MVP ARCHIVE CIVILIZATION | ORDER : Natural Law / 自然法 - 法は権力が作る前から存在するのか

MVP ARCHIVE CIVILIZATION > ORDER : Natural Law / 自然法 - 法は権力が作る前から存在するのか

自然法
法は、権力が作る前から存在するのか
国家が法律を制定する。
議会が条文を作り、政府が執行し、裁判所がそれを適用する。
では、国家が「これが法律である」と定めれば、それはどのような内容であっても法として正当なのだろうか。
それとも、人間が作る法律より前に、人間であることそのものから導かれる、より根源的な正義や権利の基準が存在するのか。
この問いから歴史を形成してきた思想が、Natural Law|自然法 である。
時代によって意味や根拠を変化させながら、人間が作った法を超えて存在すると考えられた普遍的な法・正義の原理をめぐる思想の系譜である。
人間が作る法と、それを超える基準
国家や社会が制定する具体的な法律は、Positive Law|実定法 と呼ばれる。
刑法、民法、税法など、実際の制度として制定・運用されている法律で、自然法が提起する問題は、そのさらに上にある。
たとえば国家が、「 特定の人間には権利を認めない 」という法律を制定したとするとき、その法律が正式な手続によって成立していたとしても、それは正しい法なのか。
ここで、制定された法律そのものとは別に、それを評価する基準が必要になり、自然法 思想は、その基準を人間の理性、自然、人間本性、神によって与えられた秩序などに求めてきた。
古代ギリシア 国家を越える正義
自然法 思想の源流の一つは、古代ギリシアに見ることができる。
ギリシア世界には多くのポリスが存在し、それぞれ異なる法律と慣習を持っていた。
しかし哲学者たちは、社会によって異なる規則とは別に、人間や自然そのものに由来する普遍的な秩序があるのではないか と考え始める。
特にストア派は、宇宙には理性的な秩序が存在し、人間も理性を持つ存在としてその秩序に参加すると考えた。
ここから、地域や身分を越えて人間に共通する法という発想が発達していく。
ローマへ渡った自然法
ギリシア哲学の影響を受けた 自然法 思想は、ローマ世界でも発展した。
共和政末期の政治家・思想家 Cicero|キケロ は、真の法を自然と一致する正しい理性として論じた。
ローマでは巨大な帝国の中に、異なる民族、文化、慣習を持つ人々が存在していた。
その社会で発達した Roman Law|ローマ法 では、特定のローマ市民だけに関係する法とは別に、より広い人間社会に共通すると考えられる法原理についても議論された。
自然法 と ローマ法 は、特定の国家や地域を越えて成立する法原理を考えるという発想は、後世のヨーロッパ法思想へ重要な材料を残した。
キリスト教世界と自然法
中世ヨーロッパでは、自然法思想はキリスト教神学と結びついていく。
代表的人物が13世紀の Thomas Aquinas|トマス・アクィナス である。
アクィナスは、宇宙全体を統べる神の秩序を 永遠法( Eternal Law )として捉え、人間は理性を通じてその一部を理解できると考えた。
それが自然法である。
人間が制定する法律も、この 自然法 と無関係ではない。
人定法は社会の具体的な状況を規定するが、その根底には正義に関するより基本的な原理が存在するとされた。
ここで 自然法 は、神の秩序 → 人間の理性 → 社会の法律 を接続する巨大な思想体系へ組み込まれた。
中世から近代へ
16~17世紀になると、ヨーロッパでは宗教改革、宗教戦争、国家形成、海外進出などによって政治秩序が大きく変化、自然法 思想も変わっていった。
重要な人物の一人が、Hugo Grotius|フーゴー・グロティウス である。
グロティウスは国家間の関係を考えるうえで自然法を重要な基盤として用いた。
国家の上に世界政府が存在しなくても、国家同士の行動を規律する原理は成立し得る。
この考えは、後の International Law|国際法 の発展にも大きな影響を与え、自然法 は、国内の法律を評価する思想から、国家間秩序を考える思想へも広がっていった。
Natural Rights――自然権へ
近代になると、自然法 思想からさらに重要な概念が発達する。
Natural Rights|自然権 である。
特に17世紀の John Locke|ジョン・ロック は、人間には政治社会が成立する以前から一定の権利があると考えた。
