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ノクタヌンによせお 第䞀話

【note創䜜倧賞2023 最終候補䜜】

【あらすじ】
音倧のピアノ科を優秀な成瞟で卒業した銙月矎千代は結婚しお自宅でピアノ教宀を運営しおいる。ピアノコンクヌルで䜍を取り、華々しくピアニストずしおデビュヌするずいう倢に挫折し、子䟛盞手のピアノの先生をしおいる自分を「負け組」ず決め぀け、鬱々ずした毎日を送っおいたずころ、近所のコミュニティセンタヌでゞャズピアニストの深町実ず出䌚う。深町に「ピアニストになるのに資栌は必芁ない。自分はピアニストだっお蚀えばいい」ず蚀われ、矎千代はその蚀葉に反発するが、深町は矎千代の苊しい胞の内を芋抜き、「ピアニストに必芁なのは、右手ず巊手ずもう䞀぀。それは䜕か」ず問いかける。矎千代はその「もう䞀぀」を探しながら、もう䞀床、自分ずピアノに正面から向き合い、倢を远いかけようずする。

第二話 

「先生、アニメの曲が匟きたい。これ、もう飜きちゃった」
 沙織ちゃんはバむ゚ルの教本を指差し、唇を尖らせる。私は匕き぀りそうな頬を必死に持ち䞊げお笑った。
「でも、これが匟けないず、アニメの曲も綺麗に匟けないのよ」
「えヌ、でも、YouTubeの人はちゃんずカッコよく匟いおたもん」
 小孊二幎生の沙織ちゃんが、私のピアノ教宀に来お䞉か月。自宅で緎習しおきたこずは䞀床もない。動画サむトでピアノ䞊玚者が匟く姿を芋お、「ピアノ教宀に入れば、同じように匟ける」ず思い蟌んでしたったんだろう。
 今の子䟛たちにずっお、ピアノは「消費」される嚯楜の䞀぀に過ぎない。指の圢、タッチの深さ、音色の䜜り方  私が音倧時代に血を吐く思いで孊んできたこずは、ここでは「぀たらないこだわり」ずしお切り捚おられる。
 レッスン蚈画を緎り、䞀人䞀人のレベルに合わせた楜譜を甚意しおも、それらが届くこずはない。私の存圚意矩は、子䟛たちの暇぀ぶしに付き合う「優しいお姉さん」でしかないのだろうか。
 ――来週のレッスン、䌑んでくれないかな  。
 そんな願望さえ浮かぶ。

「ありがずうございたした。先生 バむバむ」
 沙織ちゃんが笑顔で小さな手を振りながら玄関のドアを開けるず、二月の冷えた空気が屋内に吹き蟌んで来た。暖房に慣れ切った党身ず、ただ正月ボケが抜けきらない頭に沁みる。
 玄関のドアが完党に閉たったのを確認しお、私は倧きく息を吐いた。午前䞭のレッスンは終わり、午埌からはピアノの調埋が始たる。少し気分を倉えよう。
 ふず、玄関脇の小さなテヌブルの䞊の葉曞が目に入った。
「吉岡恵理子 ピアノリサむタルのご案内」
 途端に気分が沈む。実家に届いたものを、母がわざわざ持っお来たのだ。吉岡さんは音倧時代の二぀幎䞊の先茩で、歎代の卒業生の䞭で、最も優秀で掻躍しおいるず称えられおいる人だ。
 葉曞を手に取るず、プロフィヌル欄の「プラハ囜際音楜コンクヌル ピアノ郚門第䜍」の文字に、思わず葉曞をくしゃりず朰したくなる。葉曞を自分の郚屋のパ゜コンデスクの前に乱暎に攟り投げ、リビングに行く。

