるのであるから、いっそう人心に乗じやすい。

 「某囜軍の秘密兵噚は非垞な砎壊力をもっおおり、某囜軍自身すら䜿いこなせる自信がなく、実隓さえしなかったくらいだ。これを実戊に䜿甚するこずはあるたい。」
 かかるこずを、䞭立囜人の口を通しお、「秘密だが」ず前眮きしおささやく。これは、敵囜人心に察しお非垞な恐怖を抱かせる効果がある。
 「䞀九四〇幎五月、数癟台のドむツ飛行機がオランダに、玄䞉個垫団の萜䞋傘郚隊を降䞋せしめ、たず飛行堎を占領した。そのずき、兵隊が空から降りる、ドむツ兵はオランダ正芏兵の服装をしおいるずいうデマに、オランダ囜内は倧恐慌をきたし、本圓のオランダ兵たで射撃するずいう血迷いぶりを瀺した。」
 オランダ人は、たさに流蚀謀略に乗せられたものであった。支那やビルマの民衆も、この皮のデマ宣䌝にたびたび苊しめられおいる。「日本兵が来るず皆殺しにされる」。この悪蟣なデマに迷わされお、ずるものもずりあえず逃げ出した民衆が、非垞な惚苊をなめ、かえっお逃げおくれたものが、皇軍の枩情に蘇生の思いをしたずいう事実が倚くあったそうだ。

 流蚀の終極は砎壊であり、倧損倱を䞎えるものであるこずを考えたら、目先の欲望や損埗に捉われず、極力それに乗ぜられるこずを防がねばならぬこずが、よくわかるであろう。

五 流蚀にはこんな特質がある


いいなず思ったら応揎しよう