【読了5分】好きな人を見ないためにアカウントを変えた夜【自キュンシリーズ04】
Instagramのアカウントを消した夜、優芽は誰にも見つからない名前を作った。
フォロワーはゼロ。
アイコンも、プロフィールも、何もない。
それなのに翌朝、通知が一件来ていた。
〈@hiroki_sato があなたをフォローしました〉
優芽は、ベッドの中でスマートフォンを握ったまま動けなくなった。
hiroki_sato。
一年前に別れた拓己のアカウントだった。
別れたあと、優芽は何度も彼をブロックしようとした。けれど、できなかった。見ないようにすることと、存在しないことにすることは、少し違った。
だからアカウントを変えた。
名前も、写真も、プロフィールも消して、誰にも教えない場所に逃げた。
それなのに、最初に見つけたのは拓己だった。
拓己のプロフィールを開くと、最後の投稿は一ヶ月前だった。
夜の川の写真。
街灯が水面に伸びて、黒いところだけが静かに残っている写真だった。
キャプションはなかった。
優芽は、その投稿を見たことがあった。旧アカウントで、見ないふりをしながら、何度も見ていた。
拓己がフォローしている一覧を開く。
その中に、優芽の旧アカウントがあった。
削除申請中のまま、まだ消えきっていないアカウント。
そこから辿ったのだと、すぐにわかった。
でも、わからないことがひとつ残った。
どうやって見つけたか、ではない。
なぜ、まだ探していたのか。
別れたのは、ひどい喧嘩をしたからではなかった。
嫌いになったからでもなかった。
ただ、返事をしない日が増えて、会わない週が増えて、気づいたら恋人という名前だけが残っていた。
拓己は、やさしい人だった。
やさしいけれど、何を考えているのかわからない人だった。
優芽が「大丈夫」と言えば、それ以上聞かなかった。
優芽が「忙しい」と言えば、「そっか」とだけ返した。
その距離が、最初は心地よかった。
でもいつの間にか、寂しさになった。
聞いてほしいのに、聞かれたら困る。
追いかけてほしいのに、追いかけられたら逃げたくなる。
そんな面倒な自分を、優芽はうまく説明できなかった。
最後に会った日も、拓己は怒らなかった。
「無理しなくていいよ」
そう言われた瞬間、優芽は終わったのだと思った。
本当は、無理してでも引き止めてほしかったのに。
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