戦後最大の変革期を迎える「インテリジェンス」と「防衛力」
7月31日、いよいよ、インテリジェンス機能の司令塔を担う「国家情報局」が発足しました。
以前、こちらの記事でご紹介したとおり、内閣情報調査室を格上げする形で創設され、初代局長に、警察庁出身の原和也氏が就任しました。
これは、ほんの一例に過ぎませんが、日本は今、国家のインテリジェンスと防衛力強化において、戦後最大の変革期を迎えています。

1 戦後80年を振り返る
「何故、戦後最大と言えるのか?」を語る前に、戦後、日本のインテリジェンスと防衛力がどのように進化してきたかについて、概説しておきたいと思います。
(1) インテリジェンス機能の進化
インテリジェンス部門については、1952年に内閣調査室(後の内閣情報調査室)が設置されて以降、
1980年代にかけて外務省、防衛庁、警察庁などがそれぞれ独自に情報を収集を開始しました。
1997年、防衛庁に情報本部(DIH)を創設し、

1998年の北朝鮮によるミサイル発射を機に、後年、内閣官房に衛星情報センター(CSICE)を設立し、情報収集衛星(IGS)を導入します。

また、政府は、2014年に国家安全保障局(NSS)を創設し、 外交・防衛の司令塔として国家安全保障会議(NSC)が設置され、
冒頭でご紹介した、今般の国家情報局の創設に至った訳です。

(2) 防衛力の進化
一方、防衛力については、1954年に陸海空自衛隊が発足し、
冷戦期は、主として米軍の補完的兵力として機能してきました。

1990年代に入ると、それまでの「訓練する自衛隊」から、「働く自衛隊」への転換期を迎えます。
1991年のペルシャ湾掃海や、1992年のカンボジアPKOが、その契機となりました。

(防衛省ホームページ)
1995年1月の阪神・淡路大震災では、自衛隊による災害派遣が遅れた教訓から、自衛隊による災害派遣の規模及び即応体制が大きく見直されました。

2006年3月には、陸海空自衛隊の機能強化のため、統合幕僚監部が発足。
翌2007年1月には、防衛庁が防衛省へ昇格され、PKOや災害派遣などは付随的任務から本来任務へと格上げとなり、
2015年の平和安全法制では、集団的自衛権の行使が認められ、在外邦人の救出体制も大きく前進しました。
そして、2022年の国家安全保障戦略等、安保3文書の改定を受け、
現在は、スタンドオフ防衛能力(長射程ミサイル)を活用した反撃能力の獲得に乗り出しています。

更に、2025年3月には、こうしたスタンドオフ防衛能力や、陸海空自衛隊の一元指揮を図るために統合作戦司令部が発足するなど、
これまで保有してこなかった「侵略者の領域を打撃できる能力を持つ」という意味で、大きな変革となりました。
2 日本を取り巻く情勢
そして、現在の日本を取り巻く情勢を俯瞰すると、概ね、次のようになります。
(1) 国際情勢
背景にあるのは、周辺国の野心と能力が、より一層、露わになったことです。
細部は、これまでの記事で述べてきたので割愛しますが、
下記のように、2022年の安保3文書改訂から4年間の出来事を列挙しただけでも、国際情勢が如何に激変したかがお分かり頂けると思います。
◉ ロシアによるウクライナ侵攻が長期化
北朝鮮による事実上の参戦
◉ 中国による軍事的な恫喝が常態化
3隻目の空母が就役
核戦力が米露と比肩する可能性も
◉ イスラエルによる対テロ戦争が激化
◉ 米国によるベネズエラ攻撃
◉ 米・イラン紛争の激化
ホルムズ海峡封鎖が現実のものに
問題は、周辺国の動向だけではなく、戦後、一貫して日本の安全保障の拠り所となってきた同盟国・米国のコミットメントが揺らいでいることです。

