【SSBJ対応 第1回】義務化が確定したSSBJ基準|全体像と、時価総額別スケジュールの読み方
【SSBJ対応連載】
▶ 第1回|義務化が確定したSSBJ基準(本記事)
▶ 第2回|キリンHD VS みずほG
▶ 第3回|一般開示基準の主戦場は「人的資本」
▶ 第4回|第三者保証への備えと対応8ステップ
2026年7月15日、金融商品取引法等の改正法が成立しました。これにより、有価証券報告書におけるサステナビリティ情報の開示と、その第三者保証の義務化が「確定」しました(施行:2027年4月1日)。
これまで「いずれ来る」と言われてきた話が、期限の入った実務課題に変わったということです。
本連載は、2026年7月29日にBSIグループジャパン様のセミナーで講演した「ESG開示及び第三者保証のポイント解説」の内容をもとに、事業会社のサステナビリティ/IR実務担当者の方に向けて、全4回で再構成したものです。
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1. SSBJ基準とは何か──4つの基準で構成される
まず用語の整理からです。「SSBJ基準」とは単一の基準書ではなく、サステナビリティ基準委員会(SSBJ)が公表した複数の基準の総称です。現時点では次の4つで構成されます。
適用基準:サステナビリティ開示ユニバーサル基準「サステナビリティ開示基準の適用」(2025年3月5日公表/2026年3月13日改正)
一般基準:サステナビリティ開示テーマ別基準第1号「一般開示基準」(2025年3月5日公表/2026年3月13日改正)
気候基準:サステナビリティ開示テーマ別基準第2号「気候関連開示基準」(2025年3月5日公表/2026年3月13日改正)
温対法基準:サステナビリティ開示実務対応基準第1号「温対法におけるSHK制度の定める方法により測定し報告する温室効果ガス排出を用いて『気候基準』の定めに従う場合の開示」(2026年6月11日公表)
経緯としては、2025年3月に前者3基準が公表され、2026年3月に「温室効果ガス排出の開示に対する改正」に伴う改正が行われました。この改正は温室効果ガス(GHG)の開示に関するもので、基準の骨格を揺るがすような大きな変更ではありません。
そして2026年6月、温対法(地球温暖化対策推進法)のSHK制度で測定・報告したGHG排出量を用いて気候基準に従う場合の取扱いを定めた「温対法基準」が公表されました。すでに温対法対応でGHG算定を行っている企業にとっては、実務上の負担軽減につながり得る論点です。
(出所)「SSBJ基準解説セミナー2026」2026年7月 サステナビリティ基準委員会(SSBJ)事務局を基に弊社で整理
2. IFRS S1/S2との対応関係──「国際基準に準拠しつつ、一部は日本独自」
SSBJ基準は、ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)が策定したIFRS S1号(全般的要求事項)・IFRS S2号(気候関連開示)をもとに開発されています。国際的な比較可能性を保つ設計になっており、対応関係はシンプルです。
IFRS S1号(全般的要求事項) ↔ 適用基準+一般基準
IFRS S2号(気候関連) ↔ 気候基準
これに加えて、日本独自の 温対法基準
そして、一般基準・気候基準はいずれも、TCFD提言と同じ 「ガバナンス/戦略/リスク管理/指標及び目標」の4要素(コア・コンテンツ) を開示の骨格としています。
ここは実務上、非常に重要なポイントです。すでにTCFD開示に取り組んできた企業であれば、開示の「器」の作り方はすでに経験済みということになります。問題は、その器を気候以外のテーマ(人的資本、人権、情報セキュリティ等)にも用意しなければならない、という点にあります(この論点は第3回で詳しく扱います)。
3. 義務化スケジュール──5年平均時価総額で段階適用
2026年7月15日成立の改正法により、義務化の対象と時期が確定しました。判定は 基準日時点の「5年平均」時価総額 で行われます。

読み方のポイントは3つです。
① 保証は開示の「翌期」から始まる
開示義務化と保証義務化はセットではなく、1年ずれます。時価総額3兆円以上の企業であれば、2027年3月期に開示、2028年3月期に保証、という順番です。逆に言えば、開示初年度の実務がそのまま翌年の保証対象になるということであり、初年度から「保証に耐える」プロセスで作っておく必要があります。
② 5,000億円未満のプライム企業は「未定」だが、来ないとは言えない
現時点で明示されているのは5,000億円以上までです。それ以外のプライム上場企業への適用拡大は、開示状況・投資家ニーズを踏まえて今後検討、とされています。「対象外だからまだ何もしなくてよい」という判断は、後で高くつく可能性があります。
③ 単体ではなく連結グループ全体が対象
適用基準では、報告企業の範囲は財務諸表と同じ連結グループ全体とされています。海外子会社を含めたデータ収集体制が論点になる企業は少なくないはずです。
4. 実務上、押さえておくべき2つの経過措置・救済措置
改正法には、企業側の負担に配慮した重要な仕組みが2つ盛り込まれています。
① 二段階開示(適用開始から2年間の経過措置)
有価証券報告書の提出期限までにサステナビリティ情報が間に合わない場合、サステナビリティ情報だけを半期報告書の提出期限まで、有報の訂正報告書として「後出し」できる 経過措置です。適用開始から2年間に限られます。
