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週刊アンチ・ドーピング通信 #11|「天然成分100%」のサプリで資格停止?うっかりドーピングの正体


はじめに

こんにちは、TechKeepです。今週のアンチ・ドーピング情報をお届けします。

前号の第10号は 2026年5月の最新情報 をお届けしました。

今回は、JADA(公益財団法人日本アンチ・ドーピング機構)の違反事例で繰り返し登場するテーマ ── 市販サプリメントによる「うっかりドーピング」 を取り上げます。

「アスリートに人気のプロテイン・BCAA・クレアチン」「天然成分100%・オーガニック」── こうしたラベルを信じて使ったサプリメントが、最大2〜4年の資格停止につながる事例が世界中で報告されています。なぜそんなことが起きるのか、なぜ立証が難しいのか、そしてどう対処すべきか。3〜5分で押さえておきましょう。


トピック① 「うっかりドーピング」3大経路

意図せず禁止物質を摂取してしまう違反を 「うっかりドーピング」 と呼びます。日本のJADA違反事例を整理すると、主な経路は3つあります。

| # | 経路 | 例 |
| 1 | 市販薬(OTC医薬品/一般用医薬品・薬局で買える市販薬) | 総合感冒薬・咳止めに含まれるエフェドリン系成分(S6) |
| 2 | 漢方薬・生薬製剤 | 麻黄を含む葛根湯・小青竜湯(→ 詳しくは第14号で) |
| 3 | サプリメント・食品 | 申告のない禁止物質が混入していても気づけない |

今回は3番目の サプリメント・食品 に焦点を当てます。


トピック② サプリメント汚染の実態 ── 世界規模で「15%」が汚染

サプリメントには 「汚染(Contamination)」 と呼ばれる現象があります。

| 汚染の種類 | 内容 |
| 意図的な混入 | 効果を高めるためにメーカーが禁止物質を添加(ラベル非表示) |
| 製造工程での交差汚染 | 同じ製造ラインで禁止物質を含む別製品を作った際の残留 |

どちらの場合も、アスリートは ラベルを見ても汚染に気づけません

📌 参考データ(Geyer et al., 2004)
世界13カ国から収集した634製品のうち、94製品(約15%) にラベル非表示の禁止物質が検出されました。20年以上経った現在も、同様の汚染が各国で報告されています。

特に汚染が多い物質:

  • SARMs(選択的アンドロゲン受容体修飾薬/Selective Androgen Receptor Modulators) ── 筋肉増強系サプリで頻出

  • ナンドロロン前駆体・テストステロン前駆体── プロホルモン製品

  • エフェドリン・1,3-DMAA── 脂肪燃焼・エネルギー系サプリ


トピック③ JADAの実例 ── オスタリン汚染のケース

2021年、JADAでは次のような違反事例が報告されています。以下の表は、個人の特定を避けるため事件番号の一部と競技名を伏せて掲載します。

| 事件番号 | 競技 | 物質 | 制裁 |
| 2021-███ | ███ | オスタリン(S1:SARM/S0:無承認物質) | 通常4年 → 5ヶ月に大幅軽減 |

オスタリン(別名:エノボサーム)は、世界で最も汚染検出例の多い SARMsの一種です。「プロテイン」「BCAA」「クレアチン」製品でも汚染が報告されています。

このケースでは サプリメント汚染を示す証拠が認められた ことで、通常4年の制裁が5ヶ月まで軽減されました。とはいえ、5ヶ月の競技離脱は競技人生に重大な影響を与えます。

📌 「軽減されたから良かった」ではない
立証には専門分析と法的支援が必要で、時間と費用がかかります。証拠ロットの確保が困難なケースやメーカーとの連携が取れないケースでは、汚染の因果関係を示せず、軽減が認められないリスクが高まります。


トピック④ 厳格責任の冷酷な現実

「知らなかった、汚染されていたとは思わなかった」
→ これは違反の成立を否定する理由になりません。

これが 厳格責任の原則 です。検体から禁止物質が検出された以上、違反は成立します。「信頼できるメーカーだと思った」「ラベルに記載がなかった」と主張しても、まず違反は確定。その後で軽減事由を立証する戦いになります。

立証の壁:

| 壁 | 内容 |
| ロットの特定 | 同一ロットが残っていないと分析できない |
| 因果関係の証明 | 「そのサプリから体内に入った」経路の立証 |
| 製造元の協力 | メーカーが汚染を認めない・廃業している場合は証拠不足 |
| 費用と時間 | 専門分析・法的支援が必要となり、数ヶ月〜年単位の対応となるケースも |


