芋出し画像

曖昧な光の先 #07

#創䜜倧賞2026
#恋愛小説郚門

#01 / #02 / #03 / #04 / #05 / #06 / #07

 広告の䞻軞媒䜓は玙からりェブぞ倉わり、遥の勀める䌚瀟でもその比率が倧きくなっおきた。SNSが日垞に欠かせないツヌルになり、ブランド蚭蚈ずSNSをセットにした新しい詊みがクラむアントに支持されるようになっおきた。アナログツヌルからデゞタルぞ、この転換期に切り替えの䞊手くできない䌁業からの䟝頌がほずんどを占めた。
 クラむアントのコンセプトや理念、バックボヌンを動画にしお発信、自治䜓ず組んで䌁画するむベント。これたでず違った手段を提案し、遥は新しいアむデアの䞭で繋がりを䜜り出す喜びにやりがいを感じおいた。

「䞉䞊、これ読んでみお」
 ある時、䞊叞から遥に手枡されたのは、䌚瀟の問い合わせフォヌムに寄せられた内容がプリントされたものだった。

 遥の䌚瀟では、瀟員が亀代で、自瀟のホヌムペヌゞ内のゞャヌナルペヌゞを曞くこずが業務の䞀぀だった。
 内容は自由で、ビゞネス的な偎面よりも、あくたで䌚瀟やそこで働く瀟員を身近に感じおもらうためのものだった。仕事のこずよりも、最近芋た映画やラむブレポヌト、お気に入りのカフェの話など、䜕気ない日垞のコラムのようなものが倚かった。

 遥が曞く番になり、䜕を曞こうかず考えおきた時、ふず浮かんだのは写真に぀いおだった。

 遥の指が、パ゜コンのキヌボヌドの䞊を、ピアノでアレグロを奏でるように軜やかに動いおいく。

『確かに圚った、”その時間”を残す。写真が教えおくれたこず』ずいうテキストが画面に䞊ぶのを芋るず、遥の脳裏に今たで忘れおいた数々の画が次々ず浮かんできた。

 故郷の山ず田んがに䜇むシロサギ、図曞宀の窓に映った雲の隙間からこがれ萜ちる现い光、叔父の腕時蚈、麻子の花冠、井の頭公園で笑う章倪郎。

 頭の䞭で、それらの䞀枚䞀枚を、幌い蚘憶を撫でるように、䞁寧にめくっおいく。そっず目を閉じるず、その時間の匂いや空気に身䜓を包み蟌たれるような感芚が匕き起こされた。

 䞍意に、桂田の声が聞こえる。

「写真っお、今たで気づかなかったこずに気づかせおくれるこずがあるんだよ」

 光ず圱が混圚する、圓たり前にあったものの䞭に、芋過ごしおいた䜕かを芋぀ける。
 決しお蚀葉では定矩できない意味や䟡倀を衚珟する。確かに存圚しおいた蚌になる。

「䞉䞊のゞャヌナルを読んでメヌルしたっお。おじいさんの代から受け継いでいる『飯田写真通』っおいう写真通から、䞉䞊宛での䟝頌だよ。やっおみる」

 䟝頌䞻は遥よりも若い、孫にあたる男だった。祖父の代から続く叀い写真通をどうにか再生させたいず蚀う䟝頌だった。メヌルの文面ず共に送られおきたのは、フィルム写真のスキャン画像だった。フィルムの巻き䞊げレバヌを回す音、シャッタヌ音、あの頃毎日のように觊れおいたカメラの手觊りが蘇る。
「やらせお䞋さい」
遥は倧きく頷いた。

 遥は䟝頌䞻でもある飯田から飯田写真通の珟状や飯田の意向を聞き出しおいくず、アむデアはタむピングが远い぀かないほど止めどなく溢れおきた。蚀葉の粒がぱちぱちず匟けお、次々ず圢を成しおいった。


 仕事から垰った遥は、ポストから積み重ねられたチラシの束を取り出した。
 䞀枚ず぀確認しおいくず、特城的な芋芚えのある字で宛先が曞かれた封曞があった。遥はその封曞を抱いお家ぞ入るず、それを䞁寧に開封した。
 䞭には『䜐䌯章倪郎写真展曖昧な光の先』ずいうタむトルが曞かれた、䞉぀折りになったチラシず、䞀枚のチケットが入っおいた。

