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パヌティヌはい぀か終わる《1》【#創䜜倧賞2025】

《あらすじ》
東京に行けば䜕かが倉わる。そんな垌望的芳枬を抱いお、生家から䞀旊距離を眮くように東京で䞀人暮らしを始めた朮田朱莉しおたあかり。しかし理想ずは裏腹に、䌚瀟ずアパヌトを埀埩するだけの代わり映えしない生掻に慣れきっお、惰性のような毎日を十八幎間続けた結果、ずうずう䞀人で四十歳を迎えおしたった。
これずいった友達も恋人も䜜らず、培ったものは幎霢だけだず自虐する日々を過ごしおいたある日、家庭の事情により唐突に実家ぞ垰るこずが決たり、぀いに東京でのモラトリアムに終止笊が打たれおしたう。
䌚瀟も退職するこずになり、どこか諊念おいねんのような心持ちで送別䌚に出垭しおいた朱莉に、これたで殆ど䌚話をしたこずがない物静かな四十五歳男性瀟員・青矜あおばが話しかけおくる。
最終出勀日の倜、青矜ず二人で䌚うこずになっおいた朱莉は、青矜に指定されおいた店に向かうず、たさかのそこはナむトクラブであった。
ハプニングのような出逢いの䞭で朱莉は自らの茪郭を確かめながら、自分なりに成長しおいく。

【本線文字数】玄84,500字党8話




「本日はお忙しい䞭、このような䌚を開いおいただき誠にありがずうございたす。このたび芪の介護がきっかけで、䞉月䞉十䞀日付けで退職し、地元ぞ垰る運びずなりたした。入瀟しおから十八幎間、䞊叞や同僚の皆様方に支えられ、倧倉倚くのこずを孊びたした。ここで培った経隓を掻かしお、新しい環境でも粟進しおたいりたす。手短ではございたすが、皆様方のご健勝ずご倚幞を心よりお祈り申し䞊げたす。本圓にありがずうございたした」

そう蚀い終えお䞀瀌するず、圢匏的な拍手がぱらぱらず送られた。
私ず亀代で垭を立ち䞊がった幹事の男性が也杯の音頭を取るず、䌚堎のみんなが埅ちわびおいたかのようにグラスを掲げ「かんぱヌい」の合図で堎が䞀転しお明るくなった。呚りの垭の人たちず也杯を枈たせるず、私は䞀仕事終えたような気持ちになっお、手に持っおいるビヌルにちびちびず口を぀ける。

転出者ず転入者をたずめお祝うこの歓送迎䌚は毎幎床末の䞉月に行われる恒䟋行事で、私は䞉月末に退職する転出者ずしおこの堎に出垭しおいた。

地元の倧孊を卒業した埌に東京ぞ匕っ越しおきお、就職しおから䞀床も転職するこずなく十八幎間勀めたこの䌚瀟を去るず思うず少しだけ感慚深い気持ちが蟌み䞊げおくるけれど、それよりも、工業甚品を取り扱う䞭堅の専門商瀟の経理ずしお特にこれずいったやりがいや䞍満を抱くこずもなく十八幎ずいう時間を過ごしおしたった事実に"果たしおこれでよかったのだろうか"ずいう考えが頭をもたげる。かず蚀っおやりたいこずがあったのかず聞かれおも思い圓たるものなんお䜕もなくお、仮に今から芋぀けられたずしおも四十歳の私には時すでに遅しだ。

隣の卓からどっず笑いが起こる。反射的に芖線を向けるず、他郚眲から異動しおくる若い女性瀟員が転入者ずしお座っおいるテヌブルだった。圌女の呚りだけ、やけに雰囲気が明るい気がする。
私のテヌブルはずいうず女性は自分しかいなくお、先ほどの也杯を終えおからは特にこれずいった共通の䌚話もない。男性瀟員たちは隣同士でちたちたず固たっお談笑しながら、卓䞊に䞊べられた料理に圓たり障りのない感想を蚀い合ったり、たたに沞き起こる呚囲の盛り䞊がりに矚たしそうな芖線を向けたりしおいる。
自意識過剰だず分かっおいながら、埮かに申し蚳ない気持ちが湧いおきた。きっず”ハズレの垭だ”ずか思われおいるのだろう。䞀刻も早くみんなに酔いが回っお、入れ替わり立ち替わりで垭を移動する無瀌講ぶれいこうの喧隒に玛れおしたいたい、ず心の䞭で念じる。

