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『中国軍人が見る「人に優しい」新たな戦争:知能化戦争』(2018)の紹介

中国軍は2019年に『新時代における中国の国防(新時代的中国国防)』を発表し、「情報化戦争への変化が加速し、智能化戦争が初めて姿を現している」という認識を内外に示しています。これは人工知能技術の軍事的利用に基づき、一体的に戦力を運用する構想であると考えられており、中国の国防大学国家安全学院副教授の龐宏亮の著作では、その詳細について論じられています。2018年に中国で出版され、日本では2021年に翻訳が出版されました。

龐宏亮『中国軍人が見る「人に優しい」新たな戦争――知能化戦争』安田淳監訳、上野正弥、金牧功大、御器谷裕樹訳、五月書房新社、2021 年

  • 第1章 戦争形態の進化に関するいくつかの基本問題

  • 第2章 知能化ブーム

  • 第3章 軍事分野における知能化革命

  • 第4章 新たな戦争、新たな理念

  • 第5章 戦力の転換

  • 第6章 ゲームのルールを変える

  • 第7章 軍隊を再構築する

  • 第8章 スマート後方支援

この著作で展開された主張をまとめるとすれば、すでに軍事部門における人工知能の導入は現実に開始されているため、その機会と課題をいち早く認識することが重要である、というものになります。中国軍としては、人工知能人材を育成し、装備化に向けた技術開発や、軍事理論の研究を展開し、実験部隊を創設して演練しなければならないと考えられています。

こうしたビジョンの背景にあるのは、やはり近年の人工知能技術の急速な発展です。人工知能という概念は1956年にアメリカの計算機科学者ジョン・マッカーシーによって提唱され、それ以来、研究は数次のブームと停滞を繰り返してきましたが、2000年代に大量のデータで訓練を行うことによって特定の課題遂行の能力を向上させる深層学習(deep learning)の技術が確立されたことで、人工知能技術に新しいブームが起こりました(第2章)。

こうした成熟しつつある人工知能技術の軍事利用において重要なのがロボット工学への応用であり、米軍はいち早くこの分野に投資してきました。2000年には『無人航空機ロードマップ:2000-2025(Unmanned Aerial Vehicle (UAV) Roadmap 2000-2025)』を策定し、無人システムの研究開発の長期計画を策定しています。その後、2012年には計画を調整して軍事部門を超えた研究開発の計画として『次世代航空輸送システム(New Generation Air Transportation System)』を策定し、国防総省、国土安全保障省、商務省、航空宇宙局が相互に計画を調整しています(第3章)。

人工知能技術で自律性を向上させ、人間の操作を必要としなくなった無人システムには多くの可能性があります。特に人的損害を回避し、それと同時に政治統制を強化できる意義は大きいとされています(4章、126頁)。また、現代の戦争では人間の認識能力を圧倒するほどの大容量のデータ、すなわちビッグデータに対応する上でも人工知能技術の役割は重要になっています。2017年に米国国家地理空間情報局のロバート・カルディロ局長は、情報化が進むにつれて、分析官が不足する傾向について懸念を表明しており、音声、画像、動画、文字、その他の信号を自動的に識別、理解し、分析する人工知能が求められています(4章、131頁)。

ただ、こうした軍事的人工知能を開発、整備するためには、その訓練データが必要です。著者は人間には処理しきれないスケールのビッグデータの戦略的価値を強調しており、「ビッグデータは、人工知能が形成され成長し続けるための栄養物質となる。ビッグデータがなければアルゴリズムは成長できないため、胚芽のような存在である」と述べており(4章、142頁)、特に戦場のビッグデータによる訓練の意義を強調しています。

すでにRFID(無線周波数識別装置)やバーコードなどを用いて多種多様な物品の識別や管理をシステム化するモノのインターネット(Internet of Things)の技術が確立されていますが、これはビッグデータを生成するための基盤技術であると指摘しています。「軍事分野では、IoTが取り入れられ応用されると、戦場の状況をリアルタイムで感知することが可能になっただけでなく、後方支援物資保障の動態を可視化するのに有効な手段がもたらされることになった」(8章、272頁)つまり、IoTの技術でビッグデータを構築できれば、それを用いて人工知能の性能を向上させることが可能となります。

こうした技術動向を踏まえれば、ビッグデータの取得と処理は将来の軍隊の司令部の基礎的な活動になると予想できます。データセンター、それもビッグデータの処理を担えるエンジニアや技術者が従来の司令部の部門とは別に新たに追加されるべきであり、「実践においては、戦争(作戦)のニーズや広い帯域幅のビッグデータを処理能力に基づき、ビッグデータセンターは本土や戦域、戦術レベルの各地域に配置される機構であることは間違いない」と著者は断定しています(7章、264頁)。

ここで言及されているデータセンターについて簡単に補足しておくと、情報ネットワークの結節点となり、その内部を移動するデータの保管場所にあたる施設をいいます。一般的には企業が自社のために使用するものや、AmazonやMicrosoftのような巨大テック企業が所有するものがあり、私たちの身近なところにも、大都市圏に通信サービスを提供するキャリアホテルと呼ばれるデータセンターがあります。著者はこうしたデータセンターを管理する能力が軍事人工知能の研究開発、管理運用にも重要だと論じているのです。

近年、こうした議論を展開する軍事専門家は増加する傾向にあり、大きな技術動向の変化が起きていることを示しています。高性能な人工知能の研究開発に必要なビッグデータが集積されるデータセンターが集中しているのは米国であるため、人工知能を基盤にした軍備競争に対して中国は危機感を持つことは妥当なことだと思います。

ただ、2015年に中国の国務院が「ビッグデータの発展を促進する行動綱要」を発表し、戦略計画にビッグデータの国家管理を位置付けていますし、2023年には北京、天津、広東、浙江、山東、貴州など地方のビッグデータ管理機関を一元的に統制する国家データ局(国家数据局)を設置してデータ資源の開発を進めています。中国はビッグデータが軍事、産業の両方で戦略的資源であることを理解した上で着実に政策を積み上げているところです。

日本はこの分野で動き出すのが遅れていましたが、2021年に「包括的データ戦略」を策定しています。安全保障の面からもデータの国家管理のあり方について政治レベルの議論を深めていくことが重要だと思います。

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