MVP ARCHIVE PEOPLE | Science : Chuck Yeager 1923–2020 / チャック・イェーガー - 音速の壁を超えた男

MVP ARCHIVE PEOPLE > Science : Chuck Yeager 1923–2020 / チャック・イェーガー - 音速の壁を超えた男

チャック・イェーガー
1947年10月14日、アメリカ、カリフォルニア州上空。
B-29 から、一機の小さな実験機が切り離された。
機体は、Bell X-1 “ Glamorous Glennis ”
操縦席にいたのは、アメリカ陸軍航空軍のテストパイロット、
チャック・イェーガー。
X-1 はロケットエンジン を作動させ、急速に加速、そして、Mach 1.06。
人類は、有人水平飛行で初めて公式に音速を突破した。
しかし イェーガー の歴史的位置は、単に「 世界で初めて音速を超えた男 」という記録だけでは捉えきれない。
彼が飛んでいたのは、まだ誰も十分な経験を持っていない速度領域だった。
そこでテストパイロットは操縦者であると同時に、航空機が未知の領域でどう振る舞うのかを確かめる、実験航空の最前線にいる観測者 でもあった。
戦闘機パイロットへ
チャールズ・エルウッド・イェーガー は1923年2月13日、アメリカ・ウェストバージニア州に生まれ、1941年、アメリカ陸軍航空軍へ入隊。
当初は航空機整備に携わったが、後にパイロットとなった。
第二次世界大戦 では P-51 Mustang を操縦し、ヨーロッパ戦線へ参加する。
1944年にはフランス上空で撃墜されるが、レジスタンスの支援を受けてスペインへ脱出。
その後再び戦闘任務へ復帰した。
戦争が終わると、イェーガー は新しい航空機を試験する、テストパイロット の世界へ進んでいく。
音速の壁
航空機が高速化すると、それまで低速では目立たなかった現象が現れる。
速度が音速へ近づくと、機体周囲の空気の一部が局所的に音速へ達し、衝撃波が発生する。
抗力の増大、振動、操縦性の変化、機体の不安定化。
当時、この遷音速領域では事故も発生しており、“ Sound Barrier|音速の壁 ” という言葉が広く使われるようになった。
問題は単に、より強力なエンジンを搭載すればよいというものではなく、
音速付近で、航空機そのものがどう振る舞うのか を理解する必要があった。
Bell X-1
この領域を研究するために開発された実験機が、Bell X-1 だった。
通常の航空機とは異なり、X-1 は ロケットエンジン を搭載していた。
機体形状には高速飛行を考慮した設計が採用され、母機となる B-29 によって高高度まで運ばれた後、空中から発進する。
目的は旅客や兵器を運ぶことではない。
高速飛行そのものを実験すること。
X-1 は、未知の速度領域へ入るための研究機だった。
1947年10月14日
イェーガーはX-1に乗り込み、カリフォルニア州ミューロック乾湖上空で試験飛行を行った。
この日の飛行でX-1は高度約13,000メートル付近に達し、Mach 1.06 を記録した。
音速を超えても、機体が突然破壊されるわけではなかった。
適切な機体設計と操縦系統があれば、超音速領域でも飛行できる。
X-1 による実験は、それを実機によって示した。
航空機は、亜音速から超音速へ 新しい領域へ入った。
パイロットは「観測者」でもある
テストパイロットの役割は、完成した航空機を飛ばすことだけではない。
実験機を飛ばす。
速度、高度、加速度などを計測する。
操縦に対する反応を確認する。
振動や不安定な挙動を経験する。
地上の技術者へ報告する。
計測データとパイロットの観測を分析する。
次の飛行条件や機体設計へ反映する。
そして、もう一度飛ぶ。
計器が記録する数値と、実際に機体を操縦した人間が得る情報。
その両方が航空機開発に使われた。
イェーガーは、航空技術の外側にいた操縦者ではない。
実験機と技術者の間で、実際の飛行を通して情報を持ち帰る存在
でもあった。
リリエンタールからイェーガーへ
19世紀末、オットー・リリエンタール は自らグライダーを作り、自分で乗り、飛行し、その結果から機体を改良、役割が一人の人間に集まっていた。
20世紀になると航空機は複雑化する。
航空研究は巨大なチームによって行われるようになった。
その中でテストパイロットは、実機による最終的な飛行実験を担当する人間 として位置づけられていく。
さらに速く
音速突破後も、イェーガー は高速飛行試験を続けた。
1953年には Bell X-1A を操縦し、Mach 2.44 に到達。
音速の2倍を超える領域へ進んだ。
その飛行では機体が激しい不安定状態に陥ったが、イェーガー は機体を回復させて帰還している。
超音速飛行は、速度が上がるたびに、新しい空力現象、新しい機体構造、新しい操縦上の問題、新しい危険、が現れる。
実験航空は、それらを一つずつ確認していった。
航空から宇宙へ
1950年代から1960年代にかけて、アメリカの実験航空はさらに高速・高高度へ進んでいく。
Xシリーズ実験機による研究は、超音速飛行、極超音速飛行、高高度飛行、大気圏再突入、そして宇宙飛行へつながる技術研究へ発展した。
航空機と宇宙船の境界へ、人類が近づいていく時代だった。
イェーガー自身もテストパイロットや指揮官として長くアメリカ空軍に勤務し、1975年に退役、2020年12月7日、享年97歳で死去した。
KEY POINT
チャック・イェーガー は、「 音速を超えた男 」として知られている。
テストパイロットは、人間自身が航空実験システムの一部 だった。
イェーガーたちは、その航空機を未知の速度領域へ持ち込んだ。
1947年10月14日、Bell X-1が音速を超えたとき、人類は一つの速度記録を更新しただけではなく、その向こうに存在する新しい飛行領域へ、実際に人間が入り、観測し、帰ってくる時代が始まった。

MVP ARCHIVE PEOPLE > Science : Chuck Yeager 1923–2020 / チャック・イェーガー - 音速の壁を超えた男

