大河ドラマ感想記『豊臣兄弟!』これで、お別れにございます
大河ドラマ感想記「豊臣兄弟!」
第三十一回:これで、お別れにございます
第三十二回:賤ヶ岳の決闘
第三十三回:北庄城の別れ
第三十四回:最強のライバル
第三十五回:秀長誕生
四面楚歌の羽柴兄弟
京都・妙覚寺で三法師様を抱きかかえて、織田家諸将の前で見得を切った羽柴秀吉。
織田家の有力な宿老、柴田勝家、丹羽長秀、池田恒興の三人を欺く形となったため、お市だけでなく、前田利家までもが敵対する事態となり、羽柴兄弟は四面楚歌の状況に陥ってしまった。
三ヶ月後に「大徳寺の葬儀」
京都好きとしては、織田信長の葬儀は絶対に見逃せない。
清須会議から三か月後、京都・大徳寺で信長の葬儀が羽柴秀吉の主導により盛大に執り行われた。その翌年には、信長の菩提寺として塔頭・総見院が創建された。
秀吉は、貴重で名高い香木「沈香」で信長の木像を二体作らせ、そのうちの一体を棺に納めて信長の代わりに火葬した。喪主は秀吉の養子となっていた羽柴秀勝が務めた。織田政権の覇権争いにおいて、羽柴秀吉は自分が信長の正式な後継者であることを天下に示したのだ。
それにしても、香木を火葬に使用するとはさすがは秀吉というほかない。京の都一帯に香りを漂わせることで、「天下は秀吉のものである」と広く伝えたかったのだろう。
たとえ香りが直接届かなくても、そこから秀吉の噂は広まっていく。信長や家康とは全く異なる形で天下人になった秀吉。派手な演出の積み重ねこそが、彼が日本を手中に収める原動力となった。
お市が先だった信長の法要
お市が大徳寺での葬儀より先に卒哭忌(百箇日法要)を済ませていた、という歴史を全く知らなかった。
織田家と妙心寺の関係は極めて深く、寺の住職の妹・慈徳院は、織田信長の嫡男・織田信忠の乳母となった人物である。その後、彼女は信長の側室となって六女の三の丸殿(のちに豊臣秀吉の側室)を儲けた。そして「本能寺の変」で信長が討たれると、お市が兄の法要を秀吉よりも先に妙心寺で執り行った。
ちなみに慈徳院は、織田信忠を弔うために妙心寺内に大雲院を建立している。のちに、大雲院は滝川一益が建立した長興院と合併したという。なお、1587年(天正15年)に二条新御所の跡地に、浄土宗の僧・貞安が建立した大雲院とは同名の別寺院とみられる。
これで、お別れにございます
「これ」とは一体何なのか。
何を指すのかまったくわからないサブタイトルだったが、羽柴秀吉が褒美として頂き、家宝にしていた草履を織田信長に返上した一連の描写を指していた。亡き主君との「本当の別れ」を表した言葉だったのだ。
最大の理解者だったお市
本音を聞いた小一郎以外で、羽柴秀吉の野望を見抜いていたのは、お市ただ一人だった。
本作においてお市は、「男に生まれていたら」と惜しまれるほど、兄である織田信長と同格の才能を持つ女性として描かれており、誰よりも兄と羽柴兄弟の心の内を理解していた。
人気ゲーム『Ghost of Tsushima』では「誉れ」がテーマとなっているが、お市もまた、誉れに通じる織田家の誇りを強く抱いていた。お市の誇りと覚悟は、次回の伏線へと繋がるだろう。
「賤ケ岳の戦い」の伏線
悪化した羽柴秀吉と前田利家の関係。
どうなることかと固唾を呑んで見守っていたが、大徳寺の葬儀に利家の姿があった。丹羽長秀と池田恒興の名代がいた一方で、利家は柴田勝家の名代として派遣されながらも、あえて正式な参列者としては加わらなかったのだろう。葬儀の様子を探るスパイという見方もできるが、もしそうであるならわざわざ利家本人が出向く必要はない。
さらに、丹羽長秀は柴田勝家ではなく羽柴秀吉につくことを鮮明に打ち出した。すでに多くの織田家諸将が秀吉側についているという現実を突きつけられ、愕然とする利家は一体何を思ったのだろう。情を取って親父様につくのか、それとも犬猿の仲ではあるが人誑しで勢いのある秀吉につくのか。
利家の心の揺れ動きもまた、次回以降の大きな見どころとなっていくに違いない。
むすび
「賤ヶ岳の戦い」は好きな合戦の一つだ。
前田利家の動向次第で、勝敗が大きく左右される合戦となる。両陣営の心理がどのように描かれていくのだろうか。そして、お市の運命は?
主君との決別、権力をめぐる心理戦、そして誇りをかけた思惑が美しく交錯した今回。それぞれの覚悟がどう激突し、「賤ヶ岳の戦い」へと結実していくのだろうか。散り際まで誇りを貫こうとするお市と、現実の波に揺れる利家。それぞれの選択が交わった先にある結末をこの目で見届けたいと思う。
《了》
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