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週刊アンチ・ドーピング通信 #19|FIFAワールドカップ2026 総括──2026年7月の最新情報


はじめに

こんにちは、TechKeepです。今週のアンチ・ドーピング情報をお届けします。

前号の第18号 「血液を増やすドーピング『EPO』とは──S2 ペプチドホルモン」 では、赤血球を増やして持久力を高める禁止物質EPOと、S2(ペプチドホルモン・成長因子・関連物質及び模倣物質)を解説しました。

今号は 2026年7月の最新情報号 です。7月のメインは、6月号(第15号)で「決勝後の7月号でまとめます」とお約束していた FIFAワールドカップ2026のアンチ・ドーピング総括。史上初の3カ国共催(メキシコ・アメリカ・カナダ)大会で、クリーンスポーツはどう守られたのか。第16号で速報した「食肉由来クレンブテロール」事案も、あらためて整理します。あわせて、7月のJADA(公益財団法人日本アンチ・ドーピング機構)違反事例と、2027年WADA(世界アンチ・ドーピング機構/World Anti-Doping Agency)コードへの移行動向を、毎月恒例トピックとして手短にお届けします。

そしてもう一つ、7月の最重要トピックがあります。2027年WADAコードへの移行が、いよいよ具体的に動き出しました。7月22日、JADAから「意見募集の開始」と「解説動画の公開」が同時に発表されています ── 私たちが今すぐ関われる話です。

なお今月は、これまで本通信で取り上げた2つの事案に、そろって「その後」が出た月でもありました。第16号の食肉由来クレンブテロールと、第13号の**ツロブテロール(貼り薬)**です。名前がよく似ているのに、結末は正反対でした。

7〜8分で読める内容で、7月のアンチ・ドーピング動向をキャッチアップしましょう。


トピック① FIFAワールドカップ2026 アンチ・ドーピング総括

2026年7月19日(現地時間) に決勝を迎え、史上初の3カ国共催(メキシコ・アメリカ・カナダ)となったFIFAワールドカップ2026が閉幕しました。第10号(5月号)で深掘りした 3カ国のNADO(国内アンチ・ドーピング機関)連携プログラム が、大会を通じて稼働しました。

大会のアンチ・ドーピング体制(第10号のおさらい)

16開催都市 に FIFAのドーピング・コントロール・オフィサー(DCO)を配置し、各国NADOが競技会外検査と会場での検査を支援。尿・血液検査を予告なしで実施しました。嗜好用大麻が合法な州でも、アンチ・ドーピングのルールは州法とは独立して適用されます(THC〔テトラヒドロカンナビノール・大麻の主成分〕=S8カンナビノイドは競技会〔時〕に禁止/CBD〔カンナビジオール〕は除外)。

📊 大会全体の検査数について:FIFA・WADAによる大会全体のアンチ・ドーピング総括レポート(総検査数・内訳)は、本稿執筆時点(7月下旬)では公表されていません。大会規模から見て過去最大級の検査数となった見込みですが、確定値が出た段階であらためてお伝えします

「食肉由来クレンブテロール」で複数の陽性(第16号の続報)

大会期間中、食肉に残留したクレンブテロール(S1:蛋白同化薬) が原因とみられる陽性が複数報告されました(第16号で速報)。

🔗 食肉由来クレンブテロールの詳細は第16号で解説しています

  • 分類は S1:蛋白同化薬(常に禁止・特定物質でない物質・標準制裁4年)

  • ただし 汚染(コンタミネーション) が立証されれば、意図的でないとして制裁が大きく軽減されうる

  • それでも 厳格責任 の原則は動かない ── 検体から出た物質の責任は競技者本人が負う

【続報】制裁は科されない見込み

第16号でお伝えした「ある代表チームの8選手」の事案は、その後の報道によれば、次のように整理されています。

  • 検出された濃度が 極めて低く、食品由来の汚染と整合的 であることから、アンチ・ドーピング規則違反(ADRV)ではなく「非定型報告(atypical finding)」として扱われた

  • 選手が競技力向上の目的で意図的に摂取したことをうかがわせる証拠は確認されていない

  • 資格停止などの制裁が科される見込みは低いとされ、分析機関の検査と食品調査の完了をもって事案は終結する見通し

📌 WADAは 2019年5月 以降、食肉由来と思われる低濃度のクレンブテロール(尿中5 ng/mL未満)を 非定型報告 として扱う運用を示しています(第16号で解説)。今回はその運用が実際に働いた形です。

💊 薬剤師ポイント:「肉を食べただけ」でも検出されうる。今回は低濃度かつ多人数という状況から汚染と判断されましたが、単独・高濃度なら同じ結論になるとは限りません。海外遠征では 食材の産地・サプリの管理 まで含めたリスク管理が問われます。