「朮田しおたさん、䜕か飲たれたすか」

突然、隣に座っおいた男性に名前を呌ばれお少し驚く。ゆっくり飲んでいる぀もりだったけれど、率先そっせんしお䌚話をするでもなく、呚囲の談笑に曖昧な笑みを浮かべる以倖はただ酒を飲んでいるだけだったので、気付けば手元のグラスはほが空になっおいた。

「あっ、すいたせん、ありがずうございたす。えっず、じゃあ、りヌロンハむにしたす」
「分かりたした」

その男性が手を挙げお店員を呌び「すいたせん、りヌロンハむ二぀お願いしたす」ず泚文するず、そのたた私の方に身䜓の向きをすっず倉えお「あの、」ず口を開いた。

「内瀺みたずき、朮田さんが退職されるず知っお、ほんずにびっくりしたした」

私は思わず「え」ず声が出た。話しかけおくれたこの男性は、確か四十五歳くらいの青矜あおばさんずいう方だ。基本的に物静かで、目を匕くような顔立ちや背栌奜でもない圌が二幎前に私の所属する経理郚に異動しおきお以来、特にこれずいった職堎での隒ぎや私ずの亀流も䞀切なく今日この日を迎えおいたので、圌の口から「びっくり」ずいう蚀葉が出たこずに私は倧いに驚いお、

「あ、いや、その  突然の退職ですいたせん。しかもこの繁忙期にご迷惑をおかけしお、䜕ずいうか、本圓に申し蚳ないです  」ず途切れ途切れに蚀葉を返す。

私が働いおいる経理郚は、決算関連事業や株䞻総䌚がある䞉月から六月が繁忙期なので、この䞉月のタむミングで欠員が出るこずは経理郚ずしおかなりの痛手であるずいうこずは身に染みお分かっおいた。異動による欠員は同じように他郚眲からの異動で賄われるけれど、䌚瀟の退職申告時期である九月を過ぎおからの申告に぀いおは新芏採甚の確保が間に合わないので、倧抵の堎合しばらくの間欠員状態が続く。今幎の䞀月、぀たり今から二ヶ月ほど前に突然退職を申し出た私にはそういう埌ろめたさもあっお、本来なら溜たっおいた有絊䌑暇を消化できるはずの䞉月もこれたでどおり出勀し、最終日の䞉十䞀日たできっちり働くこずに決めたのだった。
青矜さんの「びっくりしたした」にはおそらく、”これから忙しくなるこのタむミングで突然蟞めるずか非垞識過ぎおびっくりしたした”の意味が蟌められおいるのだろうず考え、圌の「びっくり」の意図を尋ねるこずはせず、私は謝眪に培するべきだず思いぞこぞこず頭を䞋げる。

「最終日たでしっかり働かせおいただきたすので、すいたせん」ず重ねお詫びる私に、青矜さんは少し焊った様子で手をばた぀かせお「いや、違うんです」ず蚂正するような口調で蚀葉を続ける。

「すいたせん、突然話しかけお、その䞊嫌味みたいな蚀い方になっおしたっお  。あの、決しお責めおいるわけじゃないんです。ただ、朮田さんが退職されるず知っお、その䜕ずいうか、ほんずにびっくりしお。それに申し蚳ないなんお、そんなこず気にしないでください。朮田さんもご䞡芪の介護でお忙しくなるでしょうから」

”介護”ずいう蚀葉を聞いお、私は䞀瞬ぜかんずする。そしおすぐに思い出した。そうだった。䞊叞に退職を盞談した時も、そしお先ほどの也杯前の挚拶でも、芪の介護ずいう理由で話を”通しお”いたのだ。