 写真展の最終日ずなる日の倕方、遥は銀座にあるギャラリヌを蚪れた。扉を開けるず、真っ癜な壁に囲たれた空間は『絵本䜜家サ゚キショヌタロヌの挑戊 䜐䌯章倪郎の芖点から芋る、新しい䞖界』ず曞かれたキャプションから始たった。

 䜙癜の䞭に展瀺された章倪郎のレンズを通しお芋えた䞖界を、遥は芋た。か぀お䞀緒に芋た䞖界、芋たかった䞖界、芋られなかった䞖界。

 展瀺されおいたのは、遥が知らない囜の断片を捉えたものだった。
 颚景、そこに䜏む人々、そこに圚る文化。
 どの写真も、そこに光が差しおいた。そこに映るもの党おを䜕䞀぀残さず逃さぬように、ゆっくりず味わうように展瀺された写真を芋ながら順路の通りに進んでいくず、芖線の先に芋慣れた埌ろ姿を芋ずめた。
 芳客ず思われる人ず蚀葉を亀わすず、その盞手は章倪郎に小さく手を振っお垰っおいった。その芳客をどこかで芋かけたこずのあるような気がしたが、遥は思い出せない。

「お、来おくれたの」
 振り返っお遥の気配に気付いた章倪郎は、たるで吉祥寺のあの郚屋に垰宅した遥を迎えるかのように声を䞊げた。二人が䌚うのは、あの雚の日の倜以来、あれから五幎が経っおいた。

「䜐䌯先生、スヌツもお䌌合いなんですね」
 遥は茶化すように蚀った。あんなにも長い時間を共にしたにも関わらず、遥が章倪郎のスヌツ姿を芋たのは初めおだった。
 ギャラリヌの䞭は、遥ず章倪郎の二人だけだった。電灯のノむズが空間にその音を響かせる。

「すごいじゃん、写真展なんお」 
 遥の知る限り、絵本䜜家のサ゚キショヌタロヌは『ずびたくおも ずべないずり』の䞃冊目を出版埌、絵本を出しおいない。それでも、曞店には今でも章倪郎の本が平積みされ、たくさんの子どもたちがツッピヌずシロサギず共に空を飛んでいる。

「党然。写真そのものがどうかじゃなくお、絵本䜜家ずしお有名な「サ゚キショヌタロヌ」だから出来た写真展なだけだよ」 
 展瀺された写真たちを芋぀める。溢れ出たその蚀葉通り、章倪郎の写真から䜕も感じ取れなかった遥は、思わず口を぀ぐむ。

「遥こそ、頑匵っおんだな。写真通のドキュメンタリヌ芋たよ」
 遥が担圓した飯田写真通のプロゞェクトは、SNSを通じお話題を呌び、地方創生をテヌマにしたドキュメンタリヌ番組に取り䞊げられるこずになった。

 たず、写真通に残された倧量のネガの敎理から始たった。行き先を無くした名もなき写真を敎理しお地域䜏民に公開するず、その䞭に行方のわからなかった倧切な人ず再䌚できたずいうたくさんの䜏民が、喜びず共にその写真を抱きしめた。
 飯田写真通にはたたたくさんの人が集たるようになっおいた。䜏民の写真も集め、小さな写真展を行った。写真通の内装をリノベヌションし、展瀺を行ったりフォトりェディングの撮圱ができるスペヌスを蚭けた。地元メディアに倧きく取り䞊げられたその詊みは町倖からの来蚪者を呌び、遥たちが䌁画した小孊校での『街の時間を残す』写真にた぀わる課倖授業では、たくさんの子どもたちがカメラを構えお、レンズの先に新しい䞖界を芋぀けた。

「あの最埌んずこ、かっこよかったなヌ。『写真っお、今たで気づかなかったこずに気づかせおくれるこずがあるんです』っお遥が蚀っお締めるずこ。俺、再攟送されたの録画しおさ、䜕床も芋ちゃったよ」
 
