女の子たちの本格スパイアクション!「スパイガール(GALLAGHER GIRLS)」レビュー:巻ごとに増す鬱展開を目撃せよ(若干ネタバレあり)
Ally Carter「GALLAGHER GIRLS(邦題:スパイガール)」(理論社・2006年)書籍情報
あらすじ
いっけんお上品な女子校。じつはトップシークレットのスパイ学園?スゴイ能力の女子高生たちがくりひろげる恋のミッションとは。(「BOOK」データベースより)
主人公は「キャメロン・モーガン」(愛称はカミー)という16歳の女の子。カミーを通して、一人称で描かれる。
Review
「お嬢様学校」というカモフラージュを持つスパイ学校、ギャラガー・アカデミーの、女の子たちを描くシリーズ。4巻まで日本語訳がされている。ディズニーから映画化のオファーがあったが、作者の意向で映画化はされていない。
1巻:恋に悩むスパイの女の子
1巻は、作者がお得意だからか恋愛要素が強めだった。しかし、主人公のカミーについて、世界情勢などに関する知識や記憶力が卓越している、「14カ国語を操れる」、など、スパイの卵らしく色んなところで「普通の女の子」ではない要素も感じられて新鮮だった。この1巻では、スパイらしいがちがちの戦闘や緊迫はなく、どちらかというと「女の子」に焦点が向けられている。が……。
2巻
2巻はさらにスパイ度がアップ!カミーの新たな恋が始まる!?新たにザックというスパイの男の子が登場。スパイに関する豆知識も豊富で面白かった。さらに、アカデミーの先生にもスポットライトが当てられる。
3巻:急転直下の展開
3巻はさらにスパイ度が上昇、3巻では本格的に敵組織との戦闘や秘密が明かされる。ルームメイト・友人のメイシーは、親が政治家である関係で親と同行するため、護衛としてカミーたちは任務につく。しかし、最悪なことに謎の敵が襲撃をかけ護衛の出番!メイシーたちを守るために戦いを繰り広げる。
カミーたちは、その敵は「サークル・オブ・カバン」という古くからある犯罪組織だということを突き止める。
しかし終盤から、再びメイシーを狙った敵の奇襲。カミーも、スパイであるいとこ、アビーや友人たちと共に戦闘に加わるが、敵はメイシーには見向きもせず、なんとカミーを連れ去ろうとしていた!なんとか敵を振りほどき、カミーはザックに安全な場所へ連れられる。敵の銃弾を受けたアビーをおいて――。
なぜカミーを狙うのか?「サークル・オブ・カバン」の目的は?謎が深まる。
4巻:裏切り者
衝撃の結末で幕を閉じた3巻。4巻は、さらにスパイ要素が増し、ストーリーもよりハードになっている。
アメリカ大統領暗殺計画や、その他数々の犯罪を生んできた敵組織「サークル・オブ・カバン」。なんと、ギャラガー・アカデミーのとある一人の先生が、幼い頃にその組織にリクルートされた、すなわち二重スパイであると判明。裏切り者を皆が捕らえようとするが、逃げ足早く難を極める。しかし、カミーは先生を信じていた。「ハトを追え」という言葉とともに――。
ザックも引き連れ、ギャラガー・アカデミーの校長でもあるカミーの母は、カミーと友人を連れて「サークル・オブ・カバン」のアジトへ潜入。その場所は、かつてザックがいた「ギャラガー・アカデミーの男の子版」とも言えるスパイ学校、「ブラックソーン校」と呼ばれる場所だった。
バックアップとして友人たちを置いて、カミーはザックと二人で「天然の要塞」とも言うべき自然の洞窟を進み、ついにサークル・オブ・カバンの一人に出会う。それは、「ハトを追え」と忠告した先生を捕らえた、ザックの母親であった。
大切なものを失いたくないから
ザックの母親がサークル・オブ・カバンの一員だということに憤りを覚える中、カミーとザックは彼らが求めている「カミーの父親の日記」をすでに持っていた。あとは脱出するのみだったのだが、やすやすとは行かなさそうだ。
さらにカミーは気づく。先生はわざと、サークル・オブ・カバンに捕まったのだ。用意していた爆弾で、自分もろとも、一人でも多くの敵を道連れにして死ぬために。
ギャラガー・アカデミーに帰るため、二人は彼らと対峙する。しかし、カミーはザックに促され、日記を持って逃げ出した。ザックが撃った銃弾が、爆弾を爆発させた。
「先生も死んだ。ザックも死んだ――。」
カミーは、追いかけてきたザックの母親から告げられる。行方不明になったカミーの父親は生きている。あなたを殺す気はない。
「つまり、死ぬよりも酷い目に遭うということ。」
カミーは崖まで追い詰められるも、屈せず崖っぷちから滝に向かってジャンプした。
大きな決断
自分のせいで、仲間がたくさん危険にさらされる――。
夏休み直前のギャラガー・アカデミー。カミーは強固な警備の上で旅行に誘う仲間たちを断り、何週間も熟考し、あらゆる可能性を検討した末、ある日密かにギャラガー・アカデミーを抜け出した。「ギャラガー・アカデミーは、多分世界で最も安全な場所だ。」最新の技術を駆使した警備システムが揃っている。それでもカミーには、守られているのではなく、閉じ込められているように思えてきた。
「逃げていくんじゃなくて、向かっていくと思っていてほしい。」一夏かけて、悲惨に沈んだ父親の任務を引き継ぎ、真実を掴んで、必ずこの場所に戻ってくる…。
ここで重要なのは、カミーが「父親の任務を引き継ぎ、」とあるように、父親と同じことをしようとしていること。父親の末路から、カミーがどんな道を歩むことになるのか、悪い予感がしてしまう。
5巻「Out of sight, out of time」
