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「にわかファン」は、本当にサッカーファンになる前の未完成な人なのだろうか|にわかファンについて考える②。

前回、「にわかファン」がなぜサッカー好きから嫌われることがあるのかを考えた。

長くサッカーを見てきた。

選手を知っている。

クラブの歴史を知っている。

勝った日も負けた日も見てきた。

そこへワールドカップになると、普段はサッカーを見ていなかった人が一気に入ってくる。

日本代表のユニフォームを着る。

SNSで試合について語る。

有名な選手を応援する。

芸能人もテレビやSNSでサッカーについて話し始める。

そうすると、

「どうせワールドカップのときだけでしょ」

という感情が生まれることがある。

前回は、その拒絶反応の側を考えた。

今回は反対側から考えてみたい。

そもそも、

「にわかファン」と呼ばれている本人は、自分をサッカーファンだと思っているのだろうか。

私は、ここが少し気になっている。

どんな人が「にわかファン」と呼ばれるのだろう

「にわかファン」に明確な資格や定義があるわけではない。

ただ、スポーツの世界でそう呼ばれやすい人を考えると、いくつかの特徴が浮かぶ。

普段は試合を見ない。

ワールドカップやオリンピックなど大きな大会だけ見る。

日本代表の選手しか知らない。

有名な選手しか知らない。

細かなルールには詳しくない。

戦術についてはよく分からない。

Jリーグのクラブや選手をあまり知らない。

日本が負けると、その後は見なくなる。

大会が終わると、サッカーについて発信しなくなる。

こうした人が、

「にわかだ」

と言われやすいのだと思う。

ただ、ここで少し立ち止まりたい。

これらはすべて、長くサッカーを見ている側から見た特徴である。

本人に、

「あなたはサッカーファンですか」

と聞いたら、

「いや、別にファンってほどじゃないですよ」

と答える人も、かなりいるのではないだろうか。

本人は「ファンになった」とすら思っていないかもしれない

例えば、普段サッカーをほとんど見ない人がいる。

でもワールドカップが始まった。

テレビをつけた。

日本代表が戦っている。

会社でも話題になっている。

友人もSNSで盛り上がっている。

見てみたら面白かった。

ゴールが決まった。

うれしかった。

SNSに、

「すごい!」

と書いた。

次の試合も見た。

これは本当に、

「サッカーファンになった」

という出来事なのだろうか。

本人にとっては、

「みんなが盛り上がっているものを見たら、自分も楽しかった」

くらいなのかもしれない。

夏祭りへ行く。

花火を見る。

オリンピックで普段知らない競技を見る。

WBCで野球を見る。

箱根駅伝を見る。

高校野球を見る。

その延長線上にワールドカップがある人もいるだろう。

そこに、

「これを機にサッカーを勉強しよう」

という決意などない。

それでいいのではないだろうか。

サッカーが見たいのではなく、「みんなと一緒に見たい」のかもしれない

ここでもう一つ考えてみたい。

ワールドカップを見る人は、本当に全員が「サッカーを見たい」と思ってテレビをつけているのだろうか。

もちろん、サッカーが好きだから見る人はいる。

日本代表を応援したい人もいる。

好きな選手を見たい人もいる。

でも、それだけではないと思う。

会社へ行けば、昨日の試合の話をしている。

SNSを開けば、日本代表の話題が流れてくる。

テレビをつけてもワールドカップ。

街へ出れば代表ユニフォームを着ている人がいる。

家族や友人から、

「今日、日本戦だよ」

と言われる。

そうなると、普段サッカーを見ない人でも、

「せっかくだから見てみようかな」

と思う。

そこにあるのは、サッカーへの強い関心だけではない。

大きな出来事を、みんなと同じ時間に経験したい。

そんな気持ちもあるのではないだろうか。

考えてみれば、これはワールドカップに限った話ではない。

オリンピックの決勝を見る。

WBCの日本戦を見る。

箱根駅伝を見る。

普段はほとんど見ない競技でも、日本人選手がメダルを争っていればテレビをつける。

翌日、職場や学校で、

「すごかったね」

と話す。