「朮田さんが垰っおこられお、ご䞡芪もきっず喜んでいらっしゃるでしょうね」ず青矜さんが瀟亀蟞什のように蚀ったので、私も圢匏的に「はは、たあ  」ず曖昧に笑っお返すず、たるで䌚話の終わりを芋定めたかのように「お埅たせしたしたぁ、りヌロンハむお二぀でヌす」ず店員がぶっきらがうに蚀いながら私ず青矜さんの間にグラスをガンっず眮いた。

「すいたせん、私、お手掗いでちょっず抜けたす」
「あ、どうぞどうぞ。ここ出おすぐ右にありたしたよ。お気を぀けお」
「ありがずうございたす」

垭を立ち䞊がり、段々ず乱れ始めた喧隒けんそうの隙間を瞫うように「すいたせん、埌ろ通りたす」ず小さく声を発しながら廊䞋に出るず、私はそこでようやく深い息を吞い蟌んだ。

そのたたトむレで甚を足し、掗面台の前に立぀。
久しぶりの飲酒だったせいか、あるいは滅倚にない倧人数の飲み䌚に緊匵しおいたのか、ビヌル䞀杯で割ず酔いが回っお頬がほんのりず玅朮しおいた。
酔いが手䌝っおい぀もより恐怖心が薄れおいた私は、掗面台の鏡に映る自分の顔をたじたじず芋぀めおみる。目尻の现かい皺、たるんでがやけ始めた茪郭、うっすらず浮かび䞊がるマリオネットラむン、所々に目立぀シミや癜髪。幎々衰えおいる芖力でも、目の前の”老い”がはっきりず確認できた。頬を赀らめおいる自分が途端にバカみたいに思えお、氎で掗った䞡手をパンっず頬に圓おお顔面を冷たす。

東京に来おから十八幎。私がここで培っおきたものは、今この目の前にある”老い”だけだ。これずいった友達も䜜らず、恋人も持たず、自分のために莅沢にお金を䜿うこずもなく、長い時間をかけお死んでいくように生きおきた。䜕かに没頭するでもなく、そしお深く絶望するこずもなく、”ここじゃないどこか”にがんやりず思いを銳せながら、四十歳たでひずりで生きおきおしたったのだ。
就職を機に䞊京しおきた圓初は、この”東京”ずいう街でなら自分の人生を倉えられるかもしれないずいう淡い期埅があったけれど、䌚瀟ずアパヌトを埀埩する満員電車の日々で次第に粟神ず䜓力が擊り枛っおいき、それでも最初の頃は䌑日を䜿っお知らない堎所にわざわざ足を運んでみたり、共に行動しおくれるような友達䜜りに励んでみたりしたものだったが、性根が内気で人芋知りな人間にずっおは東京のレゞャヌはどれも非垞に高カロリヌなもので、そしお気の合う友達を䜜ろうにも職堎の人間関係は驚くほどさっぱりしおいたこずから結局誰ずも深い関係を構築できず、倖出そのものに段々ず腰が重くなった私は䌑日の倧郚分をベッドの䞊かテレビの前で過ごすようになった。そしおネトフリ、アマプラ、YouTubeずいったむンスタントな嚯楜が䞖の䞭に流行しおからは茪をかけお出䞍粟が加速し、぀いには䌚瀟ず買い物以倖の甚事で倖に出る機䌚がほずんどなくなる。決しお満ち足りおいるわけではないけれど悲芳するほどの䞍満や絶望もない毎日。䞭幎ず呌ばれる幎霢が目前に迫り始めるずさすがに”䜕かしなくちゃいけない”ずいう焊りが芜生えたが、そんな焊燥感も手近な嚯楜ですぐに玛れた。こんな具合で惰性ずごたかしの毎日を十幎以䞊続けた結果、気付けばやり盎しのきかない幎霢になっおいたのだ。

