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パヌティヌはい぀か終わる《5》【#創䜜倧賞2025】

《》《》《》《》《》《》《》《最終話》

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目を芚たすず、芋知らぬ郚屋のベッドにいた。

口の䞭がひどく也いおいお、頭痛も少しある。
起き䞊がらずに、枕の䞊で頭だけを動かしお蟺りを芋回す。

十畳ほどの広さの小綺麗な郚屋。アむボリヌのカヌテンの隙間から倖の光が挏れ出おいお、壁に掛けられおいる時蚈を芋るず時刻は朝の八時のようだ。
カヌテンや家具ずいった郚屋の物は基本的にアむボリヌやオフホワむトずいった癜系統で統䞀されおいお、りサギのようにふわふわな毛䞊みの円圢ラグや、゜ファヌの䞊にちょこんず眮かれおいるチュヌル生地のクッションに若い女性っぜさを感じる。
真っ癜いテレビ台の䞊で写真立おず䞀緒に䞊べられおいるリヌドディフュヌザヌの匂いだろうか、郚屋の空気はどこかムスク系の銙りを纏たずっおいた。

その間違いなく嗅ぎ芚えのある甘い銙りに、はっず蚘憶が蘇る。
芹沢さん ず私が口に出そうずしたずころでリビングのドアが開いた。

「あ、朮田さん起きたんですね。おはようございたす」

私はベッドからゆっくりず起き䞊がり「おはようございたす  」ず消え入りそうな声で返しお、䜕ずなく状況を理解した。

「あの、すいたせん。私、芹沢さんのご自宅にお邪魔した蚘憶がたったくなくお  その、粗盞はございたせんでしたか  」

恐る恐る尋ねる私に「その蟺は心配しないでいいですよヌ。昚日、おいうか今日の午前二時あたりに朮田さんが居酒屋で寝始めたんで、そのたた私のアパヌトに連れお垰りたした」ず芹沢さんはきっぱりず答えた。

「  倧倉申し蚳ございたせんでした」
「いえいえ。元はず蚀えば私たちが朮田さんを連れ回しちゃったので。それより䜓調はいかかですか」
「少し頭痛がしたすが、他は倧䞈倫そうです」

「よかったです。ロキ゜ニン飲む前に、これよかったら食べおください」ず芹沢さんが蚀うず、郚屋の䞭にあるキッチンをごそごそず持っお、ロキ゜ニンの箱ず䞀緒に䞀本のバナナずペットボトルの氎を私に差し出した。

「すいたせん、すぐに食べられるのこれしかなくお」
「あ、いえ、ありがたいです」

シャワヌも济びず寝おしたったボサボサ髪の䞭幎女性が、差し出されたバナナに手を䌞ばす。今この瞬間、動物の逌付けみたいずか思われおいるんだろうか。
これ以䞊芹沢さんの郚屋に長居するべきではないず思い、猛獣のような勢いでバナナを胃に流し蟌みロキ゜ニンを氎で飲み蟌む。
「すいたせん、色々ずご迷惑をおかけしたした」ず芹沢さんに頭を䞋げ、地図アプリで最寄り駅を調べようず枕元に眮いおあった自分のスマホを手に取るず、

「あ、ここ束戞ですよ」ず芹沢さんがたるで私の行動を芋透かすように蚀った。

「束戞っお、千葉の束戞ですか」
「はい」

私たちが昚倜飲んでいた枋谷から束戞は盞圓距離があるはずだ。午前二時たで飲んでいたずいうこずは終電はもちろんなくなっおいたわけで、束戞たでのタクシヌ料金を思い浮かべた私は䞀気に血の気が匕く感じがした。

「あ、あの、本圓にすいたせんでした。タクシヌ料金は、もちろん私が党額払いたすので。倧金を立お替えおもらっお申し蚳ないです」

咄嗟に謝るず、芹沢さんは「フフッ」ず吹き出し、違いたすよ、ずくすくす笑った。

「行方さんが車で送っおくれたんですよ。あの人、基本ノンアルなんで私も青矜さんもしょっちゅう送っおもらっおるんです。行方さんの家もここら蟺にあっお、ちょうど垰り道なんですよ」
「  そういうこずだったんですね。行方さんには改めお、ちゃんずお瀌させおいただきたす」
「あの人バツ䞉なんであんたり近づかない方がいいですよ」
「ええ、そうなんですか」
「お酒を飲たなくなったのも、前の奥さんずお酒絡みで色々あったらしいですからね。危険人物です」

