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論文紹介 現代システム理論で見直すロシア・ウクライナ戦争の作戦システム

ロシア・ウクライナ戦争は、2022年に開始されて以来、先進技術で戦い方がどのように変化するのかを示す最新の事例となっています。特に注目されている変化は、データリンク型のキルチェーン(kill-chain)、先進的アルゴリズム(advanced algorithms)、そして諸兵科連合(combined arms)を駆使した戦いの発展であり、ロシア軍とウクライナ軍はどちらもデジタル技術を積極的に導入することで、戦闘効率の向上を図っています。

以下の研究は、その発展の詳細を検討した上で、第一次世界大戦で確立された現代システム(modern system)の理論が依然として有効であることを確かめたものです。なお、現代システムの理論は以下の文献で提起されたものであり、現在でも作戦レベルの戦力運用の意義を考察するときに参照される基本文献となっています。

Hwang, J.-J. (2026). Reassessing Biddle’s Modern System: Data-linked kill chains, advanced algorithms, and the evolution of combined arms warfare in the Russo-Ukrainian war. Defence Studies, 1–19. https://doi.org/10.1080/14702436.2026.2672089

データリンク型キルチェーンとは、目標の取得、武器の指向、意思決定と命令、そして目標の撃破(kill)に至るまでの連鎖をデータリンクの技術で加速させる技術のことです。これまでの軍事技術の発達においても、精密誘導兵器とネットワーク中心の戦いを結合させるため、NATOの加盟国間ではLink-16のような戦術データリンクが国際標準として採用されており、遠く離れた装備体系の間でも作戦・戦術情報を迅速に共有できるネットワークが構築されていました。著者は、ロシア・ウクライナ戦争がこのようなデータリンク型のキルチェーンがより効率的になってきていると評価しています。

ウクライナ軍は2014年から砲兵システムと連携して使用しているGIS Artaを使用して、スマートフォンによって観測者が得た目標情報を射撃部隊に共有する取り組みを続けていました。また、Kropyvaも、目標情報を砲兵システムと共有するためのアプリケーションであり、「砲兵のためのUber」とも呼ばれています。これらのアプリケーションを活用すれば、目標を標定する時間を7~10分から1分未満に短縮することが可能となります。また、Deltaシステムはドローン・衛星・民間人からの情報を総合することで、準リアルタイムの状況図を作成することを可能にしています。このようなアプリケーションは、歩兵、砲兵・機甲・ドローンの諸兵科連合の効率を高めるために利用されています。

こうした「接続」を強化する技術の変化に加えて、先進アルゴリズムの変化も重要です。アルゴリズムは意思決定それ自体を人工知能で支援または自動化することを可能にします。機械学習による目標識別の自動化、火力運用の最適化、ドローン群の半自律的な連携などさまざまな応用領域があり、人間の認知能力の限界を超え、機械の速度で戦争を遂行できる可能性を切り開いています。ただ、実戦においてロシア軍は電子戦能力を発揮してウクライナ軍のデータリンクを妨害できることを示すなど、アルゴリズムの基盤となるデータの品質を低下させました。また、伝統的な欺騙行動や偽装・隠蔽も依然として目標認識を混乱させる手段として有効であり、Starlinkのような商業用の人工衛星に通信基盤を依存することの脆弱性も認識されるようになっています。

つまり、ロシア・ウクライナ戦争を理解するためには、何が変化しているのかを見るだけでなく、何が変化していないのかを見ることも必要です。このバランスのとれた観察を支える理論的枠組みとして、著者はスティーヴン・ビドルの現代システム理論を参照しています。先に述べたように、現代システム理論は2004年の著作『軍事力(Military Power)』において提起され、戦い方の有効性が部隊の数的な優劣や軍事技術の効率そのものではなく、分散と隠蔽、制圧射撃、小部隊機動、諸兵科連合の統合、縦深性を活用した作戦をどこまで実践できているかにかかっていると説明しています。この理論が現代の戦争でも適用可能であることを検証するため、著者は以下の5つの仮説を立てました。

  • 仮説1 データリンク型キルチェーンは戦術的応答性を向上させるが、電子戦下では有効性が低下する。
    支持(条件付き):2022年においては有効だったものの、2023年にはロシア軍の妨害によってサイクルが再び長くなった。

  • 仮説2 アルゴリズム・システムは部隊間の調整を強化するが、単独では決定的な突破を生まない。
    支持:局所的な効率の向上は見られたが、制圧・突破・機動との統合がなければ戦果は限定的だった。

  • 仮説3 敵の適応によって技術的な戦力増強の効果は漸進的に低下する。
    強く支持:電子戦・欺騙行動・縦深防御の結合によって、使用できるデータの信頼性と正確性が低下した。

  • 仮説4 先進アルゴリズムは近代システムの論理を覆す。
    弱い支持(現段階)。作戦のテンポは高まったが、2023年の要塞化された近接地域では突破ができなかった。

  • 仮説5 教義の統合が技術的有効性の決定的な媒介である。
    強い支持:ハルキウの戦いでは教義の統合が成功して戦果を出せたが、2023年では不十分で効果が限定的だった。

これらの仮説の検証で注目されるのは仮説1であり、データリンク型キルチェーンが敵の電子戦能力に強く影響を受けるとされています。著者は「2023年半ばまでに、ロシア軍は電子戦能力を拡大し、GPSへの妨害電波を日常的に発信し、ウクライナのドローンの制御リンクを遮断し、センサーから射手へのネットワーク機能を低下させていた」と述べています。データリンク型キルチェーンの効果は完全に失われたわけではありませんが、ごく部分的なものに限定されました。

その他にも、「同時に、高密度の地雷原、塹壕、要塞化された防衛線といった多層的な防衛体制によって、ウクライナ軍のキルチェーンの効率は向上したにもかかわらず、その反攻は鈍化させられた。一方、徘徊型自律兵器(loitering munition)、Lancetドローン、UMPK滑空爆弾は、低コストの革新的な技術がウクライナの初期の技術的優位性をいかに相殺できるかを示した」と述べ、2023年の南部戦線におけるウクライナ軍の攻勢作戦が行き詰まった原因をロシア軍の適応で説明しています。

仮説1は仮説3とも関連しており、その検証でロシア軍が電子戦の能力をどのように向上させていたのかが詳しく記述されています。2023年以降、「交戦地域ではUAVの生存性が急激に低下し、クワッドコプターやFPVドローンの損失率が高かった。一方、Bayraktar TB-2のような大型システムも、ロシアの統合防空システムが運用に適応すると、生存性が大幅に低下した。こうした状況によって、アルゴリズムによる目標選定や迅速化されたキルチェーンが依存していた偵察、データリンクの信頼性が低下した」と述べられています。

これらの議論は、技術効率の影響が作戦の成否に及ぼす影響を過大に評価してはならないという現代システム理論の基本的な考え方をよく裏付けています。敵が迅速に新技術に適応できる場合、技術的優位を維持することは難しくなります。もしこの研究が正しいのであるとすれば、軍事部門の改革としてデジタル化を基礎とした新興技術に予算を投じることの妥当性について私たちはもっと慎重な見方をとるべきなのかもしれません。革新的な技術の開発に予算を投じること自体を否定するものではありませんが、そのような技術がもたらす効果には一定の限界があるため、例えば人的資本の開発など別の方面にも目を向けることが必要であると思います。

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