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【読了5分】言葉にできない願いを付箋に書いた日【自キュンシリーズ14】

返事をしない人の方が、気になることがある。返してくれなかった言葉の分だけ、その人の輪郭が濃くなる気がして。

私のデスクに、付箋が貼ってあった。

昼休みに戻ってきたら、なかった付箋が、あった。

薄い黄色の、正方形。
私はいつも会議室に持っていくメモ帳の表紙に、一枚だけ貼り付けてある。急いでいるときでも、そこに書けばいい、という気休めのやつ。

書いてあったのは「外出してますか」という七文字だった。

書いたのが誰かは、わかった。筆跡を見ると、なぜかわかってしまう人がいる。わかってはいけないかもしれないのに。

伊吹さんは、私のチームではなかった。部署が違う。でも同じフロアに席がある。会えばあいさつする。昼ごはんが一緒になるときもある。それだけの距離で、一年半。

付箋の「外出してますか」は、質問なのか、確認なのか。どちらでもありそうで、どちらとも取れなかった。

窓の外は、雨になっていた。

返事をするかどうか、迷った。

付箋を返すのか、それとも直接言うのか。直接言うとしたら、何と言うのか。「外出してました」と言えばいいだけなのに、なぜかそれだけが言えない気がした。

伊吹さんは席にいた。パソコンの画面に向かって、何か打ち込んでいた。

私はペンを持って、付箋の余白に書いた。

「外出してました。何かご用でしたか?」

書いて、読んで、消した。堅い。全然違う。

もう一枚、別の付箋を出した。

「ランチ帰りでした」

これも違う。向こうが「外出してますか」と聞いてきたのに、こちらが「ランチ帰り」と答えるのは、言い訳みたいだ。

五分くらいかけて、一行も書けなかった。

結局、直接行くことにした。

「さっき付箋いただいたんですけど」

伊吹さんが画面から顔を上げた。

「あ、そうですね」

伊吹さんは少し間があってから、そう言った。

「えーと、何でしたっけ」

「え」

「内容。何のために行ったんだったか」

私は黙った。三秒くらい。

「……忘れたんですか」

「忘れた」

あっさり言った。伊吹さんはあっさり言う人だ。謝るより先に、事実を言う。

「じゃあ、何もなかった感じで」

「いや、でも」



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