そう蚀いながらも芹沢さんの顔は終始楜しそうだ。昚日の居酒屋で芋た、歳の離れた芪戚のような二人の姿を思い出しお埮かに笑みが蟌み䞊げおくる。

「そんなこずより、朮田さん『ずみ田』っおいうラヌメン屋さん知っおたす」

芹沢さんに急に聞かれお、私は「あ、はい、知っおたすよ。確か、束戞が本店ですよね」ず答えた。䜕を隠そう、私が千葉の束戞を知っおいたのは『ずみ田』のカップ麺がきっかけだ。

「そうですそうです あ、もしかしお行ったこずありたす」
「いえ、お店には行ったこずないです。でもあのカップ麺はよく食べたすよ」
「ほんずですか 朮田さん、意倖にああいう濃厚系お奜きなんですね。これ自慢なんですけど、私の家のすぐ近くに本店があるので、よかったらお昌䞀緒にどうですか」

芹沢さんの蚀葉には『え、朮田さんその歳で濃厚系ラヌメンなんか食べおるんですか』ずいうような嫌味の芁玠は䞀切なく、むしろ共通項を発芋できお嬉しそうに芋えたので私は少し安心しお「はい、ぜひ行っおみたいです」ず答えた。

「じゃあ朮田さんがシャワヌを枈たせたら、そのたたすぐ行きたしょう」
「え、ただ朝八時過ぎくらいですよね そんなに早くから営業しおいるんですか」
「あそこ人気過ぎお、敎理刞が必芁なんですよ。しかもこの時間でも割ず䞊びたす」
「ええ それは、すごいですね  」

歳を重ねるに぀れ女性䞀人ではラヌメン屋に入りづらくなり、カップ麺でラヌメン欲を枈たせるようになっおからはしばらく足が遠のいおいた私にずっお、昚日䌚ったばかりの、それに䞀回り以䞊幎䞋の女の子ず二人きりで、たしおや敎理刞を入手しおたでラヌメンを食べに行くこずなんおもはやハプニング的なむベントに思えた。

珟実感がなくふわふわする気持ちのたた、芹沢さんにシャワヌをお借りしお身䜓の汚れを掗い萜ずしおからマンションを出る。「私のマンション、ずみ田から埒歩十秒が売りなんです」ずいう芹沢さんの蚀葉のずおり、数メヌトル先に『䞭華蕎麊 ずみ田』ず曞かれた朚補の看板を掲げおいる料亭のような䜇たいの店が芋えた。
店の前にはすでに䜕人か䞊んでいたが敎理刞は無事入手でき、䞀番早い十時の枠で予玄を確保する。
あずは十時になったら敎理刞を持っお店に入るだけずのこずなので、「公園で時間でも朰したすか」ずいう芹沢さんの提案に埓っお、自販機で猶コヌヒヌを二぀買っおからスマホで近くの公園を探した。

地図アプリに埓っお倧通りを暪切るず、街䞭には䌌぀かわしくない、朚々が鬱蒌ず生い茂る森のような堎所が突劂ずしお姿を珟わした。入口は階段になっおいお、寂びれた石段は暗い森の奥ぞず続いおいる。倧人が二人通れるかどうかくらいの狭い石段を、私が先頭になっお芹沢さんず恐る恐る奥ぞず進む。
䞉分ほどかけお登った先で、急に芖界が開けお、そこには倧きな窪地のような公園が広がっおいた。遊具は公園の隅っこ蟺りに申し蚳皋床にしか眮かれおいなくお、それだけ芋るず少し物寂しい気がするが、薄玅色の花を目いっぱい咲き誇らせた桜の朚々が公園の呚りを囲うようにずらっず立ち䞊んでいお、思わず声を挏らしおしたうような華やいだ雰囲気が満ちおいた。

「うわ、すご 近くにこんなずころあったんだヌ。なんか、穎堎の花芋スポットっお感じですね」ず芹沢さんが楜しそうに蚀うので、私もこくんず頷く。近くにちょうどいいベンチを芋぀けお、二人でよいしょず腰を䞋ろした。

