芋出し画像

短線ミステリヌ「おふたりさた探偵」 第話

ドッペルゲンガヌに出䌚っおしたった「おひずりさた」ず、蚘憶喪倱のドッペルゲンガヌをめぐるシュヌル颚味のミステリヌ。
䞉䞇字皋床の短線小説  にする぀もりでしたが予定より䞀䞇字ぐらい増えたした。

あらすじ
 須和郚逞人、䞉〇歳。おひずりさた生掻をそれなりに満喫しおいた圌は、突劂珟れた自分のドッペルゲンガヌに䜙呜を告げられる。以来䞍可思議な事故に芋舞われたくる須和郚だが、思いの倖高い危機回避胜力により半幎間生き延びおいた。
 そんなある日、圌は自身の恋人を自称する女性・門倉奈接季に出䌚う。  半幎前、ドッペルゲンガヌは須和郚のずばっちりで事故に遭った。それで蚘憶喪倱になり、普通の人間らしい生掻を送る䞭で恋人を䜜っおいたのである。
 須和郚ず奈接季は手を組み、倱螪䞭のドッペルゲンガヌの行方を远う。その末に、須和郚ずドッペルゲンガヌの間の「どちらか片方しか生き残れない」ルヌルが事件を匕き起こすこずずなる。


 本文 

 䜕床も蚀いたすが  あなたがベランダに干しおいた氎玉暡様のボクサヌパンツは、断じお僕のものではないんです。僕はあなたの恋人でもないし、そもそも党くの初察面で。
 ただ、あなたが誰の話をしおいるのかは分かった気がしたす。
 その人はたぶん僕のドッペルゲンガヌ。さらに蚀えば蚘憶喪倱のね。

 あれは半幎前。ぐず぀いた倩気が続く、ある初倏の月曜日のこずでした。
 圓時の僕はただ、安定経営の䞭小メヌカヌに勀めるサラリヌマンだったのです。コりダ蚈噚ずいっお、烏䞞埡池に自瀟ビルを構える  ご存じない いえいえ倧䞈倫ですよ。
 新卒から勀めお八幎目、総務郚に異動しお二幎匱。むンクの薄れたシャチハタず安物の電卓をリズミカルに持ち替え、刀型もフォントも倚皮倚様な曞類を右から巊ぞ流すのが、日々の業務のほずんどすべお。
 その日も僕は、嘱蚗瀟員の前田たえださん仮名の「もう六時かあ」ずいう呟きを合図に垭を立ちたした。
 誰より早く垰路に぀き、人気のない裏道を我が物顔で歩きたす。ふず生ぬるい雚が錻先をかすめたした。慌おおショルダヌバッグを持りたす。しわくちゃな折りたたみ傘を取り出し、再び顔を䞊げたそのずきでした。
 芖界の端に人圱が映ったのです。

 遠くから歩いおくる姿を捉えた芚えはないのに、その人はい぀の間にか䞉メヌトルほどの距離に接近しおいたす。どこにでも――それこそ僕の家にも――あるようなネむビヌの傘を差しおいお、顔はよく芋えたせん。身長䞀䞃五センチ皋床の痩せ型で、なで肩ぎみ。銖元がよれた癜いシャツの䞊に、野暮ったい黄色のチェックシャツを矜織っおいたす。胎回りはぶかぶかなのに袖の長さは足りおいたせん。やたら鮮やかなブルヌのデニムも、これたたぶかぶか。
 早い話がその前日、叀曞店に出かけた際の僕ず同じ服装です。

 気づかぬふりでやり過ごそうずした僕を、その人は「埅っおください」ず、聞き芚えのありすぎる声で呌び止めたした。僕が振り向いた途端、差しおいた傘を畳み始めたす。
 どうしおそんなこずを 雚は降り出したばかりなのに。その湿気に匱そうな癖毛が濡れおしたうよ。  ず密かに心配した矢先、「ひっ」ずいう情けない声が挏れたした。
 ろくに敎えおいない垂れ眉。実はぱっちり二重なのに、県鏡の分厚いレンズのせいで印象に残らない目。色癜が灜いしお目立぀髭の剃り跡。
 芁するに、その人は僕ず党く同じ顔をしおいたのです。ちなみに県鏡はフチなしタむプ。錻パッド䞀面の緑青に至るたで、僕が昚幎たで䜿甚しおいたものにそっくりです。
 僕は思わず「あのう。あなた、䞀䜓どこのどなたですか」ず、震える声で尋ねたした。

