資本主義から半歩だけ距離をおく
益田ミリさんの『週末、森で』『きみの隣りで』シリーズがすごく好きで、主人公の早川さんの生き方に憧れの気持ちを抱いたのが、8年ほど前のことだ。
森の近くで暮らす翻訳家の早川さんを週末ごとに訪ねてくる経理部ひとすじ14年のマユミちゃんと旅行代理店勤務のせっちゃん。仲良し3人組がてくてく森を歩く……共感度120%の四コマ漫画。
森の近くに引っこした翻訳家の早川さんは、 夫と小学生の息子・太郎との3人暮らし。ある日、太郎は森に生える〝優しい木〟について、お母さんが教えてくれたあることを、大好きな人にそっと伝えた。優しい木は優しいから何でも話していいんだって、うまく言えない気持ちとか……。森の中を行き交う人たちの間にじわじわ優しさが広がる名作漫画。
森で暮らしながら翻訳の仕事をする早川さん。近所では着付け教室を開き、中学生に英語を教えることもある。
都会で歯をギリギリとさせながら働く友達のマユミちゃんやせっちゃんは、ときおり手土産を持って遊びに訪れ、早川さんに愚痴をこぼす。けれど森へ出かけたり、カヌーを楽しんだりと自然に触れるうちに、彼女たちの表情はやわらぎ、心も穏やかになっていく。
私がこの作品を読んだのが、社会人2〜3年目のころ。社会の酸いも甘いも身に染みてわかってきたところだったから、マユミちゃんやせっちゃんの状況が、痛いほど理解できた。
それと同時に、早川さんの生き方に強烈に憧れた。森で暮らしながらPCで翻訳の仕事をする働き方はもちろん、続編の『きみの隣りで』で描かれる姿にもうなづいた。早川さんは結婚し母になるのだけど、それでも年に一度の海外ひとり旅は欠かさない。どんなライフステージにあっても、“個”としての姿勢を崩さないさまに、すごく共感した。
これらの作品を読んでから、早川さんをひとつのロールモデルとして、頭の片隅に置くようになった。
それから8年近く経った、今年3月。PCひとつで仕事ができる状況にまで持ってこれたはいいけれど、東京から住まいを移すということには、まだためらってしまう。そんなモヤモヤを抱えながら軽井沢でワーケーションをしていたときに出会ったのが、青木真平さんの『資本主義を半分捨てる』だった。
生きづらさに満ちた社会で、資本主義の価値観に縛られず多様なありかたを模索する。都市と山村を行き来して考えた、自分が心地よく生きるための方法とは。
著者のいう「ちょうどよく生きる」「他人の評価や市場のもの差しにとらわれず自分だけの生き方を見つけよう」という主張とその実践に、長年あったモヤに光が射したような、新たな視点をもらえたような気がした。
自分にとっての“ちょうどよい”資本主義との距離感を模索するために、まずは東京から離れる頻度を増やすことから始めようと思った。その実践のひとつとして、いま「遊ぶ広報」という地域滞在プログラムを利用して、高知県中土佐町に14日間ワーケーションに来ている。
『遊ぶ広報』とは、13泊14日暮らすようにまちに滞在しながら、あなたの心が動いた瞬間をSNS発信すると7万円の滞在費が補助される、ちょっとお得な地域滞在プログラムです。
いま連泊しているゲストハウス「おやまどり」が、『週末、森で』の早川さんが住んでいたような、森の中にある。




ここで、畳に座りながらPC仕事をしたり、疲れたら森を散歩したり、バスに30分揺られて町中に買い物に出かけたり……といった生活をしてみている。
そうしてみて初めて、早川さんの生活がちょっとだけ理解できたような気がした。畳と布団って、こんなにも落ち着くんだなとか。森の中で“都会”と仕事をするって、こういうことなんだなとか。虫の音しか聞こえない環境だからか、「いつぶりだろう」と思うくらい、ぐっすり眠れる。
憧れの早川さんの生活に近づきたい。資本主義や東京とのちょうどよい距離感を見つけたい。そんな目標に向けて、少し前進できた気がした。
今回、思い切ってこのプログラムに参加して心から良かったと思った。
