🟡掌編小説|魔ネキは何でも知っている3
第3話 聖女とその故郷
魔族の中でも極めて悪辣な連中だ。
暴虐と、略奪と、殺戮に快楽を求めて止まない破壊者だ。魔族の中の反社勢力とも言うべきその手のはぐれ者は、人間を喰らって肥大化してゆく。
神との戦いに敗れ地上へと落ち延びた魔族は、神の創造物たる人間を手懐け、あるいは手玉に取り、いずれ来るべき叛逆の機会を窺っている。
それが本来の姿である。
ところが一部の臆病者は、神への叛逆を恐れて人間を本来の敵と見做し、ある意味そこに「代理戦争」を仕掛けている。愚かしいことだ。
***
村が燃えている。
教会は倒壊し、家屋からは火の手が上がり、市場はペシャンコに潰れ、人間と家畜は至るところに黒焦げの骸となって転がっている。
首謀者と思しき破壊者と数人の手下を発見した。
こんなことをして何が愉快なのか。よく見れば数百年は生きた魔族だ。愚か者だが馬鹿じゃない。
わたしは息を吸って吐くまでの間にその者らの存在を抹消した。
そして、瓦礫の下に聖女となるべき少女を発見する。少女はすでに息を引き取っている。
***
さらに巻き戻した。
***
何度も試行して未来を変えようとしたが村の焼失は避けられなかった。
だが聖女を救う方法はある。それは成人年齢を待たずに彼女を聖都に送ることだった。それが出来なければ少女の命はなく、聖女の命脈は絶たれる。必ずそこに収束する。どちらかを選ぶしかない。
***
月のない夜。
魔力の高い者にとって結界への侵入はさほど困難ではない。
村人を眠らせる。
幼い聖女の養育を担う女人衆の、おそらくは最高位にあると思われる女を、幻惑術を用いて呼び出した。女はわたしを見ても動じなかった。
「魔王さま」
うむ。
「どうかお引き取りください。この村に来てはなりませぬ。こちらは幼き聖女さまの──」
分かっておる。
「何があったのですか?」
この村は魔族の襲撃により破壊され、村人はひとり残らず殺されるだろう。
「防ぐことは出来ますか?」
確定した未来へと至る過程に揺らぎがある。そういう種類の未来なのだ。
つまり、首謀者を特定して行動を起こせぬようにしても、必ず別の首謀者が現れ事を成してしまう。防ぐには可能性のある者もない者もすべて殺してしまわねばならない。
「ではせめて聖女様だけでも」
襲撃の前日までにこの村から出して聖都に向かわせるのだ。
「移動はかえって危険なのでは?」
議論の余地があるのか?
「アニエス、どーしたの?」
「聖女さま!」
ほう、聖女には効かぬか。
「だれとお話ししてるの? あたしはもう眠っているのかしら?」
「聖女さま、そうですよ、さあ、寝室に戻って」
「アニエスも、むにゃむにゃ……」
「わたしもすぐに行きますから、聖女さま」
「ふぁあい、じゃあ魔王さまも、おやすみなさい」
***
これで良い。
聖女は村を出て、愚弟に出会い、聖都にて正式に戴冠するだろう。
わたしに出来るのはここまでだ。
(つづく)
🟡1199文字
【附記】
魔王3部作に続き、魔ネキ3部作が完結した。
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