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軍事イノベーションを受け入れる条件を分析したThe Diffusion of Military Power(2010)の紹介

マイケル・C・ホロウィッツ(Michael C. Horowitz)の『軍事力の拡散(The Diffusion of Military Power: Causes and Consequences for International Politics)』(2007年)は、主要な軍事的イノベーションの拡散と国際政治への影響を説明した研究です。

この研究は、国家が新しい軍事技術を成功裡に採用するかどうかを説明するためには、革新を取得、開発するために必要な財政的資源と、革新を効果的に実施、統合するための募集、訓練、教義の変更などに必要な組織的資源という二つに注目すべきであると主張しています。ホロウィッツの採用能力理論(adoption-capacity theory)では、これらの条件の違いから革新への対応には相違が生じると説明されています。

Horowitz, M. (2007). The diffusion of military power: Causes and consequences for international politics. Harvard University.

軍事的な革新が登場したとき、国際システム全体にそれがどのように広がっていくのかは、これまでの研究では明らかではありませんでした。これは研究の焦点が革新そのものに置かれる傾向があったためであり、革新に対して人々がどのような反応を示すのか、どのように対応するのかという点が見過ごされやすかったためです。

著者は「戦争の遂行方法における大きな変化であり、主要な軍事組織に関連し、能力を戦力に変換する効率を高めることを目的としたもの」を主要軍事革新(major military innovation)と定義し、この革新が時間の経過とともに国際システムで普及していくプロセスには段階があると述べています(Horowitz 2007:  22)。

「ビジネス界における耐久消費財の普及に関する研究によれば、新製品が商業市場に参入してから、製品が成熟し販売が急増するまでの間に、しばしば「潜伏期間」が生じることが示されている。例えば、カラーテレビやコンパクトディスクプレーヤーの普及に関するデータは、各製品の初期開発から一般大衆における販売が伸びるまでの間に大きな隔たりがあることを示している。潜伏期間という概念は軍事の文脈においても理にかなっており、技術的発明と軍事的イノベーションを区別するのに役立つ。なぜなら、軍事的イノベーションの表向きの顔となる特定の技術的能力は、軍がそれらをさらに発展させ、軍事力を異なる形で生み出すためにどう活用するかを理解する何年も、場合によっては数十年も前に導入されることが多いためである」

(Ibid.: 23)

例えば戦車の技術は1917年のカンブレーの戦いで英国によって初めて使用されましたが、初期の戦車は戦況に重大な影響を及ぼせるほど戦闘力に寄与してはいませんでした。しかし、無線通信や航空戦力といった他の技術を含めた開発が進展したことで、第二次世界大戦が勃発するまでにドイツはこの技術を一つの主要軍事革新に育て上げました。

研究開発の成果が表れてから、実際にそれが革新的な成果と至るまでには時間を要するため、それぞれの国家がそれを採用するかどうかは、その革新のコストに見合った対応能力を持っているかによって左右されます。

「前述の通り、国際安全保障環境への影響は、主要な軍事的イノベーションに対する対応において顕在化する。イノベーションの導入の難易度、国家が導入能力を有するか否かを決め、ひいては国家が選択する戦略的な道筋に影響を与える2つの主要因は、そのイノベーションを導入するために必要な財政的負担と組織的資本である。採用能力理論は、革新を採用するための財政的、組織的要件が、システム・レベルの対応の広がりや個々の行為主体の意思決定の仕方、さらには国際政治へのその後の影響を左右すると提唱する」

(Ibid.: 30)。

この理論は、革新の開発と実用化に必要なコストを財政的負担と組織的資本の余力から革新に対応する能力の程度を説明するものです。単位当たりの技術のコストは財政的負担の大きさを決める要因であり、例えば、米ノースロップ・グラマンによって開発された戦略爆撃機B-2は1機あたりの平均で10億ドルから20億ドルの費用がかかっています(Ibid.: 31)。また、革新にあたっては、組織全体として必要とされる技能や知識も変化するため、教育訓練を刷新する必要が生じます。著者は「組織資本とは、ドクトリン、教育、訓練を通じて示される、軍事力造成における非技術的な側面」と定義しています(Ibid.: 34)。

著者はこの理論を、空母、核兵器、戦艦、自爆テロという事例で実証的に検証しています。空母は、財政負担と組織資本の両方の要求が極めて高かったため、第二次世界大戦の後で米国が圧倒的な優位を築くための基盤となりました。そのため、他国は潜水艦や対艦ミサイルによって対抗する方向に進んでいます(第3章)。核兵器は財政負担が大きいものの、組織資本の要求は小さいという特性がありました。このため、財政負担のハードルを克服した国々が後で続くことが可能でした(第4章)。20世紀初頭の戦艦の事例では、財政負担と組織資本の要求がいずれも中程度であったことから、最初に導入した英海軍は短期間でドイツ海軍に追随されました(第5章)。自爆テロの歴史では、財政負担が極めて低いものの、組織資本の要求は高かったので、歴史があるテロ組織ほど採用が困難であり、ヒズボラやアルカイダなどの新たに登場したテロ組織が導入しています(第6章)。

これまでの研究では、外部脅威への対応という観点や、国内の官僚政治による戦略の選択といった説明に終始してきましたが、この研究は革新の拡散を説明する上で財政負担と組織資本という要因を体系的に取り入れた理論を構築しています。近年では人工知能の技術革新が相次いで報告されていますが、技術本位の視点で捉えるばかりでは、国際政治への影響を捉えきることは難しいと思います。技術導入にかかる費用とそれを使用する人材の利用可能性という観点から考察することが重要です。

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