🔵掌編小説|魔ネキは何でも知っている2
第2話 愚弟と魔ネキ
わたしには時間を巻き戻す能力がある。
その力が顕現したのは9歳か10歳の頃で、最初のうちは上手く制御できなかったけれど、使いこなすうちに巻き戻す時間の長さをかなり正確に決めることが出来るようになった。
未来を変えてしまうことへの畏れもありながら、一方で、何度やり直そうとも決して変えられぬ未来があることも知った。そんなとき、この力は単なる鎖であって、呪いでしかない。
***
愚弟が最近大人しい。
自分探しの旅とやらに出たがすぐに戻ってきた。ホームシックだろうか。
少し覗いてみよう。
何やら文をしたためているようだ。と思ったら大きな溜息を吐き、便箋をクシャクシャに丸めて放り投げる。「あー」と喚いて頭を掻きむしっている。
「女心は分からぬ」
ほざけ!
***
愚弟がわたしをチラチラ見ている。
明らかに何か相談事を持ちかけようという、これは前駆症状だ。あえて知らぬふりをしよう。
「うーん。困った」
チラッ
「はぁ。どうしたものかのう」
チラッ
鬱陶しい。こいつこれで本当に魔王なのか?
***
「──という訳なのだ」
相談されてしまった。
別に大した話でもない。聖女から恋文が届くという。毎日のように。そして時には朝夕。それがいつしか山のように堆く積み上がっていると。
そこで我が愚弟、意を決して筆を取ってはみたものの、どう返信して良いか分からず、書いては捨て書いては捨てを繰り返しているらしい。
童貞か!
***
だが事は聖女絡みである。
ここ数百年保たれてきた聖邪の均衡が崩れ、二元論的な大規模闘争に発展されても具合が悪い。いくら愚弟とはいえ、いや愚弟だからこそ、即位して間もない新魔王にこの荷を担がせる訳にはいかない。
巻き戻してみよう。
***
「魔王とはこんなにも暇なのか。どういうことなんだ、魔ネキ?」
少子化ゆえ勇者もなかなか現れぬようじゃ。
「まあ、それはそれで良いことだが。しかしこう暇だと死んでしまいそうだ。旅にでも出て自分を見つめ直すとしよう。魔ネキ、付いて来るなよ?」
好きにせい。
──とは言ったものの、付いて行かねば始まらぬ。しかと見させてもらうぞ。
***
状況は理解した。
ふん。それにしても、小娘相手に随分と楽しそうじゃないか。
だがもう少し遡ってみよう。聖女の故郷で何があったのか。それを見極めなければなるまい。
(つづく)
🔵975文字
【附記】
▼【魔王編】はこちらです▼
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