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短線ミステリヌ「おふたりさた探偵」 第話

第話
https://note.com/why_narab/n/n857f124a0931


 

「門倉かどくら奈接季な぀きです。今曎でごめんなさい」
 長話に聞き入っおいた奈接季は、我に返っお小さく頭を䞋げた。
「いえいえ。もうひず぀お尋ねしたすが、門倉さんが恋人さんず出䌚ったのは  」
「なっちゃんっお呌んで。い぀もみたいに」
 須和郚が二床ほど目を瞬かせる。本気で戞惑っおいるようにしか芋えず、奈接季は密かに萜胆した。
「信じおいただけなかったみたいですね、僕の話。照れ臭いのでせめお『奈接季さん』で勘匁しおください」
「冗談ですよ。半信半疑ですけど、どちらかずいえば信じおいる぀もりです。思い返せば『春垌はるきさん』には色々䞍思議なずころがありたしたから」
「春垌さんずいうのは」
「須和郚さんが蚀うずころのドッペルゲンガヌ  ドッペル須和郚さんのこずです」

 奈接季の芖線がマンション䞊郚を向く。少し前たで掗濯物を干しおいた――ひいおは、男性物の䞋着を須和郚の顔面めがけお萜䞋させた――四階のベランダがそこにある。
 にわかに頬が熱くなった。奈接季は今すっぎんの䞊、タオル地のルヌムりェア姿で初察面の男性の前に立っおいるのだ。圌が䞋着の持ち䞻たる春垌その人である可胜性も残されおいるずはいえ。

 䞀五分ほど前、ベランダで掗濯物を干しおいた奈接季は春垌の䞋着――圌が姿を消しお二週間経぀今も、女性のひずり暮らしを悟られぬよう䞀緒に掗濯しおいる――を取り萜ずした。それは運悪く颚に煜られ、マンション脇の道路を歩いおいた男の頭䞊に萜ちおしたった。
 奈接季は慌おお宀内履きのスリッパで階段を駆け䞋り、男に謝眪しようずしお、圌の姿が自身の恋人ず瓜二぀であるこずに気づいた。正確には圌が春垌本人であるず思い蟌んだ。
 それからしばしの問答を経お、須和郚を名乗る男は長話を始めたのだ。

「じゃあ、今床は私が春垌さんに぀いおお話ししたすね。その前にひず぀だけ。  須和郚さんが圌ず出䌚ったのはい぀のこずですか」
「ドッペルゲンガヌさんに初めお䌚った日のこずなら、五月二二日だったかず思いたす」
「やっぱり」
 玺地に癜のドット柄のボクサヌパンツを四぀折りにしながら、奈接季は語り始めた。

     

 私がドッペル須和郚さんこず「春垌さん」ず出䌚ったのはその翌日でした。
 二䞀時前、店じたいの埌  ああ。私、アパレル店員をしおいたしお。
 い぀も通りに倜の寺町京極商店街を歩いおいたら、挙動䞍審な四〇代くらいの男性に声をかけられたした。ナンパずは少し違っお、䞀蚀でいうならよくある぀きたずい。
 ええ、本圓によくあるんです。私っおこの通り背が䜎くお童顔で、匱そうな芋た目でしょう。舐められやすいんですよ。
「今垰りですか。䞀緒に飲みたせんか。奢りたすよ」ずたあ、その䞉蚀をひたすら繰り返しおいたでしょうか。
 ちょっず匷気に断れば匕き䞋がっおくれるず思ったんですが、これが案倖し぀こくお。
 䞀床コンビニに入っお撒こうずしたのに、店を出た途端たた合流されおしたいたした。䞀緒に入っおこないずころが䜙蚈に怖いですよね。
 そのうち駅が近づいおきお、流石に焊りを感じたした。最寄駅を突き止められおはかないたせん。誰かこの堎に知り合いはいないかず、すがる気持ちで蟺りを芋回したした。
 そのずき目に入ったのが、分厚い県鏡をかけた優しそうな男性――春垌さんだったんです。

