#12|給料がおかしくなっても、従業員は一つになれなかった
以前、給料を払われた人と、払われなかった人がいたことで、従業員同士の関係が少しずつ変わっていった話を書きました。
お金の問題は、人間関係を変えます。
実際には、あの記事に書いた以上にぶつかり合いもありました。
様々な考え方、行動の仕方がありました。
従業員同士で揉めたくなかった
先に給料を払ってもらった人に対して、
「その人が先に支払われるってことは、ほかの人はそのぶん遅れるってことだよ」
と、納得できない人もいました。
払われた人が悪いわけではない。
それはわかっている。
でも、自分が後回しにされていることを、簡単に許すことはできない。
私は、従業員同士で揉めるのが嫌でした。
というか、ただでさえ給料を払ってもらえず大変なのに、人間関係まで悪くなった職場で仕事をするなんて、気が重すぎる。
だから誰かを攻撃したり壁を作るようなことに、ならないようにしていました。
感情をはっきり口にする人もいました。
給料を払ってもらえた人を、陰で責める人。
個人で強く請求する人を、「自分勝手だ」と言う人。
何も動かない人に、「なぜ黙っているのか」と怒る人。
誰かが誰かへの不満を口にすると、私は、
「そうだよ。でも、それ言っちゃうとさ」
と、波風が立たないように答えていました。
そんな態度に、イラつかれもしました。
わかるけど。
それでも、基本的には、
「従業員同士で揉めたくないんで」
というスタンスでいました。
でも、未払いが続けば、波風を立てないようにしているだけでは済みませんでした。
みんなで動けると思っていた
「会社と話すなら、一人よりみんなで行ったほうがいい」
給料がおかしくなり始めた頃、従業員同士でそんな話をするようになりました。
会社には労働組合がありませんでした。
これを機会に作ろうか、という話も出ましたが、#09|誰も会社を止められなかったように、従業員の中で先頭に立って代表になる、という人もいませんでした。
それでも、一人では無理でも、みんなでならできることもある気がしました。
連名で支払いを求める、情報を開示してもらう。
それでも駄目なら、みんなで会社を訴える。
そんな話も出ました。
けれど、話しているうちは「みんな」でも、いざ動くとなると違いました。
それぞれに考えがあり、事情がありました。
同じ会社で働き、同じように給料を待たされている。
それなら一つにまとまれると思っていました。
でも、そんなに簡単ではありませんでした。
一人で会社を訴えた人
早い段階で、個人で少額訴訟を起こした人もいました。
働いた分の給料を請求する。
それは当然の権利です。
何も悪くはない。
その人にしてみれば、
「みんなに合わせて待っていたら、自分の給料はいつまでたっても戻らない」
ということでした。
でも、訴えた人への支払いに先にお金が回れば、そのぶんほかの人への支払いが遅れる。
ほかの従業員からは、
「みんな困っているのに、自分さえ良ければそれでいいのか」
「全員で会社と話そうとしているのに、勝手に動くな」
という不満が出ました。
給料を請求するのは、当然の権利。
でも、一人が先に動けば、そのしわ寄せが自分に来るかもしれない。
どちらの言い分も、間違ってない。
会社を訴えないでほしい人
会社を訴えることを反対する人もいました。
「そんなことをしたら、会社が潰れる」
「働く場がなくなったら困る」
だから、訴えて大ごとにするのはやめてほしいと言う。
そういう人は、家族に収入があったり、貯金に余裕があったりしました。
しばらく給料が入らなくても、すぐに生活に困るわけではない。
慣れない場所で新しい仕事を始めるより、たとえ収入が少なくなっても、この会社で働き続けるほうがいい。
未払いの給料を取り戻すことより、働く場所がこの先も残ることのほうが大事でした。
定年まであと少しという人は、
「そこまで会社が持ってくれればいい」
と話していました。
状況をよくしたいというより、自分が定年を迎えるまで何とか持ちこたえてほしい。
あと少しなら、このまま耐えたい。
そういう人たちの気持ちも、聞けばなるほど、と思いました。
同じように給料を待っていても、守りたいものは違った
みんなでまとまって動きたい人。
一人でも先に給料を取り戻したい人。
会社を残したい人。
定年まで何とか持ちこたえてほしい人。
同じように給料を払われていなくても、守りたいものはそれぞれ違いました。
誰かが特別に身勝手だったというより、みんな自分や家族の生活を守ろうとしていたのだと思います。
どの考えにも言い分があり、それぞれに事情がある。
だからこそ、まとまりませんでした。
まとまれないことに、苛立っていた
私は、まとまって交渉するのが良いと思っていました。
状況は違うかもしれないけれど、会社の給料が遅れていることは同じなんだから、そこはみんな一緒でしょ、って。
でもそうじゃなかった。甘かった。
「これじゃまとまれない」
「勝手に動かないで、もう少し周りを見てよ」
そんなふうに苛立っていたけれど、みんなで動くのが一番だというのは、私にとっての正解でしかありません。
自分の生活をどう守るかは、多数決で決めるものでもない。
そして、同じ考えの人が多数だったわけでもありませんでした。
もともと、一人ひとりの主張が強い集団でした。
だからまとまれなかったのか。
それとも、給料が止まり生活がかかれば、どこの会社でも同じことが起こるのか。
それは分かりません。
どちらにしても、給料がおかしくなれば、みんな自分の生活を守るのに必死になります。
冗談抜きで、死活問題です。
簡単にまとまらなくて、当然といえば当然でした。
お金を取り戻すことだけじゃなく
未払いのお金をどう取り戻すのか。
みんなで動くのか、一人で動くのか。
違っていたのは、未払いに対する考え方だけではありません。
自分の進路についても、それぞれ違うことを考えていました。
会社に残るのか。
辞めるのか。
辞めるなら、いつ、どう辞めるのか。
残る人や仕事のことが気になって、なかなか動けない人もいました。
一方で、誰とも意見をぶつけることなく、周りには何も言わず、自分が動きやすいタイミングで会社を辞めた人もいました。
次回は、水面下で会社を出る準備をしていた人たちについて書きます。
#11|会社は突然おかしくなったわけではなかった
#12|給料が止まっても、従業員は一つになれなかった
#13|自分のことを優先してもよかった