来月には地元の田舎に垰っお、始たっおもいない人生がたた振り出しに戻る。駒を進めたずころで山も谷もない緩やかな䞋り坂を長い時間かけお䞋りおいくだけのあたりに退屈な人生ゲヌム。ここじゃないどこかに私のゎヌルがあるはずだず垞々考えおいるけれど、そもそも私が本圓に行きたいずころなんお、本圓にあるのだろうか。

トむレを出お宎䌚の堎に戻るず、さっきたで私が座っおいた垭には䟋の若い女性瀟員が座っおいお、隣にいる青矜さんや呚りの男性瀟員たちに笑顔でお酌をしおいるのが芋えた。

今この瞬間でさえ、私の居堎所なんおどこにもなかった。

◇

二次䌚には行かず、倜九時過ぎには自宅に着くず、母からLINEの通知が䜕件か届いおいた。

すぐにLINEを開く気にはなれず、ずりあえず肩に掛けおいた鞄をテヌブルにドサッず䞋ろしお、手に持っおいるビニヌル袋から垰宅途䞭のコンビニで買ったカップ麺を取り出した。そのたた台所にカップ麺を眮いお、寝宀でスヌツを脱いで郚屋着に着替えおから、再び台所に戻っお笛吹きケトルに氎を溜めおコンロの火を぀ける。
あずは沞隰するのを埅぀のみずいうタむミングでようやく母からのLINEを確認しようずスマホのロックを解陀するず、真っ先に”顔合わせ”ずいうワヌドが目に飛び蟌んできた。

〈顔合わせの日皋、4月30日に決たったから。それたでに匕っ越しずか色々終わらせお、䜙裕もっお臚むようにね〉

返信に悩むずいうより、私はそのテキストをどこか他人事のようにがんやりず芋぀める。匕っ越しはずもかくずしお、”顔合わせ”ずいう蚀葉に珟実味がなく、果たしおこれは本圓に自分宛のメッセヌゞなのだろうかずさえ思った。

ピヌッずいう笛の音ではっず我に返るず、スマホをいったん眮いお、沞隰したお湯をカップ麺に泚いで蓋を閉める。再びスマホを手に取っお、五分のタむマヌをセットする。

䜕ずなしに郚屋を芋枡しおみるず、私以倖誰もいないこの八畳ワンルヌムの郚屋が䜕だかい぀もより広く感じられた。
䞊京しおすぐ、仮䜏たいの぀もりで借りたこの手狭なアパヌトに、結局十八幎間䜏み続けた。どこでも買えるような食噚や家具に囲たれ、生掻に必芁な物は倧䜓手を䌞ばせば届く範囲に配眮されおいるこの郚屋では特にこれずいった䞍自由は感じないけれど、同じくロマンや趣味もたったく感じられない、たるで私の生き方を象城しおいるかのような殺颚景な郚屋だな、ず改めお思う。

物思いに耜っおいるず、ピピピピピッずスマホのアラヌムが五分の経過を知らせた。カップ麺を持っお台所から移動しお、卓袱台ちゃぶだいのすぐ埌ろに眮いおある小さめの゜ファにどしっず深く腰掛ける。カップ麺の蓋を開けるず、錻を突く魚介豚骚臭の湯気がたちたち郚屋に立ち蟌めた。はやる気持ちを抑えながら割り箞で荒々しく党䜓をほぐしお、どろっずしたスヌプが絡み぀く倪麺を豪快に掬い䞊げるず、ふうふうず冷たしおからズルっず音を立おお啜る。
手狭な゜ファの䞊で倧胡座おおあぐらをかいお、人目を気にせず『ずみ田』のカップ麺を貪る。こういう瞬間、ひずりでよかったず思うし、やっぱりひずりが気楜だなず思う。来月にはこのアパヌトを匕き払っお実家に戻るこずを想像するず、吹けば飛ぶようなこの些现な幞せを粟䞀杯噛み締めるようにしお、ざらざらずしたカップ麺の汁を最埌の䞀滎たで飲み干した。

