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#05|払われた人と、払われなかった人

給料の遅れが続くなかで、社長はこう言いだしました。
「困っている人は言ってくれ」
いや、みんな困ってるけど。
そもそも、困っているとかいないとかの問題じゃない。
給料はもともと、働いた分が決められた日に支払われるものなんだから。

でも会社は、全員に給料を払えないから、困っている事情を個別に聞き、必要だと判断した人には先に支払うようになりました。
給料が、お願いして受け取るものに変わっていきました。

会社に認めてもらえる困り方

私は、切実な状況にいた人から、
「事情を話して、いくらか払ってもらった」
と聞きました。
いくら支払われたのかまでは知りません。
その人が本当に困っていたことは、わかっていました。
だから、
「良かったね」
と思いました。わりと本心です。
でも同時に、複雑な気持ちにもなりました。

もちろん、払ってもらった人が悪いわけではない。
でも私だって、困っていないわけではない。払ってほしい。
じゃあ、どこからが「会社に認めてもらえる困り方」になるのか。
家賃が払えない。
大きなローンがある。
家族にお金がかかる。
貯金がもうない。
困っている事情やレベルは、人それぞれです。
それを社長に説明して、
「この人には先に払おう」
と判断してもらう。
給料を受け取るために、なんで自分の生活を話さなければいけないのか。
お願いすれば、払ってもらえるかもしれない。
でも、お願いしたくない。
心の中が、何とも言えない気持ちでした。

お金は、人間関係を変える

最初の頃は、みんな同じテンションで会社への不満を話していました。
「おかしいよね」
「どうなっているんだろうね」
全員が同じ状況にいたから、話せたのだと思います。

でも、空気が少しずつ変わってきました。
誰がいくら受け取ったのか。
誰にいくら未払いが残っているのか。
自分はいくら払ってもらったのか。
みんな、詳しいことを言わなくなりました。
表では普通に話していても、何でも話せる空気ではなくなっていきました。
お金の話になると気まずくなる場面も多くなったので、
「これは言わないほうがいいかな」
と考えて喋るようになりました。

同じ会社で働いているのに、誰が自分と同じ状況なのかわからない。
ただでさえ給料のことで大変なのに、従業員同士までぎくしゃくしたくない。
それでも、
「この人は受け取ってるかも」
「私は、まだ待てると思われているのか」
「言った人から先に払われるってなんなの」
そんなことを考えて、心がざわつくのは仕方ない。
本来、不満を向ける相手は会社のはずなのに。
決められた日に給料を払わない会社。
従業員に、自分がどれだけ困っているかを説明させる会社。
なのに会社のせいで、従業員同士の関係まで少しずつ変わっていきました。

会社への気持ちが、ばらばらになった

従業員同士で話し合い、会社に掛け合おうとしたこともありました。
一人で言っても聞いてもらえない。
それなら、みんなで話したほうがいい。
最初は、そんな流れもありました。
でも、全員が同じ方向を向くのは難しくなりました。
未払いの金額が違う。
生活の状況も違う。
会社をまだ信じている人もいれば、もう信用していない人もいる。
すぐに辞めたい人もいれば、できれば残りたい人もいる。
払われた人と、払われていない人とでは、会社への見方も変わってきます。
何度か、みんなで話し合おうとはしました。
でも結局、まとまることはできませんでした。

社長は、従業員をそんな風に分断しようと、意図していた訳ではないとは思います。
たぶん、そこまでは考えてない。
その場しのぎで、払えるところから払っただけなのだと思います。
それでも結果として、
払われた人。
払われなかった人。
同じ会社の中で、少しずつ足並みがそろわなくなっていきました。

次回は、給料の問題が起きる前から、
「この会社、変ですよ」と言われていた話をします。
それでも私は、「うちはこうなのよ」と笑っていました。
いま思えば、ずいぶんのんきな話です。


#04|未払いの始まり
#05|払われた人と、払われなかった人
#06|長くいるうちに、会社のおかしさが普通になっていた


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