これは、財務情報と非財務情報を同時に確定させる実務がいかに重い作業かを、制度側も認識している証左と言えます。ただし3年目以降は財務・非財務の同時開示が求められるため、あくまで移行期間の緩衝材 と捉えるべきです。
② セーフハーバー・ルール
将来情報等の虚偽記載について、金商法上の民事責任等を負わないとするルールが新設されました(改正金商法第21条の2第3項等)。
有価証券報告書の記載はどうしても保守的になりがちですが、将来情報について民事責任を負わない設計にすることで、積極的に開示してほしい という意図が読み取れます。
対象となるのは、業績見通しやビジョン等の将来情報、データを用いた推計・分析等の見積り情報、そしてScope3の他社排出量のような統制の及ばない第三者から取得した情報です(財務諸表に密接に関連する情報は対象外)。
ただし、免責は「開示すれば自動的に得られる」ものではありません。前提となる事実・仮定・推論過程、情報の入手経路等に関する社内での検討・評価手続を有報に開示し、確認書において経営者が開示手続の整備と実効性の確認を述べていることが要件となります。不確実性の高い情報こそ、その裏付けの文書化が求められるということです。
なお、企業にセーフハーバーが適用される場合には、保証業務実施者も虚偽「保証」に係る民事責任を負わない設計になっています。保証実施者が過度に保守的な対応をとることを避ける趣旨です(詳細は第4回で扱います)。
5. 準備には2年以上かかる──逆算するとどうなるか
弊社の支援経験から申し上げると、SSBJ基準への完全準拠開示に至るまでには、一般的に2年以上の期間 を要します。
理由は、開示文書を書く作業そのものよりも、その手前の作業が重いからです。
サステナビリティ情報を継続的に収集する体制の構築と効率化
連結グループ・バリューチェーンを含めた範囲の決定
ガバナンス体制・承認プロセスの社内調整
重要性がある情報(マテリアリティ)の特定と、経営レベルでの合意形成
この逆算をすると、たとえば2029年3月期に開示義務化を迎える「5,000億円以上1兆円未満」の企業であっても、2026年〜2027年には着手しておく必要がある という計算になります。
そして最初の一歩は、ほぼ例外なく次の2つです。
GAP分析 — 現状開示(TCFD開示・統合報告書・有報等)とSSBJ基準の要求項目との差分を棚卸しする
ロードマップ作成 — 義務化時期から逆算した3か年計画と推進体制を設計する
ここを飛ばして個別の開示項目に手をつけると、後から「そもそも母集団の作り方が違った」という手戻りが発生します。

セミナー資料より抜粋
6. 第1回のまとめ
SSBJ基準は 適用基準・一般基準・気候基準・温対法基準 の4つで構成され、IFRS S1/S2をもとに開発されている(国際的な比較可能性を保ちつつ、一部にSSBJ独自の基準がある)
一般基準・気候基準は、TCFDと同じ4要素(ガバナンス/戦略/リスク管理/指標及び目標) が骨格
2026年7月15日成立の改正金商法により、開示・保証の義務化が確定(施行2027年4月1日)。5年平均時価総額で段階適用され、保証は開示の翌期から
二段階開示(2年間) と セーフハーバー・ルール という2つの緩和措置があるが、いずれも「準備をしなくてよい」という意味ではない
完全準拠には 2年以上。まずは GAP分析とロードマップ作成 から
次回(第2回)は、義務化に先行して早期適用したキリンホールディングスとみずほフィナンシャルグループの2社を取り上げ、両社のアプローチがどこで共通し、どこで対照的なのかを比較します。実務の「型」を設計するうえで、非常に示唆に富む2社です。
次回は8月24日公開予定です。
お問い合わせ
SSBJ基準対応のGAP分析、ロードマップ策定、マテリアリティ特定支援、人的資本開示高度化、第三者保証への備えについて、ご相談を承っております。
株式会社Re-grit Partners GRC Advisory
Director 田中 義人(Yoshito Tanaka)
✉ yoshito.tanaka@regrit-p.com
英国CMI認定サステナビリティ(CSR)プラクティショナー。総合電機メーカー/ラキール社でのISO取得支援、KPMGコンサルティングでのCSR高度化支援、AVANTグループおよびBSIグループでのESG開示高度化支援を経て、Re-grit Partnersに参画。製造業・商社を中心に、SSBJ基準対応、TCFD/TNFD開示支援、人的資本開示高度化、グループガバナンス強化、ERM構築、品質不正監査等のプロジェクトを多数リード。
本記事は2026年7月時点で公表されている情報に基づいて作成しています。制度の詳細は今後の政令・内閣府令・ガイドライン等により変更される可能性があります。
主な参考資料
金融商品取引法及び資金決済に関する法律の一部を改正する法律案(令和8年4月10日提出・令和8年7月15日成立)
金融審議会「サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ」報告(2026年1月8日)
金融庁「企業内容等の開示に関する内閣府令」改正(2026年2月20日)
「SSBJ基準解説セミナー2026」(2026年7月、SSBJ事務局)
上記を基に弊社で整理
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