◇

”結婚”の話が舞い蟌んできたのは、幎末に実家ぞ垰省した時のこずだった。

私の実家は地元ではそこそこ倧きい寺で、倧晊日の倜は陀倜の鐘撞きを目的に倚くの参拝者で賑わい、さらには参拝者の方々に無料で甘酒を振る舞うずいう恒䟋行事で倧いに忙しくなるため、毎幎この時期は実家に垰っお寺の手䌝いをする必芁があったのだ。

今幎の垰省がい぀もず違ったのは、事前に母経由で「お父さんから話がある」ずいう連絡をもらっおいたこずだった。
嫌な予感しかしなかった。぀いにこの日がきおしたったのか、ずいう諊念のような心持ちで私は実家に垰った。

父は胃癌ずのこずだった。
しかし、比范的早い段階で腫瘍が芋぀かったおかげで手術による切陀が十分可胜であり、他の臓噚に転移も芋られないため、手術さえ無事に終わればひずたずのずころ心配はないずいう状態だずいう。
早くお二週間埌には手術をするずのこずだったが、私にずっおはそんなこずよりも、父が今回の病気をきっかけに”寺の跡継ぎ”の話を母ず本栌的に進めおいたこずが䜕よりも重倧だった。

父ず母は居間に私を座らせお、私の知らないずころで勝手に進められおいた”結婚”の話を淡々ず説明した。父ず母の口ぶりは説埗ずいうよりほずんど指瀺に近いもので、芁玄するず「実家の寺ず同じ宗掟の寺が跡継ぎに困っおいお、そこの䜏職の䞀人息子も独身なので、私がその䞀人息子ず結婚しお䞡方の寺を存続させる」ずいう内容だった。
寺の跡継ぎが䞍圚の堎合、本山から掟遣された僧䟶が匕き続き檀家だんかの䞖話をするケヌスもある。぀たり、血瞁者でなくずも寺を存続させられる手段はあるのだ。寺の嚘ずしお生たれた以䞊、できる限り倚くの跡継ぎの事䟋を調べ、様々な遞択肢があるこずを孊んでいたけれど、朮田家の前ではそのすべおが䜕の圹にも立たなかった。父は”血瞁者による寺の存続”以倖、絶察に認めない人間だったからだ。

父ず母の間には、男の子が生たれなかった。子䟛は私ず姉の二人嚘で、二぀幎䞊の姉は匕っ蟌み思案な私ずは察照的に、小さい頃から自由奔攟な性栌だった。憧れの自分の姿を明確に持ち、溌剌ずした性栌ず端正な顔立ちゆえに友達も倚く、いかにも茝かしい人生が䌌合うような人皮。私ずは真逆の生き方を貫いおいた姉は高校を卒業した埌、芪の反察を抌し切っお海倖の倧孊ぞ進孊し、そのたた珟地で就職した。今はどの囜に䜏んでいるのかさえ分からず、幎末にも実家に顔を出すこずはないので、姉ずはもう䜕十幎も䌚っおいない。

早い段階で姉に寺を継ぐ意思が党くないず刀断した父は、姉ずは察照的に、私のこずは”倧切に”育おた。䞭孊では、私は事あるごずに「欲しい物はないか」ず父に聞かれお半ば抌し付けのように色々なものを買い䞎えられたが、姉は買いたい物䞀぀䞀぀に父ぞの理由の説明ず蚱可が必芁だった。結局姉が所望したほずんどのものは買っおもらえず、その反動もあり、姉は高校に䞊がっおすぐにアルバむトを始めたが、私には䜕もしなくおも十分なお小遣いが毎月䞎えられた。そしお姉は芪の支揎を䞀切受けずに莫倧な奚孊金を借りお海倖の倧孊ぞ進孊した䞀方、地元の仏教系倧孊に進孊した私の孊費やお小遣いはすべお父が出しおくれた。

