ニッポンの宰相論
いよいよ、政局は混迷を極めてきました。20日の首相指名選挙に向けて、国民は置き去りのまま、各党の思惑が錯綜する事態となっています。
今回は、過去の学びを思い返しながら「ニッポンの宰相論」を緊急投稿させて頂きますので、
今後、皆さまが国家のリーダーの在り方を考える上で、ご参考にして頂ければと思います。

様々な価値観がある中で、「こんな見方もある」という一般論のひとつとして受け止めて頂ければ幸いです。
はじめに ~ 参考図書のご紹介
本論を展開するに際し、所々、初代・内閣安全保障室長を務められた故・佐々淳行氏の著書「危機管理宰相論」の一部を引用しております。
本書は、1995年に出版されたものにも関わらず、30年が過ぎた今もなお、多くの部分で本質的な問題を投げかけています。
1 「宰相」とは
表題を「宰相」としたのには理由があります。
元々の語源は、中国の歴史上の官職に由来し、「宰」は「治めること」、「相」は「補佐すること」を意味する、君主を補佐して国政を執り行う最高の官職のことです。
現代日本では、主権は国民にありますので「君主」は、いわば「国民」ということになります。
したがって、「宰相」と「総理大臣」はほぼ同義なのですが、「宰相」の方が、より力強く聡明なリーダーをイメージさせるため、本稿では「宰相」という言葉を用いることにしました。

2 何故、大統領ではなく宰相なのか
先ず、日本では何故、大統領制ではなく議員内閣制が採られているのか、ということですが、その理由は、概ね次のとおりです。
(1) 戦前の権力集中に対する反省
大統領制では、行政がより強力なパワーを持つことになるので、三権分立のパワーバランスに大きく影響します。
(2) 武力行使に係る意思決定上のリスク分散
そうなると、より一層、国のリーダーの判断で武力行使を行いやすくなります。
選ばれたリーダーが適切な判断力を持っていれば良いのですが、いずれにせよ、武力行使の可否にかかる重要な判断を個人に委ねてしまうリスクが高まることになります。

(3) 文民統制の在り方に影響
日本では、武力行使を担う自衛隊は、文民統制(シビリアン・コントロール)の下に置かれています。
ここで言う「シビリアン」とは、防衛省の事務方のことではなく、国民の負託を受けた宰相、防衛大臣及び議会のことを指します。
大統領制を取り入れると、軍事をコントロールできるシビリアンが局限され、大統領に一局集中する恐れがあります。

(4) 国家元首という天皇の立場に影響
現在、天皇陛下が国家元首であるところ、大統領制を取り入れると、
大統領を国家元首とする国際慣例との間で齟齬を生じることになり、天皇の立場や権威に影響を及ぼす可能性があります。
(5) 衆愚政治に対する懸念
一般に、日本人はブームに流されやすいと言われていますが、大統領制によって、国民が直接、リーダーを選べるようになると、
一時の熱狂だけで非合理的なリーダーを選出する衆愚政治へのリスクが高まる恐れもあります。

こうした理由から、日本のリーダーは、大統領ではなく宰相であるのが望ましいと考えられています。
3 日本の安保環境をめぐる特徴
宰相論を語るとき、日本を取り巻く安保環境は、諸外国と比べて、次の3点で大きく異なることを念頭におかなければなりません。
(1) 国際情勢は極めて厳しい
日本を取り巻く国際情勢については、過去の記事で何度も取り上げてきましたが、
日本は、中国・ロシア・北朝鮮という専制主義国家に取り囲まれている一方、米国以外に頼りになる助っ人は誰も居ないという、極めて厳しい環境に置かれています。
(2) 国防意識は世界でも最低水準
他方で、以前、こちらの記事でご紹介したとおり、
日本人の国防意識は最低水準のままで推移しています。

《Gallup International HP》
(Modified by ISSA)
(3) 制約でがんじがらめの自衛隊
こうした中、世界第7位の軍事力を有する自衛隊(根拠:Global Firepower 2024)なら、きちんと対応できると思われるかもしれません。
しかし、自衛隊は、先の大戦への反省から、いわば「ハーフコート・プレイヤー」(注1) であることに加え、
(注1) たとえ国を守るためであっても、原則として、敵陣(敵国)ではプレー(武力行使)を行えない「専守防衛」のことを比喩した造語
何から何まで「ポジティブリスト」(注2) で縛られるという、大きな制約が課されています。
(注2) ポジティブリストとは、先ず「何もするな」が大前提で、その上で「あれはやっていい」「これはやっていい」と、ひとつひとつ権限を与えていくやり方。世界の常識はネガティブリストであり、「してはならないこと」だけが命じられるので、軍は任務に専念しやすくなる