むしろ政府は、それらの権利を保護するために成立する。
国家が存在するから権利があるのではなく、権利を持つ人間が国家を作る。
この発想は、18世紀の政治革命へ直接つながっていく。
アメリカ独立宣言
1776年の Declaration of Independence|アメリカ独立宣言 には、自然権思想の強い影響を見ることができる。
そこでは、人間は平等に創造され、生命・自由・幸福追求などの不可譲の権利を持つという原理が示された。
政府はその権利を保障するために設けられ、その正当な権力は被統治者の同意から生じるとされた。
自然法 思想 は哲学上の議論から、国家の正統性そのものを判断する政治原理へ変化していた。
フランス革命
1789年の Declaration of the Rights of Man and of the Citizen|人間と市民の権利の宣言 でも、人間が持つ自然で不可侵の権利が明示された。
国王から与えられた特権としてではなく、人間が本来的に持つ権利として位置づけられた。
ここから近代社会では、権利を国家が与える という構造から、国家が人間の権利を侵害してはならない という構造が強く形成されていく。
人権へ
20世紀、二度の世界大戦と大規模な人権侵害を経験した世界では、「 国家が正式に制定した法律であれば、それだけで正当なのか 」という問題が改めて突きつけられた。
1948年、Universal Declaration of Human Rights|世界人権宣言 が採択される。
そこでは、人間の尊厳と基本的人権が国家の違いを越える普遍的な原則として示され、現代の人権法を自然法だけから直接導くことはできない。
しかし、人間には国家が自由に奪うことのできない基本的価値や権利が存在する という考えには、自然法・自然権思想から続く長い歴史的系譜を見ることができる。
Rule of Lawとの接続
自然法 と Rule of Law|法の支配 も同じ概念ではない。
法の支配 は、国家権力そのものを法によって拘束する制度原理である。
自然法はさらに根本的な問いを投げかける。
その「法」自体が不正だったらどうするのか。
法律が公開され、平等に適用され、正しい手続で制定されていても、その内容が人間の基本的な尊厳を否定する可能性はある。
そこで、法を守ることだけではなく、法そのものを何によって評価するのかという問題が生まれる。
自然法思想は、その問いを二千年以上にわたって考え続けてきた。
法より前に、正義は存在するのか
人間が作った法律だけで、正しいことと間違っていることをすべて決められるのか、もし答えが「 できない 」のであれば、法律を評価するための何らかの基準が必要になる。
それは、人類が法を作るようになった後も繰り返し現れてきた、「 法そのものを、何によって正当化するのか 」という文明の根源的な問いなのである。
Archive Data
名称 : Natural Law|自然法
性格 : 国家が制定する実定法を超える普遍的な法・正義の原理を考える思想的伝統
主要な歴史的系譜 : 古代ギリシア哲学、Stoicism|ストア派、Roman Legal Thought|ローマ法思想、中世キリスト教神学、近代自然法・自然権思想
主要人物 : Cicero|キケロ、Thomas Aquinas|トマス・アクィナス、Hugo Grotius|フーゴー・グロティウス、John Locke|ジョン・ロック
重要概念 : Natural Rights|自然権、Positive Law|実定法、Human Dignity|人間の尊厳、Universal Rights|普遍的権利
後世への接続 : Declaration of Independence、Declaration of the Rights of Man and of the Citizen、Modern Human Rights
Archive分類 : MVP ARCHIVE CIVILIZATION|Order
歴史的接続 : Greek Philosophy → Stoicism → Roman Thought → Aquinas → Grotius → Locke → Natural Rights → Democratic Revolutions → Modern Human Rights

MVP ARCHIVE CIVILIZATION > ORDER : Natural Law / 自然法 - 法は権力が作る前から存在するのか

