多様な民意を的確に反映する選挙制度とは
高市政権は、自由や多様性を制限し、個人の権利よりも共同体の統一や秩序を優先する社会、すなわち権威主義社会へ日本を変貌させるために「働いて×5」しているように思います。(関連投稿1、関連投稿2)
権威主義体制に陥らないようにするためには、多くの人が権威に頼ることなく、主体的な批判精神を失わず、自ら考える態度を持つことが必要条件(十分条件ではない)だと思います。(関連投稿3)
そのためには、まず、政治に関心を持ち、そのうえで批判的思考(クリティカルシンキング)を実践することが必要だと思います。(関連投稿4)
政治に無関心な人が多い理由の一つとして、政治的無力感と諦めがあると思います。死票が多い衆議院の選挙制度の問題と(関連投稿5)自民党への企業・団体献金で、政策が大企業優先に歪められる弊害(関連投稿6)が、「自分が投票しても何も変わらない」という無力感につながってしまうのではないかと思います。民意を的確に反映する選挙制度への見直し、企業・団体献金の禁止は前提条件として不可欠だと思います。
ところが、高市政権は、連立を組む日本維新の会の意向を反映して、衆議院議員の定数を比例区から45削減するという議案を提出するようです。7) 定数を削減することで、少数意見が届きにくくなり、国民の多様な意見の吸い上げ機能が低下するでしょう。しかも民意(得票数)を的確に反映する比例区の定数を削減して、死票が多い小選挙区*の定数の比率を高める(62.2%→68.8%)ことになります。これは、さらに政治的無力感と諦め感を強めて、その結果、民主主義を破壊して、権威主義体制になっていく(していく)方向だと強く思います。(関連投稿8) ちなみに日本と同じ小選挙区比例代表並立制のイタリアの小選挙区の比率は約37%で比例代表の方が多いです。
*2026年の衆議院議員選挙の小選挙区では、自民党は49.2%の得票率で小選挙区の86%の249議席を得ている
どのような選挙制度が民意を的確に反映するのかについて考えたいと思います。小選挙区制、比例代表制、中選挙区制(選挙区定員2人以上)について、比較して表1に示します。

小選挙区制は、民意集約という点(多様な意見の反映ではなく)では優れていて、二大政党の米国や英国で採用されています。(最近、英国は二大政党が弱体化していますが)
政策本位の政権交代可能な選挙制度の実現を目指した1994年の小選挙区比例代表並立制の導入で、衆議院の選挙制度がそれまでの中選挙区制から、300の「小選挙区」と11ブロックの「比例代表」(200議席)に分ける並立制へ移行しました。(現在は小選挙区289人、比例代表176人の465人)
これは、民意の集約(小選挙区制)と多様な意見の反映(比例代表制)を「バランス」させようとした制度で、当初は比例代表の比率は40%でしたが、現在は37.8%(比例代表が45削減されると31.1%になる)になっています。
日本も、米国のような二大政党制が望ましいのでしょうか?米国は、共和党が上下院を制し、自己愛性人格障害が疑われるようなトランプ大統領(関連投稿9)を誕生させました。そして民主党支持者と共和党支持者とで深い分断を生んでいます。10)
日本の国民性は、ともすると戦前のように一方向に雪崩を打つ傾向があるので、民意の集約をはかるような選挙制度は、独裁的な権威主義体制に向かうような危険な制度であるように思います。さらに、現在は価値観が多様化していて、それに伴い民意も多様化しているように思います。
個人の自由や権利が享受でき、多様な選択が可能な、少数者や弱者にやさしい、活力ある社会の構築のためには、政治への多様な民意の反映が不可欠だと思います。
多様な民意の反映という点では、死票が少なく、かつ、1票の格差が小さい制度が望ましいと思います。その点では、比例代表制>中選挙区制>小選挙区制の順位になると思います。あるべき選挙制度は、比例代表制をベースにして、そのデメリットをヘッジするような制度ということになります。
比例代表制のもと、候補者の地域性(密着性)を高めるためには、全国の代表制ではなく、民意の反映という点では多少影響を受けますが、状況が近い地域をまとめたブロックに分けての比例代表制が考えられます。現在も衆議院の比例代表は11ブロックに分けられています。このブロック制により、選挙費用の問題も小さくなると思います。また、多数の政党の乱立にも効果があると思います。
また、候補者の密着度(政党ではなく、支持する候補に投票できるか)を高めるためには、参議院の比例代表のような、「政党名」または「候補者個人名」のどちらかを書いて投票する仕組みである「非拘束名簿式」を導入すればよいように思います。
また、比例代表と小選挙区を併用(2票)するドイツの小選挙区比例代表併用制** は比例代表得票で政党の議席数がほぼ決まり、地域に根ざした有権者に近い政治家を小選挙区から選出することができます。ただし、小選挙区の当選者数が比例区の得票率による獲得議席数より多い場合は、その差が超過議席となり、その分、議員定数が増加してしまう問題や超過議員数が多い(=小選挙区の当選者数が多い)と民意が的確に反映されないリスクがあります。