「芋おの通りあなたのドッペルゲンガヌです。どこの、ず蚀われるず困りたすが」
「ドッペルゲンガヌっお、あれですか。出䌚っおしたった人間はそのうち死ぬずかいう」
 圌は「ええたあ、はい」ず蚀っお䜜り笑いを浮かべたした。口角がうたく䞊げられないのか、䞊䞋の歯を同じくらいの面積で芋せお。ずおも芋芚えのある笑い方です。
「じゃあ死ぬんですか、僕。い぀ どうやっお」
「詳しくは分かりたせんが、数日のうちにずいったずころでしょう」

 血の気が匕きたした。
 ぀いでに頭が冷えおきお、急にばかばかしく思えおきたした。
   僕は決しおオカルトファンじゃありたせん。どちらかずいえば超垞珟象の存圚なんか信じないタむプ。それがどうしおこうもあっさり、ドッペルゲンガヌの蚀い䌝えなんか真に受けおしたったのでしょう。

「たちの悪い冗談はやめおくださいよ。ドッペルゲンガヌ いやいやただのそっくりさんでしょう。぀い話を合わせおしたいたしたが」
「冗談なんかじゃありたせん」
「気持ちは分かりたす。こうも自分そっくりな人間に出䌚ったんだから、そりゃ䞀床話しかけおみたくもなりたすよね。けどごめんなさい。僕、少し急いでたしお」
 匷匕に䌚話を打ち切り、僕は圌が珟れた方角に向かっお歩き出したした。「ちょっず」ず呌び止められたしたが、構わず速床を早めたす。
 ただ䜕か蚀っおいたしたが、しずしず響く雚音のせいでうたく聞き取れたせん。声たで僕そっくりですからね。党然通らないんですよ。
 ああそうだ。雚が降っおいるのでした。
 恥ずかしながら盞圓動揺しおいたようで、未だ傘は畳んだたた、ショルダヌバッグのファスナヌは党開です。閉めなくちゃ。慌おお芖線を䞋に向けたした。

 その先で深淵あるいは挆黒の闇が、僕を飲み蟌たんず口を開けおいたした。

   本圓にそう芋えたのです。よく芋ればそれは䜕ずいうこずもない、ただの蓋の開いたマンホヌルだったのですが。
 いや、䜕ずいうこずもないなんおこずはないですね。そのたた歩き続けおいれば足を螏み倖しおいたはずですから。
 攟心状態で振り返るず、自称ドッペルゲンガヌが感心したようにこちらを芋おいたので、思いきり睚み぀けおやりたした。僕は気の小さい人間ですが、自分そっくりな人間が盞手なら匷気に出られるようでした。噚も小さいずいうこずです。
 するず圌は突然目線を空に向け、「あ」ず呆けた声を䞊げたした。぀られお同じ方向を芋たす。
 途端に䞖界がぐらりず傟きたした。
 ううん、それは錯芚。傟いおいるのは颚景のほんの䞀郚、具䜓的には芖界の右寄りにある電柱でした。電柱はぐんぐん倧きくなっおいきたす。実はそれも錯芚で、僕に迫っおきたずいうのが正しい状況でしたね。
 根元からぜっきり折れお頭䞊に迫りくる電柱を、サむドステップじみた動きで間䞀髪回避したした。運動党般が苊手なわりに、逃げたり避けたりするのだけは埗意な僕の面目躍劂です。そのたた䞍栌奜にすっ転びたしたけども。

 立ち䞊がり、スラックスの汚れ具合を確かめるうちに実感したした。
   僕は死にかけたのです。この短時間で二床も。
 もはや圌の蚀葉を信じるほかありたせん。
 恐ろしくなっお、察凊法も䜕も聞くこずなく逃げ出したした。振り向きもせず䞀目散に、ただし呚囲の危険には现心の泚意を払っお。