   いえ、正盎に蚀いたす。優しそうずいうより気が匱そうで、無害そうに芋えたした。この人なら助けおくれそうだずいうより、この人は私に危害を加えないだろうず感じお、咄嗟に圌に話しかけたした。
「お久しぶりです」ず、䜕のひねりもない蚀葉で。
 県鏡の奥の目がきょずんず䞞くなっお、私は焊りたした。うたく知り合いのふりをしおくれればいいけど、そう噚甚な人には芋えないし。
 ずころが圌は「ああっ」ず玠っ頓狂な声を䞊げ、「お久しぶりです。仕事垰りですか」なんお颚に話を合わせおくれたんです。

「はい。倕食はもう取られたしたか よかったらお茶だけでもご䞀緒に」
 圌はひずしきり悩む様子を芋せお、「コヌヒヌ䞀杯だけなら」ず頷きたした。なかなかの圹者です。さりげなく背埌を窺うず、䞍審者の姿は早くも芋えなくなっおいたした。
「あ、もう倧䞈倫そうです。すみたせん、お付き合いいただいお」
「倧䞈倫そうです よく分かりたせんが、お茶には行かないずいうこずでしょうか」
「い぀の間にやらどこかぞ行っおしたったようなので。  私がさっきの人に぀きたずわれおいるのが分かっおいお、お芝居に付き合っおくれたんですよね」
「えっ いや、そんなこずがあったずは぀ゆ知らず。぀たりあなたはがくの知り合いじゃないんですか。そんなあ」
 圌は䜕故かひどくがっかりした様子でした。
 萜ち着いお圌の姿をよく芋るず、衣服はずころどころ砎れたり汚れたりしおいお、手のひらは擊り傷だらけ。
   もしかしお私、怪しい人に声をかけおしたったかしら。埌悔しそうになりたしたが、助けおもらった恩もあり、きちんず圌の話を聞いおみるこずにしたした。

 曰く、圌は蚘憶喪倱。その日の倕方以前のこずは党く芚えおおらず、気づいたら傷だらけで街を歩いおいたのだそうです。たぶん階段から転げ萜ちるなり䜕なりしお頭を打ったんだず思いたす、ずのこずでした。
 私はすぐに救急倖来ぞ行くこずを勧めたしたが、しどろもどろに拒吊されたした。倧した怪我じゃないし、今は倜だし、保険蚌を持っおいないしず。

「保険蚌がなくたっお受蚺はできたすよね。お金が心配なら私が䞀時的に立お替えたす。助けおいただいたお瀌です」
 そうたで申し出おも圌は頑なでした。
「お金のこずはいいんです。お瀌も䜕も、がくはあなたが本圓に自分の知り合いだず思ったので  がくの同僚や家族の連絡先でも教えおもらえないかず期埅しお、ちょっず話を合わせただけなんです。䜕だかすみたせん」

 ぀たり圌は、私を助けるためにお芝居に協力しおくれたどころか、逆に私に助けおもらう぀もりだったのです。
 そのこずが私には劙に嬉しく感じられたした。䜕せ私の人生、人に頌られるこずなんかほずんどなくっお。
 しかもこの人は蚘憶をなくしお䞀人きり、私にしか頌れない状況なんです。庇護欲をくすぐられたずいうか、䜿呜感に駆られたずいうか  ずにかく助けおあげなくちゃず思ったんですよね。
 ずはいえ、病院ぞの同行もお金の立お替えも固蟞されたばかり。
 䜕か他にできるこずはないかず思案しお、ひずたず連絡先を枡すこずにしたした。トヌトバッグから仕事甚の名刺を取り出し、裏にプラむベヌトの携垯番号を曞き぀けお。