スポーツには、競技そのものを見る楽しさだけではなく、同じ出来事を同じ時間に大勢で経験する楽しさもある。

ワールドカップは、その力がとても大きいイベントなのだと思う。

だから、試合を見てSNSに、

「勝った!」

「すごかった!」

「この選手かっこいい!」

と書いた人がいたとしても、その人がサッカーについて詳しくなりたいとは限らない。

サッカーファンになろうとしているとも限らない。

ただ、その夜に起きている大きな出来事へ参加している。

そして、楽しかったから、その気持ちを誰かと共有している。

それもスポーツの楽しみ方の一つではないだろうか。

むしろワールドカップのような大会が社会全体を巻き込むのは、普段サッカーを見ない人まで「一緒に見たい」と思わせるからなのかもしれない。

そう考えると、その人たちを見て、

「サッカーのことを知らないのに騒いでいる」

と感じることと、

本人たちが、

「みんなで見たら楽しかった」

と感じていることは、そもそも見ているものが違う。

一方は「サッカーファンとしての知識や経験」を見ている。

もう一方は「その瞬間を一緒に楽しむこと」を見ている。

だから、両者がすれ違うのも不思議ではない。

そして私は、後者もサッカーが社会に持っている大切な力だと思う。

サッカーを好きだから人が集まるだけではない。人が集まっているから、サッカーを見てみる人もいる。

その中から、もう一試合見てみようと思う人が出てくればいい。

選手の名前を一人覚える人がいてもいい。

Jリーグへ行ってみる人が一人でも生まれればいい。

そして、大会が終わったらサッカーから離れてしまってもいい。

最初から「サッカーファンになる」という約束をして、ワールドカップを見始めたわけではないのだから。

「にわかファン」は、外から貼られた名前なのかもしれない

ここまで考えると、「にわかファン」という言葉そのものが少し不思議に見えてくる。

サッカーを長く見ている側が、

サッカーを見る人

ファン

でも知識が浅い

にわかファン

と分類している。

でも本人は、

「ちょっと面白いから見ている人」

かもしれない。

つまり「にわかファン」は、本人の自己認識ではなく、中にいる人が外側にいる人へ貼っているラベルである場合もある。

もちろん、自分から「にわかファンです」と名乗る人もいる。

ただ、それも、

「詳しくないので間違っていたらごめんなさい」

という予防線として使っていることがある。

そう考えると、「にわかファン」という存在を、

コアなサッカーファンになる前段階

とだけ考えること自体が、少しサッカー側から見すぎているのかもしれない。

スポーツを見る人は、そもそも一種類ではない

スポーツ研究では、ファンを一つの均質な集団として扱わず、関与の程度や観戦行動などによって複数のタイプに分ける研究がある。

例えば、スポーツ消費者を調べた研究では、カジュアルなファンから、地域との結びつきが強いファン、遠隔地から強く関与するファンなど、複数の集団が確認されている。(Coventry University)

最近の大規模調査でも、この点は興味深い。

オーストラリアの2万7412人を分析した2025年の研究では、スポーツへの関心が非常に強い層だけでなく、限定的、選択的、断続的にスポーツへ関わる人々が広く存在することが示された。

研究者たちは、こうしたカジュアルな関わり方を、熱狂的なファンになる前の残余的な存在ではなく、それ自体が一般的なスポーツとの関わり方として捉える必要があると指摘している。(Taylor & Francis Online)

これは、かなり重要だと思う。

私たちはつい、

無関心

にわか

ライトファン

コアファン

という一本の階段を想像する。

でも、実際の人間はそんなにきれいに動かない。

ずっと「にわか」でもいいのではないか

ワールドカップだけ見る。

それで終わる。

4年後、また見る。

それでいい。

日本代表だけ見る。

それでもいい。

三笘薫選手が好きだから見る。

その選手が出なくなったら見なくなる。

それも一つの楽しみ方である。

スポーツを楽しむ理由についての調査でも、熱心なファンとカジュアルなファンには共通点が多く、特定のチームを応援することや娯楽として楽しむことは、どちらにも主要な動機として現れる。(Pew Research Center)