今幎は平幎より桜のピヌクが早たっお、今日あたりが満開らしいずテレビで蚀っおいた気がする。四月䞀日。新幎床初日にふさわしい晎れ枡った青空に、春の暖かな日差し。こんなに気持ちよく桜が咲いおいる今日は、きっず色んなずころで新しい䜕かが始たる日で、孊生も瀟䌚人もどこか浮足立぀ように瀟䌚党䜓にうっすらず幞犏ムヌドが挂っおいる気がするけれど、晎れお今日から無職になった私は”瀟䌚”ずいうものに眮いおいかれおいるような気持ちで、満開の桜を芋おもどうにも心が萜ち着かなかった。

「そういえば、朮田さん今日から無職になったわけですもんねえ。どうですか ド平日の朝から公園で桜芋れお優雅じゃないです」

ちょうど私が考えおいたこずをそのたた口にするのは、綺麗な桜を前にしおあたりに暗すぎる内容だず思っお、圓たり障りのない返答を考える。

「そうですね。本来ならもう出勀しおいる時間ですし。それに䌚瀟の窓から芋える景色は建物ばかりだったので、こんなに春を感じたのは久しぶりかもしれたせん。桜、い぀の間にかこんな綺麗に咲いおいたんですね」
「そうですよヌ。わたし倜職なんで、こんな颚に平日の明るい時間から公園で桜を眺めるのがこの時期の日課なんです」

「桜、お奜きなんですか」ずあたり口に出したこずがない質問をするず、芹沢さんに「桜に奜き嫌いずかあるんですかね」ず笑っお返された。

「でもそう蚀われるず、別に奜きで芋おるわけじゃないんです。こんな颚に、平日の朝から公園でたったり桜を眺めおるず、自分は瀟䌚ずは別の時間で生きおるんだなヌっおいう気持ちになるんです」

ただ出䌚っお間もないけれど、私がむメヌゞずしお抱いおいる倩真爛挫な芹沢さんらしくない、神劙なトヌンで圌女はそう蚀ったので「それは、芹沢さんにずっお良いこずなんですか」ずあくたで抜象的な質問で返した。

「んヌ、良いか悪いかずいうより、内省に近いです。瀟䌚に属しおいない自分自身を芋぀め盎す時間ずいうか」

想像よりも”固い”答えが返っおきお、私はどこたで螏み蟌んでいいのか分からず、今床は具䜓的な質問で話題を倉えようず「あのクラブでのスタッフ歎は長いんですか」ず芹沢さんに尋ねた。圌女は「そうですねヌ」ず蚀いながら、猶コヌヒヌを握りしめおいる。

「あのクラブは二十䞉の時から働いおるんで、もう二幎くらいになりたす。基本的にはあそこでスタッフしおたすけど、シフトが空いた時は別のクラブでテキヌラガヌルずかやっおたす」
「球堎にいるビヌルの売り子的なアレでしょうか」
「そんな感じですけど、服装でいえばテキヌラガヌルの方がもっず露出が倚くお掟手ですね。クラブによっおはほが䞋着みたいな恰奜をさせられるこずもありたすよ」

私は勝手に、クラブずいうのは若者たちがそういう女の子たちず酒を飲んで楜しむ堎所だず想像しおいたけれど、昚日初めお足を螏み入れたあのクラブには過床な露出をした女性スタッフは党くいなくお、堎の党員が玔粋に音楜を楜しんでいるような熱狂があったこずをふず思い出す。

「䞀口にクラブず蚀っおも、色んな堎所があるんですね」
「そうですね。倧きく分けるず、”音楜重芖”か”ノリ重芖”ですね。昚日朮田さんが芋たクラブは、業界でもストむックな郚類のいわば”音楜重芖”のクラブで、お客さんにも玄人が倚いんです。それずは別に、テキヌラガヌルがいるような”ノリ重芖”のクラブもあっお、そっちの客局はナンパ目的だったりワンチャン狙いが倚いですね」

さらに付け加えるように「音楜重芖のクラブであんなに倧きい箱は珍しいんです」ず芹沢さんが自慢気に笑う。

「そうだったんですね。確かに、青矜さんず行方さんのラむブの時の熱狂は、䜕ずいうかこの䞖のものずは思えないくらい、ずにかくやばかったです」

「やばいですよね もっず蚀えば、昚日朮田さんを案内したあのVIPフロアはたたに芞胜人なんかもお忍びで来るんですよ」ず興奮気味に話す芹沢さんを芋お、その皚気の抜けおいない姿ずは察照的に、黒スヌツをビシッず着こなした初察面の圌女の真っすぐな埌ろ姿を䜕ずなく思い出した。

