を、忘れたをんな
「パスポート、まだ申請されてないみたいなんですけど」
学校から連絡が来た。パスポートのコピーを旅行会社へ提出しなければならないらしい。
そもそも、修学旅行があることすら聞いていない。
「パスポート、申請した?」
「をぅぅ」
「ってか、どこ行くねん?」
「たぶん、台湾」
「プリントは?」
「もらってない」
「んなわけないやろ!」
とにかく、今日中に申請しないことには出国すらできない。それ以前に旅行代も、まだ払ってへん。

「そういや、病院の注射いつやった?」
「をぅぅ……」
知らんがな。予約したのはパパやない。
「予約したんやろ?」
「……をぅぅ」
子宮頸がんワクチンの接種は、本来なら無料で受けられた。ただ期限がすでに過ぎていたため実費である。
『26,000円』
無料期間を逃した時点で、すでに一度やらかしている。確認させたら、ちょうど今日だった。
「何時?」
「……をぅぅ」
「はよ電話して確認しろ!」

病院帰り、郵便受けをガチャッと開けると、黄色い封筒が入っていた。黒い枠の中に、でかでかと書かれている。
「重要なお知らせです」
さらに、
「親展 緊急」
高校生の娘に届く郵便物としては、ずいぶん穏やかではない。
「なんか来てんで」
封筒を渡すと、娘の顔が曇った。
「UQ、解約した?」
「をぅぅ……」
娘は三、四か月ほど前、UQから楽天モバイルへ乗り換えている。新しいスマホを使い、新しい回線で電話をし、新しい通信会社と楽しく暮らしていた。その陰で、古い通信会社との関係だけがひっそり続いている。
娘の中では、とっくに別れた相手だった。
毎月、チャリン。
別れ話をしたつもりで新しい恋人のところへ行き、元恋人から毎月きっちり請求が届いている。

そして、数日後。郵便受けをそーっと開けると、今度はピンクである。ただし、書かれている文字はかわいくない。
「最終通告書在中」
「これ何?」
「……をぅぅ」
ネットショッピングの支払いを忘れていたらしい。
「自分、クレジットカードも作る前に、ブラックリスト入りする気か」
「忘れてただけじゃん」
「それを滞納言うねん」

高校生の夏休みに忘れるものといえば、宿題くらいだと思っていた。娘は違う。ずいぶんと幅広い業界に迷惑をかけながら夏を満喫していた。
最近では、郵便受けを開けるのが少し怖い。
次は何色なのだろう。
赤紙だったらどうしよう。
翌朝、スマホを見ていると、ニュースの見出しが目に入った。
「犬の飼育で認知症リスク48%低下」
ココがいる。リンもいる。
……うち、犬二匹もをるやん。
天野雫さんへ
あなたから突然、「を」を3本渡されてから、僕は平安時代まで遡りました。

そして僕は気づきました。
「をかし」がある。
「をかしな」もある。
「をかしき」もある。
すると、コメントが届きました。

「しりとりって何度も同じ言葉使ってもよかったんでしたっけ??」
……。
忘れていました。さらに、格助詞という条件まで増えました。
……鬼畜です。
『〇〇を、忘れた女』
だったら、〇〇を消してしまえばいい。
『 を、忘れたをんな』
ちゃんと格助詞です。これにて「を」3本、愛を込めて完走です。
雫さん、素敵なバトンをありがとうございました。せっかくなので、お礼をさせてください。
このタイトルの最後の文字、『な』をお返しします。
ちゃんと、日本語の「な」です🩷
安心してください。私は紳士なので、1本でいいですよ😏✨
……ね?♡
P.S💌
他の「を」から始まるタイトルのエッセイです✨asaさん、コロッバー師匠、詞憧英明さん、ぱっちーさん、ちょろすさん、ありがとうございます😊