さらに2025年の米国調査では、熱心なスポーツファンだけでなく、カジュアルなファンも、普段見ない競技のプレーオフや大きな試合を見る傾向が確認されている。(S&P Global)

考えてみれば、私たち自身もそうではないだろうか。

オリンピックになると柔道を見る。

陸上を見る。

競泳を見る。

スキージャンプを見る。

普段その競技を追っていなくても、日本選手が出れば応援する。

そのたびに、

「もっと勉強して、4年後まで毎週この競技を追わなければ」

とは思わない。

でも、その瞬間は本気で応援している。

サッカーだけが、

一度面白いと言った以上、もっと詳しくならなければならない

ということもないはずである。

芸能人だって、同じではないだろうか

芸能人やタレントが大きなスポーツ大会に起用されると、

「にわかを出すな」

という反応が出ることがある。

でも、ここも一括りにはできないと思う。

昔から本当にサッカーが好きな芸能人もいる。

子どもの頃にプレーしていた人もいる。

特定のクラブを応援している人もいる。

今回のワールドカップをきっかけに面白さを知った人もいる。

日本代表を応援したい人もいる。

大会を盛り上げたいと思って参加している人もいる。

そして当然、

仕事として依頼を受けている人

もいる。

それらを外から見て、

「この人は本物」

「この人はにわか」

と判定するのは、実はかなり難しい。

まして、仕事で出演している人に、

「これを機にサッカーファンとして成長してください」

と求めるのも変な話である。

その人は、その場で求められた役割を果たしているだけかもしれない。

サッカー側は「定着」を考える

一方で、サッカー界から見ると話が変わる。

ワールドカップで何百万人もの人がサッカーを見る。

その人たちに、

次も見てもらいたい。

Jリーグにも来てもらいたい。

子どもにサッカーをしてもらいたい。

と考える。

これは当然である。

以前、私も、

ワールドカップで増えた「見る人」を、どうすれば日常のサッカーへつなげられるのだろうか

という記事を書いた。

スポーツビジネスでも、イベントをきっかけに生まれたカジュアルな関心を、継続的な観戦や来場につなげることは重要なテーマになる。日本でも、Twitter上の「にわかファン」と「玄人ファン」を分析し、イベント期間中に生まれた関心を継続的なファンへつなげようとした研究事例がある。(NEC)

ただし、ここで主語を間違えない方がいい。

サッカー界が、もう一度見てもらいたい。

のである。

「にわかファン」が、

もっと立派なサッカーファンになりたい。

と思っているとは限らない。

この二つは、似ているようで全く違う。

「育てる」という言葉にも少し気をつけたい

マーケティングでは、

ライト層を育成する。

ファン化する。

ロイヤルティを高める。

という表現が使われる。

ビジネスの考え方としては分かる。

実際、カジュアルファンから熱心なファンまで、関与の違いを段階として捉える研究もある。(Advances in Consumer Research)

