HMP ARCHIVE HISTORICAL GALLERY | Leonardo da Vinci : Mona Lisa / La Gioconda c.1503–1519 / モナ・リザ

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モナ・リザ
静かに座る一人の女性、胸の前で重ねられた手。
遠くへ続く、現実とも幻想ともつかない風景。
そして、見る角度や視線によって印象が変わる微かな微笑。
《 モナ・リザ 》
世界でもっとも知られた絵画の一つである。
そこには、レオナルド・ダ・ヴィンチ が長年研究してきた、人体、光、空気、視覚、自然、そして人間の表情 が、一枚の肖像画の中へ重なっている。
一人の女性を描く
現在もっとも広く受け入れられている説では、描かれている女性はフィレンツェの商人フランチェスコ・デル・ジョコンドの妻、リザ・ゲラルディーニ( Lisa Gherardini )とされる。
イタリア語でこの作品が《 La Gioconda 》と呼ばれるのも、このジョコンド家の名前と関係している。
制作開始は1503年頃と考えられている。
ただし ダ・ヴィンチ は作品を依頼主へ渡さず、その後も長期間手元に置き、加筆を続けたとみられている。
彼がフランスへ移った際にも作品を携えていたと考えられ、最終的にはフランス王室のコレクションへ入った。
肖像画なのに、静止して見えない
構図そのものは非常に安定している。
人物は座り、身体をわずかに斜めへ向け、顔はこちらを見る。
両手は静かに重ねられ、大きな動作はない。
それでも、完全に静止した人物には見えない。
この「 動いていないのに、生きているように感じる 」印象を支えている技法の一つが、スフマート( sfumato )である。
境界線を消す
通常、形を明確に描こうとすれば輪郭線を強くする。
しかし ダ・ヴィンチ は、輪郭を硬い線で閉じ込めない。
非常に細かな色と明暗の変化を重ね、境界を柔らかく溶かしていく。
「 sfumato 」は、煙を意味するイタリア語に由来する。
煙の向こうにあるもののように、輪郭が完全には固定されない。
そのため表情も一つの状態へ固定されない。
なぜ微笑んで見えるのか
《 モナ・リザ 》でもっとも有名なのが、その微笑である。
しかし口元だけを見ると、極端に明確な笑顔が描かれているわけではない。
重要なのは、口の周囲に作られた微妙な明暗である。
人間の視覚は、対象を真正面から細部まで見る場合と、周辺視野で捉える場合で情報の受け取り方が異なる。
モナ・リザ の目を見る。
すると口元は周辺視野へ入る。
微かな陰影が強調され、笑っているように感じる。
今度は口元そのものを見る。
細部が見えることで、微笑の印象が変化する。
つまり表情が物理的に変わるわけではない。
見る側の視覚によって、表情の感じ方が揺れる。
ダ・ヴィンチ が長年研究していた「 人間はどのように物を見るのか 」という問題が、ここでも絵画へつながっている。
手
顔だけでなく、両手も重要である。
右手が左手の上へ静かに置かれている。
ダ・ヴィンチ は人体解剖を通じて、骨格、筋肉、腱の構造を詳細に研究していたが、その知識は解剖図だけに存在するものではない。
身体の内部構造を知ることで、外から見える人体をより自然に描く。
背景にある世界
人物の背後には広大な風景が広がっている。
しかし特定の場所をそのまま描いた風景画とは考えにくい。
遠くへ行くほど色彩のコントラストが弱まり、青みを帯び、輪郭が曖昧になる、これは空気遠近法と呼ばれる表現である。
遠くの物体と人間の目の間には大量の空気が存在する。
その空気によって光が散乱し、遠景は近景とは違って見える。
ここでも ダ・ヴィンチ は、「 遠くの物は小さい 」だけでなく、
「 空気を通して見ると、世界はどう見えるのか 」を絵画へ取り込んだ。
人間と自然
人物と背景は完全に別々の世界ではない。
それぞれに緩やかな流れがある。
ダ・ヴィンチ は水の流れ、岩石、植物、人体などを長期間観察していた。
彼の手稿では、自然と人体が現在の専門分野のように完全に切り離されていない。
自然界に現れる形や運動を、互いに関連する現象として観察している。
《 モナ・リザ 》でも、人物は背景から切り抜かれて置かれているのではなく、自然の中へ静かに連続しているように描かれている。
長期間描き続けた作品
ダ・ヴィンチ は非常に多くの構想を残した一方、完成した絵画作品の数は決して多くない。
《 モナ・リザ 》についても、制作開始後長期間にわたって手元に置き、加筆を続けたと考えられている。
薄い絵具の層を何度も重ね、乾燥を待つ。
さらに透明な層を重ね、極めて微細な明暗の変化を作る。
観察し、描き、また観察し、修正する。
アトランティコ手稿 などに残る彼の研究方法と、ここでも同じ姿勢が見える。
フランスへ
1516年頃、ダ・ヴィンチ はフランス王フランソワ1世の招きを受け、フランスへ移った。
《 モナ・リザ 》も彼とともにフランスへ渡ったと考えられている。
1519年に ダ・ヴィンチ が死去した後、作品はフランス王室の所有となり、その後フランス国家のコレクションへ引き継がれた。
現在はパリの ルーヴル美術館 に所蔵されている。
1911年の盗難
《 モナ・リザ 》の世界的知名度をさらに高めた出来事が、1911年の盗難事件だった。
ルーヴル美術館から作品が消えた。
事件は世界的なニュースとなり、多くの人々が「 そこにない モナ・リザ 」を見るために美術館を訪れたほどだった。
犯人は、かつて ルーヴル で働いていたイタリア人 ヴィンチェンツォ・ペルージャ。
作品は約2年後、イタリアで発見され、フランスへ戻された。
この事件によって《 モナ・リザ 》は、美術史の名作という枠を越えて世界的な文化アイコンになっていった。
一枚に集まった研究
《 モナ・リザ 》には、彼が研究してきたものが大量に存在する。
解剖学 → 人体と表情。
光学 → 光と視覚。
大気 → 空気遠近法。
地質・自然観察 → 背景の岩山と水。
水の研究 → 流れと曲線。
幾何学 → 安定した構図。
機械発明とはまったく違う形で、同じ観察者の目が存在している。
Historical Gallery
《 モナ・リザ 》を見ても、大きな事件は描かれていない。
一人の女性が、静かに座っている、それだけである。
しかし ダ・ヴィンチ は、その一人を描くために、人間が世界をどう見るのかまで考えた。
「 見えているものを、本当に見えているところまで観察する。」
その探究が一枚の肖像画へ凝縮されたもの。
それが《 モナ・リザ 》である。



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