「お疲れ様」
 リビングでは、倫の浩介が䞡手にコヌヒヌカップを持っおいた。
「顔、怖いよ」
「うそ やだ  」
 無理やり笑顔を䜜り、「ありがずう」ず蚀っお倫の巊手からコヌヒヌカップを受け取ろうずした瞬間、ガラステヌブルの䞊に眮いたスマヌトフォンがけたたたしい音を立おた。画面には「長柀さん」ず衚瀺されおいる。レッスンが終わった盎埌ずいうタむミングの良さに、嫌な予感がした。
「はい、もしもし」
 わざず明るい声を出す。
「あ、先生 長柀です。急なんですけど、健倪がね、もうレッスンやめたいっお。なんか、あんたり䞊達しなかったみたいで。突然でごめんなさいね。あヌ、発衚䌚もキャンセルで。それじゃ」
 心にグサリずナむフが刺さった。「あんたり䞊達しなかったみたいで」ずいう蚀い方は、私のレッスン力りょくに疑問笊を突き付けおいるのず同じだ。
 盞倉わらず䞀方的にたくし立おる喋り方で、私が「分かりたした」ず蚀い終わらないうちに通話が匷制終了された。呆然ずしおいるず、倫が「どうした」ず心配そうな顔をしお蚀った。
「健倪君のお母さんから。来週で最埌にするっお」
「そうか。でも、前々からやる気がない子だったんだろう 仕方ないよ」
 私は「うん」ず返事をしお゜ファに座った。
 去幎の八月、ショッピングモヌルの䞀角に蚭眮されおいるストリヌトピアノで、近隣のピアノ教宀の先生達ず䞀緒にデモンストレヌション挔奏䌚を行った。最近のヒットチャヌトを賑わす曲やアニメの曲、ディズニヌの曲など挔奏したずころ、思った以䞊に奜評だったようで、「ピアノ教宀を芋孊したい」、「䜓隓レッスンを受けおみたい」ずいう問い合わせが䞀週間で十六件もあった。
 小孊䞉幎生の長柀健倪君も、そうしおりチの教宀の生埒になった䞀人だ。しかし、健倪君が習い始めお半幎、最初のうちは「ディズニヌの曲が匟きたい」ず意気蟌んでいたが、芋る芋るやる気が倱せおいった。䞀か月前のレッスンの時、健倪君を迎えに来た長柀さんに「健倪、䞋手だから教えるの倧倉でしょう なんか思っおたのず違うみたいで」ず笑いながら蚀われた時は、危うく「だったらやめればいいのに」ず蚀いそうになった。しかし、生埒が䞊達しないのも、やる気がなくなるのも、結局は先生の責任ずいうこずになる。

「調埋する前に緎習すれば」
「んヌ、これ読んだら」
 倫がピアノを匟かなくなっお、䞉週間が過ぎた。今では、土日は読曞に費やしおいる。
「発衚䌚近いんだよ 本ばっかり読んでないで緎習しないず」
「あヌ、今緎習䞭の曲、間に合わなかったら曲倉曎するよ」
「間に合わなかったら、じゃなくお間に合わせるの」
 割ず匷めに蚀った぀もりだが、党く通じおないようで、倫はやはり本から目を離さずに「はいはい」ず空返事をした。䞀瞬、本を取り䞊げ、いや、本を思い切り蹎り䞊げたい衝動に駆られる。
 来月には近くのピアノ教宀ず合同でピアノ発衚䌚を開く。倧半は小さな子ども達で、䞀番䞊でも高校生たでしかいない。倧人がピアノを匟く姿を生埒さんやその家族に芋せたくお、倫にはゲスト出挔しおもらうこずになっおいる。最初のうちは「ピアノ教宀の看板を背負っお出るぞヌ」ず意気蟌んでいお、仕事ず睡眠以倖の党おの時間をピアノに費やしおいたのに、今ではこの有様だ。
 ――䌚話する時くらい、目を合わせなさいよ。
 人ず目を合わせお話すずいう、圓たり前のこずもしおくれない倫に絶望すら感じる。おそらく、今の倫にずっお、本の䞭の䞖界が珟実で、私がいる䞖界がフィクションになっおいるに違いない。癟歩譲っおピアノを緎習しないのは蚱すずしお、倫の䞭の優先順䜍が劻より本の方が䞊になっおいるこずに、屈蟱ず苛立ちを芚えおいた。
「あヌそうだ、返す本があるから図曞通に行っおくる」
「いいよ、私が行くから」
「そう じゃあ頌んだ」
 倫は自分の郚屋に行き、本が二冊入った手提げ袋を差し出し、私の目を芋お「すたんね、よろしく」ず蚀った。さっき煮えたぎった屈蟱ず苛立ちが少しだけ和らいだ。
「コンビニ寄るけど、䜕かほしいものある」
「特にない」
 倫はすでに本の䞖界に戻っおいた。無駄な気遣いをした自分がバカに思えた。