**政党の議席数は比例代表の得票で決定し、当選者は小選挙区での当選者(全議席数の約半分)を優先する。小選挙区での当選者数が比例代表選挙による獲得議席数を上回る場合は、超過議席として議席増が認められる。また、多数の政党の乱立防止のため、比例代表得票率で5%未満、かつ小選挙区での当選者が3人未満のミニ政党には、比例代表の議席を配分しない。
このように、民意を的確に反映することを最優先にすると、現在の衆議院の比例代表制のような複数のブロックによる比例代表制で、投票は「非拘束名簿式」(参議院の比例代表)が望ましいように思います。
比例代表に伴う政党乱立の防止のためには、ドイツのように最低得票率を設定することも必要かもしれません。
参考までに2026年の衆議院選挙の比例区の得票数(11ブロックの得票数合算によるドント式)で、比例代表①(最低得票率設定なし)、比例代表②(最低得票率2%=比例区で議席を獲得したれいわ新選組まで議席獲得)、比例代表③(最低得票率3%)、比例代表④(最低得票率5%)の場合の議員数の推定を表2に示します。(もちろん、推算ベースが小選挙区比例代表並立制での比例区得票なので、数字には留意が必要です)

表2によると現状の自民・維新連立政権が過半数(243)になる制度は最低得票率5%の場合のみで、その条件だと2026年の衆議院選挙の比例区で議席を得た共産党とれいわ新選組が議席を得られないことになります。このように最低得票率の設定は、民意の的確な反映という点では課題があるかもしれません。その設定については(設定しないことも含めて)、十分な議論(政党間の議論だけではなく国民全体の)が必要だと思います。
多党でなく、保守、中道、リベラル、+他特定の主張の2~3政党という感じで、民意を集約して、政治の安定性をある程度優先するような考え方もあるかもしれません。その考え方に基づくならば、定数3~5くらいの中選挙区制が望ましいのかもしれません。ただし、これは1994年以前の選挙制度(政策論争がしにくい、大政党の派閥の影響が問題視された)に戻ることを意味しています。また、区割りによっては、1票の格差の問題***が発生することも考えられます。
***日本の小選挙区は最大2.1倍 11)
米国の下院(小選挙区)の格差は同じ州内はなし、州間は最大1.82倍
仏国の下院(小選挙区、決戦投票あり)の格差は上下20%(最大1.5倍)
または、死票が増えますが、比例代表制の最低得票率を高く設定すること(表2の比例代表④=最低得票率5%のケース)や比例代表のブロック数を増やす(比例代表制のスペインは50ブロック)でも実現できると思います。
あるいは、現在の小選挙区比例代表並立制で比例部分の議席数を大幅に増やす(=小選挙区数を大幅に減らす)という選択肢も考えられます。しかし、小選挙区数を減らすことに対する現選出議員の不満や、1票の格差の是正の困難さ、比例復活というわかりにくい(腹落ちしにくい)問題があり、実現は不可能に近いでしょう。
フランスでは、小選挙区二回投票制を採用しています。第1回投票で過半数の票を獲得した候補者が当選します。第1回投票で過半数を獲得する候補者がいない場合は、登録有権者の12.5%以上の得票を得た全候補者が第2回投票に進むことができ、第2回投票で最も多くの票を獲得した候補者が当選となります。
これにより、最終的に当選者は必ず得票の過半数に近い、あるいは過半数以上の支持を得ることができます。有権者は第2回投票で「最も嫌いな候補を落とすため(理知で選ぶ)」に戦略的に投票するそうです。これにより、極端な思想を持つ政党の単独過半数を阻止しやすい政治風土が保たれているそうです。
フランスより個人主義が弱い日本の有権者を想定すると、第2回投票は「妥協の投票」ではなく、棄権を選んでしまう人が多くなるかもしれません。このように日本には馴染みにくい制度かもしれません。
いずれにせよ、現在の小選挙区比例代表並立制は、民意を的確に反映しない歪んだ制度だと思います。
政治にできるだけ多様な意見を反映することを最優先するのか(=比例代表制)、多様な意見の反映は多少犠牲にしてでも政治の安定性を優先するのか(=比例代表制+最低得票率の高設定orブロック数を増やした比例代表制 or 中選挙区制)、についての国民的な議論が必要ではないかと思います。
しかし、残念ながら、現在の選挙制度で当選した議員が自らが不利になるような選挙制度の見直しを考えるはずはありません。今回の日本維新の会提案の比例区45削減のような与党が有利になる(少なくとも不利にならない)党利党略の見直しが俎上に上ってしまいます。
多様な民意の反映以外にも小選挙区制に伴い、「議員の質の劣化」が言われています。12) これは、地盤が強固な世襲議員や地元利益誘導型の議員の増加、党幹部の力が強くなった結果だと思います。
選挙制度が「議員の質」にどのような影響を与えるのかも含めて検討する必要があると思います。
また、SNSが選挙に与える影響が顕在化している問題についての議論、表現の自由とのバランスにも配慮した規制の在り方等の問題もあると思います。そこには当然、有権者側の情報に対するリテラシーの課題もあると思います。
とにかく、自分たちの貴重な1票をきちんと反映する選挙制度にしてくれと声を上げ続けるしかないのではないかと思います。そのためには、政治に関心を持つという正のスパイラルに乗ることが必要ですが・・・
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