🔵掌編小説|インタビュアー
お祭り騒ぎは嫌いだ。明日またあの町に戻らなければならないと思うと気が重い。厄介ごとが多すぎる。だがこのまま帰る訳にもいかない。
視界が不透明なときの最も効果的なアプローチは上から攻めることだ。市長──いや、先ずは運輸観光系協議会あたりを当たってみるか。
「散々だったわよ」
振り返るとエントランスホールの中央に花模様の黒いドレスがいた。天井にはシャンデリアのガラス玉が何百と輝いている。
「バケたな」
「それどういう意味?」
もう会わないものと思っていたが、まさかその日のうちに再会するとは。
「こっちも散々だったんだ。成果を出すまでは東京に戻れないし。明日はまた十二滝だ」
「今日明日は大雪だから行けないわよ?」
ふうむ。
「ところで、食事は済んだ?」
「たった今」
「じゃあ一杯だけ奢らせてくれないかな、今日の埋め合わせに」
「わたしにも一杯だけ奢らせてくれるならね、もとはと言えばわたしが巻き込んだのだから」
彼女のドレスは雪上の夜に南国の花を咲かせ、体を揺する度にひらひらと花弁を散らす。自己主張と儚さの共存する危うさが垣間見える気がした。
***
ホテル最上階のラウンジは空飛ぶ自動車の通行帯をほんの少し上から見下ろす位置にある。大雪の予報が周知されているのだろう。時折り緊急車両が通り過ぎるだけだ。
「あの後どうなったか聞いた方が良い?」
「いいえ、忘れたいわ」
「すまない」
「普段はもちろんズルい人じゃないんでしょ?」
「ここの会計を押し付けたりしないよ」
私たちは笑った。
ふたりでちょうど二杯ずつのカクテルは、自己紹介のやり直しと、お互いの仕事の痛いところについて語り合うだけの十分な時間を与えてくれた。
彼女は職業的な癖なのか私の仕事を根掘り葉掘り聞くと、あなたの役に立つ情報を提供できるかもしれないと言った。彼女は十二滝町の政治的なスキャンダルを追いかけているという。私は私で何かを掴んだら君に教えようと約束した。
「珈琲を飲んでから帰るわ」
「部屋に戻ってもう一仕事だ」
私たちはその場でさよならを言って別れた。
散々な日にも救いとなる瞬間はあるものだ。私たちにまた次の機会があるとしたら、出来ればその日は終始穏やかであることを願いたい。
(了)
🔵916文字
【附記】
本作は連作第4弾にあたる。
以下はすべて本作の前日譚であり、逆順(現在→過去)の時系列に並んでいる。
とはいえ当初から連作の構想があった訳ではなく、その意味では連作というより関連作と言ったほうが適切かもしれない。
それぞれの繋がりはかなり荒っぽく、とてもシームレスとは言えない。それも魅力のひとつと思って頂けたらありがたいのだが。
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