更に、先述の「シビリアン・コントロール」の下に置かれているので、なおさら、日本のシビリアン、特に宰相には危機管理能力が強く求められるのです。
「シビリアンがポンコツでも、自衛隊はちゃんと機能するんでしょう?」
そう仰る方も居ますが、それは平時に限った話です。
制約でがんじがらめの自衛隊は、有事においてはシビリアン、特に、その頂点に立つ宰相がしっかりしていないと、適切に機能しないように出来ているのです。

これらを踏まえると、日本の宰相は、軍事のことが分かっていて、有事の際には、ちゃんと自衛隊を指揮して動かせる人物であることが、如何に重要であるかが、お分かりいただけると思います。
4 国内世論の動向
ところが、昨今の国政選挙や総裁選挙を見ていると、この核心的に重要な視点が著しく欠落しているのです。
物価高騰対策、賃金引き上げ、103万円の壁、授業料無償化、給付金の要否等、生活に密着した大事な話であることは分かるのですが、近視眼的な「カネ」にまつわる話ばかりで、
「危機管理能力に長けた宰相を選ぶ」という感覚がまるでない。そんなふうに見受けられます。
私たちはよく、「子供たちの幸せを願う」と口にしますが、本当に子供たちの幸せを願うなら、自分たちの目先の「カネ」の話ばかりにとらわれるのではなく、
「将来、子供たちが活躍する時代になっても、この国が安全であり続けるために、今、何が出来るか」という視点を持たなければなりません。
それが、本当に「子供たちの幸せを願う」ということではないでしょうか。

5 忘れ去られた前例
私たちは、1995年の阪神淡路大震災と、2011年の東日本大震災という、二度にわたる国難の際に、
危機管理の素人に国の舵取りを任せるとどうなるか、ということを痛いほど経験し、
宰相の危機管理能力が如何に重要であるかについて、佐々氏ほか多くの専門家が指摘してきたところですが、年月が過ぎると、まるでそのことは忘れ去られたかのようです。

(nbcnews.com)
6 宰相は自衛隊の最高指揮官
こうした観点から、平素より国家の安全に携わる人々は、内閣総理大臣(宰相)を、一般の方々とは、かなり異なる見方をしています。
それを一言でいえば、
「内閣総理大臣は、
自衛隊の最高指揮官である」
ということです。
かつて、「宰相の鏡」とも言われた安倍さんの一言一言には、本当に心が震えるような思いがしました。
他方、平素から国防や安全保障を軽んじているような某党員が、ある日突然、棚ボタ的に宰相(自衛隊の最高指揮官)におさまり、そんな人物から「戦場に行ってこい」などと言われたら、自衛隊員はどんな心境になるでしょうか。
或いは、危機管理能力が著しく低い宰相だったら、最高指揮官として自衛隊を適切に動かせるでしょうか。
国民は、高い税金を納めて自衛隊を保持しているのですから、国民の側も、「この人は自衛隊の最高指揮官に相応しいかどうか」という視点を持つ必要があると思います。
7 日本の宰相に必要な資質
佐々氏は、著書の中で「政治と行政の最大の任務は、有事に際しての国民の生命・身体・財産の保護である」とした上で、
「政治指導者たるものは、国民を守ることができないようでは国家権力を預かる資格がない」と断じ、
「国家的危機管理という国民の生命と財産にかかわる重大問題をその時々の風向きで政争の具に供している政治の御都合主義と、不作為の罪を反省しない官僚の「護民官」精神(注3) の欠如を、哀しく思う昨今である」と、政治の現状を憂いています。
(注3) 「護民官」とは、古代ローマ帝国の官制で、貴族のノーブレス・オブリージュ(身分高き者の重い義務)として市民の保護に任じていた武官職を指す。この「護民官」を意味するコンスル(consul)は、今日では外務省の在留邦人保護を任とする「領事」として知られる官職であり、 戦前、この「護民官」意識は内務官僚の間に根強く伝えられてきた
端的に言えば、
自衛隊を適切に動かせる人物であること。
これだけは、絶対に外してはいけない必須の要件なのであり、パワー・ポリティックスが支配する国際社会において、シビリアンの頂点に立つ宰相が、
大局的見地から、紛争回避のために適切な外交を展開し、それでも回避できなかった場合、自衛隊を適切に動かせるかどうか。
それこそが、日本の宰相に最も必要とされる資質なのだと思います。
仮に、宰相が内政面でポンコツだったとしても、周囲のブレインが適切にカバーすればいいのです。