🌏 関連:JADAは 7月27日、日本・韓国・中国のアンチ・ドーピング機関による 3か国職員交流会議 を開催したと発表しました。アンチ・ドーピングは、各国の機関が連携して初めて機能する分野です。

🎯 試験対策ポイント

  • クレンブテロールは S1:蛋白同化薬(β2作用薬S3ではない点が引っ掛け・第17号参照)。

  • 厳格責任(Strict Liability):意図・知識・過失の有無を問わず競技者が責任を負う。汚染立証で制裁軽減はありうるが「責任ゼロ」ではない。

  • 嗜好用大麻が合法な地域でも、競技のアンチ・ドーピング規則は独立して適用される。


トピック② 2027年コードへの移行が本格始動(7月の最重要トピック)

7月、2027年WADAコードへの移行が具体的に動き出しました。JADAから2つの発表があり、いずれもアスリートやサポートスタッフが今すぐ関われる内容です。

(1)日本アンチ・ドーピング規程(2027年版)への意見募集が開始(7月22日)

2027年1月1日施行予定の日本アンチ・ドーピング規程(JADC)改定版について、JADAが意見募集を始めました。

  • 対象範囲:前文・序文および第19条〜第26条

  • 意見を出せる人:国内競技団体・アスリート・サポートスタッフ等、広く

  • 提出方法・締切:専用の意見募集ページに記載(下記リンクからご確認ください)


💊 ここが大事:ルールは「上から降ってくるもの」と思われがちですが、国内規程は意見を届けられる段階があります。現場で困っていること・分かりにくい条文があれば、伝える機会です。

(2)2027年版 世界規程・国際基準の解説動画が公開(7月22日)

同じ7月22日、改定の主なポイントと背景を解説する動画(ウェブ説明会) が公開されました。

  • 内容:2027年1月1日発効の世界アンチ・ドーピング規程・国際基準の主な改定ポイントと、その背景

  • 対象:アスリート・サポートスタッフ・競技団体担当者など、アンチ・ドーピングに関わるすべての人

  • 無料で視聴可能


今後のスケジュール

| 時期 | 内容 |
| 2026年7月22日 | 意見募集開始/解説動画(ウェビナー)公開 |
| 2026年11月上旬 | 世界アンチ・ドーピング規程・国際基準の日本語翻訳版が公開予定 |
| 2027年1月1日 | 2027年版コード・国際基準および日本アンチ・ドーピング規程が発効 |

📌 主な変更点は、非意図的違反の制裁の3段階化濫用物質は初回2ヶ月固定汚染源(Contaminated Source)の定義拡大国際基準が8つ→9つなど。今号のトピック①「食肉由来クレンブテロール」は、まさに定義が拡大する**汚染源(食品由来の汚染)**の典型例です。

🎯 試験対策ポイント

  • 2027年版コードの発効は2027年1月1日。2026年中は現行の2021年版が適用される移行期間。

  • 日本語翻訳版の公開は2026年11月上旬予定 ── 対策は日本語版の公開後が本番。


トピック③ 7月のJADA違反事例(毎月恒例)

JADAは規律パネルの決定を「国内のアンチ・ドーピング規則違反及びその他の違反」のページで公表しています。

2026年7月1日、規律パネル決定が1件公表されました(2025-███ 事件)。 禁止物質は ツロブテロール(貼り薬) ── 第13号で「国内全9件」として取り上げた、あの事案です。

第13号の公開時点では決定文書は最終版ではありませんでしたが、7月1日に正式版が公表され、内容が確定しました

| 項目 | 内容 |
| 検査 | 2025年9月4日・競技会(時)検査 |
| 検出物質 | ツロブテロール(S3:β2作用薬・特定物質) |
| 経緯 | 咳の症状のため、医師から貼り薬を処方されて使用 |
| 制裁 | 4ヶ月の資格停止(2025年11月5日から)+大会成績の失効 |

決定文書が重く指摘したのは、次の一点です。競技者は初診時に「自分は検査対象で、禁止物質を含む薬は避けたい」と医師に伝えていました。それでも医師は説明せずに処方しています。この点は酌量されましたが ── 「調べれば分かったのに調べなかった」過失は残るとして、完全な免責にはなりませんでした。

🔗 ツロブテロール(貼り薬)の全9件の分析・TUEが通りにくい構造は第13号で詳しく解説しています

💊 薬剤師ポイント:「アスリートだと伝えたのに、禁止物質入りの薬を処方された」── それでも規則上、最終的な責任は競技者本人に残ります(厳格責任)。だからこそ、処方の前に薬剤師・スポーツファーマシストへの一手間が効きます。

