国家情報局とは
10月24日、木原官房長官は、インテリジェンス活動の司令塔となる国家情報局の創設に向けた検討を始めたことを明らかにしました。
国家情報局って、いったい何?
どこに、どんな組織ができるの?
何故、新しい組織が必要なの?
恐らく、こんな疑問をお持ちの方も多いと思います。そこで、今回はこうした疑問にお答えしていきたいと思います。
1 インテリジェンスとは何か?
インテリジェンスの「いろは」については、こちら👇をご参照ください。
2 内閣調査室の創設まで
戦後、日本はGHQによる徹底した検閲により、陸海軍その他の情報機関はすべて解体されました。
その後、1949年10月に中国で共産党政権が誕生し、翌年6月には朝鮮戦争が勃発したことを受けて、米国は日本の占領政策の転換に迫られ、
1950年8月、GHQが日本に再武装を指示し、現在の自衛隊の前進となる警察予備隊や海上警備隊が創設されました。
この頃、米国のCIAと連携して、ソ連や中国、朝鮮半島に関する情報収集を行う「日本版CIA」を創ろうとした政治家がいました。
その方は、緒方竹虎氏。

(nippon.com)
緒方氏は、吉田茂内閣で副総理や国務大臣(情報担当)などを歴任し、東西冷戦という新たな国際環境を迎える中、
十分なインテリジェンス機能を持たない日本の安全保障の脆弱性に、危機感を抱いて(注1) いました。
(注1) 緒方氏は、戦時下の1944年7月、情報局総裁として入閣した際、「政府には、生きた情報はほとんど入ってこない」ことを痛感
その原因は、外務、内務、陸軍、海軍の各情報組織の縦割り意識にあり、宰相の直下に情報を集約出来る組織を持つ必要があると考えていた
そこで、緒方氏は米国CIAをモデルとした強力な情報機関の設立を構想し、関係者との調整を進め、
その先駆けとして、1952年、内閣官房に現在の内閣情報調査室の前身となる「内閣調査室」が設置されました。
緒方氏は、その後も精力的に日本版CIAの創設に取り組みますが、1956年1月に急逝したため、結局、その志は未完に終わりました。
その後、日本は国家インテリジェンスの機能を持たないまま、経済重視・安全保障軽視の道をまっしぐらに進むことになったのです。

3 日本の情報機関
時は下り、1980年代になると、中曽根政権で内閣官房長官を務めた後藤田正治氏が、情報組織間のセクショナリズムの打破と、内閣への情報一元化に取り組み、
1986年には、先述の内閣調査室を「内閣情報調査室」へと発展させました。

大きく貢献した後藤田正治氏(左)と
かつての部下だった佐々淳行氏(右)
そして、1990年代以降、国際テロや北朝鮮情勢などが緊迫化したことを受け、各省庁ごとに情報収集・分析機能の統合・強化が進められました。
1995年、地下鉄サリン事件を機に、法務省が公安調査庁(PSIA)の機能を大幅に強化。
1997年1月、防衛省に情報本部(DIH)を創設し、防衛省・自衛隊のインテリジェンス部門を整理・統合。
2001年、内閣情報調査室(CIRO)に内閣衛星情報センター(CSICE)を創設。2005年から、日本初の情報収集衛星の運用が始まります。

《種子島宇宙センター》
(sorae.info)
2004年、外務省が従来の国際情報局を国際情報統括官組織(IAS)に改組し、対外情報収集機能を強化。
2015年、国際テロ対策の強化のため、官邸直下に国際テロ情報収集ユニット(CTU-J) を設置。
2019年、警察庁が、従来の警備局に加えて新たに警備運用部を創設。
そして、現在、日本のインテリジェンス・コミュニティは、下表のようになっています。

ISSAも, かつてコミュニティの一員でした
(Created by ISSA)
4 世界の情報機関
世界の代表的な情報機関は、概ね下図のようになります。
特に、米国のCIAや英国のMI6、ロシアのSVR / FSB(旧KGB)、イスラエルのモサドなどは、誰もが一度は聞いたことがあると思います。

