自由に生きたい、自分を生きたい、心の旅物語「カオル21歳 ~風と旅する頃~」⑤19歳ー季節が終わる頃
※見出し画像の人物イラストは自作です。(色鉛筆)
自由、愛、空っぽ、生きることの美しさと切なさ
誰かに愛されるよりも愛したいー
そんな衝動を、静かに、確かに感じたことはありませんか?
今週もカオルとともに吹く風が、心の奥底の小さな光を揺らします。
「カオル21歳~風と旅する頃~」第5章を公開いたします。
※ Tales / 小説家になろうでも公開中!
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🍃第5章🍃
~19歳ー季節が終わる頃~
尚樹君とは、映画や本の話もたくさんした。高橋源一郎と橋本治が好きだと言っていた。
やっぱり、いつでもどこでも「オサム」という名前がついて回る―。
『一億三千万人のための小説教室』を貸してくれたことがあった。小説家志望でなくても楽しめる本だった。軽やかな語り口で、誰も言わないことを、サラリと語る。ノウハウというより、自分探しのヒントが詰まっていた。
「小説、書いてみたいの?」
「そんなことない。ただ読んでみただけ」
尚樹君は、あたしが貸したゲバラの日記を、裸のままで読んでいた。セクシャルレッスンは、続いていた。
18歳のあたしは、自由気ままに、最高に過ごしていた。
自堕落は、素敵だった。大学なんて、どうでもよかった。尚樹君の黒い瞳、癖毛、最高だった。
成績はみるみるうちに落ちていった。
両親は深刻そうに「悩みでもあるの?」と聞いてきた。
悩みなんてない。人生を楽しんでいただけ。自堕落と自由、愛すべき退廃を。もちろん、そんなことは言えず、話し合いでは心を空白にしていた。
尚樹君は、変わらず予備校でもトップ。模試結果は毎回T大合格確実。ペースが崩れない。いつも通り。
結局、あたしは国立に落ち、私立の滑り止めだけ。学歴大好きの両親にコテンパンに叱られた。
「悩んでいるならパパとママに話して。相談に乗るから」
また深刻な話し合い。話す必要なんてない。好きな本を読み、映画を見て、音楽を聴き、おいしいものを食べ、自由に生きていただけ。
面倒くさがり屋のあたしは、結局浪人。来年また国立大学を受けることにした。両親を黙らせるには、それしかない。
「うちは国立大学しか認めてないのよ」
母親が自慢げに言っていた。その様子が滑稽で、可笑しかった。
尚樹君は、予定通りT大に入った。
あたしは変わらず予備校生活。地味に、真面目に。
大学に入ってからも、尚樹君は変わらなかった。浮かれるでもなく、退屈そうでもなく、淡々としていた。いつもと同じ。
週末は、相変わらず会って、映画や本屋、美術館、食事。フツーのデート。
スティーブン・ソダーバーグの『トラフィック』を、尚樹君はすっかり気に入っていた。危うい心理描写、知性とリアリティーと虚構が溢れていた。俳優たちも素晴らしい。ベニチオ・デル・トロの色気は圧倒的だった。
「メキシコ、行ってみたいな」
「スペイン語、勉強する?」
「そうだな」
「じゃあ、あたしも一緒に」
「それより、大学受かれよ」
「そうでしたね」
映画の帰り道、笑いあった。尚樹君は、何か変わったようには見えなかった。黒い瞳も変わらない。そのまま。
ただ、髪と髭が少し伸びていた—。
5月10日、誕生日に小包が届いた。尚樹君から。
中身は、ゲバラの日記と、『モーターサイクル・ダイアリーズ』のDVD。そして手紙。
妙な予感。
あたしの勘は、いつも当たる。
カオルへ
この手紙を読む頃には、日本にいないと思う。
大学を辞めて旅に出る。
人生1度きりだと分かったら、全てがバカバカしくなった。
大学に入ったら、俺みたいなヤツばっかりだった。
バカみたいかもしれないけど、これからは色々考えて生きてみたい。
できることなんて何もない。だから、一度全部捨ててみたくなった。
まずは南米へ行く。
家は大騒ぎだろうけど、カオルに迷惑はかけない。
数年後、急に会いに行くかもしれない。
元気で。
尚樹
こんなことってある?
少し、いや、かなり腹立たしかった。
先を越されたようで、羨ましかった。
あたしはただ予備校に通うだけ。妄想ばかりで現実は変わらない。
ゲバラの日記なんて貸さなければよかった。
ふられたとか、捨てられたとかじゃない。悲しいわけでもない。
ただ悔しい。出し抜かれた感じ。自分が情けなかった。まだ旅に出られない。それが悔しかった。
ベッドに倒れ込み、手紙を床に放り投げた。
そして、小さな声でつぶやいた。
「バカヤロー」
そんなふうに、あたしの10代が終わった。
10代という、ひとつの季節が。
けれど、My life goes on. ―
—第6章へ続く―
毎週土曜日の風にのせて、カオルの物語をお届けします。
旅の続きをどうぞお楽しみください。
~全10話 URL~
第1章ープロローグ "嘘と自由”
第2章 銀縁メガネに百万ボルト
第3章 鏡の中のユディト
第4章 18歳ー心地よい共犯者
第5章 19歳ー季節が終わる頃
第6章 階段の上のヒロシ
第7章 オトナへの道
第8章 「死」は、すぐそこに
第9章 めぐり会う魂
第10章 21歳、風と旅する頃
~あとがき~投稿を終えてー
◆マガジン
~最後まで読んでくださった方へ~
心よりありがとうございました😊
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