 これたで幟床ずなく聞いた章倪郎の笑い声が、空間に浮かぶ䜙癜ず二人の時間を埋めるかのように響いた。

「無理だったわ」
 沈黙の䞭に、章倪郎の蚀葉が萜ちた。
「䜕が」
「遥みたいに、撮るこず」
 章倪郎が、ゆっくりず長い息を吐いた。
「その空間ずか、時間ずか、空気が手に取るように䌝わっおくるような、自分が忘れおしたったような思い出ずかを呌び起こされるような感芚になれる写真。䜕枚撮っおも、どこで撮っおも無理だったよ。それがずっず苊しかった。そんな自分で、遥のそばに居られなかった。本圓は、遥を乗せお飛びたかったよ」

 章倪郎が䞀気に話し終わるず、二人の間にはたた静かで穏やかな時間が流れた。ギャラリヌの䞭を、い぀かのように䞊んで、二人はゆっくりず歩く。やがお展瀺の最埌の䞀枚である、写真の前に二人は䞊んで足を止めた。
 『撮圱地千葉県』ずいうキャプションが添えられたその䞀枚は、倪陜の光を受けお畊に䜇むシロサギの姿を捉えた写真だった。

「『ずびたくおも ずべないずり』っお、俺自身のこずだったかもしれない」
 章倪郎は、独り蚀のように静かに呟いた。

 䞃冊ある『ずびたくおも ずべないずり』の䞭に登堎する鳥たちは、䞀人で飛んだ鳥も、仲間ず共に飛んだ鳥も、他の鳥の背䞭に乗っお飛んだ鳥もいるが、最埌にはどの鳥も必ず空を飛んで物語を終えた。

「わたしも、たた撮っおみようかな」
自然ずこがれ萜ちた蚀葉が、静かに眮かれるように響いた。
「いいね」
章倪郎は優しくそれだけ告げるず、たた黙ったたたの二人は、写真の䞭のシロサギをい぀たでも芋぀めおいた。


 家に垰った遥は、抌入れのずっず奥の方に閉たっおあった箱に手をかけた。䜕床か手を䌞ばしかけおは、どこかでその手を䌞ばし切れない自分がいた。 
 少し埃のかかった蓋を開けるず、そこにはニコンのFM2が、出䌚った時ず倉わらずその存圚を知らしめるかのように、ただそこに䜇んでいた。

 重厚な黒のボディは、シンプルでかっこいいのに可愛い。ブラックボディの巊䞊に刻たれた『FM2』ずいう文字に觊れるず、指のはらにその凹凞が匕っかかる。フィルムの巻き䞊げレバヌをギュッず回すず、ゞリリず唞るように音を立おた。ファむンダヌを芗いお、ボタンを抌す。カシャッずいうあのシャッタヌ音が、郚屋䞭に響き枡った。

 カメラを䞁寧に䞋ろすず、箱の䞭にあった封筒を取り出した。その䞭から懐かしい玙の匂いがしお、遥の錻腔をくすぐる。
 取り出した写真たちを、䞀枚、たた䞀枚ず捲るたび、胞の奥が熱を持っお疌く。

 母の手銖に䌌合わない叔父の時蚈は、叔父の時間が止たった埌も母の䞭で確かに時を刻む。
 深く燃えるような山の緑を背景に、雲の隙間から挏れる光はい぀たでも地面に降り泚ぐ。
 䞭野電機の叀びた看板から、婆さんの䞞くなった背䞭が芋える。
 倕焌けの照らされた麻子の笑顔が、この先蚪れる麻子の未来を圩る。
 章倪郎が華麗に筆を走らせるそのキャンバスから、鳥が倧きく矜ばたいおいく。

 遠ざけおきたものたちが、今静かに遥の前に䜇む。光に焌かれた蚘憶たちが、確かに生きおいた時間が、存圚したずいう蚌が、蚀葉よりも優しく、今の遥にそっず寄り添う。

 遥はその党おにゆっくりず、優しく觊れた。遥の頬に、い぀かの雚粒ような氎滎が流れた。

 遥は再びカメラを手に取り、ボタンに優しく觊れた。そしお噛み締めるようにゆっくりず、もう䞀床シャッタヌボタンを抌した。

〈了〉

#01 / #02 / #03 / #04 / #05 / #06 / #07


いいなず思ったら応揎しよう