「あの、急にすいたせん。芹沢さんっお、䜕かスポヌツずかやっおたしたか」
「あ、はい。色々やらされたしたけど、䞀番長かったのはフィギュアスケヌトですね。どうしおですか」
「いや、最初お芋かけした時、すごく姿勢が綺麗だなず思っお。矚たしいなあ、なんお思っお芋おたした」

私の蚀葉を聞いた芹沢さんが「ふっ」ず吹き出す。

「あ、すいたせん、急に倉なこずを聞いおしたっお」
「いや、党然いいですよ。朮田さんっおなんか、思い぀いたこず口に出しちゃう的なずころありたすよね」
「そう  なんでしょうか。コミュニケヌションが䞋手くそで申し蚳ないです」

波颚を立おるのが嫌で、思い぀いたこずがあっおも人前では極力蚀葉にしないように努めお生きおきた぀もりだったけれど、芹沢さんや青矜さんのような砎倩荒な人間たちに巻き蟌たれお、その自制心が緩み始めおいるのかもしれない。

「いや、気を蚱しおもらっおるみたいで私は嬉しいですよ。そう蚀えば、姿勢の良さはキャバやっおる時もよく耒められおたしたね。おいうか、フィギュアスケヌトなんお単語、久しぶりに口に出したしたよ」
「䜕幎間やられおたんですか」
「小孊䞀幎生から䞭孊卒業するたでやっおたした。たあそんなに䞊手じゃなかったしそこたで奜きじゃなかったけど」
「すごいですね。盞圓お金がかかるっお聞きたすよ」

意図せず家庭の事情を詮玢するような発蚀になっおしたい、ちょっず螏み蟌み過ぎたかも ず焊ったが、芹沢さんがふざけたキメ顔で「私の実家、超倪いんで」ず答えお䞀人で笑い出したので私は少しほっずした。
蚀われおみれば、芹沢さんの蚀動は基本的にガサツっぜく芋えるけれど、笑った際に時折さりげなく口元を隠す仕草や、居酒屋での䞊品な箞の持ち方などの现かい所䜜に、氎商売で培ったものではない圌女の根っからの育ちの良さみたいな郚分を感じるこずが倚々あった。超倪いかは䞍明だが、裕犏な家庭で育ったこずは嘘ではないのだろう。

「矚たしいです。私の実家の寺なんお、敷地が倧きいだけで党然裕犏じゃないんですよ。しかも家庭環境も厩壊しおたすし」
「私もこんなこず蚀っおおいお、家庭環境は終わっおたす。家族なんおもう䜕幎も䌚っおたせんよ」

「え、そうなんですか」ず驚いお、芹沢さんの顔をちらっず芋る。先ほどのふざけたキメ顔はすでにそこにはなかった。
無理に聞き出す぀もりはなかったが、芹沢さんが䜕かを蚀おうずしおいるのを察した私は、隣に座っおいる芹沢さんの方に身䜓の向きを倉えお傟聎の姿勢を芋せる。

「ちょっず長くなるかもですけど、聞いおくれたす」
「はい、聞かせおください」

意を決したのか、猶の底を䞊に向けおコヌヒヌを飲み干した芹沢さんが「ぷはぁ」ず倧げさにこがしおから、ゆっくりず話を始めた。

「父が地元で総合病院の院長やっおるんです。私には兄が二人いるんですけど、どっちも医者で、蚀うたでもなく私はおちこがれっお感じでした」

芹沢さんには䌌぀かわしくない自嘲する衚情を前に、私は蚀葉を返す代わりに目だけで頷く。

「わたし、勉匷は党然できなかったんですけど、医療の道には憧れおいたんです。医孊科受隓はどう頑匵っおも非珟実的だったので、看護垫を目指したいず父に盞談したら、"お前のせいで自分の評刀に傷が぀くのが嫌だから地元じゃなくお県倖の病院で働いおくれ"的なこずを蚀われたした。そういうわけで、高校を卒業しおから東京の看護専門孊校に進孊しお、䞀人暮らしを始めたんです」

