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週刊アンチ・ドーピング通信 #17|筋肉増強とドーピング──「S1:蛋白同化薬」とは


はじめに

こんにちは、TechKeepです。今週のアンチ・ドーピング情報をお届けします。

前号の第16号「肉を食べただけで陽性?」では、メキシコの汚染肉による クレンブテロールの"意図しない"陽性を取り上げました。

そのクレンブテロールが分類されるのが、この 「S1:蛋白同化薬」 です。「ドーピング」と聞いて多くの人が真っ先に思い浮かべる物質群 を、今回は深掘りします。

この連載では、サプリの汚染(第11号)・貼り薬(第13号)・漢方(第14号)・点滴(第15号)・汚染肉(第16号)など、日本で実際に多い"意図しない・うっかり"型のドーピングを数多く扱ってきました。一方で、筋肉増強を目的に"意図的に"使われ、古くから現在まで違反事例がくり返し報告されてきたのが、この S1(蛋白同化薬)です。いわば"ドーピングの代名詞"ともいえる存在で、試験対策でも実務でも要注意の重要クラスです。


トピック① S1とは何か

蛋白同化薬(アナボリック薬) とは、体内のタンパク質合成を促進し、筋肉量を増加させる作用を持つ物質です。WADA禁止表では 「常に禁止される物質」 に分類され、競技会内外を問わず、いつでもどこでも禁止されます。

主に3グループに分かれます。

| グループ | 代表的な物質 |
| 外因性 AAS(蛋白同化男性化ステロイド薬/Anabolic Androgenic Steroids) | テストステロン、スタノゾロール、ナンドロロン、トレンボロン、メチルテストステロン |
| SARMs(選択的アンドロゲン受容体修飾薬/Selective Androgen Receptor Modulators) | オスタリン(エノボサーム)、LGD-4033、アンダリンなど |
| その他の蛋白同化薬 | クレンブテロール、DHEA など |

S1はすべて 「特定物質でない物質」 で、違反時の標準制裁は 原則4年(非意図的と立証できれば2年、さらに汚染サプリ等で"重大な過誤・過失がない"と認められればより短縮されることもある)と重い部類です。

🎯 試験対策ポイント(JSPO-AT 専門科目検定試験)

  • S1=「常に禁止される物質」/「特定物質でない物質」/標準制裁は原則4年(非意図的の立証で2年に軽減されうる)

  • 2022年度(令和4年度)問83「ドーピング禁止薬物について誤っているのはどれか」で、「蛋白同化薬は筋力増強作用をもつ物質が該当する」が正しい選択肢として出題された(設問の正解はEPOの誤りを問うbだが、S1の定義が正誤判定の対象になった)

  • クレンブテロールが S3(β2作用薬)ではなく S1(蛋白同化薬) に分類される点は重要な引っ掛け(※当シリーズ収集の過去問集では単独の出題は未確認。理解しておきたい要点)


トピック② S1の代表的な物質 ── 何が検出されるのか

S1(蛋白同化薬)は、古くから現在まで、国内外の違反事例でくり返し報告されてきた代表的な物質群です。代表的な物質とその特徴を整理します。

| 物質 | グループ | 特徴 |
| ナンドロロン代謝物(19-ノルアンドロステロン等) | AAS | 尿中で特有の代謝物として検出される |
| トレンボロン(代謝物含む) | AAS | 牛の成長促進剤にも使われる合成ステロイド |
| メチルテストステロン | AAS | 経口服用できるテストステロン誘導体 |
| オスタリン(エノボサーム) | SARM | サプリメントへの混入事例が世界的に多い |

国内でも、第11号(うっかりドーピング・サプリ編)で取り上げた オスタリン(SARM)混入の事例 のように、S1の違反は実際に起きています。


トピック③ クレンブテロールの罠 ──「気管支拡張薬」が S1?

S1の中でも間違えやすいのが クレンブテロール です。

  • 薬理作用:β2受容体刺激薬(気管支拡張作用) → 喘息治療薬の系統に見える

  • WADA分類S1(蛋白同化薬) ← S3ではない!

