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🔵掌編小説|ムービングウォーク

 数日の予定で現地入りしたが、これは一体どういうことだ、部長はこのことを知っているのか?

 今日は候補地の視察、明日は十二滝町の担当者と面談、その後地権者に接触する予定だった。

 小規模空港と宙空ガレージの建設──公式発表に先立って用地買収を決める計画が初手で躓いた格好だ。

 町長の声が空に響く。

「空飛ぶ自動車が大衆化され十余年が過ぎました。我国の移動交通手段の実質ほとんど全てが空路のそれに取って代わり、今や陸路など存在しないに等しい。そのような中、私たちのムービングウォークは本日始動致します──」

 見れば候補地のど真ん中じゃないか。何だってこんなものを作ってくれたんだ。

「十二滝通信ですが、お話しよろしいですか?」

 若い女性記者が社員証とともに私の視界に割って入った。入社2年目といったところか。手にはメモ帳と鉛筆。

 彼女が言うには、❶私は「十二滝ウォーク」の順番待ち行列の先頭に立っている。❷第一号利用者として多くの町民に見送られ隣町まで運ばれる。❸「十二滝ウォーク」の全長は15km、所要時間は5時間である。❹ゴール地点で認定証の授与式がある。

 行列も何も、立っているのは私ひとりだ。

 そして矢継ぎ早の質問。

「今日はお仕事でこちらに?」
「行列待ちはよくされるのですか?」
「今のお気持ちは?」
「密着させて頂いてもよろしいですか?」

 始動式がクライマックスを迎えようとしている。

「密着?」

 町長の前に点火スイッチが運ばれてきた。くす玉が割れ、盛大な拍手と楽団の演奏が鳴り響く。司会者のテンションが跳ね上がる。

「5時間、ずっと?」

 通電した「十二滝ウォーク」が機械的な唸り声を上げた。何か巨大なものを押し潰すような音だ。

 司会者の合図で一歩前に進む。逃げられそうにない。咄嗟の判断だった。私は彼女を先に行かせるため紳士的に振る舞ってみせた。彼女が微笑みながらステップに足を乗せる。良い笑顔だ。これできみが第一号利用者だ。

 私は空を見上げた。

 途中で航空タクシーを拾おう。ホテルに戻って計画を練り直す必要がある。おそらく部長は事態を把握していたのだろう。これは試練なのだ。

 きみにとってもこれは災難だろうが、仕事なんてそんなものだ。せめてこの道がきみの未来に繋がっていると良いのだけれど。

 空に機影が光る。タクシーが来たようだ。もう会うこともないだろう。さようなら。

 健闘を祈る。

(了)

🔵989文字


【附記】

以前の作品に加筆して修正した。

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609字
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