米国は、オバマ政権の時に、20年に及んだ対テロ戦争を終結させ、アジア太平洋リバランスを打ち出しましたが、その後、再び中東に回帰し、
或いは、ドンロー主義(トランプ流モンロー主義)を掲げて、西半球への関与を強めようとしています。
現在の国際秩序は、戦後、米国の指導力や軍事力の下で構築されてきた訳ですから、
米国のコミットメントが揺らげば、必然的に日本との同盟関係や、国際秩序も揺らぎます。

2015年に、オバマが「世界の警察官から降りる」と言った時に、世界はパクス・アメリカーナの終焉を迎えたのです。
「国際秩序を保ちたければ、各国はもっと積極的に貢献せよ」というのが、今の米国のスタンスであり、
そして、今後も米国の大統領や政党が代わったとしても、この傾向は続いていくとみられています。
日本にとり、米国という同盟国のみならず、既存の国際秩序や普遍的価値を同じくする「同志国」との連携が、益々、重要であると同時に、

戦後80年で、今ほど、日本の独り立ちを求められている時代は無い、ということになります。
(2) 国内情勢
一方、日本国内に目を向けると、安定的な自衛官の充足は見通せず、このままでは人的基盤の弱体化は避けられません。

弱体化しているのは、防衛省・自衛隊の人的基盤のみならず、社会全体で精神基盤も揺らいでいます。
世界では、「自分たちの国は、自分たちの手で守る」という考え方が常識ですが、日本国民の国防意識は世界最低水準で、
いよいよ、国防を防衛省・自衛隊に「丸投げ」してきたツケが回ってきたように思います。
(3) 地球環境の変化
温暖化などの影響により地球環境も急速に変化し、それに伴い酷暑化、台風の巨大化、線状降水帯や山林火災の多発化が進み、災害の規模・頻度は、益々、増大する傾向にあります。
先述のとおり、人的・精神的基盤が弱体化する中、防衛省・自衛隊は、国防と災害派遣の両面から、益々、肥大化する多様な任務に応じることになりそうです。(防災庁の発足は、本年末の見通し)
政府の中央防災会議や防衛省の「防災業務計画」等では、国レベルで最優先に対処すべきリスクを、次のように整理・区分している
◉ 南海トラフ巨大地震
◉ 首都直下地震
◉ 日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震
◉ 富士山などの大規模な火山噴火
◉ 原子力災害などの特殊災害・複合災害
3 日本の課題
日本の課題については、以前、こちらの記事で提言させていただきましたが、
こうした内外情勢を踏まえて、インテリジェンスと防衛力の課題を再整理すると、次のようになります。

(Created by ISSA)
(1) インテリジェンスの課題
国家情報局については、一刻も早い本格始動が望まれます。
内閣衛星情報センターは、今後、人員を拡充して24時間体制に移行させ、時間帯を問わず衛星画像を分析できる態勢を整えるとともに、
人工知能を活用した情報分析にも着手します。
インテリジェンスの次なる課題は、一刻も早いスパイ防止法の制定になると思います。
(2) 防衛力の課題
一方、防衛力については、より多くの課題が残されています。
① 新たな戦略方針とは
7月21日に閣議決定された「骨太方針」では、防衛費増額に関する具体的な数値目標(対GDP比など)の明記は見送られましたが、
その代わりに、年末までに改定される「新3文書」を踏まえて、予算面で必要な措置を講じる構想が示されました。
新3文書では、前回の2022年版からの変化事項として、
次の事項が、新たな戦略方針として打ち出される可能性があります。
◉ 新しい戦い方の推進
(無人アセット・AI・認知戦など)
◉ 継戦能力の抜本的強化
◉ 防衛費の増額(GDP比3%水準へ)
◉ 防衛産業の強化と武器輸出の緩和
◉ 経済安全保障の更なる深化
先日、小泉防衛大臣が「核について、タブーなく議論しなければならない」と発言した際、
早速、左翼メディアが食いついて、「内外から反発の声が上がっている」などと報じましたが、
何も、いきなり核武装すると仰っているのではなく、例えば原子力潜水艦など、保有を認めれば日本の安全保障を飛躍的に高める装備もある訳です。
そもそも、タブー視することで健全な議論を封じること自体が問題なのであり、その行為が、周辺国の野心の呼び水になるということを、メディアは理解する必要があると思います。
② 新たな内部部局の創設
2026年7月、政府は、防衛省内に同志国との協力推進を所管する「局」などを新設する検討に入りました。
安全保障環境の悪化を踏まえ、各国との物品役務相互提供協定(ACSA)や、同志国への防衛装備移転に対応するとともに、
先述の人的基盤に関する対策などの観点から、退職自衛官を活用する部局の設置も模索するそうです。
2026年4月、豪州の次期汎用フリゲートとして、「もがみ」型護衛艦の能力向上型(新型FFM)を共同開発する合意が、日豪間で締結されましたが、