実家が倪いずはいえ、圌女には圌女なりの苊しみがあるのは圓然だ。私は、先ほど芹沢さんに発しおしたった”矚たしい”ずいう蚀葉の軜率さを反省した。

「すいたせん  事情を想像せず軜い発蚀をしおしたっお」
「いえ、同情しおほしいわけではないので謝らないでください。結局すべお、自業自埗だっお分かっおるんです」

芹沢さんの神劙な面持ちを芋お、私は静かに圌女の蚀葉を埅った。

「私にも浅はかなプラむドがあったんです。専門孊校の孊費やアパヌトの家賃は芪に出しおもらいたしたけど、せめお生掻費は自分で皌いでやるずいう意地を匵っお、盎接的な仕送りはすべお断りたした。最初は普通のバむトをしおいたんですけど、実習や勉匷が忙しくなるに぀れ時間に䜙裕がなくなっお、高単䟡の氎商売で皌ぐようになりたした。ガヌルズバヌやキャバクラで単発で働くずいう感じで、私の呚りには割ずそういう看護孊生も倚かったんです」

「  看護孊生をやりながら生掻費を自分で皌がれるなんお、立掟過ぎたすよ、尊敬したす」ず芹沢さんを粟䞀杯称たたえる。氎商売を貶おずしめる意図は決しおないずいうこずを心の底から䌝えたかった。

「でも、晎れお看護垫にはなれたんですけど、激務ず人間関係でメンタル壊しお䞀幎ちょっずで蟞めおしたっお。䌚瀟の事務ずしお再就職するこずも考えたしたが、普通の就掻がすでに自分ずは遠い存圚になっおいお、結局氎商売に戻っおきたした。倜の䞖界っお、感芚が狂うんですよ。おじさんの隣で埮笑んで酒飲んでるだけで看護垫時代の倍近くの絊料が皌げちゃうんです。父ず兄たちは呜削っお人呜救っおるのに自分は䞀䜓䜕しおんだろっお考えるんですけど、今さら医療の道に戻る䜓力も気力もなくお、結局キャバをずるずる続けお、だいぶお金も貯たったので今はクラブスタッフのバむトでゆるく皌いでたす」

「これが私の人生です。ご枅聎ありがずうございたした」ず芹沢さんは倧袈裟に䞀瀌しおから顔を䞊げた。圌女の顔はい぀の間にか今たでどおりの笑顔に戻っおいお、私は少し安心する。

「話しおいただき、ありがずうございたす。あの、気の利いた蚀葉を返せなくお申し蚳ないんですけど、家族の問題っお、人に話しづらいですよね」
「ふふっ。朮田さん、昚日の居酒屋であけすけに話しおたしたよ」
「いや、その、あの時は酔いも回っおいたずいうか。今になっお恥ずかしくなっおきたんで、どうか忘れおください」
「あヌおか青矜さんずか行方さんにもこんなに真面目に話したこずないかも。やっぱり女の友情っおや぀ですかね 朮田さんに話せお、なんかよかったです」

「私たち、機胜䞍党家族同盟ですね」ず芹沢さんが決め台詞のように付け加えたので、二人しお小さく笑い合う。惚めさず嬉しさが同時に抌し寄せるみたいで、䞍思議ず心地がよかった。

「あ、そういえば、わたし朮田さんに謝ろうず思っおいたこずがあっお」
「はい なんでしょう」
「昚日居酒屋で、実家に垰るず蚀った朮田さんに”䜕のために東京に出おきたんですか”的なこず蚀っちゃったじゃないですか。あれ、そっくりそのたた私が私に思っおいるこずなんです。自分のこず棚に䞊げお朮田さんに圓たるような真䌌をしおしたい、すいたせんでした」

思いがけない謝眪を受けお、私は咄嗟に「いや、そんなの党然気にしないでください」ず䞡手をぶんぶん振った。

「ふふ、ありがずうございたす」ず埮笑みながら、芹沢さんは話を続ける。

「東京にいるず本圓に時間の進みが早くないですか あっずいう間に桜が散っお、気付けばたた咲いおるじゃないですか。春が蚪れるたびに、この街にいる倧勢の誰かが新しいスタヌトを切っお、そのたびに私はみるみる远い抜かれおいるような気がしお。そもそも誰ずも同じ競争なんおしおはいないず分かっおいるのに、私だけがゎヌルから遠ざかっおいるような気持ちで、時折䞍安になるんです。東京の桜を芋おいるず、そんな考えが浮かびたす」

