論文紹介 RFID技術が変える戦場の兵站支援:米海兵隊の改革とその成果
戦場における兵站支援には多くの不確実性があり、補給品の紛失や遅延が頻繁に生じます。そのため、作戦が推移する中で指揮官は補給品がいつ第一線の戦闘部隊に届くのかを正確に把握することが困難でした。この困難は1990年から1991年にかけて起きた湾岸戦争で認識されましたが、2003年のイラク戦争でも完全には解消されませんでした。
この状況を変える上でRFIDの技術革新には重要な意義がありました。RFIDとはRadio-Frequency Identificationの略称であり、電波を使って電子タグの情報を非接触で読み書きできる自動認証技術の一種です。2000年代にRFIDの技術がアメリカ海兵隊の後方支援部隊に導入されましたが、その成果で補給品の追跡が以前より容易になり、兵站システムを改善できたことが報告されています。
Chestnut, M. D. (2006). Impact of radio frequency identification (RFID) on the Marine Corps' supply process. Doctoral dissertation, Monterey California. Naval Postgraduate School.
RFID技術とは何か?
軍隊の後方支援部隊は戦闘部隊が必要とする補給品を迅速かつ確実に届けるには、あらゆる補給品の所在を給点から需要点に到達するまで継続的に把握する必要がありますが、このためには膨大な情報処理が必要です。この情報処理を支援するため、1950年代以降にバーコードの技術が開発され、補給品の在庫流通の状況を把握できるようになりました。ただし、バーコードでの在庫管理には接触型の光学機器であるバーコードリーダーを使った作業が必要なので、多数の人員が必要でした。
RFIDが優れていたのは、バーコードとは異なり電子タグのデータを非接触状態で読み取れることです。また必要に応じてデータを書き込むこともできます。アンテナを介すれば、タグとリーダーとの距離が大きい場合でも遠隔で在庫管理が可能です。アメリカ軍がこの技術をコンテナの識別に利用し始めたのは1990年代の初頭からであり、湾岸戦争が勃発した時期にはまだ完全に導入できておらず、補給品の紛失や輸送の遅延が相次いで起きていました。
しかし、RFIDが導入され、輸送中のコンテナの位置情報とその内容である補給品の品目情報がリアルタイムで提供できるようになると、兵站業務で高度な在庫管理が可能となりました。登録されたデータが正確であれば、RFIDは砂漠を含めた過酷な環境でも正常に機能するため、兵站システムに必要な信頼性も確保できました。
ただ、電波に干渉する可能性がある金属、液体などの補給品の管理では性能が低下する場合がある点や、システムを導入するための費用がバーコードに比較して高いという点に問題があります。そのような限界を踏まえたとしても、世界各地に部隊を展開する必要があるアメリカ軍にとっては兵站支援を強化する上で価値がありました。
RFIDで海兵隊の後方支援はどう変わったのか
ここから先は
調査研究をサポートして頂ける場合は、ご希望の研究領域をご指定ください。その分野の図書費として使わせて頂きます。