《長崎県佐世保市干尽町・倉島岸壁》
(Photo by ISSA)
同志国との協力推進を所管する部局ができると、経済と安全保障の両面で国益が拡大する効果が期待されます。
③ スタンドオフ能力の更なる進展
7月30日、海上自衛隊のイージス艦が、太平洋上でトマホーク・ミサイル(スタンドオフ能力)の実射試験を行いました。
2022年の防衛力整備計画で示されたスタンドオフ関連事業は、経費面で8割程度の契約が完了し、能力面で3割程度まで配備が進んでいます。
④ 衛星による情報収集態勢の強化
そのスタンドオフ能力の実効性を確保するため、防衛省は、多数の小型人工衛星で構成される衛星コンステレーション事業を進めています。

(防衛省ホームページ)
先述の内閣衛星情報センターとの連携を強化することで、衛星画像による情報収集・分析能力の向上も見込まれます。
⑤ 第6世代戦闘機の開発・配備
2026年7月、日本、英国、イタリアが共同開発する次期戦闘機(GCAP)計画において、三菱重工業などの各社が協業契約を締結しました。
これにより、米国に依存しない防衛装備体系に活路を開くとともに、F-35などの第5世代戦闘機から更に進化し、人工知能を搭載して複数の無人機を従えてミッションを行うようになります。

(ビジネス+IT)
⑥ 「いずも」型護衛艦の空母化
護衛艦「いずも」「かが」でのF-35Bの本格運用の開始は、2027~28年になる見込みとなっています。
【参考】かつて、世界に先駆けて航空母艦を配備したのは日本海軍だった
おわりに
こうして見ていくと、インテリジェンスと防衛力が「戦後最大の変革期を迎えている」と言った意味が、お分かりいただけると思います。
特に、この2020年代という10年間で、私たちは「エポックメイク」な変革を見ることになるでしょう。
高市首相や小泉防衛大臣のスピード感もさることながら、決して、一朝一夕には成し得ないインテリジェンス機能強化と防衛力整備を、これまでの歴代政権と関係機関が積み上げてきた努力の結晶と言えます。

私自身、東西冷戦の終結期から現在に至る約40年を、防衛力とインテリジェンスの世界に身を捧げてきましたが、
振り返れば「常に、組織改編に翻弄され続けた人生」でした。
まだまだ、様々な課題は残されていますが、「日本も、ようやく真っ当な国になってきた」という実感があります。
他方、物心両面という観点では、まだまだ日本人の「心の守り」は不足しているように思います。

政治家やメディアが、本当に責任ある発信をしているか否かを見分けるポイントは、「現実的かつ具体的な方策について、冷徹に提言しているかどうか」です。
いつも他力本願で、自らは何もせず、感情的で攻撃的な文句を吐き捨てるだけでは、この国を守ることはできません。
具体的に考え、現実的なアイデアを出し、冷静に議論し、実践し、汗を流すことで、初めて国の安全は成り立つのだと思います。