トピック⑤ どう対処するか ── 2つのリスク低減の枠組みと Food First

リスクを下げる選択肢として、性質の異なる 2つの枠組み があります。どちらも「100%安全」を保証するものではない点に注意が必要です。

区分②:第三者認証品

独立第三者機関が出荷前のロット単位で検査している製品です。

  • Informed Choice(LGC Group / イギリス・日本語サイトあり)

  • Informed Sport(LGC Group / イギリス)

  • NSF Certified for Sport(NSF International / アメリカ)

  • Cologne List(ケルンスポーツ大学 / ドイツ)

ただし、これらの第三者認証は JADAのドーピング検査で「違反とならないこと」を保証するものではありません。認証が確認しているのは、あくまで検査した特定ロットから既知の禁止物質が検出されなかったという事実にとどまります。検査の感度には限界があり微量の混入を見落とす可能性があること、また認証を受けたロットと実際に手元に届くロットが必ずしも同一ではないことなどから、「認証品だから大丈夫」と言い切ることはできません。そして最終的に検体から禁止物質が検出されれば、厳格責任の原則によりアスリート自身が責任を負います。

区分③:JADAガイドラインに基づく情報公開製品

JADA(公益財団法人日本アンチ・ドーピング機構)が策定した『スポーツにおけるサプリメントの製品情報公開の枠組みに関するガイドライン』に基づき、メーカーが 製造施設審査結果と製品分析結果を自主開示 している製品です。

ただしこれは JADAによる認証や推奨ではなく、リスク低減のための情報提供の枠組み です。JADAは2019年に認証プログラムを終了し、情報公開型に転換しました。ガイドライン本文も「完全なる安全を保証するものではない」と明示しています。

サプリメント使用の最終判断と結果に対する責任はアスリート自身にあります(厳格責任の原則)。

Food First原則

WADA(世界アンチ・ドーピング機構/World Anti-Doping Agency)・JADAが推奨する基本方針は 「Food First」

必要な栄養素はまず 食事から摂る。サプリメントはどうしても補えない場合の補助として、リスクを理解した上で選ぶ。

💊 薬剤師ポイント

  • サプリメントは食品扱いで、医薬品のような全成分表示義務がありません

  • 「天然成分・植物由来」と書いてあっても、それは安全性の保証ではありません

  • 使うかどうか迷ったら、使う前にスポーツファーマシストに相談を


まとめ

今週のポイントをまとめます。

  • うっかりドーピングの3大経路は 市販薬・漢方薬・サプリメント

  • サプリメント汚染は世界中で約15%の製品から検出される(Geyer 2004)

  • JADA違反事例(オスタリン)でも軽減は5ヶ月。立証には多大な費用と時間

  • 厳格責任:「知らなかった」は理由にならない

  • リスク低減の枠組みは 区分②(第三者認証)区分③(JADAガイドラインに基づく情報公開製品) の2種類。いずれも「100%安全」を保証するものではない

  • 基本は Food First(必要な栄養はまず食事から)

  • 薬を使う前にスポーツファーマシストに相談を

次回の第12号では、アンチ・ドーピングを語るうえで欠かせない重要な仕組み 「TUE(治療使用特例/Therapeutic Use Exemption)」 を詳しく解説します。「禁止物質を含む薬を、医療上どうしても必要なときに例外的に使うための制度」── 持病のあるアスリートにとって命綱となるこの制度の正体を、次号で押さえましょう。


著者プロフィール

TechKeep_pharma
JADA認定スポーツファーマシスト・薬剤師
IRONMANみなみ北海道2024完走
アスリートへのアンチ・ドーピング相談・教育活動を行います。
Kindle書籍「薬剤師・薬学生のためのアンチ・ドーピング入門」準備中
X:https://x.com/TechKeep_pharma
note:https://note.com/techkeep_pharma


ご利用にあたって

禁止表国際基準は最低年1回、WADAコードも随時改定されます。
当アカウントは正確な情報発信を心がけていますが、最新情報は必ず GlobalDRO(医薬品の禁止状況検索データベース)・JADAの公式情報でご確認ください。
ドーピング違反に関わる最終判断は、アスリート自身の責任において行われます。

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