 去幎の十月、自宅から歩いお五分のずころにコミュニティセンタヌが建おられた。䞭には倚目的宀や䌚議宀、和宀、キッズルヌムがあり、図曞通も䜵蚭されおいお、倫は週末になるず、この図曞通に足しげく通っおいる。朝ふらっず行っお倕方たで垰らない時もあり、携垯電話にメヌルを送っおも䞀切返事がなく、図曞通たで迎えに行ったこずもある。それを友達に愚痎るず、「朝からパチンコ屋に䞊ぶりチの旊那より䞀億倍マシよ」ず蚀われた。そう蚀われればそうだが、倫が家にいないず、「自宅は心䌑たる堎所じゃない」ず暗に蚀われおいるようで心配になる。
 図曞通の返华コヌナヌに本を眮いた瞬間、「芥川韍之介」ずいう文字が目に入った。この文豪が今の私から倫を奪っおいる匵本人だず思うず、筋違いだず分かっおいながらも、倉な嫉劬心が私の䞭に枊巻いた。それを冷たそうず、䜕をするでもなく、通内を埘埊する。倖の䞖界から隔離されたかのような静寂ず本ず玙の匂い。この雰囲気は嫌いじゃない。
 最近、党く本を読んでいない。最埌に読んだのは、確か去幎の本屋倧賞を取った䜜品で、途䞭で読むのをやめおしたった䞊に、タむトルすら芚えおない。父に「バカず蚀われたくなければ本を読め」ず口うるさく蚀われおいたので、昔はかなり本を読んだが、読曞ずいうものが意倖に䜓力が芁るものだず気付いお以来、読たなくなった。䞉十歳を過ぎお、自分を省゚ネ運転するこずに舵を切った結果、読曞は捚おたも同然だった。
 倫の読む本が、せめお今話題のベストセラヌだったら少しは䌚話できるのかもしれないが、こずもあろうに、倫は芥川韍之介や倪宰治、さらには岡本かの子や織田䜜之助など、およそ私には手が出せない文孊䜜品ばかりを読むので、本に関しおは倫の領域に党く螏み蟌めない。結婚しおから倫がピアノを始めお、倫の方からこちらの領域に来おくれたが、二幎しか続かなかった。その原因の䞀端が自分にあるず思うず、やっぱり「匟け」ず匷く蚀えない。

 図曞通から出た瞬間、ピアノの音が聞こえたような気がしお、思わず党身の動きを止めお息を朜めた。コミュニティセンタヌ内のBGMかず思ったが、そんなものは流れおいない。気のせいかず思ったが、私の耳が確かに「聞こえた」ず蚀っおいる。倚目的宀にピアノがあるこずを思い出し、吞い寄せられるように向かうず、倚目的宀の二重扉の倖偎が空いおいお、䞭からかすかにピアノの音が挏れおいた。
 ――やっぱり。
 二重扉の内偎に入り、そっず聞き耳を立おるず、ショパンのノクタヌンの番が聞こえおきた。ずいぶんずクセのある匟き方だ。䞊手いか䞋手かで蚀えば䞊手いのだが、それずは違う。党䜓的にスタッカヌト気味で、右手パヌトの装食音ず連笊なんおシンコペヌションになっおいる。間違いない。ゞャズの人だ。
 私はどんな人が匟いおいるのか気になり、重い防音扉の取っ手を䞡手で持ち、少しず぀自分の方に匕く。䞉十センチほど開けたずころで、そっず䞭を芗くず、思ったよりずっず広い倚目的宀の党容が芋えた。芳客が五十人くらいは入れそうだ。䞀番奥にピアノがあり、氎色のシャツを着た男性が匟いおいる。ずいぶんず若い。こんな玄人のような匟き方をするのは、おっきり䞭幎かそれ以䞊の人だず決め぀けおいた私は玠盎に面食らった。その時、防音扉がギィず音を立おる。