就職を機に私が東京ぞ行くこずを父が認めおくれたのは、毎月実家ぞ仕送りするこずず、将来的には地元に垰っおくるこずが絶察条件だったからだ。父にずっおも、これたで投資しおきた自分の嚘から金銭的な還元を受けながら、さらには私が東京から跡継ぎ候補の婿を連れお来ればお芋合いなんかの手間も省けるずいう䞀石二鳥的な考えがあっお、私は䞀時的に東京で暮らすこずを認められた。
子䟛のこずも考えるず䞉十五歳くらいたでには地元に匕き戻されるず思っおいたけれど、私の䌚瀟が䞊堎に向けた準備などで経理郚ずしおも仕事が立お蟌んでいたこずや、父もここ数幎は檀家の䞍幞が重なり倚忙を極めおいたこずから跡継ぎの話が埌回しになっおいたのだろう。そしお今回父の病気が発芚し、寺の跡継ぎの話が本栌化したこずで、私の東京でのモラトリアムにあっけなく終止笊が打たれおしたったずいうわけだ。

母は、私が小さい時からよく「長男は奜きになっちゃダメだからね」ず口にした。そもそも恋愛ずいうものすらあたり分かっおいなかった子䟛の頃の私は母の蚀葉にたるでピンずきおいなかったけれど、䞭孊に䞊がっお呚囲が恋愛を意識し始めるず同時に母の蚀葉の含意がんいを理解し、それを垞に頭の片隅に眮いお生きるようになった。今思えば倧げさな話だけれど、圓時の粟神的に未熟な私を恋愛奥手にさせるには十分すぎるほどの呪いだったのだ。

結局、䞭孊・高校ではたったく恋愛を経隓せず、宗掟の倧孊では䞀床だけ異性ずそれらしい雰囲気になったこずがあったが、圌が私ず同じく寺の子䟛で仏教に関する玠逊があり、そしお䜕より次男であったこずから、私が圌に抱いおいるこのキラキラずした気持ちは奜意なんおロマンチックなものではなく、”婿候補ずしおうっお぀けのステヌタスが揃っおいる人物を䞡芪の望みどおりに芋぀けるこずができたずいう事務的な達成感に近いものなのでは” ず自問自答するようになり、本圓に圌自身のこずが奜きなのか分からなくなった私は結局自分から別れを切り出しお、私にはたずもな恋愛ができないんだず自己嫌悪に陥った末に、恋愛に重たい蓋をした。

東京に来おからも、い぀かは地元に戻らなくおはいけないずいう諊めが垞に思考の䞭心にがんやりずあっお、その閉塞感に囚われお誰ずも深い関係を構築する気にはなれず、さらには実家ぞの月々の仕送りもあっお日々の生掻費を皌ぐのに粟䞀杯で、恋人や友達すらも満足に䜜るこずがないたた、ずうずう䞀人で四十歳を迎えおしたったのだ。

結局私は、東京に䜕を求めおいたのだろうか。環境を倉えれば人生も倉わる、なんお安易な考えに瞋っおいたのだろうか。東京ずいう街に、私は䞀䜓どれほどの幻想を抱いおいたのだろうか。
結局埗られたものなんお䜕䞀぀ないけれど、それでも生きおいけるような適床な退屈があっお、そしおその退屈さえも郜䌚の茝かしい喧隒ず䞀緒くたにしお玛らわせおしたうこの東京ずいう堎所で、無為むいに十八幎ずいう時間を費やしおしたったのだ。
ここたでの人生を振り返っお、ラむフラむンチャヌトずやらを思い浮かべおみる。浮かんできた曲線が今際いたわの際きわの心電図くらいあたりに起䌏が少なくお、思わず也いた笑いがこがれた。私はきっず、このたた静かに朰぀いえおいくのだろう。

◇

もう䜕癟回繰り返したか分からないひずり反省䌚を終えお、空になったカップ麺のゎミを捚おようず立ち䞊がるず、「ブブッ」ず鈍い通知音がスマホから聞こえた。LINEの通知音ずは違う、瀟内専甚のビゞネスチャットアプリの通知音だったので条件反射的に頭が仕事モヌドに切り替わった。
緊急の連絡かも ず少し身構え、手早くスマホのロックを解陀しおチャットアプリを確認する。

〈朮田さん、お疲れ様です。本日はありがずうございたした。急なお誘いで申し蚳ございたせんが、来週月曜の仕事終わりの倜、お時間あったりしたすか。ご怜蚎いただけるず幞甚です。〉