でも、人間側から見ると少し違う。

ワールドカップを楽しんだ人は、

未完成品ではない。

Jリーグへ来なかったから失敗でもない。

代表戦しか見ないから成長が止まったわけでもない。

その人は、その人なりの距離でサッカーを楽しんでいる。

サッカー界にできるのは、

「もっとこちらへ来ませんか」と入口を用意すること

までなのではないだろうか。

入るかどうかは、その人が決めればいい。

100人全員に残ってもらわなくてもいい

私は、ワールドカップで100人の新しい人がサッカーを見たとして、その100人全員にJリーグを見てもらう必要はないと思う。

90人は大会が終わったら離れるかもしれない。

それでもいい。

残った10人のうち、

5人は次の日本代表戦を見る。

2人は海外サッカーを見るようになる。

1人はJリーグへ行く。

1人は子どもとボールを蹴る。

1人は、好きな選手を追いかける。

そんなことが起きれば十分ではないだろうか。

そして、誰がどこへ進むのかは最初には分からない。

最初は、

「三笘ってすごいね」

だけだった人が、数年後には毎週試合を見るようになっているかもしれない。

逆に、ものすごく盛り上がった人が翌月には全く見なくなるかもしれない。

それも自然である。

人の興味とは、そういうものだと思う。

カジュアルな人が多いから、大きなスポーツになる

ここでもう一つ、興味深い研究がある。

先ほどのオーストラリアの大規模研究では、非常に熱心なスポーツファンは人口の一部であり、それよりはるかに大きなカジュアルな関心層が存在していた。

研究では、こうしたカジュアル層の広がりが、どのスポーツが社会の中で広く知られ、文化的なメインストリームになるのかにも大きく関係すると指摘している。(Taylor & Francis Online)

これは日本サッカーを考えるうえでも示唆的である。

100万人のものすごく熱心なファンだけがいるスポーツと、

100万人の熱心なファンに加えて、

500万人の時々見る人、

1000万人の大きな大会なら見る人がいるスポーツ。

社会における存在感は同じではない。

広く愛されるスポーツには、薄く関わる人も必要なのではないか。

と思う。

サッカーファミリーにも、濃さがあっていい

JFAは以前から、サッカーに関わる仲間を「サッカーファミリー」と捉え、その拡大を掲げてきた。過去のアクションプランでも、サッカーに触れたことのない人へ楽しさを届けることを明示している。(日本サッカー協会)

以前、「サッカーファミリー」という言葉について記事を書いた。

あのとき考えたのは、

サッカーに関わる人を、どこまで仲間と考えられるのだろう。

ということだった。

今回の「にわかファン」も同じなのかもしれない。

毎週スタジアムへ行く人。

DAZNで見る人。

代表戦だけ見る人。

ワールドカップだけ見る人。

選手だけ好きな人。

たまたま昨日初めて見た人。

全部同じではない。

同じにする必要もない。

関わり方の濃さが違う。

それでいい。

「にわか」は入口ではなく、一つの居場所かもしれない

最初、私は「にわかファン」を入口だと考えていた。

そこから何人を日常のサッカーへつなげられるか。

それは今でも重要だと思っている。

でも、少し考えが変わった。

入口から入った人が、

必ず奥へ進まなければならないわけではない。

入口の近くにいてもいい。

たまに顔を出すだけでもいい。

4年に一度でもいい。

そして、その中の誰かが、

「もう少し見てみようかな」

と思ったときに、次の扉が開いていればいい。

Jリーグがある。

WEリーグがある。

海外サッカーがある。

高校サッカーがある。

地域のクラブがある。

フットサルがある。

自分でボールを蹴る場所もある。

無理に引っ張らなくていい。

帰らせる必要もない。

そこにいてもらえばいい。

「にわかファン」は未完成なのではない

だから、最初の問いに戻る。

「にわかファン」は、本当にサッカーファンになる前の未完成な人なのだろうか。

私は、そうではないと思う。

そもそも本人は、サッカーファンになろうとしていないかもしれない。

ただ面白かった。

ただ日本を応援したかった。

ただ好きな選手を見たかった。

ただみんなと盛り上がりたかった。

それで十分である。

そこから先へ進む人もいる。

進まない人もいる。

どちらでもいい。

むしろサッカー側が考えるべきなのは、

どうすれば全員を「本物のファン」にできるか

ではなく、

どんな距離からでも、サッカーと関わっていられる場所をどう作るか

なのではないだろうか。

そして、ここまで考えると、次の問いが出てくる。

ワールドカップのたびに大量の「にわかファン」が生まれる。

大会が終われば、その多くはいなくなる。

だから、ときどき、

「どうせ一時的なブームだ」

と言われる。

でも、本当にそうなのだろうか。

熱心なファンにならなくても、時々サッカーを見る人が何百万人も増える。

それは、日本サッカーにとって意味のないことなのだろうか。

次は、そこを考えてみたい。

次回:「にわかファン」が増えることは、日本サッカーにとって本当に困ることなのだろうか


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