5巻からは日本語訳がされていない。しかし続きが気になって仕方がなかったので英語版で読み終えた。物語は、さらに過酷な方向へと突き進んでいく。
カミーは一夏かけてサークル・オブ・カバンを追い詰めようとする。だが、ある日目が覚めると、なんとすでに10月。さらに体はあざだらけで、記憶を失っていた。さらに、母親から「もう終わったの。何も気にしなくていい」と告げられる。
なくした記憶を知りたい。知っておかなきゃいけない。でも、『普通』でいなくちゃいけない。カミーはそう意識し始めたものの、なくした記憶の中で、サークル・オブ・カバンに捕まった事実が見えてきた。扱えないはずの銃を簡単に組み立てたり、知らないうちに誰かを傷つけようとしていたり。さらに、いとこのアビーの話から、カミーは自分自身の体中のけがについてを理解する。
「あなたは拷問を受けたのよ。本当に、何があったか知りたいの?」
“I hate that girl”
とある男の銃撃に遭い、先生、友人たちはまた危険にさらされる。カミーは、夏に「逃げ出した」ことを酷く後悔した。「弱いままではいられない。弱くはなれない。」
その後、鏡の前に立って自分を眺めたとき、カミーは「サークル・オブ・カバン」と同じくらい、目の前に写っている自分が嫌いだと思った。「鏡の少女はすべてを知っている。」
この巻から、カミーはことあるごとに仲間に心配され、仲間に制止させられる。失った夏の中にその理由が隠されていると思うと、恐ろしいと同時に知らなければならないというカミーの思いも分かる気がする。
今後、カミーが何を知るのか。どんな真実が明かされるのか。1巻では想像もつかなかった壮大で残酷なストーリーから、目が離せない。そして、どうか、希望的な展開と絶望的な答え合わせを心して待ち構えてほしい。
友人のために…
読み進めるなかで、「サークル・オブ・カバン」はどこにでもいる、ギャラガー・アカデミーでリクルートしている、という記述がいくつかあったので、校内に裏切り者がいるのではないかと想像はしていた。それは校長でもあるカミーの母か、叔母のアビーか、他の教師陣か…。しかしその裏切りの仕方の様子は、はたから見たらまるで雑談をしているように見えるだろう。その教師はカミーに、自分がサークル・オブ・カバンの手先であることを吐露し、最も確実な問題解決方法を示唆する。君の友人がこれ以上危険に晒されず、最も手早く済む方法――。
ここは5巻の最も涙を誘われる場面であり、自分的にはいちばんお気に入りのシーンだ。何度も読み返してしまう。スパイとしての心がカミーをその教師の命令とも言える示唆を忠実に受け取り、等身大の女の子としてのカミーが涙を流す。カミーの歩みは止まらない。駆けつけた友人や母の制止の声を、昔、幸せだったとき、父と見に行ったサーカスで聞いた歌を鼻歌で歌いかき消す。
「この歌聞いたことある?」
この本は一人称であるにも関わらず記述はないが、カミーは他人を巻き込んでいることに後ろめたさを感じてきたのだと思う。これが正しい方法だと薄々分かっていたはずだ。その内なる本心を刺激されたがために、行動に移った。
「だめ!だめだめだめだめだめ!」
カミーを止めようと、泣き叫びながら必死に凍った屋根の上を駆け下りようとするリズ。カミーの踏み出す一歩先で、足が地面につくことはなく――。
友人たちやカミーの心がどう傷つき、どう癒されていくのか、ぜひ本書で確かめてみてほしい。このラストシーンは涙を滲ませ何度も読むに値する。
6巻「United We Spy」
最終巻(6巻)では、最終学年となったカミーたちが真相を求めて世界各地を転々とする。5巻で見つけたとあるリストに載っている人物たちが次々と殺されていくのだ。保護のため向かうと、サークル・オブ・カバンの襲撃が。一枚岩では行かない。失敗して保護対象者が死んでしまったり、その保護対象者が意味深な発言をしたり。保護対象者とその息子を引き離すことのジレンマ、そしてその息子も狙われている…。
序盤から銃撃など多彩なアクションがあるのでスリリングでとても読み応えがある。特にカーチェイスは印象的だ。保護対象者の息子の混乱、自分たちの正体を明かす場面、度重なる危機一髪。それらの映像が、読了後も脳内で鮮明に思い出すことができる。スパイアクションといえばこれ!という要素に、「女の子のスパイ」という要素が追加されていることによって、よくあるスパイ映画とは一線を画す個性的なスパイアクションものとなっている。王道のアクション重視のスパイ映画作品に飽きた方は、是非本書を手に取ってほしい。
サークル・オブ・カバンの目的とは?
カミーの「脳内の記憶」を巡り彼女を追い、その果てに切り捨てた(殺そうとしている)サークル・オブ・カバン。彼らの目的がどのように固まっていったのか…。
なんとそこに、カミーの同級生リズが関係しているという。リズはアクションというよりは頭脳派の女の子。学校に提出した課題「第三次世界大戦を起こすには」で優秀な解答をしてしまったがゆえに、何らかの方法でそれがサークル・オブ・カバンの目に留まってしまったのだ。中東の石油、そしてその輸出網を閉鎖し、国家を攻撃的な方向へ誘導することによって戦争を起こす――。こんなような解答だった。現代に通じるところがあり、妙にリアルな恐ろしさが伴う。一体彼らは、世界をどう変貌させたいのだろうか。英語はそこまで難しくないので、読めそうならぜひ最後まで読んでみてほしい。
過去のレビューはこちら↓
おすすめの記事はこちら!↓