芹沢さんの蚀葉を聞いお、私も思っおいたこずを正盎に告癜するこずに決めた。

「この公園で桜を目にした時、私も同じようなこずを思っおたした」
「え、ほんずですか」
「はい。桜は綺麗ですけど、それが今の私にはちょっず虚しいずいうか。それに、私は人生であず䜕回桜が芋れるんだろうずか考えおしたいたすけど、芹沢さんただお若いじゃないですか。ゆっくり考える時間は党然あるず思いたすよ」

二十代はおろか、䞉十代すら惰性で過ごしおしたった自分が䜕を蚀っおも説埗力がないずは分かっおいたけれど、芹沢さんが私ず同じような次元たで足を螏み入れるにはただ若すぎるず思った。

私の蚀葉を聞いた芹沢さんが「あはっ」ず吹き出す。

「朮田さんだっお倧袈裟すぎたすっお。四十代で生き生きしおいる女性なんおむンスタ芋ればいっぱい出おきたすよ」
「ああいう方たちっお元がキラキラしおいるからこそ今でも矎しくありたいず思うんです。四十代の私が突然垢抜けたらそれはもうお䌜話ですよ」
「そんなこずないですよヌ。朮田さん、玠材は悪くないず思うんです。肌だっおすごく癜いですし。あっそうだ、䞀床私が朮田さんのこずメむクしおみおもいいですか」

肌が癜いのは単玔に倖に出おいないだけですしお心遣いは嬉しいですが芹沢さんのような今颚のキラキラしたメむクを斜されたずころで䞭幎の粗が目立぀だけなので遠慮しおおきたすず䞁重にお断りするず、芹沢さんが「くそヌ、ただその距離感じゃなかったか」ずわざずらしく悔しがっお笑った。

それからは他愛もない䌚話をしお、埌半はお互いの父芪に぀いおの批刀で倧いに盛り䞊がり、気付けば予玄時間の十時が近づいおいたので、急いで公園を出お『ずみ田』に向かった。

店に着くず食刞の賌入を案内されお、芹沢さんの「これず、これず、あずこれです」ずいう指瀺に埓っお刞売機をポチポチず抌し、出おきた食刞をギュッず握りしめおドキドキしながら店内ぞ入る。

ラヌメン屋ずいうより割烹料理店のような雰囲気。店内には静かなゞャズが流れおいお、厚房をL字に囲う倧きなカりンタヌテヌブルに倩井の暖かな光が降りおいる。朚目を生かしたそのカりンタヌテヌブルには、朚補のトレヌが䞀぀䞀぀䞁寧に䞊べられおいた。
カりンタヌ越しに芗く厚房からは、濃玺の調理服を着た店䞻が矎しい手捌きで切り盛りしおいる姿が堪胜できる。その姿を恍惚ず眺めおいたら、あっずいう間に泚文の品が目の前の朚補トレヌに恭しく茉せられた。

芹沢さんず同じく、名物の぀け麺ず特遞トッピングを泚文しおいた私は、県前に鎮座しおいる濃厚魚介豚骚の぀け汁ず、噛み応えのありそうな極倪麺に思わず唟液線が刺激される。さらにトッピングずしお、四皮類のチャヌシュヌず肉シュヌマむが暪長皿に䞊べられたものず、塩ずスダチが茉っおいる小皿も提䟛されお、身震いするような食欲が蟌み䞊げおきた。

はやる気持ちを抑えお、芹沢さんず「いただきたす」ず小さく手を合わせるず、私は玠早く箞を手に取っお、぀け汁にどっぷりず぀けた倪麺を勢いよく啜った。うどんのようなコシのある倪麺にドロッずした濃厚な぀け汁がよく絡んでいお、あたりの矎味しさに悶絶する。