8 在るべき「ニッポンの宰相」の姿
先述のとおり、専守防衛でポジティブリストに縛られた自衛隊を、より有効に機能させるには、
本来の文民統制へと機能を高め、宰相の軍政学への造詣を深め、一定の非常権限を与える必要があります。
(1) 本来の文民統制とは
佐々氏は、著書の中で、「シビリアン・コントロールの意味を、防衛庁では『内局の制服に対する優位性』であるかのようにとりちがえ、進歩的文化人や大蔵省を筆頭に他官庁官僚らは、自らを『ネオ・殿上人』、 治安・防衛を司る警察官、自衛隊員を『ネオ・地下人』のように位置づけて君臨した。」(注4) と断じています。
(注4) 元・航空幕僚長の田母神俊雄氏や元・自衛艦隊司令官の香田洋二氏らも、官僚らのこうした誤った考え方は、有事の際に命取りになりかねず、国を弱体化するものと警鐘を鳴らしている
しかし、本当のシビリアン・コントロールは、一部の官僚や知識人(気取り)が制服組を統制することではなく、下記にもみられるとおり、軍政学をへの造詣が深い宰相、防衛大臣及び議会によって統制されることなのです。
日本の歴史をふり返ってみると、真の意味での《文民統制=シビリアン・コントロール》が日本の政治に導入されたのは敗戦後のことで、・・・(中略)・・・、《官僚による制服の統制》がその実態で、その意味で日本は《文民統制》ではなく 《官僚統制》といわれてもしかたあるまい。
《文民統制》とは、「戦争か、平和か」といった国家の存亡、民族の生死にかかわるような重大な決定を、常に軍事優先で物事を考えがちな職業軍人の判断に任せず、《軍政学》の造詣が深い文民である政治家が、大所高所から政治判断を下すという政治手法である。
《軍政学》とは、・・・(中略)・・・、未だにパワー・ ポリティクスが本質で法治社会とはほど遠い国際社会にあって、・・・(中略)・・・、防衛力整備および同盟関係をふくむ防衛作戦計画が国家百年の大計であるとの使命感に目覚めた政治家が学習しておくべき、近代政治学に必須の軍事研究のことだ。
(2) 軍政学への造詣を深めよ
行政には、大きく分けて、経済発展や科学技術・文化向上といった、実益を生み出す「積極行政」と、
国民の生命・財産を守る国防や治安維持等、実益を生まない「消極行政」の二つの側面があります。
長らく国防を米軍・自衛隊任せにして、ひたすら経済的発展のみを追求してきた日本では、
こうしたシビリアンの間にさえも、「実益を生まない消極行政に労力をかけるのは無意味だ」とする風潮が生まれてしまったことは、戦後日本における最大の悲劇でした。

(Created by ISSA)
しかし、紛争や自然災害などの国家的な危機の蓋然性が急速に高まる今、宰相が軍政学への造詣を深めることの重要性が、今一度、見直される時期に差し掛かっているのではないでしょうか。
(3) 宰相に非常権限を
佐々氏は、30年も前に「内閣の連帯責任(憲法66条3項)=閣議の満場一致の原則」という解釈が、総理大臣の非常時における迅速な指揮命令を阻害すると指摘しました。
憲法六六条には「内閣は行政権の行使について、国会に対して連帯して責任を負ふ」と書いてあるからだ。そこで「連帯責任」イコール「満場一致」という解釈が法制局見解として示されている。従って、総理は非常事態に際しても事実上の指揮命令権を持っていないのである。
この問題は、安倍政権下において、2013年の国家安全保障会議(NSC)の創設や、2014年の内閣法改正によって、ある程度、宰相のリーダーシップ機能の強化が図られましたが、
佐々氏が問題視した「閣議の満場一致」という形式的な制約自体は、憲法解釈として依然として存在しています。
それは、国家的危機において、対応が遅れて被害を拡大させる恐れがあるということであり、
速やかに憲法を改正して、各国の大統領や宰相に与えられているような「非常権限」に関する規定を盛り込む必要があります。