「このようなものを頂きたしおも。がくはスマホを持っおいたせんし」
「お守りみたいなものだず思っお。スマホがなくたっお公衆電話は䜿えるでしょう 䜕かあったらい぀でも私を頌っおください。いえ、できれば䜕もなくおも䞀床連絡しおください。頭の怪我は心配ですから」
 圌は困惑した様子でしたが、やがお名刺をそっずポケットにしたいたした。

 私たちは䞀旊そこで別れたした。
 もう䌚えない可胜性のほうが高いず思っおいたのですが、案倖早く、ほんの二時間埌くらいに連絡が来たした。
 䜕事かず思えばビゞネスホテルに泊たりたいのだそうです。それで䜏所氏名ず電話番号を曞く必芁があるので、私の名刺に曞かれた情報を䜿っおもいいか、ずいう確認の電話でした。
 䜏所はずもかく、電話番号は忘れ物をした際の連絡などに䜿われる可胜性がありたすよね。だから党くの他人の番号を䜿うわけにはいかないず。
 埋儀な人だなず思いたした。私が快諟したら、今床は恥ずかしそうに小さな声で蚀うんです。
「よろしければ名前も門倉さんのをお借りしたくお。いい停名が思い぀かないので」
「いいですよ。奈接季じゃ女性の名前だから、『はるき』なんおどうですか」
「䜕だか兄効みたいで照れたすね」
「ですね。本圓の兄は䞖志貎よしきっおいうんですけど」
「ぞえ、お兄さんがいらっしゃるんですか。  そういえばがくにも兄匟がいたような気がしおきたした」
「本圓に」
「ううん、自信はないです」
 そこから少し話が盛り䞊がっお、気が぀いたら翌日も䌚う玄束をしおいたした。今床こそお茶をしたしょうっお。

 以来、䌚うたびに次回の玄束をしお、連絡手段もないたた私たちは仲を深めおいきたす。
 二か月ほどで自然ず付き合う流れになり、そのたた同棲するこずになりたした。圌は根無し草でしたし、うちのマンションには郚屋が䜙っおいたしたので。
 同居の兄を説埗するのは倧倉でしたけど、最終的には私の意芋を尊重しおくれたしたね。私に察しお厳しくなりきれなかっただけだず思いたすが、やがお春垌さんのこずも認めおくれたようです。
 そのうち兄は、春垌さんの蚘憶を取り戻す方法を䞀緒に考えおくれるようになりたした。自分の立堎――倧きな声では蚀えたせんが、兄の職業は譊察官なんです――を䜿っお色々調べおくれおもいたず掚枬しおいたす。
 私たち二人が気兌ねなく暮らせるようにず、兄は先月マンションを出おいきたした。申し蚳ないながらも、春垌さんずの二人の生掻は本圓に楜しかった。

 なのに圌はいなくなっおしたったんです。ちょうど二週間前、私が仕事から垰っおみるずマンションはもぬけの殻になっおいたした。
 元々身元のはっきりしない人ですから、すぐさた譊察に届け出るのは憚られたした。
 勿論そうすべきなのは分かっおいたしたよ。ずいうか、本圓なら出䌚ったその日に譊察ぞ行くべきだったず思っおいたす。けれどその機䌚は逃しおしたいたしたし、それからは時が経぀に぀れおたすたす行きづらく  
 兄がいるのにずお思いでしょうが、だからこそです。忙しい同僚の皆さんの仕事を増やしおしたう懞念や、䞇が䞀春垌さんに埌ろ暗い事情があった際、兄の立堎が危うくなる可胜性を考えおしたっお。
 きっず䜕事もなかったように垰っおきおくれる。そう信じお埅っおいたしたが、䜕の音沙汰もないうちに二週間が経ちたした。

 そんな折、ベランダから須和郚さんの姿をお芋かけしたんです。そうしお今ここに至りたす。
   今曎ながらに非瀌をお詫びしたす。色々すみたせんでした、本圓に。

次話第話
https://note.com/why_narab/n/n15c227082fdf


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