 ――あ
 心の䞭で叫んだ瞬間、 男性がピアノを匟く手を止めお立ち䞊がり、こちらを芋た。私は慌おお䞭に入る。
「あの  ちょっず芋孊で」
 私がそう蚀うず、男性が「ああ、どうぞ」ず蚀うので、わざずらしく宀内を芋枡しながらピアノの方ぞず歩く。ピアノには「STEINWAY & SONS」のロゎがあった。倧きさからしお、サロンモデルだろうか。音楜専甚ホヌルではない倚目的宀なんお、眮いおあるのはせいぜいYAMAHAのC3くらいだろうず思っおいたので、スタむンりェむなのには驚いた。
「すみたせん、どんな人が匟いおるのかなっお思っお、぀い」
「こんな人です」
 緎習を邪魔されたのがよほど気に障ったのか、男性は気持ち良いくらいの無衚情ず、感情のない声で蚀った。関わっおはいけないタむプの人間だず、私の䞭で危険信号が鳎る。
「たぁ、座っお」
 男性が垭を立った瞬間、私はたるで条件反射のように怅子に収たっおしたった。
「ピアノ匟く人」
「ええ、たぁ  」
「䜕か匟いおよ」
「は」
 ピアノ教宀をやっおいるず、倱瀌な生埒や芪がたたにいるので、それなりに慣れおいる぀もりだったが、久々に頭に血が䞊った。この男性は間違いなく私より幎䞋だろう。しかも初察面にもかかわらず、敬語を䜿わないうえに、「䜕か匟いおよ」などず蚀い攟぀のは、䞍躟ぶし぀けにもほどがある。もしかしお、私を詊しおいるのだろうか。䞀瞬、思いっきり難易床の高いクラシックの曲を匟いお驚かせおやろうずいう子䟛じみた考えが頭をよぎったか、すぐに冷静になった。ピアノはそういう䜿い方をするものではないし、䜕より、こんな倱瀌な奎に察しお腹を立おおも疲れるだけだ。
「あ、ゎメンなさい」
 私の心の䞭を察したのか、男性は突然謝った。
「ピアニストやギタリストに『䜕か匟いおよ』ずか、歌手に『䜕か歌っおよ』っお蚀うのは、䟋えば䜕かを売っおるお店で『タダでちょうだい』っお蚀っおるのず同じだず思うんだよね。ホント、軜々しく蚀う奎が倚くお困るよ」
 あたりにも荒唐無皜な蚀い分だが、あながち間違いではないず思った。私も「匟いお匟いお」ず蚀われるこずは倚いが、そのたびに、「じゃあ、あなたは私に䜕をしおくれるの」ず問う。もちろん、心の䞭で。
「匟いおほしいな。盞圓な腕前だず思うから」
「なんでそう思うんですか」
「たず、䜕の躊躇もなくその怅子に座った。僕に譊戒はしおおも、ピアノに譊戒はしおいない。姿勢が良くお、肩に力は入っおいなくお、肘が自由に動いおいる。しかも、座った時に䞀瞬だけ䞡手を鍵盀の䞊に眮いたでしょ 巊手の小指ず右手の芪指を『ド』に眮いた。倚分、ハノンのスケヌルずアルペゞオを日垞的に緎習しおいる。そういう人で、䞋手な人はたずいない。もしかしお、音倧出身」
 私が呆気に取られおいるず、男性は「結構圓たっおるず思うんだけど」ず蚀った。「結構」どころか党郚圓たりだ。そしおそれは、この男性の腕前をも蚌明しおいる。少なくずも、ただ趣味で匟いおいる人ではなさそうだ。少しだけ、この男性に察しお興味が湧いた。
「圓たりです。私からも䞀぀いいですか」
「ええ、䜕でもどうぞ」
 男性が埮笑む。ようやく感情の動きを芋せた。
「さっき、ノクタヌンの番を匟いおいるのを聞いたんですけど、普段からゞャズを匟いおたせんか」
 男性の现い䞡目がパッず開き、姿勢を正しお「申し遅れたした。深町ふかたちず申したす」ず、ようやく自己玹介をした。いきなり取っお付けたような敬語ず䞁寧さに違和感がぬぐえないが、これで私も「自己玹介をしおやろう」ずいう気になった。
 私は男性の方を向き、䞡手を膝の䞊に眮く。
「銙月かづきです。近くでピアノ教宀をやっおいたす」
「なるほどね」
 男性は小さくうんうんず頷く。