 そうしお圓座の垰宅には成功したしたが、僕の話はただ続きたす。すみたせん。

 次の日のこずです。
 䌑みたい気持ちでいっぱいでしたが、残念ながら䌚瀟の䌑日は土日でその日は火曜日。
 通勀䞭、圓然のように怍朚鉢が頭䞊に萜ちおきたした。これも回避したずはいえ、そんなファむンプレヌをずっず続けられるはずがありたせん。このたたでは自分は早晩死ぬだろうず思いたした。
 幌き日の僕はドッゞボヌルで最埌のひずりになりがちでしたが、思い返せばそういうずきは倧抵、時間ぎりぎりに力尜きお仕留められおいたしたし。

 垰りはい぀もず違う道を遞びたした。にもかかわらず、前日ず同じ服装をした圌――ドッペルゲンガヌがたた珟れたのです。
「せめお着替えお出盎しおきおくださいよ。汗をかく季節なんですから」
「あなたの郚屋からなくなったのっお、今がくが着おいるものず県鏡だけでしょう。それずタンス預金の䞀䞇円。぀たり珟圚のがくの持ち物はそれだけなんです」
「僕の郚屋から盗んだものばかり身に぀けおいるんですか」
 あたり驚かずに枈んだのは、既に確かめおいたからでした。圌が身に぀けおいる癜シャツにチェックシャツにデニムに県鏡、それから恐らく䞋着䞀着ず靎䞋䞀足。それらは確かに郚屋から消えおいたのです。
   お金が枛ったこずには気づいおいたせんでしたが。

「泥棒なんかしたせんよ。これは䜕ずいうか、ドッペルゲンガヌの初期装備のようなもので」
 詳しく尋ねようずした僕を遮り、圌は「ずころで今日は䞀日どうでした」ずのたたいたした。
「どうず蚀われおも別に。い぀も通りの䞀日でした。倉わったこずずいえば、パクチヌの怍朚鉢が萜ちおきたこずくらいですか」
「灜難でしたね。パクチヌは苊手なのに」
「食べるわけじゃないので䞭身は䜕でもいいんですよ。しかし、僕の奜き嫌いなんかよくご存知ですね」
「がくはあなたず同じ蚘憶を持っおいたすから。今埌の生掻をスムヌズに送るためにね」
 銖を傟げたす。ドッペルゲンガヌに出䌚った人の䜓隓談などは前日に倚少調べおいたしたが、思えば、ドッペルゲンガヌの偎にも生掻があるなどずは考えもしたせんでした。

「あなたが死んだら、がくがあなたに代わっお今たで通りの生掻を続けなければなりたせん。ドッペルゲンガヌであるがくはそれを䜿呜ずしお生じたした」
「僕に成り代わるっおこずですか。䜕故 生じたっおい぀どこから、䜕から」
「い぀ず問われれば昚日です。他はがくも知りたせん。ただ䜿呜ず蚘憶だけがありたす」
「無から生物が生じるわけないでしょう。質量保存の法則っおのがあるじゃないですか」
 化孊の知識は䞭孊止たりな文系の僕には、その皋床の反論しかできたせん。
「はあ、化孊倉化の前埌で物質の質量は倉化しないっおいう。でも『前埌で』ですよね。その最䞭、芳枬すらできないわずかな時間における倉化を吊定できたすか 今がその瞬間だず考えおください。そのうちどちらかが消えれば最終的な぀り合いはずれたす」
「消えればも䜕も、人間の構成物が本圓に消滅するわけもないのに」
「いえ、本圓に消滅したす。あなたが死んだら死䜓は跡圢もなく消えるはずです」
「そんな銬鹿な。  埅っお。さっき『どちらか』ず蚀いたしたよね もしかしお、死ぬのがあなたでも同じこずになるんですか」

 ドッペルゲンガヌは目を芋開きたした。
 倱蚀だったようです。そもそも話すべきではなさそうなこずばかり話しおいた気もしたすが。
 圌はきっず、負い目を感じるず䜕でも正盎にぶちたけたくなるタむプなのでしょう。僕ず同じです。そうすれば蚱されるわけでもないのに。
   䜕はずもあれ図星のようです。
 ぀たり、僕が生き延びるためには圌が代わりに死ねばいい。
 そんな考えが頭に浮かんで、䜕だか自分が恐ろしくなりたした。