なぜか? クレンブテロールは強力な 同化作用(筋肉増強)脂肪燃焼作用 を持つため、家畜の成長促進剤としても使われてきた経緯があります。WADA禁止表では「気管支拡張薬の中で唯一 S1に分類される特例物質」として扱われています。

⚠️ 試験でよくある引っ掛け
「クレンブテロールは S3(β2作用薬)に分類される」 → 誤り
→ 正解:「クレンブテロールは S1(蛋白同化薬)に分類される」

吸入であっても・経口であっても・貼付であっても、全投与経路で S1として禁止 です。第13号のツロブテロール(S3・吸入なら閾値以下OK)とは扱いが全く異なる点に注意。

なお、クレンブテロールは 汚染された食肉から意図せず検出される 問題でも知られます(メキシコ等の成長促進剤由来)。この点は前号 第16号「肉を食べただけで陽性?」 で詳しく解説しました。


トピック④ SARMs ──「合法ステロイド」と呼ばれる物質の正体

近年、サプリメント汚染で最も検出されるのが SARMs(選択的アンドロゲン受容体修飾薬)です。

  • 筋肉と骨にだけ選択的にアンドロゲン作用を持つよう設計された化合物

  • 副作用が少ないとされ「合法ステロイド」と呼ばれることがある

  • WADA禁止表では S1(蛋白同化薬)の「その他の同化薬(S1.2)」に名指しで明記(オスタリン・LGD-4033・RAD140・アンダリン・YK-11・S-23)。各国で医薬品として未承認だが、WADA分類は S1

代表的な SARMs:

  • オスタリン(Ostarine/Enobosarm/MK-2866)

  • LGD-4033(Ligandrol)

  • アンダリン(Andarine/S-4)

  • YK-11、RAD-140

これらは 正規の医薬品として未承認 のため、入手経路はネット通販・海外通販が中心。「天然成分」「植物由来」と表示されたサプリメントに混入していた事例も報告されています。

💊 薬剤師ポイント

  • 「合法ステロイド」「副作用なし」「医薬品扱いではない」── これらの謳い文句があるサプリは要注意

  • 各国で医薬品として未承認だが、WADA禁止表では 蛋白同化薬(S1) として禁止。検出時の制裁は重い

  • 「友人がこれで筋肉ついた」と勧められても、競技者は絶対に手を出さないこと


まとめ

今週のポイントをまとめます。

  • S1:蛋白同化薬 は「ドーピング」の代名詞的な存在(意図的使用・古くから現在まで違反が続く)

  • 「常に禁止される物質」「特定物質でない物質」「標準制裁は原則4年」が試験で問われやすい重要ポイント

  • AAS(テストステロン・スタノゾロール等)/SARMs(オスタリン等)/その他(クレンブテロール)の3グループ

  • クレンブテロールは S3 ではなく S1(試験でよくある引っ掛け)

  • クレンブテロールは 汚染肉 からの"うっかり検出"でも知られる(前号 第16号で詳説)

  • SARMs は「合法ステロイド」と呼ばれるが、WADA禁止表では S1(蛋白同化薬)に名指しで明記されている

  • サプリ汚染で検出されるケースが多く、第11号「うっかりドーピング・サプリ編」とも重なる

次回の第18号では、もう一つの注目クラス 「S2:ペプチドホルモン・成長因子」 を取り上げます。EPO(エリスロポエチン)の「赤血球」問題は試験でも問われる重要ポイントです。


著者プロフィール

TechKeep_pharma
JADA認定スポーツファーマシスト・薬剤師
IRONMANみなみ北海道2024完走
アスリートへのアンチ・ドーピング相談・教育活動を行います。
Kindle書籍「薬剤師・薬学生のためのアンチ・ドーピング入門」準備中
X:https://x.com/TechKeep_pharma
note:https://note.com/techkeep_pharma


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禁止表国際基準は最低年1回、WADAコードも随時改定されます。
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ドーピング違反に関わる最終判断は、アスリート自身の責任において行われます。

※ note自動翻訳は機械的翻訳のため、専門用語が必ずしも WADA公式英語表記と一致しない可能性があります。正確な情報は WADA公式(wada-ama.org)または JADA公式(playtruejapan.org)をご参照ください。

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