9 石破さんへの評価
石破さんの、過去の戦争に対する歴史観や国家観が、戦後リベラル史観の延長線上にあるとして、否定的な見解があることについては私自身も承知しており、
この点については、「日本の真心」をテーマしてきた私 ISSAとしては、多くの方々と全く同じ思いを共有しております。
ただ、軍事に関する知見と、長年にわたり防衛政策の立案と実行に携わってきた経験から、少なくとも、佐々氏の言う軍政学に深い造詣があり、その点では宰相に相応しいという見方が出来ます。
実際、国家の危機管理を強化するという観点では、僅か1年たらずで次のような功績を上げています。
● 防災庁設置に向けた事務局の設置
● 能動的サイバー防御に関する法整備
● 自衛官の処遇改善(注5)
● 米大統領との良好な関係の構築・維持
● 海上保安能力強化に関する会議の開催
(注5) 国の安全に携わる者が、「お金」がモチベーションにならないようにするため、ある程度、安心して暮らせる待遇を与え、任務に専念し易い環境を整えることが目的(「お金」がモチベーションになってしまうと、「ワグネル」のような、何でもありの傭兵に成り下がる恐れがある)
そして、これから次のことをやろうとしていました。
● 国民保護機能の強化
● 特に、シェルターの建設
● 重要物資のサプライチェーン強靭化
● ドローン対策の強化
少なくとも、あと2~3年は石破さんに任せておけば、日本の安全保障基盤は、今よりももっと強固なものとなっていた可能性は否定できません。
しかも、2027年には台湾有事が起こると言われている中、宰相の交代が、何故に「今」でなければならなかったのか?
「石破は、自衛隊を動かせる人物である」
中国共産党によるこの判断が、台湾や尖閣諸島への侵攻を鈍らせてきた可能性もあるのです。
国が存続してこそ、安全な暮らしや繁栄があるのに、この1年の日本は、近視眼的に「石破おろし」や無益な政争に躍起になっており、大局的で戦略的な視点が著しく欠落しているように見受けられました。

10 新宰相の危機管理能力は?
防衛省・自衛隊は、巨大で複雑な機構であり、宰相と言えども、幅広い知見を必要とする軍政学を修得するには、相当の歳月を要します。
ですから、これから周囲がしっかりサポートして、一日も早く、有事には自衛隊を適切に動かせる宰相であるように導き、育てていていくことが急務なのだろうと思います。
内閣総理大臣はその執務時間のせめて百分の一を割いても、制服を官邸によび、軍事情勢、新防衛構想、兵器システムなどについてブリーフィングを受けるべきである。
シュミット、サッチャーやブッシュがそうしたように、日本の文民の政治家も軍事を学ぶべき時代なのである。
さらに繰り返していえば、政治指導者は、軍政学を学ぶために「政略」を練り、軍事専門家の意見を聞いて「戦略」を決め、そして「戦術」は制服にまかせるのが、米・英式文民統制のあり方である。
「多党化の時代」だからこそ、誰が宰相に就こうとも、国家の安全保障政策については、片時もブレることなく、現実的かつ戦略的であり続けなければならないと思います。

おわりに ~ 我が国の国家的な課題
最後に、我が国の国家的な課題を列挙しますと、概ね次のとおりです。

新宰相の下で、一つでも二つでも実現すればいいですね。

(Photo by ISSA)
各項目に関連しそうな過去の記事を張っておきますので、もしご関心があれば、リンク先を訪れてみてください。
憲法改正の必要性👇
防衛力の抜本的強化👇
安定的皇位継承👇
難民政策の在り方👇
日本人の心の教育の必要性👇
靖国神社の脱・政治問題化👇️
防災庁創設の必要性👇
日本版「国境警備隊」の創設👇
先端技術投資の必要性👇
GX関連👇
本稿は、個人の考え方を述べたものであり、政治的活動とは一切関係ありません。
いつも、ありがとうございます🍀