(japanpi.com)
そして、超大国・米国の優位性を支えているのが、これらの巨大なインテリジェンス・コミュニティです。

全16機関中、主要機関のみ抜粋☆☆☆☆
(Created by ISSA)
日米インテリジェンスの大きな違いは、
① 我が国には、情報機関を統括する国家情報長官(DNI)(注2) に相当するポストが無いことに加え、
(注2) 2001年の米国同時多発テロ事件を察知できなかったことや、2003年に大量破壊兵器(WMD)は無かったにも関わらずイラク戦争に踏み切ったことへの反省から、情報機関の連携強化のため、2004年に新設された
閣僚級の高官として国家安全保障会議(NSC)の顧問を務め、要すれば大統領に、直接、情報面での助言を行う
② 各機関の規模や質の面で劣っていること、及び
③ 表右欄に「〇」で示した攻勢的で超法規的な機能(注3) は持ち合わせていないこと等が挙げられます。
(注3) 2013年6月、NSAの職員だったエドワード・スノーデン氏によってリークされた極秘情報から、NSAは米国市民や同盟国まで監視対象としていたことが明らかになった

5 「国家情報局」創設への動き
そして近年の激変する安全保障環境(注4) を踏まえ、国家情報局の創設に向けた議論が、より一層、具体化するようになりました。
(注4) 米国が「世界の警察官」を降り、「力による現状変更」を目論む中露などの脅威が台頭
インターネットの発達に伴い、従来の人を介したスパイ活動のみならず、サイバー空間でのスパイ活動が激しさを増し、AI(人工知能)もスパイと連携
これにより、大量かつ壊滅的な国益損失へのリスクが、急速に高まりつつある
2022年5月、石破茂氏が安全保障・防衛政策の専門家としての知見に基づき、「国家情報局の創設が急務である」として、
官邸の意思決定を支える強力なインテリジェンスの司令塔を確立することの重要性を訴え、首相になった後も、その実現に取り組みました。
こうした背景や積み重ねもあって、ようやく現政権で国家情報局の創設が日の目をみることになった訳です。
そして、現在、自民党と日本維新の会は、2026年の通常国会における国家情報局の創設を目指しています。

6 問題点と改善の方向
では、政府は今、国家のインテリジェンス機能について何が問題だと考え、どのような組織を実現しようとしているのでしょうか。
(1) 宰相への情報集約
ひとつには、緒方氏や佐々氏が指摘したように、現在もなお、国家インテリジェンスの司令塔としての機能が不十分と認識されていることがあります。
2013年、安倍政権下で国家安全保障会議(NSC)と、その事務局である国家安全保障局(NSS)が創設され(注5) 、
(注5) NSC / NSS は、安全保障に関する意思決定のための組織であり、インテリジェンスに特化した組織ではない
安全保障に関する意思決定機能は強化されましたが、この時は、その意思決定を支える国家インテリジェンスの機能強化は、手つかずのまま(注6) 見送られました。
(注6) 先述のとおり、米英インテリジェンス機関によるミスリーディングで、2003年のイラク戦争が起きてしまった反省もあり、各国のインテリジェンス部門には、より一層、意思決定部門とは別のところで独立性と客観性を厳正に保持することが強く求められている

NSSの前身である内閣安全保障室で、初代室長を務めた佐々淳行氏は、この年に発刊された自著の中で、
各省庁に情報が分散している現状を問題視し、「安全保障の意思決定に役立てるインテリジェンスの司令塔が、別途、必要だ」と訴えていました。
また、NSSの第2代局長を務めた北村滋氏も、2021年に発刊された自著の中で、次のような苦言を呈しています。
我が国が真に独立した国家としての戦略を策定し、遂行するために必要なインテリジェンス機能の強化を目的とするのならば、・・・(略)・・・内閣の情報機能の強化という視点なくして、個々の府省における「情報機能強化」に向けた 「改革」や取組は、むしろ我が国のインテリジェンス・コミュニティ内部の分散的契機を助長し、 内閣の重要な政策決定に係る情報の伝達、集約及び分析を混乱させることに通じることになりかねず、むしろ有害である。
政府内では、それぞれの情報機関から情報という名の煙が縦上がりしていく様を「ストーブ・パイプ」と呼び、意思決定者に至る前にオールソース・アナリシス(総合分析)を行い得る情報統括組織が必要性と指摘されてきました。
今回も、2013年に内閣安全保障室をNSSに格上げした際と同様に、内閣情報調査室をNIS(仮称)に格上げし、残りのインテリジェンス・コミュニティをNSSから切り離してNISの配下に再配置するものと考えられます。