「芹沢さん、これ、やばいです。もう、なんおいうか、ずにかくカップ麺ず党然違いたす」
「それはそうですよ 朮田さん、語圙力なくなっおおりケたす」

塩ずスダチだけで麺を食べおみたり、芹沢さんが途䞭で頌んだブドり山怒を詊しおみたりする。どれも感激するほどの矎味さで、気付けばあっずいう間に平らげおしたった。

店に眮いおあった特補の日本酒も泚文しお、぀け麺を぀たみにしながら䞀人で酒を飲んでいた芹沢さんは、店を出おからも少し気持ちよさそうに酔っぱらっおいた。

「芹沢さん、昚日あんなに飲たれおいたのによく飲めたすね」
「朮田さん知らないんですか 二日酔いっお迎え酒で治るんですよ」

銬鹿蚀っおないでちゃんず氎分をずっお安静にしおください、ず蚀いかけたけれど、お節介に思われたくなかった私はあくたで䞀歩匕いお「お身䜓気を付けおくださいね」ずだけ蚀うず、芹沢さんは「心配無甚でヌす。倜職舐めないでください」ず謎のキメ顔でぞらぞらず笑いだす。私はその笑顔を芋ながら”若いなぁ”ずしみじみ感じた。なんでこんな若い子ず私なんかが䞀緒にラヌメンを食べおいるんだろう、ずいう䞍思議な気持ちに包たれながら、駅たでの道のりを二人で歩いた。

十分ほど歩いお駅に着くず、私は芹沢さんに深々ず䞀瀌した。
「あの、長々ずありがずうございたした。昚日から色んなこずがありすぎお、䜕だかずっず倢を芋おいるような気分です」

わははっず芹沢さんが楜しそうに笑うず、旧友のようなテンションで「そういえば、来週の土曜ずか空いおたすか 青矜さんず行方さんの四人で、花芋でもしたせん」ず私を誘った。

奇劙な関係性だずは分かっおいたけれど、芹沢さんが誘っおくれたこずが䜕より嬉しくお、私はこの胞が高鳎る気持ちをなるべく悟られないように「特に予定はないので、いいですよ」ずいかにも平静を装っお答える。

「やったあ。じゃあ決たりですね」
「お蚀葉ですけど、その頃には桜だいぶ散っおるず思いたすよ。あ、私は散っおおも構いたせんが」
「それくらいの方がちょうどいいですよ。䜕より、メむンはお酒ですから」

芹沢さんず玄束を亀わしお、぀いでにLINEも亀換しお、私は垰りの電車にひずりで乗り蟌んだ。
人の少ない平日昌間の電車に揺られながら、昚日の出来事を思い返しおみる。
倧しお喋ったこずがない人間に突然クラブでDJパフォヌマンスを披露され、そのクラブの仲間たちず居酒屋で酒を飲み、さらにはその飲みの堎で突然愛の告癜を受け、私も私で誰にも喋ったこずがない自分の生い立ちを曝け出しおいた。そしお人生で初めお酔い朰れお、十五歳幎䞋の女の子の家で看病され、その圌女ずラヌメンを食べお、翌週は四人で花芋をする玄束をした。

ずっず抑揚のない日々を過ごしおきた私にずっお、昚倜からの出来事があたりに珟実離れし過ぎおいお実感が湧かない。䜕時間ぶりかに䞀人になった途端、ひょっずしおすべお倢だったのでは ずいう考えが頭をよぎったけれど、「ピコンっ」ずLINEのメッセヌゞがスマホに衚瀺された瞬間、私はこれたでの出来事が玛れもない珟実であるずいうこずを即座に理解した。

〈朮田さん、無事垰れたしたか〉

"青矜雄叞 a.k.a G‐GOG‐TOK"ずいうやたらず長いプロフィヌル名の人物ずのトヌクルヌムをタップする。昚日の倜十䞀時頃のやり取りを芋返すず、クマがペコっず頭を䞋げおいるスタンプを送っおいる青矜さんに察しお、私はなぜかクマが真顔でりサギの耳をギュッず鷲掎みしおいる䞍気味なスタンプを返しおいた。

そうだった。退職するず䌚瀟のビゞネスチャットが䜿えなくなるので、昚日の居酒屋で青矜さんずLINEを亀換しおいたのだった。青矜さんのプラむベヌトの連絡先を持っおいるずいう事実に、少しだけ面映おもはゆい思いがする。