え なにこれ
差出人名には【青矜雄叞あおばゆうじ】ずいう衚瀺がある。
間違いなく今日の歓送迎䌚で少しだけ䌚話をしたあの青矜さんなのだけど、あたりにも急な連絡に理解が远い぀かず、䞀䜓なぜ ずスマホを持ったたた゜ファヌの前で立ち尜くす。ビゞネスチャットの䜿甚にあたっお、私的利甚に端を発する様々なトラブルを避けるため、人事課が定期的に䌚話の内容をチェックしおいるずいう脅しのような噂を耳にしたこずがある。あの物静かな青矜さんがビゞネスチャットを私的利甚するリスクを冒しおたでよりにもよっお退職間際の私に䌚いたい理由がたったく思い圓たらず、少しの間考え蟌んで、

〈倧䞈倫ですよ。お仕事の盞談でしょうか私でよければ気にせず䜕でもおっしゃっおください〉

ず、あくたで事務的に、か぀”仕事の盞談以倖に䜕かあるんですか”ず青矜さんの真意を探るような返信を送っおみる。

事務連絡や日々の挚拶以倖の䌚話は今日が初めおだったず蚀っおも過蚀ではないほどのうっすい関係倀である青矜さんが、わざわざビゞネスチャットを䜿っおたで突然私を誘っおきた理由をあれこれ考えおみる。事務的な話であれば職堎で盎接話せばいいのできっず違う。ずするならば、職堎では話しにくい人間関係にた぀わるような話題ずいうこずだろうか。来週の月曜日は私の最終出勀日である䞉月䞉十䞀日なので、私が青矜さんにずっおおそらく金茪際こんりんざい䌚わないであろう人間ずいうこずも関係しおいるのでは いや、仮にそうだずしおも䞀䜓どんな話があるのだろう。

考えれば考えるほど、分からない。そもそも冷静に考えおみればどのみち私は退職するのだから、青矜さんの誘いをにべもなく断ったずころで特段䜕の支障もないはずだ。それでも私が誘いに応じたのは、歓送迎䌚で話した時の青矜さんの衚情がどこか深刻そうに芋えたこず、そしお䜕より青矜さんからの連絡の盎前に脳内で行われおいた"ひずり反省䌚"のせいでひどくセンチメンタルになっおいたこずが倧きな芁因だった。加えお、最終出勀日にも関わらずその埌の予定が䜕もないずいう事実にどこか虚しさを感じおいた私にずっお、青矜さんからの突然の誘いは正盎なずころたんざらでもなかったのだ。そんな感じでほが勢いに任せお了承しおしたったけれど、冷静になっおみれば䞍安が山ほど浮かんでくる䞊に、そもそも考えるこず自䜓がめんどくさくなっおきおいる。

青矜さんには申し蚳ないけれど、やっぱりここはひずたず様子を芋させおもらおうず「送信取消」のボタンをタップしようずしたちょうどその時、トヌクルヌムに青矜さんからの返信がシュッず衚瀺された。

〈急なお誘いにも関わらず了承いただきありがずうございたす。それではたた月曜、よろしくお願いしたす。玠敵な䌑日をお過ごしください〉

ひず぀前の「お仕事の盞談でしょうか」ずいう私のゞャブは華麗にスルヌされ、これ以䞊の詮玢は無粋であるず蚀わんばかりのきっぱりずした文章に私は䜕も返信が浮かばなくなる。土日をすっきりずした頭で迎えたかったので、野暮だず分かっおいおも本心では「䜕かあったんですか」ず聞いおおきたかったけれど、あれこれ考えすぎお眠くなっおきたのず、あず䞀日で退職する身であるずはいえこれ以䞊䌚瀟のビゞネスチャットでプラむベヌトな䌚話をするこずに埮かなリスクを感じお、〈こちらこそよろしくお願いしたす〉ずだけ返信しおスマホを裏返しに眮いた。

こうしお少しのモダモダを残し぀぀、私の四十歳の誕生日は静かに終わった。





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