(Created by ISSA)
(2) 包括的な対外政策
また、2010年代後半あたりから戦略的自律性(Vulnerability)克服と、戦略的優位性(Leverage)の確保を目的とした「経済安全保障」も重視(注7) されるようになり、従来のコミュニティのままでは、情報が不足する可能性が出てきました。
(注7) 具体的には、半導体やレアアースなどの重要物資のサプライチェーンや、航空・造船・通信などの基幹インフラ、宇宙・サイバー・電磁波・量子技術・AI(人工知能)・バイオテクノロジーなどの先端技術がこれに該当
そのため、国家情報局には、財務省(関税局)、金融庁(監督局)、経済産業省(貿易経済協力局)及び国土交通省(海上保安庁)など、より広範な分野からの参画が求めることになります。
このように、コミュニティが大所帯になることを考えると、猶更、政府が統括した方が情報の重複などの不具合も是正され、人的・予算的なリソースの再配分による効率化も図れるようになるのです。

(3) 対スパイ活動
時折、「日本版CIA」などと報じられることもありますが、現政権が目指しているものは、先述のとおり、一義的には国家インテリジェンスにおける司令塔機能の強化なので、
CIAが行う「諜報」のような機能(下表参照)は、現時点では想定されていません(将来的な足掛かりは、多少、考えているかもしれませんが)。

(Created by ISSA)
なので、どうしても「日本版」という言葉を冠したいのであれば、「日本版CIA」というよりは、「日本版ODNI」の方が、実態に近いと思います。
ただ、他国のスパイ活動から国益を守る「防諜」については、早急に抜本的な対策を打つ必要があります。
実際、日本には苦い経験があります。
1930~40年代、ソ連のGRUエージェントだったリヒャルト・ゾルゲは、対米開戦前の日本でスパイ活動に従事し、日本の機密情報をソ連本国に通報したことで、第二次世界大戦の戦局に影響を与えた(注8) と言われています。
(注8) ゾルゲがキャッチした、日本が南進を選んだ(対ソ戦を回避する選択をした)との情報は、ソ連が欧州方面に兵力を集中させる判断につながり、結果、同盟国だったドイツを窮地に立たせることになった
特に、戦後は他国のスパイ活動から国益を守る「防諜」が非常にウィークで、周辺国の台頭を看過し続けてきました。
一刻も早い、「スパイ防止法」の制定が望まれます。
(4) 国民の理解と支持
そして、最大の問題点は、国民の理解と支持にあります。
前項でお示ししたような、「諜報」と「防諜」の違いすら理解出来ていない輩に限って、やれ「スパイ活動は違憲だ」とか、「国民監視を許すな」とか、トンチンカンなことを言い出すことが予想されます。
こうした、戦略的思考を持ち合わせていない、感情的でノイジーな左翼政党や左翼メディアは、一部の市民からの反対意見をことのほか大きく取り上げ、
国家情報局が、さも「危険な組織」であるかのような印象操作を仕掛けてくるでしょう(なので、賢明な読者の皆さまは、くれぐれも騙されないようにご注意ください)。
終戦から80年が経とうというのに、私たちは、いったい、いつまでこのような不毛な議論を繰り返すのでしょうか。
もう、片時の猶予もありません。いつまでも狭視野的なお花畑に居続けるのではなく、一人一人が情報リテラシーを高めて、
国家情報局を持たないという選択肢の方がはるかに危険であることを、理解すべきだと思います。
おわりに
「国家情報局」を創設する目的はただ一つです。それは、
「有事に際しての国民の生命・身体・財産の保護」
の一言に尽きます。
そのために「国家情報局」を創設する訳ですから、反対する理由など何一つないのは明らかです。
高市さんは、日々、インテリジェンス・コミュニティからもたらされる質の高い情報ブリーフィングを通じて、
正々堂々、ニッポンの宰相としての造詣を深めて頂ければと思います。
いつも、ありがとうございます🍀