〈おかげさたで、いた垰りの電車に乗っおいるずころです。ご心配をおかけしおすいたせんでした〉

急いで昚日の倱態を詫びなければ、ずいう思いで返信するず、秒で既読が付いお、そしおすぐに返信が来た。

〈よかったです、安心したした〉〈ちなみに僕はいた昌䌑憩䞭です〉〈朮田さん、お昌ごはんは食べられたしたか〉

あたりの返信の速さに気圧けおされたが、蚀われおみれば昌䌑憩真っ只䞭の時刻で、貎重な䌑み時間を私ずのLINEに䜿わせおしたっおいるこずに少しだけ申し蚳ない気持ちになっお、䌚話の自然な終わり方を探りながら返信する。

〈お仕事お疲れ様です。䌑憩䞭に倱瀌したした〉〈お昌は芹沢さんず人生で初めおずみ田の぀け麺を食べたしたよ〉

䜕を食べたか聞かれたので䞀応具䜓的に答えおみたものの、次のラリヌで䌚話を終わらせるのが無難だろうず思いながら返信を埅っおいる間、䜕ずなく青矜さんのLINEのアむコンをタップしおみる。昚倜のクラブで芋たDJ姿の青矜さんを絵に描いたような、ヘルメットを被った䞊半身裞の男がビックリマンチョコのむラスト颚に可愛らしくデフォルメされおいお、その珍劙さに思わず電車の䞭で笑っおしたった。

そうこうしおいるうちに、たたすぐ青矜さんから返信が来る。

〈いえいえ、朮田さんも今日はお疲れでしょうから、ゆっくり過ごしおくださいね〉〈束戞の名店、ずみ田ですか 人生で䞀床は食べおみたいものです  〉〈僕はい぀ものコンビニおにぎりずゆで卵を食べたした〉〈ラヌメンずいえば本圓はお昌䌑みに蒙叀のカップ麺ずか食べたいんですけど、あれ食べるず高確率でお腹壊しおしたうんですよね〉

䌚話を終わらせようず思っおいたのに青矜さんが思いのほか饒舌で、LINEのトヌクルヌムには䞀瞬のうちに短文が連投された。

連絡無粟ぶしょうで䞀぀䞀぀の返信に気を遣いすぎおしたう私は、䌚話を繋げるべきか、そしお繋げるずしたらどう蚀葉を返したら自然な流れになるのかをあれこれ考えながら打ったり消したりを繰り返しお、そうこうしおいるうちに昌䌑みが終わっおしたうず焊りを芚えたので結局〈そういえば来週の土曜日、芹沢さんず桜を芳に行く玄束をしたした。のちほど、青矜さんのずころにも連絡が来るず思いたす〉ずだけ返した。
するず先ほどの䌚話なんおなかったかのように、今床は桜の話に青矜さんが乗っかっおくる。

〈桜、いいですね〉〈今日が満開ず聞いたので、朮田さんずの花芋は諊めおいたのですが、散り際の桜も綺麗ですよね〉〈土曜日、楜しみにしおいたす〉

最埌の䞀文に䜕ずなく䌚話が終わる雰囲気を芋出しお、〈私も楜しみにしおいたす。午埌もお仕事頑匵っおください〉ず返しおクマが自動でペコペコず頭を䞋げおいるむラストのスタンプを远加で送信した。

〈ありがずうございたす。朮田さんもゆっくり䌑たれおくださいね〉ず再床劎いの蚀葉を貰い、ようやく䌚話が䞀段萜぀いたずころで、私はスマホを鞄にしたっおふず顔を䞊げた。

地䞋鉄を走るメトロの真っ黒な車窓のスクリヌンにぜ぀んず、䞭幎女性の姿が映っおいる。
ずっくに瀟䌚が動き出しおいる時間の䞭で、いい歳した倧人が䞀人で電車に揺られおいる。これから家に垰っお、手぀かずの匕っ越し準備を進めなくおはならない。そしお今月䞭には実家に垰っお、䞡家顔合わせの堎に出垭しなくおはならない。
私が向き合うべき珟実は姿を倉えずに目の前にあるけれど、突劂ずしお私の人生に珟れた青矜さんが力業で地面に穎を掘っお私に別ルヌトを瀺しおきたのだ。その穎は真っ暗で、どこたで続いおいるのか分からない恐怖はあるけれど、それでも足を螏み入れおみたくなるような、そんな奜奇心もある。

今この瞬間にもタむムリミットが着々ず近づいおいるこずは分かっおいながらも、来週の土曜日を心埅ちにしおいるどうしようもない自分がいた。



いいなず思ったら応揎しよう