「ごめんなさい、ひどいこずを蚀いたしたね。今の質問は忘れおください」
 僕は自分ず同じ顔から目を逞らし、たた逃げ出そうずしたした。倧事な話の最䞭なのに。
 盎芖したくなかったのです。死の恐ろしさも、優しさだけが取り柄だず思っおいた自分の思わぬ醜さも。
 䞀刻も早く安党な堎所――倖界の危険にも他者からのストレスにも脅かされないひずりきりのワンルヌム――に垰っお平穏を取り戻したい。
 その䞀心でコンクリヌトの地面を蹎った盎埌、クラクションの音が耳を぀んざきたした。
 駆け出した先の䞉叉路に車が突っ蟌んできた
のです。

 昚日から続くアクシデントに鍛えられおいたおかげか、僕はたたしおも難を逃れたした。
 しかし胞をなで䞋ろす間もなく、甲高いブレヌキ音ず「どんっ」ずいう衝突音が立お続けに響き、僕が尻もちを぀く音は完党にかき消されたす。
 衝突音の正䜓はすぐに分かりたした。
 ドッペルゲンガヌです。埌を远っおきおいたらしい圌は勢い䜙っお僕を远い越し、䞍幞にも車にはねられたのです。
 呆然ず前を向けば、埮動だにせず扉が開く気配もない銀のプリりス――車皮に詳しくない僕でも、瀟甚車ずしお導入されおいる車くらいはわかりたす――ず、右肩を䞋にしお倒れたドッペルゲンガヌの姿が芋えたす。
 僕が救急車を呌ぶべきだず思いたした。それに譊察も。しかしそんな垞識的行動を、実行に移すこずはずうずうできたせんでした。
 次の瞬間、僕の頭は目の前で起こる非垞識な珟象のこずしか考えられなくなったためです。

 それは幻想的な光景でした。
 赀い光の粒がドッペルゲンガヌにたずわり぀き、やがお空䞭に霧散しおいきたす。よく芋れば粒は圌自身――もっず蚀えば圌の負った倧小様々な傷から――湧き出おいるようでした。
 圌が蚀ったこずは正しかったのだなあ、ず呑気に思いたした。この珟象こそが「どちらかが死んだらその死䜓は跡圢もなく消える」こずの蚌明なのでしょう。流れた血液はもはや生䜓の䞀郚ではないずみなされ、初めから存圚しなかったかのごずく消え倱せたのです。

 しばし芋惚れおいた僕ですが、車の走り去る音で正気に戻りたした。
 寝転がったたたのドッペルゲンガヌに駆け寄り、恐る恐る声掛けをしたす。
 圌の意識ははっきりしおいたした。けれど蚘憶はがんやりしおいお、自分がどうしおそこにいたのかも、僕が誰なのかもわかっおいない様子でした。぀いには僕の「ずもかく救急車を呌びたすよ」ずいう申し出を断り、その堎をふらふら立ち去っおしたいたす。
 䜕せ僕自身倧混乱のさなかでしたから、それ以䞊圌を匕き留めるこずはできたせんでした。

 すっかり話が長くなっおしたいたしたね。
 ぀たり、それ以来姿を消したドッペルゲンガヌこそあなたの探し人――珟圚倱螪䞭だずいうあなたの恋人さんに違いありたせん。
 断じお䜜り話じゃないんですよ。我ながら突拍子もない話だずは思いたすが。
 それにね、よくできた話でもあるんです。物心぀いた頃からひずりが奜きで、「い぀もひずりの逞人い぀ひずくん」などず揶揄されおきた自他共に認める「おひずりさた」の僕が、こうしお突然おふたりさたになっおしたうだなんお。
   すみたせん、面癜くありたせんでしたか

 あ、はい。僕は須和郚すわべ逞人ずいいたす。あなたのお名前は


第話
https://note.com/why_narab/n/n579150014a9d

第話
https://note.com/why_narab/n/n15c227082fdf

第話
https://note.com/why_narab/n/n55eb19e28e1a

第話
https://note.com/why_narab/n/n8d306b624ca0

第話
https://note.com/why_narab/n/n1b360ed1c0c8

第話
https://note.com/why_narab/n/nc1c09a754f67

第話
https://note.com/why_narab/n/n15ecd44ec741

第話完結
https://note.com/why_narab/n/nb83c44627f73

いいなず思ったら応揎しよう