厳格責任の再確認

  • 公表されるのは、聴聞を経た 規律パネル決定 と、競技者が制裁を受け入れた 同意に基づく決定

  • 要保護者(18歳未満等)やレクリエーション競技者の事案は、規程上 一律の公開の対象外(日本アンチ・ドーピング規程 14.3.6項)。「一覧に載っていない=違反がない」とは限りません。

🎯 試験対策ポイント

  • 制裁が確定する経路は2つ:規律パネルの聴聞同意に基づく決定

  • 違反決定の公表には例外があり、要保護者・レクリエーション競技者は一律公開の対象外(規程14.3.6項)。


📌 今月の視点:似た名前、正反対の結末

今号にはよく似た名前の2つの物質が登場しました。クレンブテロールツロブテロールです。どちらも薬理学的には β2刺激薬 の仲間ですが、禁止表での扱いも、今回の結末も対照的でした。

■ クレンブテロール(トピック①/第16号で解説)

  • 禁止表の分類:S1 蛋白同化薬

  • 体内への入り方:食べ物から ── 本人に食材選択の余地なし

  • 濃度の扱い:低濃度なら 非定型報告 の対象になりうる

  • 結末:制裁は科されない見込み

■ ツロブテロール(トピック③/第13号で解説)

  • 禁止表の分類:S3 β2作用薬

  • 体内への入り方:医師の処方から ── 善意の医療行為

  • 濃度の扱い:尿中閾値なし ── 検出されれば違反

  • 結末:4ヶ月の資格停止

同じ「意図しない摂取」でも結末が分かれた理由は、「防ぎようがなかったか/防ぐ手段があったか」 です。食肉汚染は本人に避けようがなく、低濃度かつ多人数という状況が汚染を裏づけました。一方の処方薬は「調べれば分かった」── 避ける手段が競技者の側にありました。

そして薬に関しては、たいてい 防ぐ手段はあります。使う前に確認する、ただそれだけのことです。

🎯 試験対策:名前が似ていても分類は別。クレンブテロール=S1(蛋白同化薬)/ツロブテロール=S3(β2作用薬)。薬理学的にはどちらもβ2刺激薬である点が引っ掛けになります。


今月のまとめ

  • FIFAワールドカップ2026(7/19閉幕)は、3カ国NADO連携のアンチ・ドーピング体制で運営された。大会全体の総括レポートは未公表で、確定値は今後の発表待ち。

  • 大会で報告された 食肉由来クレンブテロール(S1) は、低濃度かつ汚染と整合的として 非定型報告 として扱われ、制裁は科されない見込み。ただし 厳格責任 の原則は動かない。

  • 7月22日、2027年コードへの移行が本格始動。日本アンチ・ドーピング規程(2027年版)の意見募集が開始され、解説動画も公開された。日本語翻訳版は11月上旬公開予定、発効は2027年1月1日。2027年版で拡大する「汚染源」の定義は、今号のクレンブテロール事案に直結する。

  • 7月1日、第13号で扱ったツロブテロール事案の決定が正式公表され、4ヶ月の資格停止で確定した。なおJADAの違反決定一覧には「載らない」事案もある(要保護者・レクリエーション競技者は義務的公開の対象外)。

  • クレンブテロール(S1)とツロブテロール(S3)は名前が似ているが、分類も結末も違う。分かれ目は「防ぎようがなかったか/防ぐ手段があったか」。薬については、たいてい防ぐ手段はある。

来週もアンチ・ドーピングの最新情報をお届けします。


著者プロフィール

TechKeep_pharma
JADA認定スポーツファーマシスト・薬剤師
IRONMANみなみ北海道2024完走
アスリートへのアンチ・ドーピング相談・教育活動を行います。
Kindle書籍「薬剤師・薬学生のためのアンチ・ドーピング入門」準備中
X:https://x.com/TechKeep_pharma
note:https://note.com/techkeep_pharma


ご利用にあたって

禁止表国際基準は最低年1回、WADAコードも随時改定されます。
当アカウントは正確な情報発信を心がけていますが、最新情報は必ず GlobalDRO(医薬品の禁止状況検索データベース)・JADAの公式情報でご確認ください。
ドーピング違反に関わる最終判断は、アスリート自身の責任において行われます。

※ note自動翻訳は機械的翻訳のため、専門用語が必ずしも WADA公式英語表記と一致しない可能性があります。正確な情報は WADA公式(wada-ama.org)または JADA公式(playtruejapan.org)をご参照ください。

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