「僕は元々クラシックを匟いおたんだよ。ショパンのノクタヌンが奜きだったんだけど、匟くたびに先生にあれこれ泚意されお、しかも、『あなたには叀兞掟が合っおるわよ』ずか蚀われお、ベヌトヌノェンずかハむドンずか、匟きたくもないような曲を匟かされお、嫌になっおね。今はどうか知らないけど、昔のピアノの先生っお、ホント匷烈だよね」
「たぁ、私も昔は同じようなものでした。でも今は生埒が先生を遞ぶ時代ですから、昔のようなレッスンをしたらみんな逃げちゃいたすよ。先生ず生埒の盞性はもちろんありたすけど、やっぱり楜しく匟くのが第䞀ですから」
 おそらく、深町ず同じ経隓をした人は倚い。昔はレッスンが厳しいのはもちろん、先生の蚀うこずには絶察服埓を匷いられ、自分の匟きたい曲を匟かせおもらった蚘憶はほずんどない。しかも、発衚䌚ずもなれば、勝手に教宀の看板ず䞀緒に自己顕瀺欲ずいう重荷を生埒に背負わせ、倱敗しようものなら「私に恥をかかせるな」ず蚀わんばかりに叱責された。
「じゃあ、僕匟きたすよ。次に先生が匟くっおいうのはどう」
「分かりたした」
 私は怅子から立ち䞊がった。
「リク゚ストある」
「そうですねぇ。『Autumn Leaves』、お願いしたす」
「いい遞曲」
 深道は怅子に座っお深呌吞をした瞬間、いきなり匟き始めた。ゞャズはずにかく鍵盀をガンガン叩いお、耳を぀んざくような蜟音を出す人が倚いから苊手だが、深町の出す音は、私が奜きな、䞞くお柔らかい音だ。
『フォルティシモはバカでも出せる。力任せに鍵盀を叩けばいいんだから。ピアニッシモをいかに矎しく響かせるかがピアニストの技量そのものである』
 音倧の孊生だった頃に垫事しおいた先生がこう蚀っおいた。それたでの私は割ず力を入れお鍵盀を叩く匟き方だったので、早い段階でこう教えられたのは運が良かったのかもしれない。
 それにしおも、深町はずいぶんず䞍思議な匟き方をする。指を鍵盀に振り䞋ろすような動䜜で、䞀芋するず叩いおいるようだが、音はずおも優しい。おそらく、指が鍵盀に觊れる盎前にブレヌキをかけお力を抜き、指の重さで鍵盀を沈み蟌たせおいる。玠人ができる芞圓ではない。䞀䜓どこで、誰に教わっおこんな「ワザ」を身に着けたのだろうか。私は深町の䞡手ず暪顔を亀互に芋た。
「䞭間郚分のアドリブ、ちょっずクラシックっぜいですね」
「元々はクラシックを匟いおたからね。やっぱり怖いな、ピアノの先生は」
「あ、ごめんなさい。䜙蚈なこずを  」
「いやいや、ピアノの感想っおみんな遠慮するから、むしろ歓迎」
「それず、もしかしお巊手は  ストラむド奏法ですか」
 深町の顔がパッず明るくなる。
「分かる これ、垫匠盎䌝なんだよ さすがだなぁ」
 圌が甲高い声を䞊げた途端、スマヌトフォンがメヌル通知を告げた。調埋垫の皆川みながわさんだった。
「旊那さん」
「あ  はい。早く垰っお来いっお」
 咄嗟に噓を぀いた自分に戞惑いながらも、必死で平静を装う。
「家は䞀軒家」
「ええ」
「グランドピアノ」
「YAMAHAのG2Eを䜿っおたす」
「ぞぇ。旊那さんは高絊取りだね。結構幎䞊かな」
 深町ずこれ以䞊話さない方がいいず思い、答えずに早足でその堎を離れた。ピアノを匟いおいる時は芋惚れたが、それ以倖の時は埗䜓の知れない䞍気味さがある。
「あの  お邪魔したした」
「明日の午埌もいるから、暇だったら来およ。先生ずは話が合いそうだし」
「いえ、レッスンがありたすので  」
「なんだ。残念」
 たた嘘を぀いた。日曜日のレッスンはない。
 私が二重扉を開けた時、深町はすでに私ぞの興味を倱ったかのように、ノクタヌンの第番を匟いおいた。
 ――結局、䜕者なんだろう。
 埌ろ髪を匕かれる思いを断ち切るように、私は二重扉を思いっきり閉めた。


いいなず思ったら応揎しよう

トガシテツダ ありがずうございたす(・∀・) 倧切に䜿わせお頂きたす

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